2020年11月17日火曜日

SOMPO美術館「東郷青児 蔵出しコレクション~異国の旅と記憶~」

今ではすっかり西新宿のランドマークとして定着した巨大な白亜のオブジェ「SOMPO美術館」。

SOMPO美術館外観

今年7月に新装オープンしたSOMPO美術館の開館記念展「珠玉のコレクション-いのちの輝き・つくる喜び-」に続く第2弾は「東郷青児 蔵出しコレクション~異国の旅と記憶~」

もとは安田火災とゆかりの深かった東郷青児のコレクションを常設する美術館として1976年に安田火災海上(現在の損保ジャパン)本社ビル42階に「東郷青児美術館」として誕生した同館にとって、今回はまさに出発点に立ち返った展覧会。

今まで開催された展覧会でも同館所蔵の東郷青児作品は見ているのですが、今回は普段あまり公開されることのない作品が多く出てくる「蔵出しコレクション」。
さて、どんな作品が蔵から出てくるのか楽しみです。

【展覧会概要】

会 期  2020年11月11日(水)~2021年1月24日(日)
休館日  月曜日(ただし11月23日、1月11日は開館)
     年末年始(12月28日(月)~2021年1月4日(月))
開館時間 午前10時~午後6時(入館は閉館30分前まで)
観覧料
 一般 1,000円、大学生 700円、高校生以下 無料 障がい者手帳をお持ちの方 無料
※本展は日時指定入場制です。事前に日時指定のオンラインチケットをご購入ください。入場無料の方もオンラインによる日時指定をお願いします。

展覧会の詳細、チケット購入方法、新型コロナウィルス感染拡大防止対策等については美術館の公式サイトでご確認ください⇒SOMPO美術館


展覧会チラシ


館内は、ゴッホ《ひまわり》ほか9作品は撮影可(フラッシュ不可)ですが、その他は撮影不可です。掲載した写真は内覧会で美術館の特別の許可をいただいて撮影したものです。
(撮影可の作品の写真には「撮影可」とキャプションに記載しました。)

さて、今回の展覧会は6章構成になっていて、アトリエの再現に始まり、初期の前衛的な作品から、フランス滞在時の人物画や風景画、「青児美人」と言われたモダンな美人画、青児には珍しい男性の肖像画、晩年の彫刻や厚塗りの試みなど、作品や写真、関連資料などを通じて東郷青児の画風の変遷をたどりながら、いつの間にか青児ワールドに入ることができる展示構成になっています。

東郷青児になじみのない方でもスーッと入ることができる展示構成です!


展覧会の構成
 第1章 1920年代のフランス(1921-28)
 第2章 モダンボーイの帰国(1928-35)
 第3章 イメージの中の西洋(1935-59)
 第4章 戦後のフランス(1960-78) (1)リアルなフランス体験 (2)二科の交換展と受章
 第5章 異国の旅と蒐集品(1960-78)
 第6章 当館の設立と新たなる旅(1976-78)


そして、年代順に青児の画風の変遷をたどりながら、20歳代に留学したフランスに始まり、ヨーロッパ各地、中東、北アフリカ、南米など、世界各地を旅して、そこで青児が見た人物や風景の作品を見ながら、エキゾチックな旅の追体験ができるのも今回の展覧会の魅力の一つ。

世界各地の人物や風景を見て海外旅行気分が味わえる!


5階展示室に入ってすぐは導入ゾーン
入口左には東郷青児のアトリエが再現されています。
展示されているトランク、イーゼル、パレット、絵筆などは実際に青児が使っていたものなので、まるで本物のアトリエにいるような気分。

東郷青児のアトリエ再現
撮影可


続いて正面を見ると、18歳の時に描いた作品《コントラバスを弾く》(1915年)と、翌年の二科展に出品していきなり二科賞を受賞したこの作品を前にポーズを決める東郷青児(下の写真左から)。
「僕の作品どう?」

どちらも撮影可

東郷青児といえば、「東郷様式」と呼ばれたモダンな女性像が思い浮かびますが、初期の東郷青児の「未来派風」の前衛的な作品も実は魅力的なのです。
初めて見たのは「東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館」時代の2017年に開催された「生誕120年 東郷青児展」でした。この時は青児の生まれ故郷にある鹿児島市立美術館から多くの初期作品が出品されたのをよく覚えています。

