東京丸の内の三菱一号館美術館では、「三菱創業150周年記念 三菱の至宝展」が開催されています。
洋風建築の外観と内装から、西洋絵画展のイメージがぴったりの三菱一号館美術館ですが、今回は、三菱ゆかりの静嘉堂、東洋文庫の国宝12点を含む秘蔵コレクションから、茶道具、刀剣、絵画、仏像、古典籍、陶磁器と、主に日本や東洋文化のさまざまなジャンルからよりすぐりの名品が競演する、まさに「三菱の至宝」が大集結した豪華な内容の展覧会なのです。
先日開催された内覧会に参加しましたので、さっそく展覧会の様子をご紹介したいと思います。
展覧会概要
会 場 三菱一号館美術館(東京都千代田区丸の内2-6-2)
展覧会名 三菱創業150周年記念 三菱の至宝展
会 期 2021年6月30日(水)~9月12日(日)
前 期 8月9日(月・振休)まで、後期 8月11日(水)から
前後期で展示替えがあり
開催時間 10:00~18:00 ※入館は閉館の30分前まで
夜間開館日 当面の間、夜間開館は20:00まで
※夜間開館日は下記の美術館公式サイトでご確認ください。
休館日 月曜日、展示替えの8月10日(火)
※ただし、祝・振休の場合、7月26日、8月30日、9月6日は開館。
入館料・当日券 一般 1,900円ほか
※本展覧会は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、各時間の入場人数に上限を設けています。日時指定券お持ちの方は、優先的に入場できます。
※展覧会の詳細、新型コロナウイルス感染拡大防止策、チケットの日時指定予約、夜間開館日等については、美術館公式サイトでご確認ください⇒三菱一号館美術館
展示構成は、三菱の前身「九十九商会」を設立した三菱の創業者で初代社長、岩崎彌太郎氏、第二代社長 彌之助氏、第三代社長 久彌氏、第四代社長 小彌太氏の肖像にはじまって、歴代社長が収集したコレクションごとの順番になっています。
第1章 三菱の創業と発展ー岩崎家4代の肖像
第2章 彌之助ー静嘉堂の創設
第3章 久彌ー古典籍愛好から学術貢献へ
第4章 小彌太ー静嘉堂の拡充
※展示室内は、フォトスポットを除き撮影不可です。掲載した写真は、美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。
フォトスポットにある謎の円形のパネル。
フラッシュをたいて撮影すると何かが写ります。ぜひお試しを!
見事な輝きを放つ国宝「曜変天目(稲葉天目)」
展示の順番どおりではありませんが、まず初めにご紹介したいのは、やはり展覧会チラシの表紙を飾るこの名品。
国宝《曜変天目(稲葉天目)》(静嘉堂蔵 通期展示)です。
第4章展示風景 |
世界中に三碗しかなく、その三碗とも日本にあって国宝という貴重な曜変天目が見事な輝きを放っています(他の二碗は、京都・大徳寺龍光院、大阪・藤田美術館が所蔵。)。
洋風建築の大小の部屋に区切られた展示室のメリットを活かして、個室にただ一点だけ展示されていました。これ以上ないという贅沢な空間です。
続いて第1章から順番に、見どころを紹介したいと思います。
第1章 三菱の創業と発展ー岩崎家4代の肖像
最初の展示室には、三菱の創業者、岩崎彌太郎氏の座像と彌太郎氏の書。
そして、手前の茶入は《唐物茄子茶入 付藻茄子》(静嘉堂蔵 前期展示)。
とても小さな《付藻茄子》ですが、戦国時代には戦国大名の領土一国に相当するほどの価値のあったものなのです。
もとは足利義満の所蔵でしたが、戦国武将・松永久秀が、畿内を平定した織田信長に《付藻茄子》を献上して、自分の領国・大和国が安堵されたというエピソードがあります。
松永久秀といえば、その後、信長に反旗を翻して、信貴山城に立てこもった時、信長が「平蜘蛛の茶釜を渡せば命だけは助けてやろう。」と言ったのに対して、「信長に渡すくらいなら死んだ方がましだ!」と平蜘蛛を叩き割って自害したという逸話が残されています。
戦国大名にとって、茶器は命より大事なものでした。
《付藻茄子》は、その後、秀吉の手に渡り、大坂夏の陣で大破したのですが、家康の命によって探し出され、漆によって修復されたという、まさに激動の時代を生き抜いた名品なのです。
