2020年8月7日金曜日

SOMPO美術館 開館記念展「珠玉のコレクション-いのちの輝き・つくる喜び-」

新宿に巨大な白いオブジェ出現!



新型コロナウィルスの影響で開館が延期されていましたが、新装なったSOMPO美術館(旧:東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館)が7月10日(金)にオープンして、9月4日(金)まで開館記念展が開催されています。

【展覧会概要】
SOMPO美術館 開館記念展「珠玉のコレクション-いのちの輝き・つくる喜び」
会 期  2020年7月10日(金)~9月4日(金)
開館時間 午前10時~午後6時(最終入館は午後5時30分まで)
日時指定チケット 一般 1,000円 大学生700円 高校生以下 無料
※美術館ではチケットを販売していませんので、チケットは事前にお買い求めください。
展覧会の詳細、チケット購入方法、新型コロナウィルス感染拡大防止対策等については美術館の公式サイトでご確認ください⇒SOMPO美術館

館内は撮影禁止ですが、本展覧会に限り以下の作品のみ撮影が可能です。

 ポール・ゴーギャン《アリスカンの並木路、アルル》
 ピエール=オーギュスト・ルノワール《帽子の娘》
 ピエール=オーギュスト・ルノワール《浴女》
 ポール・セザンヌ《りんごとナプキン》

以前のようについついエレベーターで損保ジャパン本社ビルの42階に行こうとしてしまいますが、新しいSOMPO美術館の入口は本社ビル敷地内に新設された美術館棟の1階。
陶板複製のゴッホ《ひまわり》がお出迎え。

1階で手指の消毒と検温を済ませて、エレベーターで5階に向かいます。
展示室は5階から3階で、上から順番に見ていくルートになっています。
そして2階にはミュージアムショップと8月1日(土)から営業を開始したカフェ(カフェは展覧会開催日の土日祝日のみ営業)。

5階は「第1章 四季折々の自然」とSOPMO美術館の1/100詳細模型などが展示されている「紹介:SOMPO美術館の建築」

「第1章 四季折々の自然」には、東山魁夷、平山郁夫、吉田博はじめ、近代・現代の日本画家による桜や朝顔、海や富士、雪といった季節感あふれる作品が展示されています。

中でも、山口華楊の《葉桜》は全面的な修復を行い、約10年ぶりに公開される初期の大作。
こちらは展覧会チラシの裏面ですが、中央右の作品が山口華楊《葉桜》。

大正から昭和にかけて京都で活躍した山口華楊(1899-1984)は、動物画を得意とした日本画家で、植物画でも優れた作品を残しました。
一枚一枚の桜の葉が丁寧に描かれたこの《葉桜》は華楊の真骨頂。しかしそれだけではありません。写真ではわかりにくいのですが、作品の画面中央下に描かれている蛇に注目です。
小さな蛇も細かく色分けして丁寧に描かれているのです。
作品の横には、蛇の部分の拡大写真はじめ修復時の様子がパネル展示されていますので、ぜひこちらもご覧ください。

そして、丁寧に描かれたモフモフの狐たちの作品《幻化》や、仕上げの絵と同寸に描かれた大下絵と比較ができる《猿》といった、山口華楊らしい動物画も展示されています。

4階に移ります。

「第2章 「FACE」グランプリの作家たち」では、今年で8回目を迎えたFACE展(主催:東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館、読売新聞社)の2012年から2019年までのグランプリ作品が展示されています。

今年2月に開催されて、新型コロナウィルスの影響で3月1日までで惜しくも中止になったFACE展2020(損保ジャパン日本興亜美術賞展)の様子は以前のブログでレポートしています。

FACE展2020(損保ジャパン日本興亜美術賞展)

続いて、「第3章 東郷青児(1897-1978)」には同館コレクションの中心を占める東郷青児の作品17点が展示されています(東郷青児作品は第4章にも4点、第5章にも1点展示されています)。

展覧会チラシ表にゴッホの《ひまわり》(上)と並んで掲載されているのは、ギリシャ神殿のような遺跡の前にたたずむ女性を描いた東郷青児の《望郷》(下)。




この《望郷》をはじめ「青児美人」といわれた淡い色彩の優しい表情をした女性たちに心が和みます。その一方で、初期の作品《パラソルさせる女》のように濃い色彩の前衛的な絵画にもハッとさせられる迫力を感じるので、どちらの作品も楽しめます。

3階に移ります。

「第4章 風景と人の営み」には、アメリカの田園風景を描いたグランマ・モーゼスの作品7点はじめ、東郷青児、モーリス・ユトリロ、ポール・ゴーギャンの作品が展示されています。

中でもゴーギャンの《アリスカンの並木路、アルル》は、ガラスケース越しでなく、間近に見ることができて、今回は撮影可!
ゴーギャンの絵筆のタッチや独特の色遣いをじっくりご覧いただくことができます。
ポール・ゴーギャン《アリスカンの並木路、アルル》
1888年 SOMPO美術館

「第5章 人物を描く」には、ジョルジュ・ルオー、パブロ・ピカソ、マルク・シャガール、藤田嗣治といった名だたる画家たちの人物が展示されています。

こちらのルノワールの作品2点は撮影可です。
どちらも一度印象派から離れたルノワールがかつての画風に戻ったあとの作品で、柔らかな色遣いがとても心地よく感じられます。
特に、古いニスを除去して、本来の明るさを取り戻した《浴女》(下の写真右)は、女性の肌も背景の海も、まるで輝いているように見えました。

ピエール=オーギュスト・ルノワール《浴女》(右)1892-93年頃
《帽子の娘》(左)1910年 いずれもSOMPO美術館
「第6章 静物画-花と果物-」でいよいよポール・セザンヌの《りんごとナプキン》と、フィンセント・ファン・ゴッホの《ひまわり》が登場!

