2021年6月27日日曜日

三井記念美術館コレクション名品展「自然が彩る かたちとこころ-絵画・茶道具・調度品・能装束など-」

2021年7月10日(土)から、東京・日本橋にある三井記念美術館で、三井記念美術館コレクション名品展「自然が彩る かたちとこころ-絵画・茶道具・調度品・能装束など-」が開催されます。

今回は、日本や東洋の優れた美術品を数多く所蔵する三井記念美術館のコレクションの中か
ら、絵画、茶道具、調度品、能装束などのジャンルから選ばれた名品が展示される、まさにオールスターキャスト勢ぞろいといった豪華な内容の展覧会です。

展覧会概要

会 期  2021年7月10日(土)~8月22日(日)
開館時間 11:00~16:00(入館は15:30まで)
休館日  月曜日(ただし8月9日は開館)
入館料  一般 1,300円ほか
※予約なしで入館できますが、来館者数が多い場合には入場制限があります。

展覧会の詳細、新型コロナウイルス感染症感染防止策については、同館公式サイトをご覧ください⇒三井記念美術館 



今回のテーマは「自然が彩る かたちとこころ」。

古くから四季折々の花鳥風月といった自然は人々に愛され、美術作品にも描かれていますが、よく見ると、自然がありのままに描かれたものもあれば、意匠化されて描かれたものなどもあって、「自然のすがた」の表現はさまざまなのがわかります。

今回の展覧会では、そういったさまざまな形をとった「自然のすがた」を楽しむことができます。

それではさっそく展示構成にしたがって、代表的な作品をご紹介していきたいと思います。

理想化された自然を表す


この作品は過去に二度ほど見たことがあるのですが、作品の前に立つと、いつも不思議な感覚にとらわれるのです。

鶴や松といったおめでたい題材、春から秋の草花、ゴツゴツした岩と川の流れ。
どれも現実にあるものを描いているのですが、なぜか幻想的で、シュールな感覚になるのは、この世のどこでもない理想の境地を描いているからなのでしょう。

この作品が描かれた16世紀の室町時代は、幕府の威信が失墜し、全国各地で戦国大名が群雄割拠した激動の時代でした。
先行きがどうなるかわからない中、部屋の中に屏風を広げて、理想の世界に身を置きたくなるのもわかるような気がします。

重要文化財 日月松鶴図屏風(右隻) 室町時代・16世紀 三井記念美術館蔵


重要文化財 日月松鶴図屏風(左隻) 室町時代・16世紀 三井記念美術館蔵


自然物を造形化する


今から7年前の平成26(2014)年にこの三井記念美術館で「明治の超絶技巧展」が開催されて以来、アートファンの間にすっかり根付いたキーワードが「超絶技巧」。
中でも本物の野菜や果物と見間違えてしまうくらい精巧にできた象牙細工の緑山作品はひときわ異彩を放っていました。

今回は三井記念美術館が所蔵する緑山作品が展示されています。
後継者がなく、象牙細工の彩色技術が伝わらなかったため、いまだにその技法が解明されないというミステリアスな緑山作品をぜひお楽しみください。

 染象彫果菜置物 安藤緑山作 明治~昭和時代初期・20世紀 三井記念美術館蔵


素材を活かして自然を表す


三井記念美術館の代表作といえば、やはりこの作品。
円山応挙の国宝《雪松図屏風》も展示されます。

松の幹や葉に積もる雪の白さは、塗り残した地の紙の色なので平面なのですが、なぜか雪のふくらみが感じられるから不思議です。
この作品の修理時の調査で、絵の描かれた紙の裏に白色度の高い和紙が貼られていることがわかったとのとですが、それによって色の白さが強調されるだけでなく、雪のふっくら感を出す効果もあるのでしょうか。

