2023年12月25日月曜日

山種美術館 【特別展】癒やしの日本美術 ーほのぼの若冲・なごみの土牛ー

今年も残すところあとわずか。
慌ただしかった一年の疲れを癒やして新たな気分で新年を迎えたいという方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
筆者もその一人ですが、そんな時にぴったりの展覧会が東京・広尾の山種美術館で開催されています。
タイトルは、【特別展】癒やしの日本美術 ーほのぼの若冲・なごみの土牛ー。 


展覧会チラシ


「ほのぼの」、「なごみ」といったゆるいキーワードに誘われて先日行ってきましたので、さっそく展示の様子をご紹介したいと思います。


展覧会開催概要


会 期  2023年12月2日(土)~2024年2月4日(日)
開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日  月曜日
     [1/8(月・祝)は開館、1/9(火)は休館、12/29(金)-1/2(火)は年末年始休館]
入館料  一般 1400円、中学生以下無料(付添者の同伴が必要)
     冬の学割 大学生・高校生500円
※チケット購入方法、各種割引等は山種美術館公式サイトをご覧ください⇒https://www.yamatane-museum.jp/

展示構成
 第1章 江戸時代の「ゆるかわ」 若冲・芦雪
 第2章 癒やしの風景・心地よい音
 第3章 かわいい動物・愛しい子ども・親しい人との時間
 第4章 心が解き放たれる絵画

展示室内は、長沢芦雪《菊花子犬図》(個人蔵)に限りスマホ、タブレット、携帯電話でのみ撮影可。
ほかの作品は撮影不可です。掲載した写真は内覧会で美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。


第1章 江戸時代の「ゆるかわ」 若冲・芦雪


第1展示室に入るとさっそく伊藤若冲の「ほのぼの」とした布袋さんやひょうきんな表情の鶏たち、長沢芦雪の楽しげな七福神やかわいい子犬たちがお出迎えしてくれます。


第1章展示風景


冒頭に展示されているのは、ずんぐりむっくりした布袋さんが手に扇を持って微笑んでいる姿が描かれた伊藤若冲《布袋図(無染浄善 賛)》(個人蔵)。
解説パネルにある賛の意味もぜひご覧ください。布袋さんの扇から清らかな風が吹いてくるのが感じられるかもしれません。

伊藤若冲《布袋図(無染浄善 賛)》
1762(宝暦12)年賛 個人蔵


長沢芦雪が描くのは無邪気にじゃれあう9匹の子犬たち(下の写真右奥)。
まるでぬいぐるみのようなもふもふの子犬たちの表情には愛嬌があって、後ろ姿の子犬のくるっと丸まった尻尾まで可愛さが感じられます。

第1章展示風景



先ほどご紹介した写真撮影OKの作品はこの長沢芦雪《菊花子犬図》(個人蔵)です(スマートフォン・タブレット・携帯電話に限定)。
ハッシュタグ #山種美術館 #癒やしの日本美術 を付けてSNSで発信しましょう! 


第2章 癒やしの風景・心地よい音


江戸時代の「ゆるかわ」ですっかり和んだあとは、昔懐かしい日本の風景が私たちを癒やしてくれます。

近代・現代の日本画家が描く風景画が並ぶ中でも特におすすめなのが、川合玉堂《山雨一過》(山種美術館)。
いつものことながら玉堂は、こうあってほしいという風景や、こういう人がいてほしいという人物を描く、いわば見る人のツボをグッと押してくれる画家だと感じさせてくれます。
小さいながらも馬子が馬を引いて峠を越す姿がこの作品の大きなポイントになっています。

川合玉堂《山雨一過》1943(昭和18)年
山種美術館

農業に従事しながら絵画制作を行った小川芋銭の《農村春の行事絵巻》は、描かれている人たちの明るい表情がとても印象的です。

小川芋銭《農村春の行事絵巻》1912-26年頃(大正時代)
山種美術館

続いて自然界の心地よい音が描かれた作品へ。

左から 上村松園《杜鵑を聴く》1948(昭和23)年、
川合玉堂《渓雨紅樹》1946(昭和21)年
どちらも山種美術館


上村松園《杜鵑を聴く》からは夏の訪れを告げるホトトギスの鳴き声、川合玉堂《渓雨紅樹》からは水車に流れる水の音が聴こえてきそうです。


第3章 かわいい動物・愛しい子ども・親しい人との時間


第1章では江戸時代の絵師、伊藤若冲と長沢芦雪が描いた可愛い動物たちが楽しめましたが、第3章では奥村土牛が描いた「なごみ」の兎や山羊をはじめとした近代や現代の日本画家が描いた生きものたちに癒やされます。