セザンヌの《りんごとナプキン》は撮影可。

ポール・セザンヌ《りんごとナプキン》
1879-80年 SOMPO美術館
セザンヌのこの作品は、正面からだけでなく、ぜひ右から左からご覧になってください。
横から見ると、あら不思議、テーブルの上の果物が画面を飛び出して、浮き上がってくるように見えてきます。

今回の展覧会で撮影可の作品は、今後展示されても撮影できなくなるかもしれません。それに、今のようにガラスケースなしで間近で見ることもできなくなるかも。
コレクション展ですが、もしかしたらこんな機会はラストチャンスかもしれないので、ぜひ来館して、その場で名作の数々をご覧になっていただければと思います。


2020年8月4日火曜日

【祝・再開!】山種美術館 特別展「桜 さくら SAKURA 2020-美術館でお花見!-」

毎年春には花を描いた日本画の展覧会で私たちを楽しませてくれる山種美術館。

今年のテーマは「桜」。

3月14日に始まった特別展「桜 さくら SAKURA 2020 -美術館でお花見!-」も5月10日まで開催されて、いつものように春の訪れを知らせてくれるはずでした。
ところが、新型コロナウィルス感染拡大防止のため4月4日から臨時休館となり、残念ながらこのまま展覧会も終了してしまうのかな、と思っていたのですが、なんとうれしいことに7月18日から会期を延長して再開されることになりました!

【特別展】桜 さくら SAKURA 2020-美術館でお花見!-
会 期:2020年7月18日(土)~9月13日(日)
           (状況により変更される場合があります。)
開館時間:午前11時~午後4時(入館は午後3時30分まで)
休館日:月曜日(但し、8/10(月)は開館、8/11(火)は休館)
入館料:一般1,300円
展覧会の詳細や新型コロナウィルス感染防止対策については同館公式サイトでご確認ください⇒山種美術館

再開にあたり開館時間が短縮され、オンライン事前予約システムが導入されています。
入館日時オンライン予約サイト⇒https://www.e-tix.jp/yamatane-museum/

さらに学生さんにはうれしいお知らせがあります。

学生応援無料キャンペーン
8月4日(火)から9月13日(日)まで大学生・高校生の方は特別展1,000円のところ無料で入館できます。詳細はこちらです⇒学生応援無料キャンペーン
当日は学生証をお忘れなく!

今年は例年になく短い夏休みを過ごされているかと思いますが、せっかくの機会なので、夏休みは日本画を見に行きましょう!

 
さて、今回展示されているのは、もちろん桜を描いた作品なのですが、幕末から明治、大正、昭和、そして現代まで、日本画の大家たちの個性あふれる桜が会場内に咲き誇っています。
今年の春は自粛モードでお花見ができなかった分、この展覧会をご覧になって、ぜひ今年も「お花見気分」を味わっていただきたいです。




それではさっそく展示室に入ってみましょう。
展示作品は約50点、展示内容は「桜とともに」「名所の桜」「桜を描く」の3章構成で、どれもおススメの作品ばかりなのですが、今回は私の特にお気に入りの作品を各章2点に絞ってご紹介したいと思います。

※会場内は撮影禁止です。展示作品の写真は、美術館より特別の許可をいただいて掲載したものです。

第1章 桜とともに

桜といえば春、春といえば桜、古くから桜は日本の春にとって欠かせないアイテム。
第1章では、花見を楽しむ人たちや歴史上の人物とともに描かれた桜、普段の暮らしの中に描かれた桜の作品が展示されています。

その中から、昔の時代にタイムスリップして、当時の人たちといっしょに花見をしている気分になれる作品2点をご紹介しましょう。

展示会場に入ってすぐにお出迎えしてくれるのは、松岡映丘《春光春衣》。

松岡映丘《春光春衣》1917(大正6)年
絹本・彩色 山種美術館

光り輝くばかりの桜の花、十二単のあでやかな色遣い、そして金砂子がまかれ、キラキラ輝く女性たちの長い黒髪。
絢爛豪華な京の都に迷い込んだようで、気分はすっかり平安貴族。

それでもこの作品が描かれたのは平安時代ではなく、およそ100年前の大正年間。
作者は、大和絵を研究し、大和絵の復興に生涯をかけた松岡映丘(1881-1938)。

平安貴族になった気分で贅沢なお花見をお楽しみください。


次は時代がもう少し下って、花見の習慣が庶民にまで広まってきた江戸時代後半に行ってみましょう。
こちらの作品は、江戸の桜の名所に紛れ込んだ気分でお花見を楽しみたいです。

