2024年2月19日月曜日

大倉集古館 企画展「大倉集古館の春ー新春を寿ぎ、春を待つ」

東京・虎ノ門の大倉集古館では、企画展「大倉集古館の春ー新春を寿ぎ、春を待つ」が開催されています。

大倉集古館外観

今回の企画展は、大倉集古館の所蔵品の中から春や今年の干支の「辰」にちなんだ絵画、工芸品などが展示されていて、春らしいとても華やいだ雰囲気の展覧会です。

展覧会開催概要


会 期  2024年1月23日(火)~3月24日(日)
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
入館料  一般 1,000円、大学生・高校生 800円、中学生以下無料
休館日  毎週月曜日(休日の場合は翌火曜日)
展覧会の詳細等は同館公式サイトをご覧ください⇒https://www.shukokan.org

※展示されている作品はすべて大倉集古館所蔵です。
※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は主催者より広報用にお借りしたものです。

展示構成
 第1章 寿ぎの造形~扇
 第2章 辰年の造形~龍
 第3章 季節の造形~雪・梅・桜の絵画
 第4章 めでたさの造形~工芸品 


第1章 寿ぎの造形~扇では、おめでたい「末広がり」の扇が舞う作品がお出迎えしてくれます。



《扇面流図屏風》宗達派、江戸時代・17世紀(右隻)



《扇面流図屏風》宗達派、江戸時代・17世紀(左隻)


浪の間を流れるように舞うのは、金色に輝くいくつもの扇。
扇面には蓮、菊、竹、梅など、さまざまな草花が描かれていて、とても華やいだ雰囲気です。

俵屋宗達の工房で制作されたことを表す「伊年」印が捺されている宗達派の名品《扇面流図屏風》は、当初一双のうち片方だけが大倉家に所蔵されていましたが、不思議なご縁で左右そろって大倉集古館に所蔵されることになりました。

同じく第1章の《古屏風奇遇乃記》(福地源一郎書、荒木探令画)に記されている奇跡の再会のいきさつはとても興味深いです。

次に、扇面に花や山水が描かれた明~清朝時代の作品《清朝名人便面集珍》16図の中から4面の扇面が続きます。
ご紹介するのは、清朝・康熙帝時代(在位1661-1722)に活躍した満州人で、宮廷画家・赫奕(かくえき)の「青緑山水図」。



「青緑山水図」(《清朝名人便面集珍》のうち)赫奕(1655-1731)筆
中国・清時代・17~18世紀

水墨で描かれたモノトーンの山水画も趣きがありますが、濃厚な群青や緑青を用いた「青緑山水」は、山の緑が映えてとても鮮やかです。

清朝初期の6人の代表的な文人画家「四王呉惲」(※)の一人、王原郝とともに「南王北赫」と並び称された赫奕の《青緑山水図》は、王原郝とも交流があったからでしょうか、中国・江南地方ののびのびとした景色を描いているように感じられました。
(※)王原郝、王鑑、王時敏、王翬、呉歴、惲寿平の6人


第2章 辰年の造形~龍 には、今年の干支「龍」にちなんだ作品が展示されています。

今年は多くの美術館・博物館で龍が描かれた絵画や工芸品を見ることができますが、日本では珍しい中国・清〜中華民国時代の衣装が見られるのは、中国美術の保護に努め、中国の古典劇のひとつ「京劇」を日本に紹介した大倉喜八郎氏が創設した大倉集古館ならではの展示ではないでしょうか。

この衣装は《蟒袍(ホウホウ、まんぱお)》と呼ばれ、官吏の衣装のことを指すのですが、これは中国の古典劇のひとつ「京劇」で使われていた衣装と考えられています。


《蟒袍》清時代末~中華民国時代・20世紀

虹色の部分は海水を表し、波間の中央には立石、その上には国家統一を意味するハート形の祥雲が浮かび、天下泰平を象徴する龍が天を舞う鮮やかなデザインに目を惹かれます。


鷹を描くのを得意とした曽我二直庵が珍しく描いた龍の作品も展示されています。



  



