2023年10月9日月曜日

三井記念美術館 特別展「超絶技巧、未来へ! 明治工芸とそのDNA」

東京・日本橋の三井記念美術館では特別展「超絶技巧、未来へ! 明治工芸とそのDNA」が開催されています。

展覧会チラシ

今回の展覧会は、2014~15年に全国巡回した「超絶技巧!明治工芸の粋」展、2017~19年に全国巡回した「驚異の超絶技巧!明治工芸から現代アートへ」展に続く「超絶技巧」シリーズの第3弾。
今回は、金属、木、陶器、漆、ガラス、紙などの素材を用い、現在進行形で新たな表現に挑戦する現代作家のアッと驚く作品を中心に、超絶技巧のルーツでもある明治工芸の逸品もあわせて見られる超豪華な内容の展覧会です。

それでは先月開催された《超絶!SNS内覧会》に参加してきましたので、会場の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 期  2023年9月12日(火)~11月26日(日)
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日  月曜日(ただし10月9日は開館)、10月10日(火)
入館料  一般1,500円(1,300円)、大学・高校生1,000円(900円)、中学生以下無料
     (カッコ内は団体(20名以上)料金) 
    *70歳以上の方は1,200円(要証明)
    *リピーター割引:会期中一般券、学生券の半券のご提示で、2回目以降は団体料金
     となります。
    *障害者手帳をご呈示いただいた方、およびその介護者1名は無料です(ミライ
     ロIDも可)。
※展覧会の詳細、展覧会関連イベント等については、同館ホームページをご覧ください⇒三井記念美術館

※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は《超絶!SNS内覧会》にて許可を得て撮影したものです。
※一部撮影可の作品があります。
※所属先に記載のない作品は個人蔵です。


今回の超絶技巧展も驚きの連続でしたが、受付のあるエントランスホールの展示にまずは驚かされました。

金属を叩いて変形させる鍛金(たんきん)の中でも特に最も難しいとされる鉄鍛金の技法を独自の研究で現代に復活させて立体作品を制作している本郷真也さんの《Visible 01 境界》は、烏を実物大で表した作品ですが、ただの烏ではないのです。

本郷真也《Visible 01 境界》2021年 鉄、赤銅、銀

初めに骨格と筋肉を形にした上から羽を一枚ずつ重ね付け内部構造まで造り上げ、さらには烏が餌と間違えて飲み込んだキャンディーの袋のかけらを銀で表して胃の中に置いたというしろもの。
右上のモニターにはCTスキャンによって撮影された内部の構造が映し出されています。
レーザー光線によってどの部分がスキャンされているわかるので、その場で胃の中や内部構造を確認してみてください。 

展示前室でもまたまた驚かされました。

古代エジプトのオベリスクを思わせるような形をした作品は池田晃将さんの《Airtifact03》。
表面に黒漆を施した木の上に、夜光貝や鮑貝などの真珠色に光る部分を漆地の面に貼り付けたり、嵌め込む螺鈿という技法で0~9の数字を並べている作品ですが、まるで電子機器の基板のようにも見えてきます。
螺鈿という古来からの技法と現代的なデザインが不思議な魅力を醸し出しているのかもしれません。

池田晃将《Artifact03》2019年 漆、栃、鮑貝


展示室に入る前にすっかり驚かされてしまいましたが、展示室に入ってからも驚きの作品が続きます。

展示室1 入口


展示室1の入口左に見えるオレンジのマークは写真撮影可の印です。このマークのある作品は撮影ができるので、ハッシュタグ「#超絶技巧展」「#三井記念美術館」をつけてSNSにアップしましょう!


《超絶!SNS内覧会》には、木彫作品を出展されている福田享さんが特別に参加されていて、制作の際に苦心したことなどをおうかがいすることができました。

こちらは板の上の水滴の表現が話題になっている《吸水》。

福田享《吸水》2022年
 黒檀、黒柿、柿、真弓、朴、苦木、柳、ペロバローザ

現代作家の作品は、出品目録に作家名、作品タイトル、制作年とあわせて素材の記載がありますが、超絶技巧の作品は素材にも注目したいので作品紹介のキャプションにも記載しました。