菱田春草《桜下美人図》1894(明治27)年
絹本・彩色 山種美術館
咲き誇る桜の下で楽しそうに話をする女性たち。
着物の女性たちと桜の取り合わせや、少し体をくねらせた女性のポーズは、一見すると浮世絵の肉筆画?と思ってしまいますが、実はこの《桜下美人図》は、明治中期から後期にかけて活躍して、惜しくも若くして亡くなった菱田春草(1874-1911)の東京美術学校在学時の作品なのです。
菱田春草は、のちに横山大観らとともに岡倉天心の薫陶を受けて朦朧体に挑み、短い活動期間ながら山種美術館所蔵の《釣帰》をはじめ数々の名作を残していますが、学生時代にはこのような作品も描いていたのです。


第2章 名所の桜

京都の嵐山や祇園、秀吉の花見で知られた醍醐、東京の千鳥ヶ淵、東北の三春や奥入瀬。全国各地の桜の名所が楽しめる第2章の作品の中から、特におすすめの2点を紹介したいと思います。

はじめに奥村土牛(1889-1990)の《醍醐》。

奥村土牛《醍醐》1972(昭和47)年
紙本・彩色 山種美術館
地面にどっしりと根を生やした桜の大木。画面全体を後ろからしっかり支えるかのようにデンと構える白壁、そして画面の上半分には淡紅色の桜の花。
よく見ると、桜の花は一つひとつの花びらが溶け合って、淡紅色がまるで一つの塊になって輝いているように見えてきます。

135点もの豊富な奥村土牛コレクションをもつ山種美術館では、いつも土牛の作品を楽しませていただいていますが、この《醍醐》をはじめとした、安定感のある構図の作品にいつもホッとさせられるのです。


一方、こちらは桜の花びら一枚一枚がはっきりとした太い輪郭線で描かれている橋本明治の《朝陽桜》。

橋本明治《朝陽桜》1970(昭和45)年
紙本・彩色 山種美術館

橋本明治は先ほど紹介した松岡映丘の門人でしたが、大和絵の復興には向かわずに、特に戦後は、「肥痩のない仏画の鉄描線のような」と形容された輪郭線と大胆で鮮やかな色彩で、独自の境地を切り開きました。この作品に描かれた桜も、デザイン性に富んだモダンな感じがしないでしょうか。

明治は、朝陽に映える桜のイメージを金砂子によって表現したとのこと。
黄金色に輝く桜の花をぜひお楽しみください。

第3章 桜を描く

どの章でも、それぞれの画家の個性的な桜が描かれた作品が展示されていますが、第3章では、中でも特に個性あふれる近代日本画の巨匠二人の「対決」をご紹介。

まずは、近代日本画の巨匠といえばこの人、横山大観(1868-1958)。

横山大観《山桜》1934(昭和9)年
絹本・彩色 山種美術館
大観は、日本の象徴としてし富士山や桜の絵を多く描きました。
しかし、大観の描く桜は、私たちがお花見で楽しむソメイヨシノやシダレザクラではなく、本居宣長が「しき嶋のやまとこゝろを人とはゝ朝日ににほふ山さくら花」と、その美しさをたたえた山桜なのです。

野山に人知れず咲く山桜。たよりなさげな幹と、はらはらと散る花びらにそこはかとない「物のあはれ」が感じられる作品です。


そしてもう一方の巨匠が、岡倉天心の没後、横山大観らが再興した日本美術院を脱退して、1929(昭和4)年に青龍社を結成した川端龍子(1885-1966)。

川端龍子《さくら》20世紀(昭和時代)
絹本・彩色 山種美術館
大画面に豪快で迫力ある絵を描いて「会場芸術」といわれた川端龍子らしく、か弱くはかない桜の花のイメージとは異なり、画面の半分以上を占めるごつごつとした太い幹。
この作品の主役は桜の花ではなく、太い幹なのです。

しかし、そう思いながら画面上の方にわずかに咲く桜の花を見ると、つぼみから満開の花まで、一つひとつが細かく丁寧に描かれているのがわかります。
龍子も実は桜の花に思い入れがあったのかもしれません。
果たしてこの絵の主役はどちらなのでしょうか?

戦前は仲たがいした二人の巨匠ですが、戦後は、山種美術館の創立者・山﨑種二氏の希望により企画された、大観、龍子、川合玉堂による「松竹梅展」(1955-1957)で競演するなど交流が復活したので、一安心。

ミュージアムショップ&カフェも再開してます

展覧会の再開にあわせて、オリジナルグッズを取り揃えたミュージアムショップ、オリジナルメニューを用意しているCafe椿も再開しています。

(ミュージアムショップで販売しているオリジナルグッズや、Cafe椿のメニューはこちらでご確認ください⇒山種美術館ショップ&カフェ

展示室内でお花見をしたあとは、Cafe椿で一休み。

抹茶と特製和菓子のセット(1,200円)
特製和菓子は5種類あって、私が選んだのは奥村土牛《醍醐》をモチーフにした淡い薄紅色の「ひとひら」。
抹茶の渋みと和菓子の上品な甘さのコンビネーションが絶妙です。

関東地方も梅雨が明けて暑い日が続いていますが、ぜひみなさんも、桜がいっぱいの会場にお越しになって、お気に入りの作品、お気に入りの桜を探してみてはいかがでしょうか。

2020年7月25日土曜日

「戦国の茶器」総集編

NHK大河ドラマ「麒麟がくる」の放送が6月7日(日)のあと一時休止になってはや1ヶ月半。
毎週、麒麟がこない日曜日の夜を迎えていますが、麒麟ファンのみなさま、いかがお過ごしでしょうか。

