2020年8月31日月曜日

人気イラストレーターChocomooさんの展覧会に行ってきた!

体育館のように広々としたスペースの中、パステルブルーが基調のボードにはモノトーンで描かれた明るく楽しい作品が並び、会場の中央にはかわいらしいキャラクター。
奥のスクリーンには、ポップなBGMに乗ってイラストを描くChocomoo(チョコムー)さんの映像。

会場内展示風景


展覧会のタイトルは「OUR SECRET PARTY」。

「私たちの秘密のパーティー」
タイトルを見ただけでも何が始まるんだろうと期待がふくらんでくる展覧会です。

【展覧会概要】
会 場  WITH HARAJUKU HALL
     (JR山手線「原宿駅」東口から徒歩1分 WITH HARAJUKU3階)
会 期  2020年8月13日(木)~9月28日(月)
開館時間 10:00~19:00(入場は閉館の30分前まで)
休館日  会期中無休
入場料  一般 1,200円 高・大・専門学生 1,000円 中学生 800円(税込)
     ※日時指定制です。チケットは事前にご購入ください。
     ※小学生以下は無料
     ※学生券ご購入の方は学生証をご提示ください。 
主 催  サンライズプロモーション東京
特別協賛 WITH HARAJUKU
後 援  TBSラジオ J-WAVE
詳細は公式ホームページをご覧ください⇒chocomoo-exhibition

展示作品数は、未公開作品や今回の展覧会のための描き下ろし作品を含めて全部で73点。展示室内は大きく分けて4つのコーナーで構成されています。

DIARY OF A MOMENT
COLLABORATION WITH BOBBY GROSSMAN
MUSIC IS LOVE
THAT'S A PARTY
(「COLLABORATION WITH BOBBY GROSSMAN」のコーナーに展示されている作品以外は撮影OKです。)

それではさっそく展覧会の様子をご紹介していきたいと思います。

見ていて楽しくなる作品ばかりです!


会場に入ってすぐ左はDIARY OF A MOMENTのコーナー。

「DIARY OF A MOMENT」展示風景

一番手前には、まるで今回の展覧会の案内看板のような作品《OUR SECRET PARTY》。

小さいころ書道を習っていたというChocomooさん。
モノトーンで黒の濃淡をつけた作風が特徴です。
《OUR SECRET PARTY》2020
濃い黒で描かれたタイトルと、楽しげに踊るハンバーガーやピザ、花にリンゴにアイスクリーム、ハート形の人の顔や、顔が描かれた風船。画面一面にいろいろなものが描かれていて、とてもにぎやか。
音符やレコードも描かれているので、楽しげな音楽が流れているようです。

《OUR SECRET PARTY》2020(部分)


普段は抽象的なイメージを、パズルを組み立てていく感覚で描くことが多いChocomooさんが、今回の展覧会では、設計やデザインをしている感覚で具体的に描くことに挑戦したとのこと。
古いダイナーの写真をイメージしながら描いたという作品が《OUR DINER》。
お酒を飲みながら陽気に話す声が聞こえてきそうです。

《OUR DINER》2020



このボードの反対側の作品は、背景にあえて色を入れたという新しい試みの作品。
モノトーンの絵といえば、思い浮かべるのが東洋の水墨画。
水墨画でも金箔の上に描いたり、効果的な色を入れたりするので、背景の色合いは違っても、まったく違和感はなく、かえって描かれた人物が引き立って見えるように感じられました。

右 《BEAUTY》2020、左 《NEVER》2020

続いてTHAT'S A PARTYのコーナー。

「THAT'S A PARTY」展示風景

一番手前の作品は、ピアノやキーボード、ドラムセットが描かれていて、いよいよパーティーが始まるという雰囲気が盛り上がる《THANK YOU》。
作品の下の白い文字もおしゃれです。
《THANK YOU》2019

そして向かって左に進むと、MUSIC IS LOVEのコーナー。

「MUSIC IS LOVE」展示風景
ピアノやドラムやギターがにぎやかな音楽を奏でるこの作品のタイトルは、そのものズバリ《MUSIC》。

《MUSIC》2018

”自粛”を意識しなければならなくなった生活の中で、最前線で働いている方々へ感謝の気持ちを表現したいとの思いで描いたという作品《THANK YOU》(こちらは2020年の作品)。

《THANK YOU》2020


細かいところまで見ればもっと楽しい!


会場内を歩いて、作品を眺めているだけでも楽しい気分になれるのですが、Chocomooさんが作品の中に思いを込めて描いたメッセージを見ていくと、もっともっと楽しさが増してくること間違いなしです。

今回の作品の中で私の一番のお気に入りの場面はこちら。
さきほど紹介した《THANK YOU》2020の右下の絵です。

《THANK YOU》2020(部分)

「EVERYTHING WILL BE ALL RIGHT」
この扉の先に行けばすべてがうまくいく。なんだかそんな気になってきます。

同じ作品の上の方にはテレビ画面に映し出された「NOT THE END」。
「まだ終わりじゃないよ。」 これも好きな言葉です。

《THANK YOU》2020(部分) 

正面の展示作品に移ります。
正面の作品の展示風景
上の写真一番右の二枚組作品《WINDOW》の風船に書かれた言葉は「HOPE」。
ハート形の人が希望をつかんで、とてもうれしそうな表情です。
《WINDOW》2020(部分)

右から二番目の作品《FRIENDS》には「LOVE」と「PEACE」。

《FRIENDS》2020(部分)
文字だけではありません。
右から三番目の二枚組作品《WE》には地球儀や飛行機、旅行鞄。これは楽しい世界旅行。

《WE》2020(部分)


