東京・上野公園の東京都美術館では「永遠の都ローマ展」が開催されています。
展示室入口看板 |
二千年を超える歴史と文化をもつ永遠の都ローマは、古くから多くの人を魅了してきました。
そして、今年(2023年)は、明治政府が欧米に派遣した「岩倉使節団」がローマにあるカピトリーノ美術館を訪れて150年にあたる節目の年。のちの日本の博物館施策に大きな影響を与えた使節団の訪欧から150年の節目の年に、ローマの姉妹都市・東京でカピトリーノ美術館のコレクションをまとめて見ることができる日本での初めての機会がやってきました。
開幕前から期待でわくわくしていましたが、報道内覧会に参加する機会がありましたので、さっそく展示室内の様子をご紹介したいと思います。
展覧会開催概要
会 期 2023年9月16日(土)~12月10日(日)
休室日 月曜日
開室時間 9:30~17:30、金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
観覧料 一般2,200円、大学生・専門学校生1,300円、65歳以上1,500円
※土日・祝日のみ日時指定予約制(当日の空きがあれば入場可)
・高校生以下無料
・身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康
手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料。
・高校生、大学生・専門学校生、65歳以上の方、各種お手帳をお持ちの方は、い
ずれも証明できるものをご提示ください。
展覧会の詳細、日時指定予約等については展覧会公式サイトをご覧ください⇒永遠の都ローマ展
巡回展情報
福岡会場 会 期 2024年1月5日(金)~3月10日(日)
会 場 福岡市美術館
※展示室内は撮影不可です。掲載した写真は報道内覧会で主催者より特別の許可を得て撮影したものです。
※2点だけ撮影可の作品があります。のちほどご紹介します。
展示構成
Ⅰ ローマ建国神話の創造
Ⅱ 古代ローマ帝国の栄光
Ⅲ 美術館の誕生からミケランジェロによる広場構想
Ⅳ 絵画館コレクション
Ⅴ 芸術の都ローマへの憧れー空想と現実のあわい
特集展示 カピトリーノ美術館と日本
海外の美術館の展覧会の大きな魅力のひとつは、日本に居ながらにして海外に行った気分になれることではないでしょうか。
展示の順番は前後しますが、はじめに奇跡の初来日を果たした《カピトリーノのヴィーナス》からご紹介します。
《カピトリーノのヴィーナス》2世紀 大理石 カピトリーノ美術館蔵 |
《カピトリーノのヴィーナス》は、教皇クレメンス10世(在位1670-76)の在位中にサン・ヴィターレ聖堂付近から出土したもので、1797年に教皇庁からナポレオン指揮下のフランス軍によって接収されてルーブル美術館に所蔵されましたが、ナポレオン失脚後の1816年にローマに返還されたという数奇な運命をたどった彫像でした。
1834年以降はカピトリーノ美術館の「ヴィーナスの間」と呼ばれる八角形の小部屋に展示されていますが、この東京でも八角形に区切られた空間で見られるのがうれしいです。
展覧会チラシなどのメインビジュアルになっている《カピトリーノのヴィーナス》は、東京展のみの展示ですので、ぜひこの東京でまるで現地で見ているようなこの空間をお楽しみいただきたいです。
そして、もう一つメインビジュアルになっているのは、帝国の栄華を象徴する《コンスタンティヌス帝の巨像》の頭部を原寸大で複製した作品。《コンスタンティヌス帝の巨像》は頭部だけで約1.8メートルのスケールをもちます。
コンスタンティヌス帝は、分裂していた帝国を再統一したローマ皇帝(在位306-37)で、キリスト教を公認したことや、コンスタンティノポリス(コンスタンティノープル 現在のイスタンブル)を首都とする基礎を築いた皇帝としても知られています。
《コンスタンティヌス帝の巨像の頭部(複製)》 1930年代(原作は330-37年)、石膏にブロンズ(原作はブロンズ) ローマ文明博物館蔵 |
この巨大な頭部の原作はブロンズ製でカピトリーノ美術館が所蔵していますが、複製とはいっても原寸大なので、近くで見上げるとその大きさに圧倒されます。
頭部と並んで展示されている左手と左足の複製とあわせて、巨像の巨大さを想像してみたいです。
少し先走りしましたが、地下1階の展示の冒頭に戻ります。