1994年生まれで、今回の展覧会に出品されている17人の作家の中では最年少の福田享さんのこだわりは木の色。
この《吸水》でも多くの種類の木が使われていますが、着色ではなくすべてオリジナルの木の色で、アゲハチョウの羽も黄色の木を嵌め込んだ「立体木象嵌」。そして板の上の水滴も貼り付けたのではなく、一枚の板を彫って浮き彫りにしたもので、水滴部分だけ研磨してつやを出すのに苦労されたとのこと。

《吸水》は福田さんのこだわりがぎゅっと詰まった作品なのです。

展示室2に移ります。

毎回、三井記念美術館が所蔵する国宝《志野茶碗 銘卯花墻》はじめそれぞれの展覧会の逸品が展示される展示室2には、大竹亮峯さんの木彫作品《月光》が展示されています。

動物や植物などを精緻に写し取り、「動く彫刻」が多いのが大竹さんの特徴ですが、1年に1度、夜にだけ大輪の花を咲かせるといわれる月光を表したこの作品も、花器に水を注ぐとゆっくりと花が開く仕掛けになっているのです。
展示中は花が開いた状態になっていますが、エントランスホール横の映像ギャラリーで花が開く様子の映像を見ることができるのでぜひご覧ください。

大竹亮峯《月光》2020年 鹿角、神代欅、楓、榧、チタン合金


普段は茶道具が展示されている国宝の茶室「如庵」を再現した展示室3にも現代の超絶技巧の作品が展示されています。
下の写真手前は、素材を薄さ数ミリまで彫り込み、生と死の境界を作り上げる松本涼さんの木彫《涅槃》。枯れゆく大菊の姿を悟りを開いて入滅する釈迦の姿に見立てたこの作品は、侘び寂びの世界にとてもしっくりくるように感じられました。


展示室3 展示風景
手前 松本涼《涅槃》2021年 樟 


展示室4に移ります。

展示室4 展示風景
手前 本郷真也《円相》2023年 鉄、金

こちらも話題沸騰のスルメ。
前原冬樹さんの木彫作品なのですが、近くで見てもスルメにしか見えません。
そして横にある茶碗もどう見ても陶器の茶碗にしか見えません。
しかしこの作品の材質は木、それも一本の木なのです。タイトルの《一刻》にあるように一木にこだわる前原さんならではの作品です。

前原冬樹《《一刻》スルメに茶碗》2022年 朴、油彩、墨


展示室4から5にかけては明治工芸の逸品が登場してきます。

展示室5 展示風景


展示室5の七宝作品の中で見覚えのあるデザインを見つけました。
橋本雅邦と並んで明治初期の近代日本画界のスーパースター・狩野芳崖の絶筆とされる《悲母観音》(現東京藝術大学大学美術館蔵)をもとに制作された花瓶ですが、もともと原画が好きなので、心の中で「これはほしい!」と叫んでしまいました。
作者の柴田については、詳細は不詳とのことですが、ものすごい腕前の名工だったことはこの作品を見てよくわかりました。

柴田《悲母観音図花瓶》清水三年坂美術館蔵


香合や印籠など小さな作品が間近に見られる展示室5では何が展示されているのだろうと考えながら中に入ろうとしたら、なぜかそこは暗室のように暗く、光り輝くガラスの作品が展示されていました。
この作品は、2022年に41歳の若さで逝去された青木美歌さんの《あなたと私の間に》。
まるで空中に浮遊しているようなこの作品には、上と下から光が当たり、天井と床に影が映し出されていて、この空間そのものが一つのインスタレーションになっています。
光と影の幻想的なページェントをぜひご覧いただきたいです。

青木美歌《あなたと私の間に》2017年
ガラス、ステンレススティール


最後の展示室7には金工、漆工、陶磁など明治工芸の粋が詰まった作品が展示されています。
中央の独立ケースに展示されているのは、無銘なので名の知れない名工が制作した《鳩の親子》。
雀のように丸みを帯びた鳩や、口を大きく開けて餌を求めるひな鳥がとても可愛らしいです。
鳩の胴体は、今では商業取引が原則禁止されている象牙、丸い胴体を支える足は真鍮製。
そして目には黒蝶貝を嵌め込んでいるので、うるんだ瞳に胸がキュンとなること間違いなしです。

展示室7 展示風景
中央 無銘《鳩の親子》


ほかにもまだまだ紹介しきれないほど多くの作品が展示されているので、この機会にその場でぜひ超絶技巧の粋をお楽しみいただきたいです。


展覧会オリジナルグッズももりだくさん。ミュージアムショップにもぜひお立ち寄りください。
するめのトートバッグ発見!来館記念にいかがでしょうか。

ミュージアムショップ


展示作品のカラー図版と詳しい解説が掲載された展覧会公式図録もおすすめです。
永久保存版です!