鍵も所々で見かけます。これはもつれた問題を解く大事なキーなのでしょうか。
一番左の作品《HOUSE》の左中央にも見つけました。 

《HOUSE》2018(部分)
やはり所々で見かけるのですが、これはまぎれもなく絆創膏!
生きていればつらいこともあるし、心や身体に傷を負うこともある。そういう時は優しく絆創膏で癒そう。そういったメッセージにも思えました。

《HOUSE》2018(部分)


先ほど紹介した青い背景の《NEVER》の一番左で逆立ちしている女の子の腕にも絆創膏。ローラースケートで走っていて何回も転んだのかもしれません。
それにしても、絆創膏のアルファベットのLのような文字は何を意味しているのでしょうか。

《NEVER》2020(部分)

《I HATE YOU》(私はあなたを憎む)。
この展覧会に似つかわしくないタイトルの作品がなぜここに?
そしてその右隣の作品は《EVERYTHING IS GOOD》(すべてよし)。

左が《I HATE YOU》2018
右は《EVERYTHING IS GOOD》2020 
「それでいいわけはない」と思いつつ、近くに寄って見てみると、HATEの文字がLOVEで描かれています。HATEをLOVEに変えようということなのですね。

《I HATE YOU》2018(部分)
まだまだ紹介したいことは山ほどあるのですが、きりがないのでこのくらいにして、みなさんもぜひお時間の許す限り細部までご覧になって、自分だけの好きな言葉、好きな絵を発見してみてはいかがでしょうか。

オールドロックファンにも懐かしい!


一見すると若い世代向きの作品ばかりと思われるかもしれませんが、私のようなオールドロックファン世代がノスタルジーを感じる作品も多くあるのです。

《MUSIC IS LOVE》2020
今や楽曲はネットで配信される時代。CDでさえ過去のものになりつつある中、この作品に登場するのはCDよりさらに前のLPレコード!
レコードはほかの作品にも描かれいますが、この黒い円盤を見ると、限られた小遣いの中からやりくりして買ったロックの名盤のことを思い出して、妙に懐かしさを感じるのです。

バンドのメンバーの衣装も、どことなく1960年代後半から1970年代前半のファッションに見えてきます。
《FREE》2020

あなたも作品の主役に!


冒頭、「COLLABORATION WITH BOBBY GROSSMAN」のコーナーに展示されている作品は撮影不可とお伝えしたのですが、このコーナーには、ニューヨークを拠点とする写真家ボビー・グロスマンが撮影したアンディ・ウォーホール、バスキアといった有名人の写真にChocomooさんがイラストを描くというコラボ作品が展示されています。

他にも、1974年にニューヨークで結成されたパンクバンド「ラモーンズ」のボーカル、ジョーイ・ラモーンや、「ブロンディ」のボーカル、デビー・ハリーの写真とのコラボ作品もあります。
「ハート・オブ・グラス」(1979年)や「コール・ミー」(1980年)などのヒットで知られるブロンディは、やはり「懐かしい!」と思ったのですが、なんとバンドは今でも活動中、デビー・ハリーもバリバリの現役なのです。

さて、このコーナーにはChocomooさんのイラストが描かれた鏡が展示されています。
この鏡の前に立つと、みなさんがモデルになってChocomooさんとのコラボ作品を作ることができるのです。ぜひここで記念に一枚!


こちらはChocomooさんの作品に囲まれて写真が撮れるフォトスポット。
写真を撮ったらハッシュタグ #ChocomooEX をつけてSNSに投稿しましょう!


Chocomooさんに会える!


こちらはChocomooさんが来場してその場でイラストを描く「ライブペイント」のコーナー。
ライブペイントはゲリラ的に行うとのことですが、直前にツィッターで事前告知することもあるようなので展覧会の公式ツィッターも要チェックです⇒Chocomoo EXHIBITION OUR SECRET PARTY


この場でしか買えないオリジナルグッズも盛りだくさん!


紹介が遅れましたが、会場中央のマスコットは「Don't Touch」君。
Chocomooさんが一番長く描いているというハートの形をしたキャラクターで、本当は触れてほしいのに、シャイなので「Don't Touch」と言ってしまうとのこと。


ホワイエのにグッズ売り場にも「Don't Touch」君のふかふかの「抱きクッション」があります。


他にもエコバック、バンダナやTシャツ、洗える布製マスクなどいろいろ揃っています。
来館記念にぜひ!


オフィシャルアートブックは2,800円(税込)。
家に帰ってからもChocomooさんの作品が楽しめます。


(本文中の作品や「Don't Touch」君の説明はこのカタログを参考にさせていただきました。)


ホワイエにはChocomooさんがイラストを描いたヤマハのピアノも展示されています。

《LovePiano5号機》2020

とても楽しく明るい展覧会です。
9月28日(月)まで開催されていますので、ぜひその場でChocomooさんの作品をご覧になっていただければと思います。
19時まで開館していますので(入場は閉館の30分前まで)、お近くの方は仕事帰りにもぜひ!