第1章と第3章の作品を見比べてみると、時代のへだたりはありますが、「可愛い!」と感じた動物たちを細部までじっくり観察して描くという姿勢は共通していることが実感できました。

第3章展示風景

第1章には伝 長沢芦雪《唐子遊び図》【重要美術品】(山種美術館)が展示されていますが、
奥村土牛の《枇杷と少女》をはじめ、あどけない子どもたちに優しいまなざしを向けて描くことも近代日本画家に引き継がれていることもよくわかりました。


第3章展示風景

今までは可愛い動物や子どもたち、そしてのどかな風景を見て心が和んできましたが、親しい友との語らいの場面が描かれた作品は、ゆったりとくつろいだ時の流れに身をまかせてみたいという気分にさせてくれるので、とても心地よさが感じられます。

今村紫紅《歓語》1913(大正2)年
山種美術館



第4章 心が解き放たれる絵画


師と仰いだ小林古径が他界したときに、古径への思いを込めて奥村土牛が描いた作品が《浄心》(山種美術館)。そして、同じく土牛が、歴史家で日本美術院の再興に携わった齋藤隆三を追悼して描いたのが《蓮》(山種美術館)。
第2展示室には、画家の悲しみを癒やし、同時に見る側も安らかな気持ちになれる作品が中心に展示されています。

左から 奥村土牛《浄心》1957(昭和32)年、
奥村土牛《蓮》1961(昭和36)年
どちらも山種美術館


オリジナルグッズも盛りだくさん、新発売もあります!


マルチホルダー、A4クリアファイル、絵はがき、一筆箋、マスキングテープなどなど。
いつものことながら展覧会オリジナルグッズも盛りだくさん。
特に長沢芦雪《菊花子犬図》(個人蔵)の絵はがきは大人気のようです。
新発売もあるので、展覧会ご鑑賞後はぜひミュージアムショップにもお立ち寄りください!




オリジナル和菓子にも癒やされたい!


日本美術で癒やされた後は、やはり甘いもので癒やされたいですね。
「Cafe 椿」では今回の特別展出品作品をモチーフにした和菓子をお召し上がりいただくことができます。
私の一押しは、淡雪のふわふわした食感が心地よい「雲鶴」でしょうか。「春うらら」の胡麻入りこしあんにも惹かれます。
さて、みなさまの一押しはどれになりますでしょうか。





次回展は公募展「Seed 山種美術館 日本画アワード 2024」


次回展は、今回で3回目を迎えた公募展「Seed 山種美術館 日本画アワード 2024」の入選作品全45点が一堂に会する豪華な内容の展覧会です。
会期は2024年2月17日(土)~3月3日(日)。
新進気鋭の現代の日本画家たちによるどんな力作が見られるのか今から楽しみです。


展覧会チラシ

#癒やしの日本美術 は2024年2月4日まで開催されています。
今年一年の疲れを癒やしたい方も、美術館で初詣をしたい方もぜひご覧いただきたい展覧会です。

2023年12月13日水曜日

大倉集古館 企画展「大倉組商会150周年 偉人たちの邂逅 近現代の書と言葉」

東京・虎ノ門の大倉集古館では、企画展「大倉組商会150周年 偉人たちの邂逅 近現代の書と言葉」が開催されています。

大倉集古館外観

大倉組商会が設立されて150年を迎えた今年(2023年)の最後を飾る今回の企画展は、大倉組商会創設者・大倉喜八郎氏(1837-1928)の流麗な書、漢詩を好んだ嗣子・喜七郎氏(1882-1963)による端整な書、さらには両氏と交流があり、私たちが歴史の教科書でしか知らなかった日中の偉人たちによる書を中心に約70件の作品が見られる展覧会。
展示室内には両氏が活躍した激動の明治・大正・昭和の時代にタイムスリップしたような不思議な空間が広がり、わくわくした気分になってきますので、さっそく展覧会の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 期  2023年11月15日(水)~2024年1月14日(日)
 ※一部作品の巻替えや展示替えがあります。
 ※1/1-1/14は、お正月にふさわしい大倉集古館所蔵の絵画や工芸品も特別展示されます。
開館時間 10:00-17:00(入館は16:30まで)
休館日  毎週月曜日(祝休日の場合は翌平日、但し1/1、1/2は開館)、12/29-12/31
 ※年始は1/1から開館。
入館料  一般 1,000円、大学生・高校生 800円、中学生以下無料
 ※展覧会の詳細、各種割引料金等は同館公式サイトをご覧ください⇒大倉集古館
 ※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は主催者より広報用にお借りしたものです。
 ※掲載した作品はすべて大倉集古館蔵です。 

