2024年9月26日木曜日

根津美術館 企画展「夏と秋の美学 鈴木其一と伊年印の優品とともに」

東京・南青山の根津美術館では企画展「夏と秋の美学 鈴木其一と伊年印の優品とともに」が開催されています。


展覧会チラシ

今回の企画展は、今の季節にあわせて同館が所蔵する【重要文化財】鈴木其一《夏秋渓流図屏風》と、俵屋宗達の工房で制作されたことを表す伊年印が捺された《夏秋草図屏風》を中心に、色とりどりの草花や風物詩など夏から秋にかけての風情が感じられる作品が展示される展覧会です。

それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。


展覧会開催概要


開催期間  2024年9月14日(土)~10月20日(日)
開催時間  午前10時~午後5時(入館は閉館30分前まで)
休館日   毎週月曜日
      ※ただし9月19日(月・祝)、9月23日(月・振替休)、10月14日(月・祝)は
       開館、それぞれ翌火曜日休館
入館料   オンライン日時指定予約
      一般 1300円、学生 1000円
      *障害者手帳提示者および同伴者は200円引き、中学生以下は無料
      *当日券(一般1400円、学生1100も販売しています。同館受付でお尋ね
       ください。)
会 場   根津美術館 展示室1・2

展覧会の詳細、オンライン日時指定予約、スライドレクチャー等の情報は同館公式サイトをご覧ください⇒根津美術館

*展示室内及びミュージアムショップは撮影禁止です。掲載した写真は記者内覧会で美術館より特別に許可を得て撮影したものです。
*企画展の展示作品は、すべて根津美術館所蔵です。


展示は夏から秋にかけて移り行く季節とともに進んで行きます。
はじめに「夏のおとずれ」から。



夏のおとずれ


「夏のおとずれ」展示風景

上の写真右の作品は、幕末に活躍した復古やまと絵の絵師・冷泉為恭の筆による《時鳥(ほととぎす)図》ですが、夏を告げるほととぎすの姿は描かれていません。

冷泉為恭《時鳥図》日本・江戸時代 19世紀
植村和堂師寄贈

夏が近づく頃、ほととぎすのきれいな鳴き声が聞こえて振り返ってもその姿は木の葉の蔭に隠れて見えない、ということがよくありますが、これはまさに平安後期の公卿、歌人の徳大寺実定の和歌「ほととぎす鳴きつる方を眺むれば ただ有明の月ぞ残れる」の情景を描いたものだったのです。
烏帽子を被った公卿が眺める視線の先には月が浮かんでいるだけで、その前の「ほとゝぎすなきつるかたを」の文字は残された鳴き声を表しているように思えました。


真夏の情趣


「真夏の情趣」展示風景

上の写真中央の屏風は、尾形光琳《夏草図屏風》。

尾形光琳《夏草図屏風》日本・江戸時代 18世紀


夏を中心に30種近い草花が下からモクモクと湧き上がるように対角線に配置されているこの構図は「さすが光琳!」というセンスの良さを感じます。

今回の企画展では、次の「夏から秋へ」のコーナーで弟・乾山の色絵角皿も展示されていて、兄弟のコラボが実現しているのもうれしいです。

右から 尾形乾山《色絵桔梗図角皿》《色絵桐図角皿》(5枚のうち1枚)
《色絵紫陽花図角皿》いずれも日本・江戸時代 18世紀


光琳の弟子・立林何帛の作と伝わる掛軸は、現代の私たちにとっては少し意外な題材ですが、コウモリが描かれています。

伝 立林何帛《橋蝙蝠図》日本・江戸時代18世紀
小林中氏寄贈

ドラキュラのモチーフになったり、イソップ物語では鳥とけもののどっちつかずで「ずるい」というイメージがあったりで、西洋ではあまり良くないイメージがありますが、中国では「蝙蝠」の「蝠」の字が「福」に通じることから幸福を招く縁起物とされているのです。
コウモリが飛んでいるあたりに夏の夕暮れをあらわす金泥の帯がうっすらと描かれています。


夏から秋へ


「夏から秋へ」展示風景

桜と紅葉のように春と秋の情景の組み合わせは古くから描かれていましたが、夏と秋の組み合わせが目立つようになったのは江戸時代に入ってからのことでした。
そのルーツともいえるのが伊年印《夏秋草図屏風》。

伊年印《夏秋草図屏風》日本・江戸時代 17世紀

画風から、俵屋宗達の2世代後の後継者・喜多川相説周辺で制作されたとみられるこの屏風には、夏から秋にかけての草花が高さを変えてまるで音符のようにリズミカルに配置されているので、目の前で見ていると優雅な音楽が聞こえてくるように感じられます。