巡回展情報
 岐阜県現代陶芸美術館 2023年2月11日(土・祝)~4月9日(日)【終了】
 長野県立美術館        2023年4月22日(土)~6月18日(日)【終了】
 あべのハルカス美術館 2023年7月1日(土)~9月3日(日)【終了】
 三井記念美術館    2023年9月12日(火)~11月26日(日) ⇒開催中! 
 富山県水墨美術館   2023年12月8日(金)~2024年2月4日(日)
 山口県立美術館(予定) 2024年9月12日(木)~11月10日(日)
 山梨県立美術館(予定) 2024年11月20日(水)~2025年1月30日(木)

2023年10月7日土曜日

京都・二条城でアートフェア「artKYOTO 2023」開催中! 10月9日(月・祝)まで

世界遺産の京都・二条城を舞台にアートフェア「artKYOTO 2023」が、10月9日(月・祝)まで連休中限定で開催されています。

「二の丸御殿台所・御清所」

今回のアートフェアは、「二の丸御殿台所・御清所」や「東南隅櫓」など二条城内の建物に20軒以上のギャラリー・美術商の厳選されたアート作品が展示・販売されるビッグイベント。
古美術も現代アートも、インドネシアの作家さんの作品も展示されていて、二条城の歴史的な建造物とアートが融合した独特の雰囲気が楽しめます。

二の丸御殿台所・御清所エリア 展示風景


二の丸御殿台所・御清所展示 展示風景

それぞれのブースには個性的な作品が展示されていて、見ているだけでも楽しいのですが、心を惹かれる作品に出会えるのもアートフェアの大きな楽しみのひとつです。

もこもことした雲のような物体と、人物がつけているゴーグルが特徴の野原邦彦さんの作品は、色とりどりの立体作品も平面の作品も展示されています。
小さな作品なら狭い部屋でも飾れて、部屋の雰囲気が明るくなるかもしれません。

二の丸御殿台所・御清所エリア 展示風景

山岳修験道の影響を受けた赤井正人さんの作品は、いったん彫り上げた木彫りを燃やし、作品の表面を黒く炭化させて、さらに表面にボンドを塗って研磨したり石を埋め込んだりするという複雑な工程を経て完成させたものなのです(下の写真左の2点)。
この作品を見た瞬間、彩色とは違う何か凄味のようなものを感じたのですが、やはりそうでした。
二の丸御殿台所・御清所エリア 丸展示風景

赤井正人さんご本人が在廊されていてお話をおうかがいすることができましたが、黒い木彫りの作品を多く並べるインスタレーションの展示も行ったとのことですので、ぜひ一度拝見したいと思いました。


10月5日(木)と7日(土)は関係者向けの特別内覧会で、一般の方が見られるのは6日(金)、8日(日)、9日(月・祝)の3日間限定。
二の丸御殿台所・御清所エリアは二条城の入城料とは別に料金がかかりますが、番所エリア、東南隅櫓エリア、屋外の展示作品は5日(木)、7日(土)を含む会期中、二条城の入城料のみで観覧できます。


東南隅櫓エリア 展示風景

「artKYOTO 2023」の詳細は公式サイトでご確認ください⇒artKYOTO 2023 

芸術の秋にぴったりのイベントですので、京都に来られた際にはお立ち寄りいただいてお気に入りの一品を見つけてみてはいかがでしょうか。

2023年10月4日水曜日

渋谷区立松濤美術館「杉本博司 本歌取り 東下り」

いつも多くの人でごった返すJR渋谷駅スクランブル交差点前に突如出現した巨大な広告。
雄大な富士山と裾野の景色が見えますが、これはいったい何の広告なのでしょうか。

JR渋谷駅スクランブル交差点前の広告

アニメ? ファッション? コスメ? いえ違います。
これはなんとJR渋谷駅から徒歩約15分、駅前の喧騒から離れた住宅街の中にある渋谷区立松濤美術館で開催中の展覧会「杉本博司 本歌取り 東下り」の広告なのです。

