2021年2月22日月曜日

すみだ北斎美術館 筆魂展

すでに話題沸騰!オール肉筆画の展覧会


浮世絵といえば葛飾北斎の富士山、歌川広重の東海道五拾三次、浮世絵といえば版画、といったイメージが強いのですが、東京・墨田区のすみだ北斎美術館では、なんとオール肉筆画約125点(前後期あわせて)が展示される展覧会が開催されているのです。
すでにアートファン、浮世絵ファンの間では話題沸騰で、多く方が展覧会を訪れていますが、まだの方は浮世絵界のスーパースター約60人の華やかなが競演をぜひご覧ください!

3階ホワイエのフォトスポット
撮影してシェアしましょう!


展覧会概要

特別展 筆魂 線の引力・色の魔力 -又兵衛から北斎・国芳まで-
 会 期  2021年2月9日(火)~4月4日(日)
  前 期 2月9日(火)~3月7日(日)
  後 期 3月9日(火)~4月4日(日)
   ※ 前期後期ですべて展示替え(一部はページ替え)
 開館時間 9時30分~17時30分(入館は17時00分まで)
 休館日  毎週月曜日 
 観覧料  一般 1,200円ほか ※AURORA(常設展示室)観覧料含む。
※展覧会の詳細、新型コロナウイルス感染症対策等については同館公式HPをご参照ください⇒すみだ北斎美術館
※同館公式ツィッターでは展示作品を紹介しています⇒すみだ北斎美術館公式ツィッター

展覧会構成
 1章 浮世絵の黎明から18世紀前期ごろまで
  1節 岩佐又兵衛と近世初期風俗画
  2節 師宣・安度・長春とその流派
 2章 浮世絵の繁栄
  1節 政信・清長・湖龍斎・春章とその流派
  2節 上方浮世絵
  3節 歌麿・栄之・写楽とその流派
 3章 幕末を彩る領袖 葛飾派と歌川派
  1節 歌川派と菊川派
  2節 葛飾北斎とその一門

※特別展展室内は撮影禁止です。掲載した写真は、美術館より広報用画像をお借りしたものです。
※3階ホワイエのフォトスポット、高精細複製画は撮影可、4階AURORA(常設展示室)内は一部を除き撮影可です(いずれもフラッシュ不可)。


展覧会の見どころ紹介

今回の展覧会の見どころは、何といっても浮世絵師たちの筆遣い、筆の息吹が間近に感じられること。

そのうえ、女性の髪形や髪飾り、着物の柄など作品の解説も詳しいので、時代ごとの流行の変化もよくわかって、各章の節ごとにあるコラム(column)では、それぞれの時代に活躍した浮世絵師たちの魅力がわかりやすく紹介されているので、展示を見ながら自然と肉筆浮世絵の世界に入り込むことができるのです。

それでは、さっそく各章ごとに展示を見ていくことにしましょう。

1章 浮世絵の黎明から18世紀前期ごろまで

菱川師宣

展示作品を見て最初に驚いたのは、何百年も前の作品の色合いが鮮やかに残っていることでした。

この作品は、「浮世絵の始祖」菱川師宣(?-1694)が描いた「二美人と若衆図」。
女性たちの華やかな着物の柄が、とても300年以上も前に描かれたとは思えないくらい鮮やかです。

菱川師宣「二美人と若衆図」(前期)
個人蔵、福井県立美術館寄託


まさに展覧会のタイトルどおり、浮世絵師たちの筆さばき、一筆一筆に込めた魂が、長い年月を経て私たちの心にストレートに伝わってくるのです。
(ちなみにタイトルの「筆」の字の縦棒の先は筆先になっています。)

3階ホワイエのフォトスポットより


岩佐又兵衛

「浮世絵の始祖」は菱川師宣ですが、最初に展示されているのは、師宣でなく、意外や意外、近世初期風俗画の名手で「浮世絵の先駆者」とされる岩佐又兵衛(1578-1650)の作品。

