2025年10月21日火曜日

静嘉堂@丸の内 静嘉堂の重文・国宝・未来の国宝

東京・丸の内の静嘉堂@丸の内(明治生命館1階)では「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)開催記念 修理後大公開!静嘉堂の重文・国宝・未来の国宝」が開催されています。



静嘉堂@丸の内が開館して3周年となる記念すべき今回の展覧会では、大阪・関西万博にちなんで、国宝3件、重要文化財17件、重要美術品10件、そして20世紀初頭の博覧会出品作20件余りや修理後初公開10件が一挙公開されて、静嘉堂ならではの東洋絵画の逸品が勢揃いします。
そして、展示のテーマも大きく分けて3つあって、前期後期でほぼ全作品が入替えになるというとても盛りだくさんの内容が楽しめる展覧会です。

展覧会開催概要


会 期  2025年10月4日(土)~12月21日(日)
      前期:10月4日(土)~11月9日(日)
      後期:11月11日(火)~12月21日(日)
      ※前後期でほぼ全作品の入替えがあります。
会 場  静嘉堂文庫美術館(静嘉堂@丸の内)
休館日  月曜日(ただし、11月3日、24日は開館)、11月4日(火)、25日(火)
開館時間 午前10時~午後5時
     第4水曜日(10月22日、11月26日)は午後8時まで
     12月19日(金)、20日(土)は午後7時まで開館
     ※入館は閉館の30分前まで ※毎週木曜日はトークフリーデー
入館料  一般1,500円、大高生1,000円、中学生以下無料
※展覧会の詳細、関連イベント等は静嘉堂文庫美術館公式サイトをご覧ください⇒https://www.seikado.or.jp

※撮影条件  ギャラリー4 国宝《曜変天目》以外は撮影可
       *携帯電話・スマートフォン・タブレットのカメラは使用できます。動画撮   
        影・カメラでの撮影は不可
※掲載した作品は、フォトモ作品(個人蔵)を除き、すべて静嘉堂文庫美術館所蔵です。


展示構成
 第1章 岩崎家(静嘉堂)と展覧会
 第2章 修理後初公開!詩画一致の絵画
 第3章 未来の国宝!謝時臣「四傑四景図」と菊池容斎の巨編(前期)/伝周文「四季山水図屏
    風」と式部輝忠「四季山水図屏風」(後期)
 第4章 渡辺崋山と彌之助・小彌太父子(前期)/静嘉堂の国宝ー宋元の文物より(後期)
 エピローグ 重要文化財・明治生命館で三菱二号館再現フォトモ 

   
展覧会チラシ


テーマ1 博覧会出品作品が勢揃い!


展示の冒頭を飾るのは、明治28(1895)年に平安遷都1100年記念事業として京都が初めて会場となった第四回内国勧業博覧会に出品された野口幽谷《菊鶏図屏風》(下の写真右、前期に右隻、後期に左隻が展示されます)。

第1章展示風景

第四回内国勧業博覧会の目玉はなんといっても、岩﨑家の資金援助により著名な東西日本画家によって制作された11件の屛風絵でした。
そのうちの1件が野口幽谷の《菊鶏図屏風》で、11件の中には、今回の展覧会では展示されていませんが、明治期の作で初めて重要文化財に指定された橋本雅邦《龍虎図屏風》(静嘉堂文庫美術館蔵)も含まれています。

明治43(1910)年にロンドンで開催された日英博覧会では、広大な美術展示場に33件もの国宝を含む古美術1138点、新美術(同時代の美術)263点が展示されました。
岩﨑家からは、浮世絵、琳派、油絵、そして《菊鶏図屏風》ほかが出品される中、異彩を放ったのが菊池容斎《阿房宮図》。


菊池容斎《阿房宮図》江戸時代(19世紀前半) 静嘉堂文庫美術館蔵
後期展示(11/11-12/21)


阿房宮とは、秦の始皇帝(在位 前259-前210)が長安(現在の西安)の西北の阿房に建てた宮殿のことで、始皇帝はここに宮女三千人を置き、日夜遊楽にふけったとされています。
《阿房宮図》では、秦を滅ぼした楚の項羽によって火が放たれ、3カ月間燃え続けたといわれる様子が描かれれていますが、まるでスペクタクル映画のラストシーンのような大迫力の画面に圧倒されます。

菊池容斎(1788-1878)は幕末・明治初期の日本画家で、狩野派、土佐派を学び、有職故実を研究して近代歴史画の先駆となり、明君、賢人、忠臣、烈婦など五百余人の肖像を描いた『前賢故実』10巻を著したことでも知られています。
今回の特別展ではのちほど紹介する《馮昭儀当逸熊図》《呂后斬戚夫人図》とあわせて、前後期で容斎の三大名幅を観ることができます。

テーマ2 修理後初公開!