2022年に姫路市立美術館で開催された「杉本博司 本歌取りー日本文化の伝承と飛翔」がさらにパワーアップして東京・渋谷の地に「東下り」してきたのがこの展覧会。
先日拝見してきましたが、期待と想像をはるかに超えること間違いなしです。

それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 期  2023年9月16日(土)~11月12日(日) ※会期中、一部展示替えあり
  前期: 9月16日(土)~10月15日(日)
  後期:10月17日(火)~11月12日(日)
開館時間 午前10時~午後6時 ※毎週金曜日は午後8時まで(入館は閉館の30分前まで)
休館日  月曜日(10月9日は開館)、10月10日(火)
入館料  一般 1000円、大学生 800円、高校生・60歳以上 500円 小中学生 100円

展覧会の詳細、イベント等は公式サイトをご覧ください⇒渋谷区立松濤美術館

※本展は1階キャットウォークを除き、館内(展示室含む)撮影可能です。館内での撮影に関する詳細は、入館の際にお渡しする注意事項をお読みください。


はじめにご紹介するのは、JR渋谷駅スクランブル交差点前の広告に使われている《富士山図屏風》。

《富士山図屏風》杉本博司 2023年 六曲一双
ピグメントプリント 作家蔵 通期展示

平らに広げられたJR渋谷駅前の広告と違って、もとは六つの面の屏風が一対になった六曲一双の屏風なので見る角度によって異なった景色が見えてきます。
畳の上に置かれているので、和室の中にいるような雰囲気を味わいながら右に左に移動して景色をご覧いただきたいです。

この《富士山図屏風》の本歌は、葛飾北斎が見たであろう雄大にそびえ立つ富士山の姿。
「赤富士」と呼ばれ、葛飾北斎《冨嶽三十六景》シリーズの中でも特に人気の高い「凱風快晴」の富士山が描かれた場所は諸説ある中、杉本氏は山梨県の三ツ峠山を選んで撮影し、裾野に点在する現代の明かりをデジタル処理で消してこの作品を完成させました。

渋谷区立松濤美術館を設計したのは、著名な建築家・白井晟一氏(1905-1983)。
建物の随所にその特徴が見られますが、展示室の壁が湾曲しているのも大きな特徴です。

地下1階の第1展示室(主陳列室)では、この広々とした空間に杉本氏の屏風がガラス越しでなく間近に見ることができます。
そして遮るものがないので、絵巻も横に長い展示ケース内に納められて一部でなく最初から最後まで見られるのもうれしいです。

地下1階 第1展示室(主陳列室) 展示風景

今回展示されている絵巻《法師物語絵巻》も全場面が一挙公開されています。

手前 《法師物語絵巻》室町時代(15世紀) 紙本彩色
小田原文化財団蔵 通期展示

この《法師絵巻物語》には和尚と小法師を主人公とする説話が描かれているのですが、どれもクスッと笑える話ばかり。
ご飯を炊く量を指で指図していた締まり屋の和尚が転倒して手足すべての指をひらいてしまったので、小法師が大量のご飯を炊いてしまったという場面はどこかで見たことがあるのではないでしょうか。

《法師物語絵巻》(部分) 室町時代(15世紀) 紙本彩色
小田原文化財団蔵 通期展示

上の写真は第四場面「指合図」で、中央にはころんだ和尚、左上には山盛りのご飯が見えます。
この日はおなか一杯ご飯が食べられる小法師たちのうれしそうな表情が印象的です。

さて、この《法師物語絵巻》は実は「本歌取り」ではなく「本歌」の方。
「本歌」は《法師物語絵巻》の第七場面「死に薬」。
和尚が香の粉(麦こがしと考えられる)を欲しがる小法師に「死に薬」だと言って与えなかったが、和尚の鉢を割ってしまった小法師が償いに死の薬を食べたところ死ねないと言って泣いている場面が描かれた「死に薬」が、狂言の「附子」の話と似ていることから、杉本氏は狂言『法師物語絵巻 死に薬~「附子」より』『茸(くさびら)』(※)を「本歌取り 東下り」展開催を記念して上演することとしたのです。
(※)狂言の上演は11月9日(木)ですが、すでにチケットは予定枚数の販売が終了しています。