岩佐又兵衛は、織田信長に仕えた武将・荒木村重の末子。
荒木村重は、天正6(1579)年、信長に背き、明智光秀らの攻撃の前に、摂津の有岡城に10カ月もの間籠城しましたが、その後、親族や家臣たちを残し、大切な茶道具を持って脱出してしまいました。
NHK大河ドラマ「麒麟がくる」では、村重は光秀と対面するワンシーンしか登場しませんでしたが、「軍師官兵衛」では茶道具の入った木箱を大事そうに抱えながら船で川を下る場面が出てきたので、ご記憶ある方もいらっしゃるのでは。
有岡城陥落後、親族や家臣たちは信長によってことごとく処刑されましたが、岩佐又兵衛は命からがら難を逃れました。「軍師官兵衛」では、絵が上手な子として子役の又兵衛も登場していました。

歴史に「もし」は禁物ですが、又兵衛も信長によって処刑されていたら、この世に浮世絵は登場しなかったのではと思うと、ゾッとしてしまいます。

それはともかくとして、先に進みます。

2章 浮世絵の繁栄

東洲斎写楽

浮世絵が繁栄期を迎えた寛政年間(1789-1801)に突如として現れ、わずか10カ月で忽然と消え去った謎の浮世絵師東洲斎写楽(生没年不詳)の肉筆画が後期に展示されます。

これは絵本の版下絵として描かれたと思われるもので、現存する肉筆画の少ない写楽のとても貴重な作品。前期には「岩井喜代太郎・中村助五郎・坂東彦三郎図」(摘水軒記念文化振興財団)が展示されています。彩色ではありませんが、写楽の繊細な筆致を感じ取ることができます。

後期に展示されるのはこちらの作品です。

東洲斎写楽「中山富三郎・市川男女蔵・市川高麗蔵図」(後期)
摘水軒記念文化振興財団蔵、千葉市美術館寄託



3章 幕末を彩る領袖 葛飾派と歌川派

幕末期に入ると浮世絵は隆盛を極め、歌川豊国、歌川国貞(三代豊国)、歌川広重、溪斎英泉はじめ多くのスーパースターたちが活躍しました。
中でも私のお気に入りは歌川国芳(1798-1861)。

歌川国芳

武者絵で知られた国芳ですが、猫好きでユーモアたっぷりな絵を描いたり、ひねりをきかせて幕府を諷刺した作品を出したりした国芳は、美人画も得意としていました。
前期には「立美人図」(個人蔵)、後期にはこちらの作品が展示されます。

歌川国芳「文読美人図」(後期)
摘水軒記念文化振興財団蔵、千葉市美術館寄託


葛飾北斎

最後に登場するのは、やはりこの人しかいません。
すみだ北斎美術館の主(ぬし)、葛飾北斎(1760-1849)です。
「冨嶽三十六景」の「神奈川沖浪裏」や「凱風快晴」などがよく知られている北斎ですが、実はおそらく最も多くの肉筆画を描いた浮世絵師と考えられているのです。

今回の展覧会でも、6人の浮世絵師たちの競演「青楼美人繁昌図」(前期 個人蔵)を除いても、北斎作品だけで前後期あわせて21点もの肉筆画が展示されます。

今回が初公開という貴重な作品もあります。

葛飾北斎「合鏡美人図」(前期)
個人蔵

後期に展示されるのは「立美人図」。
着物の柄の龍と稲妻が大迫力!
絵の中の屏風や襖に描かれたのが「画中画」で、何が描かれているか探す楽しみがありますが、美人画が多く展示されている今回の展覧会では、着物の柄がどんなものなのか細部まで見ていく楽しみがあります。

葛飾北斎「立美人図」(後期)
個人蔵

晩年多くの龍を描いた北斎。
墨の飛沫を作品の上に飛ばす時のパシャッ、パシャッという音が聞こえてきそうな作品です。

葛飾北斎「登龍図」(前期)
個人蔵



版画の浮世絵にも、髪の毛一本まで彫りで表現する繊細さ、夕焼けの色のあざやかさ、紙に凹凸をつける空摺り、角度を変えて見ると文様が浮かび上がる正面摺りなどなど版画ならではの魅力がいっぱいありますが、肉筆画にも肉筆画ならではの味わいがあります。

それに、重要文化財、重要美術品、新発見、再発見、初公開作品も約40点あって、他館蔵も個人蔵もあるので、二度と同じような内容の展覧会が開催されることはないかもしれません。
ぜひぜひご覧になっていただきたい展覧会です。お見逃しなく!

