東京・日本橋の三井記念美術館では特別展「超絶技巧、未来へ! 明治工芸とそのDNA」が開催されています。
展覧会チラシ |
今回の展覧会は、2014~15年に全国巡回した「超絶技巧!明治工芸の粋」展、2017~19年に全国巡回した「驚異の超絶技巧!明治工芸から現代アートへ」展に続く「超絶技巧」シリーズの第3弾。
今回は、金属、木、陶器、漆、ガラス、紙などの素材を用い、現在進行形で新たな表現に挑戦する現代作家のアッと驚く作品を中心に、超絶技巧のルーツでもある明治工芸の逸品もあわせて見られる超豪華な内容の展覧会です。
それでは先月開催された《超絶!SNS内覧会》に参加してきましたので、会場の様子をご紹介したいと思います。
展覧会開催概要
会 期 2023年9月12日(火)~11月26日(日)
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日 月曜日(ただし10月9日は開館)、10月10日(火)
入館料 一般1,500円(1,300円)、大学・高校生1,000円(900円)、中学生以下無料
(カッコ内は団体(20名以上)料金)
*70歳以上の方は1,200円(要証明)
*リピーター割引:会期中一般券、学生券の半券のご提示で、2回目以降は団体料金
となります。
*障害者手帳をご呈示いただいた方、およびその介護者1名は無料です(ミライ
ロIDも可)。
※展覧会の詳細、展覧会関連イベント等については、同館ホームページをご覧ください⇒三井記念美術館
※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は《超絶!SNS内覧会》にて許可を得て撮影したものです。
※一部撮影可の作品があります。
※所属先に記載のない作品は個人蔵です。
今回の超絶技巧展も驚きの連続でしたが、受付のあるエントランスホールの展示にまずは驚かされました。
金属を叩いて変形させる鍛金(たんきん)の中でも特に最も難しいとされる鉄鍛金の技法を独自の研究で現代に復活させて立体作品を制作している本郷真也さんの《Visible 01 境界》は、烏を実物大で表した作品ですが、ただの烏ではないのです。
本郷真也《Visible 01 境界》2021年 鉄、赤銅、銀 |
初めに骨格と筋肉を形にした上から羽を一枚ずつ重ね付け内部構造まで造り上げ、さらには烏が餌と間違えて飲み込んだキャンディーの袋のかけらを銀で表して胃の中に置いたというしろもの。
右上のモニターにはCTスキャンによって撮影された内部の構造が映し出されています。
レーザー光線によってどの部分がスキャンされているわかるので、その場で胃の中や内部構造を確認してみてください。
展示前室でもまたまた驚かされました。
古代エジプトのオベリスクを思わせるような形をした作品は池田晃将さんの《Airtifact03》。
表面に黒漆を施した木の上に、夜光貝や鮑貝などの真珠色に光る部分を漆地の面に貼り付けたり、嵌め込む螺鈿という技法で0~9の数字を並べている作品ですが、まるで電子機器の基板のようにも見えてきます。
螺鈿という古来からの技法と現代的なデザインが不思議な魅力を醸し出しているのかもしれません。
展示室1の入口左に見えるオレンジのマークは写真撮影可の印です。このマークのある作品は撮影ができるので、ハッシュタグ「#超絶技巧展」「#三井記念美術館」をつけてSNSにアップしましょう!
