2025年4月29日火曜日

大阪市立美術館 大阪・関西万博開催記念 大阪市立美術館リニューアル記念 特別展「日本国宝展」

大阪・天王寺公園内にある大阪市立美術館では、大阪・関西万博開催記念 大阪市立美術館リニューアル記念 特別展「日本国宝展」が開催されています。


大阪市立美術館

今回の特別展は、そのタイトルのとおり日本の国宝が大阪に大集結する展覧会。
どれだけすごい内容なのかは、国宝の展示作品数を見ればわかります。
美術工芸品など美術館で展示できる900件あまりの国宝のうち、会期中に展示される国宝は135件。全体のおよそ14%に及ぶ国宝を見ることができるのです。

開会前に開催された記者内覧会に参加しましたので、さっそく展示の様子をご紹介したいと思います。


展覧会開催概要


会 期  2025年4月26日(土)~6月15日(日)
     ※会期中、一部の作品の展示替えがあります。
会 場  大阪市立美術館
開館時間 午前9時30分~午後5時
     ※土曜日・5月4日・5日は午後7時まで
     ※入館は閉館の30分前まで
休館日  毎週月曜日
     ※ただし4月28日、5月5日は開館
観覧料  一般 2,400円、高大生 1,700円、小中生 500円
     ※土曜・日曜・祝日は日時指定予約優先制です。
     ※チケットの購入方法、他館との相互割引、展覧会の詳細等は展覧会公式サイト  
      をご覧ください⇒大阪市立美術館 特別展「日本国宝展」

※展示室内は、撮影可の1点を除き撮影不可です。掲載した写真は、記者内覧会で主催者の許可を得て撮影したものです。


展示構成
 Ⅰ ニッポンの国宝ー美の歴史をたどる
  1 日本美術の巨匠たち
  2 いにしえ文化きらきらし
  3 祈りのかたち
  4 優雅なる日本の書
  5 和と漢
  6 サムライ・アート
 Ⅱ おおさかゆかりの国宝ー大阪の歴史と文化
 日本の美を未来へー紡ぐプロジェクト
 特集展示 皇居三の丸尚蔵館収蔵品にみる万博の時代



展示は、西洋の大聖堂を思わせる堂々とした列柱が並ぶ中、正面階段を上って2階の第1会場から始まります。



第1会場の冒頭は「1 日本美術の巨匠たち」
2つの部屋に分かれた「1 日本美術の巨匠たち」には、雪舟、狩野永徳、長谷川等伯、俵屋宗達、本阿弥光悦、尾形光琳、円山応挙、伊藤若冲はじめ、誰もが一度は聞いたことがあって、日本史の教科書でも見たことがある芸術家たちの作品がずらりと並びます。

「1 日本美術の巨匠たち」展示風景

中でも桃山時代に火花を散らした二人のライバル、狩野永徳と長谷川等伯の二人の作品の競演が見られるのは大きな楽しみです。

狩野永徳の作品の展示は次のとおりです。

《花鳥図襖》 狩野永徳筆 京都・聚光院 4/26-5/25
《唐獅子図屏風》 右隻 狩野永徳筆 左隻 狩野常信筆 国(皇居三の丸尚蔵館収蔵) 5/20-6/15

一方、長谷川等伯の方は、等伯一門が手掛けた京都・智積院の金碧障壁画から、長谷川等伯の長男・久蔵の金碧障壁画《桜図》が4月26日から5月18日まで、そして長谷川等伯の《楓図》が5月13日~6月1日の間に展示されます。

《桜図》長谷川久蔵筆 京都・智積院
展示期間 4月26日~5月11日


今をときめく伊藤若冲の《動植綵絵》は30幅のうち3幅が展示されますが、5月18日までなのでお見逃しなく!

