2023年4月29日土曜日

泉屋博古館東京 特別展「大阪市立東洋陶磁美術館 安宅コレクション名品選101」

東京・六本木の泉屋博古館東京では、特別展「大阪市立東洋陶磁美術館 安宅コレクション名品選101」が開催されています。

泉屋博古館東京エントランス


安宅産業株式会社の安宅英一氏(1901-1994)が収集した約千件近くに及ぶ東洋陶磁の「安宅コレクション」を、1976年に同社の経営が行き詰まり、散逸の危機に瀕した時に大阪市に寄贈して、大阪市立東洋陶磁美術館の建設に寄与したのが泉屋博古館を支援する住友グループであったというご縁で今回の特別展が泉屋博古館東京で開催されることになりました。

それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 期   2023年3月18日(土)~5月21日(日)
      *安宅コレクション作品の展示替えはありません(展示替は絵画作品のみ)
休館日  月曜日
開館時間 午前11時~午後6時(入館は午後5時30分まで)
     *金曜日は午後7時まで開館(入館は午後6時30分まで)
入館料  一般 1,200円 高大生 800円 中学生以下無料

※展覧会の詳細、関連イベント等は同館公式サイトをご覧ください⇒泉屋博古館東京     

展示構成
 《第一展示室》第一章 珠玉の名品
 《第二展示室》第二章 韓国陶磁の美
 《第三展示室》第三章 中国陶磁の美
 《第四展示室》第四章 エピローグ「歴史に残っても仕様がないでしょう」されど…

※所蔵に記載のない作品はすべて大阪市立東洋陶磁美術館蔵(安宅コレクション/住友グループ寄贈)です。
※本展は撮影可能です。撮影の注意事項は会場内でご確認ください。

SNSで発信する時のハッシュタグはこちらですのでお忘れなく!

#安宅コレクション101


MOCOのヴィーナスの微笑みに癒されます


第一展示室の「第一章 珠玉の名品」では中国と韓国の陶磁器の名品が展示されいて、お互いの個性が響き合うまさに「美の競演」が繰り広げられています。

入口にはふっくらとした頬、頭を少しかしげて指先を合わせて可愛らしいポーズが魅力的な中国盛唐期の女性像がお出迎え。


「第一章 珠玉の名品」展示風景

この女性像は、今回の特別展のメインビジュアルになっていて、「MOCOのヴィーナス」の愛称で親しまれている《加彩 婦女俑》。
「ようこそいらっしゃいました。」と私たちに声をかけているようです。(MOCOとは大阪市立東洋陶磁美術館の略称です)。

《加彩 婦女俑》中国 唐時代・8世紀

しかしながら、8世紀のこの陶製の像は傷みが激しく、東京に運送するのに苦労したとのこと。保存状態を保つため、二度と東京に来ることはないかもしれないので、ぜひこの機会にじっくりご覧いただきたいです。

「三種の神器」を巡るエピソード


安宅英一氏の陶磁器収集への情熱が伝わってくるのが、東京・日本橋の老舗古美術商「壺中居」の創業者・廣田松繁氏(号・不孤斎)が「三種の神器」と称して秘蔵していた中国陶磁器が安宅氏の執念によってコレクションに加わったというエピソード。

「三種の神器」を所望した安宅氏に断りの書簡を送った不孤斎氏がある日安宅氏に呼ばれ座敷に通されると、床の間にはその断りの書簡が掛け軸になって飾られていたというのです。(詳しくは展示室内の解説パネルをご覧ください。)


「三種の神器」
右から、重要文化財《白磁刻花 蓮花文 洗》中国 北宋時代・11-12世紀、
《紫紅釉 盆》中国 明時代・15世紀、《五彩 松下高士図 面盆(「大明萬暦年製」銘)》
中国 明時代 万暦(1573-1620)

安宅氏の中国陶磁収集が本格化する契機となった「三種の神器」は並んで展示されているので、記念に撮影したいですね。

ゆるキャラ動物を探してみよう!