ここまでは「本歌」と「本歌取り」の関係がよくわかりますが、すぐには関係がわからない作品も今回の展覧会では展示されています。

筆者が特に気になったのが《歴史の歴史東西習合図》。

《歴史の歴史東西習合図》 杉本博司 2008年 
左から 垂迹諸尊名 ヨシフ・スターリン、シャルル・ド・ゴール、ダグラス・マッカーサー
オットー・フォン・ビスマルク、チャールズ・ダーウィン、カール・マルクス
ニコライ二世、レオン・トロツキー、ウィンストン・チャーチル、マルセル・デュシャン  
杉本表具 ピグメントプリント 作家蔵 通期展示
 

この《歴史の歴史東西習合図》は、本地である仏や菩薩が衆生を救うため日本の神の姿をとってこの世に現れるという本地垂迹説に基づいて制作された作品ですが、現れてきたのは日本の神々でなく、日本の近代化に影響を与えたと思われる十人の西洋人の面々。

中でも、太平洋戦争敗戦後の1945年8月30日、海軍厚木飛行場に降り立ち、GHQ(連合軍最高司令官総司令部)の最高司令官として戦後日本の民主化に取り組んだマッカーサーはイメージとしてよくわかりました。
しかし、日ソ中立条約を破棄して対日参戦、戦後のシベリヤ抑留を行ったスターリンがなぜ、と思いましたが、これは日本への無条件降伏の勧告、戦後処理について協議を行ったポツダム会談のメンバーだったからなのでしょうか(イギリスは最初はチャーチル首相、総選挙後は新首相アトリーと交代、アメリカはトルーマン大統領)。

考えれば考えるほど深みにはまり、興味の尽きない作品です。

続いて2階のサロンミューゼと特別陳列室に移ります。

こちらの展示室も展示ケースがあってその奥の壁に作品が展示されているというのでなく、作品が壁に直付けなので、近くで見ることができるがもうれしいです。
(足元の柵は超えないように!)

そして、サロンミューゼにはソファーセットがあって、ゆったりと座って作品鑑賞もできるのです。

2階サロンミューゼ 展示風景


今年(2023年)制作された新作も展示されています。

左から Brush Impression 0905「月」、0906「水」、
0625「火」、0740「狂」
 いずれも杉本博司 2023年 銀塩写真 作家蔵 通期展示


コロナ禍でニューヨークのスタジオの戻ることができなかった約3年間のうちに使用期限が過ぎた印画紙に、暗室の中で現像液または定着液に浸した筆で「月」「水」といった文字を書いたものがこのBrush Impressionのシリーズ。
目の前で見ると、手元が見えない状況で精神を集中して揮毫した作品一つひとつから何とも言えない迫力が感じられました。


美術作品、特に絵画にとって天敵の自然光を取り入れる構造になっているのも白井晟一氏の設計の特徴ですが、今回はその自然光を計算に入れた作品も展示されています。

《数理模型 025 クエン曲面:負の定曲率曲面》杉本博司
2023年 ステンレス・スチール 作家蔵
通期展示

数理模型とは、数式によって定義される局面を立体化したもので、19世紀には精度の低かった石膏製であったものを、現代日本の最も精度の高い工作機械を使って制作したのがこの作品。
クエン曲面は数式の中でも最も難しいとのことですが、この作品の後ろの影にも注目したいです。
外の自然光を取り入れているので、昼には影が写らず、外が暗くなると影が写るようになるのです。
今の時期は夕方には暗くなるのも早くなり、金曜日は午後8時まで夜間開館しているので、例えば前期には昼、後期には夕方か夜間に来館して変化を楽しんでみてはいかがでしょうか。


2階の一画に小部屋になっている特別陳列室に入ります。

2階特別陳列室 展示風景

今回の展覧会のメインビジュアルになっているコンドルの写真が見えてきました。

《カリフォルニア・コンドル》杉本博司 1994年
ピグメントプリント 杉本表具 作家蔵
通期展示

一見すると生きたコンドルのように見えますが、実はサンフランシスコの自然史博物館、カリフォルニア科学アカデミーにあったカリフォルニア・コンドルのジオラマを撮影したもので、コンドルも剥製なのです。

この作品は、杉本氏が光の濃淡を微妙に調整して背景画を南宋の画僧・牧谿の水墨画のように仕上げ、コンドルも叭々鳥図になぞらえて撮影したもので、黒と白の濃淡が荒涼とした大地の雰囲気を引き立てているように感じられました。


杉本氏ご本人によると、本歌取りそのものについて「さらに拡大解釈が進行」(展覧会公式図録より)している状況で構成された展覧会ですので、「この作品の本歌はなんだろう?」と、作品を前に思いをめぐらすのも楽しいかもしれません。

この秋ぜひご覧いただきたい展覧会です。
お見逃しなく!


