2022年10月11日火曜日

三井記念美術館 特別展「大蒔絵展-漆と金の千年物語」

東京・日本橋の三井記念美術館では、 平安王朝から現代まで、漆と金銀で彩られた雅やかな蒔絵の美の世界が見られる特別展「大蒔絵展-漆と金の千年物語」が開催されています。

展覧会チラシ

今回の特別展は、静岡のMOA美術館、三井記念美術館、愛知の徳川美術館の3館共同で開催されるもので、3館が所蔵する国宝、重要文化財を含む名品に加え、東京国立博物館やサントリー美術館ほかの逸品も展示されるという、まさに蒔絵の名品が大集結した「大蒔絵展」の名にふさわしい豪華版の展覧会です。

さらに、蒔絵の作品が年代順に並べられるだけでなく、関連する書跡、経典、屏風なども展示され、蒔絵が作られた時代の雰囲気も感じ取ることができる展示になっているのです。

それはさっそく展示室内の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 期  2022年10月1日(土)~11月13日(日)
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
     ※会期中、展示替えを行います。
休館日  10月24日(月)のみ
観覧料  一般 1,300円 大学・高校生 800円 中学生以下 無料
展覧会の詳細、各種割引等は展覧会公式サイトをご覧ください⇒大蒔絵展-漆と金の千年物語

巡回展情報

静岡会場 2022年4月1日(金)~5月8日(日)  MOA美術館  終了しました。
愛知会場 2023年4月15日(土)~5月28日(日) 徳川美術館
     

※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は内覧会で美術館の特別の許可をいただいて撮影したものです。

美術館ロビーのこのケース内の作品は撮影可です。
今回は特別展に合わせて蒔絵道具が展示されています。



展示構成
 第1章 源氏物語絵巻と王朝の美
 第2章 神々と仏の荘厳
 第3章 鎌倉の手箱
 第4章 東山文化-蒔絵と文学意匠
 第5章 桃山期の蒔絵-黄金と南蛮
 第6章 江戸蒔絵の諸相 
 第7章 近代の蒔絵-伝統様式
 第8章 現代の蒔絵-人間国宝

※解説パネルにQRコードがある作品は、スマホなどでQRコードを読み取ると展示では見えない作品の内部などを見ることができます。
今回の新しい取組みですので、ぜひトライしてみてください!




国宝、重要文化財の蒔絵の逸品が大集合! 

重厚な洋風建築の内装に囲まれて個別展示ケースが置かれているこのゴージャスな雰囲気の展示室1には、国宝や重要文化財をはじめとした平安から鎌倉、南北朝時代までの逸品が展示されています。

展示室1展示風景


中でも注目は、現存最古の絵巻、国宝「源氏物語絵巻」(徳川美術館)。
「源氏物語絵巻」は大規模修理後初めて「大蒔絵展」で公開されるもので、三井記念美術館が今回のリニューアルでLED照明に全面改修されたのと相まって、絵の中の調度品に描かれた「画中画」ならぬ「画中蒔絵」もくっきり見ることができるので、ぜひ近くでじっくりご覧いただきたいです(もしお持ちでしたら単眼鏡ご持参で)。

 国宝 源氏物語絵巻 宿木一(絵) 平安時代・12世紀 
徳川美術館 (10/1~9展示)

※国宝「源氏物語絵巻」(徳川美術館蔵)は期間限定展示です。

   国宝「源氏物語絵巻 宿木一」 10/1-9
   国宝「源氏物語絵巻 柏木一」 10/25-30
   
 上記以外の期間は、日本画家・田中親美の模本が展示されます。
 「源氏物語絵巻」の昭和10年当時の状態を現状模写したもので、本物と見間違えるくらい
 の素晴らしい出来の作品です。
 
 田中親美「源氏物語絵巻(模本)」上巻・下巻(徳川美術館蔵)
   下巻 10/10-23 上巻 10/31-11/13

空海が開いた高野山金剛峰寺が所蔵する国宝「澤千鳥螺鈿蒔絵小唐櫃」には、燕子花(かきつばた)や沢瀉(おもだか)が咲く水辺に無数の千鳥が舞っていて、極楽浄土を思わせる幻想的な世界が描かれています。
貴重な国宝ですが、ありがたいことに通期展示です!