《コントラバスを弾く》(1915年)
撮影可

第1章「1920年代のフランス(1921-28)」に展示されているのは、青児の最初のフランス留学時代に描いた風景画や女性たち。

第1章展示風景


《南仏風景》は、在仏中に体調を崩して1ヶ月ほど保養のためすごした南仏の町を描いた作品。
キュビズムやシュルレアリスムの影響と言ってしまえばそれまでですが、不自然にゆがんだ建物や木を見ていると、異郷の地で体調がよくないときに不安げに窓の外を見るとこのように見えるのかもしれません。

《南仏風景》(1922年)
撮影可


第2章 モダンボーイの帰国(1928-35)にはどこかで見たことのある絵が出てきます。


第2章展示風景

そうです、SOMPO美術館のロゴマークになっているのが上の写真中央の《超現実派の散歩》(1929年)に描かれた、宙に浮いて月を捉えようとする人物なのです。

美術館前の案内看板

まだこの頃は、フランス仕込みのシュールな雰囲気が残っていますが、第3章 イメージの中の西洋(1935-59)になるといよいよおなじみの「青児美人」が登場してきます。 


第3章展示風景

1950年代の女性ファッションを象徴するギュッと絞ったウェストの女性を描いた《赤いベルト》。

《赤いベルト》(1953年)
撮影可

戦後になって、まだ海外への渡航が制限されていた時代に、多くの人が憧れる「西洋」の明るいイメージを描いた青児ですが、それだけではありませんでした。
第4章 戦後のフランス(1)リアルなフランス体験では、植民地の独立戦争などで疲弊したフランスの、特に農村部の困窮に衝撃を受けた青児は、その悲惨な状況を作品に残しています。

第4章展示風景

寒さに凍える少女を描いた《子供》(1960年)や物思いにふける女性を描いた《慕秋》(1960年)、おそらく息絶えたであろう娘を力なく見つめる母親と、こちらに鋭い視線を向ける姉を描いた《貧しき子》(1963年)(上の写真右から)からは、インドシナ戦争(1946-54年)からアルジェリア独立戦争(1954-62年)まで長い間続いたフランスの植民地をめぐる戦争の悲惨さが痛いほど強く伝わってきます。


戦後、東郷青児は二科展の中心人物として、パリの美術団体サロン・ドートンヌで二科展を開催するなど海外の美術団体との交流を進めました。
第4章 戦後のフランス(1960-78)(2)二科の交流展と受章では青児が展覧会のためにパリに送った作品が展示されています。
この時期になるとおなじみの青児美人のオンパレード。見る人を安心させてくれます。

第4章展示風景

第5章 異国の旅と蒐集品(1960-78)に展示されているのは、今までの東郷青児展ではあまり見ることがなかった異国の地の風景を描いた作品群。コロナ禍で思うように海外に行かれる時期ではないからこそ、心にじわーっとしみ込んでくる作品ばかり。

砂漠に立つ孤高の男性や、世界各地で見かけた女性たち。

第5章展示風景

上の写真右の《赤い砂》(1967年)もそうですが、男性を描いてもこれが東郷青児の作品とすぐにわかる「青児様式」。

こちらも青児にしては珍しい男性の肖像画《タッシリの男》(1972年)。

《タッシリの男》(1972年)
撮影可

サハラ砂漠中央にある先史時代の壁画で知られた世界遺産タッシリ・ナジェール遺跡に青児が訪れたのは70歳代なかば。この旺盛な行動力を見習いたい!

晩年にも「青児美人」は健在です。

《女体礼賛》(1972年)
撮影可


新たな試みがブロンズ像《日蝕》(1976年)。

《日蝕》(1976年) 撮影可

1972年の二科展に彫刻を出品した青児がこの《日蝕》を制作したのは80歳近くになっていました。
そして、絵画でも新たな試みに挑戦しています。
第6章 当館の設立と新たなる旅(1976-78)に展示されている作品は、晩年に試みた厚塗りの《貴婦人》。


《貴婦人》(1976年) 撮影可

功成り名を遂げても満足することなく、いつまでも新たな表現方法を追求し、制作意欲旺盛な東郷青児の生きざまを見ていると、「こちらも頑張らなくては」と思い、元気をもらったような気分になりました。


収蔵品コーナーも健在です

最後はゴッホの《ひまわり》をはじめとした豪華な収蔵品のコーナー。
今回はうれしいことにこの《ひまわり》が撮影可!