さて、麒麟を待つ間、「ガチャガチャで乗り切ろう!」と意気込んで、NTTレゾナントが運営する「~すごい好奇心のサイト~いまトピ」にコラムを書きましたので、こちらもぜひご覧になってください。


「戦国の茶器 参」
手前右から大井戸茶碗「喜左衛門」、肩衝茶入「新田」、青磁茶碗「馬蝗絆」、
後ろ右から「瀟湘八景図尾垂釜」、唐物茶壷「金花」、
背景は「洛中洛外図」


さらにコラム掲載後には、ツィッターでいくつかの「戦国の茶器」を紹介しましたが、おかげさまで先日最終回を迎えることができました。
そこで、今までツイートした茶器をまとめて紹介したいと思います。

瀟湘八景図尾垂釜


天正6年(1578)1月1日に織田信長から明智光秀が拝領して、同月11日には光秀が自分の主催した茶会でさっそく披露したのが、側面の八面にそれぞれ瀟湘八景が鋳込まれた瀟湘八景図尾垂釜

瀟湘八景とは、ご存じのとおり、中国・湖南省の洞庭湖の南、瀟水と湘水の合流するあたりの景勝地で、山市晴嵐、漁村夕照、遠浦帰帆、瀟湘夜雨、煙寺晩鐘、洞庭秋月、平沙落雁、江天暮雪の八景のこと。

上の写真では小さいのでわかりにくいですが、正面は左上に塔が描かれているので「煙寺晩鐘」かな、正面右は鳥が飛んでいるので「平沙落雁」かな、正面左は右上に満月があるので「洞庭秋月」に違いないとか考えながら眺めていると、直径4㎝ほどの小さなミニチュアでも、結構楽しめます。

茶入 天下三肩衝「初花」「新田」


上の写真左が「戦国の茶器 弐」の初花。こちらは桐箱風BOXに入っていて、かなり本格的。
右は「戦国の茶器 参」の新田。こちらには朱塗りの盆と茶杓、茶杓入れ付。
肩の部分が角ばっている肩衝のフォルムも、色つやも見事です。
天下三肩衝といわれた初花新田、楢柴
信長は初花新田を手に入れましたが、楢柴の入手はかなわずに本能寺の変を迎えました。
その後、この三肩衝は秀吉、家康の手に渡りましたが、楢柴は明暦の大火(1657年)で焼失したとも、どこかに持ち出されたとも言われていますが、所在不明。
「戦国の茶器」のシリーズは現存しないものも再現しているので、ぜひ楢柴もレパートリーに加えてもらいたいです。

茶入 九十九茄子



「戦国の茶器」第一弾のレパートリーから九十九茄子
永禄11年(1568)、畿内を平定した織田信長に松永久秀が献上したとされるのが茶入れ「九十九茄子」(九十九髪、付藻茄子)

信長、秀吉の手に渡り、大坂夏の陣で破損したものを徳川家康が修理させたという名品。
表面のつやが、漆で修繕した感じを出しています。

香木 蘭奢待



『現代語訳 信長公記』(新人物文庫)P224には、信長が蘭奢待を誇らしげに切取る様子が描かれています。何しろその栄誉にあずかるのは東山殿(足利義政)以来のこと。
蘭奢待は「戦国の茶器」第1弾のレパートリー。白い付箋には、切取られた位置が印されています。

信長に仕えた太田牛一が著した『信長公記』は、「麒麟がくる」再開までの予習にピッタリ。現代語訳なのでとても読みやすいです。

『現代語訳 信長公記』(新人物文庫)

天目茶碗 曜変天目(稲葉天目)


完全な形で残されたものは世界に三碗しかなく、その三碗とも日本にあって国宝という貴重な茶碗。
こちらは「戦国の茶器 弐」のレパートリー。
徳川将軍家が所蔵して、その後、稲葉家に伝えらえたので稲葉天目とも呼ばれています。
中を覗くと、まるでプラネタリウムのような星空の輝き。
アップにしても耐えられるこの美しさ!
残る二碗もフィギュア化してほしいです!


国宝の三碗がほぼ同時期に公開されて話題をさらったのは、一年前(2019年)の春。
その時の様子は、いまトピのコラムで紹介してます。

国宝「曜変天目」だけじゃない!見どころ満載の「藤田美術館展」の全貌とは。

【三碗コンプリート!】国宝「曜変天目」関西~東京三館巡りの旅に行ってきた。


唐物茶壷 「松花」「金花」



天正4年(1576)、安土城にいた信長に献上された茶器がこの唐物茶壷「松花」「金花」。
名の知れわたった名物道具が献上されて、信長は大いに喜んだそうです(『現代語訳 信長公記』P283)。
このフィギュアは高さ約5㎝。他の茶器と並んでもかなり重量感あります。

「松花」は「戦国の茶器 弐」のレパートリーです。

「戦国の茶器 弐」の集合写真で見てもこの存在感!
「戦国の茶器 弐」
手前右から、紹鴎茄子、曜変天目(稲葉天目)、荒木高麗
後ろ右から香炉「三足ノ蛙」、唐物茶壷「松花」、初花肩衝

こちらは「戦国の茶器」第1弾の集合写真。
「戦国の茶器」
手前右から、黒樂茶碗(面影)、九十九茄子、紹鴎白天目、
井戸茶碗「細川井戸」、後ろ右が蘭奢待、左が平蜘蛛
ガチャガチャ「戦国の茶器」の一と弐はこちらのコラムで紹介しています。