国宝 澤千鳥螺鈿蒔絵小唐櫃 平安時代・12世紀 高野山金剛峯寺 
画像提供:高野山霊宝館

後期(10/25-11/13)には同じく高野山金剛峰寺が所蔵する重要文化財「花蝶蒔絵念珠箱」も展示されるので楽しみです。


時代とともに向上する蒔絵の技法

毎回メインの一品が展示される展示室2には、和歌山の熊野速玉大社所蔵の国宝「桐蒔絵手箱」(南北朝時代・14世紀)が展示されています。10月30日までの展示です。

展示室2展示風景 
国宝「桐蒔絵手箱」南北朝時代・14世紀 熊野速玉大社
展示期間:10/1-30

シックな照明やカーテンを背景に、金粉を一面に蒔いた手箱が燦然と輝いています。
鎌倉時代に蒔絵粉を造る技術が向上して、丸くてきれいな「丸粉」を造れることができたので、一層鮮やかな輝きを放つようになったのです。

この手箱に収められていた内容品は手前の展示室1に展示されているのであわせてご覧ください。

蒔絵と螺鈿のコラボが見事な鎌倉時代の逸品、国宝「浮線綾螺鈿蒔絵手箱」は後期に展示されます。

国宝 浮線綾螺鈿蒔絵手箱 鎌倉時代・13世紀 サントリー美術館 
(10/25~11/13展示)

展示室4に移ります。

展示室4展示風景

室町時代の蒔絵は、和歌や能を題材にした意匠が多く見られるのが特徴です。


重要文化財 砧蒔絵硯箱 室町時代・15世紀 
東京国立博物館 Image: TNM Image Archives (10/1~30展示)

銀を嵌め込んだ満月に照らされる秋草と枕。
そして、枕に描かれているのは、悪い夢を食べるとされている獏(ばく)。
獏は髙蒔絵という、レリーフのように盛り上げた技法で表現されています。

秋草や岩には文字が隠され、蓋の裏側には砧を打つ人物が描かれていて、この図柄や歌文字から『千載和歌集』の俊盛法師の歌があらわされています。
展示では蓋の下に鏡があるので、蓋の図柄も見ることができます。

展示室4「第4章 東山文化-蒔絵と文学意匠」展示風景
右が重要文化財「砧蒔絵硯箱」


桃山時代には、戦乱後の復興建設ラッシュで室内の調度品の需要も大きく増え、研出蒔絵のように乾燥に時間がかかるものでなく、黒漆の表面に金粉を蒔く平蒔絵など、時間のかからない技法で蒔絵の作品が大量生産されました。

「高台寺蒔絵」といわれ、秋草などの大ぶりの柄が特徴で、表にも側面にもあちこちに蒔絵が描かれるものが流行しました。

重要文化財 秋草蒔絵歌書簞笥 桃山時代・16世紀 高台寺
 (10/1~23展示)


京都における豊臣秀吉の居城・聚楽第を描いた「聚楽第図屏風」(三井記念美術館 通期展示)も展示されているので、聚楽第の中でも蒔絵の調度品が多く使われていたのではと想像しながら桃山時代の新しい息吹を感じることができました。

展示室4「第5章 桃山期の蒔絵-黄金と南蛮」展示風景

桃山時代のもう一つの特徴は、西洋から来日したキリスト教宣教師や商人に人気を博した、華やかな図柄の蒔絵が全体に描かれた祭礼具や家具で、「南蛮漆器」と呼ばれ多くが海外に輸出されました。