展示構成
 第1章 大陸とのつながり
 第2章 大倉喜八郎の光悦流、そして狂歌の流れ
 第3章 近代日本をつくった偉人の書
 第4章 大倉喜七郎と松本芳翠、そして漢詩の友


第1章 大陸とのつながり


第1章には、大倉財閥の中国での事業を通じて知り合った現地での有力者たちの書をはじめとした作品が展示されています。

最初にご紹介するのは、昭和3年(1928)4月22日に亡くなった大倉喜八郎氏の告別式で掲げられた弔旗。寄贈したのは、喜八郎氏と親しかったと言われた、北洋軍閥の巨頭・張作霖。

張作霖寄贈《弔旗「靍馭興悲」》
民国17年(1928) 

右の「大倉鶴彦先生千古」のうち、「鶴彦」は喜八郎氏の号、「千古」とは「永遠に」という意味で、中央の「靍馭興悲」は「靍(=喜八郎氏)が逝き悲しみがおこった」という意味で、張作霖の悲しみの深さがひしひしと伝わってくる作品です。
(作品のキャプションには書かれている文字の意味の解説があるので、内容を理解するのに役立ちます。)

さて、「張作霖」と聞いて、最初は「満州某重大事件」と言われ、のちに関東軍の仕業とわかった「張作霖爆殺事件」を思い浮かべる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

当時、「満蒙は日本の生命線」と言われ、満蒙(中国東北部と内モンゴル東部)の権益に執着した日本の支援により張作霖は満州を統一。その後、張作霖は北京に進出しましたが、蒋介石の北伐軍に圧倒されて北京から汽車で奉天(現 瀋陽)に引き上げる途中、張作霖を見限った関東軍によって奉天郊外で汽車もろとも爆殺されてしまったのです。
時に昭和3年(1928)6月4日、大倉喜八郎氏が亡くなってわずか43日後のことでした。

展示室では、張作霖の《弔旗「靍馭興悲」》と並んで、その張作霖と対峙した蒋介石の《弔旗「普天同吊」》、そして張作霖の長男で、父の爆死後、蒋介石の国民政府に合流して抗日運動に努めた張学良が喜八郎氏の一周忌法要にあわせて揮毫した《挽聯 (篆書長聯)》が並んで展示されています。
この展示を見て、喜八郎氏の敵味方の枠を超えた交流の広さにあらためて驚かされました。

第2章 大倉喜八郎の光悦流、そして狂歌の流れ


大倉喜八郎氏は本阿弥光悦(1558-1637)の書を好み、《源氏物語絵巻》《平家納経》など多くの古画、古筆を復元模写した日本美術研究家・田中親美やその弟子に本阿弥光悦の書の料紙をイメージしたものを依頼して、光悦流の優美な書を残しています。
(田中親美は三組の《平家納経》の模本を制作しましたが、そのうちの一組が喜八郎氏が依頼した大倉本(大倉集古館所蔵)です。)

こちらはメインビジュアルになっている大倉喜八郎氏の書《感涙会の歌》です。

大倉喜八郎筆《感涙会の歌》大正11年(1922)

本阿弥光悦は、江戸時代初期の能書家で「寛永の三筆」のひとりですが、「琳派の祖」俵屋宗達とのコラボ作品を制作したことでもよく知られています。

《詩書巻》は、木蓮の下絵の上に光悦が漢詩12篇を書したもので、情緒豊かな木蓮の下絵は宗達が関わった可能性が高いとされています。


本阿弥光悦筆《詩書巻》(部分) 
江戸時代・17世紀


大倉集古館では、宗達が金銀泥で池に咲く蓮を描き、光悦が「小倉百人一首」を書した《蓮下絵百人一首和歌巻》が所蔵されていましたが、惜しくも関東大震災で焼失してしまいました。今回の企画展では複製が展示されているので、宗達と光悦のコラボ作品の優雅さをぜひ感じ取っていただきたいです。