《超絶!SNS内覧会》には、木彫作品を出展されている福田享さんが特別に参加されていて、制作の際に苦心したことなどをおうかがいすることができました。
こちらは板の上の水滴の表現が話題になっている《吸水》。
福田享《吸水》2022年 黒檀、黒柿、柿、真弓、朴、苦木、柳、ペロバローザ |
現代作家の作品は、出品目録に作家名、作品タイトル、制作年とあわせて素材の記載がありますが、超絶技巧の作品は素材にも注目したいので作品紹介のキャプションにも記載しました。
1994年生まれで、今回の展覧会に出品されている17人の作家の中では最年少の福田享さんのこだわりは木の色。
この《吸水》でも多くの種類の木が使われていますが、着色ではなくすべてオリジナルの木の色で、アゲハチョウの羽も黄色の木を嵌め込んだ「立体木象嵌」。そして板の上の水滴も貼り付けたのではなく、一枚の板を彫って浮き彫りにしたもので、水滴部分だけ研磨してつやを出すのに苦労されたとのこと。
《吸水》は福田さんのこだわりがぎゅっと詰まった作品なのです。
展示室2に移ります。
毎回、三井記念美術館が所蔵する国宝《志野茶碗 銘卯花墻》はじめそれぞれの展覧会の逸品が展示される展示室2には、大竹亮峯さんの木彫作品《月光》が展示されています。
動物や植物などを精緻に写し取り、「動く彫刻」が多いのが大竹さんの特徴ですが、1年に1度、夜にだけ大輪の花を咲かせるといわれる月光を表したこの作品も、花器に水を注ぐとゆっくりと花が開く仕掛けになっているのです。
展示中は花が開いた状態になっていますが、エントランスホール横の映像ギャラリーで花が開く様子の映像を見ることができるのでぜひご覧ください。
普段は茶道具が展示されている国宝の茶室「如庵」を再現した展示室3にも現代の超絶技巧の作品が展示されています。
下の写真手前は、素材を薄さ数ミリまで彫り込み、生と死の境界を作り上げる松本涼さんの木彫《涅槃》。枯れゆく大菊の姿を悟りを開いて入滅する釈迦の姿に見立てたこの作品は、侘び寂びの世界にとてもしっくりくるように感じられました。
展示室4 展示風景 手前 本郷真也《円相》2023年 鉄、金 |
こちらも話題沸騰のスルメ。
前原冬樹さんの木彫作品なのですが、近くで見てもスルメにしか見えません。
そして横にある茶碗もどう見ても陶器の茶碗にしか見えません。
しかしこの作品の材質は木、それも一本の木なのです。タイトルの《一刻》にあるように一木にこだわる前原さんならではの作品です。
展示室5の七宝作品の中で見覚えのあるデザインを見つけました。
橋本雅邦と並んで明治初期の近代日本画界のスーパースター・狩野芳崖の絶筆とされる《悲母観音》(現東京藝術大学大学美術館蔵)をもとに制作された花瓶ですが、もともと原画が好きなので、心の中で「これはほしい!」と叫んでしまいました。
作者の柴田については、詳細は不詳とのことですが、ものすごい腕前の名工だったことはこの作品を見てよくわかりました。
最後の展示室7には金工、漆工、陶磁など明治工芸の粋が詰まった作品が展示されています。
中央の独立ケースに展示されているのは、無銘なので名の知れない名工が制作した《鳩の親子》。
雀のように丸みを帯びた鳩や、口を大きく開けて餌を求めるひな鳥がとても可愛らしいです。
鳩の胴体は、今では商業取引が原則禁止されている象牙、丸い胴体を支える足は真鍮製。
そして目には黒蝶貝を嵌め込んでいるので、うるんだ瞳に胸がキュンとなること間違いなしです。
展覧会オリジナルグッズももりだくさん。ミュージアムショップにもぜひお立ち寄りください。
するめのトートバッグ発見!来館記念にいかがでしょうか。
展示作品のカラー図版と詳しい解説が掲載された展覧会公式図録もおすすめです。
永久保存版です!
巡回展情報
岐阜県現代陶芸美術館 2023年2月11日(土・祝)~4月9日(日)【終了】
長野県立美術館 2023年4月22日(土)~6月18日(日)【終了】
あべのハルカス美術館 2023年7月1日(土)~9月3日(日)【終了】
三井記念美術館 2023年9月12日(火)~11月26日(日) ⇒開催中!
富山県水墨美術館 2023年12月8日(金)~2024年2月4日(日)
山口県立美術館(予定) 2024年9月12日(木)~11月10日(日)
山梨県立美術館(予定) 2024年11月20日(水)~2025年1月30日(木)