杉本ワールドを理解するためのヒントになるのが展覧会公式図録。
杉本氏が題字を揮毫した『特装版 杉本博司 本歌取り』も限定100部で販売されています。
杉本氏デザインの富士山紋をモチーフにしたエコバッグも好評発売中です。
来館記念にぜひ!

展覧会公式図録と展覧会限定エコバッグ

2023年9月27日水曜日

東京国立博物館 浄瑠璃寺九体阿弥陀修理完成記念 特別展「京都・南山城の仏像」

東京・上野公園の東京国立博物館では、浄瑠璃寺九体阿弥陀修理完成記念 特別展「京都・南山城の仏像」が開催されています。

会場入口

今回の特別展は、京都府の最南部・南山城にある浄瑠璃寺の本堂に安置されている平安時代の阿弥陀如来坐像九体の修理が完成したことを記念して開催される展覧会。
2018年度から5年をかけて順々に修理が行われた九体のうち最後の一体の阿弥陀如来坐像がお寺に戻る前に東京にご出陳いただいています。
浄瑠璃寺九体阿弥陀の前回の修理がおよそ110年前の明治期に行われたので、今回のようにお寺の外で拝める機会が訪れるのは100年後かもしません。あわせて南山城の仏像の代表作が一堂に会した展覧会ですので、見逃すわけにはいきません。

それではさっそく展覧会の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 期  令和5年(2023)9月16日(土)~11月12日(日)
     ※会期中、一部の作品は展示替えを行います。
開館時間 午前9時30分~午後5時 ※入場は開館の30分前まで
休館日  月曜日(ただし10月9日は開館)、10月10日(火)
会 場  東京国立博物館 本館特別5室

展覧会の詳細は公式サイトをご覧ください⇒特別展「京都・南山城の仏像」

※展示室内は撮影不可です。掲載した写真は、プレス内覧会で主催者から許可を得て撮影したものです。


見どころ1 極楽浄土の雰囲気が体験できます。



会場内の正面に鎮座するのは国宝《阿弥陀如来坐像(九体阿弥陀のうち)》。
そして、両脇を固めるのは同じく国宝の《広目天立像(四天王のうち)》《多聞天立像(四天王のうち)》。


中央《阿弥陀如来像(九体阿弥陀のうち)》平安時代・12世紀、
右《広目天立像(四天王のうち)》、左《多聞天立像(四天王のうち)》
どちらも平安時代・11~12世紀
いずれも国宝、京都・浄瑠璃寺

平安時代には、貴族たちが極楽往生を願い九体阿弥陀を阿弥陀堂に安置することが流行して京都を中心に30カ所ほど九体阿弥陀堂が作られたと伝わりますが、当時の彫像・堂宇が現存するのは、この浄瑠璃寺だけなのです。

9世紀の時を越えてなお黄金色に輝く阿弥陀如来像、そして西方を守る広目天立像、北方を守る多聞天立像が並ぶ様は、当時の貴族たちが夢見た極楽浄土の世界がこの場に現われたかのように感じられます。

会場入口の写真にあるように、九体の阿弥陀如来像が並ぶ浄瑠璃寺での本堂では台座は見えませんが、ここでは阿弥陀如来像を支える立派な台座まで見ることができます。


見どころ2 平安時代の仏像の変遷がたどれます。


794年に平安京に都が置かれてから12世紀後半まで続いた平安時代には唐風文化から国風文化への変化が見られましたが、平安時代の仏像の代表作がそろった今回の特別展では唐風から和様へと変化する仏像の変遷をたどることもできるのです。


9世紀 唐風の影響

会場入口でお出迎えしてくれるのは、唐風文化の影響を受けて自然な姿勢が特徴の重要文化財《十一面観音菩薩立像》(京都・海住山寺)。
優雅なたたずまいを拝見していると、自然と心がなごんでくるように感じられます。

重要文化財《十一面観音菩薩立像》平安時代・9世紀
京都・海住山寺


10世紀 和様への歩み


奈良・東大寺の僧侶が創建した禅定寺の本尊《十一面観音菩薩立像》は、太い鼻筋や張りのあるの頬で穏やかな顔立ち、浅く緩やかな彫りによる柔らかな衣の表現が特徴で、和様彫刻へと歩みを始めた時代を代表する仏像です。
高さ3mにもおよぶ姿に圧倒されます。

