2021年7月17日土曜日

開館55周年記念特別展「山種美術館所蔵 浮世絵・江戸絵画名品選ー写楽・北斎から琳派までー」

東京広尾の山種美術館では、開館55周年記念特別展「山種美術館所蔵 浮世絵・江戸絵画名品選ー写楽・北斎から琳派までー」が開催されています。

展覧会チラシ

近代日本画の豊富なコレクションの展覧会で私たちを楽しませてくれる山種美術館ですが、今回は浮世絵と江戸絵画。少し意外にも思えますが、実は浮世絵や江戸絵画も貴重なコレクションを所蔵しているのです。

それでは、先日開催された内覧会に参加しましたので、さっそく展覧会の様子をご紹介したいと思います。


展覧会概要


会 期 2021年7月3日(土)~8月29日(日)
 ※会期中展示替えあり
  前期 7/3-8/1 後期 8/3-8/29
開館時間 平日:午前10時から午後4時
     土・日・祝日:午前10時から午後5時
    (入館はいずれも閉館時間の30分前まで)
休館日 月曜日(但し、8/9(月)は開館、8/10(火)は休館)
入館料 一般 1300円ほか
夏の学割 大学生・高校生500円
     ※本展に限り、特別に入館料が通常1000円のところ半額になります。
チケット ご来館当日、美術館受付で通常通りご購入いただけます。
     また、入館日時が予約できるオンラインチケットもご購入可能です。
展覧会の詳細、新型コロナウイルス感染予防策、日時指定オンラインチケットの購入方法などは、美術館公式サイトでご確認ください⇒https://www.yamatane-museum.jp 

※展示室内は次の1点を除き撮影不可です。掲載した写真は、内覧会で美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。
※展示作品はすべて山種美術館蔵です。

今回撮影OKの作品は次の1点のみです。

椿椿山《久能山真景図》【重要文化財】
1837(天保8)年 全期間展示


第1章 山種コレクションの浮世絵


展示室に入って驚きました。
いつもなら近代日本画の掛軸が展示されている場所には、よく知られた浮世絵の名作がずらりと並んでいるのです。

展示室入口で私たちをお出迎えしてくれるのは、ご存じ葛飾北斎の《冨嶽三十六景 凱風快晴》。

葛飾北斎《冨嶽三十六景 凱風快晴》
1830(文政13)年頃 前期展示

説明をしなければ、これが山種美術館の展示室だとは信じてもらえないかもしれませんが、そこは日本画専門の美術館。ただ単に浮世絵コレクションが並んでいるだけではありません。

最初から順を追って見て行きましょう。
浮世絵は、最初からいくつもの色を使った多色摺りができたわけでなく、墨で摺ったあとに1枚ずつ筆で彩色した「紅絵」に始まり、2,3色を使った色刷りの「紅摺絵」、より多くの色を使った「錦絵」といった具合に、摺りの技術が発達していくのですが、その過程が作品と解説パネルでわかるような展示になっているのです。
(下の写真では左から右に見ていきます。)

第1章展示風景

雲母の粉を使ってキラキラ輝く効果を出す「雲英摺(きらずり)」をはじめとした、摺りの技術の解説もあります。

東洲斎写楽《八代目森田勘弥の駕籠舁鶯の次郎作》
1794(寛政6)年 前期展示



そして反対側には歌川広重《東海道五拾三次》のシリーズ。

「広重の《東海道五拾三次》なら何回も見たことある。」とおっしゃる方もいらっしゃるかもしれませんが、こちらの《東海道五拾三次》はちょっと違います。

第1章展示風景



こちらは、広重の東海道シリーズの中でも最も出来映えのよい「保永堂版」で、さらに、題字を記した扉があるので、もとは画帖仕立てのものがまとまって残った数少ない例で、後摺では省略された雲が摺られていたりなど、初摺の特徴を持つ図が多く含まれるものなのです。

そしてなにより、色合いがとても鮮やかです。

歌川広重《東海道五拾三次》のうち「蒲原・夜之雪」
1833-36(天保4-7)年頃 前期展示


広重の《東海道五拾三次》は、53の宿場に、扉と起点の「日本橋・朝之景」と終点の「京師・三條大橋」を加えて全部で56点あります。
扉から「掛川・秋葉山遠望」までの28点が前期展示。「袋井・出茶屋之図」から「京師・三條大橋」までの28点が後期展示です。
前期後期あわせて江戸から京都まで東海道の旅を楽しんでみませんか。

第2章 山種コレクションの江戸絵画


続いて江戸絵画のエリアに移ります。

まずは琳派の世界。
華やかな金屏風が並ぶ壮観な光景が目の前に広がります。

右から、伝 俵屋宗達《槇楓図》17世紀(江戸時代)
酒井抱一《秋草鶉図》(重要美術品)19世紀(江戸時代)
鈴木其一《四季花鳥図》19世紀(江戸時代)
いずれも全期間展示

続いて掛軸の琳派作品。

江戸時代前期の俵屋宗達、江戸時代後期の酒井抱一、鈴木其一と、200年の時を越えて引き継がれた琳派の名品が一堂に会しています。

右から、[絵]俵屋宗達、[書]本阿弥光悦
《鹿下絵新古今集和歌巻断簡》17世紀(江戸時代)、
酒井抱一《菊小禽図》《飛雪白鷺図》19世紀(江戸時代)、
鈴木其一《伊勢物語図 高安の女》19世紀(江戸時代)
いずれも全期間展示


上の写真一番右は、俵屋宗達の絵と本阿弥光悦の書のおしゃれなコラボ作品。
振り返る鹿と、墨のくずし字の配置にリズミカルな動きが感じられて、とても好きな作品です。


[絵]俵屋宗達 [書]本阿弥光悦
《鹿下絵新古今集和歌巻断簡》17世紀(江戸時代)
全期間展示


展覧会のサブタイトルは「ー写楽・北斎から琳派までー」ですが、江戸絵画は琳派だけではありません。

琳派のコーナーの反対側にはなんと岩佐又兵衛!