国宝 雪松図屏風(右隻) 円山応挙筆 江戸時代・18世紀 三井記念美術館蔵


雪の重みに耐える松の大木、ぴんと張りつめた空気の緊張感が伝わってくるようです。

国宝 雪松図屏風(左隻) 円山応挙筆 江戸時代・18世紀 三井記念美術館蔵

自然をデフォルメして表す


自然現象などをデザイン化・文様化して装飾性を高めるのも日本美術の流れの一つ。

この作品は、漆細工の名手、柴田是真の青海波塗の皿。
青海波とは、海の波のうねりをかたどった吉祥文様で、このように少しずつパターンの違う波がリズミカルに並んでいると、遠くの海の波がうねっているように見えて、浜辺に立ったときの波や風の音まで聞こえてきそうです。


青海波塗皿 柴田是真作 江戸~明治時代・19世紀 三井記念美術館蔵



銘を通して自然を愛でる


円山応挙の国宝《雪松図屏風》と並んで、もう一つの三井記念美術館の代表作は、ご存じ国宝《志野茶碗 銘卯花墻》。
このごつごつとして、どっしりとした安定感のある茶碗を見ると、なぜか気持ちも落ち着いてくるのです。

国宝 志野茶碗 銘卯花墻 桃山時代・16~17世紀 三井記念美術館蔵


個別の展示ケースが並ぶ展示室Ⅰの先にある、VIPルームのように極上の1点が展示される展示室Ⅱに展示されるのでしょうか。
それとも、国宝の茶室「如庵」を再現した空間に展示されるのでしょうか。
作品のレイアウトも気になるところです。

三井記念美術館は、今回の展覧会終了後、リニューアル工事のため2022年4月下旬(予定)まで休館になります。

自然に親しみ、自然の声を聴き、四季の移ろいを感じるコレクションの名品をぜひお楽しみください。

2021年6月15日火曜日

伝教大師1200年大遠忌記念 特別展「最澄と天台宗のすべて」

 今年(2021年)10月から来年(2022年)5月まで、東京、九州、京都の国立博物館3館で開催される、伝教大師1200年大遠忌記念 特別展「最澄と天台宗のすべて」の報道発表会にオンライン参加しました。

今から約15年前、2005年から2006年にかけて京都、東京の国立博物館2館で天台宗開宗1200年記念特別展「最澄と天台の国宝」が開催されましたが、今回は日本天台宗の宗祖、伝教大師最澄1200年目の大遠忌を記念してさらにスケールアップ、まさに「最澄と天台宗のすべて」が見られる展覧会なのです。

東京会場チラシビジュアル


展覧会の特徴


今回の大きな特徴は、天台宗ゆかりの地、京都東京とともに、今回は九州を加えた3つの国立博物館で開催されること。

京都は、平安京の鬼門を延暦寺が守護したことから、開宗以来の天台宗の中心地、東京は、東国への布教の拠点で、江戸時代には東叡山寛永寺が江戸の鬼門を守護しました。
そして九州は、最澄が入唐前に1年ほど滞在して、大宰府などをめぐったご縁から、その後、多くの天台僧が巡礼した地。


展覧会の詳細は、展覧会公式サイトのほか、それぞれの館の公式サイトでも発表される予定なので、ぜひチェックしてみてください。それぞれの会場で特徴のある名宝が展示されるので、3館とも訪れてみたくなること間違いなしです。