重要文化財《十一面観音菩薩立像》平安時代・10世紀
京都・禅定寺


11~12世紀 貴族文化の最盛

ふたたび登場いただくのは国宝《広目天像(四天王のうち)》。
動きが控えめで品のある立ち姿、華やかな彩色と金箔を細く切って貼り付ける截金文様が特徴で、貴族好みの大ぶりな植物の文様も描かれています。
制作当時の姿がよく残されている貴重な仏像ですので、ぜひ近くでご覧いただきたいです。

国宝《広目天立像(四天王のうち)》平安時代・11~12世紀
京都・浄瑠璃寺


見どころ3 特徴ある仏像にもお会いできます。


今回の特別展で展示される仏像は、展示替えを含めて全部で18体。
ほかにもまだまだ特徴のある仏像にお会いできます。

平成11年(1999)の解体修理の際に像内から取り出された文書から、鎌倉時代の慶派仏師の棟梁・運慶とともに活躍した快慶の有力な弟子・行快が制作にあたったとされるのが重要文化財《阿弥陀如来立像》。
切れ長な目線、数多い衣の襞(ひだ)といった慶派の特徴をもつ鎌倉時代の仏像です。
像内納入品も展示されているので、《阿弥陀如来立像》とあわせてご覧いただきたいです。


右 重要文化財《阿弥陀如来立像》行快作 鎌倉時代・嘉禄3年(1227) 京都・極楽寺
左 《牛頭天王坐像》平安時代・12世紀 京都・松尾神社

鳥が羽ばたいているようにも見えるのは、重要文化財《千手観音菩薩立像》。
千手観音は千本の腕で人々を救う仏様ですが、42本に省略することが多い中、この千手観音菩薩様は千本に迫る多くの手をお持ちです。
両脇を固めるのは、向かって右から《金剛夜叉明王立像》《隆三世明王立像》。
三体とも京都・寿宝寺の所蔵ですが、動きのある二体の明王立像とともにこの一角は特に躍動感があるように感じられました。

中央 重要文化財《千手観音菩薩立像》、右《金剛夜叉明王立像》、
左《隆三世明王立像》、いずれも平安時代・12世紀 京都・寿宝寺


そして最後にご紹介するのは重要文化財《不動明王立像》。
たいていは忿怒の形相で悪をにらみつける不動明王ですが、この《不動明王立像》は丸い顔でくりっとした目をしていてまるでかわいらしい子どもように感じられます。
さらに不動明王の特徴ともいえる左胸に垂れる弁髪がなく、左肩から右脇に掛ける条帛(じょうはく)という衣も着けていませんが、これは天台宗の高僧・円珍が感得したという黄不動と共通しているのでした。


重要文化財《不動明王立像》平安時代・12世紀
京都・神童寺

特設ショップでは、絵はがき、A4クリアファイル、本展の仏像大使(広報大使)に就任された、みうらじゅんさん、いとうせいこうさんが監修したオリジナルグッズなどが盛りだくさん。
特設ショップ


カラー図版や作品解説などが掲載された展覧会公式図録もおすすめです。

特別展「京都・南山城の仏像」公式図録
1,500円(税込)


会期は11月12日(日)まで。
ぜひこの落ち着いた雰囲気の空間をお楽しみください。

2023年9月25日月曜日

大倉集古館 特別展 畠中光享コレクション「恋し、こがれたインドの染織ー世界にはばたいた布たちー」

東京・虎ノ門の大倉集古館では、特別展 畠中光享コレクション「恋し、こがれたインドの染織ー世界にはばたいた布たちー」が開催されています。

大倉集古館外観

今回の特別展は、日本画家でインド美術研究者の畠中光享氏が収集したインド染織コレクションから約100点が見られる展覧会。ベッドカバーや掛布、ショールなど展示室内は色とりどりの布でおおわれていて華やいだ雰囲気でいっぱいです。