喜八郎氏(号 鶴彦)が主に使用したとされる木印や石印も展示されています。中には号の鶴彦の鶴が文字でなく、鶴の絵と彦の文字が刻まれたとても可愛らしい印もありました(下の写真左手前)。

喜八郎氏のお気に入りは、中国清末の画家で、詩・書・画・篆刻で独自の境地を拓き「四絶」と称された呉昌硯(1844-1927)の印章で、本人に依頼した印も残されているのです。

岡部香塢ほか刻《大倉喜八郎所用印》
大正~昭和初期・20世紀



第3章 近代日本をつくった偉人の書


この章では、大倉家との交流を通じて大倉集古館に収蔵されることになった明治~大正時代の日本を担った偉人たちの書が展示されています。

中でも特に気になったのが伊藤博文の書《於日露交渉所感詩》。


伊藤博文筆《於日露交渉所感詩》明治37-42年(1904-09)

これは、明治37年(1904)、ロシアとの開戦が決定され、当時枢密院議長であった伊藤博文が多年の対露交渉が空しくなってしまったことへの無念を詩に託したもので、文中の「友人某」は、アメリカに早期休戦の便宜を図るため伊藤が渡米を要請した枢密院顧問官の金子堅太郎のことです。
(原本はくずし字で読みにくいのですが、各作品のキャプションには書かれている文章が掲載されているので助かります。)

日露戦争開戦前は、伊藤博文、井上馨らが提唱した「日露協商論」と、山形有朋、桂太郎、小村寿太郎らが提唱した「日英同盟論」が対立し、結果的には明治35年(1902)に締結された日英同盟を後ろ盾にして日露戦争が始まったという経緯がありました。

日本は日本海海戦で勝利したものの、軍資金が枯渇し、ロシアも第1次ロシア革命が勃発してどちらも戦争継続が困難になりアメリカの仲裁でポーツマス条約が締結され、日本は遼東半島南部の租借権や樺太の南部などを獲得しましたが、賠償金要求は放棄せざるを得ませんでした。
窮状に陥った日本がようやく戦争を終結できたことなど知らされていなかった国民は賠償金が取れなかったことに怒り、東京の日比谷公園で開催された講和反対国民大会が暴動化した日比谷焼打ち事件はよく知られています。

伊藤博文の書の隣には、大倉喜七郎氏がこの書を入手したのち、金子堅太郎に揮毫を依頼した書《春畝公所感詩に対する和韻詩》が並んで展示されています。
この書には、日露戦争のさなかの緊迫した状況で平和を願う金子の心情が露呈されているのです。
悲しいことに現在でも地球上では各地で戦争が続いている中であるからこそ、伊藤と金子の書からは平和へのメッセージが強く感じられました。

ほかにも大倉喜八郎氏と親交の深かった近代日本資本主義の父・渋沢栄一の書、日本海海戦時の連合艦隊司令長官・東郷平八郎の書、代々和歌と書道に通じた有栖川宮家の書をはじめとした著名人の書が展示されています。

渋沢栄一筆《大倉定七墓碑銘並びに識語》
大正14年(1925)


第4章 大倉喜七郎と松本芳翠、そして漢詩の友


大倉喜八郎氏の光悦流の流麗な書も魅力的ですが、漢詩の復興に努めた喜七郎氏の端整な書にも心を惹かれます。
こちらは年始に宮中で行われる「歌御会始」において、大正15年に出された宸題「河水清」を喜七郎氏が漢詩で日向の五瀬川の景観を天孫の時代の美しい面影と重ね合わせて詠んだ書です。

大倉喜七郎筆《宸題「河水清」》
大正15年(1926)


ほかにも喜七郎氏の書の師で「楷書の芳翠」と呼ばれた松本芳翠(1893-1971)や、交流のあった漢詩人たちの書が展示されています。

松本芳翠筆《録沈石田安居歌》昭和4年(1929)

大倉集古館の建物裏手に設置されている喜七郎氏の業績を記した《大倉聴松翁頌徳碑》は芳翠の筆によるものなので、次の機会にはぜひ拝見したいです。


書をたしなむ方も、歴史ファンも、漢詩ファンも、琳派のファンも、みなさんが楽しめる展覧会です。
ぜひご覧ください!