1970年の大阪万博では万国博美術展が開催され、会場となった万国博美術館には世界各国から絵画・彫刻を中心に732点もの名作が集結しました。
静嘉堂からは国宝1件、重要文化財4件を含む水墨画の優品7件が出品されました。


第2章展示風景

年代がばれてしまいますが、実は1970年大阪万博には、筆者が小学生の時、家族ぐるみでお付き合いをしていた近所の方に便乗して行ってきました。
アメリカ館では、当時大きな話題になっていた「月の石」を見て宇宙へのロマンを感じたり、三菱未来館では、動く歩道に乗って、荒れ狂う海の中や溶岩渦巻く噴火口の中を通って当時の最新技術の映像に感動したことなどを覚えていますが、万国博美術館のことはその存在すら知りませんでした。

とは言っても、今でこそ上海博物館や台北の國立故宮博物院まで行って中国絵画を見るほど中国絵画が大好きなのですが、中国・明末の文人・政治家で、李自成の乱のときに自ら縊死し、明朝に殉じた倪元璐の《秋景山水図》を見て小学生の筆者が感動したかどうかは定かではありません。

重要文化財 倪元璐《秋景山水図》明時代(17世紀) 静嘉堂文庫美術館蔵
後期展示(11/11-12/21)

第2章には中国と日本の水墨画の名品が展示されていますが、ここでのもう一つの見どころは、修理後初公開の作品が数多く展示されていることです。
中でも注目したいのは修理後初公開された伝周文の重要文化財《三益斎図幷序》。

重要文化財 伝周文《三益斎図幷序》応永25(1418)年 序
静嘉堂文庫美術館蔵 前期展示(10/4-11/9)

解説パネルには、修理前と修理後の状態の写真が掲載されいてるのですが、修理前はしわしわの状態だったのが、修理後はクリーニングに出してアイロンをかけたようにシワがきれいにとれているのです。
もちろん、実際には決してアイロンをかけたりなどはしませんが、ホワイエで修理の工程などの紹介映像が放映されているので、ぜひご覧いただきたいです。

作品を解体修理すると新たな事実が発見されることもあるのですが、以前より模本説があった《三益斎図幷序》でも、平成30年から3年かけて行われた解体修理で、上の写真右の序と、左の画の紙質が異なることが明らかになり、模本説が証明されたのです。
それでもこの作品は周文の筆致を伝える貴重な作品であるという評価は変わりませんでした。


テーマ3 未来の国宝!

そして今回の特別展の3つ目のテーマは「未来の国宝!」。

美術作品の中には、どんなに素晴らしいものであっても、国宝や重要文化財に指定されていないものが数多くあります。
そこで、ここでは今回を機にぜひとも後世に伝えたい静嘉堂の所蔵品を「未来の国宝」と銘打って紹介しています。

前期(10/4-11/9)に紹介されるのは中国と日本の巨幅です。


第3章展示風景

中国の巨幅は、中国古代の英傑の苦難の時代が描かれた四幅対の大作《四傑四景図》。(上の写真右の四幅)
作者は中国・明末の蘇州を中心に活躍した職業的文人画家・謝時臣。
四幅それぞれからは、後世名を挙げた英傑も、妻に愛想をつかされたり、食べるのにも困窮したりと、売れない時の悲哀がひしひしと伝わってくる作品です。

続いては、さきほど《阿房宮図》でご紹介した菊池容斎の二幅の大作。
こちらも中国の故事に基づいた作品です。

右から 菊池容斎《馮昭儀当逸熊図》 天保12(1841)年、《呂后斬戚夫人図 
天保14(1843)年、どちらも静嘉堂文庫美術館蔵 前期展示(10/4-11/9)


ひとつは、前漢の元帝や側室たちが野獣の戦いを観戦しているときに、突然、一頭の熊が檻から飛び出し、御殿に上ろうとしたところ、他の側室の女性たちが逃げる中、馮媛だけが勇敢にも熊の前に立ちはだかり、元帝を守ろうとした場面が描かれた《馮昭儀当逸熊図》。
こちらは護衛がすぐに熊を打ち殺したので大事には至らなかったのですが、《呂后斬戚夫人図》には見るも残酷な場面が描かれています。
前漢の高祖劉邦の正妻・呂后が、劉邦没後、自身の子・恵帝の地位を守るため、劉邦が寵愛した戚夫人が生んだ皇子・趙王を毒殺し、戚夫人の手足を切断して目をえぐり、厠に投げ込み、ヒトブタと呼ばせたという逸話に基づいて描かれたこの作品は、菊池容斎がその場で見てきたのではないかと思えるほどの迫力があります。

後期(11/11-12/21)に展示されるのは、前期とは打って変わって、これぞ室町山水画といえる落ち着いた雰囲気の2帖の屛風です。

重要文化財 伝 周文《四季山水図屛風》室町時代(15世紀) 静嘉堂文庫美術館蔵
後期展示(11/11-12/21)