《動植綵絵のうち秋塘群雀図・群鶏図・芦雁図(左から)》伊藤若冲筆
国(三の丸尚蔵館収蔵) 展示期間 4月26日~5月18日

日本美術界のビッグネームといえば画僧・雪舟。
雪舟の作品は後半に3点展示されます。

《四季山水図巻(山水長巻)》 雪舟筆 山口・毛利博物館 5/27-6/15(巻き替えあり)
《天橋立図》 雪舟筆 京都国立博物館 5/27-6/8
《慧可断臂図》 雪舟筆 愛知・齊年寺 5/27-6/15


続いて、「2 いにしえ文化きらきらし」へ。

会場の中央に鎮座するのは、縄文時代の6件の国宝のうち土器では唯一国宝に指定されている《深鉢型土器(①火焔型土器 ②王冠型土器)》。

《深鉢型土器 左 火焔型土器 右 王冠型土器》
十日町市(十日町市博物館保管) 通期展示

ほかの5件はすべて土偶で、そのうち今回の特別展では《土偶(縄文のビーナス)》(長野・茅野市(茅野市尖石縄文考古館保管) 5/20-6/8)が大阪に降臨します。(展示場所はのちほどご紹介します。)


「3 祈りのかたち」では、大阪市立美術館の館蔵品で初めて国宝に指定された《物語下絵料紙金光明経 巻第二》に注目したいです。
制作途中の絵巻の下絵が写経の料紙として再利用されたもので、よく見ると貴族の邸宅の下絵が描かれているのがわかりますが、どの物語なのかは判明しないとのことです。


《物語下絵料紙金光明経 巻第二》大阪市立美術館 
展示期間 4月26日~5月18日

《物語下絵料紙金光明経 巻第二》の展示は5月18日までですが、5月20日から6月15日まではもともとセットだった《白描下絵料紙金光明経 巻第三》(京都国立博物館)が展示されます。こういった国宝展ならではのリレー展示もうれしいです。

経典はもちろんのこと、仏画も各地から優品が集まっています。

「3 祈りのかたち」展示風景


1階に下りて、第2会場に入ります。

「4 優雅なる日本の美」

平安時代中期に日本独特の優美な書「和様」を完成させた三人の書家、小野道風、藤原佐理、藤原行成の「平安の三蹟」の作品が見られるのも大きな見どころの一つです。

「4 優雅なる日本の美」展示風景
手前が《書巻(本能寺切)》 藤原行成筆 京都・本能寺 展示期間 4月26日~5月18日


奔放な性格で「詫び状」(《離洛帖》畠山美術館)が後世、国宝になったことで知られる藤原佐理が若い頃に詠じた漢詩を書いた《詩懐紙》ほかは5月20日から展示されます。

《詩懐紙》 藤原佐理筆 香川県立ミュージアム 5/20-6/1
《古今和歌集 巻第十二残巻(本阿弥切)》 伝 小野道風筆 京都国立博物館 5/20-6/15


日本の中世に愛好された伝統的なやまと絵や、中国から伝来して日本で国宝になった中国書画の名品が並んで見られるのが「5 和と漢」のコーナー。

「5 和と漢」展示風景


「日本の国宝」の代表格のひとつともいえる「伝源頼朝像」をはじめとした京都・神護寺三像《伝源頼朝像、伝平重盛像、伝藤原光能像》が展示されるのは6月3日から15日までのおよそ2週間限定です。
「伝源頼朝像」は今回の特別展のメインビジュアルの中でもひときわ大きく目立っています。
(下の写真左下)




「6 サムライ・アート」

国宝の刀剣がずらりと展示されるとなれば刀剣ファンは見逃すわけにはいきません。

「6 サムライ・アート」展示風景


大阪で初めて開催される「国宝展」にふさわしい章が「おおさかゆかりの国宝ー大阪の歴史と文化」

古墳時代から大陸からの技術や文化の玄関口で、その後も経済・文化の中心地として発展してきた大阪には多くの文化財が集まっています。
国宝の件数では東京都、京都府、奈良県についで堂々の4位にランクインしている大阪府の国宝のラインナップはさすがに見応えがあります。

刀剣ファンのみなさん!「サムライ・アート」のコーナーだけでなく、ここにも刀剣が展示されてますのでお楽しみに!