続いては江戸琳派の異才・鈴木其一の重要文化財《夏秋渓流図屏風》。

【重要文化財】鈴木其一《夏秋渓流図屏風》
日本・江戸時代 19世紀


酒井抱一の内弟子時代を経て、抱一没後に独自の境地を切り開いた其一の代表作であるこの屏風は、現実の景色を描いているはずなのに、渓流はあまりに青く、緑苔はあざやかな緑一色。背景の金地と相まって現実とはかけ離れた空間にいるような雰囲気を醸し出しています。
右隻には檜にとまる蝉が描かれています。
画面全体に蝉の鳴き声が響いているようで、この作品のシュールがさらに増してくるように感じられました。


涼秋の候


「涼秋の候」展示風景

今回の企画展は絵画が中心ですが、独立ケースに展示されている焼物がおしゃれなアクセントになっています。
上の写真の手前は、江戸初期の京焼の陶工・野々村仁清作《御深井写菊花透文深鉢》。

秋の涼し気な空気感が墨の濃淡で表された水墨山水画を描いたのは、師・狩野山楽から京狩野を引き継ぎ、独創的な画風の作品を描いた狩野山雪。
水墨山水ファンにはたまらない逸品です。

狩野山雪《秋景山水図》日本・江戸時代 17世紀


秋の叢


「秋の叢」展示風景


和歌に詠われた武蔵野が描かれた屏風を見ると、ススキの影に隠れている月をつい探してしまいますが、《武蔵野図屏風》(下の写真)の左隻に描かれている月は大きくてすぐに気が付きました。そのうえ右隻には月と同じくらい大きな太陽まで描かれています。
この屏風は、中世やまと絵の日月山水図の伝統を受け継ぐものと思われている作品なのです。

《武蔵野図屏風》日本・江戸時代 17世紀


今回展示されている作品の中で一番驚いたのが《秋野蜘蛛巣蒔絵硯箱・料紙箱》でした。
箱一面に秋の草花が施された見事な蒔絵の箱のうち右の箱の蓋には繊細な蜘蛛の巣が張めぐされているので、そこにはどのような蜘蛛が描かれているのかと覗きこんでみると、蜘蛛の巣の中心には「蜘」という一文字が書かれていたのです。
蒔絵の箱には和歌の文字を「散らし書き」のように配置することはありますが、これだけ堂々とした説得力のある「散らし書き」の文字を見たのは初めてでした。

《秋野蜘蛛巣蒔絵硯箱・料紙箱》日本・江戸~明治時代 19世紀


【同時開催】

展示室5 やきものにみる白の彩り

展示室5では、白い陶磁器の数々が展示されているのですが、さまざまな色の「白」があって、どれもがそれぞれ特徴ある美しい輝きを持っていることに気が付かされます。

展示室5展示風景

どうすればこれだけ精巧で、白く滑らかな焼物を作れるのだろうと驚いたのが、中国・福建省の徳化窯で制作された《白磁千手観音坐像》。
獅子や猿、鳥などの動物を象った置物や観音像、神像に優れた徳化窯の白磁がヨーロッパで人気を博したことがよくわかりました。

《白磁千手観音坐像》徳化窯
中国・明時代 16世紀



展示室6 名残の茶

11月以降は新茶が出る季節なので、一年間楽しんだ前年の茶葉や、初夏から慣れ親しんだ風炉は10月で使い納め。展示室6には、その名残を惜しんだ茶道具が展示されています。

展示室6展示風景

「柿の蔕」とは茶碗を伏せた姿や色調が柿の蔕に似ていることによるもので、割れて繕われた姿が、分かれても合流する急流にたとえ「瀧川」という銘がつけられました。
近くでよく見ると繕われた跡がよくわかりますが、割れた茶碗に詩的なものを見出す昔の人たちの美意識に感銘を受けました。

