2020年10月15日木曜日

京都国立博物館「御即位記念 特別展 皇室の名宝」

皇室ゆかりの地・京都にふさわしい展覧会「御即位記念 特別展 皇室の名宝」が、京都国立博物館 平成知新館で開催されています。




宮内庁三の丸尚蔵館が所蔵する名品の数々、天皇家伝来の御物、京都国立博物館の名品はじめ皇室が伝えてきた日本文化の粋が見られる展覧会。
これだけ多くの皇室の名宝が見られる機会はそう多くはないかもしれません。
ぜひご覧になっていただきた展覧会です。

【展覧会概要】

会 場  京都国立博物館 平成知新館(京都・東山七条)
会 期  2020年10月10日(土)~11月23日(月・祝)
 展示替:前期 10/10-11/1 後期 11/3-11/23
開館時間 午前9時30分~午後6時(入館は午後5時30分まで)
観覧料  一般 1800円ほか
※本展は、新型コロナウィルス感染症の感染予防・拡大予防のため、オンラインでの事前予約制(日時指定券)を導入しています。
詳細は展覧会公式サイトでご確認ください⇒https://meiho2020.jp/index.html
 


それではさっそく展示室内をご案内したいと思います。
※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は、報道内覧会で博物館より特別の許可をいただいて撮影したものです。

展示内容は大きく分けて2つの章で構成されています。

第一章 皇室につどう書画 三の丸尚蔵館の名宝

   皇居東御苑内にある三の丸尚蔵館の名宝と聞いて、多くの方が真っ先に思い浮かべるのは伊藤若冲《動植綵絵》30幅ではないでしょうか。
 そして、江戸後期京都画壇の巨匠・円山応挙の孔雀、教科書に出てくる《蒙古襲来絵詞》《春日権現験記絵》、そして古筆や中国の書画。
 第一章では、幅広い分野の名品を所蔵する三の丸尚蔵館の書画の逸品が展示されています(《花手桶形引手》(通期展示)のみ宮内庁京都事務所蔵)。 

第二章 御所をめぐる色とかたち

 第二章では、京都御所での生活の品々、即位の情景、描かれた天皇の姿、天皇の書、王朝物語などを通じて、天皇が日々をすごしていた空間、御所の後宮の女性たちが暮らしていた空間が、宮内庁三の丸尚蔵館はじめ、御物、京都国立博物館、京都の寺院ほかの名品で再現されています。
 長いあいだ都が置かれていた京都ならでの展示と言えるでしょう。


第一章 皇室につどう書画 三の丸尚蔵館の名宝


第一章展示は4つのエリアに分かれています。

 「筆跡のもつ力」
 「絵と紡ぐ物語」
 「唐絵へのあこがれ」
 「近世絵画百花繚乱」

※紹介した展示作品はすべて宮内庁三の丸尚蔵の所蔵です。

展示は3階の「筆跡のもつ力」のエリアから始まります。

タイトルにあるとおり、時空を超えて現代に伝えらえた、墨で書かれた文字の力をぜひ感じとっていただきたい逸品ばかり。

第一章「筆跡のもつ力」展示風景

冒頭を飾るのは、中国・東晋時代の4世紀に活躍した書聖・王羲之筆(搨本)の《喪乱帖》
後世の中国や日本に大きな影響を与えた王羲之の真筆はすべて失われ、のちの模写、拓本が残されています。この《喪乱帖》も唐時代に模写されたものなのですが、それも数が少なく、貴重なものなのです。

《喪乱帖》は前期展示。後期には、国宝の詫び状で知られた(国宝《離洛帖》東京・畠山記念館蔵)藤原佐理(944-998)の《恩命帖》が展示されます。
本人もまさか詫び状が後世に伝わるとは思わなかったでしょうが、おおらかな人柄がしのばれます。この《恩命帖》も詫び状のようですが、藤原佐理といえば、小野道風、藤原行成と並ぶ平安時代中期の「三蹟」の一人。達筆ぶりをぜひご覧ください。

続いて「絵と紡ぐ物語」のエリア。

ここには、《蒙古襲来絵詞》はじめ絵巻物が展示されています。
日本史教科書の元寇のページに必ずと言っていいほど出てくる場面も出てきます(《蒙古襲来絵詞》は、前期に前巻、後期に後巻が展示されます)。

    
(展覧会チラシは公式サイトからダウンロードできます。)

そして、同じく鎌倉時代に制作されて、一巻も欠けることなく現代に残されている貴重な絵巻《春日権現験記絵》(絵 高階隆兼筆、詞書 鷹司基忠ほか筆)20巻のうち、6巻および目録が前期後期で展示されます。

とても700年以上も前に描かれたとは思えない色のあざやかさをご覧ください。「絵と紡ぐ物語」のエリアは2階にも続きます。
2階の1部屋を占めるのは、岩佐又兵衛《小栗判官絵巻》(15巻のうち3巻が前期後期で1巻半ずつ展示)、尾形光琳《西行物語絵巻》(4巻のうち2巻が前期後期で1巻ずつ展示)。


次に「唐絵へのあこがれ」のエリアに移ります。

第一章「唐絵へのあこがれ」展示風景


墨の濃淡だけで描かれた竹や梅、浮かび上がってくるような鮮やかな色の牡丹、表情豊かな羅漢さんたち。日本の絵師や文人たちがあこがれた中国絵画の名品が勢ぞろいしています。