2020年8月20日木曜日

静嘉堂文庫美術館「美の競演-静嘉堂の名宝-」

いつも豊富な所蔵美術品の中から選りすぐりの展示で私たちを楽しませてくれる静嘉堂文庫美術館の今回の展覧会は「美の競演-静嘉堂の名宝-」。


新型コロナウィルスがなければ今頃は東京2020オリンピック・パラリンピックが開催されて、日本じゅう、世界じゅうが盛り上がっているところでした。
この世界最大のスポーツの祭典が開催される時期に合わせて、静嘉堂が所蔵する茶道具、陶磁器、山水画、花鳥画、仏画、仏像、刀剣、浮世絵などなど、様々なジャンルの美術品が一堂に会して競演するという趣旨で企画された「美の競演-静嘉堂の名宝-」。
東京2020オリンピック・パラリンピックは来年に延期されましたが、こちらは幸いにも開催されて、暑い夏のなか、まさに静嘉堂の名宝たちの熱い競演が繰り広げられています。

現在開催されているのは後期展示。展覧会の概要はこちらです。
【展覧会概要】
会 場 静嘉堂文庫美術館(東京都世田谷区岡本)
会 期 6月27日(土)~9月22日(火・祝)
休館日 毎週月曜日(ただし9月21日は開館)
開館時間 午前10時~午後4時30分(入館は午後4時まで)
入館料 一般 1000円ほか
展覧会の詳細及び新型コロナウィルス感染拡大防止対策については同館公式サイトでご確認ください⇒静嘉堂文庫美術館

そして関連イベントも開催されます。

河野元昭館長のおしゃべりトーク
9月19日(土)午前11時~午後12時30分頃
「競演・対決・ハーモニー 日本東洋絵画の美」饒舌館長口演す
地階講堂にて、各回とも定員50名。※当日開館時より整理券配布

そして今回は幅広いジャンルの美術品を展示するということで、今回初めての企画として、静嘉堂文庫美術館の学芸員さんたちの競演によるテーマ別スライドトークが開催されます。

学芸員によるテーマ別、スライドトーク
 午後2時から(各回約40分) 地階講堂にて 定員50名
①7月26日(日)「静嘉堂の作品にみる、東アジアの絵画交流」(吉田恵理さん)
②8月16日(日)「岩﨑家深川別邸を飾ったやきもの」(長谷川祥子さん)
③8月20日(木)「岩﨑家と近代絵画」(浦木賢治さん)
④9月12日(土)「静嘉堂茶道具の漆芸-天目台と茶入盆」(小池富雄さん)
⑤9月17日(木)「静嘉堂の刀剣コレクション」(山田正樹さん)

列品解説 9月3日(木)午前11時から 地階講堂にてスライド解説 定員50名

私は前期に開催された①と、先日開催された②に参加しました。

「東アジア山水画の競演!」は前期に終了しましたが、①のスライドトークでは、楼閣山水の名手として知られた中国・元時代の孫君沢ほかの中国・朝鮮の画家たちの解説をおうかができたので、孫君沢「楼閣山水図」(重要文化財 修理後初公開)はじめ、東アジアの山水画が一段と味わい深いものに見えました。
(②のスライドトークについては、のちほど紹介します。)

「美の競演-静嘉堂の名宝-」の展示の概要を知るには、見開き両面で6ページの案内パンフレット(税込100円)がおススメ。展示作品の写真も多く、見どころもわかりやすく解説されています。ミュージアムショップで販売しています。



それではさっそく展示室内の様子をご紹介していきましょう。

※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は、美術館から特別の許可をいただいて撮影したものです。


国宝・曜変天目が展示されている!

今回の展覧会では、碗の中の小宇宙が光輝く国宝《曜変天目》が特別出品されています。

手前 国宝・曜変天目「稲葉天目」南宋時代(12-13世紀)

完全な形で残っているのは世界に三碗しかなく、その三碗とも日本にあっていずれも国宝という曜変天目。
昨年の春、ほぼ同時期にその三碗が静嘉堂文庫美術館、奈良国立博物館(藤田美術館所蔵のもの)、MIHO MUSEUM(京都・大徳寺龍光院所蔵のもの)で公開されたので、三碗制覇された方もいらっしゃるのでは。

この曜変天目、実はこの時期には東京・丸の内にある三菱一号館美術館の「三菱創業150年 三菱の至宝展」で展示されているはずでした。ところがこの「三菱創業150年 三菱の至宝展」が来年に延期されたため、静嘉堂文庫美術館で展示されることになったのです。

三菱一号館美術館では、開催されていた「画家が見たこども展」がコロナ禍で2月に中止になりましたが、その後6月に再開、9月22日(火・祝)まで会期を延長して開催されています。こちらもおススメです。
展覧会の様子はこちらで紹介しています。
祝・再開 三菱一号館美術館 画家が見たこども展


茶道具の名品の競演!

展示室に入ってすぐは、落ち着いた雰囲気の茶道具のコーナー。
右の展示ケースには、前期は天目茶碗が展示されていましたが、後期は唐物と和物の茶入れが2組展示されています。一組は瓢箪の形をした瓢箪茶入れ、もう一組が茶入れの肩が角ばっている肩衝茶入れ。唐物と和物それぞれの形や大きさの違いが楽しめます。

「茶道具名品の競演!」展示風景

こちらは重要文化財《油滴天目》(南宋時代 12-13世紀)。
先ほどご紹介した国宝《曜変天目》が展示されることになったので、期せずして天目茶碗の競演が実現しました。
左は朱漆を厚く塗り重ねて牡丹・芍薬・菊などの花々が唐草状に彫られた明時代(15世紀初期)の《堆朱花卉文天目台》。こちらも花の紋様が見事です
右 重要文化財《油滴天目》南宋時代(12-13世紀)
左 《堆朱花卉文天目台》明時代(15世紀初期)

信仰の造形・祈りの競演!