筆魂展の展示作品をカラーで収録した公式図録もおススメ。詳しい解説もあって、これは永久保存版ですね。


定価 2,500円+税


(1階ミュージアムショップは緊急事態宣言を受けて、当面の間、営業時間が10:30-16:00に短縮されているのでご注意を!)



3階ホワイエに展示されている北斎肉筆画の高精細複製画もお見逃しなく。こちらは撮影可です。

葛飾北斎「琵琶に白蛇図」(高精細複製画)
原画 アメリカ・フリーア美術館所蔵

特別展のチケットで、会期中観覧日当日に限り、4階AURORA(常設展示室)はじめ全ての展示をご覧になることができます。

最後に疫病退散を祈念して、赤い鐘馗様の画像を貼り付けます。


葛飾北斎「朱描鐘馗図」(複製)
4階AURORA(常設展示室)に展示されています。

それではみなさん、密を避けて浮世絵の肉筆画をお楽しみください!

2021年1月31日日曜日

「絵師もの」時代小説の作家と直木賞

先日、とてもうれしいニュースが飛び込んできました。

 西條奈加さん、『心淋(うらさび)し川』で直木賞受賞!

この作品はまだ読んでないのですが、以前、いまトピのコラムで西條さん作の『ごんたくれ』を紹介したので、気になる作家のひとりだったのです。

『ごんたくれ』は、百花繚乱、多士済々の江戸時代中期の京都で活躍した二人の絵師、長沢芦雪(作中では彦太郎こと吉村胡雪)と、曾我蕭白(作中では豊蔵こと深山箏白)の個性がバチバチとぶつかり合う小気味よい展開の作品。

南紀・串本にある無量寺に行った時の話とからめてこの作品を紹介したのは、2019年6月のことでした。



長沢芦雪の代表作《龍虎図》がある南紀・串本の無量寺


これは、絵師が主人公の時代小説を、私が勝手に「絵師もの」小説と名付けて紹介した最初のコラム。このあとも昨年(2020年)は3つの作品を紹介しました。

そのひとつが、2020年のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」にちなんで昨年3月に紹介した葉室麟さん作『墨龍賦』



京都・建仁寺大方丈の《龍虎図》
現在は高精細複製画ですが、それでも迫力十分!

『墨龍賦』は、ちょうど「麒麟がくる」の時代から江戸時代初期にかけて活躍した絵師・海北友松が主人公。そして、この雲龍の正体は・・・
ぜひ「麒麟がくる」が終わる前に読んでいただきたい作品です。

そして、葉室麟さんが『蜩ノ記(ひぐらしのき)』で直木賞を受賞したのが、第146回(2011年下半期)。

「絵師もの」小説そのもので直木賞を受賞した方もいます。

それは、第148回(2012年下半期)の直木賞を受賞した安部龍太郎さん。
受賞作は『等伯』でした。

『等伯』は、長谷川等伯と狩野永徳、桃山時代を代表する二人の絵師たちの火花散るライバル対決が繰り広げられる物語。

京都・本法寺にある旅姿の等伯の像


一方の狩野永徳を主人公に描いた、山本兼一さん作『花鳥の夢』とあわせて紹介しました。
両方の作品を並行して読んでみても面白いかもしれません。


狩野永徳《洛中洛外図屛風 上杉本》(国宝 米沢市上杉博物館)
(これは我が家の絵はがきです)

ちなみに、山本兼一さんは『利休にたずねよ』で第140回(2008年下半期)直木賞を受賞しています。



そして、今年(2021年)に紹介したのが、新年早々、NHK正月時代劇「ライジング若冲」で話題になった伊藤若冲が主人公の澤田瞳子さん作『若冲』


我が家の伊藤若冲《鳥獣花木図屛風》
(原本は出光美術館)

澤田さんはこの作品で第153回(2015年上半期)直木賞の候補にあがったのですが、惜しくも受賞を逃しました。
その後も『火定』、『落花』、『能楽ものがたり 稚児桜』で立て続けに直木賞候補にあがったので、近いうちにぜひ受賞していただきた方です。
できればできれば「絵師もの」時代小説で、というのは私の勝手な願いですが。


今までいまトピのコラムで紹介した「絵師もの」時代小説は、5冊(『等伯』は(上)(下))。



他にも絵師を主人公にした時代小説はまだまだあるので、これからもぜひ機会を見て紹介していきたいと考えています。ぜひご期待ください。

2020年12月30日水曜日

2020年 私が見た展覧会ベスト10

世界じゅうをコロナ禍が席巻した2020年。
企画されていた展覧会が中止になったり、密を避けるための事前予約制が定着するなど、アートの界隈も大きな影響を受けた一年でした。