国宝《観音猿鶴図》(京都・大徳寺蔵)の作者で、日本で特に人気のあった中国・南宋末元初の画僧、牧谿の作と伝わる作品も展示されています。
この伝牧谿《蘿蔔蕪菁図》は、土から掘り出された大根と菜が描かれた二幅。画面の横に描かれた賛とともに室町時代の禅宗の人たちが大根と菜にどのような意味合いをもたせたのか、想像してみるのも楽しいかもしれません。

前期は9~15世紀(唐~五代時代から元~明時代)の中国絵画7点、後期は14~18世紀(元~清時代)の中国絵画7点と朝鮮絵画1点の計8点で、総入れ替えになります。
明清時代の水墨の山水や青緑山水、それに明代の書画の大家で、その後の中国書画に大きな影響を与えた董其昌の金箋の上に墨で描かれた《書画合冊》が出てくるので、中国絵画ファン(私もその一人です)にとっては後期も見逃せません。

続いて広々とした平成知新館の展示室を3つ使って繰り広げられる、近世京都画壇で活躍した絵師たちの「近世絵画百花繚乱」のエリアに移ります。

最初の展示室と次の展示室は、絢爛豪華な屏風の競演。
屏風も前期後期で総入れ替えですので、できれば全部ご覧いただきたいです。

絵師の顔ぶれも豪華。

狩野一門の棟梁として織田信長や豊臣秀吉に仕えた桃山の巨匠・狩野永徳の作と伝わる《四季花鳥図屏風》(前期展示)、《源氏物語図屏風》(後期展示)。
あの有名な国宝《風神雷神図屛風》(京都・建仁寺蔵)の作者で、「琳派の祖」俵屋宗達《扇面散図屏風》(後期展示)。
狩野派に学び、その後、独自の画風を確立した海北友松《浜松図屏風》(前期展示)、《網干図屏風》(後期展示)(海北友松も建仁寺蔵の重要文化財《雲龍図》がよく知られています)。

はじめ狩野派に学び、のちに尾形光琳に学んだ江戸時代中期の京都の絵師・渡辺始興《四季図屏風》(前期展示)。
京都ゆかりの絵師たちの屏風の名品がずらりと展示されています。

江戸を拠点にした狩野探幽狩野常信の屏風も展示されていますが、二人とも京都に上り、それぞれ二条城、紫宸殿に障壁画を描いているので、京都にゆかりのある絵師と言ってもよいでしょう。

そしていよいよ「近世絵画百花繚乱」の最後の部屋は伊藤若冲《動植綵絵》登場!
今回展示されるのは全30幅のうち、鶏、鴛鴦、鳳凰はじめ鳥が描かれた8幅(前期後期で4幅)。
競演するのは江戸中期京都画壇の巨匠、円山応挙《牡丹孔雀図》(前期展示)。
まさに「花鳥の楽園」です!


第一章「近世絵画百花繚乱」展示風景


第一章「近世絵画百花繚乱」展示風景

後期には伊藤若冲《旭日鳳凰図》が展示されるので、こちらも楽しみです。


第二章 御所をめぐる色とかたち



第二章も4つのエリアに分かれています。

 「即位の風景」
 「漢に学び和をうみだす」
 「天皇の姿と風雅」
 「王朝物語の舞台」


「即位の風景」のエリアに展示されているのは、天皇即位の様子や、即位にともなう大嘗祭の後の饗宴で飾られていた土佐光貞・光時《天明度 主基方本文屏風》2帖(京都国立博物館蔵 前期後期で1帖ずつ展示)、天皇が即位礼で着用した礼服(らいふく)と冕冠(べんかん)などが展示されています(礼服と冕冠は御物)。

この展示室は、即位礼の様子が描かれた屏風とあわせて、まさに即位の風景が再現されている空間です。

「京都国立博物館だより」2020年10・11・12月号
展覧会の概要がコンパクトに紹介されています。


続いて「漢に学び和をうみだす」に展示されているのは、私たちになじみのある『万葉集』『和漢朗詠集』『古今和歌集』はじめ、天皇家に伝わる「和様の書」の逸品。

第二章「漢に学び和をうみだす」展示風景

漢文から、やわらかな和風の書体に移ってきた平安時代の書の見どころは、文字の流麗さはもちろん、料紙装飾のきらびやかさ。文字も料紙もあわせてお楽しみください。

第一章で紹介した藤原佐理と並ぶ平安時代中期の「三蹟」の二人、小野道風《屏風土佐》(後期展示)、藤原行成筆と伝わる《雲紙本和漢朗詠集 巻上》(前期後期で巻替)、《大江切本古今和歌集》(前期展示)(いずれも宮内庁三の丸尚蔵館蔵)も展示されるので、三人の書を見比べることができます。


「天皇の姿と風雅」のエリアでは、天皇の肖像、天皇の筆跡「宸翰」、天皇が研鑽を積んだ書道や和歌、音楽といった学問に関する名品から天皇の日々の姿が浮かび上がってきます。

第二章「天皇の姿と風雅」展示風景


展覧会のフィナーレを飾るのは、みやびやかな「王朝物語の舞台」
王朝文学を代表する『源氏物語』や、御所の中でも中宮や有力な女御が住まう「飛香舎」に飾られていた襖絵や調度品が展示されていて、当時の御所での生活の様子を思い描くことができます。
第二章「王朝物語の舞台」展示風景



展覧会オリジナルグッズも充実してます!