こちらも「南蛮人渡来図屏風(左隻)」(MOA美術館 通期展示)が並んで展示されているので、西洋と東洋の文化が邂逅する様子が伝わってくるようでした。

展示室4「第5章 桃山期の蒔絵-黄金と南蛮」展示風景

順番が前後しましたが、国宝の茶室「如庵」を再現した展示室3は、いつもの侘び寂びの世界とは様相が異なり、室町時代の蒔絵とコラボした華やかな能のしつらえ。

展示室3展示風景

二代将軍・徳川秀忠の娘・和子が後水尾天皇のもとに女御として入内(じゅだい)した時の行列が描かれた重要文化財「東福門院入内図屏風(左隻)」(三井記念美術館 通期展示 上の写真後方)も展示されているので、展示室4に展示されている江戸時代の御用蒔絵師・幸阿弥長重の婚礼調度の作品(下の写真)とあわせて華やかな雰囲気を感じとることができます。

展示室4「第6章 江戸蒔絵の諸相」展示風景


続いて、琳派や江戸の名工たちの世界が広がる展示室5へ。

展示室5「第6章 江戸蒔絵の諸相」展示風景

東京国立博物館でも人気の尾形光琳作・国宝「八橋蒔絵螺鈿硯箱」は前期(10/1-23)展示です。

国宝 八橋図蒔絵螺鈿硯箱 尾形光琳作 江戸時代・17~18世紀
 東京国立博物館(10/1~23展示)

加賀・前田家の御用蒔絵師、五十嵐道甫作と伝わる江戸時代初期の名品、重要文化財「秋野蒔絵硯箱」も前期展示(10/1-23)です。

三日月に照らされる秋の草花を、金髙蒔絵、金銀の切金、螺鈿、珊瑚などを用いて描いた豪華な硯箱。
展示室では蓋の下に鏡を置いて展示されているので、蓋の裏に描かれた山水図も見ることができます。


 重要文化財 秋野蒔絵硯箱 伝 五十嵐道甫作 江戸時代・17世紀
 (10/1~23展示)



人々の暮らしに広まる蒔絵の文化

18世紀以降には、高価だった蒔絵も印籠、櫛や簪(かんざし)、盃などの庶民の日々の暮らしに使う小品にも広まってきました。

浮世絵と並んで印籠や櫛などが展示されているのは展示室6。
浮世絵の女性は、髪に蒔絵で図柄が描かれた櫛をさしています。

この展示室6は、作品との距離が近く、印籠などに細かく描かれた図柄もよく見ることができるので、いつもありがたく思っています。

展示室6「第6章 江戸蒔絵の諸相」展示風景

江戸時代後期に流行したのが、蒔絵師・原羊遊斎と酒井抱一のコラボ作品。
酒井抱一の掛軸(「藤蓮楓図」MOA美術館 通期展示)が、今でいう「人気ブランド」の箱や盃に色を添えています。

展示室7「第6章 江戸蒔絵の諸相」展示風景


近代から現代へ、脈々と生き続ける蒔絵の美の世界

明治に入ると、政府の殖産興業政策のもと、欧米への輸出用に蒔絵の制作が行われるようになり、帝室技芸員制度が美術工芸作家の保護と制作奨励を支えました。

展示室7「第7章 近代の蒔絵ー伝統様式」展示風景



幕末・明治期の漆の代表的な名工、柴田是真の作品も展示されています。

五節句蒔絵手箱 柴田是真作 江戸~明治時代・19世紀 サントリー美術館
 (10/1~23展示)


フィニッシュは、昭和30年代から平成にかけての蒔絵の作品。

展示室7「第8章 現代の蒔絵-人間国宝」展示風景

今回の展覧会での最新作はこちら。
中はオルゴールになっていて、展示室では蓋を開けた状態で展示されているので、中の構造まで見ることができます。

 蒔絵螺鈿丸筥「秋奏」 室瀬和美作 平成29年(2017) ポーラ伝統文化振興財団


ミュージアムショップも秋色一色!

巡回する3館全体の作品がオールカラーで紹介されていて、作品や蒔絵の技法などの丁寧な解説も収録されている『展覧会公式図録』や、蒔絵の図柄のマグネットなど展覧会オリジナルグッズも充実しています。
現代作家さんたちの蒔絵の作品も販売中!

ミュージアムショップ

展覧会は11月13日まで。展示替えもあります。
平安時代から現代まで脈々と続く日本の伝統の美の世界をぜひお楽しみください!