《蜆子和尚・龍虎図》曽我二直庵筆 江戸時代・17世紀

いかにも獰猛そうな鷹を写実的に描く二直庵ですが、想像上の動物なので当然見たこともない龍はどことなくユーモラス。虎も実物は見たことがないのかもしれませんが、やはり可愛らしく描かれています。
中央の蜆子和尚は、蝦や蜆をとって食べ、夜は神祠の中に寝たといわれた中国・唐末の禅僧です。

《蜆子和尚・龍虎図》は、狩野探幽の《文殊菩薩・雲龍・竹虎図》と並んで展示されているので、龍の表情の違いを見比べることができます。


第3章 季節の造形~雪、梅、桜の絵画には、梅の香や春の気配を知らせる作品が展示されています。

こちらは狩野探幽の三兄弟、上から探幽、尚信、安信のうち真ん中の尚信の長男で、探幽亡きあと江戸狩野の中心人物として活躍した狩野常信の《梅鶯図》。





《梅鶯図》狩野常信筆、江戸時代・17世紀

右幅と左幅には中央の梅の老木に向かって鳴いている鶯が描かれていて、春の訪れを告げる「ホーホケキョ」というさえずりが聞こえてきそう。
梅の幹や枝の間にたなびく霞が幻想的な雰囲気を醸し出しています。

続いては、《扇面流図屏風》と並んで今回の企画展のメインビジュアルになっている横山大観の《夜桜》。


《夜桜》横山大観筆、昭和4年(1929) (右隻)


《夜桜》横山大観筆、昭和4年(1929) (左隻)

これは大倉喜七郎氏の全面支援により昭和5年(1930)にローマで開催された「日本美術展覧会(ローマ展)」に出品された作品で、大画面の屏風にかがり火に照らされた桜が全面に描かれた華やかで大迫力の《夜桜》は、ミケランジェロやラファエロの大作を見慣れているローマっ子たちも驚いたのではないでしょうか。

実際に横山大観をはじめ、竹内栖鳳、川合玉堂ほか当時の日本画界を代表する画家80名の177点の作品が展示された一大プロジェクト「ローマ展」は多くの観覧者を集め、大成功のうちに終わりました。
2020年に大倉集古館で開催された企画展「1930ローマ展開催90年 近代日本画の華」をご覧になられた方は当時の盛り上がりを感じ取られたのではないでしょうか。


第4章 めでたさの造形~工芸品には、めでたさや季節を感じさせる名工たちの工芸品が展示されています。

正倉院御物整理掛として正倉院宝物の修理を行った名工・木内半古による《四君子象嵌重硯箱》は、白玉(はくぎょく)やべっ甲などを嵌め込んだ象嵌で四君子を表した華やかな雰囲気の作品です。
「四君子」とは蘭、竹、菊、梅のことで、徳を備えた君子に見立てて中国や日本などで画題とされてきました。
この作品は独立ケースに入っているので、ぜひ四方をぐるりと回って象嵌で立体的になっている「四君子」を近くでご覧いただきたいです。


《四君子象嵌重硯箱》木内半古作、昭和6年(1931)

おめでたい図柄の焼き物の大皿も展示されています。



《色絵芙蓉手花鳥図大皿》伊万里、江戸時代・18世紀 

皿の見込み(中央の円形部)の周囲に蓮弁状の区画をつけているデザインが芙蓉の花を連想させることから「芙蓉手」とつけられたこの大皿はとてもカラフル。
見込みには赤、青、緑、黄で描かれたつがいの鳥や花々が描かれていて、この季節にふさわしい作品です。


地下1階の「見どころルーペ」ぜひお試しを!

地下1階の通路にある2台の大きなモニター画面が「見どころルーペ」
はじめに画面にある《扇面流図屛風》や《夜桜》ほかの作品から一つ選ぶと画面いっぱいにその作品が映し出され、指で触れるとその部分がルーペのように拡大されます。
さらに指を動かしていくと所々で、例えば《夜桜》では「金泥を背景に花と葉が光り輝きます」といった作品の見どころのワンポイント解説などが出てきます。


少しずつ近づいている春の気配が感じられて心が和む展覧会です。
おすすめです!

