東京日本橋の三井記念美術館では、三井記念美術館コレクション名品展「自然が彩る かたちとこころー絵画・茶道具・調度品・能装束などー」が開催されています。
今回は、日本をはじめ東洋の名品を所蔵する三井記念美術館のコレクションの中から、絵画、茶道具、調度品、能装束など、さまざまなジャンルの選りすぐりの逸品が展示されている、盛りだくさんの内容の展覧会。
先日開催されたプレス内覧会に参加しましたので、さっそく会場内の様子をご紹介したいと思います。
展覧会概要
会 期 2021年7月10日(土)~8月22日(日)
開館時間 午前11時~午後4時(入館は午後3時30分まで)
休館日 月曜日(但し8月9日は開館)
入館料 一般 1300円ほか
※本展は予約なしでご入館いただけます。
※新型コロナウイルス感染拡大状況ならびに緊急事態宣言の状況等で、本展の開催時期・開館時間等について変更・中止の可能性があります。
展覧会の詳細、新型コロナウイルス感染症感染防止策等については、同館公式サイトをご覧ください⇒三井記念美術館
主な展示作品は以前に紹介しているので、今回は会場内の様子や紹介しきれなかった作品を中心にご紹介したいと思います。前回の記事はこちらです。
※会場内は撮影禁止です。掲載した写真は、内覧会で美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。
自然が彩るさまざまなかたちやこころ
三井記念美術館で特に好きなのがこの空間。
廊下のように長い展示スペースに、個別ケースに入った逸品がずらりと並ぶ「展示室1」です。
「展示室1」展示風景 |
「展示室1」に展示されているのは、日本、中国、朝鮮の茶道具。
今回は、「自然」をキーワードとした9つのテーマにもとづいて作品が展示されているので、一つひとつの作品がどれにあてはまるのか、解き明かしながら見ていく楽しみがあります。
【9つのテーマ】
①理想化された自然を表す
②自然をデフォルメして表す
③銘を通して自然を愛でる
④素材を活かして自然を表す
⑤実在する風景を表す
⑥文学(物語や詩歌)のなかの自然を表す
⑦自然物を造形化する
⑧掌のなかの自然
⑨自然を象徴するかたち
たとえば展示室1の最初の茶道具(下の写真手前)は《染付桃源僊居図水指》(江戸時代・19世紀)。
この作品のテーマは「①理想化された自然を表す」。
この水指に描かれた桃源郷は、桃の花に誘われて川を上った漁師がたどり着いたという、陶淵明の『桃花源記』に記されている理想郷。
漁師がもう一度行こうとしても、たどり着けなかったという理想郷なので、忘れないようにぜひこの景色をじっくりご覧ください。
続いて、選りすぐりの逸品が一品だけ展示される「展示室2」。
今回は重要文化財 本阿弥光悦作《黒楽茶碗 銘雨雲》(江戸時代・17世紀)が展示されています。
「展示室2」展示風景 |
この作品のテーマは、「③銘を通して自然を愛でる」。
茶碗の筋状になった黒い釉薬と暗褐色の素地がつくる景色がまるで黒い雲間から降りしきる雨筋の様に見えることからつけられた「銘 雨雲」。
茶碗につけられる銘はどれもオシャレです。
三井記念美術館の顔ともいえる、国宝《志野茶碗 銘卯花墻》(桃山時代・16~17世紀)は国宝の茶室「如庵」を再現した展示室3に展示されていました。
国宝の茶室に国宝の茶碗。「絵になる」とはまさにこのことではないでしょうか。
もちろんこの作品のテーマは、「③銘を通して自然を愛でる」です。
「展示室3」展示風景 |
もう一つの三井記念美術館の顔といえば、やはり国宝の円山応挙筆《雪松図屏風》(江戸時代・18世紀)(下の写真中央)。
展示室4には、大きな屏風をはじめとした絵画作品が展示されています。
「展示室4」展示風景 |
《雪松図屏風》の松の幹や葉に積もる雪の白さは、塗り残した地の紙の色なのですが、なぜか雪のふくらみが感じられることは前回の記事でもふれましたが、少し離れたところから見ると、雪の重みに耐える左右の松が浮かび上がり、その場にどっしりと存在するかのように見えることに気がつきました。
写生を重んじたため「画を望まば、我に乞うべし、絵図を求めんとならば、円山主水よかるべし。」と曽我蕭白が応挙を蔑んだと伝えられていますが、写生はあくまでも練習で、実際にはこのように堂々とした「画」を描くのが応挙なのだ、と納得させてくれる作品です。
なお、この作品のテーマは、「④素材を活かして自然を表す」。まさにその通りの作品です。
続いて展示室5は、工芸と絵画。
「展示室5」展示風景 |
この展示室には日本や中国の技巧を凝らした工芸品が展示されています。
ぜひ細部までご覧いただきたいです。
平成26(2014)年にこの三井記念美術館で開催された「明治の超絶技巧展」で注目された安藤緑山の《染象牙貝尽置物》、《染象牙果菜置物》(明治~昭和時代初期・20世紀)や、昆虫や海老の脚や胴体などが実物と同じように動く「自在」を製造した高瀬好山の《昆虫自在置物》、《伊勢海老自在置物》(明治~昭和時代初期・19~20世紀)も展示されています。
これらの作品のテーマは、「⑦自然物を造形化する」です。
下の写真手前が「自在」、壁にかかっている作品は、左から、円山応挙の写生、《昆虫・魚写生図》(江戸時代・明和6~8年(1769-71))、《水仙図》(江戸時代・天明3年(1783))です。
展示室6には、手のひらサイズの印籠や根付が展示されています。
背後に鏡が付いているので、どれも裏側の文様まで見ることができます。
これらの作品のテーマは、「⑧掌のなかの自然」です。
「展示室6」展示風景 |
展示室7には、絵画・能面・能装束が展示されています。
能面のテーマは、「⑨自然を象徴するかたち」。
今回展示されている能面は6面。
《大飛出》(重要文化財 伝赤鶴作 室町時代・14~16世紀)は雷神や蔵王権現の役に用いられる鬼神面、《黒髭》(重要文化財 伝赤鶴作 室町時代・14~16世紀)は竜神の面。どれも自然を司る神の面とは知りませんでした。
三井記念美術館は、今回の展覧会終了後から2022年4月下旬(予定)までリニューアル工事のため休館になるので、同館コレクションの名品はしばらくお目にかかることはできません。
そこでおススメなのが、休館中におうちでも三井家の至宝が楽しめる図録です。