今回の展示で気が付いたのは、見事なデザインの陶磁器の名品の中にも、私たちをなごませてくれる「ゆるキャラ動物」がいることでした。

右 《青花 虎鵲文 壺》朝鮮時代・18世紀後半、
左 《鉄砂 虎鷺文 壺》朝鮮時代・17世紀後半


上の写真右の《青花 虎鵲文 壺》には、胴体が長くて愛嬌のある、一見すると猫のような虎が描かれています。
左の《鉄砂 虎鷺文壺》を見た時には「仙厓だ!」と心の中で叫んでしまいました。
この虎は、まるで江戸時代後期の画僧・仙厓が描くようなお茶目な表情をしています。

こちらは俵型の壺《粉青鉄絵 蓮池鳥魚文 俵壺》。
正面に描かれているのはカワセミが魚を捕らえようとする場面なのですが、なぜかあまり緊張感が感じられません。
泉屋博古館が所蔵する明末清初の画家・八大山人《安晩帖》(重要文化財)に出てくる「鱖魚(けつぎょ)」を思い浮かべてしまいました。

《粉青鉄絵 蓮池鳥魚文 俵壺》
朝鮮時代・15世紀後半~16世紀前半


他の展示室でも「ゆるキャラ動物」が見つかるかもしれません。ぜひ探してみてください!

安宅コレクションを世界に知らしめた韓国陶磁


安宅コレクションを日本国内だけでなく海外に知らしめたのは、コレクションのうち800件近くを占める韓国陶磁。きっかけは1991年に韓国陶磁に絞ってアメリカのシカゴ美術館、サンフランシスコ・アジア美術館、ニューヨーク・メトロポリタン美術館を巡回した「安宅コレクション展」でした。

「第二章 韓国陶磁の美」展示風景


今回の特別展でも、透明感のあるシンプルな色合いのものから花柄模様のものまでバラエティに富んだ青磁や白磁の名品が楽しめるので、アメリカの人たちも満足したのではないでしょうか。

「青磁は青い」と思っていたのですが、黒色や褐色の青磁もあるのです。
色合いが違ってくると、なんとなくエキゾチックな雰囲気が感じられるから不思議です。

右から 《青磁鉄地象嵌 草花文 梅瓶》高麗時代・12世紀、
《青磁鉄地象嵌 如意頭文 瓶》高麗時代・13世紀、
《粉青面象嵌 草花文 瓶》朝鮮時代・15世紀


国宝の陶磁の輝き


第三展示室には国宝2件を含む中国陶磁の名品が展示されています。

「第三章 中国陶磁の美」展示風景

国宝は、かつて豊臣秀次が所蔵していた《油滴天目 茶碗》と、江戸時代の大坂の豪商・鴻池家に伝来した《飛青磁 花生》。
この2点と重要文化財の《木葉天目 茶碗》はそれぞれ独立ケースに入っているので、四方からぐるぐると回って違う角度から模様の変化を楽しむことができます。

国宝《飛青磁 花生》元時代・14世紀


収集や鑑賞の秘話が残る作品


第四展示室《エピローグ「歴史に残っても仕様がないでしょう」されど…》には収集や鑑賞の秘話とも言えるエピソードが伝わっている作品とともに、青銅器や堆朱の盆といった陶磁器以外のジャンルで安宅氏が収集した名品や安宅コレクションの激動の歩みがうかがえる大阪市立東洋陶磁美術館の開館時の資料などが展示されています。

この「歴史に残っても仕様がないでしょう」という言葉は、大阪市立東洋陶磁美術館の初代館長で、現在は同館名誉館長の伊藤郁太郎氏が「安宅コレクション」の図録制作を提案した時に安宅英一氏が発したと言われていますが、現在の私たちはこのように東洋陶磁の名品をまとまって見ることができるので、歴史に残って本当によかったと思います。


「第四章 エピローグ」展示風景

昭和44年(1969)に安宅英一氏の父で安宅産業の創業者・安宅彌吉氏の故郷・金沢にある石川県立美術館で初めて安宅コレクション展が開催された時、人間国宝の陶芸家・濱田庄司氏(1894-1978)が長時間立ち止まったというエピソードが残るのが、朝鮮時代のこの壺。



《粉青線刻 柳文 長壺》朝鮮時代・15世紀後半~16世紀

決して技巧的とはいえませんが、大胆な線刻の筆致に驚かされます。
特に幹の波線には「どうだ!」といった自信が感じられ、しばし見入ってしまいました。

観賞のお伴にはミュージアム展示ガイド「ポケット学芸員」をぜひ!