2024年2月4日日曜日

東京国立博物館 建立900年 特別展「中尊寺金色堂」

今年(2024年)は、平安時代後期、およそ百年にわたり平泉を中心に奥羽を支配した奥州藤原氏の栄華を今に伝える中尊寺金色堂の建立900年に当たる節目の年。
この記念すべき年に、中尊寺に安置されている国宝の仏像はじめ、金色堂を飾っていたまばゆいばかりの工芸品の数々が展示される特別展「中尊寺金色堂」が東京国立博物館で開催されています。


展覧会チラシ

展覧会開催概要


会 期  2024年1月23日(火)~4月14日(日)
     前期:1月23日(火)~3月3日(日) 後期:3月5日(火)~4月14日(日)
会 場  東京国立博物館 本館 特別5室
開館時間 午前9時30分~午後5時 ※入館は閉館の30分前まで
     ※2月9日(金)以降、金・土曜日は午後7時まで(入館は午後6時30分まで)
休館日  月曜日、2月13日(火)
     ※ただし、2月12日(月・休)、3月25日(月)は開館
観覧料  一般 1,600円、大学生 900円、高校生 600円
※中学生以下、障がい者とその介護者1名は無料。入館の際に学生証、障がい者手帳等をご提示ください。
※本展は事前予約不要です。混雑時は入館をお待ちいただく可能性があります。
※会期中、一部作品の展示替えがあります。

展覧会の詳細等は、展覧会公式サイトをご覧ください⇒https://chusonji2024.jp/


※会場内は《金色堂模型》(縮尺5分の1)を除き撮影不可です。
※掲載した写真は報道内覧会で主催者より許可を得て撮影したものです。


今回の大きな見どころは何といっても、金色堂内にある3つ須弥壇のうち中央檀上の国宝仏像11体がそろって公開されていることです。

展示風景


金色堂内の3つ須弥壇には阿弥陀三尊、六地蔵、二天像の11体の仏像が安置されていますが、上の写真はそのうちの阿弥陀如来坐像(上の写真中央)、観音菩薩立像(同右)、勢至菩薩立像(同左)の阿弥陀三尊像。

阿弥陀如来坐像は、中央檀の主尊像なのでいわば金色堂のご本尊といえる存在なのですが、現地ではこれほど近くで拝むことはできないので、とてもありがたいです。

国宝《阿弥陀如来坐像》平安時代・12世紀
中尊寺金色院

近くから、そして360度ぐるっと回って拝むことができるからこそわかることもあります。
優雅なたたずまいは当時の京都仏師の流れをくんでいますが、後頭部の螺髪(らほつ)が逆V字型に刻まれていることや、右肩にかかる衣を別材で造るのは新しい感覚で、奥州藤原氏が新たな造形や技法を受け入れる柔軟性を持っていた証であることが指摘されているのです。

阿弥陀三尊像の両脇には六地蔵が3体ずつ、その前には二天像が展示されているので、現地ではできないことですが、まるで中央檀の中を回遊するかのように仏様を拝むことができるという贅沢な体験ができます。

展示風景

六体のお地蔵さんは微妙に顔つきが異なりますが、みなさんおだやかないい表情をしています。

展示風景



邪鬼を踏みつけにらみを利かせる増長天立像。
どことなくユーモラスな邪鬼の表情との対比が増長天の迫力を一層引き立てているように感じられました。


国宝《増長天立像》平安時代・12世紀
中尊寺金色院

「現存するのは日本で唯一、日本最古」という経典が見られるのも今回の展覧会の大きな見どころの一つです。

初めにご紹介するのは、紺紙に金字と銀字で行ごとに交互に書写した一切経(さまざまな仏教典籍を集成したもの)の国宝《紺紙金銀字一切経》。
これは、奥州藤原氏の初代・清衡が莫大な富を背景として発願したもので、8年の歳月をかけて五千巻を超える経典が制作されるという大事業でした。
江戸時代までに大部分が高野山に納められ、中尊寺には現在25巻が所蔵されていますが、このような金銀交書経は珍しく、一切経で現存するのはこの中尊寺経のみという貴重なものなのです。