9月12日(火)からは後期展示が始まり会期も残り1ヶ月ほどとなりましたが、遅ればせながら展示を拝見してきましたので、展覧会の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 期  2023年8月8日(火)~10月22日(日)
 ※前期 8/8(火)~9/10(日)、後期 9/12(火)~10/22(日)
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日  毎週月曜日(祝日の場合は翌火曜日)
入館料  一般 1,300円、大学生・高校生 1,000円、中学生以下無料
※事前予約不要
※展覧会の詳細、各種割引料金等は同館公式サイトをご覧ください⇒大倉集古館 
※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は主催者より広報用にお借りしたものです。
※展示作品は、すべて畠中光享氏所蔵です。

展示構成
 第1章 ヨーロッパに渡ったインド布とその展開
 第2章 東南アジア、ペルシャ、日本へ渡ったインド布とその展開
 第3章 インド国内で使用された布


第1章 ヨーロッパに渡ったインド布とその展開


展示室に入って驚いたのは、ベッドカバーや掛布などの多くがダブルベッドをおおってしまうほど大きさがあることでした。花柄などで彩られた色鮮やかな布が展示ケースの壁一面に広げられて展示されているので、展示室内がとても明るく感じられました。

こちらは白地に「生命の樹」やカーネーションなどの花柄文様の掛布。
媒染技法(媒染剤によって染料を布に定着させる工程)が発達していなかったヨーロッパでは特に人気を博し、このようなインド布を持つことが上流階級の人たちにとってステータスシンボルだったのです。

《掛布》(部分) コロマンデール・コースト(インド)、
18世紀後期 手描染、媒染、防染/木綿


カシミヤ山羊の毛で作った糸を染め、その色糸を巻き付けた木管を使い綴織で模様を織り出すという気の遠くなるような工程を経て作られたカシミールショールは、1枚つくるのに3年くらいはかかり非常に高価なものでした。

《ショール》(部分)、カシミール(インド)、1850~70年代、
綾地綴織/羊毛

インド製の布が重宝される一方、印刷技術が発達していたヨーロッパではプリントによる模倣布がつくられました。
こちらは銅版回転捺染機で模様をプリントし、その上に彩色を施したもので、色鮮やかな南国の鳥たちの美しさに魅了されます。


《掛布》(部分)、ヨーロッパ、19世紀初期、
凸版ローラーによる加彩/木綿

カシミールショールの模倣品は、フランス人ジャカール(英語読み:ジャカード)が発明した自動織機(ジャカード織機)で織られました。
プリントにはない立体感と厚みが高級感を醸し出しています。



《倣カシミールショール》(部分)、フランス、19世紀中期、ジャカード織


第2章 東南アジア、ペルシャ、日本へ渡ったインド布とその展開


古くからインドとの交流があった東南アジアには、インドの捺染布が部族の長によって求められ、儀礼など特別な時に用いられました。

西インドのグジャラートからインドネシアに輸出された捺染布のデザインは、両端に鋸歯文(ノコギリの歯の形)があり、幾何学文が多く全面に模様があるのが特徴です。

《儀礼用布》(部分)、グジャラート州(インド)、18世紀後期、
手描染、木版捺染、媒染、防染/木綿


東南アジアには、ところどころ独特のかすれ具合が出る絣布も多く輸出されました。

《儀礼用布、パトラ(絣織)模様》(部分)、グジャラート州(インド)、
19世紀中期、木版捺染/木綿



ペルシャに輸出されたのはイスラム教徒が礼拝の時に使用する敷布などで、モスクなどがデザインされているのが特徴です。
アラビア文字もデザインされているのがわかります。


《礼拝用敷布》(部分)、アンドラ・プラデッシュ州、マスリパタム(インド)
19世紀末、木版捺染、媒染、防染/木綿



第3章 インド国内で使用された布


インド国内では、王侯貴族の邸宅やヒンドゥ寺院で用いられる荘厳なデザインの布が中心で、金銀糸織や美しい発色の捺染布がつくられました。

ヒンドゥ教徒にとって牛は神聖な存在として大切にされています。
儀式の時に牛に掛ける布も金糸、銀糸を使い豪華絢爛、煌びやかな布です。
牛の頭を覆うためでしょうか、写真の中央下部には三角形の突起があります。


《牛用掛布》(部分)、グジャラート州(インド)、19世紀前期、
縫取織/絹、金糸、銀糸


今回は、1階と2階の展示室だけでなく、地下1階にまで色鮮やかな布が壁一面に展示されています。
会期は10月22日(日)まで。
上流階級や王侯貴族があこがれ、神聖な場所で用いられて世界にはばたいたインドの布の魅力をぜひお楽しみください。