2022年10月3日月曜日

すみだ北斎美術館 企画展「北斎ブックワールド-知られざる板本の世界-」

すっかり暑さもやわらいで秋らしい日々が続くようになってきました。
秋といえば、芸術の秋、読書の秋。
そんな時期にぴったりの展覧会、企画展「北斎ブックワールド-知られざる板本の世界-」が東京墨田区のすみだ北斎美術館で開催されています。


3階ホワイエのフォトスポット

今回の企画展は、北斎や門人たちによって描かれた板本の魅力に迫る展覧会。

それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。

展覧会概要


会 期  2022年9月21日(水)~2022年11月27日(日)
 前期:9月21日~10月23日
 後期:10月25日~11月27日
開館時間 9:30~17:30(入館は17:00まで)
休館日  毎週月曜日
     ※開館:10月10日(月・祝)、休館:10月11日(火)
会 場  3階企画展示室
観覧料  一般 1,000円 高校生・大学生 700円 65歳以上 700円
     中学生 300円 障がい者 300円 小学生以下 無料
 ※観覧日当日に限り、AURORA(常設展示室)、常設展プラス「隅田川両岸景色図巻(複製
  画)と北斎漫画」もご覧になれます。
  常設展プラスには「隅田川両岸景色図巻(複製画)」が展示されていて、北斎の絵手本の
  レプリカを手に取って読むことができる<『北斎漫画』ほか立ち読みコーナー>もあり
  ます。

 ※展覧会の詳細、関連イベント、新型コロナウイルス感染症対策等は同館公式HPをご覧
  ください⇒すみだ北斎美術館

展示構成
 序章 板本の中の板本をよむ人々
 1章 板本の基礎知識
 2章 板本に関するトピックス
 3章 所蔵者・読者の痕跡
 4章 板本の優品

※3階の企画展展示室、4階の常設展プラス展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は内覧会で美術館より特別に許可をいただいて撮影したものです。
※3階ホワイエのフォトスポット、高精細複製画は撮影可。4階AURORA(常設展示室)内は一部を除き撮影可です(いずれもフラッシュ、三脚(一脚)の使用は不可。)

3階ホワイエの高精細複製画(撮影可です)




序章 板本の中の板本をよむ人々

冒頭に展示されているのは『北斎漫画』八編。

左のページ中段には、座って熱心に板本を読んでいる男女の姿が見えます。
江戸時代の日本は世界的に見ても識字率が高かったと言われていますが、本を読むことはタバコを吸ってくつろいだり、昼寝をしたりするのと同じくらい日常的な光景だったのかもしれません。

『北斎漫画』八編(すみだ北斎美術館蔵)
通期展示


1章 板本の基礎知識

この章では、巻子本(かんすぼん)、折本(おりほん)、袋綴(ふくろとじ)といった本の装訂の変遷や、紙の質、板本の各部の名称などが紹介されています。

「1章 板本の基礎知識」展示風景


江戸時代にも再生紙を利用していたり、原稿用紙のように紙の中央の折り目部分にある三角形の印は「魚尾(ぎょび)」というなど、初めて知るようなことばかり。
丁寧な解説を読みながら、板本の知識を楽しく知ることができました。

右から、葛飾北斎『名誉美談 青砥藤綱仁政録』前帙一(すみだ北斎美術館蔵)、
葛飾北斎『青砥藤綱摸稜庵』巻之一(個人蔵) 以上は通期展示
市川甘斎『葛飾真草画譜』下(すみだ北斎美術館蔵) 頁を替えて通期展示


2章 板本に関するトピックス

板本の基礎知識に続いて、この章では北斎や門人たちが板本のために工夫した絵画表現や初摺と後摺の比較などが紹介されています。


描かれた化物が匡郭(きょうかく=本文を囲む枠)をはみ出していたり、上部の匡郭を無くして奥行きを表現したり、匡郭を絵の一部に組み込んだり、ドラマチックな展開の物語の挿絵はこうでなくっちゃ、という迫力いっぱいの表現はこちら。