国宝《紺紙金銀字一切経》平安時代・12世紀
中尊寺大長寿院 ※前期後期で展示替えあり

遠くから見ると塔が描かれているように見えるのですが、実はこの塔は金泥を用いて写した『金光明最勝王経』の経文によって表されているのです。

国宝《金光明最勝王経金字宝塔曼荼羅》平安時代・12世紀
中尊寺大長寿院 ※前期後期で展示替えあり


経文の文字によって宝塔を描く作例は他にもありますが、『金光明最勝王経』によるものはこの作品が唯一で、かつ日本で作られた宝塔曼荼羅として現存最古という、こちらも貴重なものなのです。

宝塔の周囲には釈迦説法図などが描かれていますが、仏様や人々の顔はみんな「なごみ系」。見ていて自然と心がなごんできます。
ぜひ近くでじっくりご覧いただきたいです。

最後に展示されているのが縮尺5分の1の《金色堂模型》。
この作品だけは撮影可です。

《金色堂模型》縮尺5分の1 昭和時代・20世紀
中尊寺

光り輝く《金色堂模型》の中には須弥壇はありますが、仏像は安置されていません。
今までご覧いただいた仏像が安置されている姿を思い浮かべながら中を覗くとその場にいるような気分になってきます。


会場を出てすぐの特設ショップには展覧会オリジナルグッズが盛りだくさん。
当然オリジナルグッズも充実しているのではと思いましたが、想像をはるかに超える充実ぶりでした。

最初に驚かされたのは、金色堂を背景に勢ぞろいした11体の国宝仏像のアクリルスタンド。
お部屋に飾れるコンパクトサイズです。
 


続いては、最初は何の物体だろうと思いましたが、国宝の持国天立像に踏みつけられている邪鬼をかたどったぬいぐるみ。
クッションにも最適。あまりにも可愛いので「悪さをしなければ踏みつけないからね。」と言いたくなってしまいます。



金色に輝く豪華な表紙、そしてハードカバーの図録もおすすめです。
今回のために撮り下ろした本展展示作品50件をフルカラーの図版で紹介しているだけでなく、仏像の拡大写真や多彩なコラムや論文、作品解説、そして四季折々の中尊寺の風景画像も掲載しているので、その場の雰囲気が伝わってくる貴重な1冊です。




間近で見られる国宝の仏像、華やかで貴重な経典はじめこの場でしか味わえない中尊寺金色堂の雰囲気をぜひお楽しみください!

2024年2月3日土曜日

東京国立博物館 特別展「本阿弥光悦の大宇宙」

東京・上野公園にある東京国立博物館 平成館では、特別展「本阿弥光悦の大宇宙」が開催されています。

今回の展覧会のメインビジュアルになっているのはキラキラ輝く本阿弥光悦作の国宝《舟橋蒔絵硯箱》(東京国立博物館)。展示室内でもこの作品が冒頭でみなさまをお出迎えしてくれます。

東京国立博物館 平成館外壁の案内看板


「始めようか、天才観測。」という謎めいたキャッチコピーも気になりますが、これは誤植ではありません。
星空を見上げる「天体観測」ではなく、「天才芸術家」本阿弥光悦が作り出した蒔絵の硯箱や絵巻物、陶器のように決して大きくない作品の中に広がる大きな宇宙が楽しめる展覧会なのです。


展覧会開催概要


会 期  2024年1月16日(火)~3月10日(日)
     ※会期中、一部作品の展示替えがあります。
会 場  東京国立博物館 平成館
休館日  月曜日、2月13日(火) ※ただし、2月12日(月・休)は開館
開館時間 午前9時30分~午後5時(入館は閉館の30分前まで)
観覧料(税込) 一般:2,100円、大学生:1,300円、高校生:900円
※中学生以下、障がい者とその介護者1名は無料。入館の際に学生証、障がい者手帳等の提示が必要。
※本展は事前予約不要です。混雑時は入場をお待ちいただく可能性があります。