2023年11月27日月曜日

上野アーティストプロジェクト2023 東京都美術館「いのちをうつすー菌類・植物・動物・人間」

今年で7回目を迎えた「上野アーティストプロジェクト2023」のテーマはいきもの
東京・上野公園の東京都美術館では「いのちをうつすー菌類、植物、動物、人間」が開催されています。

美術館前の看板


今回登場するのは、私たちの身の回りに生きるある特定の「いきもの」を「うつす」ことにこだわった6人のアーティストたち。そしてこだわった対象は、きのこ、植物、鳥、牛、馬、ゴリラとさまざま。
展示されている作品からはどれも作者の愛情が伝わってきて、自然と心が和んでくるとても心地よい雰囲気の展覧会です。

展覧会開催概要


会 期:2023年11月16日(木)~2024年1月8日(月・祝)
会 場:東京都美術館 ギャラリーA・C
休室日:2023年12月4日(月)、12月18日(月)、12月21日(木)~2024年1月3日(水)
開室時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
夜間開室:2023年12月1日(金)、12月8日(金)は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで) 
観覧料:一般500円、65歳以上300円、学生以下無料
※展覧会の詳細、展覧会関連イベント等については展覧会公式サイトをご覧ください⇒上野アーティストプロジェクト2023 いのちをうつす ー菌類、植物、動物、人間


「いのちをうつす」展ポスター

※一部撮影不可のエリアがあります。撮影の注意事項等は会場内でご確認ください。

※12月10日まで開催中の特別展「永遠の都ローマ展」のチケット提示で入場無料になります。
「永遠の都ローマ展」の紹介記事も書いてます。奇跡の来日を果たした《カピトリーノのヴィーナス》は東京展のみの展示です。ぜひこちらもご覧ください⇒永遠の都ローマ展
⇒東京展は終了しました。


それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。


最初にご紹介するのは、本にきのこの挿絵を描いたのがきっかけできのこに興味を持ち、きのこにこだわって描き続けた小林路子さんの作品です。

今回は、今まで小林さんが描いた850点以上の作品の中から、未発表作品を含む36点が展示されいていて、ご覧のように、きのこの特徴や地面の苔や落ち葉まで細かく描かれた作品が並ぶ様はまさに「きのこ博物館」。



そして、小林さんご本人の軽妙な解説もそれぞれの特徴をとらえていて、とてもわかりやすかったです。

いくつか解説を抜粋して例を挙げると・・・

ヤナギマツタケ
「街路樹から出ることもある。一方、深山や高山ではまだ見ない。都会派なのだろうか。」
ドクツルタケ
「全身純白の致命的猛毒きのこ。味もよいというのが恐ろしい。」

そして上の写真の《アメリカウラベニイロガワリ》は、「色のインパクトが凄いイグチ。触った所が瞬時に濃青色に変わるのでよけいに毒々しい。出ていても採る人もない。だが、このきのこは食用になる。きのこは外見だけでは判らない。」
(イグチとはカサの裏側がひだ状でなく、多くの孔が集まった「管孔」という形状をしているのが特徴のきのこの一種)

きのこそのものも「いのち」ですが、日々の食卓にのぼり、私たちの「いのち」を育む食用きのこもあれば、私たちの「いのち」を奪うこともある猛毒きのこもあって、先人たちは外見だけでは毒があるか判らないきのこを、きっと大きな犠牲を払いながら見分けていたのだろうなどと考えながら、いつのまにか小林さんの「きのこワールド」に引き込まれていきました。


続いては、明治末から昭和にかけて活躍した西洋画家の辻永(つじひさし)さん(1884-1974)の植物のスケッチ。
戦前の帝展や戦後の日展の審査員などを務め、油彩画を制作するかたわら、少年時代から植物を愛好し、日々出会った植物を描くことを続けた辻さんは生涯2万点以上描いたとされ、今回の展覧会では、現在残されている4500点を所蔵する水戸市立博物館から97点が展示されています。


展示風景


作品は年代順に展示されていて、キャプションにはそれぞれの植物画に書き込まれた写生年月日や場所、辻氏がのちに編纂した『万花図鑑』などの作品解説の抜粋が掲載されているので、描かれた時代背景などを思い浮かべながら作品を楽しむことができます。

例えば、せいようにんじんぼく「1943年7月27日 中村研一君宅よりのものを写した。」、ふくりんじんちょうげ「1937年6月5日 岡田三郎助邸において写生したものである。」からは同時代の洋画家たちとの交流がうかがえ、のげし「1944年4月21日 戦争たけなわの折、省線目黒駅付近の土手にはえてるものを写した。」からは戦時中の緊張感が伝わってきました。(実際に翌年5月には空襲で渋谷の自宅が焼失しています。)

