東京・日本橋の三井記念美術館では、開館20周年特別展「円山応挙 革新者から巨匠へ」が開催されています。
写生を重視した円山応挙(1733-95)は、円山派の創始者として自身も数々の名作を残し、源琦、長沢芦雪、山口素絢をはじめ多くの優れた弟子たちを輩出。また、円山派以外の画家たちにも大きな影響を与え、江戸中期以降の京都画壇の隆盛をもたらした「巨匠」として知られています。
今回の特別展は、近年では伊藤若冲や弟子の長沢芦雪をはじめとする「奇想の画家」たちの評価が高まり、応挙の注目度が低くなっている中、実は応挙こそが18世紀京都画壇の「革新者」だったということに焦点をあてて開催された展覧会です。
展覧会開催概要
会 期 2025年9月26日(金)~11月24日(月、振休)
※会期中展示替えがあります。作品には展示期間を記載しています。
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日 10月27日(月)
※会期中、休館日はこの日だけです。他の月曜日も開館しているので、混雑を
避けるには月曜日がチャンスかもしれません!
入館料 一般1,800円、大学・高校性1,300円、中学生以下無料
展覧会の詳細、各種割引等については同館公式サイトをご覧ください⇒https://www.mitsui-museum.jp/
※本展覧会では、一部作品のみ撮影可です。展示室内の注意事項をご確認ください。
※掲載した写真は、プレス内覧会で美術館より特別の許可を得て撮影したものです。
いつもゴージャスな雰囲気で気分を盛り上げてくれる展示室1。
(展示室1、2はかつては三井合名会社の重役の食堂として使われていました。)
| 展示室1 展示風景 |
展示の冒頭を飾るのは円山応挙筆《元旦図》(個人蔵、上の写真手前)。
残された肖像画などから、初日の出を拝む裃姿の男性の後ろ姿は、応挙の自画像ではないかと思える作品です。
応挙とともに初日の出を拝んでから先に進むと、燭台のような不思議な機械が見えてきました。(下の写真右)
| 展示室1 展示風景 右手前 《反射式覗き眼鏡》 18世紀 町田市立国際版画美術館 通期展示 |
15歳のころ京都に出て狩野派の絵師・石田幽汀に学んだ応挙は、その粉本主義に飽き足らず、写生を重視するようになり、生活のために制作を始めた「眼鏡絵」で遠近法など西洋の画法を習得することになりました。
「眼鏡絵」とは凸レンズを通して見る絵のことで、展示されているのは「反射式」というタイプ。西洋画の透視図法で描かれた左右反転した絵を凸レンズを通して見ることによって絵が立体的に見えるというまさに「江戸のヴァーチャル・リアリティー」。
ぜひ凸レンズを覗いてみてください。応挙が描いた京都の風景を、当時の人たちに驚きをもって迎えられた「最新技術」で体感することができます。
同館が所蔵する国宝《志野茶碗 銘卯花墻》(本展では展示されていません)をはじめ、その時の展覧会を代表する作品が展示さる展示室2には、今回は円山応挙筆《水仙図》が展示されています。
| 《水仙図》円山応挙筆 天明3年(1783) 三井記念美術館 通期展示 |
《水仙図》が展示室2に展示されているのには理由がありました。
この作品は、三井家の中でもっとも応挙と深く関わった北三井家4代・高美の一周忌に際して応挙が手向けたもので、応挙の気持ちが特に込められていることが感じられるからだったのです。
一瞬、「雪舟では?」と思ったのは、国宝の茶室「如庵」を再現した展示室3に掛けられている掛軸でした。
応挙も雪舟の《破墨山水図》(国宝・東京国立博物館蔵)の影響を受けた作品を描いていたとは。応挙の奥行きの深さを感じました。
今回の特別展の大きな見どころのひとつは、三井家が援助して、応挙が一門の総力をあげて制作した香川・金刀比羅宮の襖絵。特別出品されて、東京で見られる絶好のチャンスです。
| 左 重要文化財《遊虎図》(16面のうち12面》円山応挙筆 天明7年(1787) 香川・金刀比羅宮 右 《虎皮写生図屏風》円山応挙筆 江戸時代・18世紀 本間美術館 どちらも通期展示 |
確か現地では廊下から部屋の中を覗き込んでしか見られなかったと記憶しているのですが、ここではガラス越しですが間近で細部までじっくり拝見することができます。
さらに山形県酒田市にある本間美術館からは《虎皮写生図屏風》もお出ましいただいています。虎の皮を綿密に観察して虎を描いた応挙の研究熱心さが伝わってくる作品です。本物の虎を見る機会がなかった応挙が描く虎の毛並みにモフモフさが感じられるのにも納得です。
円山応挙展で欠かせないのは、応挙作品唯一の国宝で、三井記念美術館の至宝《雪松図屏風》。もちろん今回も展示されています。
ただし、国宝の公開に関する展示期間制限の関係で通期展示ではないので、展示期間にご留意ください(下記参照)。
| 国宝《雪松図屏風》円山応挙筆 江戸時代・18世紀 三井記念美術館 【展示期間:9月26日~10月26日、11月11日~11月24日】 |
この作品は毎年拝見して、そのたびに不思議に思うのですが、この作品の雪の白は胡粉を盛っているのではなく、紙の素地の白を残しているのに雪がこんもり盛り上がって見えるのです。
これは応挙のマジック?