重要文化財 式部輝忠《四季山水図屛風》室町時代(16世紀) 静嘉堂文庫美術館蔵
後期展示(11/11-12/21)

周文、式部輝忠とも、室町時代を代表する絵師なのですが、二人とも謎の多いことでも知られています。
周文は、京都・相国寺の禅僧で、室町幕府の御用絵師になり、雪舟の師とされるにもかかわらず、作品には印も款記もないので確実に真筆とされる作品がなく、生没年も不明。
式部輝忠も、16世紀中期に鎌倉、小田原など東国を中心に活動したことが近年の研究によりわかり、屛風の大作が5点、掛軸は20数点、扇面画は100点以上と多くの作品が残されているにもかかわらず、生没年も経歴も全く判明していないのです。

風のように現れ、風のように去り、名作だけは残していくというミステリアスさがかえって「かっこいい」と感じる二人の絵師の作品は、ぜひ国宝として後世に残ってほしいと思いました。


第4章は、前期と後期で作品も展示のテーマもがらりと変わります。
前期(10/4-11/9)は、三河(愛知県)田原藩の家老で、文人画家でもあった渡辺崋山(1793-1841)の名幅が並びます。

第4章展示風景


西洋事情を研究していた渡辺崋山は、天保8(1837)年、幕府が米国商船モリソン号を異国船打払令に基づいて砲撃して、退去させた事件(モリソン号事件)など、幕府の鎖国政策を批判したため逮捕され、国許の田原藩に蟄居を命じられました(蛮社の獄 天保10(1839)年)。
蟄居となった崋山は国許でも絵を描き、弟子たちが困窮した崋山を助けるため崋山の絵を売ろうとしたことなどが「蟄居中不謹慎」と伝わり、天保12(1941)年、その責任が藩主に及ぶのをおそれ自刃。アヘン戦争で清国がイギリスに敗れ開国させられたことに衝撃を受けた幕府が異国船打払令を廃止して薪水給与令を出したのは、その翌年の天保13(1842)年のことでした。
 誰よりも民のため、国のためを思った崋山は、明治人たちにとってあこがれの対象でした。岩﨑小彌太氏が崋山の作品を実直に模写した《模本「崋山筆月下鳴機図」》からは、その憧れの強さが伝わってきます。

後期(11/11-12/21)には、それぞれ南宋画院の代表的な画家、馬遠の伝承を持つ国宝《風雨山水図》、伝夏珪の《山水図》や、中国・元時代を代表する文人・趙孟頫の国宝《与中峰明本尺牘》」はじめ中国・南宋時代から元時代の書画の名品が展示されます。
 
国宝 伝 馬遠《風雨山水図》南宋時代(13世紀) 静嘉堂文庫美術館蔵
後期展示(11/11-12/21)


国宝 趙孟頫《与中峰明本尺牘》元時代(14世紀) 静嘉堂文庫美術館蔵
後期展示(11/11-12/21)


ホワイエに巨大な洋館が出現!
これは、フォト(写真)とモデル(模型)を組み合わせた造語「フォトモ」の作品。

ホワイエのフォトモ作品

作者は、写真とは何かを追求し、「フォトモ」をはじめ、様々な写真技術による作品を発表し、個展、ワークショップなど多方面に活躍する糸崎公朗氏です。

上の写真右は、《復元フォトモ・三菱二号館 明治28(1895)年竣工》。静嘉堂@丸の内がある明治生命館が建つこの地に昭和5(1930)年まで存在した三菱二号館の復元です。
上の写真左は、三菱二号館と、現在の明治生命館と丸の内の人々を「フォトモ」として立体空間に合成した《タイムスリップ復元フォトモ+AI・三菱二号館と丸の内 明治28(1895)年~令和7(2025)年》。(どちらも糸崎公朗作、個人蔵、制作年は令和7(2025)年)

この作品を見てうれしくなりました。ジオラマ好きの筆者にとってはたまらない展示です。


ミュージアムショップには、静嘉堂のコレクションをモチーフにしたオリジナルグッズが盛りだくさん。
今回一番驚いたのは、菊池容斎《馮昭儀当逸熊図》《呂后斬戚夫人図》がデザインされたほぼ実物大のブランケット。凄惨な場面まできちんと再現されています。11月9日(日)までの受注販売です。
(下の写真は報道内覧会時にホワイエに展示されていたのを撮影したものです。)




展示作品のカラー図版はもちろん、緻密に描かれた巨幅や水墨画の繊細な表現も部分アップを掲載するなどしてその魅了を再現している展覧会公式図録もおすすめです。修理報告を含めたコラム6本、詳細な作品解説、充実の関連年表なども掲載されています。


タイトルどおり、万博等出品作、修理後初公開の作品、未来の国宝に推したい作品が大集結した展覧会です。前後期ともぜひご覧ください!