続いて仏画、仏像のコーナー。
先ほどの茶道具のコーナーと対照的に色彩豊かな春日曼荼羅図や普賢菩薩像・文殊菩薩像が並んでいます。
「信仰の造形・祈りの競演!」展示風景

中でも特に目を引かれるのは、赤や朱色が印象的な大画面の《文殊菩薩像》と《普賢菩薩像》。
修理後初公開で、鮮やかな色遣いや細かな衣服の紋様がきれいによみがえりました。
もとは《釈迦如来像》と三幅で京都・東福寺が所蔵していたもので、伊藤若冲が模写したことで知られています。
若冲は、この模写を原画として《釈迦三尊像》を描き、《動植綵絵》30幅とともに京都・相国寺に寄進しました(現在、《釈迦三尊像》は相国寺蔵、《動植綵絵》は三の丸尚蔵館蔵)。

左の二幅が《文殊菩薩像》(右)、《普賢菩薩像》(左)
いずれも元時代(14世紀)

さて、東福寺旧蔵の《釈迦如来像》はどこへ行ったのでしょうか。
なんと今では太平洋を渡り、アメリカ・クリーブランド美術館が所蔵しているのです。2014年に東京国立博物館で開催された「クリーブランド美術館展-名画でたどる日本の美」で来日したときに見に行ったはずなのですが、その時は静嘉堂文庫美術館の《文殊菩薩像》と《普賢菩薩像》とは頭の中で結びつきませんでした。
一度でいいので、三対が揃って展示されているところを見てみたいです。

続いて明治維新後の廃仏毀釈の嵐の中を生きぬいた凛々しいお姿の仏像二軀。

右は、江戸時代までは大伽藍を誇っていたのですが、明治維新後にその大伽藍は跡形もなくなり、所蔵していた仏像、障壁画、仏画等も散逸した内山永久寺旧蔵の《木像広目天眷属像》(康円作 重要文化財)。
左は京都・浄瑠璃寺旧蔵《木像十二神将像》のうち「子神像」(全12軀、静嘉堂所蔵7軀のうち 重要文化財)。今年は子年なので「子神像」ですね。

全12軀のうち5軀は東京国立博物館が所蔵しているので、散逸しないで12軀すべてが都内に残っているのは貴重なことかもしれません。
2017年に東京国立博物館で開催された興福寺中金堂再建記念特別展「運慶」で、12軀そろい踏みを見て以来のご対面です。
右 重要文化財 康円《木造広目天眷属像》鎌倉時代・文永4年(1267)
左 重要文化財 木造十二神将像のうち「子神像」
(全12軀、静嘉堂所蔵7軀のうち)鎌倉時代・安貞2年(1228)頃

旧襖絵・屏風の競演!

前期は室町時代の京都を舞台にした〈大和絵系〉土佐派と〈漢画系〉狩野派の競演でしたが、後期は舞台を江戸に移し、江戸狩野繁栄の基礎を築いた狩野探幽《波濤水禽図屏風》、江戸琳派の祖ともいわれる酒井抱一《波図屏風》の競演。
狩野探幽《波濤水禽図屏風》は金箔ではありませんが、銀箔の酒井抱一《波図屏風》と並べて見てみると、金と銀の競演のようにも見えます。
《波図屏風》に付属する自書の書状に「少々自慢心」と書いた抱一。
でもこの迫りくる波の前に立つと、本心は「少々」ではなかったようにも思えてきます。

右 重要美術品 狩野探幽《波濤水禽図屏風》江戸時代(17世紀)
左 酒井抱一《波図屏風》江戸時代・文化12年(1815)頃
そして、大きな二双の屏風の間に展示されている白鷺と雁の香炉にも注目です。
波の屏風と水禽の香炉はまさにピッタリのコンビネーション。白鷺や雁が屏風の波の上に浮かんだり、波の上を飛んでいるところを想像しても楽しいかもしれません。
右 野々村仁清《銹絵白鷺香炉》江戸時代(17世紀)
左 彩色備前雁香炉 江戸時代(17-18世紀)

同一モチーフの競演!

この展示ケースの中は、右三点が魚の競演。左三点が孔雀の競演。

「同一モチーフの競演!」展示風景

上の写真一番右は、重要文化財 渡辺崋山《遊魚図》。
渡辺崋山(1793-1841)は、米国の商船モリソン号を砲撃して退去させた幕府に対して、対外情勢の疎さを批判する書を出したため捕えられ(蛮社の獄)、その後、国元の三河国田原藩に蟄居を命じられましたが、2年後に自刃しました。
正論を貫いたがゆえに悲劇的な最期を遂げた崋山の作品を見るたびに心を痛めるのですが、亡くなる前年の1840年に描かれたこの作品にも惹かれるものがあります。

一見すると魚たちが波に戯れるところを描いた《遊漁図》ですが、西洋の画法と同様、海外情勢を積極的に取り入れた崋山が《遊魚図》に描いた荒波は、その後、欧米列強に翻弄される江戸幕府に警鐘を鳴らしていたのではと読み取るもこともできるのです。

渡辺崋山《遊漁図》の左隣は渡辺崋山に師事し、蛮社の獄で逮捕された崋山の救援運動の中心となった椿椿山《嫩荷遊魚図》。「嫩荷」とは若くて柔らかな蓮のことで、体をくねらせて気持ちよさそうに泳ぐ魚は、自由に泳いでほしかった師・崋山へのオマージュでは、と勝手に想像してしまいます。

その左隣は朝鮮時代(19世紀)の《黒漆螺鈿桃花魚亀文盆》。
満開の桃の花の下には多産を意味する魚、長寿を意味する亀、側面には「福」「寿」「貴」「易」といった文字が描かれ、螺鈿の輝きがまばゆい吉祥づくしのおめでたい作品です。
《黒漆螺鈿桃花魚亀文盆》朝鮮時代(19世紀)

刀剣・漆芸・絵画・浮世絵-美と技の競演&共演!