ゴッホ《ひまわり》(1888年) 撮影可


今回の展覧会では撮影可の作品がこの《ひまわり》のほか9点ありますが、どれも鑑賞者優先でフラッシュ撮影や人物を入れての撮影は不可など注意事項があります。
そして《ひまわり》も自分を入れる記念撮影は禁止で、撮影する場所も決められています。
撮影マナーを守って楽しく作品を鑑賞したいですね。

《ひまわり》の前のフォトスポットの表示

2020年11月2日月曜日

静嘉堂文庫美術館「能をめぐる美の世界」展

前回は様々なジャンルの美術品の競演で私たちを楽しませてくれた静嘉堂文庫美術館の今回の展覧会は「能をめぐる美の世界」

日本の仮面劇のルーツ、伎楽面や舞楽面にはじまって、翁面、男面、女面、鬼面などさまざな種類の、それもそれぞれの表情がどれも微妙に違っている面が展示されていて、さらには能面を包むきらびやかな面袋や、面のウラまで見られるという、まさに奥行きの深い能の世界にいつの間にか引き込まれていく展覧会です。


【展覧会概要】

会 期  2020年10月13日(火)~12月6日(日)
  前期 10月13日~11月8日 後期 11月10日~12月6日
  (前期後期で展示替えがあります。)
休館日  毎週月曜日(ただし、11月23日は開館)、11月24日(火)
開館時間 午前10時~午後4時30分(入館は午後4時まで)
入館料  一般1000円ほか
新型コロナウィルス感染防止対策及び展覧会の詳細は同館公式HPでご確認ください⇒http://www.seikado.or.jp/

※掲載した写真は、展示室内の撮影が可能であった10月31日までに来館した際に撮影したものです。11月1日以降は展示室内は撮影不可です。
※ラウンジの作品は会期中撮影可です。

ラウンジ展示風景



さて、「能の展覧会」と聞かれて、能に興味のある方は「これは行かなくては!」と思われるでしょうが、能に興味のない方、能の演目はいくつか知っているけどそれほど詳しくないという方は「今回はパスかな。」と思ってしまうかもしれません。

ところが今回の「能をめぐる美の世界」は、能に興味のない方、詳しくない方(私もその一人です)も能をめぐる美の世界にすーっと入り込んでいける、とても楽しい展覧会なのです。


能とは、能楽とは、能面とは


さてはじめにとは何なのか、おさらいしてみましょう。
能は、室町幕府第三代将軍 足利義満(1358-1408 在職1368-94)の庇護のもと、観阿弥、世阿弥父子によって大成された歌舞劇で、600年以上の歴史をもつ伝統芸能なのです。
能楽と総称される能と狂言は、1957年に国の重要無形文化財(芸能)に指定され、2008年にはユネスコの無形文化遺産保護条約「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」に記載されました。
そして、能の主役である「シテ」がつけるのが面(能面)。シテの相手をする「ワキ」は面をつけずに現実の男性を演じます。伴奏は、謡曲を斉唱する地謡(じうたい)と、能管(笛)、小鼓、大鼓、太鼓からなる囃子(はやし)。



「第1章 岩﨑彌之助と能」展示風景

展示室入口では、刺繍家 菅原直之助(1871-1942)による刺繍額《翁》(上の写真左)と《鞍馬天狗》(上の写真右)がお出迎え。
この刺繍額は、自らも能楽師、初世梅若実について謡の稽古を始めた三菱第2代社長 岩﨑彌之助氏が菅原直之助に制作を依頼して、岩﨑家高輪邸洋館(現「関東閣」)応接室に掛けられていたもの。
「では、どうぞ。」と、応接室にご案内されたような心地よい気分で展覧会は始まります。


仮面劇のルーツ 伎楽面、舞楽面はエキゾチック!