展覧会公式図録は約100件の出品作品すべてカラー図版で掲載、伊藤若冲《動植綵絵》は1ページ1点で紹介、解説も詳しくて丁寧ですので来館記念にぜひ!(税込 2,800円)。



展覧会出品作品をデザインした一筆箋3種類(税込550円)、マスキングテープ3種類(税込550円)など展覧会オリジナルグッズも盛りだくさん。お帰りにはぜひ1階ミュージアムショップにお立ち寄りください。


これだけの名品がそろった展覧会も会期はわずか6週間。
そのうえ、前期後期それぞれ3週間で多くの作品が展示替えになるので、いつか行こうと思っていては見逃してしまいます。
今から予定を立てて、名品の数々をご覧になっていただければと思います。

2020年10月7日水曜日

藝大コレクション展2020-藝大年代記(クロニクル)

 東京上野公園の東京藝術大学大学美術館では、9月26日(土)から「藝大コレクション展2020-藝大年代記(クロニクル)」が開催されています。

毎年楽しみにしている展覧会なので、コロナ禍の影響で開催が延期されたときはショックを受けたのですが、この秋めでたく開催されることになりました。
そこで先日さっそく行ってきましたので、展覧会の様子をレポートしたいと思います。

今年のテーマは、前身の東京美術学校から現在の東京藝術大学までの130年以上の歴史を所蔵作品で綴る「藝大年代記(クロニクル)」。
よりすぐりのコレクションと、卒業生の自画像や卒業制作で日本近代美術の足跡をたどることができる、とても内容の濃い展覧会です。

【展覧会概要】

会 期  9月26日(土)~10月25日(日)
開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日  月曜日
観覧料  一般 440円ほか
展覧会の詳細や新型コロナウィルス感染防止対策は公式サイトでご確認ください⇒

※館内は撮影禁止です。掲載した写真は取材時に美術館の特別の許可をいただいて撮影したものです。
※取材では、同美術館の熊澤弘准教授に展覧会の趣旨及び作品の解説をしていただきました。この場をお借りして御礼申し上げます。

展示は、所蔵作品がほぼ年代順に展示されている 第1部 「日本美術」を創る と、
自画像と卒業制作がメインの 第2部 自画像をめぐる冒険 の2部構成になっています。

見どころいっぱいのコレクション展なので、今回は特に注目ポイントを三つに絞って紹介したいと思います。

見どころ1   教科書や切手で見たことがある日本近代美術の作品に会える!
見どころ2 藝大の歴史を収蔵年代順にたどることができる!
見どころ3 卒業生たちの個性あふれる自画像がずらり!



見どころ1 教科書や切手で見たことがある日本近代美術の作品に会える!


第1部会場入口では高橋由一の《鮭》がお出迎え。

第1部イントロダクション
中央が高橋由一《鮭》(重要文化財)明治10年頃(c.1877)、
左は原田直次郎《靴屋の親爺》(重要文化財)明治19年(1886) 
右は黒田清輝《婦人像(厨房)》明治25年(1892)


《鮭》は、日本史教科書に必ずといっていいほど出てくるので、ご記憶のある方も多いのではないでしょうか。
切り身を一部切取られ紐にぶら下がった鮭を子どもの頃に見たときの印象がとても強く、私の頭の中には「鮭=近代日本美術」という図式がしっかりインプットされているのです。
作者は写実的な画風を追求した日本西洋絵画界のパイオニアともいえる高橋由一。
ぜひこの機会に目の前で鮭の質感をご覧になってください。

そして、やはり子どもの頃、切手の図柄で知っていた上村松園《序の舞》。
京都画壇の美人画の第一人者、上村松園が描いたこの作品も展示されています。

上村松園《序の舞》(重要文化財)
昭和11年(1936)

この作品は2年前に同じく東京藝術大学大学美術館で開催された「東西美人画の名作《序の舞》への系譜」展で修理後初めて一般公開された時に見たのですが、髪の生え際の細かな表現や着物のあでやかな色合いが見事によみがえっていますので、こちらもぜひ目の前で見ていただきたい作品です。

ところで、切手コレクターの方はもうご存じかと思いますが、10月16日に日本郵便から発行される特殊切手「美術の世界シリーズ 第2集」に、《鮭》、《序の舞》が84円郵便切手、洋画家・和田英作の《渡頭の夕暮》が63円郵便切手の題材として選ばれているのです!


和田英作《渡頭の夕暮》も第2部で展示されています。
一日の仕事を終えて、川べりで対岸を眺める一家と川面に浮かぶ夕陽。スーッとその場に入っていけそうな光景が描かれている逸品です。

第2部の卒業制作のコーナー
中央が和田英作《渡頭の夕暮》明治30年(1897)
右は横山大観《村童観猿翁》明治26年(1893)
左が近藤浩一路《京橋》明治43年(1910)

切手が発売される前に実物を見るか、切手が発売されてから実物を見に行くか。
いずれにしてもぜひその場で実物をご覧になっていただきたい作品です。

見逃せない作品ばかりなのですが、やはり狩野芳崖《悲母観音》も見逃すわけにはいきません。

狩野芳崖《悲母観音》(重要文化財)
明治21年(1888)