ほかにも東京都美術館のある上野公園で写生した植物もあるので、展覧会を見たあとに上野公園を散策してみてはいかがでしょうか。


展示風景


先ほどのきのこの作品のエリアにも展示されていましたが、辻永さんの油彩画の向かいに鳥の彫刻が見えてきました。

展示風景


こちらは日本バードカービング協会の会長を務め、バードカービングによる鳥類保護に取り組んでいる内山春雄さん(1950-)の作品。
これらはFRPで型抜きしてアクリル絵の具で彩色したもので、作品として飾るだけでなく、同じ型を使って製作されたデコイ(模型)が鳥を繁殖地へと誘導する保護活動に使われるなど、鳥獣保護の活動に役立っているのです。


展示風景


そして内山さんがもう一つ意欲的に取組んでいるのが、目の不自由な人たちに鳥の姿かたちを知ってもらうための「タッチカービング」の活動です。


展示風景

展示の最後のエリアでは、実際に作品に触って、触感でそれぞれの鳥の姿かたちを実感することができます。
それだけでなく、その場で貸出しているタッチペンを台座の左下の穴に差し込むとその鳥の鳴き声を聞くことができるので、ぜひお試しください。

ヤンバルクイナがかなりけたたましい声で鳴くことは初めて知りました。

内山春雄 タッチカービング《ヤンバルクイナ》
2023年 作家蔵


写真家 今井壽惠さん(1931-2009)のとの出逢いは衝撃的でした。
タクシー乗車中に交通事故に遭い一時的に視力を失い、視力が回復して最初に見た映画が「アラビアのロレンス」。そこでスクリーンに映し出される馬たちの生命力に魅せられたのが、その後馬を対象とするきっかけになったのです。



展示風景

今井さんの作品には、競走馬がレースで走る場面もありますが、自然の中の牧場で躍動する姿を撮った作品も多く、水しぶきを上げて疾走する馬の集団や、夕陽を背景にシルエットのように浮かぶ馬の作品など、幻想的な光景に思わず見入ってしまいました。

展示風景



木版画家の冨田美穂さん(1979-)がモチーフとしているのは
武蔵野美術大学在学中に北海道の酪農牧場でアルバイトをした時に、初めて牛に身近に接したことが衝撃として残り、それが、牛をモチーフにした木版画を制作するきっかけだったのです。


展示風景


冨田さんの作品には背景は描かれず、牛だけが描かれ、それも前から横からとさまざま。
中にはこちらをじっと見つめている牛もいて、思わず「私たちのために乳製品をありがとう。」と拝みたくなる作品もあります。

《701全身図》の牛は横目でちらりとこちらを見てますね。

冨田美穂《701全身図》2018年 作家蔵


冨田さんのすごいところは、北海道に移住し、酪農業に従事し、同時に木版画の制作を行うようになったこと。だからこそ、私たち人間の「いのち」ために生きる動物への愛情がひしひしと感じられるのです。


画家の阿部知暁さん(1957-)がこだわって描くのはゴリラ

絵の制作に迷いがあった時期、自分が好きなものは何かと考えた時に頭に浮かんだのが、子どものころ、檻の中にいた小さなゴリラに笑われた経験。
それから日本各地や海外の動物園、さらにはアフリカでは野生で暮らすゴリラを訪ねてゴリラを描き続け、現在では「ゴリラ作家」と呼ばれるようになったのが阿部さんでした。


阿部さんの《座るブルブル》もカンヴァスに描いた油彩画なのですが、何となく日本画のテイスト、特に琳派のテイストが感じられるのは気のせいでしょうか。

阿部知暁《座るブルブル》1994年 作家蔵

ところが、実は気のせいではありませんでした。上野動物園のゴリラ・ブルブルの背景はなんと日本画の屏風などで見られる金箔を貼っているのです。

もちろん金箔の屏風は琳派以前からありますが、そこに体格のいいゴリラが描かれていると、俵屋宗達、尾形光琳、酒井抱一と続く《風神雷神図屏風》の系譜を連想してしまうのです。

ほかにもゴリラに長年接してきた阿部さんらしく、一頭一頭表情もしぐさも違う個性的なゴリラたちの姿が楽しめました。

展示風景


阿部さんは「ゴリラが胸をたたくわけ」というゴリラの絵本の挿絵も手掛けていて、その原画と絵本のストーリーが展示されているので、ぜひこちらもじっくりご覧いただきたいです。

展示風景


展示作品のカラー図版や詳しい解説が掲載された展覧会公式図録(税込1,800円)も好評発売中です。






コレクション展「動物園にて 東京都コレクションを中心に」同時開催中!