展示室に入ってすぐに目に入るのは、能面よりゴツゴツしていて、サイズも大きなお面。
私たちが知っている能面とは少し趣きが違います。

「第2章 日本の仮面劇のルーツ-伎楽面・舞楽面」展示風景


それもそのはず、ここに展示されているのは、7世紀・推古天皇(※)の時代に中国から伝えられた仮面劇、伎楽で使われた伎楽面と、劇ではありませんが、奈良時代以降日本に伝わり、平安時代からは宮廷や寺社の儀式として行われ、現在でも皇室行事はじめ各地の寺社等で受け継がれている舞楽に使われる舞楽面なのです。

※『日本書紀』第二十二巻 推古天皇二十年(611年)に、百済人の味摩之が「呉に学びて、伎楽の儛を得たり」と言って、桜井に少年たちを集めて伎楽の儛を習わせたとの記述があります(『日本書紀(四)』(岩波文庫 1995年)P124)。

当時は大陸の国際色豊かな文化を積極的に取り入れていた時期で、面の胡人(アーリア人)やインド人など、彫りの深いエキゾチックな顔立ちなのが特徴です。
伎楽は飛鳥・奈良時代に最盛期を迎え、法隆寺(現在は東京国立博物館法隆寺宝物館蔵)、正倉院、東大寺などには飛鳥・奈良時代の伎楽面が多く残され、天平勝宝4(752)年の東大寺大仏開眼供養でも盛大に演じられましたが、平安時代には衰退し、舞楽がそれに代わりました。

これらの伎楽面・舞楽面を蒐集、修理し、後世に伝えたのは明治~大正時代の彫刻家、加納鉄哉(1845-1925)。

展示室の最後のエリア、第4章には、加納鉄哉制作の仮面が展示されています。
岩﨑彌之助氏との交流がご縁で、加納鉄哉が制作した仮面や、蒐集した仮面は現在、静嘉堂に収蔵されています。
下の写真でご覧のとおり、「模古」というだけあって、彫りも古さの感じも本物と間違えてしまうくらいの精巧さです。

「第4章 名工・加納鉄哉の技-仮面の模古作」展示風景


能面を収納する箪笥、面袋にも注目!


さて、いよいよ能面の展示ですが、今回展示されいてるのは、越後国新発田藩主溝口家が旧蔵していた能面コレクション全67面。そして、そのすべてが今回初公開なのです。
(67面のうち33面は三菱財団の助成により修復し、公開可能になったもので、修復の様子などが展示室内のパネルで紹介されいてるので、こちらもぜひご参照ください。)

「第3章 能面の世界」展示風景

ここからは能面がずらりと展示されているのですが、最初に展示されているのは、江戸時代中期~後期(18~19世紀)に制作された、能面を収納する《黒漆塗面箪笥(4棹のうち)》(上の写真右)。左右それぞれ三段の引出しがあって、引き出しには面の名が3つ記されているので一段に3面が収納されていたことがわかります。

そして、能面の隣に展示されているのは、金の糸で吉祥紋様を織り込んだ金襴(きんらん)や、中国から伝わった絹織物の錦や緞子(どんす)といった高級感あふれる面袋(上の写真の能面の左)。

どちらも能面とセットになってお目にかかる機会は多くないかもしれないので、ぜひこちらにも注目です。


能面にも表情がある!


表情の変わらない人のことを「あの人は能面のようだ。」と表現することがありますが、能面にも表情があります。
もちろん一つひとつの能面は木でできているので表情は変わりませんが、例えば長いあごひげが特徴の翁面でも、こうやって見比べてみると、どちらもにこやかな笑顔を浮かべていますが、少し控えめな笑顔だったり、満面の笑みだったりと、受ける印象が微妙に違うのがわかります。

右が《翁(福来)》(室町時代後期 16世紀)、左が《翁(日光)》(江戸時代後期 18-19世紀)。
(カッコ内の福来、日光は面の作者。どちらも通期展示。)



続いて老人男性の面 尉面(じょうめん)。
こちらも長いあごひげと額に刻まれた深いしわが特徴ですが、今でもどこかでにいそうな「おじいちゃん」のような面もあって、親しみがわいてきます。


「第3章 能面の世界」
尉面の展示風景

男面にも少年から中年男性を表す面が展示されていて、それぞれの面の特徴がよくわかる展示になっています。
少し憂いを帯びた青年の面「中将」、見るからに強そうな武将の面「平太」、神や神霊を表す面「三日月」、能の中では神性を帯びた存在として扱われることが多い「童子」など、パネルの解説と面ごとのキャプションを読みながら面を見ていくと、「だからこういう表情をしているんだ!」と納得できます。

「第3章 能面の世界」
男面の展示風景


「第3章 能面の世界」
男面の展示風景


能面のウラを見たことがありますか?