そういった中でも、主催者みなさなのなみなみならぬご努力のおかげでとても内容の濃い展覧会が開催されて、私たちアートファンを楽しませてくれました。

そこで今年も毎年恒例の展覧会ベストテンを発表したいと思います。
例年より見に行った展覧会の数は少なかったのですが、それでもベストテンを選ぶのに頭を悩まさなくてはならなかったのは、ぜいたくなことなのかもしれません。

第1位 国立西洋美術館「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」


緊急事態宣言が解除されて最初に見に行ったのがこの展覧会。
「美術展が戻ってきた!」という感慨にひたりながら展示会場をめぐっていました。
もちろん内容も充実。イギリス代表ターナーの《ポリュフェモスを嘲るオデュッセウス》の劇的なシーンが印象的でした。


当初の開催予定が記載された展覧会チラシ


第2位 東京国立博物館 特別展「桃山-天下人の100年」


室町時代末から江戸時代初期までの激動の時代に出現した桃山文化の粋が集まった展覧会。展示作品の質の高さ、量の多さに圧倒されました。前期後期とも見に行きました。



桃山といえば長谷川等伯と狩野永徳の世紀の対決。いまトピに記事を書いてます


第3位 京都国立博物館 「御即位記念 特別展 皇室の名宝」


伊藤若冲《動植綵絵》、教科書に出てくる《蒙古襲来絵詞》はじめ豪華なラインナップ。
皇居東御苑内にある三の丸尚蔵館の名宝が皇室ゆかりの地・京都に集結した展覧会でした。前期後期とも京都まで見に行きました。


同じく京都では、ほぼ同時期に京都市京セラ美術館のリニューアルオープン記念展「京都の美術 250年の夢(第1部~第3部 総集編-江戸から現代へ-)」が開催されたので、こちらも前期後期とも見てきました。
本来であれば第1部から第3部まで開催される予定でしたが、コロナ禍の影響で1回にまとめて凝縮された内容の濃い展覧会でした。


第4位 江戸東京博物館「古代エジプト展 天地創造の神話」


ベルリンの博物館島から古代エジプトの至宝がやってきました!
コロナ禍で海外からの美術品の搬入が難しい状況の中で開催された、まさに奇跡の展覧会。
日本にいながら古代エジプトにタイムスリップできる空間が広がっています。




古代エジプト展は2021年4月4日まで(年始は1月2日から)江戸東京博物館で開催中!
その後、来年秋まで京都市京セラ美術館、静岡県立美術館、東京富士美術館に巡回します。
いまトピに記事を書いてますので、詳しくはこちらをご覧ください⇒


第5位 横浜美術館「トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション」


国内有数の20世紀西洋美術コレクションを所蔵する三館のコラボ企画。コロナ禍の前に企画されたとのことですが、海外や国内の移動が制限される今では、とてもうれしい展覧会です。




トライアローグ展は、横浜美術館で2月28日まで(年明けは1月4日から)開催しています。
その後、愛知県美術館、富山県美術館に巡回するので、近くに来たらぜひご覧ください!
展覧会の様子レポートしてます


第6位 静嘉堂文庫美術館 「美の競演-静嘉堂の名宝-」


静嘉堂が所蔵する茶道具、陶磁器、山水画、花鳥画、仏画、仏像、刀剣、浮世絵などいろいろなジャンルの美術品が一堂に会した展覧会。
料理でいえば和洋中、エスニックを少しずつ味わえるぜいたくな内容でした。
同時期に開催されるはずだった東京2020オリンピック・パラリンピックは延期されましたが、この展覧会は幸いにも開催され、静嘉堂の名宝の数々を楽しむことができました。




静嘉堂文庫美術館では江戸のエナジー 風俗画と浮世絵が2月7日まで(年明けは1月5日から)開催されています。
来年早々に行く予定しています。 


第7位 そごう美術館「東京藝術大学スーパークローン文化財展」


何しろ臨場感がすごかったです。中国・敦煌の莫高窟がそのまま来たような空間がスーパークローン技術で再現されていました。
ほかにも破壊されたバーミヤン東大仏の天井画の復元作品や、デジタル技術と伝統の技が融合によって飛鳥時代の創建当初の姿に迫る取組みを取り入れた法隆寺金堂の釈迦三尊像など見応えありました。