都立の博物館、美術館のコレクションを展示するコレクション展の今回のテーマは、「いのちをうつす」展との関連で、東京都美術館に隣接する日本最古の「動物園」上野動物園に焦点を当てる「動物園にて 東京都コレクションを中心に」



展覧会開催概要

会 期:2023年11月16日(木)~2024年1月8日(月・祝)
会 場:東京都美術館 ギャラリーB
休室日:2023年12月4日(月)、12月18日(月)、12月21日(木)~2024年1月3日(水)
開室時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
夜間開室:2023年12月1日(金)、12月8日(金)は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで) 
観覧料:無料
※撮影不可




どちらも、あらためて「いのち」の大切さに気付かせてくれる展覧会です。
「いのちをうつす」展も、コレクション展「動物園にて」もぜひあわせてご覧ください!

2023年11月2日木曜日

上野の森美術館 「モネ 連作の情景」

東京・上野公園の上野の森美術館では「モネ 連作の情景」が開催されています。

美術館前看板

印象派の画家の中でも日本で特に人気の高いモネ(1840-1926)の展覧会は今までも開催されていますが、今回のモネ展は国内外40館以上の美術館から60点を超えるモネの代表作が大集結した「100%モネの展覧会」
そして、この展覧会の大きなこだわりは「連作」
普段は別々の美術館に所蔵され展示されている〈積みわら〉〈睡蓮〉などのモティーフを時間などを変えて繰り返し描いたモネの連作をまとまって見ることができる絶好のチャンスです。さらに普段はあまりなじみのない「印象派以前」のモネの作品も展示されているので、画家の生涯をたどることもできるのです。

それでは開会前に開催されたプレス内覧会に参加しましたので、展示の様子をさっそくご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 期  2023年10月20日(金)~2024年1月28日(日)
休館日  2023年12月31日(日)、2024年1月1日(月・祝)
開館時間 9:00~17:00(金・土・祝日は~19:00) 
     ※入館は閉館の30分前まで
会 場  上野の森美術館
入館料(税込) 日時指定予約推奨   
平日(月~金) 一般2,800円/大学・専門学校・高校生1,600円/中学・小学生1,000円
土・日、祝日 一般3,000円/大学・専門学校・高校生1,800円/中学・小学生1,200円
チケットの購入方法、展覧会の詳細等については展覧会公式サイトをご覧ください⇒モネー連作の情景


巡回展情報
 大阪展  大阪中之島美術館 2024年2月10日(土)~5月6日(月・休)
 *東京展、大阪展で出品作品が一部異なります。


展覧会公式図録には東京展、大阪展に出品される全75点すべてのカラー図版に加え、詳細なコラムや作品解説、年譜、関連年表も掲載されています。
モネの旅路の追体験ができる究極の一冊です。

展覧会公式図録


展示構成
 1章 印象派以前のモネ
 2章 印象派の画家、モネ
 3章 テーマへの集中
 4章 連作の画家、モネ
 5章 「睡蓮」とジヴェルニーの庭

※展示室内は一部を除き撮影禁止です。掲載した写真は内覧会で美術館より許可を得て撮影したものです。


展示室内で最初にお出迎えしてくれるのは、モネが後半生をすごしたジヴェルニーの自邸の「睡蓮の池」。



壁面に映されているのは実際の「睡蓮の池」で撮影された映像で、すぐに「モネの世界」に入り込んだ気分になりますが、それだけでなく床面の一部には触覚提示技術Haptics(ハプティクス)を搭載したソニーの「Active Slate(アクティブスレート)」が設置されていて、人の歩行にあわせた多彩な振動フィードバックによって水の上を歩くような感覚を体験することもできるのです。
※会場内にある「体験前の注意事項」をご確認ください。


モネがサロン(官展)に落選したことをきっかけに新たな境地を切り開いたことはよく知られていますが、「1章 印象派以前のモネ」にはまさにそのサロンで落選して、モネにとっての転機となった大作《昼食》が展示されています。 

「1章 印象派以前のモネ」展示風景
中央がモネ《昼食》1868-69年
 シュテーデル美術館、フランクフルト

当時のサロンは画家にとっての登竜門でした。
渾身の自信作《昼食》が落選したので大きく落ち込んでしまったモネですが、その後、サロン落選を経験したルノワール、ピサロ、ドガら仲間たちとグループを結成して1874年に開催したのが「第1回印象派展」でした。