作品鑑賞にはご自身のスマートフォンで作品解説や音声ガイドを楽しむことができる「ポケット学芸員」がおすすめです。
作品解説だけでなく、陶磁器の底など展示室では見ることができない部分も見ることができます。

無料のアプリのダウンロードや利用方法はミュージアムショップ横の解説パネルをご覧ください。
音声ガイドをご利用の際は、イヤホンやヘッドフォンを必ずご使用ください。イヤホンはミュージアムショップでも販売しています。






奇跡のコレクションを紹介した『大阪市立東洋陶磁美術館 安宅コレクション 名品選101』がおすすめです!


今回の特別展に併せて刊行された『大阪市立東洋陶磁美術館 安宅コレクション 名品選101』には、展示作品のカラー図版や解説、散逸危機当時の関係者による対談、興味深いコラムなどが掲載されているので、おすすめです。
泉屋博古館東京ミュージアムショップはじめ書店でも販売してるので、鑑賞の思い出にぜひ!

作品解説のキャッチコピーも印象的です。
国宝の《油滴天目 茶碗》は「油滴、素敵、無敵!」。説得力があります。

『大阪市立東洋陶磁美術館 安宅コレクション 名品選101』


普段は大阪・中之島まで行かないと見ることができない東洋陶磁の名品を東京で見られるという絶好のチャンスです。
ゴールデンウイークにぜひ訪れてみませんか。

2023年4月25日火曜日

根津美術館 特別展「国宝・燕子花図屏風 光琳の生きた時代 1658-1716 」

東京・南青山の根津美術館では、特別展「国宝・燕子花図屏風 光琳の生きた時代 1658-1716」が開催されています。

展覧会チラシ



今回の特別展では、毎年この時期恒例の尾形光琳筆、国宝《燕子花図屏風》を中心に、光琳が生きた元禄時代(1688-1704)に花開いた華麗な元禄文化の雰囲気が味わえる作品が展示されています。

それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 期   2023年4月15日(土)~5月14日(日)
開館時間  午前10時~午後5時。ただし、5月9日(火)から5月14日(日)は午後7時まで開館
      (入館はいずれも閉館30分前まで)
休館日   毎週月曜日(ただし5月1日(月)は開館)
入館料   オンライン日時指定予約 一般 1500円、学生1200円
      *障害者手帳提示者及び同伴者は200円引、中学生以下は無料
会 場   根津美術館 展示室1・2

展覧会の詳細、オンラインによる日時指定予約、イベント情報等は同館公式サイトをご覧ください⇒根津美術館

※展示室内及びミュージアムショップは撮影禁止です。掲載した写真は記者内覧会で美術館より特別に許可を得て撮影したものです。

展示構成
 第1部 伝統画派の活躍
 第2部 光琳芸術の誕生
 第3部 元禄美術の多面性


第1部 伝統画派の活躍


冒頭に展示されているのは、狩野常信(1636-1713)の《瀟湘八景図巻》。

常信は、狩野探幽の弟・尚信の子で、探幽没後に江戸狩野派を率い、光琳とほぼ同時期に活躍した絵師でした。

《瀟湘八景図巻》狩野常信筆 日本・江戸時代 18世紀
植村和堂氏寄贈


《瀟湘八景図巻》は、墨の濃淡で風光明媚な中国・洞庭湖周辺の八つの景勝を表現した作品です。
「瀟湘八景図」というと中国南宋末の画僧・牧谿の空気感あふれる作品を思い浮かべますが(八図に裁断されて現存する七図のうちの一図が根津美術館所蔵の国宝《漁村夕照図》)、この作品は南宋末から元初にかけて活躍した画僧・玉澗の《瀟湘八景図》(現存三図を徳川美術館ほかが所蔵)のように、画面に墨をそそいで描く溌墨という技法で描かれています。


続いては、江戸時代初期の狩野派の総帥・狩野探幽(1602-1674)の《両帝図屏風》。

《両帝図屏風》狩野探幽筆 日本・江戸時代
寛文元年(1661)

光琳が生まれて間もない頃に描かれた探幽の作品と光琳作品との接点はあまりないようにも思えますが、実は光琳が最初に絵を学んだのは狩野派の流れを汲む山本素軒で、素軒が学んだのが探幽であったというご縁があったのです。

光琳が影響を受けた土佐派の絵師で、土佐派を再興して京都で活躍した土佐光起とその後継者・光成や、土佐派から独立して江戸で幕府の御用絵師を務めた住吉派の優雅なやまと絵も展示されています。