平蜘蛛



この平蜘蛛を所有していた松永久秀が信長に反旗を翻して信貴山城に立てこもった時、信長が「平蜘蛛を渡せば命だけは助けてやろう」と言ったのに対して、「信長に渡すくらいなら死んだ方がましだ!」と、平蜘蛛を叩き割って自害したとのこと。
爆薬を詰めた平蜘蛛を抱いて爆死したという説もありましたが、今では後世作られた俗説のようです。

松永久秀は信長に対して2回謀反を起こしました。
1回目は元亀3年(1572)。この時は久秀が信貴山城、息子の久通が奈良の多門城に籠城しましたが、天正元年(1573)冬に松永久通が多門城を明け渡して降参。
翌年1月8日、久秀が赦免のお礼として天下に二つとない名刀「不動国行」を信長に献上しています。

そして2回目が、天正5年(1577)8月17日。
この時も信貴山城に立てこもりましたが、織田軍の猛攻に会い、同年10月10日夕刻、平蜘蛛を砕いて自害したのです。
このときの織田軍には明智光秀も参戦していました。

「麒麟がくる」の登場人物たちとほぼ同時代に生きた絵師・海北友松の物語についてのコラムも書きました。

【大迫力】建仁寺のあの雲龍の正体は〇〇だった!

さて大河ドラマ「麒麟がくる」ですが、8月30日(日)から放送再開との発表がありました。
再開はとても楽しみですが、麒麟がくるまでの1カ月間、ぜひこちらの「戦国の茶器」もお楽しみいただければと思います。

2020年7月18日土曜日

「絵師もの」時代小説を読んでみた

「絵師もの時代小説」がすごい!

書店に行くと、必ずと言っていいほど時代小説のコーナーがあります。
そこには、戦国武将もの、幕末の志士もの、それに捕物帳のシリーズものなど、書棚にはぎっしり文庫本が並び、新刊が書棚の前にずらりと平積みになっている壮観な光景が広がっています。

その中でも最近ひそかに定位置を占めるようになってきたのが、桃山や江戸の絵師たちが主人公の「絵師もの」時代小説。



実を言うと、私は時代小説はあまり読まない方なのですが、あるとき時代小説のコーナーをながめていたら、『若冲』とか、『等伯』というタイトルを見つけたり、新聞の書評欄に『ごんたくれ』が紹介されているのを見て、「アートファンとしては、これは読まないわけにはいかない!」と思い、読み始めたのがきっかけでした。

今まで読んだのは上の写真の6冊。

上の段右から
『等伯(上)(下)』安部龍太郎   文春文庫 2015年 
『花鳥の夢』  山本兼一    文春文庫 2015年

下の段右から
『若冲』    澤田瞳子    文春文庫 2017年
『ごんたくれ』 西條奈加    光文社時代小説文庫 2018年
『墨龍賦』   葉室麟     PHP文芸文庫 2019年


「いまトピ」のコラムで紹介しています!

さて、この中で上の段の『等伯(上)(下)』はタイトルどおり主人公は長谷川等伯、『花鳥の夢』は等伯のライバル、狩野永徳。
その二人の火花散らす激突の場面を読むと、二つの小説が頭の中で一つの物語に合成されて映像まで目の前に浮かんでくるようなので、同じ時期に読んでみるといいかもしれません。

二人のライバル対決については、NTTレゾナントが運営する、~すごい好奇心のサイト~「いまトピ」にコラムを書きましたので、ぜひこちらもご覧になってください。


右 狩野永徳《檜図屏風》、左《松林図屏風》(部分)
いずれも東京国立博物館


『ごんたくれ』は、師・円山応挙の名代で南紀に行ったものの、依頼された襖絵の制作が進まないで、日々ぶらぶらしていた長沢芦雪(小説では吉村胡雪)が、わざわざ南紀までやってきた曽我蕭白(小説では深山箏白)に喝を入れられ、あの大胆な《龍虎図》(無量寺)を描くというストーリー。

こちらも、南紀紀行とあわせて「いまトピ」で紹介しています。


南紀・無量寺の入口

そして、今年(2020年)のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』にちなんで『墨龍賦』を紹介したコラムがこちら。


            建仁寺大方丈の《雲竜図》(高精細複製画)

この小説の主人公は安土桃山時代から江戸初期にかけて活躍した海北友松。
打倒・織田信長を明智光秀に託した友松の思いがメインストリームになっているので、麒麟を待つ間に読んでみてはいかがでしょうか。

他にもまだ読んでいない「絵師もの時代小説」がありますし、これからも出版されるかもしれないので、見つけたらぜひ読んでみたいです。



2020年6月1日月曜日

祝・再開!三菱一号館美術館 画家が見たこども展

新型コロナウィルスの影響で休館していた三菱一号館美術館が6月9日(火)から再開します!

今回の「画家が見たこども展」は、勇退される高橋館長の最後の展覧会であると同時に、今まで30本以上ご自身が手掛けてきた企画展のうち最後の展覧会。
そういった意味でも、再開して本当によかったです。
6月21日(日)まで延長されますので会期はあと2週間。ぜひぜひ盛り上げていきたいです。
⇒9月22日(火・祝)まで再延長されました!