狩野芳崖(1828-1888)は、橋本雅邦(1835-1908)と並ぶ明治期の近代日本画界のスーパースター。
東京美術学校の創立に尽力しましたが、開校前に惜しくも亡くなり、最後の力を振り絞って描いたのがこの名作《悲母観音》。
昨年のコレクション展以来の再会です。

正面に立って見上げると、赤子に優しく微笑みかえる観音様。
思わず手を合わせたくなる作品です。

《悲母観音》も私の手元にある『詳説 日本史図録』(第6版)(山川出版社 2015年)の近代日本美術紹介のページ(P245-246)に高橋由一《鮭》、和田英作《渡頭の夕暮》や、今回は展示されていませんが、浅井忠《収穫》、赤松麟作《夜汽車》とともに掲載されているので、受験生のみなさんは一度は見たことがある作品かもしれません。

見どころ2 藝大の歴史を収蔵年代順にたどることができる!

 

今回の展覧会は「所蔵作品で東京美術学校と東京藝術大学の年表をつくりたい。」(熊澤弘准教授)とのコンセプトで構成された「藝大年代記(クロニクル)」。
第1部では、学生たちの美術活動に必要な参考資料としての収蔵作品がほぼ年代順に展示されているので、会場内を巡りながら、藝大の歴史をたどることができます。

第1章 1889年 東京美術学校と最初期のコレクション 


1889年(明治22年)は東京美術学校が開校された年。
開校に際して、学生が入る前から教材としての美術品の収集に尽力したのが、初代校長を務めた岡倉天心。

この方が天心です(下の写真一番右)。
            ↓
第1章展示風景
右から下村観山《天心岡倉先生(草稿)》大正11年(1922)
中央の二幅が《羅漢図》(重要文化財)南宋時代(13世紀)
左が《阿弥陀三尊来迎図》鎌倉時代(13世紀後半)

天心には「本邦古来の美術を」との考えがあったので、登場する仏さんや人物のなごみ系のお顔にホッとさせられる国宝《絵因果経》(下の写真)や、上の写真の《羅漢図》《阿弥陀三尊来迎図》といった古美術も含まれていたのです。

《絵因果経》(国宝)天平時代(8世紀後半)


第2章 1896年 黒田清輝と西洋画科


1896年(明治29年)は東京美術学校に西洋画科と図案科が新設された年。

第2章展示風景
左から原作:ベルナルディーノ・ルイーニ 模写:久米桂一郎
《小児と葡萄》明治25年(1892)、
久米桂一郎《寒林枯葉》明治24年(1891)
山本芳翠《西洋婦人図》明治15年(1882)

久米桂一郎(1866-1934)は、黒田清輝(1866-1924)と同じくフランス留学を経験し、ともに西洋画科を主導した人。
山本芳翠(1850-1906)もフランス留学を経験した明治期を代表する洋画家。
イントロダクションで展示されている、黒田清輝が収集した高橋由一《鮭》、原田直次郎《靴屋の親爺》や自身の《婦人像(厨房)》とともに、まさに「西洋画科の最初の教材」がここに展示されているのです。

谷文晁コレクション


今回初めて知ったのですが、東京藝術大学大学美術館では、江戸後期の文人画家・谷文晁(1763-1841)に関する作品・資料が計57件所蔵されているとのこと。
今回は4点の絵画が展示されていて、そのうちの2点が、中国絵画(下の写真右)と国宝「信貴山縁起絵巻」の模写《志貴山縁起 上》。
狩野派や土佐派、中国絵画や西洋絵画の手法も取り入れて独自の画風を創出した、研究熱心な谷文晁が一生懸命模写をしている姿が思い浮かんできそうです。
今後のコレクション展で谷文晁の特集が組まれるのを期待してしまいます。

右から、模写:谷文晁《夏谿新晴図》寛政11年(1799)
谷文晁《韓信》文政3年(1820)
原作:谷文晁 模写:柳月斎《芦葉達磨》
(文政4年(1821)原作、天保5年(1834)模本制作)


第3章 美校の素描コレクション


この章には、明治9年(1876)から明治16年(1883)まで存続した日本最初の官立美術学校、工部美術学校から東京美術学校が受け入れた素描コレクションが展示されています。

絵画教師としてイタリアから招聘されたフォンタネージの作品や、
第3章展示風景

素描を重視したフォンタネージの指導のもと工部美術学校で学び、その後洋画家として活躍する浅井忠、松岡寿、五姓田義松らの生徒時代の作品から、明治初期の美術教育のあり方が伝わってくるようです。
第3章展示風景


第4章 1900年 パリ万博と東京美術学校


1900年(明治33年)はパリ万国博覧会が開催された年。
東京美術学校は積極的に作品を出品しましたが、当時はアールヌーヴォーの全盛期。
賞を得た作品もありましたが、全体的な評価はあまり芳しくなく、関係者たちは落胆したそうです。
同じくこの章に展示されているアールヌーヴォー調のポスターと比較すると派手さはないかもしれませんが、素朴な日本の原風景を見ているようで、何となく懐かしさを感じるいい作品が展示されています。

第4章展示風景
左から、藤島武二《池畔納涼》明治31年(1898)、
広瀬勝平《磯》明治31年頃(c.1898)、
結城素明《兵車行》明治30年(1897)