展覧会の詳細等は展覧会公式サイトをご覧ください⇒https://koetsu2024.jp/

展示構成
 第一章 本阿弥家の家職と法華信仰ー光悦芸術の源泉
 第二章 謡本と光悦蒔絵ー炸裂する言葉とかたち
 第三章 光悦の筆線と字姿ー二次元空間の妙技
 第四章 光悦茶碗ー土の刀剣

※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は、報道内覧会で主催者より許可を得て撮影したものです。
※展示期間の表記のない作品は通期展示予定の作品です。


本阿弥光悦(1558-1637)は、流麗な書やきらびやかな蒔絵の硯箱などで知られていますが、光悦が生まれた本阿弥家は刀剣鑑定の名門家系で、光悦自身も刀剣鑑定の優れた力量を持っていました。
第一章では本阿弥家によって高く評価された鎌倉時代後期の相州鍛冶・正宗ほかの作による国宝4件をはじめ名刀がまばゆいばかりの輝き放っているので、刀剣ファンは見逃すわけにはいきませんね。

「第一章 本阿弥家の家職と法華信仰ー光悦芸術の源泉」展示会場風景
左から、国宝《刀 無銘 正宗(名物 観世正宗)》相州正宗 鎌倉時代・14世紀
東京国立博物館、国宝《刀 金象嵌銘 城和泉守所持 正宗磨上 本阿(花押)》
相州正宗 鎌倉時代・14世紀 東京国立博物館 

光悦が実際に腰に着けていたと伝わる唯一の短刀や、蒔絵の装飾が見事な刀装(刀の外装)も
刀剣ファン必見です。


「第一章 本阿弥家の家職と法華信仰ー光悦芸術の源泉」展示会場風景
左から、重要美術品《短刀 銘 兼氏 金象嵌 花形見》志津兼氏
鎌倉~南北朝時代・14世紀、《(刀装)刻鞘変り塗忍ぶ草蒔絵合口腰刀》
江戸時代・17世紀



光悦が熱心な日蓮法華宗の信徒であったことがうかがえるのも今回の展覧会の特徴です。

突如目の前に出現したのは、寺院の建物などに掲げられている扁額(へんがく)。
いずれも光悦が揮毫したものですが、堂々とした書体に驚かされます。


「第一章 本阿弥家の家職と法華信仰ー光悦芸術の源泉」展示会場風景
左から、《扁額「学室」》原品:本阿弥光悦筆 明治2年(1869)再刻
京都・常照寺、《扁額「本門寺」》本阿弥光悦筆 江戸時代・寛政4年(1627)
東京・池上本門寺、《扁額「妙法華経寺」》本阿弥光悦筆 江戸時代・寛政4年(1627) 
千葉・中山法華経寺、《扁額「正中山」》本阿弥光悦筆 江戸時代・17世紀
千葉・中山法華経寺


紺紙でなく珍しく紫紙に金字で書かれた経典は、重要文化財《紫紙金字法華経幷開結》(京都・本法寺)。
この経典は平安中期の能書家(書の名人)で「三蹟」の一人、小野道風(894-966)の写経と伝わり、第二章で展示されている重要文化財《花唐草文螺鈿経箱》(京都・本法寺)とともに、光悦によって京都・本法寺に寄進されたものです。

重要文化財《紫紙金字法華経幷開結》平安時代・11世紀
京都・本法寺 ※会期中、部分巻き替えがあります


こちらが重要文化財《花唐草文螺鈿経箱》(京都・本法寺)。
螺鈿(貝殻の光沢のある部分を嵌め込む工芸技法)による「法華経」の文字の周りに配置された唐草文は、まるで舞っているかのようにリズミカルに感じられます。

重要文化財《花唐草文螺鈿経箱》本阿弥光悦作
江戸時代・17世紀 京都・本法寺


京都・本法寺ゆかりの芸術家でよく知られているのが、東京国立博物館が所蔵する国宝《松林図屏風》の作者・長谷川等伯(1539-1610)。
法華信徒の縁で本法寺との付合いがあった等伯が、若くして亡くなった息子の久蔵の七回忌追善供養のために描いた長さ約10m、幅横6mに及ぶ大作、重要文化財《佛涅槃図》ほかの作品が同寺に所蔵されています。