《柿の蔕茶碗 銘 瀧川》朝鮮・朝鮮時代 16世紀




ミュージアムショップ

せっかくの機会ですので、【重要文化財】鈴木其一《夏秋渓流図屏風》の関連グッズをご自宅に飾ってみてはいかがでしょうか。

ミュージアムショップ


私は絵はがきを畳模様のシールを貼ったコレクションケースに入れて部屋に飾り、毎日眺めています。



企画展「夏と秋の美学 鈴木其一と伊年印の優品とともに」の会期は10月20日(日)まで。
夏から秋への季節の移ろいが感じられる、この秋おすすめの展覧会です。

2024年9月19日木曜日

静嘉堂@丸の内 特別展「眼福ー大名家旧蔵、静嘉堂茶道具の粋」

東京駅すぐ近くの明治生命館1階にある静嘉堂@丸の内では、特別展「眼福ー大名家旧蔵、静嘉堂茶道具の粋」が開催されています。

展覧会チラシ


今回の特別展は、三菱第2代社長・岩﨑彌之助氏(1851-1908)と三菱第4代社長・岩﨑小彌太氏(1879-1945)の父子によって蒐集された約1,400件にものぼる静嘉堂の茶道具コレクションの中から、将軍家や大名家が旧蔵していた茶道具の名品をはじめ選りすぐりの79件が展示される超豪華な内容の展覧会です。
そのうえ、静嘉堂が丸の内のギャラリーに移転してからは初めて、静嘉堂としても8年ぶりとなる茶道具展ですので、開幕を心待ちにしていました。

特別展のタイトルは「眼福」。
貴重なものや珍しいもの、美しいものなどを見ることができた幸福感に浸ることができる展覧会ですので、さっそく展示の様子をご紹介したいと思います。


展覧会開催概要


会 期  2024年9月10日(火)~11月4日(月・振休)
  ※会期中一部展示替えあり 前期:9/10-10/6 後期:10/8-11/4
会 場  静嘉堂@丸の内(明治生命館1階)
休館日  毎週月曜日(ただし、9/16、9/23、10/14、11/4は開館し翌火曜休館予定)
開館時間 午前10時~午後5時
  ※土曜日は午後6時まで/第4水曜日は午後8時まで(入館は閉館の30分前まで)
入館料  一般1,500円※お着物の方は一般料金の200円引。他の割引との併用不可。
     大高生1,000円 中学生以下無料
※展覧会の詳細、関連イベント等は同館公式ホームページをご覧ください⇒https://www.seikado.or.jp/ 

展示構成
 Gallery1:”眼福”をー岩﨑彌之助・小彌太父子蒐集の名碗から
 Gallery2:憧れの茶入ー”大名物”、”中興名物”の賞玩
 Gallery3:静嘉堂茶道具の粋ー大名家の名宝、”眼福”の逸品
 Gallery4:名宝を伝えゆく”茶の湯”ー淀藩主 稲葉家から岩﨑家へ

※国宝《曜変天目》(Gallery4)以外は携帯電話、スマホ、タブレットで撮影OKです。ただし、カメラでの撮影、動画撮影、フラッシュ撮影はできません。館内で撮影の注意事項をご確認ください。
※記事内では国宝《曜変天目》の写真も掲載していますが、報道内覧会で主催者より特別に許可を得て撮影したものです。
※展示されている作品はすべて静嘉堂所蔵です。
※前期展示の作品はその旨記載しました。無印の作品は全期間展示です。


Gallery1 ”眼福”をー岩﨑彌之助・小彌太父子蒐集の名碗から



Gallery1に展示されているのは、中国から伝来した天目茶碗、朝鮮半島でつくられた高麗茶碗、千利休が創始したとされる樂茶碗の優品の数々。
そして。ホワイエには和物(国焼)茶碗が展示されていて、まさに東アジアの名碗オールスター勢ぞろいの感があります。


Gallery1 展示風景 

冒頭に展示されているのは中国福建省にあった建窯で焼かれた重要文化財《油滴天目》。
「油滴」は「曜変」に次いで評価の高かった天目茶碗で、油の滴(しずく)が水面に細かく散ったような斑紋は、まるで夜空に煌めく星のよう。幻想的な光景が広がっています。

※天目茶碗とは、もとは中国浙江省天目山等に留学した僧侶たちが日本に持ち帰ったことからこのように呼ばれたもので、現在では広い口に窄まった高台をもつ「天目形」の碗で黒釉のかかった茶碗の総称として用いられています。

重要文化財「油滴天目」南宋時代(12-13世紀)
(付属)「堆朱花卉天目台」明時代(15世紀初期)

明時代の堆朱の天目台は水戸徳川家に伝来したもの。
厚く塗り重ねた朱漆の層にいくつもの種類の花卉が彫り表されている優品ですので、こちらもあわせてご覧いただきたいです。


ホワイエに展示されている和物茶碗は、美濃焼の一種で茶人・古田織部(1544-1615)の好みを受けた陶器とみなされることからその名がついた「黒織部茶碗 銘 うたたね」。茶道具の銘にはさまざまな由来がありますが、「うたたね」の銘の由来は不明とのこと。
それにしても、この茶碗の前に立つと気持ちが落ち着いて、うとうとしてしまいそうになるから不思議です。