第5章 1931年 官展出品・政府買上作品

1931年(昭和6年)は、官展に出品後、政府が買い上げした作品の東京美術学校への移管が始まった年。
移管は、同年の第12回帝展から1946年(昭和21年)の第2回日展まで続き、現在、東京藝術大学は日本画、彫刻、版画合わせて43点を収蔵しているとのことです。
第5章展示風景
右 上村松園《序の舞》(重要文化財)昭和11年(1936)、
左 小林古径《不動》昭和15年(1940)

上村松園《序の舞》は、昭和11年(1936)の文展に出品された作品。
京都画壇の上村松園は東京美術学校とは縁がなかったのですが、この作品が東京藝術大学の所蔵になった背景には、官展出品・政府買上→移管といういきさつがあったことを初めて知りました。
神武天皇即位から2600年にあたる昭和15年(1940)に開催された紀元2600年奉祝美術展に出品されて東京美術学校に移管された作品は、上の写真の小林古径《不動》のほか、前田青邨《阿修羅》、鏑木清方《一葉》が展示されています。


見どころ3 卒業生たちの個性あふれる自画像がずらり!



今回の展示のすごいところは、卒業制作の一環として制作された卒業生たちの自画像約100点がずらりと展示されていること。


第2部イントロダクション
左から、白滝幾之助、青木繁、李叔同/李岸、中村萬平の《自画像》


どうでしょうか、この景色。何しろ壮観です。
顔が正面を向いていたり、少し斜に構えていたりさまざまですが、誰もがいい表情をしていて、画風もそれぞれの画家の個性が出ています。

第2部自画像をめぐる冒険 展示風景


お気に入りの画家の自画像が見つかるかもしれません。ぜひ一つひとつの《自画像》をじっくりご覧になっていただきたいです。

明治31年(1898)卒業の北蓮蔵、白滝幾之助の2点の自画像から始まった西洋画科の自画像は、中断した時期もありましたが、その後、日本画科、彫刻科、工芸科が加わり、現在でも自画像の納入と所蔵が続けられています。

「自画像」といっても絵だけではありません。中には映像の自画像といった変わり種も。

作者は、今をときめく現代美術家の宮島達男。
昭和59年(1984)に制作されたものなのでDVDではなくビデオテープに収録されているのですが、展示されているビデオテープを見て妙に懐かしさを感じました。
映像は会場内で上映されているので、ぜひこちらもご覧になってください。


展覧会パンフレットも充実!


そして、第1部入口に作品リストと一緒に置いてあるのが、今回の展覧会のパンフレット。



全14ページでオールカラー。展示作品の図版も多く、各章ごとの分かりやすい解説もあって、まるでミニ図録。制作された皆さんの熱意が伝わってきます。それに何と無料!
お一人様一部です(なくなり次第終了)。ぜひお手に取って、会場内を巡っていただければと思います。

間違いなくこの秋おススメの展覧会。
会期は1ヶ月、10月25日(日)までです。
ぜひ上野公園の東京藝術大学大学美術館までお越しになってください!



2020年9月30日水曜日

山種美術館【特別展】竹内栖鳳《班猫》とアニマルパラダイス

東京広尾の山種美術館では【特別展】竹内栖鳳《班猫》とアニマルパラダイス、併設展示:ローマ教皇献呈画 守屋多々志《西教伝来絵巻》試作特別公開が開催されています。


今回の展覧会の注目は何といっても毛がモフモフで可愛らしいしぐさの《班猫》(竹内栖鳳 重要文化財)。
他にも竹内栖鳳が描いた動物の絵(全部で17点)や、東西の個性的な日本画家たちが描いた動物画が展示されていて、会場内はまさに「アニマルパラダイス」。とても楽しい展覧会です。

そして、もう一つの見どころは、今回の展示後、ローマ教皇に献納される守屋多々志《西教伝来絵巻》試作の特別公開。
二度と見られないかもしれないので、こちらも見逃すわけにはいきません。

【展覧会概要】

会 期  9月19日(土)~11月15日(日)
開館時間→11/4から平日も土日祝日も10時~17時(入館は16時半まで)
土日祝日もの閉館時間が1時間延長されました!
 平日   午前11時から午後4時(入館は閉館時間の30分前まで)
 土日祝日 午前11時から午後5時(入館は閉館時間の30分前まで)
休館日  月曜日
入館料  一般 1300円ほか
展覧会の詳細は同館公式サイトでご確認ください⇒山種美術館
また、入館日時のオンライン予約、開館時間、感染防止の取り組みについてはこちらでご確認ください⇒オンライン予約等について

※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は内覧会で美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。
※紹介した作品は☆印の作品以外は、すべて山種美術館所蔵です。

展覧会は2章プラス併設展示で構成されています。それではまず第1章から。

第1章 《班猫》と栖鳳が描いた動物たち


ここでは竹内栖鳳(1864-1942)が描いた動物画17点を一挙公開。
竹内栖鳳は、「東の横山大観、西の竹内栖鳳」と並び称された京都画壇の重鎮。
その栖鳳の作品を都内でこれだけたくさん見られる機会はそう多くないかもしれません。

にぎやかな鳥たちの競演

鳥を描いた作品が多く展示されている中、会場内でお出迎えしてくれるのは2羽の鶴。
ピンッと背筋を伸ばした気品のある姿がとても印象的です。

竹内栖鳳《双鶴》
(1912-42頃 大正ー昭和時代)