京都の町衆(裕福な商工業者)や法華信徒のネットワークを築いて、書、漆芸、陶芸など総合芸術家として活躍した光悦が、偶然等伯と本法寺の境内で遭遇して、それがきっかけでコラボしたらどんな作品が生まれたのだろうか、と勝手に想像してしまいました。


実際に光悦とコラボしたのは、国宝《風神雷神図屏風》(京都・建仁寺)の作者・俵屋宗達(生没年不詳)。

こちらは宗達の筆によると伝わる屛風に、光悦が『古今和歌集』の和歌を一首ずつ書き記した色紙が貼られた、天才芸術家二人が競演する超豪華な作品《桜山吹図屛風》です。

《桜山吹図屛風》色紙:本阿弥光悦筆、屛風:伝俵屋宗達筆 
江戸時代・17世紀 東京国立博物館

金銀泥で装飾された色紙一枚一枚の文様がどれも見事なので、近くでじっくりご覧いただきたいです。


今回の展覧会のもう一つの特徴は、華麗で斬新な意匠の「光悦蒔絵」の作品が、光悦がたしなんだ謡曲(能楽の文章)が書かれた謡本の装飾から受けた影響がよくわかることです。


「第二章 謡本と光悦蒔絵ー炸裂する言葉とかたち」展示会場風景

雲母(うんも)の粉末を施した雲母摺(きらずり)の料紙、金銀泥で描かれた草花など贅を尽くした装飾の謡本と「光悦蒔絵」の作品が向かい合わせに展示されているので、両方を見比べながら「光悦蒔絵」の世界を楽しむことができます。


「第二章 謡本と光悦蒔絵ー炸裂する言葉とかたち」展示会場風景
重要美術品《忍蒔絵硯箱》江戸時代・17世紀 東京国立博物館


今回の光悦展の大きな見どころの一つは、長さ13mに及ぶ重要文化財《鶴下絵三十六歌仙和歌巻》(京都国立博物館)はじめ絵巻物が全期間かつ全面展示されることです。

絵巻物は展示スペースの関係で一部だけ展示されていることがよくありますが、今回はこのようにゆったりとした空間で最初から最後まで全部見られるのがうれしいです。

「第三章 光悦の筆線と字姿ー二次元空間の妙技」展示会場風景

圧巻は何といっても重要文化財《鶴下絵三十六歌仙和歌巻》(京都国立博物館)。
水辺にたたずむ鶴の群れが飛び立ち、波間に向かって降り、また空に向かって昇り、そしてふたたび水辺に降り立つ様が描かれた下絵は俵屋宗達によるもので、まるで動画を見ているような動きが感じられます。

その鶴の下絵の上に書かれた光悦による三十六歌仙の秀作三十六首を見ていると、鶴の羽ばたく音を聞きながら三十六歌仙の和歌がメロディーを伴って流れてくるように思えてきました。


重要文化財《鶴下絵三十六歌仙和歌巻》本阿弥光悦筆
俵屋宗達下絵 江戸時代・17世紀 京都国立博物館

音楽のアクセントのように太い文字と細い文字が配置された「肥痩をきかせた筆線」が特徴の光悦の書と、金銀泥で描かれた下絵が競演している作品からも心地よい調べが聴こえてくるようです。

「第三章 光悦の筆線と字姿ー二次元空間の妙技」展示会場風景
《蓮下絵百人一首和歌巻断簡》本阿弥光悦筆 江戸時代・17世紀
(左)京都・樂美術館、(右)サントリー美術館 展示期間:1月16日(火)~
2月4日(日) ※会期中、展示替えがあります


そしていよいよクライマックスの第四章へ。

照明を落とした展示室内はまるでプラネタリウムの中に入り込んだよう。

「第四章 光悦茶碗ー土の刀剣」展示会場風景


ここで輝きを放っているのは何万光年も彼方の星座ではなく、眼の前の小さな光悦作の茶碗に広がる雄大な景色なのです。

元和元年(1615)、徳川家康から京都北部の鷹峯の地を拝領した光悦は、この地に住み、茶碗づくりを生業とした樂家(らくけ)との交流を通じて茶碗の制作づくりに励みました。

光悦が作る茶碗の特徴は「手捏ね(てづくね)」。
形は均一でなく、ひび割れもあったりして一見すると無骨なように見えますが、土をこねたり、茶碗をかたちづくるときの手の動きがわかるようで、見ているうちに味わいが深まってくるものばかりです。

《黒楽茶碗 銘 村雲》本阿弥光悦作 江戸時代・17世紀
京都・樂美術館




展覧会オリジナルグッズも充実してます!