岩﨑家コレクションの中でも、最も早くから蒐集が始まったのが刀剣。
数ある静嘉堂の刀剣コレクションから、日本刀最上級の切れ味を誇る(←すごい!)二振の競演!

右 長船元重 《脇指 銘「備州長舩住元重/文和二二年十二月日」》 南北朝時代・文和4年(1355)
左 長曾祢虎徹 《刀 銘「長曾祢興里入道乕徹」》 江戸時代(17世紀)

刀剣の展示の時に刀剣とともに楽しみにしているのが、それぞれ趣向を凝らした彫刻が施されている鐔(つば)なのです。柄を補強するための縁頭(ふちがしら)も展示されています。

亀乗り寿老、飛瀑猛虎、象使い、大鯰退治、老樹に蝉、韃靼人狩猟。

タイトルを見るだけでも楽しくなってきます。
近くでよく見ると、虎のしぐさが可愛かったりして、小さなスペースに細かく丁寧に彫られているのがよくわかります。

右の二枚が鐔、左の四個が縁頭
まだまだ競演は続きます。こちらは蒔絵の箱の競演。

右 清水九兵衛《浪月蒔絵硯箱》江戸時代(17世紀)
左 柴田是真《柳流水蒔絵青海波塗重箱》江戸時代末~明治時代(19世紀)

右のケースは、清水九兵衛《浪月蒔絵硯箱》。
蓋には螺鈿がふんだんに使われていて、角度を変えると違った輝きが見えてきます。
左のケースは、明治初期に漆芸の新境地を拓いた柴田是真の《柳流水蒔絵青海波塗重箱》。5段の重箱に蓋がかぶさっているのに、左にもなぜ蓋が?と思いましたが、これは替え蓋。重箱の段の高さも、模様も色合いも変えていて、三段重にもできる凝ったつくりです。変え蓋は三段重の時のものだったのです。

酒井抱一の「一人競演」もあります。
私淑した尾形光琳の作品だけでなく、狩野派、土佐派、円山四条派、中国絵画、さらには伊藤若冲の絵まで、さまざまな流派を取り入れた抱一らしい《絵手鑑》。
どの絵も細かく丁寧に描かれていますが、一番手前の黒樂茶碗の胴体は太い筆でグイッと一気に描いていて、力強さが感じられます。

酒井抱一《絵手鑑》江戸時代(19世紀)
後期には浮世絵も登場。
美人画と役者絵の名手・三代歌川豊国(国貞)と、風景画の名手・歌川広重が競演した《双筆五十三次》。一枚の絵の中で歌川派のスーパースター二人の競演が楽しめます。
色合いも、新しく摺ったばかりではと思えるくらいきれいです。

三代歌川豊国(国貞)・歌川広重「双筆五十三次」のうち
「平塚」「大磯」「御油」「赤坂」
江戸時代・安政元年~2年(1854-55)

岩﨑家 深川別邸(清澄園)洋館の、古伊万里、清朝陶磁の競演!

ラウンジには、この日のスライドトークで長谷川さんからお話をおうかがいした「岩﨑家深川別邸を飾ったやきもの」が展示されています。
(ラウンジに展示されている作品は撮影OKです!)

ラウンジ展示風景

現在の都立清澄庭園内にあった岩﨑家の深川別邸の洋館を設計したのは、「日本近代建築の父」と称された英国人建築家ジョサイア・コンドル。
日比谷にあった鹿鳴館はじめ日本で多くの洋館を建築しただけでなく、日本画を画鬼・河鍋暁斎に学び「暁英」という号までもっていた日本文化通の人です。

そして、深川別邸の陳列室(ギャラリー)を飾ったのが、岩﨑家が明治22-23年(1889-90)頃、「御雇い外国人」として来日した英国軍人フランシス・ブリンクリーから一括購入した中国や日本の陶磁器コレクション。
その数は、大正十二年に制作された「清澄園蒐蔵陶磁器目録」によると、日本陶磁289件、中国陶磁172件の計461点もの数にのぼるとのこと。

ブリンクリーが蒐集したコレクションは、西洋人の眼で選ばれたものなので、日本陶磁では地方窯の個性ある作品が多く、中国陶磁では、茶道具に見られる「侘び寂び」の世界とは対照的に、当時の日本人には好まれなかった華美な清朝陶磁が大部分を占めていました。

カラフルな柄の有田窯の鉢と皿。
右 重要美術品 《色絵龍鳳文鉢 「元禄十二年 柹」銘》 江戸時代・元禄12年(1699)
左 《色絵花卉丸文菊形皿》 江戸時代(18世紀前半)
地方の美術館・博物館が地元の窯のやきものの展覧会を開催するときは、静嘉堂文庫美術館に照会があるそうです。それだけ地方窯の所蔵作品が充実しているということですね。

後期に展示されているのが、同径45㎝もある景徳鎮窯の大きな水甕《釉裏紅龍濤文缸》。


《釉裏紅龍濤文缸》清時代(17-18世紀) 
見た目にもズシリと重そうで、荒波の上を舞う派手な紅色の堂々とした龍。
それにこの大きな水甕は、清朝全盛期の基礎を築いた第四代皇帝・康熙帝の時代につくられたもの。さらに下の台は康熙帝、雍正帝に続き清朝の全盛期に君臨した乾隆帝の時代につくられたもの。
まさに清朝が権勢を誇った時期の二人の皇帝の競演なのです。