【東京会場】
 会 期 2021年10月12日(火)~11月21日(日)
 会 場 東京国立博物館 平成館
 博物館公式サイト⇒東京国立博物館

【九州会場】
 会 期 2022年2月8日(火)~3月21日(月・祝)
 会 場 九州国立博物館
 博物館公式サイト⇒九州国立博物館

【京都会場】
 会 期 2022年4月12日(火)~5月22日(日)
 会 場 京都国立博物館
 博物館公式サイト⇒京都国立博物館

展覧会公式サイト⇒https://saicho2021-2022.jp/

さらに、うれしいお知らせがあります。
それぞれの会場には、延暦寺根本中堂の一部が再現されて、その場にいるような雰囲気の中で参拝することができるのです。

延暦寺 根本中堂 内観

それではさっそく展覧会の見どころを大きく3つに分けてご紹介していきたいと思います。

見どころ1
 約230件の国宝・重要文化財を含む名品で日本天台宗の歴史をたどることができる


展示は次の6章構成になっています。

 第1章 最澄と天台宗の始まりー祖師ゆかりの名宝
 第2章 教えのつらなりー最澄の弟子たち
 第3章 全国への広まりー各地に伝わる天台の至宝
 第4章 信仰の高まりー天台美術の精華
 第5章 教学の深まりー天台思想が生んだ多様な文化
 第6章 現代へのつながりー江戸時代の天台宗

第1章の最澄ゆかりの名宝に始まり、第2章の最澄の教えを継いだ円仁、円珍らの高弟たちによる9世紀の日本天台宗の発展、各会場の特色が出る第3章、10世紀半ば以降、貴族と結びついた華やかな天台の名宝が紹介される第4章、中世天台宗の様相を紹介する第5章、そして、江戸時代に徳川将軍家のもと発展した江戸天台を紹介する第6章。

このように、約230件の国宝・重要文化財を含む名品を見ながら日本天台宗の歴史を辿ることができる構成になっているのです。


最初に、東京会場の展覧会チラシの表紙を飾る、現存最古の最澄の肖像画をご紹介します。

       国宝 聖徳太子及び天台高僧像 十幅のうち 最澄
 平安時代・11世紀 兵庫・一乗寺蔵
展示期間:1012日(火)~117日(日)(東京会場) 
展示会場:東京、京都


東京会場と京都会場で展示されますが、東京ではわずか4週間だけの展示ですのでお見逃しなく!


見どころ2
 1200年の大遠忌ならではの秘仏本尊を含めきわめて貴重な宝物が勢ぞろい


寺院にとってご本尊様が不在になるのは大変なこと。
大遠忌だからということでお貸しいただいた秘仏も多かったのです。
このような絶好のチャンスは100年後にしかめぐってこないかもしれません。

岐阜県可児郡御嵩町の古刹、願興寺(蟹薬師)の秘仏本尊。重要文化財「薬師如来坐像」は寺外初公開。
最澄の東国布教の際、この地でご自刻されたと伝わるとても貴重な仏像なのです。
重要文化財 薬師如来坐像 平安時代・12世紀
 岐阜・願興寺(蟹薬師)蔵
展示会場:東京



見どころ3
 全国展開した日本天台宗の各地域における特色をご紹介


今回の展覧会の大きな見どころは、各会場ごとに特色ある展示が見られることです。


【東京会場】


現存する唯一の最澄自筆の手紙と伝わる国宝「尺牘(久隔帖)」は、東京会場限定で、わずか約3週間だけの展示なのでこちらも見逃せません。
これは弟子の泰範にあてた手紙で、最澄とともに入唐した空海への伝言が記され、当時の宗教界を代表する2人の交流がうかがえる貴重な文面なのです。

国宝 尺牘(久隔帖) 最澄筆 
平安時代・弘仁4(813) 奈良国立博物館蔵
展示期間:1012日(火)~1031日(日) 
展示会場:東京

 


最澄の高弟、円仁の作という伝承のある重要文化財「阿弥陀如来立像」は、紅葉の名所で知られる京都の真正極楽寺(真如堂)の秘仏。
期間限定で東京までお越しいただくことになります。

重要文化財 阿弥陀如来立像
 平安時代・10世紀 京都・真正極楽寺(真如堂)
展示期間: 1019日(火)~113日(水・祝) 
展示会場:東京


江戸天台の基礎を築いたのは、徳川家康、秀忠、家光の三代将軍の庇護を受け、江戸城の鬼門に東叡山寛永寺を創建した天海僧正。天海の前半生は明智光秀だったのではとの噂がありますが、実際のところはどうだったのでしょうか。