「おおさかゆかりの国宝」展示風景

7世紀に役行者によって開創されたという獅子窟寺が所蔵する気品あふれる薬師如来像は、大阪を代表する仏像です。

《薬師如来坐像》大阪・獅子窟寺 通期展示


第3会場に移ります。

特集展示「皇居三の丸尚蔵館収蔵品にみる万博の時代」では、海外の万博や国内での博覧会に出品された作品を収蔵する皇居三の丸尚蔵館の名品が展示されています。

特集展示「皇居三の丸尚蔵館収蔵品にみる万博の時代」展示風景

第3会場には、比較的大きな作品が広々とした室内に展示されるぜいたくな空間が広がります。

暗がりの中に浮かび上がり、幻想的な雰囲気が感じられる聖観音菩薩立像。

《聖観音菩薩立像》奈良・薬師寺 通期展示


今回の特別展で撮影可能な作品はこちら、巨大な《薬師寺東塔 水煙》です。
撮影の際には注意事項をご確認ください。

《薬師寺東塔 水煙》奈良・薬師寺 通期展示


象に乗った普賢菩薩と、四天王のうち東を守る持国天が対面する静かな緊張感が漂う空間。
5月13日~25日にはここに《鑑真和上坐像》が展示されるのですが、どのような配置になるのか今から気になります。


右《普賢菩薩騎象像》東京・大倉集古館、左《四天王立像のうち持国天立像》
京都・浄瑠璃寺 どちらも通期展示



そして、最後のVIPルームには大きな作品ではなく、国宝の中では最も小さい《金印》が展示されています。最も小さいといっても、日本古代史の謎に迫る意味ではとてつもなく大きな国宝です。

《金印「漢委奴國王」》福岡市博物館
展示期間 4月26日~5月7日


金印の展示は5月7日までの展示。その後は、先ほどご紹介した縄文のヴィーナスが展示されます。


今回の特別展では、会場内に特設のグッズショップが設置されいています。
(地階のミュージアムショップもオープンしてます。)

国宝のぬいぐるみの充実ぶりがすごい!



展示作品のカラー図版満載で、作品やその背景が詳しく解説されたコラムが多く掲載されている展覧会公式図録は永久保存版です。




「映像体験コーナー 智積院障壁画に込めた豊臣秀吉の想い」では、大画面に映し出される智積院の金碧障壁画の迫力をぜひ体験いただきたいです。(映像体験コーナーも撮影不可です。)


映像体験コーナー



特別展のご紹介は以上ですが、2階では大阪市立美術館の館蔵品を展示する「企画展示」が開催されているので、ぜひこちらもご覧いただきたいです。
(開催期間は特別展「日本の国宝展」と同じく4月26日から6月15日までです。)

今年3月1日から30日にかけて開催された「大阪市立美術館リニューアルオープン記念展 What's New! 大阪市立美術館 名品珍品大公開!!」はご覧になられましたでしょうか。
今回はその中から、「中国の彫刻」「富本憲吉と人間国宝」「大阪の洋画」がピックアップされて展示されています。(企画展示は一部を除き撮影可です。)

企画展示「中国の彫刻」展示風景

大阪市立美術館の観光大使 《羽人》も待ってます!

《青銅鍍金銀 羽人》山口コレクション 大阪市立美術館


大阪をはじめ関西各地で大阪・関西万博開催を記念した展覧会が開催されているので、いつどの展覧会を見に行こうかスケジュールを立てるのが大変というぜいたくな悩みを抱えていますが、大阪で初めての「国宝展」は優先順位が高くなること間違いなし。
おすすめの展覧会です!