左から、蹄斎北馬『千代曩媛七変化物語』巻之五、葛飾北岱『忠兵衛梅川赤縄
奇縁伝 古之花双紙』、蹄斎北馬『田村物語』巻之弐
いずれもすみだ北斎美術館蔵、通期展示

次のページをめくると何が飛び出してくるのかと、当時の読者のわくわくしながら読んでいた気持ちが伝わってくるようです。


ページをめくりながら隅田川の両岸のカラフルな景色が楽しめるのは葛飾北斎『絵本隅田川 両岸一覧』上。
同じ上巻を3冊並べて見開き3ページ分の図柄が見られるように展示されています。

葛飾北斎『絵本隅田川 両岸一覧』上(すみだ北斎美術館蔵)
頁を替えて通期展示


下の写真右が狂歌本『東遊』、左が『東遊』の北斎の挿絵のみを集めて色摺りにして出版された3冊本『画本東都遊』のうち下巻。

挿絵とは本文に付随するものなのですが、挿絵だけが集めてられて一冊の本になってしまうというのは、さすが北斎!
(私もどちらか一つを買うとなると、挿絵だけのカラーの方がほしいです。)

右から 葛飾北斎『東遊』、『画本東都遊』下
どちらもすみだ北斎美術館蔵
 頁を替えて通期展示

今ではあってはならないことなのですが、著作権という考えがなかった当時は、人の作品を盗用しようが何しようが売れればいいという時代。

下の写真は、右が本物、左が図柄を盗用したもの。
こういうものが出回るというのは、やはりそれだけ北斎の人気がすごかったということなのでしょう。

右から、葛飾北斎『北斎漫画』八編、絵師不詳『絵合たのしみ草』
どちらもすみだ北斎美術館蔵、通期展示


3章 所蔵者・読者の痕跡

この章では、所蔵者や読者による書き込みなどの痕跡が紹介されています。


「3章 所蔵者・読者の痕跡」展示風景

所蔵者が所蔵印を押したり、コメントを書き込むのはわかりますが、貸本屋が所蔵していたものには、読者によって悪役の顔が擦り潰されていたり、作品の批評が書き込まれていたりするものや、「落書きしないように」という貸本屋の注意書きが書かれているものもありました。

図書館で本を借りる側としては、落書きなんてとんでもないと思い、貸本屋さんを応援したくなりますが、江戸時代にも今と同じような貸す側と借りる側の攻防があったのですね。


4章 板本の優品

この章では、褪色が少なく鮮明な色のまま伝えらえた多色摺の本や、初公開の希少本などが紹介されています。

「4章 板本の優品」展示風景

中でも特に必見なのが、魚屋北溪の『三都廼友会』(前期展示)と『得吉方廼瀧』(後期展示)。

こちらは展覧会オリジナルリーフレットの画像。
上が前期展示の『三都廼友会』、下が後期展示の『得吉方廼瀧』(どちらもすみだ北斎美術館蔵)。

『三都廼友会』の月が照らす波の表現に銀摺が用いられていて、『得吉方廼瀧』の空の雲は金摺、川の波は銀摺で表現されているという超豪華版。



他にも板本に関する用語の解説や、初摺や後摺の違いなどをオールカラーで紹介したオリジナルリーフレットは1階ミュージアムショップで販売中(税込300円)。
下の写真右の青い表紙が目印です。

ミュージアムショップ

ミュージアムショップでは、今回の企画展に合わせて『北斎漫画』ほかの豆本を販売中。
豆本は小さいながらも細部まで精巧に再現されていますので、見本のページをめくってご覧ください。手前には虫メガネも用意されています。

ミュージアムショップ


北斎の時代にタイムスリップした気分で板本の世界が楽しめる展覧会です。
ぜひお楽しみください!