「黒織部茶碗 銘 うたたね」江戸時代(17世紀)
前期展示(9/10-10/6)


Gallery2 憧れの茶入ー”大名物”、”中興名物”の賞玩


Gallery2には茶入の名品が並んでいるのですが、いつもと様子が違います。
茶入の展示ではたいていは茶入だけがぽつんと展示されているのですが、今回はご覧のとおり茶入を包む仕覆(しふく)や箱など付属品も所狭しと並んで展示されているのです。

Gallery2展示風景

古くから由緒のある、すぐれた茶道具のことを「名物」といいますが、特に千利休(1522-91)以前に選定されたものを「大名物(おおめいぶつ)」、江戸初期の茶人・造園家として知られる小堀遠州(1579-1647)の時代に評価されたものを「中興名物(ちゅうこうめいぶつ)」といいます。
今回の特別展では、静嘉堂が所蔵する「大名物」の茶入7点、「中興名物」の茶入5点すべてが展示されています。こんな贅沢な空間は二度と再現されないかもしれないので、必見です!

大名物の中でも特に注目したいのは、大名物「唐物茄子茶入 付藻茄子」と、室町末期の豪商・茶人で千利休の師、竹野紹鴎(1502-55)が所有していたことから「紹鴎茄子」とも呼ばれる大名物「唐物茄子茶入 松本茄子(紹鴎茄子)」。

右 大名物「唐物茄子茶入 付藻茄子」
左 大名物「唐物茄子茶入 松本茄子(紹鴎茄子)」
どちらも南宋~元時代(13-14世紀)

足利将軍家からの伝来を誇る「付藻茄子」は、戦国時代に所持した松永久秀が織田信長に献上して大和国一円の領地を安堵されたというエピソードでも知られています。掌に乗るくらいの小さな茶入ですが、当時の戦国武将にとっては一つの国に匹敵するぐらいの価値があったのです。
「付藻茄子」も、「松本茄子」も、信長、秀吉が所有し、どちらも大坂夏の陣で大坂城が落城したあと家康が焼け跡を捜索させ、見つかった破片を集めて修復させて家康の手に渡ったという激動の時代を生き抜いた茶入ですが、明治17年(1884)にこれらの茶入を入手できる話が持ち込まれた時、当時若かった彌之助氏はあまりに高価だったため、会社から年末の給与を前借りして購入したというエピソードも残されています。
この小さな茶入の中には多くのドラマがぎっしりと詰め込まれていることがわかりました。


元時代の「内赤外青漆四方盆(若狭盆)」の上に乗っているのは大名物「唐物肩衝茶入 瘤肩衝(佐々肩衝)」。
茶入を収納する「挽家(ひきや)」と呼ばれる硬い木材を用いた筒型の容器、明時代やインドなど国際色豊かな名物裂で作られる、箱を包む風呂敷や茶入を包む仕覆(しふく)、そして茶入を何重にも保護するいくつもの木箱。
このような展示を見ていると、茶入だけでなく、名品の茶入を保護する「次第(しだい)」と呼ばれる付属品を含めたすべてが一つの美術作品であるように思えてきました。


大名物「唐物肩衝茶入 瘤肩衝(佐々肩衝)」
南宋~元時代(13-14世紀)

Gallery3 静嘉堂茶道具の粋ー大名家の名宝、”眼福”の逸品


仙台藩主伊達家、加賀藩主前田家、丸亀藩主京極家はじめ、大名家ゆかりの名宝を数多く所蔵するのが静嘉堂の茶道具コレクションの特徴です。

Gallery3展示風景


今回の見どころのひとつは、展示スペースが広くなった丸の内のギャラリーだからこそ実現した、静嘉堂が所蔵する猿曳棚4点そろい踏み。


Gallery3展示風景


床に接した部分に袋棚(地袋)があるこの棚は、引戸に猿曳の絵が描かれていることから「猿曳棚」と呼ばれ(竹野紹鴎が好んだとされることから「紹鴎棚」とも呼ばれています)、伊達政宗に茶道役として仕えることになった清水道閑(どうかん 1579-1648)が京都から仙台に下るとき、師・古田織部から選別に贈られたもので、その後、清水家ではこの「本歌」(オリジナル)を大切に伝えるとともに、猿曳の絵を狩野派絵師に描かせた写しを複数製作しました。
今回は、静嘉堂が所蔵する「本歌」と、写し3点(板絵が①江戸時代、狩野派(筆者不詳)のもの、②明治18年(1885)、狩野永悳筆のもの、③明治時代、橋本雅邦の筆と伝えるもの)の全4点を一挙公開しています。
特に最後の1点は、木挽町狩野派出身で、静嘉堂が所蔵する重要文化財《龍虎図屏風》の作者でもある橋本雅邦の筆の可能性があるものなので、ぜひ近くでご覧いただきたいです。

江戸時代初期の陶工、野々村仁清の華やいだ雰囲気のある作品が見られるのもうれしいです。

Gallery3展示風景

景徳鎮窯や七宝の特徴ある水指も展示されています。前期後期で展示替えがあるので、後期も来なくては!