展覧会概要
会 期  9月22日(火・祝)まで
休館日  月曜日(但し、祝日・振替休日、6/29、7/27、8/31は開館)
開館時間 10:00~18:00 ※会期延長内での夜間開館は中止
※日時指定予約制です。
予約方法、来館時の注意事項は公式サイトでご確認ください→三菱一号館美術館(6月12日付美術館ニュース)
入館料・当日券 一般 1,700円ほか

※展示室内は一部を除き撮影禁止です。掲載した写真は、美術館より特別に許可をいただいて撮影したものです。

展覧会チラシ


さて、今回のテーマは「こども」。
休館前に開催されたブロガー内覧会では、新型コロナウィルスの感染防止で、恒例のギャラリートークは開催されない予定でしたが、高橋館長のご挨拶があり、「青い日記帳」Takさんとの短いトークがありました。

「今回の展覧会は、フランス・ボナール美術館とのコラボ企画で、ナビ派を中心として、ロートレックほかにまで範囲を広げた展覧会です。」と高橋館長。

では、なぜナビ派が中心なのでしょうか。

「西洋絵画では、聖母子は別にして、半人前と見られていた『子ども』はあまり描かれませんでした。それが18世紀に入ってロマン派の時代には、子どもに大人にはない原初的なものを見出し描かれるようになったのですが、子どもに対する考え方を決定的に変えたのはナビ派だったのです。ナビ派の画家たちは、子どもや、猫、犬といった身近な動物を好んで描きました。」

ナビ派とは、19世紀末にゴーギャンの影響を受けて、ポール・セリュジエ、ピエール・ヴィユヤール、ピエール・ボナール、モーリス・ドニらがパリで結成した芸術家グループのこと。「ナビ」とはヘブライ語で「預言者」という意味で、大胆な色使いと装飾性・平面的な構成が特徴とされています。

個人的にはあまりどぎつくない色あいで庶民の普段の生活の一場面を描いていて、身近にいる子どもたちや動物もすんなりと絵に溶け込んでいるので、作品にスーッと入りやすいという印象があります。

モーリス・ブーテ・ド・モンヴェル《ブレのベルナールとロジェ》
を前にご挨拶される高橋館長(左)とTakさん(右)
「これは草木を細かく描いている作品ですね。子どもたちは少し生意気そう(笑)。」とTakさん。
「ナビ派の画家の描くこどもは、かわいいばかりではないのです。ヴァロットンは善悪を超えた子どもたちを多く描いています。」と高橋館長。

フォトスポットにあるのヴァロットンの「可愛い天使たち」

さて、それではさっそく会場内をご案内することにしましょう。

展覧会は全部で6章構成になっています。

プロローグ 「子ども」の誕生

最初の部屋は、先ほど紹介したモンヴェルに始まり、ポール・マティ、ウジェーヌ・カリエールといった、ナビ派の画家たちと同時代に活躍したナビ派以外の画家たちの描いた作品が展示されています。
モンヴェルは少年少女向けの雑誌や絵本などで子どもたちを描いた人。この作品の少年たちはそれぞれ芸術の道を歩むことになった二人の息子だそうです。正面をしっかりと見据えた視線が、将来の道をとらえているようにも見えます。

プロローグ展示風景
次の部屋に入ると、ナビ派に多くの影響を与えたゴーガンのタヒチでのワンシーンを描いた作品群。

プロローグ展示風景

その向かいには、ゴーガンとともにパリを離れ、アルルに移住したゴッホが赤ちゃんを描いた《マルセル・ルーランの肖像》。モデルはアルルでの友人「郵便配達人」ジョセフ・ルーランの生まれたばかりの末娘。
生まれたばかりの赤ちゃんで、もちろんあどけなさはあるのですが、しっかりと見開いた目が存在感を感じさせてくれる不思議は作品です。
(ゴーガンとゴッホのアルルでの共同生活が長く続かなかったのはご案内のとおり。)
プロローグ展示風景

1 路上の光景、散策する人々

プロローグから子どもの絵で盛り上がってきたところで、いよいよここからがナビ派の登場。

はじめにボナールの『パリ生活の小景』から4点。
大通りを行き交う人たちや馬車、ありふれた街角の風景の中に子どもたちの生き生きとした姿が描かれています。犬も散歩していますね。

第1章展示風景

次の広い部屋に移ると、正面には『パリ生活の小景』をはじめとしたヴァロットンの一連の木版画。
この壁面の作品だけは撮影OK。来館記念にぜひ一枚!

第1章展示風景

ボナールの屏風画《乳母たちの散歩、辻馬車の列》にも再会できました。
第1章展示風景


2 都市の公園と家族の庭

田園風景の中の少女や子どもをえがいたのがナビ派との交流のあったマイヨール。
当初は絵画やタピスリーを制作していましたが、眼病のため彫刻に専念することになったマイヨールの描くのどかな風景や清楚な少女の姿に癒されます。

第2章展示風景
ヴィユヤールの描く公園の景色も、ナビ派との交流のあったアルフレド・ミュラーの郊外の景色や素朴な人物も見ていて和みます。

第2章展示風景


3 家族の情景

三菱一号館美術館ならでは、いつもため息をつきたくなるようないい眺め。
暖炉と西洋絵画の取り合わせはピッタリ。ボナールの作品が続きます。

第3章展示風景

ここでようやくモーリス・ドニ登場!
ドニが描く家族の情景。どの作品も小さな子どもが主役です。
第3章展示風景

4 挿画と物語、写真

ボナールは子どもたちを描いただけでなく、子どもたちがアルファベットを覚えるためのイラストも描きました。これらは残念ながら未完成に終わりましたが、その下絵が展示されています。