「2章 印象派の画家、モネ」には、第1回から1886年の第8回まで開催された「印象派展」(※)とほぼ同時期の、「印象派の画家」としての歩みを始めた頃のモネらしい、パリ郊外ののどかな風景が描かれた作品が続きます。
(※)モネは第1回~第4回、第7回の5回のみ参加。

「2章 印象派の画家、モネ」展示風景


ここである考えがふと頭の中に浮かんできました。
歴史に「もし」は禁物と言われますが、もし《昼食》がサロンに入選して、その後、サロンの常連として順風満帆な人生を歩んでいたら、「印象派」という言葉も、モネの名作も生まれていなかったのかもしれません。

ご存じのように「印象派」は、「第1回印象派展」にモネが出品した《印象、日の出》(パリ、マルモッタン美術館蔵)が批評家に酷評されたことからモネたちのグループが「印象派」と呼ばれるようになったのですが、もしモネが《印象、日の出》を描かなかったら、このグループは何と呼ばれていたのでしょうか。

「2章 印象派の画家、モネ」展示風景


続いて今回のサブタイトルにある「連作」の兆しが見えてくる「3章 テーマへの集中」へ。

「印象派の画家」モネは、新たな画題を求めてノルマンディー地方のル・アーブルやエトルタ、地中海沿岸のマルセイユからイタリアのボルディゲラはじめヨーロッパ各地を旅して、海岸の風景を描きました。

「3章 テーマへの集中」展示風景


海岸を描いた作品の中でも特にモネらしさが感じられるのは、ノルマンディー地方のプールヴィルや象の鼻の形をしたアヴァルの門で知られるエトルタなどの荒々しい波が押し寄せる断崖絶壁の風景ではないでしょうか。

「3章 テーマへの集中」展示風景


そして「4章 連作の画家、モネ」からはいよいよ連作の始まりです。

モネが体系的に「連作」の手法を実現したのは〈積みわら〉が最初であると考えられています。
フランスの収穫期の田園風景が描かれている〈積みわら〉ですが、ここにもジャポニズムの影響が見られるのです。意外かもしれませんが、この積みわらの形は歌川広重(初代)の人気シリーズ《東海道五拾三次之内 鞠子 名物茶屋》のとろろ汁の茶店の藁ぶき屋根から影響を受けたものなので、〈積みわら〉の作品を見ると条件反射的に鞠子宿で食べたとろろ汁の味わいを思い出してもう一度食べたくなってくるのです。
(おそらくモネさんはとろろ汁は食べたことはないでしょうが。)

「4章 連作の画家、モネ」展示風景

とろろ汁はともかく、〈積みわら〉の作品を見て思い浮かべるのが抽象絵画の先駆者カンディンスキー。
1896年、モスクワで開催された「フランス美術展」でモネの〈積みわら〉の作品を見たカンディンスキーは自然の光を採り入れた明るく自由な色遣いに大きな衝撃を受けて、モスクワでの法学者としてのキャリアを投げうってパリと並んで芸術の都だったミュンヘンに飛び出していったのです。カンディンスキー30歳の時でした。
その後、カンディンスキーは前衛的な芸術家集団「青騎士」に加わり、その後、バウハウス教授を務めるなどして数多くの名作を残しました。

歴史に禁物の「もし」を繰り返しますが、《昼食》が入選してモネが〈積みわら〉の連作を描かなければ、カンディンスキーの抽象絵画は生まれなかったのかもしれません。

そんなことを考えながら先に進むと、モネがたびたび訪れたロンドンの〈ウォータールー橋〉の連作が見えてきました。

ここから先は撮影禁止のマークのある作品以外は撮影ができます。撮影については会場内の注意事項をご確認ください。

「4章 連作の画家、モネ」展示風景



そして、展示の最後には、冒頭で体験したジヴェルニーの庭をモネが描いた〈睡蓮〉の連作が展示されていて展覧会のクライマックスを迎えます。


「5章 「睡蓮」とジヴェルニーの庭」展示風景


印象派以前のモネの作品に始まり、モネの画業をたどりながら、モネが繰り返し描いた〈積みわら〉や〈睡蓮〉などの連作をはじめとした名品がまとまって見られる絶好のチャンスです。
ぜひこの機会に新たなモネを発見してみてはいかがでしょうか。