2025年4月15日火曜日

静嘉堂@丸の内 黒の奇跡・曜変天目の秘密

東京・丸の内の静嘉堂@丸の内(明治生命館1階)では展覧会「黒の奇跡・曜変天目の秘密」が開催されています。 


展覧会チラシ

今回の展覧会の主役は、なんといっても「世界に三碗しかなく、三碗とも日本にあって、すべて国宝」という《曜変天目(稲葉天目)》。

「どうすればこんな美しい模様になるのか?」
「中国の茶碗がどうやって日本に伝来したのか?」

静嘉堂文庫美術館のほかに京都・大徳寺龍光院、大阪・藤田美術館だけにしか所蔵されていない「曜変天目」はミステリアスな輝きをはじめ謎も多く、またそれが大きな魅力なのですが、ホワイエにあるバナー(下の写真左)には最新の研究成果を踏まえた解説が紹介されているので、これをじっくり読めば「曜変天目」がさらに味わい深いものに感じられて見る楽しみも倍増すること間違いなし。


ホワイエ

さらに曜変天目の拡大パネル(上の写真右)には2ヶ所穴が開いていて、そこから顔を出して記念写真も撮れるので、茶碗の中に広がる星空のような小宇宙と一体になった気分を味わうこともできるのです。

もちろん国宝《曜変天目(稲葉天目)》以外にも見どころいっぱいの展覧会ですので、さっそく展示の様子をご紹介したいと思います。


展覧会開催概要


会 期  2025年4月5日(土)~6月22日(日)
休館日  毎週月曜日(ただし5月5日は開館)、5月7日(水)
開館時間 午前10時~午後5時 *入館は閉館の30分前まで
     *毎月第4水曜日は午後8時まで、6月20日(金)・21日(土)は午後7時まで開館
入館料  一般 1500円、大高生 1000円、中学生以下無料
     *障がい者手帳をお持ちの方700円(同伴者1名無料)
主 催  静嘉堂文庫美術館

今回の展覧会では、曜変ファッション割引(一般入場料200円引)があります。
ギャラリートークほか関連イベントもありますので、詳しくは同館公式サイトをご覧ください⇒静嘉堂文庫美術館  
 
撮影条件  ギャラリー4以外は撮影可(国宝《曜変天目》は撮影不可)
 *携帯電話・スマートフォン・タブレットのカメラはご使用いただけます。動画撮影・カ  
  メラでの撮影はご遠慮ください。
      
本記事では国宝《曜変天目》の写真を掲載していますが、これは報道内覧会で主催者の許可を得て撮影したものです。

*展示作品はすべて静嘉堂文庫所蔵です。

展示構成
 1章 天目のいろいろ
 2章 黒い工芸―漆黒とつや黒鉄のかがやき
 3章 天目と黒いやきもの
 4章 曜変天目の小宇宙
 


1章 天目のいろいろ

ギャラリー1にずらりと並ぶのは、唐物の天目茶碗。
静嘉堂が所蔵する「油滴」や「建盞(けんさん)」「鼈盞(べっさん)」「灰被(はいかつぎ)」などの唐物天目が一堂に会する光景はまさに壮観の一言


「1章 天目のいろいろ」展示風景

それも、ただ単に並んでいるのでなく、中国伝来の絵画、工芸品の鑑定評価や、その飾り方を図入りで解説した、いわば室町将軍家の宝物のマニュアル本『君台観左右帳記』での評価に沿って展示されているので、それぞれの天目茶碗が当時はどのような位置づけだったのかがよくわかります。


たとえば、中国の宋~元時代、福建省の建窯で焼かれた「建盞」は、「建盞、油滴にも劣るべからず」とあって、当時から評価が高いものでした。

「1章 天目のいろいろ」展示風景


そして、器の内外に広がる斑紋を水面に浮かぶ油のしずくに見立てた「油滴」は「第二の重寶」。「曜変よりは世に数あまたあるべし」との解説には妙に納得してしまいました。

重要文化財《油滴天目》建窯 「新」銘 南宋時代(12~13世紀)