能面の場合、壁面に掛けられたり、棚の上に展示されて、見る人は能面のオモテを見ることになりますが、個別ケースに立てられて展示されるとどうなるでしょうか。



「第3章 能面の世界」展示風景


こちらは表から見たところですが、裏に回ると、そこは漆黒の世界。

「第3章 能面の世界」展示風景


ガラスに顔がくっつかないように注意して、できるだけ近くに寄ってみてください。
そうすると、視界は狭く、小さな穴から鼻と口で呼吸するだけの窮屈な世界。
この面をつけて演じるシテ役の役者さんの大変さがわかるような気がしてきました。


能面は使われてこそ完成品-面打師 新井達矢さんの映像は必見!



地階講堂では映像「面打 新井達矢」が上映されています。上映時間は約15分。
伝統芸能の担い手なので人間国宝級の方を想像していたのですが、この映像に登場する面打師 新井達矢さんはいかにも好青年といった感じの若い方。

生木から彫って、色を塗って、毛をつけて面を完成させるまでの場面はもちろん出てくるのですが、遠慮気味にお話される新井さんの言葉一つひとつが心に響いてきました。

その一つが「能面は使われてこそ完成品」


「第3章 能面の世界」
女面の展示風景

今回展示されている能面のうち、女面の「曲女(曲見) (増阿弥)」(上の写真左)は、今年9月2日に国立能楽堂(東京都渋谷区)で実際に使用された面。
江戸中期の作とされる能面が息を吹き返し、現代の舞台によみがえったのです。
その感動の場面を報じた新聞記事が館内に掲示されていますので、ぜひお読みいただきたいです。

映像では能面を使う側、シテ役の役者さんのコメントも出てきます。
「新井さんが作る面は、おさまりもよく、視界も確保されている。」

先ほど紹介した面の裏側を思い出して、ものすごく納得がいきました。

新井さんは「面を作るだけでなく、お話をする機会があれば広めていきたい。」とも発言されていました。
11月8日(日)の午後には新井達矢さんの面打ち実演会が2回に分けて開催されるので、ご興味のある方はぜひ。
参加方法などの詳細は展覧会公式HPでご確認ください⇒能をめぐる美の世界


迫力十分!鬼のお面も登場



能面の最後のコーナーは、節分の時に使う鬼の面とは少し趣きが違いますが、こわい顔をした鬼面

こわい顔といっても、やはり一つひとつはそれぞれ特徴のある表情をしていて、大きく分けて3種類の面があるとのことです(解説パネルより)。

最初が憤怒の様相をした「悪尉(あくじょう)面」。悪とは尋常ならざる強さを示す言葉とのこと。



「第4章 能面の世界」
鬼面の展示風景

続いて口をへの字にギュッと結んだ「癋見(べしみ)面」。
見ている方も自然と顔の筋肉に力が入ってきそうです。


「第4章 能面の世界」
鬼面の展示風景


莫大なエネルギーを発揮する力強い神などに使用される、大きく見開いた目が飛び出している「飛出(とびで)面」。

「第4章 能面の世界」
鬼面の展示風景


どの鬼面も、眼や歯が金色に輝いていますが、これは鍍金銅版(金メッキした銅版)をはめているからで、それが強い霊力をもっていることを示しているとのこと。

私たちもパワーのおすそ分けがいただけるかもしれません。


ほかにも初世梅若実自画賛の扇や、見事な蒔絵の小鼓など、能に欠かせない小道具も展示されています。

また、先ほどご紹介した面打師 新井達矢さんの面打ち実演会はじめ関連イベントも盛りだくさん。
ぜひ会場にお越しいただいて、能をめぐる美の世界を堪能していただければと思います。


関連イベント


(今後開催されるものを記載しました。詳細はこれから発表されるものもあるので、展覧会公式HPでご確認ください⇒能をめぐる美の世界)