2022年9月27日火曜日

サントリー美術館 「美をつくし-大阪市立美術館コレクション」

東京・六本木の東京ミッドタウンにあるサントリー美術館では「美をつくしー大阪市立美術館コレクション」が開催されています。

今回の展覧会のキャッチコピーは、年代もジャンルも多彩なコレクションを所蔵する大阪市立美術館から選りすぐりの逸品が展示される「なにわのアートコレクション、紀元前から近代まで東京大集合」。略して「なにコレ」。

どれだけ多彩かというと、展覧会チラシを見ればよく分かります。
なにしろ、メインビジュアルとなる作品が一つや二つでなく、こんなにたくさん。

展覧会チラシ


仏教美術、中国の青銅器・絵画、金屏風の日本画、美人画、工芸、そして大阪の発展の基礎を築いた豊臣秀吉。時代も分野も異なる作品が一堂に会する、「あれもこれも」あって、「何これ?」と驚きながら楽しめる展覧会なのです。

そして、同館がこれだけ多様なコレクションを所蔵することになったのは、関西財界人からの寄贈や近隣古寺社からの寄託によるところが大きいとのことですが、まさに地元に根付いた美術館ということが感じられる展示内容でもありました。

それではさっそく展示室内の様子をご紹介したいと思います。

※展示室内は一部の作品を除き撮影禁止です。掲載した写真は美術館より特別に許可をいただいて撮影したものです。

展覧会概要

展覧会名  美をつくし-大阪市立美術館コレクション
会 期   2022年9月14日(水)~11月13日(日)
      ※会期中展示替があります。
開館時間  10:00~18:00(金、土は10:00~20:00)
      10月9日(日)、11月2日(水)は20時まで開館
      ※いずれも入館は閉館の30分前まで
休館日   火曜日
      ※11月8日は18時まで開館
入館料   一般 1,500円 大学・高校生 1,000円
      ※中学生以下無料
      ※障害者手帳をお持ちの方は、ご本人と介護の方1名様のみ無料

※展覧会の詳細、各種割引等は、同館公式サイトをご覧ください⇒サントリー美術館
※出品作品はすべて大阪市立美術館の所蔵です。

展示構成(サントリー美術館での展示順)
 祈りのかたち 仏教美術
 日本美術の精華 魅惑の中近世美術
 はじまりは「唐犬」から コレクションを彩る近代美術
 世界に誇るコレクション 珠玉の中国美術
 江戸の粋 世界が注目する近世工芸

巡回展情報
 福島展 会期 2023年3月21日(火・祝)~5月21日(日)
     会場 福島県立美術館
 熊本展 会期 2023年9月16日(土)~11月12日(日)
     会場 熊本県立美術館


祈りのかたち 仏教美術

4階の第1展示室に入ると、仏像、仏具、経典などの仏教美術が展示される落ち着いた雰囲気の空間が見えてきます。

「祈りのかたち 仏教美術」展示風景


この章で紹介されているのは、大阪で弁護士・政治家として活躍した田万清臣氏と、妻・明子氏が収集した仏教美術コレクションの逸品の数々。

こちらは、田万夫妻が自宅に祀っていたと伝えられる優雅なお姿の仏様、重要美術品「木造 観音菩薩立像」。
目の前に立つと、ご夫妻の信仰心の篤さが伝わってくるようです。


重要美術品 木造 観音菩薩立像
平安時代・12世紀
通期展示

お釈迦様が生まれてすぐに右手で天を、左手で地をさして「天上天下唯我独尊」と唱えたという姿をかたどった誕生仏は撮影可。
丸みを帯びたふくよかなお顔から、白鳳文化の息吹が伝わってくるように感じられました。

銅造 誕生仏立像
白鳳時代・7~8世紀
通期展示

撮影可の作品のマークは下の写真左。
そして、解説パネルの右、黄色い帯が目印の「サン美学芸員のなにコレポイント」にも注目です。
学芸員さんの作品に対する思い、親しみが伝わってきます。




日本美術の精華 魅惑の中近世美術

続いて、狩野派、長谷川等伯、尾形光琳といった桃山時代から江戸時代にかけて人気の絵師たちを中心とした作品が展示される中近世美術のエリアに移ります。


「日本美術の精華 魅惑の中近世美術」展示風景

ここでの注目は、下絵、画稿、書状などの尾形光琳関係資料。
会期中に展示替があって、全部で9点の作品が展示されます。

重要文化財 尾形光琳 鶴虎図下絵
江戸時代・17~18世紀
展示期間:9/14-10/3

尾形光琳の子・寿市郎が養子入りした小西家に200年来伝わってきた資料は、昭和に入ってしばらく所在不明となり、その後、大阪市立美術館と京都国立博物館に分蔵されることになったといういきさつがありました。
散逸したり所在不明のままでしたら、このようにまとまって見ることができなかった貴重な資料です。