こちらも気品漂う清時代の作品。
《藍釉粉彩桃樹文瓶》清時代(18世紀)
展示を見終わって荷物をまとめていたら、若いカップルの会話が聞こえてきました。
「静嘉堂のいろいろな分野の美術品が見られて楽しかったね。」

まさにオールスターキャストの美の競演です。
静嘉堂のよりすぐりの名宝を、ぜひお楽しみください。


【次回開催の展覧会】
次回は、10月13日(火)から12月6日(日)まで開催される「能をめぐる美の世界」です。


そして、新型コロナウィルスの影響で中止になった「江戸のエナジー 風俗画と浮世絵」が12月19日(土)から2021年2月7日(日)まで開催されることになりました。

これからも楽しみです。


2020年8月7日金曜日

SOMPO美術館 開館記念展「珠玉のコレクション-いのちの輝き・つくる喜び-」

新宿に巨大な白いオブジェ出現!



新型コロナウィルスの影響で開館が延期されていましたが、新装なったSOMPO美術館(旧:東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館)が7月10日(金)にオープンして、9月4日(金)まで開館記念展が開催されています。

【展覧会概要】
SOMPO美術館 開館記念展「珠玉のコレクション-いのちの輝き・つくる喜び」
会 期  2020年7月10日(金)~9月4日(金)
開館時間 午前10時~午後6時(最終入館は午後5時30分まで)
日時指定チケット 一般 1,000円 大学生700円 高校生以下 無料
※美術館ではチケットを販売していませんので、チケットは事前にお買い求めください。
展覧会の詳細、チケット購入方法、新型コロナウィルス感染拡大防止対策等については美術館の公式サイトでご確認ください⇒SOMPO美術館

館内は撮影禁止ですが、本展覧会に限り以下の作品のみ撮影が可能です。

 ポール・ゴーギャン《アリスカンの並木路、アルル》
 ピエール=オーギュスト・ルノワール《帽子の娘》
 ピエール=オーギュスト・ルノワール《浴女》
 ポール・セザンヌ《りんごとナプキン》

以前のようについついエレベーターで損保ジャパン本社ビルの42階に行こうとしてしまいますが、新しいSOMPO美術館の入口は本社ビル敷地内に新設された美術館棟の1階。
陶板複製のゴッホ《ひまわり》がお出迎え。

1階で手指の消毒と検温を済ませて、エレベーターで5階に向かいます。
展示室は5階から3階で、上から順番に見ていくルートになっています。
そして2階にはミュージアムショップと8月1日(土)から営業を開始したカフェ(カフェは展覧会開催日の土日祝日のみ営業)。

5階は「第1章 四季折々の自然」とSOPMO美術館の1/100詳細模型などが展示されている「紹介:SOMPO美術館の建築」。

「第1章 四季折々の自然」には、東山魁夷、平山郁夫、吉田博はじめ、近代・現代の日本画家による桜や朝顔、海や富士、雪といった季節感あふれる作品が展示されています。

中でも、山口華楊の《葉桜》は全面的な修復を行い、約10年ぶりに公開される初期の大作。
こちらは展覧会チラシの裏面ですが、中央右の作品が山口華楊《葉桜》。

大正から昭和にかけて京都で活躍した山口華楊(1899-1984)は、動物画を得意とした日本画家で、植物画でも優れた作品を残しました。
一枚一枚の桜の葉が丁寧に描かれたこの《葉桜》は華楊の真骨頂。しかしそれだけではありません。写真ではわかりにくいのですが、作品の画面中央下に描かれている蛇に注目です。
小さな蛇も細かく色分けして丁寧に描かれているのです。
作品の横には、蛇の部分の拡大写真はじめ修復時の様子がパネル展示されていますので、ぜひこちらもご覧ください。

そして、丁寧に描かれたモフモフの狐たちの作品《幻化》や、仕上げの絵と同寸に描かれた大下絵と比較ができる《猿》といった、山口華楊らしい動物画も展示されています。

4階に移ります。

「第2章 「FACE」グランプリの作家たち」では、今年で8回目を迎えたFACE展(主催:東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館、読売新聞社)の2012年から2019年までのグランプリ作品が展示されています。

今年2月に開催されて、新型コロナウィルスの影響で3月1日までで惜しくも中止になったFACE展2020(損保ジャパン日本興亜美術賞展)の様子は以前のブログでレポートしています。

⇒FACE展2020(損保ジャパン日本興亜美術賞展)

続いて、「第3章 東郷青児(1897-1978)」には同館コレクションの中心を占める東郷青児の作品17点が展示されています(東郷青児作品は第4章にも4点、第5章にも1点展示されています)。

展覧会チラシ表にゴッホの《ひまわり》(上)と並んで掲載されているのは、ギリシャ神殿のような遺跡の前にたたずむ女性を描いた東郷青児の《望郷》(下)。




この《望郷》をはじめ「青児美人」といわれた淡い色彩の優しい表情をした女性たちに心が和みます。その一方で、初期の作品《パラソルさせる女》のように濃い色彩の前衛的な絵画にもハッとさせられる迫力を感じるので、どちらの作品も楽しめます。

3階に移ります。

「第4章 風景と人の営み」には、アメリカの田園風景を描いたグランマ・モーゼスの作品7点はじめ、東郷青児、モーリス・ユトリロ、ポール・ゴーギャンの作品が展示されています。