第2章 彌之助ー静嘉堂の創設
三菱一号館美術館の内装の中でも特に雰囲気がいいのが、暖炉を再現した部屋。
西洋絵画だけでなく、山水を描いた中国絵画も意外としっくりと合います。
東洋美術愛好の西洋人のお屋敷はこういう感じだったのでは、と勝手に想像してしまいました。
第2章展示風景 |
中国絵画ファンの私としては、どの作品が展示されるか気になっていたところですが、前期は、夏珪とともに南宋画院の代表的な画家で、日本の水墨画に大きな影響を与えた馬遠の作と伝わる国宝《風雨山水図》(下の写真左 静嘉堂蔵 前期展示)と、明末四大家の一人として知られた書家で、画家としても江戸時代の文人画家・田能村竹田ほかに影響を与えた張瑞図の重要文化財《松山図》(下の写真右 静嘉堂蔵 前期展示)が展示されていました。
続いて、一番広い展示室に展示されているのは、大きな屏風と十二神将。
この広々とした空間のとり方が絶妙です。
第2章展示風景 |
そして、展示されている作品も名品ばかり。
手前の個別ケースに入っているのは、慶派の重要文化財《木造十二神将立像》(静嘉堂蔵)のうち「寅神像」「午神像」「亥神像」(前期展示。後期には「丑神像」「卯神像」「酉神像」が展示されます。)
どれも特徴のあるお顔をしていて、ユニークな表情をしている像もあるので、ぜひじっくりご覧ください。
この《木造十二神将立像》は、京都・浄瑠璃寺旧蔵と伝えられ、上記の6躯と「子神像」の7躯を静嘉堂、「辰神像」「巳神像」「未神像」「申神像」「戌神像」の5躯を東京国立博物館が所蔵しています。
2017年に東京国立博物館で開催された運慶展で12躯が勢ぞろいした時のことを思い出しました。
奥の右の屏風が、俵屋宗達の国宝《源氏物語関屋澪標図屏風》(静嘉堂蔵)のうちの「澪標図」(前期展示)、後期には「関屋図」が展示されます。
左の屏風は、狩野芳崖と並んで明治の近代日本画の二大巨頭の一人、橋本雅邦の重要文化財《龍虎図屏風》(静嘉堂蔵 前期展示)。
明治28(1895)年に開催された第四回内国勧業博覧会に、岩崎彌之助氏の支援によって出品された作品で、当時、左隻の虎は「腰抜けの虎」と酷評されましたが、けっしてそんなことはありません。
近くで見ると、激しく降る雨や竹がしなるほどの強い風の中、堂々と龍を迎え撃つ虎の姿に圧倒されます。
第3章 久彌ー古典籍愛好から学術貢献へ
第3章には、久彌氏が創設した東洋文庫から東西の古典籍が出展されています。
東洋文庫といえば、やはりこの景色。
モリソン文庫の書棚が壁一面のパネルで再現されています。
第4章 小彌太ー静嘉堂の拡充
国際色豊かな空間を体験して、次の展示室に入ろうとすると、何とそこには襖が!
まるで知人の和室におじゃまするような感覚になります。
中に入ると、そこには茶室の床の間のしつらえ。
それも、豊臣秀吉が京都・北野天満宮で開催した「北野大茶湯」(1587年)を350年ぶりに再現した「昭和北野大茶湯」(1936年)のうち、小彌太氏が任された一席を再現したものなのです。
第4章展示風景 |
掛軸は、中国臨済宗の僧、無準師範《禅院牌字断簡「湯」》(東京国立博物館蔵 前期展示、後期には複製が展示されます。)、手前には龍泉窯《青磁鯱耳花入》(静嘉堂蔵 通期展示)が展示されています。
これは「昭和北野大茶湯」の時と同じ組み合わせなので、この掛軸と青磁は85年ぶりの再会なのかもしれません。
続いて、冒頭にご紹介した国宝《曜変天目(稲葉天目)》の展示室を通り、最後の展示室に入ると、そこは日本、朝鮮、中国陶磁器のカラフルな世界。
第4章展示風景 |
中でも多くを占めているのが、中国陶磁器。
唐時代の唐三彩にはじまって、北宋の磁州窯の枕、南宋や明時代の青磁、明時代や清時代の景徳鎮の色鮮やかな磁器が展示されているので、この部屋だけで中国陶磁器の時代別の変遷を見ることができるのです。
東京2020の延期によって、昨年開催される予定が今年夏に変更になりましたが、1年越しでようやく三菱の至宝にめぐり会うことができました。
前後期で展示替えがあるので、後期展示も楽しみです。
みなさんも前期後期ともお越しいただいて、洋風建築の贅沢な空間でぜひ東洋の美をお楽しみください。