2章 黒い工芸―漆黒とつや黒鉄のかがやき

ギャラリー2に展示されているのは、漆黒の工芸品と刀剣・刀装具。

ここには中国・元~明時代と鎌倉~室町時代の13~16世紀の間に作られた漆黒の工芸品と、江戸~明治時代に作られた漆芸の作品が並んで展示されているので、「漆黒」といっても、中世以降の日本で作られた透明感があって奥行きが感じられる黒と、漆に油煙をまぜた黒漆を使って真っ黒そのものの重厚さが感じられる中国の黒の違いを比べてみることができます。

「2章 黒い工芸―漆黒とつや黒鉄のかがやき」展示風景

漆といえばすぐに名前が思い浮かんでくる、幕末から明治にかけて活躍した漆芸家・柴田是真の作品は、上から黒塗・四分一塗・潤塗・朱銅塗・青銅塗に塗り分けられた五段の重箱《柳流水蒔絵重箱》。
これはまさに「変塗(かわりぬ)りの見本市」で、是真の黒にはつやつやとした透明感が感じられます。

柴田是真《柳流水蒔絵重箱》 「是真」銘
江戸~ 明治時代(19世紀) 


今回は三振の名刀が展示されているので刀剣ファンも見逃すわけにはいきません。

「2章 黒い工芸―漆黒とつや黒鉄のかがやき」展示風景

今回の展覧会のテーマは「黒の奇跡」なので、刀身の刃の輝きだけでなく、剣の柄(つか)に収められる刃のない部分にあたる「茎(なかご)」の黒鉄の渋い輝きにも注目したいです。


重要美術品 源清磨《刀 銘 源清磨/弘化丁未年八月日》
附 小倉巻柄半太刀拵 江戸時代・弘化四年(1847)
拵:明治~昭和時代(19~20世紀)

実は、刀剣はいざという時に備えて普段から柄をつけて鞘(さや)に収めていて、写真のように柄や鞘をはずすのはあくまでも展示のためだと思っていたのですが、保存のため刀身を鞘から出して、柄を取り外して白木でできた白鞘に入れていたことを初めて知りました。

2章には、鍔(つば)や、目貫(めぬき)、小柄(こづか)、笄(こうがい)の三点セット「三所物(みところもの)」といった刀装具も展示されています。
刀剣の展示ではいつも、刀剣だけでなく、小さなスペースにこれでもかといった具合に趣向を凝らした装飾を刀装具に施す匠の技を見るのも大きな楽しみなのです。

「2章 黒い工芸―漆黒とつや黒鉄のかがやき」展示風景


   
3章 天目と黒いやきもの

ギャラリー3に展示されているのは、古くは中国・戦国時代から、清時代、そして日本の江戸から明治時代、昭和初期までの黒にちなんださまざまなやきものが展示されています。

「3章 天目と黒いやきもの」展示風景

展示作品の中でもっとも古い時代のものは、燻し焼きによって器の面に煤を吸着させて黒く染めている「黒陶」。中国・戦国時代の紀元前4~3世紀に作られたものです。


「3章 天目と黒いやきもの」展示風景

そして、時代が下るにつれて、黒い釉薬を使ったやきものや、黒絵具を使った清時代のやきもの、さらには日本のやきものなど、「黒」のやきものの変遷がよくわかる展示が続きます。

「3章 天目と黒いやきもの」展示風景


4章 曜変天目の小宇宙

そしていよいよギャラリー4へ。(ギャラリー 4内は撮影不可です。)

VIPルームにただひとつ鎮座するのは国宝《曜変天目(稲葉天目)》。

国宝《曜変天目(稲葉天目)》 建窯 南宋時代(12~13世紀)

壁面には『君台観左右帳記』の「曜変天目」の解説文が掲載されています。
「曜變、建盞の内の無上也。世上になき物也。」との解説は説得力十分です。

今回は展示方法にも注目していただきたいです。
《曜変天目(稲葉天目)》が乗ったガラス面の下には鏡があるので、茶碗の底の部分の高台(たかだい)まで見ることができるのです。高台は今回が初お披露目ですのでお見逃しなく!