右 《源氏物語朝顔図》土佐光起筆 日本・江戸時代 17世紀
左 《栗鶉図》土佐光成筆 日本・江戸時代 17-18世紀



第2部 光琳芸術の誕生


尾形光琳の「琳」の字をとった琳派の流れが、俵屋宗達ー光琳ー酒井抱一と、それぞれほぼ百年の間を経て私淑の関係でつながっていたことはよく知られています。
ここでは俵屋宗達の後継者・喜多川相説(生没年不詳)の代表作《四季草花図屏風》と、光琳の国宝《燕子花図屏風》が並んで展示されているので、宗達から光琳へとつながっていく2つの作品を見比べることができます。

右 《四季草花図屏風》喜多川相説筆 日本・江戸時代 17世紀
左 国宝《燕子花図屏風》尾形光琳筆 日本・江戸時代 18世紀

こうやって両方を見てみると、草花のリズミカルな配置など、共通点があるように見えないでしょうか。


京都の裕福な呉服商・雁金屋に生まれた光琳の父、尾形宗謙の書は初めて見ました。

宗謙は、俵屋宗達とコンビを組んで数々の名作を生み出した本阿弥光悦流の書を得意としましたが、墨の濃淡をつけた文字がまるで音符のように見えて、軽快なリズムが聞こえてくるように感じられました。

光琳の芸術家としての才能は父・宗謙から受け継いだのかもしれません。

《新古今和歌集抄》尾形宗謙筆 日本・江戸時代 寛文12年(1672)


しかし、光琳は経営者としての才能は受け継がなかったようです。
30歳で父の莫大な遺産を得た光琳は放蕩三昧でそれを使い果たしてしまい、その後、画業に専念することになるのですが、もし、光琳が経営者として事業に成功していたら、国宝《燕子花図屏風》はじめ数々の名作も生まれなかったのかもしれないので、現代の私たちにとってはどちらがよかったのでしょうか。
光琳の屏風を眺めながらそのようなことが頭に浮かんできました。

光琳の屏風は他に2点展示されています。

右 《白楽天図屏風》 左 《夏草図屏風》
どちらも尾形光琳筆 日本・江戸時代 18世紀




第3部 元禄美術の多面性


第3部には、光琳の弟で、兄・光琳とのコラボ作品も多く残した陶工・尾形乾山(1663-1743)の焼き物が展示されています。

右から 《銹絵梅図角皿》尾形乾山作 尾形光琳画
《銹絵蘭図角皿》尾形乾山作 渡辺素信画・賛
《銹絵洞庭秋月図茶碗》尾形乾山作
いずれも日本・江戸時代 18世紀 



今回の特別展での私の「お気に入りのこの一品」は、尾形乾山作《銹絵洞庭秋月図茶碗》。瀟湘八景の一つ「洞庭秋月」の風景を愛でながらお茶を飲んだらきっと幸せな気分になれるだろうと思いました。

《銹絵洞庭秋月図茶碗》尾形乾山作
日本・江戸時代 18世紀

ここで冒頭になぜ狩野常信筆《瀟湘八景図巻》が展示されているのかがわかりました。
乾山の《銹絵洞庭秋月図茶碗》の前ぶれだったのですね。



たいていは一枚ずつ部屋に飾る大津絵が屏風に貼られていました。
この《大津絵貼交屏風》は、いわば大津絵ベストセレクション。大津絵ファンにはたまらない作品です。

《大津絵貼交屏風》 日本・江戸時代 18世紀


大津絵は東海道の大津宿で売られ、旅人のみやげ物として親しまれましたが、その様子が次の6曲1双の《伊勢参宮道中図屏風》に描かれています。(右隻の右から三扇目の中段付近)

《伊勢参宮道中図屏風》 日本・江戸時代 17-18世紀

元禄時代の京都から伊勢までの道中が描かれた《伊勢参宮道中図屏風》の名所と風俗は、出品目録に解説があるので、当時の人たちの気分で伊勢参りの旅を体験することができます。

出品目録


あとで気が付きましたが、大津絵を売る店と大津絵を買って嬉しそうに眺めている侍が描かれている場面は、根津美術館の2023年度展覧会スケジュールの表紙になっていました。
並んで歩いている同僚は「俺も買えばよかった。」と羨ましそうに見ているようです。




関連展示も見逃せません!