Gallery3展示風景


Gallery4 名宝を伝えゆく”茶の湯”ー淀藩主 稲葉家から岩﨑家へ


静嘉堂所蔵の茶道具のなかでもっともよく知られているのが、「完全な形で残っているのは世界に3碗しかなく、それもすべて日本にあって、どれも国宝」のうちの貴重な1碗、国宝「曜変天目(稲葉天目)」。
(ほかの2碗は、京都・大徳寺塔頭の龍光院、大阪・藤田美術館が所蔵)



国宝「曜変天目(稲葉天目)」南宋時代(12-13世紀)


Gallery4では、国宝「曜変天目(稲葉天目)」と、同じく稲葉家伝来の大名物「唐物瓢箪茶入 稲葉瓢箪」が展示されています。

Gallery4展示風景

どちらも高く評価されているもので、彌之助氏が「唐物瓢箪茶入 稲葉瓢箪」を購入したのが明治30年(1897)、一方の「曜変天目(稲葉天目)」は大正7年(1918)に稲葉家から親戚の小野家に渡り、昭和9年(1934)に小彌太氏の所有になりました。
「曜変天目(稲葉天目)」には当主の譲り状が添えられていたとのことですが、そこには、譲るなら「唐物瓢箪茶入 稲葉瓢箪」を所蔵している岩﨑家に、との思いが込められていたように感じられました。
Gallery4では稲葉家旧蔵の名宝2品を同じスペースの中で見ることができます。


ミュージアムショップに移ります。

今ではすっかりおなじみとなったのが「ほぼ実寸の曜変天目ぬいぐるみ」(税込5800円)。




特別展「眼福ー大名家旧蔵、静嘉堂茶道具の粋」の展示作品全てのカラー写真と詳しい解説、茶道具の専門家によるコラムが掲載された図録は永久保存版です。(税込2,200円)



静嘉堂の質量ともに充実した茶道具コレクションの粋を見て幸せな気分になってみませんか。この秋おすすめの展覧会です。

2024年9月8日日曜日

【9月29日(日)開幕!】山種美術館【特別展】没後50年記念 福田平八郎✖琳派

東京・広尾の山種美術館では、9月29日(日)から【特別展】没後50年記念 福田平八郎✖琳派が開催されます。

今回の特別展は、福田平八郎(1892-1974)の没後50年を記念して、初期の写実的な作品から晩年の単純な色彩と大胆な構図の作品まで、平八郎の画業の変遷をたどる、山種美術館では12年ぶりに開催される展覧会です。
今年(2024年)は大阪と平八郎の生まれ故郷の大分で回顧展が開催されましたが、東京には巡回しなかったので、都内で開催されるのを心待ちにしていました。

展覧会チラシ


それではさっそく展覧会の見どころをご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 期  2024年9月29日(日)~12月8日(日)
開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日  月曜日[10/14(月・祝)、11/4(月・振休)は開館、10/15(火)、11/5(火)は休館]
入館料  一般1400円(1200円)、大学生・高校生1100円(1000円)*( )内は前売り料金
     ※前売券は、9月28日まで。
               中学生以下無料(付添者の同伴が必要です) 
各種割引、展覧会の詳細、関連イベント等は山種美術館公式サイトをご覧ください⇒https://www.yamatane-museum.jp/



見どころ1 福田平八郎の初期から晩年までの名品が集結!