ミュージアムショップは曜変天目をモチーフにしたグッズが盛りだくさん。
大人気の「ほぼ実寸の曜変天目ぬいぐるみ」が、手のひらサイズのキーリングになって発売されています。
展覧会観覧後はぜひミュージアムショップにもお立ち寄りください。

ミュージアムショップ


中国や日本の黒の工芸品の歴史をたどり、国宝・曜変天目の謎と秘密に迫る、とても内容が濃くて興味深い展覧会です。
ゴールデンウイークにふらりと訪ねてみてはいかがでしょうか。

2025年4月10日木曜日

桜 さくら SAKURA 2025 展覧会関連講演会「桜を描いた名品佳品―饒舌館長ベストテン―」

3月29日(土)に開催された、桜 さくら SAKURA 2025展覧会関連講演会「桜を描いた名品佳品―饒舌館長ベストテン―」に参加してきました。

河野元昭氏


この講演会は、山種美術館が展覧会ごとに開催している関連イベントのひとつで、今回の講師はアートブログ「饒舌館長」でおなじみの河野元昭氏。大人気の河野氏だけあって会場は満員御礼、大盛況でした。
講演では、桜を描いた日本画の歴史に始まり、現在開催中の【特別展】桜 さくら SAKURA2025―美術館でお花見!に展示中の作品からベストテンを選んで展覧会の見どころをご紹介いただきました。

そこで今回は、ユーモアをまじえた軽妙かつ内容の濃い河野氏のトークを聴いているうちに90分があっという間に過ぎていった講演会の様子をご紹介したいと思います。

河野氏のブログ「饒舌館長」もぜひご覧ください。URLはこちらです⇒https://jozetsukancho.blogspot.com/


展覧会開催概要


会 期  2025年3月8日(土)~5月11日(日)
開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日  月曜日(5/5(月・祝)は開館)
入館料  一般 1400円、中学生以下無料(付添者の同伴が必要です。)
     春の学割  大学生・高校生 500円
各種割引、展覧会の詳細、関連イベント等は山種美術館公式サイトをご覧ください⇒https://www.yamatane-museum.jp/
    
展覧会チラシ


展示室内は次の1点を除き撮影禁止です。掲載した写真は美術館より広報画像をお借りしたものです。

今回撮影可の作品は、橋本明治《朝陽桜》(山種美術館)。スマートフォン・タブレット・携帯電話限定で写真撮影OKです。館内で撮影の注意事項をご確認ください。

橋本明治《朝陽桜》 1970(昭和45)年 紙本・彩色 山種美術館


さて、饒舌館長のベストテンですが、これは1位から10位までのランキングでなく、順不同とのことです。(下記のベストテンの作品はすべて山種美術館所蔵作品です。)

橋本雅邦《児島高徳》

橋本雅邦は、同じ木挽町狩野派出身の狩野芳崖とともに明治期の近代日本画界の二大スーパースター。岡倉天心やフェノロサに認められ、色彩や光線の表現に新たな試みを取り入れて新画風の日本画の開拓に努めた日本画家でした。代表作としては、近代日本画として初めて重要文化財に指定された《龍虎図屏風》(静嘉堂文庫美術館)が知られています。
作品タイトルの児島高徳は、元弘の乱で隠岐に流される後醍醐天皇を励ます漢詩を桜の幹を削って記したことが『太平記』に伝わる南北朝時代の武将で、明治から戦前にかけて「忠臣」とされた人物です。