展示室3 仏教美術の魅力ー中国・朝鮮の小金銅仏ー

いつも仏像が展示される展示室3では、千年以上もの時を超えてなお黄金色に輝く銅造鍍金の仏像が展示されています。
初公開とのことですが、開館以来80年以上経っているのにいまだに初公開の作品があるというのですから、根津美術館のコレクションの奥行きの深さを改めて感じました。


「仏教美術の魅力ー中国・朝鮮の小金銅仏ー」展示風景



展示室5 西田コレクション受贈記念Ⅱ 唐物

根津美術館に長年勤務され、現在は同館の顧問を務められている西田宏子氏から東洋・西洋陶磁器を中心とした工芸品169件の寄贈を受けたことを記念して3回に分けて開催される受贈記念展の第2回は「唐物」。

落ち着いた雰囲気の中国の陶磁器と漆器が展示されています。

《緑釉瓶》景徳鎮窯 中国・清時代 17-18世紀
西田宏子寄贈

第3回 5月27日(土)~7月2日(日) 西田コレクション受贈記念Ⅲ 阿蘭陀・安南etc


展示室6 初夏の茶の湯


立夏(5月6日)を迎えると、暦の上では夏。
夏の始まりに合わせて茶室も涼し気な色合いの茶器に替わっています。

「初夏の茶の湯」展示風景



展覧会関連商品も充実してます!


大津絵を買って嬉しそうな侍を見たら、自分でも大津絵が買いたくなりませんでしょうか?
そういった方のためにミュージアムショップでは大津絵の絵はがき4種(各100円 税込)、付箋3集(各550円 税込)が新たに発売されています。
ほかにも図録や展覧会にちなんだグッズなどがありますので、ミュージアムショップにもぜひお立ち寄りください。

ミュージアムショップ


庭園のカキツバタも見ごろです!


庭園のカキツバタが今がちょうど見ごろです。(庭園内は撮影可です。)

庭園のカキツバタ(4月25日現在)
(庭園の様子は根津美術館公式サイトトップページにある
「いまの庭園」をクリックするとご覧いただくことができます。)


会期は5月14日(日)までです。
さわやかなこの季節に、国宝《燕子花図屏風》も庭園のカキツバタもぜひお楽しみください!

2023年4月18日火曜日

京都国立博物館 親鸞聖人生誕850年 特別展「親鸞ー生涯と名宝」

親鸞聖人(1173-1262)生誕の地・京都の京都国立博物館では、生誕850年を記念して 特別展「親鸞ー生涯と名宝」が開催されています。


これまでにも「親鸞展」が開催されたことはありますが、今回はなんと史上最大の親鸞展とのこと。はたして何が史上最大なのか興味津々です。

それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。


展覧会開催概要


展覧会名  親鸞聖人生誕850年特別展「親鸞ー生涯と名宝」
会 期   2023年3月25日(土)~5月21日(日)
      [主な展示替]
       前期展示 3月25日(土)~4月23日(日)
       後期展示 4月25日(火)~5月21日(日)
       ※会期中、一部の作品は上記以外にも展示替を行います。
開館時間  午前9時~午後5時30分(入館は閉館の30分前まで)
休館日   月曜日 
会 場   京都国立博物館 平成知新館
観覧料   一般 1,800円、大学生 1,200円 高校生 700円
      ※中学生以下、障害者の方とその介護者1名は無料(要証明)。
      ※大学生・高校生は学生証の提示が必要。

※展覧会の詳細は京都国立博物館公式ウェブサイト展覧会公式サイトをご覧ください。

※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は主催者より特別の許可を得て撮影したものです。

展示構成
 第一章 親鸞を導くものー七人の高僧ー
 第二章 親鸞の生涯
 第三章 親鸞と門弟
 第四章 親鸞と聖徳太子
 第五章 親鸞のことば
 第六章 浄土真宗の名宝ー障壁画・古筆ー
 第七章 親鸞の伝えるものー名号ー


見どころ1 真宗十派の至宝が一堂に会した親鸞展


今回の展覧会では、国宝11件、重要文化財75件を含む過去最多の181件が出陳されますが、規模が大きいとうだけでなく、親鸞聖人の生誕850年を契機に真宗教団連合の特別協力によって真宗各派の垣根を超えて真宗十派の至宝が一堂に会すことになり、展示内容としても史上最大の親鸞展が実現したのです。