会場内の特設ショップには、展示作品がデザインされたマスキングテープ、トートバッグ、Tシャツ、クリアファイル、筆ペンなど展覧会オリジナルグッズが盛りだくさん。
刀剣ペーパーナイフは別売の刀掛けとあわせて購入すると卓上に飾ることもできる優れもの。
会場内特設ショップにもぜひお立ち寄りください。





すべての展示作品を豊富なカラー図版と詳細な解説で紹介している展覧会公式図録もおすすめです。名品の数々が超拡大のグラビアページで掲載され、各章の解説やコラムも充実していて見応え十分の図録です。




まさに決定版の光悦展です。
多才な芸術家・本阿弥光悦が生みだした深淵な大宇宙をぜひお楽しみください!

2024年2月2日金曜日

都市にひそむミエナイモノ展(SusHi Tech Square 1F Space) 

東京・有楽町駅前にあるSusHi Tech Square 1F Spaceでは、第2期展覧会「都市にひそむミエナイモノ展」が開催されています。


昨年(2024年)8月30日にメディアアートとテクノロジーが体験できる無料スペースがオープンして、第1期展覧会「わたしのからだは心になる?」も謎かけのようなタイトルで、どのような内容なのかは体験するまでわかりませんでしたが、今回の展覧会のタイトルもミステリアス。

「ミエナイモノ」がどのように展示されているのか、興味津々でしたのでさっそく取材に行ってきました。


「都市にひそむミエナイモノ展」開催概要


会 期:2023年12月15日(金)~2024年3月10日(日)
         会期が3月24日(日)まで延長されました! 
休業日:月曜日(ただし2月12日は開場)、2月13日
開場時間:平日11:00~21:00(最終入場20:30)/土休日10:00~19:00(最終入場18:30)
入場料金:無料
会場:SusHi Tech Square 1階
公式サイトはこちらです⇒https://sushitech-real.metro.tokyo.lg.jp/second/

※会場内は写真、動画撮影OKです。

展示は8つの展示エリアと2つの特別展示のエリアに分かれていて、それぞれ現代のクリエーターたちの意欲的な作品を鑑賞したり、体験したりして楽しむことができます。


アートコミュニケーターによる展示鑑賞ツアーがおすすめです!

会場では、赤いスカーフと缶バッチを着けたアートコミュニケーターによる展示作品の解説や会場の楽しみ方を紹介する鑑賞ツアーが実施されています。

 ・ビジネスパーソン向け鑑賞ツアー 平 日 18:30-19:00
 ・ファミリー向け鑑賞ツアー    土休日 13:30-14:00

おうかがいいしたのが土曜日でしたので、ファミリー向け鑑賞ツアーに参加しました。

それぞれの作品に興味津々の子供たちが多く参加して鑑賞ツアーは盛り上がりました。
解説を聞くと新たな発見があったりするので、鑑賞ツアーに参加するのがおすすめです。

それでは、さっそくいくつかの作品をご紹介したいと思います。


<現実とフィクションの景色に境界はあるのか?>
クリエイター:セーマン・ペトラ
作品名:About their distance

最初にご紹介するのは、日本のアニメに深い影響を受けたハンガリー出身のセーマン・ペトラさんの作品「About their distance」。




これは、アニメに描かれたセーマンさん自身が電車に乗ったりしながら都会の中のアニメの舞台となった場所を訪れ、普段通っているなにげない場所が、実はある人にとってはアニメの聖地だったことを発見するという内容の作品です。