Ⅰ ローマ建国神話の創造
ローマ建国神話でよく知られているのは、双子のロムルスとレムスが牝狼に育てられ、のちにロムルスが初代ローマ王になったというエピソード。
「Ⅰ ローマ建国神話の創造」展示風景 |
この《ボルセナの鏡》の背面にはロムルスとレムスがパラティーノの丘のふもとのルペルカル洞窟で発見された場面が線刻で見事に描かれているので、目を凝らしてご覧になってみてください。
Ⅱ 古代ローマ帝国の栄光
中でも印象的なのが、ローマ市内に大浴場を建設したことで知られるカラカラ帝(在位211-17)。
暗殺や、税収増を目的として領内の全自由人に市民権を与えたり、貨幣改悪によってインフレを起こしたりなど、悪名が高い皇帝でしたが、やはり近寄りがたい雰囲気が感じられます。
続いて1階展示室に移ります。
Ⅲ 美術館の誕生からミケランジェロによる広場構想
カピトリーノ美術館の原形ができたのは古く、1471年に教皇シクストゥス4世(在位1471-84)が《カピトリーノの牝狼》《コンスタンティヌス帝の巨像》、《カミッルス》《とげを抜く少年》をローマ市民に返還/寄贈し、公開したのが始まりでした。
(今回の展覧会では《とげを抜く少年》を除く3点の複製(《コンスタンティヌス帝の巨像》は一部原寸大複製)が展示されています。)
「Ⅲ 美術館の誕生からミケランジェロによる広場構想」展示風景 |
1537年に教皇パウルス3世(在位1534-49)が《マルクス・アウレリウス帝騎馬像》をカピトリーノの丘に移したことをきっかけに始まったカンピドリオ広場の整備計画を任されたのが、イタリア・ルネサンスを代表する芸術家の一人、ミケランジェロでした。
自分の姿を描かれるのを嫌ったミケランジェロの表情が少しはにかんだように見えるのは気のせいでしょうか。
Ⅳ 絵画館コレクション
既存の作品群と新たに購入した古代遺物コレクションを一般市民に公開して、1734年に創立されたカピトリーノ美術館は、1750年には絵画コレクションを加えて絵画館を開館しました。赤い壁面に肖像画や宗教画がずらりと並ぶ様は、これぞヨーロッパの美術館という感じがします。
そして最後に2階展示室に入ります。
Ⅴ 芸術の都ローマへの憧れー空想と現実のあわい
中世、ルネサンス期以降、多くの芸術家やヨーロッパの君主たちを魅了したのが、約40メートルもの高さのトラヤヌス帝記念柱でした。
《トラヤヌス帝記念柱、1/30縮尺模型》1960年代(原作は113年) 雪花石膏 ローマ文明博物館蔵 |
五賢帝の一人でローマ帝国の領土を最大にしたトラヤヌス帝(在位98-117)が、ダキア戦争に勝利してダキア(現在のルーマニア)を属州としたことを記念して建てられたもので、長さ約200メートルに及ぶ螺旋状に連続した浮彫には戦闘の様子などが詳細に描かれています。
浮彫の一部の場面の複製も展示されています。
今回来場者による撮影可の作品はこの2点です。撮影する際は、会場に掲示されている注意事項をお守りください。
左 《モエシアの艦隊(トラヤヌス帝記念柱からの石膏複製)》 右 《デケバルスの自殺》(トラヤヌス帝記念柱からの石膏複製) どちらも1861-62年(原作は113年) 古色加工を施した石膏 ローマ文明博物館蔵 |
特集展示 カピトリーノ美術館と日本
カピトリーノ美術館と日本とは実は深いご縁がありました。
冒頭で「岩倉使節団」がカピトリーノ美術館を訪れたことはご紹介しましたが、特集展示では、彼らが現地で入手したと思われる絵葉書などから制作された視察報告書『米欧回覧実記』の挿絵が展示されています。
また、1876(明治9)年に日本最初の美術教育機関として設立された工学寮美術校(のちの工部美術学校)に教材として持ち込まれた石膏像のうち《アリアス》の名で親しまれている石膏像はカピトリーノ美術館所蔵の《ディオニュソスの頭部》を原作としているのですが、今回はその《ディオニュソスの頭部》とあわせて、《アリアス》を模した作品《欧州婦人アリアンヌ半身》が並んで展示されています。
展示室1Fエスカレーター横にはコンスタンティヌス帝の巨大な頭部の原寸大フォトスポットがあるので、一緒に並んで記念写真をとってその大きさを実感してみてください。
ローマの大きさも歴史も、日本とのご縁も感じられる充実した内容の展覧会です。
会期は12月10日(日)までですが、会期末になると混雑することが多いので、お早めにご覧ください!