1 講演会  11月14日(土) 「日本彫刻史上における能面の魅力」
       早稲田大学教授 川瀬由照氏

2 宝生和英(ほうしょうかずふさ)氏(宝生流宗家)トーク 11月21日(土)
 
3 新井達矢氏による面打ち実演会
   11月8日(日) A:13時30分~14時20分(50分)
           B:14時40分~15時30分(50分)

4 列品解説
   11月7日(土) 午前11時~  11月19日(木) 午後2時~ 
   11月28日(土) 午前11時~
      
       















2020年10月28日水曜日

京都市京セラ美術館開館記念展「京都の美術 250年の夢(第1部~第3部 総集編-江戸から現代へ-)」

京都市京セラ美術館では、開館記念展「京都の美術 250年の夢 第1部~第3部 総集編-江戸から現代へ-」が開催さています。

本来であれば第1部から第3部まで3回に分けて開催される予定でしたが、コロナ禍の影響で第1部から第3部までを1回にまとめて総集編として開催されることになったリニューアルオープン記念展。
江戸時代後期の京都画壇に始まって、明治の日本画、書、洋画、工芸、大正・昭和の京都画壇、戦後から現代アートまでバラエティーに富んで、ボリュームもあって、京都美術の250年の粋がギュッと詰まった見ごたえのある展覧会です。

京都市京セラ美術館



【展覧会概要】

会 場  京都市京セラ美術館 本館北回廊 1階・2階
会 期  10月10日(土)~12月6日(日)
   前期 10月10日(土)~11月8日(日) 後期 11月10日(火)~12月6日(日)
   ※前期・後期で作品が大幅に入れ替わります。また、出展会期が限られた作品が
    複数あります。
開館時間 10:00~18:00
休館日  月曜日 ※ただし、11月23日は開館
観覧料  一般 1,600円ほか
※ 展覧会は予約優先制ですが、定員に達していない時間帯は予約なしでの当日観覧受付が可能です。入館方法、展覧会の詳細は公式サイトでご確認ください⇒https://kyotocity-kyocera.museum/



展覧会公式図録は、3部に分けて展覧会が開催される予定でしたので各部ごとに図録が作られていて、出品予定の作品も掲載されています。
もっともっとスケールが大きかった展覧会の全体像が実感できます!

第1部 第2部 2,300円+税
第3部 1,800円+税



それではさっそく展示室内をご案内したいと思います。
※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真はプレス内覧会で主催者の許可を得て撮影したものです。

展示は3部構成になっています。

第1部 江戸から明治へ:近代への飛躍
第2部 明治から昭和へ:京都画壇の隆盛
第3部 戦後から現代へ:未来への挑戦



第1部 江戸から明治へ:近代への飛躍


江戸後期の絵画・書・工芸


今から約250年前の京都画壇は、百花繚乱、多士済々。
円山応挙や伊藤若冲はじめ、今でも人気の絵師たちが綺羅星のごとく輝いていました。

冒頭に登場するのは、やはりこの人。当代人気ナンバーワン(※)、円山応挙

円山応挙 重要文化財《藤花図屏風》
(根津美術館) 前期展示

円山応挙《藤花図屏風》は前期展示ですが、後期には応挙の奔放な弟子・長沢芦雪の重要文化財《龍図襖》《虎図襖》(無量寺 串本応挙芦雪館)が展示されるのでこちらも楽しみ。

そして、円山応挙と人気を二分した伊藤若冲も(※)。
10/10-10/25には《雪中雄鶏図》(細見美術館)、11/23-12/6には《糸瓜群虫図》(細見美術館)が展示されます。

第1部展示風景



※京都在住文化人の番付ともいえる『平安人物志』安永4年版と天明2年版の画家部門では、1位 円山応挙、2位 伊藤若冲でした。

そして、応挙の円山派に対して、与謝蕪村に俳諧、絵を学び、応挙と交流した四条派の祖・呉春の重要文化財《白梅図屏風》(公益財団法人 阪急文化財団 逸翁美術館 前期展示)が続きます。
夜明けの様子を表現した緑色の地が何ともいえないロマンチックな雰囲気を醸し出しています。
その隣は呉春の師・与謝蕪村の重要文化財《鳶・鴉図》(北村美術館 前期展示)。
絶妙の配置です。