岩佐又兵衛《官女観菊図》(重要文化財)
17世紀(江戸時代) 全期間展示

なぜここで驚いたのかと言いますと、この作品は又兵衛が得意とする古典を題材とした作品ですが、近世初期風俗画を描いた又兵衛は、のちに第1章に展示されている浮世絵の祖と呼ばれるようになったので、浮世絵のちょうど反対側に展示されているのを見て、この配置は絶妙の隠し味と感じたからなのです。

織田信長の軍勢に包囲された時、家族や家臣たちを見捨てて、大切にしていた茶道具をもって有岡城を脱出した戦国武将、荒木村重を父にもつ岩佐又兵衛。
よく生き延びて「浮世絵の祖」になってくれたものです。


NHKの正月時代劇「ライジング若冲」の名コンビがいる!

左から、伊藤若冲《伏見人形図》1799(寛政11)年、
池大雅《指頭山水図》1745(延享2)年、
《東山図》18世紀(江戸時代)
いずれも全期間展示

みなさまはNHKの正月時代劇「ライジング若冲」をご覧になられましたでしょうか。
人付き合いが嫌いな伊藤若冲が、唯一親交を深めたのが池大雅。
その二人の作品が並んで展示されています。

「ライジング若冲」を見て以来、池大雅の作品を見ると、豪放磊落な大雅の姿が目に浮かんでくるのですが、《指頭山水図》のように、筆を使わずに指や爪を使う「指頭画」を描いている場面が出てきたことを思い出しました。


そして冒頭に紹介しましたが、今回唯一の撮影可の作品が椿椿山《久能山真景図》(重要文化財)。


右から、椿椿山《久能山真景図》(重要文化財)1837(天保8)年、
谷文晁《辛夷詩屋図》1792(寛政4)年
いずれも全期間展示


椿椿山は、江戸幕府の鎖国政策を批判して蛮社の獄(1839年)で捕らえられた師・渡辺崋山の救援活動に奔走しましたが、当時、幕府に逆らうことは命がけのことでした。

勇気ある椿山がこの作品を描いたのは蛮社の獄の2年前のことですが、中央の2人の人物は、椿山が慕う師・崋山と、そのあとを追う椿山自身ではと思えてならないのです。

そして、隣には崋山の師・谷文晁の《辛夷詩屋図》。
こちらも山あいの理想郷を描いた素晴らしい作品です。


第2展示室では、円山応挙の奔放な弟子、長沢芦雪の作と伝わる《唐子遊び図》を見つけました。

 長沢芦雪《唐子遊び図》(重要美術品)
18世紀(江戸時代) 全期間展示

中国では古来から士大夫が身につける芸とされた琴棋書画をまじめに習っている唐子ばかりと思ったら、そうではなく、じゃれあう唐子たちがいて、その足元では碁石がばらけていたり、芦雪の「龍図」「虎図」襖で知られた紀州・無量寺で見た、芦雪の「唐子遊図」襖を思わせるユーモアたっぷりな作品です。

紹介しきれませんでしたが、京狩野最後の輝きを放った狩野永岳の作品も展示されるなど、「第2章 山種コレクションの江戸絵画」では、琳派をはじめとした江戸絵画の粋が楽しめます。


展覧会オリジナルグッズ・オリジナル和菓子も充実!


山種美術館の展覧会でいつも気になるのが、展覧会オリジナルグッズ。
今回も充実の内容です。

展覧会オリジナルグッズ



私のイチ押しは、歌川広重《東海道五拾三次》のすべての図柄が載って、解説も付いているA4Wクリアファイル(税込715円)。おうちに帰ってからも東海道の旅が楽しめます。

俵屋宗達(絵)・本阿弥光悦(書)《鹿下絵新古今集和歌巻断簡》の金箔はがき入れ(税込3,850円)、名刺箱(税込1,800円)、一筆箋(税込462円)もオシャレです。


1階ロビーの「Cafe椿」では、オリジナル和菓子をお召し上がりいただけます。

オリジナル和菓子
上から時計回りに、
「赤富士」(葛飾北斎《冨嶽三十六景 凱風快晴》作品展示期間:7月3日~8月1日)、
「秋のおとずれ」(俵屋宗達(絵)・本阿弥光悦(書)《四季草花下絵和歌短冊帖(朝顔)》作品展示期間:8月3日~8月29日)、
「月夜の海」(歌川広重《武陽金沢八勝夜景(雪月花之内 月)》作品展示期間:8月3日~8月29日)、
「夏の日」(鈴木其一《四季花鳥図》(右隻))、「菊の香」(酒井抱一《菊小禽図》)
カッコ内はモチーフとなった作品ですべて山種美術館蔵

抹茶とのセットで1,200円(税込)。いつもどの和菓子とのセットにしようか迷ってしまうのです。


この夏に山種美術館の浮世絵と江戸絵画はいかがでしょうか。
ぜひ前期後期ともご覧ください!