雅邦は、弟子たちに絵を描くのには「心もち」が重要だと常に言っていたのですが、弟子たちはそれをもじって「心もちよりあんころもち」と言っていたそうです。


菱田春草《月四題のうち 春》

続いて、岡倉天心、橋本雅邦らによって設立され、1989(明治22)年に開校した東京美術学校(現:東京藝術大学)で天心や雅邦の指導を受けた菱田春草の作品。

日本画では線描を描くのが伝統的な技法なのですが、線描を描かない「没線描法」を積極的に試みた春草の作品は、輪郭がはっきりしないことから「朦朧体」と揶揄されました。
ところが実際に作品の前に立つと、朦朧とした月の光を背に浮かび上がる山桜の花はほのかに輝いているように見えてきます。

菱田春草《月四題のうち 春》1909-10(明治42-43)年頃
 絹本・墨画淡彩 山種美術館


渡辺省亭《桜に雀》

一時期は全く無名の存在であった伊藤若冲の人気は今ではゆるぎないものになっていますが、次にブレイクする日本画家として河野氏が長沢芦雪、鈴木其一と並んで推しているのが渡辺省亭。
今回展示されているのは桜と雀が描かれたこの作品です。


渡辺省亭《桜に雀》20世紀(明治-大正時代) 絹本・彩色 山種美術館


花鳥画を得意とした省亭の鳥たちはどれもつぶらな瞳をして可愛らしいのですが、ポイントは鳥の黒い目に白い点を入れているところです。省亭の鳥の瞳にぜひご注目いただきたいです。


小林古径《弥勒》《桜花》

岡倉天心が設立した日本美術院を、天心没後に横山大観らが再興した再興院展で活躍した画家の一人が小林古径。
河野氏は、今回展示されている古径作品2点をベストテンにあげています。
その一つが、再興第20回院展出品作で奈良の宇陀にある弥勒磨崖仏を描いた《弥勒》。
墨の線のみで表す描く「白描(はくびょう)」の技法で描かれた磨崖仏に見られる「古径の線の美しさ」(河野氏)がこの作品の大きな見どころです。

もう一点は《桜花》。
山桜の枝先を描いた作品で、中国・宋時代(10~13世紀)の「折枝画」を意識していることがうかがえ、赤い葉には金泥が用いられていて、華やかな雰囲気が感じられる作品です。
ミュージアムショップではこの作品をモチーフにしたおしゃれなクリーニングクロスが発売されいるので、興味のある方はぜひミュージアムショップにもお立ち寄りください。


 小林古径《桜花》1933(昭和8)年頃 絹本・彩色 山種美術館


横山大観《山桜》

横山大観といえば富士山というくらい多くの富士山の作品を残していますが、日本の象徴として「理想化した富士山」を描いたのと同じく、大観は桜の作品も多く描いています。
今回展示されているのは、桜の中でも山桜を好んで描いた作品《山桜》です。

横山大観《山桜》1934(昭和9)年 絹本・彩色 山種美術館

この作品は以前にも見ているのですが、山桜の木よりも今回特に気になったのは、地面の部分の土坡の描き方でした。
今にも倒れそうで不安定な山桜の木に対して、この土坡は一筆書きのようにスーッとさりげなく描いているように見えても、絶妙のバランスで画面全体に安定感を与えているように感じられたのです。


速水御舟《あけぼの・春の宵のうち 春の宵》《夜桜》

俵屋宗達筆の国宝《源氏物語関屋澪標図屛風》(静嘉堂文庫美術館)に描かれた明石の君が乗る舟を見て感動したことから「御舟」を画号にした「天才画家」速水御舟。
その御舟の作品からベストテンに選ばれたのは、《あけぼの・春の宵のうち 春の宵》と、「自然の一部を切り取って、そこに真実、審美を発見する御舟の真骨頂」があると河野氏が推す《夜桜》です。