第1部展示風景

11/10-11/15には、写生を重んじた応挙にライバル心を燃やし、「画を望むなら我に乞え、絵図を求めるのなら応挙がよい」と言い放った曽我蕭白の派手な重要文化財《群仙図屏風》(文化庁)が6日間限定で展示されるのですから、まさに会場入ってすぐの空間は江戸後期の京都画壇そのもの。
冒頭から最高潮に盛り上がっている展示です。

明治の日本画・書・洋画・工芸


明治に入っても京都画壇の流れは続きます。
円山派、四条派両方の流れを汲み、1880年の京都府画学校(現 京都市立芸術大学)開設に尽力するなど明治初期に京都画壇の発展に力を注いだ幸野楳嶺と、その門下で四天王と言われた菊池芳文竹内栖鳳谷口香嶠都路華香の作品が勢ぞろい。


第1部展示風景



第1部展示風景


菊池芳文《孔雀》ほか、ここに紹介した作品はすべて前期展示ですが、後期には、大胆で奔放な画風の富岡鉄齋らしい屏風《妙義山図・瀞八丁図》(布施美術館)、11/17から12/6には、幸野楳嶺とともに京都府画学校開設に尽力した久保田米僊の屏風《漢江渡頭春光 青石関門秋色》が展示されます。

明治の洋画



京都洋画界は、やはりこの方、浅井忠抜きには語れません。

第1部展示風景


日本初の官立美術学校、工部美術学校でフォンタネージに学び、東京美術学校(現 東京藝術大学)教授に就任。フランス留学後は京都に転身し、京都高等工芸学校(現 京都工芸繊維大学)教授、初代関西美術院院長を務めた浅井忠。門下には梅原龍三郎安井曾太郎ら、その後一時代を築く洋画家たちがいました(梅原らの作品は第2部に展示)。

明治の工芸


明治の工芸も逸品ぞろい。
江戸時代まで受け継がれてきた工芸は、明治に入って危機を迎えますが、明治政府の輸出促進策によって振興されました。
今では「超絶技巧」としてすっかり固定ファンを獲得した明治工芸の逸品が並びます。

第1部展示風景
 


第2部 明治から昭和へ:京都画壇の隆盛


大正・昭和の日本画・書


明治から昭和にかけての京都画壇の重鎮といえば、やはりこの方、「東の大観、西の栖鳳」と並び称された竹内栖鳳ではないでしょうか。

第2部のタイトルにあるとおり、この時期の京都画壇も盛り上がり、「百花繚乱、多士済々」。
西村五雲土田麦僊上村松園小野竹喬村上華岳はじめ栖鳳門下の画家たちを中心に、新たな日本画表現に挑む画家たちの作品40点近くが前期後期で展示されます。


中でも特に目を引いたのは、小野竹喬《海島》(笠岡市立竹喬美術館 前期展示)や千草掃雲《上賀茂の初夏》(京都国立近代美術館 前期展示)といった、西洋絵画の影響を受けて、はっきりとした色合いで描かれた風景画。
まるでここに窓があって、部屋の中から外の景色を眺めているようです。

第2部展示風景

当時、日本画のジャンルの中でも人気を博した「美人画」の上村松園《娘》(松伯美術館)は10月25日までの展示。10/27-11/8には《夕暮》(京都府立鴨沂高等学校)が同じく期間限定で展示されます。


第2部展示風景


大正・昭和の洋画・彫刻


洋画界も盛り上がっています。
第1部で紹介した浅井忠の弟子たち、梅原龍三郎安井曾太郎らの作品が並びます。
日本史の教科書で必ず見る麗子像も。こちらは、岸田劉生が娘麗子をモデルにした連作のうちの一つ《童女図(麗子立像)》(神奈川県立近代美術館 通期展示)。
油彩画は第1部から第3部まで、できるだけ多くの作品を来館者にお見せしたいとの趣旨から、ほとんどが通期展示。ぎっしり詰まったこの密集感がいいです。

第2部展示風景

一方で、京都に住み、独自のシュルレアリスム世界を探求し続けたのが北脇昇
独活(ウド)が挨拶をするという不思議な光景の《独活》(東京国立近代美術館 通期展示)が展示されています。