第4章展示風景
1898年にコダックからポケットカメラが発売されると、ボナールはいち早くそれを入手して、家族の団らんや旅の記録を収めました。
写真でもボナールは子供たちの生き生きとした姿をとらえています。

第4章展示風景


エピローグ 永遠の子ども時代

そしていよいよ最終章。

高橋館長おススメの作品は、ボナールの雄牛と白鳥。
「ボナールの《雄牛と子ども》《サーカスの馬》はほぼ絶筆に近い最晩年に制作された大作。死ぬ間際の狂気のような迫力を感じる作品です。」と高橋館長。

エピローグ展示風景

ナビ派や同時期に活躍した画家たちが、見て、描いた子どもたちの世界。
その中に一つの川のように流れるのが、初期から晩年までのボナールの作品。
エピローグはボナールの作品で締めくくられます。
「私には、ボナールはここにきて子どもたちの世界に入り込んでいったように思えます。」とお話しされた高橋館長。

まだ新型コロナウィルスは収束したわけではありませんが、多くの制約の中でも再開された「画家が見たこども展」。
ぜひ多くの方にごらんになっていただきたい展覧会です。

2020年2月20日木曜日

”細川ミラーの輝き”~永青文庫「古代中国・オリエントの美術」

古代中国の黄金の輝き、国宝”細川ミラー”期間限定公開!

東京目白台の永青文庫では、平成元年度早春展 財団設立70周年記念「古代中国・オリエントの美術」が開催されています。
※4月1日から当面の間、臨時休館のため後期展示は繰り上げて終了になりました。
 今後の展覧会の再開時期については、公式サイトまたはTwitterでご確認ください。


今回の展覧会の注目は何といっても神秘の輝きを放つ国宝"細川ミラー"。
3月15日(日)までの期間限定公開なのでお早めに!


展覧会の概要はこちらです。

展覧会概要
会 期  2月15日(土)~4月15日(水)
開館時間 10:00~16:30(入館は16:00まで)
休館日  毎週月曜日(但し2/24は開館し、2/25は休館)
入館料 一般 800円ほか
展覧会の詳細は公式サイトをご覧ください→永青文庫
※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は内覧会で美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。
※展示作品はすべて永青文庫蔵です。
※永青文庫は当面の間、通常通り開館。ご来館時にはマスク着用のご協力を。
※お出かけ前には開館情報を公式サイトまたはTwitterでご確認ください。

今回の展覧会の主役は、中国美術や古代オリエント美術のコレクションを収集した永青文庫の設立者・細川護立氏(細川家16代 1883-1970)。
中国、中東、さらに南米まで地域の広がりもあって、年代の幅も大きい護立氏のコレクションをさっそく拝見してみることにしましょう。

まずは4階展示室から。

4階展示室
4階展示室には、古代中国の美術と日本近代画家が描いた中国の作品が展示されています。

細川護立と古代中国の美術

はじめは中国・殷~西周時代(紀元前13-前8世紀)の「戈己銘夔文銅戈」(重要美術品)。
少なく見積もってもおよそ3000年前の古代中国の武器。
柄の根本部分には「戈己(かい)」の銘、刀部分にはクルクルと渦を巻いたような模様「夔文(きもん)」が描かれています。

「戈己銘夔文胴戈」(重要美術品)
(殷~西周時代 紀元前13-前8世紀)
こちらは西周~春秋時代(前9~前7世紀)に高貴な女性の小物入れとして用いられたと考えられる「龍文人脚銅匱」。
側面には龍文、そして足の部分はなんと人間!
およそ3000年の重みに耐えている人たちに注目です。

「龍文人脚銅匱」(西周~春秋時代 前9~前7世紀)

さらに進むと見えてきました!いよいよ”細川ミラー”です。


正式名称は「金銀錯狩猟文鏡」(国宝)、戦国時代(前4~前3世紀)の鏡です。
戦国時代といっても、日本の戦国時代でなく、こちらは紀元前。日本でいえば弥生時代にあたります。ちょうど水稲農耕が定着して、銅矛や銅剣、銅鐸が作られていた頃です。

三方に渦巻文様が配置されていて、その間には虎のような動物と対峙する騎馬人物(上)、鳳凰(右下)、向かい合う2頭の動物(左下)。
どれも粒粒のような金銀が丁寧に埋め込まれていてます。ものすごく根気のいる作業だったことでしょう。

「金銀錯狩猟文鏡」(国宝)
(戦国時代 前4~前3世紀)

昭和4年(1929)に日本の古美術商から護立氏が購入したこの鏡、普段は考古学者の梅原末治氏に相談して美術品を蒐集していたのですが、この時は一目見て「実に驚くべきもの」と直感して即購入したとのこと。
実際にその場で神秘の輝きをご覧になっていただきたい逸品です。