画面中央にはボリューム感のある淡いピンク色の牡丹、画面左には寄り添うようにすらっとした枝に咲く濃い赤色の牡丹が配置されたこの《牡丹》(山種美術館)を初めて見た時に受けた強い印象は今でも鮮明に覚えています。


 
福田平八郎《牡丹》1924(大正13)年 山種美術館

一つひとつの花の花びらが陰影をつけて細かく描かれているのでひらひらと動くように見えて、全体的に暗いトーンの色調が妖艶的な雰囲気を醸し出しているように感じられたこの作品は、後から知ったのですが、徹底した細密表現で対象を写実的に描いた大正期の代表作だったのです。

一方で私たちがよく知っている平八郎は、メインビジュアルにある《筍》(山種美術館)のように対象の特徴をとらえて単純化して表現した作品を描く画家というイメージがありますが、全く画風の違う作品を見比べることができるのが、今回の特別展の楽しみのひとつです。

福田平八郎《筍》1947(昭和22)年 山種美術館

単純化といってもけっして描いている情報量が少なくなったわけではありません。
2本の筍の皮の質感や皮の間から出てくる緑色の芽の息吹がよく伝わってきますし、画面一面には竹の葉がリズミカルに描かれています。
本物の竹の葉は緑色で、枯れた部分は茶色に変色しますが、あえて色をつけていないので、主題の筍がより一層引き立ちます。

《牡丹》と同じく花を描いている《芥子花》(山種美術館)ですが、絵の印象は全く異なります。
花もつぼみも可愛らしく、くねっと曲がった何本もの茎がリズミカル。画面右から出てくるつぼみは「私も入れて」と言っているようです。

福田平八郎《芥子花》1940(昭和15)年頃 山種美術館


《牡丹》、《筍》、《芥子花》と続きましたが、平八郎の作品はタイトルもシンプルです。
川の中を元気よく泳ぐ鮎を描いた作品はそのものずばり《鮎》(山種美術館)。


福田平八郎《鮎》1940(昭和15)年 山種美術館

多くを語らず、秋の彩りを色づく葉とススキだけで描き切ってしまうところが平八郎のすごいところではないでしょうか。タイトルも《彩秋》(山種美術館)。


福田平八郎《彩秋》1943(昭和18)年 山種美術館


大正期から戦後すぐまでの作品を見てきましたが、《紅白餅三鶴》(山種美術館)は晩年の作。おめでたい紅白餅のふっくらとした丸みと、色違いの折り鶴の直線の対比が見どころです。

福田平八郎《紅白餅三鶴》1960(昭和35)年頃 個人蔵


見どころ2 琳派も登場!一度で二度楽しめる展覧会!



今回の特別展のもう一つの見どころは、平八郎に影響を与えた琳派の作品が見られることです。

琳派は、江戸前期の俵屋宗達に始まり、江戸中期の尾形光琳、江戸後期の酒井抱一、鈴木其一に受け継がれてきた装飾的でデザイン性に優れた画風を特徴とした流派で、狩野派のように世襲ではなく、私淑によって江戸時代を通じて受け継がれてきました。

今回の特別展では、琳派の祖・俵屋宗達や、酒井抱一、鈴木其一の作品によって琳派の流れをたどることができます。

最初にご紹介するのは、俵屋宗達(絵)と本阿弥光悦(書)のコラボ作品《四季草花下絵和歌短冊帖》(山種美術館)。
金銀泥が使われたきらびやかな下絵と、太い文字と細い文字の差をつけた光悦流のリズム感あふれる書体で書かれた和歌がみごとに調和した、うっとりするような超豪華な作品です。

俵屋宗達(絵)・本阿弥光悦(書)《四季草花下絵和歌短冊帖》
(18枚のうち)17世紀(江戸時代) 山種美術館

うねるような幹が迫力を感じさせてくれるのが、伝 俵屋宗達《槙楓図》(山種美術館)。

伝 俵屋宗達《槙楓図》17世紀(江戸時代) 山種美術館

光琳に私淑した酒井抱一が江戸で発展させた江戸琳派の優れた作品も展示されます。

背景に浮かぶ月、細い線で描かれた秋草や色付いた葉、餌をついばむ鶉の群れ。
秋の気配を感じさせるおしゃれな作品は、酒井抱一《秋草鶉図》【重要美術品】(山種美術館)。


酒井抱一《秋草鶉図》【重要美術品】19世紀(江戸時代) 
山種美術館

酒井抱一の作品は、ほかにも《飛雪白鷺図》、《菊小禽図》(どちらも山種美術館)が展示されるので、繊細で洒脱な抱一作品がまとまって見られるのもうれしいです。

酒井抱一《飛雪白鷺図》19世紀(江戸時代)
山種美術館


酒井抱一《菊小禽図》19世紀(江戸時代)
山種美術館

抱一の内弟子として修業して、抱一没後はその跡を継いで独創的な境地を切り開いた鈴木其一の作品も展示されます。

右隻には春夏の草花と鶏の親子(ヒヨコが可愛い!)、左隻には秋冬の草花と鴛鴦(おしどり)のつがいが描かれた《四季花鳥図》(山種美術館)は、写実を超えたシュールな雰囲気が感じられる大好きな作品です。


鈴木其一《四季花鳥図》19世紀(江戸時代) 山種美術館

多くの美術ファンに愛されている近代日本画家、福田平八郎と、同じく日本で人気の高い琳派の作品が同時に楽しめる展覧会です。ぜひご覧ください!