よく見てみると、右の鶴は口を開け、左の鶴は口を閉じています。これは「阿吽」を表しているのでは。
「阿吽」は万物の始まりと終わり。展覧会の冒頭を飾るのにふさわしい作品ではないでしょうか。
透明感あふれる右下の水面の表現にも注目です。

続いて、白鷺、鴉、メジロ、ミミズク、アヒルといった鳥たちを描いた作品が並んでいて、にぎやかな鳴き声が今にも聞こえてきそう。
一番奥は《班猫》です。

第1章展示風景

鳥を描いた作品の中で私のお気に入りは《雨霽(あまばれ)》。


竹内栖鳳《雨霽》(1926(大正15)年頃)

柳の木に止まる白鷺も堂々とした姿で、冒頭の鶴のように近寄りがたい気品を感じます。
栖鳳62歳ごろの作品ですが、老齢にさしかかった栖鳳が、「老いてなおかくあるべし。」と自身の姿を投影しているようにも思えました。

一方でカワイイ系の作品もあります。

竹内栖鳳《鴨雛》1937(昭和12)年頃


栖鳳は、猫や犬、ウサギ、アヒルなど多くの生き物を飼って、間近で観察しながら作品を制作したとのことですが、アヒルのこんなリラックスした姿は目の前でじっくり観察しなければ描けなかったでしょう。

気高さを感じる《班猫》

そして今展覧会の主役、重要文化財の《班猫》。

竹内栖鳳《班猫》重要文化財
1924(大正13)年

旅先の沼津で見た猫を譲り受け、京都に持ち帰って観察をしながら描いたというこの作品。
一心に毛づくろいをしている可愛いらしいしぐさ、毛のモフモフ感。
それでも視線はこちらに向けられていて、「誰が見ていても我関せず。」といった気高さを感じさせてくれる逸品です。

生き物に対するやさしいまなざしが感じられる

栖鳳が描いたのは、鳥や猫だけではありません。
バッタやカエル、蛇などさまざまな生き物を描いていますが、そこには生き物や生命に対する慈しみ、やさしいまなざしが感じられます。

池の中を一生懸命泳ぐ一匹の小さなカエルを描いた《緑池》。
水面と水面の下に透けて見えるカエルの体の透明感が心にスーッと沁み込んできます。


竹内栖鳳《緑池》1927(昭和2)年頃

一見するとユーモラスなしぐさのカエルの絵ですが、実は意味深?な作品が《蛙と蜻蛉》。

竹内栖鳳《蛙と蜻蛉》
1934(昭和9)年

栖鳳が10日間観察して描いたという12匹のカエルは、当時の帝国美術院の日本画会員12人を風刺したのではとも評されたそうですが、画面左上に描かれたトンボは、ひとり新たな境地に向かう栖鳳自身なのでしょうか。
古希を迎えたちょうどこの頃、栖鳳は京都を離れ、神奈川県の湯河原に居を構えた時期なので、カエルのユーモラスなしぐさにも惹かれますが、それだけでなくいろいろなことを考えさせてくれる作品です。


第2章 アニマルパラダイス


第2章は、栖鳳の門人たちはじめ、東西の日本画家が描いた動物画の競演が楽しめます。

大きな動物から小さな動物まで東西競演が楽しめる

第2章の冒頭は、白熊や牛を描いた作品から始まります。

右から、西村五雲《白熊》(1907(明治40)年)、
山口華楊《生》(1973(昭和48)年)、
奥村土牛《聖牛》(1953(昭和28)年)


まずは白熊がオットセイを捕らえるという迫力ある場面を描いた西村五雲(1877-1938)の《白熊》。

西村五雲《白熊》1907(明治40)年


西村五雲は栖鳳の高弟の一人。
白熊という新しい題材に挑んだこの作品は、動物園として日本で二番目に開館した京都市動物園で初めて見た白熊を写生して完成させたとのこと。
竹内栖鳳も、渡欧中に動物園でライオンを模写して獅子図を描いているので、円山四条派の流れを汲み、写生を重んじる京都画壇の人たちにとって、身近な動物園の存在は大きかったことでしょう。
西村五雲の作品は、他に松と鶴を描いたおめでたい作品《松鶴》、後ろ足で耳の下を掻くしぐさが可愛いい《犬》、愛嬌のある表情の鴨を描いた《寒渚》が展示されています。

続いて、西村五雲の弟子・山口華楊(1899-1984)の《生》。

山口華楊《生》(1973(昭和48)年)

山陰地方の山村での写生を元に描いたという作品ですが、実際に見た風景を幻想的な光景に変えてしまう華楊らしい独特な雰囲気に満ちた作品です。
山口華楊の作品は、他に巨木の根がからみあう、やはり幻想的な《木精》が展示されています。

西の華楊の幻想的な子牛と並んで展示されているのは、東の代表・奥村土牛(1889-1990)《聖牛》。

奥村土牛《聖牛》(1953(昭和28)年)

土牛は、出産後の母牛に「落ち着きと気品」を感じたとのことですが、ほのぼのとした新しい命の輝きが感じられる作品です。
奥村土牛の作品は、他に《鹿》、《兎》2点、《戌年》《シャム猫》《栗鼠》といった小動物のかわいらしい作品も展示されています。