ピンク色の服を着ている若者がセーマンさんご自身です。
映像を見ている私たちもいっしょに聖地巡礼をしているような楽しい気分になってきます。







<都市でAIに見つからないためには?>
クリエイター:Tomo Kihara & Playfool
作品名:How (not) to get hit by a self-driving car
 

続いてはAIとの知恵比べ。
AIに見つからないように横断歩道を渡り切るゲーム「How (not) to get hit by a self-driving car」。
クリエーターは、「遊び」をテーマに創造性を育む道具のデザインや、社会・都市に介入するアートプロジェクトを展開している協働チームTomo Kihara & Playfool です。




多くの親子連れが訪れていて、未就学児くらいの子どもたちが正面から行かないで脇を通ったり、四つん這いになったり、赤いコーンをかぶったりして、見つからないように工夫をしながらトライしていました。

AIというと、私たち大人はこれからどうやって付き合っていけばいいのかと思い悩んでしまいますが、この作品のように小さい時からAIと接していれば、この子たちが大きくなる頃には、AIに使われるのでなく、うまくAIを使っていけるのではないのかと思いました。


<人工生命は環境からどんな影響を受けるのか?>
クリエイター:菅野創+加藤明洋+綿貫岳海
作品名:かぞくっち


手前は東京湾。高層ビル群やスカイツリーも見えています。そして後方には緑いっぱいの高尾の山々。
東京都の勾配を模した展示台の上を動き回る小さなロボットたちは《かぞくっち》の家で、都会や自然の中などの環境の影響を受けながら、家の中にいる人工生命の家族が暮らしていくのです。




今回展示されている「東京」の舞台は約10分のサイクルで昼と夜が訪れます。
明るさや時間帯、傾斜などの環境の変化によって《かぞくっち》の行動がどのように変化していくのかがわかる、まるで子どもの頃に遊んだ「人生ゲーム」のAI版のように思えました。





<現代都市の「楽園」は、どこにひそんでいるのだろう?>
クリエイター:藤倉麻子
作品名:あの山の裏/Tire Tracker


大きなベニヤのボードの画面に湖に映る山が見えてきました。
こちらは「山の裏」にユートピアがあると考えている藤倉麻子さんの作品です。




上の写真の画面の中央と、右の入口から山の裏側に入ることができますが、そこにあるのは藤倉さんがイメージするユートピア。
ネタバレになってしまうので裏側の写真は載せませんが、みなさんにとってユートピアがどこに潜んでいるのイメージしてみるきっかけになるのかもしれません。

少しだけお見せすると…
隅っこに置かれている黒い物体は、作品のタイトルにもある車体から外された「タイヤ」。
これはユートピアに向かうためのタイヤなのかもしれません。




まだまだほかにも楽しい作品があります。

初代ゴジラが破壊する東京をテーマにした、クリエイター:佐藤朋子さんによる「オバケ東京のためのインデックス 序章 Dual Screen Version」は上映時間55分の大作。




クリエイター:島田清夏(東京藝術大学大学院 美術研究科 先端芸術表現専攻 八谷和彦研究所)さんによる特別展示の作品「おとずれなかったもう一つの世界のための花火」は、COVID-19によって2020年に中止された日本の花火を、あり得たかもしれないもう一つの世界として、花火師としても活動している島田さんが実際に花火を打ち上げたもので、1日を1秒に見立てた365秒の花火パフォーマンスを楽しむことができます。





見るだけでなく参加型の展示があるのもこの展覧会の特徴です。

「ボイスウォール」には、東京のまちで見つけたミエナイモノ、見つけたいミエナイモノをシール紙に書いて貼ることができます。

さてみなさんにとってミエナイモノは何でしょうか?




スタンプラリーも開催しています。
すべてのスタンプを集めて最後にゴールに行くと、楽しいオリジナルステッカーがもらえます。(下の写真、左がスタンプラリーの台紙、右がオリジナルステッカー)




大人向けの鑑賞ガイド(下の写真左)も、子ども向けの鑑賞ガイド(同右)もあります。




お勤めの方は平日の仕事帰りに寄ることもできますし、親子連れの方は一日中いても飽きない展覧会です。
ぜひお気軽にお越しください!