2025年10月1日水曜日

東京都美術館 「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」

ファン・ゴッホがいよいよ東京にやってきました。


東京・上野公園の東京都美術館で9月12日に開幕した「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」は、ファン・ゴッホ家のコレクションに焦点を当てた日本初の展覧会です。

ファン・ゴッホの作品を守ってきたファン・ゴッホ家の物語は以前の記事で紹介していますので、今回は展示室内の様子を中心にご紹介したいと思います。



展覧会開催概要


展覧会名 「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」
会  期 2025年9月12日(金)~12月21日(日)
会  場 東京都美術館
※土日、祝日および12月16日(火)以降は日時指定予約制

展覧会の詳細、チケットの購入方法、イベント等の情報は、展覧会公式サイトをご覧ください⇒https://gogh2025-26.jp

第1章 ファン・ゴッホ家のコレクションからファン・ゴッホ美術館へ
第2章 フィンセントとテオ、ファン・ゴッホ兄弟のコレクション
第3章 フィンセント・ファン・ゴッホの絵画と素描
第4章 ヨー・ファン・ゴッホ=ボンゲルが売却した絵画
第5章 コレクションの充実 作品収集
  
※展示室内はイマーシブ・コーナー以外撮影不可です。掲載した写真はプレス内覧会で美術館より特別に許可を得て撮影したものです。


フィンセント・ファン・ゴッホの生涯に始まり、弟のテオ、テオの妻ヨーとその息子フィンセント・ウィレムがフィンセントの遺産を相続、その後、フィンセント・ウィレムが財団を設立して、ファン・ゴッホ美術館が開館するまでのいきさつを、展示室に入ってすぐの解説パネルでおさらいしてから先に進みます。

第1章の解説パネル


第2章では、フィンセント、テオの兄弟が収集した絵画コレクションが展示されています。

第2章展示風景


ゴッホ展なのでファン・ゴッホの作品から展示が始まるのかと思っていたのですが、マネやギヨマンなど同時代の画家や、ゴーガンやベルナールはじめ前衛的な芸術家の作品などが展示されていたので、ファン・ゴッホ兄弟が所蔵していたコレクションの充実ぶりに驚かされました。

ファン・ゴッホの浮世絵コレクションも展示されています。
浮世絵がファン・ゴッホに大きな影響を与えたことはよく知られていますが、ファン・ゴッホが収集した浮世絵版画と、浮世絵の大胆な構図などの影響を受けたファン・ゴッホの作品が並んでいるので、ファン・ゴッホが浮世絵からどのような影響を受けたのか見ることができました。


第2章展示風景


第3章はファン・ゴッホ作品のオンパレード。ファン・ゴッホの絵画と素描がずらりと展示されています。

第3章展示風景


ここでファン・ゴッホの画業の変遷を振り返りながら、特にお気に入りの作品をご紹介したいと思います。

ファン・ゴッホが画家になることを決意したのは27歳のとき(1880年)。それから10年後に死去するまでの短い画業のうち、まずはハーグで3年ほど素描の技術を磨き、その後、オランダ南部の農村ニューネンで2年間、やや時代遅れの画風の油彩画の修行を重ねました。

その「時代遅れ」のニューネン時代に描いた作品が《小屋》。
確かにその後のファン・ゴッホらしい新しい筆づかいや色彩はあまり感じられませんが、画面中央のわらぶき屋根、一日の労働を終えて家に入る農民、背景の木々や夕焼け空を見て、明治期の日本の洋画家が描いた武蔵野の情景を思い浮かべ、なんともいえない郷愁がじわっと感じられたのです。

フィンセント・ファン・ゴッホ《小屋》1885年5月、ニューネン
ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)


1886年初めにパリに移り住み、そこで新しい独自の様式を生み出し、1888年2月に南仏に向かい、アルルで1年3カ月を過ごしました。

アルルでの作品が《耕された畑(「畝」)》。
この作品を見た瞬間、厚塗りで知られるファン・ゴッホ作品の中でも特にゴテゴテ感たっぷりだと感じたのですが、家に帰って図録の解説を読んで、ファン・ゴッホ自身も手紙の中で「この絵は乾くのに長い時間がかかるだろう。厚塗りの作品は濃厚なワインと同じように扱うべきだ。つまり熟成させなければならないのだ。」と書いていたことを知りました。
これは見事に熟成された作品だったのです。

フィンセント・ファン・ゴッホ《耕された畑(「畝」)》1888年9月、アルル
ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)


《耕された畑(「畝」)》を制作した年の12月、最初の激しい発作を起こして左耳を切り、アルルの病院に入院したファン・ゴッホは、翌1889年5月、サン=レミの療養院に入院、そこで1年を過ごし、1890年5月にはパリ北部のオーヴェール=シュル=オワーズ移り、同年7月に自ら命を絶ちました。

《農家》は、田園風景が広がるオーヴェール=シュル=オワーズで描いた作品。
まるで空間が歪んでいるように見えるこの作品は、ニューネン時代の《小屋》と同じ画家が描いたとは思えないくらい画風が異なりますが、ファン・ゴッホが最後にたどり着いた安息の地を描いたのではないかと想像すると、ぐっと胸にこみあげてくるものがありました。

フィンセント・ファン・ゴッホ《農家》1890年5-6月、オーヴェール=シュル=オワーズ
ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)


 第4章は、ヨーが売却した絵画の記録が記載された『テオ・ファン・ゴッホとヨー・ファン・ゴッホ=ボンゲルの会計簿』とともに、売却されたファン・ゴッホ作品が展示されています。
ここはアムステルダムではなく東京なので「里帰り」ではありませんが、ファン・ゴッホ作品にとってはお互いに「およそ100年ぶりの異国の地での再会」と言えるかもしれません。

第4章展示風景


1973年に「国立フィンセント・ファン・ゴッホ美術館」として開館した当初は、フィンセント・ファン・ゴッホ財団のコレクションを展示することが主な目的でしたが、その後、印象派やポスト印象派や、ファン・ゴッホやゴーガンから強く影響を受けた19世紀後半から20世紀初頭の前衛的な芸術などの作品が収集され、同館のコレクションは充実して現在に至っています。

第5章では、ファン・ゴッホ美術館が開館後に収集した作品群が展示されています。


第5章展示風景


高さ4m、横幅14m、奥行き5m以上というイマーシブ(没入)空間でのデジタルアートが体験できるイマーシブ・コーナーは来場者による撮影可、SNSアップも可です。(上映時間 約4分)

イマーシブ・コーナー


鮮やかな色彩の油彩画で知られるファン・ゴッホですので、関連グッズもカラフル。
展覧会会場の特設ショップにもぜひお立ち寄りください。
※一部商品は購入個数制限を設けることがございます。
※商品は一部欠品、完売となる場合がございます。


展覧会会場特設ショップ


展覧会出品作を全て収録して、一部図版は見開きで大きく掲載して、さらに監修者らによる最新の研究成果を反映した論文も収録した展覧会公式図録はおすすめです。

展覧会公式図録



タイトルは「ゴッホ展」ですが、ファン・ゴッホが影響を受けた同時代の画家の作品や浮世絵、ファン・ゴッホの影響を受けた画家の作品も展示されているので、ファン・ゴッホをさまざまな角度から見ることができる、とても内容の充実した展覧会です。
この秋おすすめの展覧会がまたひとつ増えました。