中国・敦煌莫高窟第57窟の再現



東京藝術大学では、いつもは春に開催されるコレクション展がコロナ禍の影響で延期になったのですが、無事に秋に開催されてホッとしました。
今年開催された「藝大コレクション展2020」のテーマは、高橋由一《鮭》、上村松園《序の舞》、狩野芳崖《悲母観音》はじめよりすぐりのコレクションと、卒業生たちの個性的な自画像約100点で綴る「藝大年代記(クロニクル)」。見応えありました!


第8位 山種美術館 特別展「桜 さくら SAKURA 2020-美術館でお花見!-」


山種美術館恒例の日本画で春のお花見の展覧会は4月に臨時休館してからそのまま終了してしまうのかと思っていたら、うれしいことに7月に再開して、夏までお花見ができました。


抹茶と特製和菓子のセット

山種美術館はいつも内容の充実した展覧会を開催しているので、どれにしようか迷いましたが、今回は中断後に再開したこの展覧会をにしました。

山種美術館では【特別展】東山魁夷と四季の日本画が1月24日まで(年明けは1月3日から)開催中。
詳しくはこちらをご覧ください⇒山種美術館 【特別展】東山魁夷と四季の日本画


第9位 川崎浮世絵ギャラリー 小林清親 光と影


山種美術館と並んで、いつもクオリティの高い展覧会が開催されて、毎回常連になっている
のが、すみだ北斎美術館川崎浮世絵ギャラリー三菱一号館美術館なのですが、今回は昨年12月にオープンして1周年を迎えた川崎浮世絵ギャラリーを紹介したいと思います。
小林清親の光線画も、月岡芳年の「月百姿」もじっくり味わうことができました。
新年からの企画も楽しみです⇒川崎浮世絵ギャラリー






第10位 山梨県立美術館 特別展「クールベと海」


国内のクールベ作品が大集結した展覧会。波も、故郷の森や山、岩も、雪景色や狩猟のシーンもあって、クールベの多様な側面が見られる展覧会でした。
ミレー館はじめコレクション展と相まって充実の時間がすごせました。



特別展クールベと海は、現在、広島県のふくやま美術館で2月21日まで(年明けは1月2日から)開催中。その後、4月にはパナソニック汐留美術館に巡回します。

展覧会の様子レポートしてます⇒山梨県美術館 特別展「クールベと海」


今年はコロナ禍による美術館・博物館の臨時休館がありましたが、それでも前期後期を各1回と数えると110もの展覧会を見ることができました。
そのうち、8月7日から10月6日までは「ぐるっとパス」を活用して10館の展覧会を見ることができたので、展覧会の企画・運営にかかわられたみなさんに感謝、感謝です。

来年も心に残る展覧会にめぐりあえるのが楽しみです。

今年一年ご愛読ありがとうございました。
来年もよろしくお願いいたします。

新しい年がみなさまにとってよい年になりますように!







2020年12月22日火曜日

大倉集古館 特別展「海を渡った古伊万里」~ウィーン、ロースドルフ城の悲劇~

東京・虎ノ門の大倉集古館では、江戸時代以降、はるばる海を越えてヨーロッパに渡った日本の磁器や、国内の磁器コレクションの逸品が一度に見られる特別展「海を渡った古伊万里」が開催されています。

大倉集古館外観



【展覧会概要】


会 期  2020年11月3日(火・祝)~2021年1月24日(日)
    展示再開&会期延長!   2月20日(土)~3月21日(日)
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日  毎週月曜日(休日の場合は翌平日)、年末年始(12月28日~1月1日)
入館料  一般1300円ほか
展覧会の詳細、新型コロナウィルス感染症拡大防止策等については同館HPでご確認ください⇒https://www.shukokan.org/

本展は、以下の会場へ巡回予定です。
愛知県陶磁美術館 2021年4月10日~6月13日
山口県立萩美術館・浦上記念館 2021年9月18日~11月23日

※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は大倉集古館の特別の許可をいただいて撮影したものです。

展覧会チラシ

展示は、1階の「はじめに」に始まって、

1階の 第Ⅰ部 日本磁器誕生の地「有田」
2階の 第Ⅱ部 海を渡った古伊万里の悲劇「ウィーン、ロースドルフ城」

の2部構成になっています。

今回の展覧会の見どころも2部構成にあわせて、大きく分けて二つあります。

1 1階展示室を回れば日本磁器の歴史が一目でわかる!