中でもゴーギャンの《アリスカンの並木路、アルル》は、ガラスケース越しでなく、間近に見ることができて、今回は撮影可!
ゴーギャンの絵筆のタッチや独特の色遣いをじっくりご覧いただくことができます。
ポール・ゴーギャン《アリスカンの並木路、アルル》
1888年 SOMPO美術館

「第5章 人物を描く」には、ジョルジュ・ルオー、パブロ・ピカソ、マルク・シャガール、藤田嗣治といった名だたる画家たちの人物が展示されています。

こちらのルノワールの作品2点は撮影可です。
どちらも一度印象派から離れたルノワールがかつての画風に戻ったあとの作品で、柔らかな色遣いがとても心地よく感じられます。
特に、古いニスを除去して、本来の明るさを取り戻した《浴女》(下の写真右)は、女性の肌も背景の海も、まるで輝いているように見えました。

ピエール=オーギュスト・ルノワール《浴女》(右)1892-93年頃
《帽子の娘》(左)1910年 いずれもSOMPO美術館
「第6章 静物画-花と果物-」でいよいよポール・セザンヌの《りんごとナプキン》と、フィンセント・ファン・ゴッホの《ひまわり》が登場!

セザンヌの《りんごとナプキン》は撮影可。

ポール・セザンヌ《りんごとナプキン》
1879-80年 SOMPO美術館
セザンヌのこの作品は、正面からだけでなく、ぜひ右から左からご覧になってください。
横から見ると、あら不思議、テーブルの上の果物が画面を飛び出して、浮き上がってくるように見えてきます。

今回の展覧会で撮影可の作品は、今後展示されても撮影できなくなるかもしれません。それに、今のようにガラスケースなしで間近で見ることもできなくなるかも。
コレクション展ですが、もしかしたらこんな機会はラストチャンスかもしれないので、ぜひ来館して、その場で名作の数々をご覧になっていただければと思います。


2020年8月4日火曜日

【祝・再開!】山種美術館 特別展「桜 さくら SAKURA 2020-美術館でお花見!-」

毎年春には花を描いた日本画の展覧会で私たちを楽しませてくれる山種美術館。

今年のテーマは「桜」。

3月14日に始まった特別展「桜 さくら SAKURA 2020 -美術館でお花見!-」も5月10日まで開催されて、いつものように春の訪れを知らせてくれるはずでした。
ところが、新型コロナウィルス感染拡大防止のため4月4日から臨時休館となり、残念ながらこのまま展覧会も終了してしまうのかな、と思っていたのですが、なんとうれしいことに7月18日から会期を延長して再開されることになりました!

【特別展】桜 さくら SAKURA 2020-美術館でお花見!-
会 期:2020年7月18日(土)~9月13日(日)
           (状況により変更される場合があります。)
開館時間:午前11時~午後4時(入館は午後3時30分まで)
休館日:月曜日(但し、8/10(月)は開館、8/11(火)は休館)
入館料:一般1,300円
展覧会の詳細や新型コロナウィルス感染防止対策については同館公式サイトでご確認ください⇒山種美術館

再開にあたり開館時間が短縮され、オンライン事前予約システムが導入されています。
入館日時オンライン予約サイト⇒https://www.e-tix.jp/yamatane-museum/

さらに学生さんにはうれしいお知らせがあります。

学生応援無料キャンペーン
8月4日(火)から9月13日(日)まで大学生・高校生の方は特別展1,000円のところ無料で入館できます。詳細はこちらです⇒学生応援無料キャンペーン
当日は学生証をお忘れなく!

今年は例年になく短い夏休みを過ごされているかと思いますが、せっかくの機会なので、夏休みは日本画を見に行きましょう!

 
さて、今回展示されているのは、もちろん桜を描いた作品なのですが、幕末から明治、大正、昭和、そして現代まで、日本画の大家たちの個性あふれる桜が会場内に咲き誇っています。
今年の春は自粛モードでお花見ができなかった分、この展覧会をご覧になって、ぜひ今年も「お花見気分」を味わっていただきたいです。




それではさっそく展示室に入ってみましょう。
展示作品は約50点、展示内容は「桜とともに」「名所の桜」「桜を描く」の3章構成で、どれもおススメの作品ばかりなのですが、今回は私の特にお気に入りの作品を各章2点に絞ってご紹介したいと思います。

※会場内は撮影禁止です。展示作品の写真は、美術館より特別の許可をいただいて掲載したものです。

第1章 桜とともに

桜といえば春、春といえば桜、古くから桜は日本の春にとって欠かせないアイテム。
第1章では、花見を楽しむ人たちや歴史上の人物とともに描かれた桜、普段の暮らしの中に描かれた桜の作品が展示されています。

その中から、昔の時代にタイムスリップして、当時の人たちといっしょに花見をしている気分になれる作品2点をご紹介しましょう。

展示会場に入ってすぐにお出迎えしてくれるのは、松岡映丘《春光春衣》。

松岡映丘《春光春衣》1917(大正6)年
絹本・彩色 山種美術館

光り輝くばかりの桜の花、十二単のあでやかな色遣い、そして金砂子がまかれ、キラキラ輝く女性たちの長い黒髪。
絢爛豪華な京の都に迷い込んだようで、気分はすっかり平安貴族。

それでもこの作品が描かれたのは平安時代ではなく、およそ100年前の大正年間。
作者は、大和絵を研究し、大和絵の復興に生涯をかけた松岡映丘(1881-1938)。

平安貴族になった気分で贅沢なお花見をお楽しみください。


次は時代がもう少し下って、花見の習慣が庶民にまで広まってきた江戸時代後半に行ってみましょう。
こちらの作品は、江戸の桜の名所に紛れ込んだ気分でお花見を楽しみたいです。