速水御舟《夜桜》1928(昭和3)年 絹本・彩色 山種美術館




川合玉堂《春風春水》

京都で円山四条派を学び、1895(明治28)年に京都で開催された第四回内国博覧会で見た橋本雅邦の《龍虎図屏風》に感動して、その後上京して雅邦の門人となった川合玉堂からベストテン入りしたのは《春風春水》。

川合玉堂《春風春水》1940(昭和15)年 絹本・彩色 山種美術館


玉堂の作品には、今では見ることができない日本のさりげない田園地帯の風景を描いているのに、なぜか遠い昔に見たことがあるような懐かしさを感じさせてくれる不思議な魅力があります。


奥村土牛《醍醐》《吉野》

今回の特別展のメインビジュアルになっている奥村土牛《醍醐》はもちろんベストテン入りしています。
《醍醐》は、1963(昭和38)年、師・小林古径の7回忌法要が奈良で営まれた帰りに醍醐寺に寄り、このしだれ桜に極美を感じ写生をし、「いつか制作したい」という思いを胸に9年後に再訪して完成させた作品でした。


奥村土牛《醍醐》1972(昭和47)年 紙本・彩色 山種美術館

そしてもう1点は、桜の名所で知られる吉野の風景を描いた《吉野》。
土牛は「何か歴史画を描いて居る思いがした。」との言葉を残していますが、この作品には「後醍醐天皇に導かれた南朝という歴史が表現されている。」と河野氏。
講演会のあとあらためて《吉野》を見て、千本桜の見事な景色だけでなく、新政に失敗して足利尊氏と対立した後醍醐天皇が吉野に南朝を開いた歴史にまで思いをはせるようになりました。


川端龍子《さくら》

日本美術院の同人となったものの、「会場芸術」を提唱して横山大観と対立、日本美術院展を脱退して「青龍社」を設立した川端龍子らしく、桜の花よりも幹の美しさを描いた作品が、この《さくら》。
「いかにも川端龍子!」と河野氏はベストテンにあげています。

川端龍子《さくら》20世紀(昭和時代) 絹本・彩色 山種美術館


戦前は仲たがいした川端龍子と横山大観ですが、戦後は酒を酌み交わして和解した二人の作品が今回の特別展では並んで展示されています。二人がどんな会話をしているのか想像しながら作品を見比べても楽しいかもしれません。


加山又造《夜桜》

京都・西陣の染織図案家の家に生まれた加山又造は、工芸的な性格を強くもっていた日本絵画。
「この作品を近くで見ると、桜の花は筆で描いたのでなく、スタンプのようなもので顔料を押したのではと思えるが、これは染織の技法につながるのでは」と河野氏。

加山又造の《夜桜》をはじめ、今までご紹介した菱田春草《月四題のうち 春》、速水御舟《あけぼの・春の宵のうち 春の宵》、《夜桜》ほか2作品は第2展示室に展示されています。
照明を落とした空間の中で見る夜桜の作品の競演はとても幻想的でした。


寺崎公業《花見》(『文藝倶楽部』木版口絵)

ベストテンの番外として河野氏の推しは、氏と同郷で秋田県出身の日本画家、寺崎公業。
素晴らしい作品を残しているのに評価が低いのは、夏目漱石が文展に出品された大観と公業の作品を相撲の取組みに見立てて、「〇大観×公業●」としてしまったからだ、と河野氏。
「引き分けとすべきだ!」と言っても漱石の影響力の方が強いと嘆かれている河野氏ですが、今回の展覧会を機会にみんなで寺崎公業を盛り上げていきたいです。


展示作品はどれも春の訪れを感じさせてくれるものばかりなので、ベストテンを選ぶのに悩んでしまうかもしれませんが、みなさまもマイ・ベストテンを選びながら美術館で花見をしてみてはいかがでしょうか。
この春おすすめの展覧会です。