2024年9月3日火曜日

泉屋博古館東京 特別展「昭和モダーン モザイクのいろどり 板谷梅樹の世界」 

東京・六本木の泉屋博古館東京では特別展 昭和モダーン モザイクのいろどり 板谷梅樹の世界が開催されています。

泉屋博古館東京エントランス

板谷梅樹(いたや・うめき 1907-1963)と聞いてピンとくる方はあまり多くないかもしれません。実は筆者は今回初めて名前をおうかがいしたのですが、「板谷」という名字から、もしかしたら日本を代表する陶芸家・板谷波山のご親族の方ではと思ったところ、波山の五男とのことで、息子さんも芸術家として活躍されていたことを初めて知り驚いてしまいました。
さらに梅樹は、完璧主義者の波山が失敗した陶芸作品を世に出ないようにと自らの手で割った陶片の美しさに魅了されて、その陶片をモザイク作品に使ったというのですから驚きも2倍。
事前にメインビジュアルにある《鳥》を見ていたので、この作品のほかにも陶片を使ってどんなにカラフルな作品が展示されているのかワクワクしながら会場に向かいました。

展覧会開催概要


会 期  2024年8月31日(土)~9月29日(日)
開館時間 11:00~18:00(金曜日は19:00まで開館 ※入館は閉館の30分前まで)
休館日  月曜日、9月17日・24日(火) ※9/16・23(月・祝休)は開館
入館料  一般1,200円、高大生800円、中学生以下無料
※展覧会の詳細、関連イベント等は同館公式サイトをご覧ください⇒泉屋博古館東京

展示構成
 〈展示室1〉第Ⅰ章 モザイクの世界で
 〈展示室2〉第Ⅱ章 日常にいろどりを
 〈展示室3〉第Ⅲ章 住友コレクションと板谷家
 〈展示室4〉特集展示 住友コレクションの茶道具

※撮影はホール内のみ可能です。掲載した写真はプレス内覧会で主催者の許可を得て撮影したものです。

第Ⅰ章 モザイクの世界で


色とりどりの花、可愛らしい動物たち、オシャレな飾箱や飾皿。
今回の特別展の大きな見どころは、なんといってもカラフルな梅樹作品がまとまってみられるまたとないチャンスということです。

第Ⅰ章展示風景

第1展示室の奥に向かうと見えてきました!今回の特別展のメインビジュアルになっている《鳥》、そして鮮やかな色彩の花の作品が。
下の写真中央が、昭和34(1959)年に梅樹が第2回日展に出品した《鳥》(個人蔵)です。

第Ⅰ章展示風景

作品の色鮮やかさにも目を奪われますが、それ以外に気が付いたのは構図の見事さ。
今回展示されている作品だけを見た印象なのですが、背景を大きくとらずに花や動物が画面いっぱいにきちっと収まるように配置されているのです。

板谷梅樹《花》個人蔵


いくつもの花は茎を曲線で描くことによって大きな画面全体に配置されていて、きりんは首を伸ばしているのでなく、この楕円の画面に収めるにはこのポーズしかないという、地面の草を食んでいる姿で描かれています。

板谷梅樹《きりん》個人蔵

つぶらな瞳に作者の動物に対する愛が込められているように感じられるこの作品は、今回の特別展の筆者のお気に入りの一点です。

梅樹の代表作であり最大の作品は、有楽町駅前にあった旧日本劇場一階玄関ホールの巨大なモザイク壁画でした(昭和8年(1933)作、原画:川島理一郎)。
建物の解体とともに壊される運命にあるモザイク壁画の常として、昭和56年(1981)に日本劇場の解体とともに、このモザイク壁画も遺族が引き取った一部を除き失われましたが、今回の特別展では写真やパネル作品で往時を偲ぶことができます。
下の写真左下は、川島理一郎《日劇壁画下絵(「天」、「地」、「動物と植物」)》(栃木県立美術館蔵)です。
第Ⅰ章展示風景

梅樹が実際に使用した陶片・ステンドグラス用のガラス片(板谷波山記念館)や道具類も展示されています。
梅樹のモザイク作品は、波山の陶片だけで制作されたのではなく、白磁や青磁などの波山の陶片に加え、梅樹自身が集めた多くの陶片や専用のタイルで制作されたのでした。