菱田春草《桜下美人図》1894(明治27)年
絹本・彩色 山種美術館
咲き誇る桜の下で楽しそうに話をする女性たち。
着物の女性たちと桜の取り合わせや、少し体をくねらせた女性のポーズは、一見すると浮世絵の肉筆画?と思ってしまいますが、実はこの《桜下美人図》は、明治中期から後期にかけて活躍して、惜しくも若くして亡くなった菱田春草(1874-1911)の東京美術学校在学時の作品なのです。
菱田春草は、のちに横山大観らとともに岡倉天心の薫陶を受けて朦朧体に挑み、短い活動期間ながら山種美術館所蔵の《釣帰》をはじめ数々の名作を残していますが、学生時代にはこのような作品も描いていたのです。


第2章 名所の桜

京都の嵐山や祇園、秀吉の花見で知られた醍醐、東京の千鳥ヶ淵、東北の三春や奥入瀬。全国各地の桜の名所が楽しめる第2章の作品の中から、特におすすめの2点を紹介したいと思います。

はじめに奥村土牛(1889-1990)の《醍醐》。

奥村土牛《醍醐》1972(昭和47)年
紙本・彩色 山種美術館
地面にどっしりと根を生やした桜の大木。画面全体を後ろからしっかり支えるかのようにデンと構える白壁、そして画面の上半分には淡紅色の桜の花。
よく見ると、桜の花は一つひとつの花びらが溶け合って、淡紅色がまるで一つの塊になって輝いているように見えてきます。

135点もの豊富な奥村土牛コレクションをもつ山種美術館では、いつも土牛の作品を楽しませていただいていますが、この《醍醐》をはじめとした、安定感のある構図の作品にいつもホッとさせられるのです。


一方、こちらは桜の花びら一枚一枚がはっきりとした太い輪郭線で描かれている橋本明治の《朝陽桜》。

橋本明治《朝陽桜》1970(昭和45)年
紙本・彩色 山種美術館

橋本明治は先ほど紹介した松岡映丘の門人でしたが、大和絵の復興には向かわずに、特に戦後は、「肥痩のない仏画の鉄描線のような」と形容された輪郭線と大胆で鮮やかな色彩で、独自の境地を切り開きました。この作品に描かれた桜も、デザイン性に富んだモダンな感じがしないでしょうか。

明治は、朝陽に映える桜のイメージを金砂子によって表現したとのこと。
黄金色に輝く桜の花をぜひお楽しみください。

第3章 桜を描く

どの章でも、それぞれの画家の個性的な桜が描かれた作品が展示されていますが、第3章では、中でも特に個性あふれる近代日本画の巨匠二人の「対決」をご紹介。

まずは、近代日本画の巨匠といえばこの人、横山大観(1868-1958)。

横山大観《山桜》1934(昭和9)年
絹本・彩色 山種美術館
大観は、日本の象徴としてし富士山や桜の絵を多く描きました。
しかし、大観の描く桜は、私たちがお花見で楽しむソメイヨシノやシダレザクラではなく、本居宣長が「しき嶋のやまとこゝろを人とはゝ朝日ににほふ山さくら花」と、その美しさをたたえた山桜なのです。

野山に人知れず咲く山桜。たよりなさげな幹と、はらはらと散る花びらにそこはかとない「物のあはれ」が感じられる作品です。


そしてもう一方の巨匠が、岡倉天心の没後、横山大観らが再興した日本美術院を脱退して、1929(昭和4)年に青龍社を結成した川端龍子(1885-1966)。

川端龍子《さくら》20世紀(昭和時代)
絹本・彩色 山種美術館
大画面に豪快で迫力ある絵を描いて「会場芸術」といわれた川端龍子らしく、か弱くはかない桜の花のイメージとは異なり、画面の半分以上を占めるごつごつとした太い幹。
この作品の主役は桜の花ではなく、太い幹なのです。

しかし、そう思いながら画面上の方にわずかに咲く桜の花を見ると、つぼみから満開の花まで、一つひとつが細かく丁寧に描かれているのがわかります。
龍子も実は桜の花に思い入れがあったのかもしれません。
果たしてこの絵の主役はどちらなのでしょうか?

戦前は仲たがいした二人の巨匠ですが、戦後は、山種美術館の創立者・山﨑種二氏の希望により企画された、大観、龍子、川合玉堂による「松竹梅展」(1955-1957)で競演するなど交流が復活したので、一安心。

ミュージアムショップ&カフェも再開してます

展覧会の再開にあわせて、オリジナルグッズを取り揃えたミュージアムショップ、オリジナルメニューを用意しているCafe椿も再開しています。

(ミュージアムショップで販売しているオリジナルグッズや、Cafe椿のメニューはこちらでご確認ください⇒山種美術館ショップ&カフェ)

展示室内でお花見をしたあとは、Cafe椿で一休み。

抹茶と特製和菓子のセット(1,200円)
特製和菓子は5種類あって、私が選んだのは奥村土牛《醍醐》をモチーフにした淡い薄紅色の「ひとひら」。
抹茶の渋みと和菓子の上品な甘さのコンビネーションが絶妙です。

関東地方も梅雨が明けて暑い日が続いていますが、ぜひみなさんも、桜がいっぱいの会場にお越しになって、お気に入りの作品、お気に入りの桜を探してみてはいかがでしょうか。