東京・六本木の泉屋博古館東京では特別展「オタケ・インパクトー越堂・竹坡・国観、尾竹三兄弟の日本画アナキズムー」が開催されています。
泉屋博古館東京エントランス |
展覧会開催概要
会 期 2024年10月19日(土)~12月15日(日)
前期 10月19日(土)~11月17日(日)
後期 11月19日(火)~12月15日(日)
開館時間 11:00~18:00(金曜日は19:00まで開館 ※入館は閉館の30分前まで)
休館日 月曜日、※11月4日は開館(翌5日休館)
入館料 一般1,200円、高大生800円、中学生以下無料
※展覧会の詳細、関連イベント等は同館公式サイトをご覧ください⇒泉屋博古館東京
展示構成
第1章 「タツキの為めの仕事に専念したのです」ーはじまりは応用美術
第2章 「文展は広告場」ー展覧会という乗り物にのって
第3章 「捲土重来の勢を以て爆発している」ー三兄弟の日本画アナキズム
第4章 「何処までも惑星」ーキリンジの光芒
特集 清く遊ぶー尾竹三兄弟と住友
今回の展覧会はホール内の尾竹国観《絵踏》と北村四海《蔭》のみ撮影可能です。
館内で撮影の注意事項をご確認ください。
※掲載した写真は主催者より広報用画像をお借りしたものです。
今回の特別展は、東京で尾竹三兄弟を紹介する初めての展覧会。彼らの重要作をはじめ、多数の初公開作品など前後期あわせて約70点もの作品が大集結する豪華な内容なので、とても楽しみにしていました。
特に見たかったのは、花鳥風月を愛でる伝統的な日本画とは全くかけ離れたアヴァンギャルドな尾竹竹坡の《月の潤い・太陽の熱・星の冷え》。
宮城県立美術館【前期展示】
《月の潤い・太陽の熱・星の冷え》は、『日本画とは何だったのか 近代日本画史論』(古田亮著 2018年)で初めて見て、まさにインパクトを受けていつかは見てみたいと思っていたので、実物を目の前で見ることができて大満足でした。
キャプションのタイトルは「トム少佐、聞こえますか?」。
トム少佐とは、伝説のロックスター、デヴィット・ボウイの名曲「スペース・オディティ」に出てくる宇宙飛行士。幻想的な「スペース・オディティ」を脳内で再生しながらこの作品を眺めているとまるで宇宙空間をさまよっているような心地よい気分になってきます。
この作品は前期展示ですが、後期にも同じようなアヴァンギャルドな作品が見られるので後期も行かなくてはなりません。
尾竹竹坡《大漁図(漁に行け)》はアヴァンギャルドというよりマニアック!
最初は何が描かれているのかよく分かりませんでしたが、近くで見ると海面にはおびただしい数の魚、魚、魚。なかには亀の姿も見えます。
尾竹竹坡《大漁図(漁に行け)》大正9年 個人蔵【前期展示】 |
そして、舟の上にもこれ以上獲っては舟が沈んでしまうのではないかというくらいたくさんの魚。逞しい体をした漁師に獲られまいと抵抗しているタコの姿も見えます。
アップにしてみるとそのすごさがよく分かります。
尾竹竹坡《大漁図(漁に行け)》(部分)大正9年 個人蔵【前期展示】 |
それにしても魚の目は黒目の部分がもっと大きいはずなのですが、竹坡の描く魚は白目の部分が大きくて、どの魚も驚いている表情をしていて、ひょうきんな顔をしているようにも見えるのはなぜなのでしょうか。
新潟で紺屋(染物屋)を営む家に生まれ、父・倉松に絵の手ほどきを受けた長男・熊太郎(越堂)(1868-1931)、三男・染吉(竹坡)(1878-1936)、四男・亀吉(国観)(1880-1945)の尾竹三兄弟の本格的な画業の出発点は富山でした。
明治22年頃、越堂は富山へ移り、売薬版画の下絵や新聞の挿絵、絵馬などを描いて家計を助け、竹坡、国観も兄を追って富山に移り、兄を支えたのです。
富山といえば富山の薬売り。
子どもの頃、富山の薬売りの人が家に来て薬の交換をしたあと、帰り際にもらったカラフルな紙風船で遊んだ記憶がありますが、当時の進物商法(おまけ)は多色摺りの浮世絵で、歌舞伎役者を描いた役者絵や七福神など吉祥画題の福絵などが中心でした。
尾竹国観《役者見立 壇浦兜軍記・阿古屋琴セメの段》 富山市売薬資料館【後期展示】 |
その後、本格的な絵画学習を志した国観は明治26年に上京して歴史画の大家・小堀鞆音に入門、その3年後には竹坡が上京して、円山派の流れを継ぐ川端玉章に師事しました。
(明治32年には越堂も上京。)
国観の《油断》は、特定の歴史的事実や人物に基づかない作品ですが、敵陣に攻め入る武士たち(右隻)、不意打ちにあわてふためく武士や女房たち(左隻)の姿が臨場感たっぷりに描かれています。
《油断》は明治42年に開催された第3回文展に出品された作品で、2等賞第2席を受賞しました。当時の文展では1等賞は空席で、2等賞第1席は若くして亡くなった天才日本画家・菱田春草の《落葉》(重要文化財 永青文庫)でした。
この作品は国観の文展デビュー作なのですが、のちに重要文化財となる作品と肩を並べるほどの作品を描いてしまったのですから、「国観おそるべし!」と言わざるを得ません。
ホールに展示されている尾竹国観《絵踏》は初公開。撮影可の作品です。
《絵踏》は、江戸幕府がマリア像やキリスト十字架像などを足で踏ませてキリスト教の信徒でないことを証明させたというドラマチックな場面が描かれた作品で、国画玉成会展覧会に出品されたのですが、国画玉成会の審査員の選からもれた兄・竹坡と岡倉天心が仲たがいして竹坡が同会を除名されたため、国観も退会して展示中だった《絵踏》も会場から撤去したという、作品そのものにもドラマチックないわれがあったのです。
尾竹国観《絵踏》明治41年 泉屋博古館東京【通期展示】 |
「これは狩野探幽では!」と一瞬思った、余白をたっぷり使った竹坡の《九冠鳥》は後期展示。これも初公開の作品ですが、大正期にはアヴァンギャルドな絵を描いた竹坡が明治期にはこんな絵を描いていたことに驚かされます。
越堂の《漁樵問答》は大正5年の第10回文展に出品された作品で、こちらも初公開です。
前期は11月17日(日)まで。後期も大幅な展示替えがあって、上でご紹介した大作も展示されるので楽しみです。
今回は展覧会チラシもインパクト大。なんと「パ」の字の大きいこと。
今回の特別展をご覧いただいて、ぜひインパクトの大きさを感じ取ってください!