下の写真左が奥村土牛《シャム猫》。右が土牛の兄弟子でもあり、師でもあった小林古径(1883-1957)の《猫》。
どちらの猫も栖鳳の《班猫》とは異なり、かしこまったポーズをとっていますが、どの猫にも気高さが感じらるのは、やはり人に媚びることのない猫だからなのでしょうか。
左 奥村土牛《シャム猫》(1974(昭和49)年)
右 小林古径《猫》(1946(昭和21)年)

東西巨匠は「ミミズク」で競演

今回は「西の竹内栖鳳」が主役の展覧会なのですが、「東の横山大観(1868-1958)」は、暗がりの中にたたずむミミズクが描かれた《木兎》で参上しています。

横山大観《木兎》(1926(大正15)年)

東京上野・不忍池のほとりの大観邸(現・横山大観記念館)ではミミズクの姿を見ることもあったそうです。
世闇に光る目に金泥を施すところは、さすが斬新な発想の大観。
人の気配を感じて少し驚いたような表情のミミズクが可愛らしいです。

可愛さでは第1章に展示されている栖鳳の《みゝづく》も負けてはいません。
体は少し横向きで、顔を正面に向けて首をかしげて、何か思案中なのでしょうか。

竹内栖鳳《みゝづく》1933(昭和8)年頃

併設展示 ローマ教皇献呈画 守屋多々志《西教伝来絵巻》試作 特別公開


冒頭にも紹介しましたが、今回展示されている守屋多々志(1912-2003)の《西教伝来絵巻》試作は、2019(令和元)年11月のローマ教皇フランシスコの来日を記念して献呈されるもので、今回のチャンスを逃したら二度と見られないかもしれません。
ぜひじっくりご覧になっていただきたい作品です。

1549(天文18)年に日本へキリスト教が伝わった際の航海の様子が描かれている上巻。
☆守屋多々志《西教伝来絵巻》試作(上巻)
20-21世紀(昭和-平成時代)

幼子イエスを抱いた聖母マリアを中心に、日本の信徒たちを描く下巻。
中央の聖母マリアの前で筆をとる少年に注目です。画家本人の姿なのかもしれません。

☆守屋多々志《西教伝来絵巻》試作(下巻)
20-21世紀(昭和-平成時代)

昭和から平成にかけて歴史画家の第一人者として活躍した守屋多々志は、山種美術館二代目館長・山﨑富治氏と親交があったことから、山種美術館には14点の守屋多々志の作品が所蔵されています。
今回も第2章に《駒競べ》、併設展示の第2展示室に《慶長使節支倉常長》《波乗り兎》が展示されています。

守屋多々志《慶長使節支倉常長》
1981(昭和56)年


そういったご縁があって、1981(昭和56)年にローマ教皇ヨハネ・パウロ2世が来日された際、守屋多々志が記念として《ジェロニモ天草四郎》を制作して教皇に献呈する前に山種美術館で公開されたのですが、今回も同じく山種美術館で公開されることになったのです。

ところで今回公開されている作品は、なぜ「試作」なのでしょうか。
実は、ほぼ完成品の前の段階のこの「試作」はあるのですが、完成品の「本画」の存在は確認されていないのです。

はたして「本画」は描かれたあとに所在不明になったのか、何らかの理由で消失してしまったのか、それとも描かれなかったのか、そういったミステリアスなところも感じながら鑑賞したい作品です。

オリジナル和菓子も味わえます!

1階のCafe椿では、今回の出展作品にちなんだオリジナル和菓子をお楽しみいただけます。


上から時計回りに、「めで鯛」(竹内栖鳳《艸影帖・色紙十二ヶ月》のうち「鯛(1月)」)、
「夜のみなも」(小林古径《夜鴨》)、吉祥(西村五雲《松鶴》)、「きらめき」(速水御舟《昆虫二題》のうち「粧蛾舞戯」)、「瀬音」(土田麦僊《香魚》)。
(カッコ内はモチーフにした作品で、いずれも山種美術館蔵。)
お抹茶セットで1,200円(税込)。どの和菓子とのセットにしようか迷ってしまいます。

オリジナルグッズも充実!

《班猫》はじめ山種美術館所蔵作品にちなんだオリジナルグッズも充実してます。
《班猫》A4クリアファイル(385円)、《班猫》ブロックメモ 550円、《鴨雛》Tシャツ(3,300円)、今回の展覧会の図録(1,320円)などなど。(いずれも税込価格)
展示室横のミュージアムショップで販売していますので、ぜひお立ち寄りください。



さらに関連書籍も充実してます。
下の写真は右から『色から読み解く日本画』(エクスナレッジ)、『かわいい琳派』(東京書籍)。


今年7月に発売されたばかりの『もっと知りたい鳥獣戯画』(東京美術)もあります。
図版も多く、解説もわかりやすくて丁寧なので、来春に延期になった東京国立博物館「特別展『国宝 鳥獣戯画のすべて』」の予習にピッタリです。



紹介した書籍はミュージアムショップでお求めいただけます。

撮影スポットで記念にパチリ!

1階ロビーには《班猫》の猫ちゃんたちと写真を撮るコーナーもあります。

1階撮影スポット

来館記念にぜひ撮影してシェアしましょう!
1階撮影スポット


会場内は日本画のかわいい動物たちでいっぱい。
生き物に向けられる日本画家たちの優しいまなざしが感じられます。
この秋おススメの展覧会です。ぜひその場でご覧になっていただいて、お気に入りの一品、お気に入りの動物を探してみてはいかがでしょうか。



2020年9月11日金曜日

応挙寺の襖絵をニコニコ美術館で見よう!