なお、「金銀錯狩猟文鏡」は3月15日までの限定公開ですが、3月17日以降もご安心を。
同じく国宝の「金彩鳥獣雲文銅盤」が展示されます。


他にも前漢~後漢時代(前2~後3世紀)の「銅製馬車」(重要美術品)(下の写真手前)はじめ、中国古代の悠久の歴史が感じられる青銅器が展示されています。


日本近代画家が描いた中国

護立氏は、同時代の画家、梅原龍三郎(1888-1986)や安井曾太郎(1888-1955)ら近代洋画家たちのパトロンとしても知られていました。
4階展示室中央の展示ケースには、安井曾太郎の護立氏あての書簡が展示されていて、交流の深さが感じられます。
こちらの手紙には今回の展覧会で展示されている「承徳の喇嘛廟」についての記述があります。


作品はこちらです。

安井曾太郎《承徳の喇嘛廟》(右)、《連雲の町》(左)

右が昭和12年(1937)に満州を訪れた時に制作を行った《承徳の喇嘛廟》。
承徳は、北京から北に約250km、現在の河北省に位置する皇帝の避暑山荘がある都市で、当時は満州の統治下にありました。
そこでラマ廟を描いた安井曾太郎は、病を得て当地で一時静養し、日中戦争の発端となった盧溝橋事件が勃発した7月まで留まり、帰国後に加筆して完成させました。
左は、昭和19年(1944)に中国江南地方の江蘇省の港町・連雲港市で描いた《連雲の町》。安井は連雲の町並みにイタリアを感じたとのことですが、とても戦時中とは思えないのどかな雰囲気を感じさせてくれる作品です。


そして久米民十郎(1893-1923)の《支那の踊り》。不自然な形で体をくねらせるダンサーがひときわ目を引きます。
第一次世界大戦下のロンドンに留学した久米は、帰国後、絵画を通じて霊と霊との交通を表現し得ると信じた「霊媒派」を宣言しました。
背景の壁に描かれているのは中国古代の装束を身に着けた男女。古代中国との交信を試みたのでしょうか。とてもミステリアスな作品です。
独特の世界を展開した久米ですが、折からの関東大震災により30歳の若さで亡くなりました。

久米民十郎《支那の踊り》大正9年(1920)
3階展示室に移ります。



オリエントの美術

こちらは今回の展示の最古参、エジプトの「木製シャブティ」。
シャブティとは、ミイラの形をした副葬品の小像。
胴から足にかけての銘文から、ベネルメルウトという所有者の名までわかってしまうのです(解説パネルをご覧ください)。私も以前、象形文字の本を買って勉強したことがあるのですが、とても難しくてマスターできませんでした。
「木製シャブティ」(エジプト 新王朝時代第18王朝)
(前15~前14世紀頃)
こちらは2000年の時を経ても輝きを保っているガラス容器。


中でも魅力的な輝きを放つのが「ゴールドバンドガラス碗」。
解説を読むと、無色透明ガラスと紫色のガラスをねじり合わせたツイストガラス棒を板状にして、網目レース文様を作り、さらに、紫色と透明ガラスに金箔を挟んだ縞文様のガラス板を合わせて浅鉢形に成形している、とありますが、紀元前後頃の職人さんたちは、よくこんな込み入った工程を考えついたのだと思いました。
この工法は紀元前後頃に用いられた後に消滅し、1500年後にイタリアのヴェネツィアで復活したとのことです。

「ゴールドバンドガラス碗」(東地中海沿岸域)
(前2~前1世紀)
こちらも古代東地中海域の超絶技巧。
2本の円筒形瓶を合わせて、紐上のガラスで装飾するなんて、まさに熟練の職人のなせる技。

「二連瓶」(東地中海沿岸域 4~5世紀)
こちらはペルシャの鉢。


下ぶくれぎみの愛嬌のある顔の人物像です。
中央の王様も、思わず「カワイイ」と言いたくなるなごみ系のお顔。
「白釉色絵人物文鉢」(イラン 12~13世紀)
南米代表は、ペルーから来たインカ帝国の土器。
かわいい鳥だったり、おしゃれな幾何学模様だったり、今でも十分通用するデザインの焼き物です。
右から「彩色草花鳥文壺」「彩色幾何学文壺」
(いずれもペルー 15~16世紀)
最後は2階展示室。



細川家に伝わる高麗茶碗

中国からペルシャ、エジプト、東地中海、南米と、世界を一周して、お隣の朝鮮に戻ってきました。
ここに展示されているのは、細川家に伝わる高麗茶碗。
中には参勤交代で江戸と地元の熊本を行き来したものもあるとのこと。
どれも秀逸な作品なのですが、中でも特に惹かれたのが「井戸香炉」。
丸みを帯びたフォルムといい、雪山を連想させる模様といい、絶妙な安定感が感じられるのです。
「井戸香炉」(朝鮮 16世紀)
高麗茶碗の奥には、次回展を予告するパネル「細川家と明智光秀」。


次回展のご案内
令和2年度早春展 財団設立70周年記念
新・明智光秀論 -細川と明智 信長を支えた武将たち-
2020年4月25日(土)~6月21日(日)

「謀反人・光秀」のイメージを覆す、先進的な智将としての新たな人物像とは?
こちらも楽しみな企画です。

「季刊永青文庫」もおススメです

こちらは「季刊永青文庫」(税込500円)。
最新号のテーマはもちろん「古代中国・オリエントの美術」。
写真も豊富で展示作品の解説も詳しく、作品観賞のお伴におススメです。