今では名作としての地位が確立している作品ですが、立体感があり、目の前に迫って来るような松の木は、当時の人たちにとってとても斬新なものに見えたのではないでしょうか。
国宝《雪松図屏風》が展示されていない期間は、根津美術館が所蔵する重要文化財《藤花図屏風》が展示されます。展示期間内に応挙の名作の屛風が2点も見られるので、何とも豪華ラインナップの展覧会です。
冒頭にご紹介した《元旦図》をはじめ、応挙の多彩な人物表現が見られるのも今回の特別展の見どころのひとつです。
会期中に一部展示替えがあって、後半(10/28-11/24)に展示されるのが円山応挙筆《大石良雄図》。忠臣蔵の主人公がほぼ等身大で描かれているので、その大きさを目の前で実感したいです。
展示室5には、写生を重んじる応挙に大きな影響を与えた渡辺始興(1683-1755)の《鳥類真写図巻》(三井記念美術館)と、応挙の《写生帖(丁)》(東京国立博物館)が並んで展示されています(ともに前期(9/26-10/26)展示)。
始興の《鳥類真写図巻》を模写したことで知られる《写生帖(丁)》を見ると、応挙がいかに真剣に始興から学ぼうとしたかのかがよくわかります。
| 展示室5 展示風景 |
今回の展示のサプライズは展示室6でした。
普段は香合や根付など小さな作品を間近で見ることができる展示スペースなのですが、今回は暗闇の中、1点の掛軸だけが展示されています。
前期(9/26-10/26)に展示されるのは《青楓瀑布図》(下の写真)、後期(10/28-11/24)に展示されるのは暴風雨の場面が描かれた《驟雨江村図》(個人蔵)。
どちらも激しい水の動きが描かれた作品ですので、この空間だけにはザーザー、ゴーゴーといった音が聞こえるように感じられるかもしれません。
そしてすでに大きな話題となっているのが、若冲、応挙初の合作の屛風。東京では初公開です。
| 左の屛風 右 《梅鯉図屏風》円山応挙筆 天明7年(1787) 左 《竹鶏図屏風》 伊藤若冲筆 寛政2年(1790)以前 どちらも個人蔵 通期展示 右の二幅の掛軸 右 《双兔図》円山応挙筆 天明5年(1785) 【展示期間:9月26日~10月26日】左 《白狐図》円山応挙筆 安永8年(1779) どちらも個人蔵 通期展示 |
応挙といえばモフモフの子犬(狗子) を描くことで知られていますが、雪の中で元気に遊ぶ狗子、猿やウサギをはじめ可愛らしい動物たちにも会うことができます。
雪の上ではしゃいでいる子犬たちの表情のなんとまあ可愛いこと。
後期(10/28-11/24)にも、ふわっとした毛並みのうさぎにお目にかかれます。
ミュージアムショップにもぜひお立ち寄りください。
可愛い子犬たちがデザインされた円山応挙展オリジナルの「雪柳狗子図クッキー」は、好評につき、10/16現在、品切れ中です。販売再開は10/29からの予定ですのでお楽しみに!