第Ⅰ章展示風景

梅樹の最大のモザイク壁画は失われましたが、現存最大の梅樹作品は今回の特別展に展示されています。
ホールに展示されているこの作品は撮影可です。
(SNSで発信するときのハッシュタグは「#板谷梅樹の世界」です。)


板谷梅樹《三井用水取入所風景》板谷波山記念館蔵

高さ約3.7m、重さ約400kgもあるこの作品は、近代水道発祥の地・横浜市からの依頼で制作されたもので、第10回日展に出品後、横浜市水道局に納められ、昭和62(1987)年からは近代水道100周年を記念して開館した「横浜市水道記念館」1階ロビーに展覧されていましたが、令和3(2021)年の同館閉館に伴い板谷波山記念館に寄贈されたものです。
生まれてこのかたずっと横浜市水道局の水を飲み続けている筆者ですが、この作品の存在は全く知らなかったので、ご縁があってこの場でじっくり拝見することができて感慨深いものがありました。


第Ⅱ章 日常にいろどりを


モザイクというと、イタリアのポンペイ遺跡で発見された「アレクサンドロス大王のモザイク」に代表されるように大きな作品が思い浮かんでくるので、旧日本劇場のモザイク壁画はそのイメージにぴったりでしたが、梅樹は、戦時中は疎開していて大きな作品が作れなかったことや、銀座・和光から和装用の帯留や洋装用のペンダントの制作を依頼されたことなどから、莨(たばこ)箱や灰皿、ベルトのバックルやカフスボタン、ネックレスやブローチなど、生活に身近な小さな装飾品も制作していました。

第Ⅱ章展示風景

小さなアイテムの中に小さな陶片を嵌め込んで作られた装飾品はとてもオシャレで、今でも人気が出そうです。

第Ⅱ章展示風景

梅樹はモザイク画だけでなく、父・波山と東京美術学校の同期の小川三知のもとでアメリカ式(ティファニー式)ステンドグラスを学び、ステンドグラスの作品も残しています。

こちらは珍しい板谷波山、梅樹親子のコラボ作品のランプシェード。
波山が制作した陶器に穴が開いてしまったため、梅樹が台座として活用したもので、大正末期から昭和初期にかけて生活が洋装化する中、洋室の室内に合った、まさに「昭和モダーン」の雰囲気が出ています。

板谷梅樹《ランプシェード(台座:板谷波山)》(山)長谷川コレクション
*(山)は〇の中に山と記載し「まるやま」と読みます。


第Ⅲ章 住友コレクションと板谷家


第Ⅲ章には、波山の代表作の一つ【重要文化財】板谷波山《葆光彩磁珍果文花瓶》はじめ住友コレクションの波山作品の名品が展示されています。

第Ⅲ章展示風景

淡い色調が上品さを醸し出している【重要文化財】板谷波山《葆光彩磁珍果文花瓶》は、2022年に泉屋博古館東京で開催された「板谷波山の陶芸」展以来の再会です。

板谷波山【重要文化財】《葆光彩磁珍果文花瓶》 泉屋博古館東京蔵


波山作品とともに、妻・まる(号:玉蘭)や長男・菊男の陶芸作品など、板谷ファミリーの作品が展示されてますが、どれもさすがに板谷家スタンダードの見事な出来栄えです。

右 板谷まる(号:玉蘭)《彩磁山葡萄小禽模様花瓶》
左 板谷菊男《彩磁小禽模様花瓶》
どちらも泉屋博古館東京蔵 



特集展示 住友コレクションの茶道具 


多くは住友家15代当主・住友春翠氏(1864-1926)が収集した住友コレクションの茶道具の中でも、今回の注目はなんと言っても京焼の名工・野々村仁清の《唐物写十九種茶入》。



特集展示 展示風景

もとは近衛家に伝来した仁清の茶入十九種が仕覆も揃って一堂に展示されるのは東京館では初めてとのことです。

十九種の茶入は、その形によってそれぞれ名称が付いているのですが、肩衝や茄子といったよく知られているものだけでなく、首が長いので鶴首、丸っこい形をしているので南瓜(かぼちゃ)などそのものずばりの名称のものや、両側に把手がついた水滴という茶入もあり、金襴をはじめ高級感あふれる名物裂の仕覆とともに一つひとつじっくり見ていたくなります。

特集展示 展示風景


来館の記念には今回の特別展に展示されている板谷梅樹作品が紹介されている図録がおすすめです。ハンディサイズなので持ち運びにも便利です。
ミュージアムショップで販売中(税込1,800円)!



会期は9月29日(日)まで。
いろどり豊かな板谷梅樹の世界をぜひお楽しみください!