応挙寺」で知られる、兵庫県の日本海側の町、香美町香住にある高野山真言宗 亀居山 大乗寺
その大乗寺にニコニコ美術館のカメラが入って、円山応挙とその一門が描いた大乗寺客殿の障壁画を徹底解説するという番組が、9月22日(火・祝)午後3時から生中継されます。

放送日 9月22日(火・祝)午後3時から
番組タイトル 「大乗寺・円山応挙一門の障壁画165面と立体曼荼羅を巡ろう」
https://live2.nicovideo.jp/watch/lv327742144

解説は、ライターで永青文庫副館長の橋本麻里さん。大乗寺副住職の山岨眞應さんと共に大乗寺の魅力をお伝えするという、とても楽しみな企画です。

私が大乗寺を訪れたのは、今から13年前、2007年の秋のことでした。
応挙と弟子たちの障壁画が、保存のためゆくゆくは収蔵庫に移管されて、客殿のものはレプリカに置き換わるというニュースを聞いて、本物の障壁画が客殿にあるうちに見ようということで、あわてて行ってきたです。

大乗寺山門

客殿の入り口には円山応挙師匠の像がお出迎えしてくれます。


大乗寺の最寄り駅は、JR京都駅からでも山陰線の特急と普通を乗り継いて3時間以上かかる香住駅。そこからタクシーで5分ほどなので、応挙師匠は「遠いところよく来たな。」とねぎらってくれているように見えました。

大乗寺の公式HPはこちらです⇒http://www.daijyoji.or.jp/

客殿に上がって実際にその場で障壁画を見た時の印象はとても強いものがありました。
200年以上も前に描かれたにもかかわらず、ものすごくきれいに色が残ってていることや、「郭子儀図」に描かれた唐子が、違った位置から見てもこちらを向いているように見えたことなどは今でもはっきりと覚えています。

芭蕉の間 円山応挙 重要文化財「郭子儀図」(全8面のうち4面)
1788(天明8)年 兵庫・大乗寺蔵
※ 郭子儀(697-781)は、中国・唐中期の安史の乱の鎮圧に功績があった武将ですが、長
 寿で子や孫に恵まれたことから、おめでたい画題として江戸時代の絵師たちに好まれて
 描かれました。この「郭子儀図」にも楽しそうに遊ぶ唐子たちが描かれています。


とても印象が強かった大乗寺客殿の障壁画ですが、10年以上も月日がたつと、その印象もだんだんと薄れてきてしまうものです。

そんな時、うれしいことに大乗寺の障壁画の方が東京に来てくれました。

昨年(2019年)夏に東京上野公園の東京藝術大学大学博物館で開催された「円山応挙から近代京都画壇へ」展で、大乗寺の障壁画のうち円山応挙「松に孔雀図」はじめ弟子たちの襖絵が展示されたのです。

みなさんはこの展覧会には行かれましたでしょうか。
私は現地に行った時の記憶をよみがえらせたくなったので見に行ってきました。(展覧会は、その後、京都国立近代美術館に巡回。)

東京藝術大学構内の展覧会の看板

それから1年、今回はコロナ禍で国内の移動もためらってしまうような状況の中、その大乗寺の障壁画をオンラインで見ることができるのですから、こんなうれしいことはありません。

さて、それではニコニコ美術館「大乗寺」特集の注目の3つの見どころをご紹介していきましょう。

注目ポイント1 13名の絵師による全165面の傑作襖絵を動画中継で! 

客殿をめぐりながら応挙たちが描いた襖絵を生中継するので、副住職の山岨眞應さんと橋本麻里さんの詳細な解説を聴きながら、まるでその場にいるような気分で襖絵を見ることができます。
さらに、保存のため収蔵庫に保管されている襖絵も特別に紹介されます。

孔雀の間 円山応挙 重要文化財「松に孔雀図」(全16面のうち4面)
1795(寛政7)年 兵庫・大乗寺蔵


注目ポイント2 十一面観音を中心に応挙が構想した「立体曼荼羅」を徹底解説!

大乗寺の客殿は、中央の仏間の持仏、十一面観音を中心として四方を四天王が守護するという密教的な意味をもった立体曼荼羅になっています。

なぜ、中央の仏間の前の間には孔雀が描かれているのか。

ぜひ解説を聞いていただきたいです。



注目ポイント3 応挙の光のマジックをご紹介!

昨年、東京藝術大学と京都国立近代美術館で開催された「円山応挙から近代京都画壇へ」展に行かれた方は、「松に孔雀図」をご覧になって、金箔貼りの襖に墨で描かれているのに、光の当たり具合によって松の枝は茶色、松葉は緑色、孔雀の羽根は茶色に見えてくるという体験をされたかもしれません。

今回は、「孔雀の間」に座っているような感覚で応挙が仕掛けた光のマジックを体験することができるのです。


孔雀の間 円山応挙「松に孔雀図」
1795(寛政7)年 兵庫・大乗寺蔵 


美術作品は、現地に行ってその場で本物を見るというのが一番なのでしょうが、さまざなま制約で難しくなっている今日、こうしてバーチャルで見られるというのは幸せなことで、「コロナ後」の美術鑑賞の新しい形なのかもしれません。

ニコニコ美術館の「大乗寺」特集、お見逃しなく!