第2部展示風景

明治末から大正期の工芸


1900年(明治33年)に開催されたパリ万国博覧会に日本の美術界は総力を挙げて作品を出品しましたが、当時はアールヌーヴォーが隆盛していた時。日本の工芸は時代遅れとされて評価は芳しくありませんでした。
そこでパリから帰国後、アールヌーヴォーや琳派の影響を受けた浅井忠らが絵付や図案を手掛けた工芸作品が作られました。


第2部展示風景



続いて、琳派の影響を受けた京都の工芸図案家、神坂雪佳図案の工芸作品が並びます。

第2部展示風景



第2部の明治末から大正期の工芸作品は、第1部で紹介した明治の工芸と並んで、横に長い展示ケースにずらりと展示されているので(呉春《白梅図屏風》他が展示されている展示ケースの向かい側)、明治から始まって、大正期までの工芸の流れが一目でわかる展示になっています。

連続していませんが、上で紹介した3枚の写真を並べてみました。




昭和初期の工芸


昭和初期の京都の工芸界の大きな動きの一つは、明治40年(1907)に創設された最初の官展、文展(文部省美術展覧会)が大正8年(1919)に帝展(帝国美術院展覧会)に移行した後、昭和になって工芸部門が新たに設けられたこと。
京都からも陶芸をはじめ多くの作品が出品されました。

そしてもう一つの動きは、河井寛次郎らが進めた、民衆の日用品の中に美があるとする「民藝運動」。
明治から大正期までの工芸作品と同じく、昭和初期の工芸も横に長い展示ケースに逸品がずらりと展示されています。


第2部展示風景




第3部 戦後から現代へ:未来への挑戦



日本画


日本画のコーナーは、戦後、「日本画滅亡論」まで出てくる危機的な状況の中、新たな境地を切り開いた画家たちの作品が展示されています。

はじめに、福田平八郎堂本印象徳岡神泉ら、戦前から活躍した画家たち。
福田平八郎《新雪》(大分県立美術館 前期展示)、徳岡神泉《雨》(静岡県立美術館 通期展示)のように対象の抽象化が進んでいるのが特徴です。

第3部展示風景

そして、寺院の障壁画、ヨーロッパの風景画と大きく画風を変えて見る人を驚かせた堂本印象の抽象画の《交響》(京都府立堂本印象美術館 通期展示)も。

第3部展示風景



続いて、三上誠山崎隆ら京都の若手日本画家が日本画の可能性を求めて結成した「パンリアル美術協会」の画家たちの作品群。
大野俶嵩は、従来の岩絵具の殻を破り、麻袋用の布を使った作品《コラージュ No.21(コンポジション)》(京都市美術館 通期展示)を制作しています。

第3部展示風景



洋画・彫刻・版画


西洋絵画のコーナーで私たちを迎えてくれるのは、第2部でも紹介したシュルレアリスムの北脇昇が戦後に描いた《クォ・ヴァディス》(東京国立近代美術館 通期展示)。

荷物の入った袋を肩に立つ後ろ姿の男性。
「どこへ行くのか?」という作品のタイトルどおり、左右に分かれる標識を前に、大勢の人が向かっている青空の方に行こうか、誰も向かっていない嵐の方向に向かっていこうか迷っている様子。
昭和24年に描かれたこの作品は、戦後の混乱期に日本がどこに向かっていくのか、さまよっている姿を映し出しているようです。

第3部展示風景

戦前からの巨匠、梅原龍三郎安井曾太郎須田国太郎も健在です。

第3部展示風景


工芸


広々とした工芸の展示コーナーに入ると、1970-80年代に新たに出てきた、立体的な繊維造形(ファイバーワーク)の作品群。
素材が繊維なのでぬくもりを感じさせてくれます。

第3部展示風景


現代美術


最後は、1980年代以降の現代美術の作品が壁面や床、さらには壁の上の方まで展示されている展示室。


第3部展示風景


第3部展示風景

まるでタイムマシンに乗ったかのような、江戸後期から巡ってきた京都美術250年の旅もここまでですが、「この先に何があるのだろう」と、これからの京都美術の展開を期待させてくれる展示で終わります。

新たに出発した京都市京セラ美術館。
スタートとなった展覧会で、ぜひ京都の美術の夢をご覧ください!