この「鶴虎図下絵」には、京都国立博物館の公式キャラクター「トラりん」のモデルとなった光琳の「虎図」(京都国立近代美術館蔵)を左右反転したような虎が描かれています。


気持ちよさそうに眠る毛並みのきれいな子猫が描かれた作品は撮影可。
作者は「原派」の祖、原在中の長男・在正。
毛のふさふさした感じの描写をじっくりご覧いただきたいです。

猫図 原在正/四辻公説賛
江戸時代・18~19世紀
展示期間:9/14-10/17


はじまりは「唐犬」から コレクションを彩る近代美術

3階に降りてすぐの第2展示室には、近代日本画の名品が展示されています。

右から 北野恒富「星」昭和14年(1939)、上村松園「晩秋」昭和18年(1943)、
橋本関雪「唐犬」昭和11年(1936)
いずれも通期展示

橋本関雪「唐犬」は、昭和11年(1936)の落成記念に開催された帝展出品作を買い上げたもので、大阪市立美術館の記念すべきコレクション第1号でした。

この「唐犬」は縦164cm、横366cmもの大きな二曲一隻の屏風で、展示ケースに入れてからでは開けないので、開いた状態でケースに入れるという難しい展示作業を行ったとのことです。
展示作業の様子は9月12日付のサントリー美術館公式ツィッターで紹介していますので、こちらもぜひご覧ください⇒サントリー美術館公式ツィッター

北野恒富「星」と上村松園「晩秋」は撮影可です。


世界に誇るコレクション 珠玉の中国美術

第3展示室に移ります。

中国美術の一つの柱は、関西実業界の重鎮として活躍した山口謙四郎氏が収集した石造彫刻、青銅器、陶磁器などの「山口コレクション」。

「世界に誇るコレクション 珠玉の中国美術」展示風景

撮影可の作品は「青銅鍍金銀 仙人」。

青銅鍍金銀 仙人
後漢時代・1~2世紀
通期展示

高さ10cmほどの小さな像ですが、およそ2000年ほど前に作られた不老不死を得た仙人の姿なのです。
この作品は撮影可ですので、不老不死とは言わないにしても、写真に撮って長寿を願ってみてはいかがでしょうか。


中国美術のもう一つの柱は大阪の実業家、阿部房次郎氏が収集した中国書画。
私が初めて大阪市立美術館に行ったのは、4年前に開催された「阿部房次郎と中国書画」展の時。
中国書画ファンの私としては見逃せない展示でしたので、前期後期とも大阪に行って見てきました。
今回は阿部コレクションの名品が東京まで来てくれるのですから、こんなにうれしいことはありません。

「世界に誇るコレクション 珠玉の中国美術」展示風景


江戸の粋 世界が注目する近世工芸

最後を飾るのは、大阪で貿易商として活躍したウーゴ・アルフォンス・カザール氏が収集した漆工品や根付、印籠など江戸時代から明治時代にかけての工芸品のコレクション。

下の写真の黒い線から先の根付は撮影可です。

「江戸の粋 世界が注目する近世工芸」展示風景

動物や人物などが彫られた根付や、能楽などの面をかたどった根付など、小さくても一つひとつが精巧に作られているので、ここは時間をかけてじっくり楽しみたいミニチュアワールド。

全部で37点の根付の中からお気に入りの一品を探してみてはいかがでしょうか。

私のお気に入りは、どれも大きさは4cmほどの面根付。
中でも一番は、怖そうでもユーモラスな鬼の面でした。

面根付 鬼 銘「舟月作」
江戸~明治時代・18~19世紀
通期展示

大阪市立美術館では、今回のように異なったジャンルの作品が揃って展示されることはあまりないとのことです。
今回の巡回展ならではの多彩なコレクションをぜひお楽しみください!