1階展示室には、佐賀県立九州陶磁文化館のコレクションを中心に、1610-30年代の最初期の有田焼の「染付磁器」に始まって、カラフルな色遣いの「色絵磁器」、乳白色の素地に花鳥人物や吉祥文様を描いた柿右衛門様式の器、染付素地に金、赤の二色を多用する金襴手様式のいかにもヨーロッパ人好みの「華やかな皿」、幕末期から明治初期にかけて輸出振興のために作られた豪華な輸出品が展示されています。

有田で始まり、伊万里港から各地に運ばれたので「今利(伊万里)焼」と呼ばれるようになった日本磁器の歴史に詳しくない私でも、1階展示室をぐるっと回っただけで磁器の歴史の概要がわかるという、とても親切な展示になっています。

第Ⅰ部「染付磁器」
第Ⅰ部「色絵磁器の誕生」 

第Ⅰ部「柿右衛門様式」
第Ⅰ部「華やかな皿」
第Ⅰ部「幕末、明治初期の輸出品」

外様はつらい!

華やかなデザインの有田焼ですが、その陰には外様大名ならではの涙ぐましい苦労を感じさせるエピソードがありました。
有田が所在する肥前佐賀を治めていた鍋島家は、1600(慶長5)年の関ケ原の合戦では西軍についたため戦後は苦境に立たされましたが、のちに徳川家康に赦されて佐賀藩(鍋島藩)の領有が認められ、その後は徳川幕府と良好な関係を築くことに努めました。
そこで作られたのが上品なデザインの「鍋島磁器」。採算を度外視して、最高の原料と、最高の陶工を投入して献上品として作られた御用磁器なのです。

第Ⅰ部「鍋島磁器のデザイン」


大倉集古館から出品されている逸品も鍋島磁器《青磁染付宝尽文大皿》。
宝尽くしというだけあって、器に描かれているのはおめでたいものばかり。上品な淡い色彩が心を和ませてくれます。

《青磁染付宝尽文大皿》日本/鍋島藩窯
1690-1720年代 大倉集古館

華美なものはダメ!

ところがこの高級感あふれる鍋島磁器も、のちに幕府の方針に翻弄されることになります。
江戸初期からたびたび出されていた倹約令は、八代将軍徳川吉宗の享保の改革(1716-45)の時は特に厳しく、有田焼の色絵の生産も減少していきました。
盛り返してきたのは先ほどご案内したように、幕末期からです。


2 ヨーロッパの王侯貴族を魅了した豪華な磁器が来日!


紹介の順番が逆になりましたが、1階展示室に入ってすぐにお出迎えしてくれるのは、ウィーン郊外にあるロースドルフ城所蔵の色鮮やかな日本とヨーロッパの磁器。

《色絵唐獅子牡丹文亀甲透彫瓶(部分修復)》
日本/有田窯 1700-1730年代
ロースドルフ城

《色絵花卉美人文盆器》(組み上げ・部分修復)
ヨーロッパ 18-19世紀
ロースドルフ城

どちらも破損したものを部分修復した器です。

今回の特別展は日本や中国、そしてヨーロッパで作られた磁器が中心の展覧会なのですが、今まで他の博物館・美術館で開催された展覧会とは少し様子が違うようです。

展覧会チラシには磁器の破片、サブタイトルは「~ウィーン、ロースドルフ城の悲劇~」
磁器の破片は何を意味しているのでしょうか、そしてロースドルフ城の悲劇とは何なのでしょうか。

1階で有田焼のおさらいをしたあとは、2階で海を渡った磁器を見ていくことにしたいと思います。

ウィーン郊外にある中世の古城・ロースドルフ城は、展覧会チラシ裏面にも写真が掲載されていますが、優雅なたたずまいの白亜の宮殿です。


展覧会チラシ(裏面)