 重要文化財 天海僧正坐像 康音作
 江戸時代・寛永20(1643)
 栃木・輪王寺蔵 展示会場:東京

続いて「慈眼大師縁起絵巻」も東京会場のみの展示。
この絵巻は、慈眼大師天海の生涯を描いた絵巻物で、この場面には、かつて上野公園一帯に立派な伽藍を構えた寛永寺境内を描いた場面です。


 慈眼大師縁起絵巻(中巻部分)
詞書:胤海筆・絵:住吉具慶筆
 江戸時代・延宝8(1680)
 東京・寛永寺蔵
中巻展示期間:1026日(火)~117日(日)
展示会場:東京

東京国立博物館の総合文化展(常設展)では、特別展にちなんだ特集展示「浅草寺のみほとけ」「天台宗寺院の仏像」が予定されています。こちらも楽しみです。

【九州会場】


九州では1986年以来、35年ぶりに開催される天台宗の展覧会。
西日本(中国、四国、九州)に伝わった天台宗の至宝の数々が紹介されます。

中でも注目は、九州会場のみに展示される重要文化財「太郎天及び二童子立像」。
明治の神仏分離前は、大分・長安寺の後山にある六所権現社の主神だったもので、不動三尊の化身として造られた神仏習合時代の像です。

重要文化財 太郎天及び二童子立像
 平安時代・大治5(1130)
 大分・長安寺蔵 展示会場:九州

高く盛り上がった頭部が特徴の重要文化財「性空上人坐像」は、九州会場、京都会場の展示。
霧島山や九州各地で修業したのち、兵庫県の圓教寺を開いた性空上人(?~1007)は、九州にとって身近な存在。およそ1000年ぶりの九州への里帰りになります。
頭部にガラス製と思われる壺が収められてるとのことですが、これからの調査の行方が期待されます。
重要文化財 性空上人坐像 慶快作
 鎌倉時代・正応元年(1288) 兵庫・圓教寺蔵
展示会場:九州、京都

九州会場のみの展示は約50件もあるので、やはり九州会場にも行かないわけにはいきません。


【京都会場】


京都は比叡山のおひざもと。
開宗当時から天台宗の中心地であった京都には優品が集中しています。

寺外初公開の秘仏は、最澄作の秘仏本尊の薬師如来像に近い姿と考えられている、京都・日野にある法界寺所蔵の重要文化財「薬師如来立像」。
京都と東京での展示です。

重要文化財 薬師如来立像 
平安時代・11世紀
 京都・法界寺蔵 展示会場:東京、京都


こちらは、なんと60年に一度のみ公開されるという秘仏「菩薩遊戯坐像(伝如意輪観音)」。
現在の京都岡崎公園にかつてあった法勝寺と密接な関係があった、愛媛県宇和島市近隣の鬼北町にある等妙寺の御本尊。
こちらは九州と京都のみの展示です。
ごつごつとした岩を背景に堂々としたお姿、ぜひ目の前で見てみたいです。
菩薩遊戯坐像(伝如意輪観音)
 鎌倉時代・13世紀 愛媛・等妙寺蔵
展示会場:九州、京都


天台宗総本山、比叡山延暦寺からは、重要文化財「聖観音菩薩立像」。
こちらも九州と京都のみの展示です。
重要文化財 聖観音菩薩立像
 平安時代・12世紀
 滋賀・延暦寺蔵 展示会場:九州、京都

京都国立博物館近隣には妙法院など天台宗ゆかりの名所旧跡が多くあるので、会場外とのコラボ企画も考えられているとのこと。

この展覧会は、3会場を巡回しますが、文化財保護上の制約で、国宝・重文の展示場所は2か所までしか移動させられないので、3館共通で見られる国宝・重文はないのです。
担当された学芸員さんたちは3館の展示のバランスをとるのに苦労されたとのことすが、やはり3館とも見に行かないと「天台宗のすべて」は完結しないかもしれません。

今年10月から始まる特別展「最澄と天台宗のすべて」に注目です。