2階展示室は大きく3つのエリアに分かれています。


破壊された陶片がインスタレーションとして展示されているエリア

第二次世界大戦前年の1938年、オーストリアはナチス・ドイツによって併合されてドイツの一部となり、敗戦後は戦勝4か国(米、英、仏、ソ)により分割管理され、ウィーン周辺のオーストリア東部はソ連の管理下に置かれました。

当時、ロースドルフ城はソ連軍の兵舎として使用されていたのですが、陶磁器コレクションの接収をおそれたピアッティ家の当主はそれを地下室に隠していました。
ところがある時、ソ連軍兵士たちに見つかり、徹底的に破壊されてしまったのです。
それがサブタイトルにある「ロースドルフ城の悲劇」だったのです。

破壊された大量の陶磁器はもう使うことはできないので、廃棄される運命にあったはずですが、当主はそれを集め、戦争遺産として城の室内に展示して一般公開しました。

それを再現したのが、2階展示室中央の破壊された陶片がインスタレーションとして展示されている「陶片の間」の再現コーナーなのです。

第Ⅱ部「陶片の間」再現コーナー



これは作りものではありません。まぎれもなく実際にソ連兵たちの手によって破壊された陶片なのです。
いくら何でもここまでやるか、と思ってしまいますが、ちょうど岩波新書『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』(大木毅著 2019年)を読んだ後だっただけに、これがまさに人間も家もモノも敵のものは破壊し尽くしてしまう絶滅戦争の一側面なのかと、ものすごいリアリティをもって感じられたのです。

「独ソともに、互いを妥協の余地のない、滅ぼされるべき敵とみなすイデオロギーを戦争遂行の根幹に据え、それがために惨酷な闘争を徹底して遂行した点に、この戦争の本質がある。」(前掲書 はじめにⅱ)

展示室内の荘厳な円柱を背景に展示を見ると、まるでロースドルフ城の室内に入ったかようなリッチな気分になってきます。

第Ⅱ部展示風景



第Ⅱ部展示風景



破損が少なく形が残っている陶磁器のエリア

エレベーターで2階に上がってすぐのエリアには、破損が少なく形が残っている陶磁器が展示されていて、中国や日本、西洋各地から集められたピアッティ家の国際色豊かな陶磁器コレクションの面影をしのぶことができます。
国内所蔵の磁器も並べて展示されているので、西洋と東洋の文様の交流を見ることもできます。

第Ⅱ部「中国磁器、日本陶磁」 



第Ⅱ部「伝世品に見られる文様の交流史」



修復された陶片のエリア

最後のエリアには、今回の展覧会にあたって日本に運ばれ修復された磁器が展示されています。
下の写真はどちらも《色絵花卉文大皿》で、右が現代の技法で往時の姿をよみがえらせた「修復」、左が破片を組み上げた「組み上げ修復」。

右《色絵花卉文大皿(修復)》ヨーロッパ 19世紀、
左《色絵花卉文大皿(組み上げ修復)》日本/有田窯 19世紀中頃
いずれもロースドルフ城


こちらには「組み上げ修復」による中国景徳鎮窯の器が並びます。
修復前の破片のパネル写真とぜひ見比べてみてください。
第Ⅱ部「蘇った陶片」


私のおススメの逸品(一品)

さて、最後に私のおススメの逸品(一品)をご紹介したいと思います。
いろいろ悩みましたが、19世紀に西欧でつくられた古伊万里金襴手の模倣作品とされる《色絵唐獅子牡丹文蓋付壺》を挙げます。

《色絵唐獅子牡丹文蓋付壺》ヨーロッパ
19世紀 ロースドルフ城

こちらは「第Ⅱ部 伝世品に見られる文様の交流史」のコーナーに展示されていますが、なぜこの器を選んだのかといいますと、愛嬌のある獅子を発見してしまったからなのです。
それはどこかというと・・・
ぜひみなさんもその場で探してみてください! 



ミュージアムショップも充実のラインナップ


大倉集古館のミュージアムショップは地下1階にあります。
展覧会オリジナルグッズや展覧会公式図録を販売していますので、ぜひお立ち寄りください。


オリジナルグッズ

絵葉書は1枚165円(税込)




展覧会公式図録(税込2,750円)

年末は12月27日(日)まで、年始は1月2日(土)から開館しています。
会期は1月24日(日)までです。 展示再開&会期延長! 2月20日(土)~3月21日(日)
この冬おススメの展覧会がまた一つ増えました。