そのひとつの例が、親鸞の主著『教行信証』。

東本願寺(大谷派)の親鸞筆『教行信証(坂東本)』(国宝)、西本願寺(本願寺派)の『教行信証(西本願寺本)』(重要文化財)、専修寺(高田派)の真仏筆『教行信証(高田本)』の三本が真宗各派の垣根を超えて初めて集結しました。

「第五章 親鸞のことば」展示風景

さらに、現存する親鸞直筆の手紙(消息)は、西本願寺(本願寺派)が4通、東本願寺(大谷派)が1通、専修寺(高田派)が7通所蔵していますが、その12通すべてが展示されます(会期中展示替あり)。 

「第五章 親鸞のことば」展示風景


親鸞直筆の手紙が800年近くの年月を経て伝わっているというだけでも大変貴重なことなのですが、門弟たちからの質問に対して真摯に答える親鸞の姿が、手紙の内容や筆致から時を越えて伝わってくるように感じられました。

今回の展覧会のキャッチコピーは、いまこそ、親鸞の声を聞く。
先行きが不透明な今だからこそ、親鸞の直接のことばに耳を傾けてみたいです。


浄土真宗に伝わる名宝のうち、京都に伝来する障壁画や古筆の優品も宗派を超えて一堂に会しました。


「第六章 浄土真宗の名宝ー障壁画・古筆ー」展示風景


いつも彫刻が展示される1階展示室に親鸞聖人と門弟たちの彫像が並ぶ様はまさに壮観。



「第三章 親鸞と門弟」展示風景

《親鸞聖人坐像》(常敬寺(本願寺派)所蔵)の背後には赤い柱と白い壁がありますが、これは《善信聖人親鸞伝絵(高田本)》巻第五(専修寺(高田派)所蔵)に描かれている、六角形の廟堂に安置されて合掌する親鸞上人坐像の様子が再現されたものなのです。
(《善信聖人親鸞伝絵(高田本)》は、4月23日までは巻第一が展示され、巻第五は4月25日~5月21日に展示されます。)

見どころ2 伝絵で綴る親鸞の生涯


今回の特別展では親鸞の生涯に迫ることができるように、展示構成にも工夫が凝らされています。

3階まである平成知新館のうち、3階は親鸞の信仰する本尊、経典、師匠が紹介される「序論」。

「第一章 親鸞を導くものー七人の高僧ー」展示風景



「第一章 親鸞を導くものー七人の高僧ー」展示風景


親鸞の生涯をたどる「本論」が見られるのは2階で、5つの展示室の構成は次のとおりです。

 5つの展示室の構成
  2F-1 『親鸞伝絵』の紹介
  2F-2 出家
    2F-3 『選択集』の伝受
  2F-4 流罪
  2F-5 往生

2F-2から2F-5までの各部屋には親鸞の曾孫・覚如(1270-1351)によって制作された絵巻『親鸞伝絵』のそれぞれの展示室のテーマが描かれた場面と、それに関連する作品が展示されているので、とてもわかりやすいです。


「第二章 親鸞の生涯」展示風景


「第二章 親鸞の生涯」展示風景

そして1階は、見どころ1でご紹介した、親鸞をさまざまな視点から見た「各論」です。


親鸞聖人にちなんだミュージアムグッズも充実してます!


史上最大の親鸞展ですので、親鸞聖人にちなんだ展覧会オリジナルグッズも充実しています。


ミュージアムショップ

A4クリアファイルや絵はがきはもちろん、最近ではすっかりミュージアムグッズの定番になったオリジナルマスキングテープ、そしてさらには親鸞聖人像のアクリルスタンドや親鸞聖人の似顔絵がデザインされたキーホルダーやTシャツまで!
浄土真宗を開いた親鸞聖人なのでとても遠い存在のように感じていましたが、このようなグッズを通して身近で親しみがもてる方のように思えるようになりました。

カラー図版も、作品解説も、コラムも充実した全344ページの展覧会公式図録(税込3,000円)も史上最大級です。
朝日新聞が運営する通販サイト「朝日新聞SHOP」での販売も始まりました。

展覧会公式図録


次は38年後?


親鸞展が前回開催されたのは、親鸞聖人の750回ご遠忌にあたる2011年のこと。
この年の春には親鸞聖人750回忌「親鸞展」が京都市美術館で、秋には特別展「法然と親鸞」が東京国立博物館で開催されました。

今後、50年ごとのご生誕記念かご遠忌の年に今回のような大規模な親鸞展が開催されるとなると、800回ご遠忌が38年後の2061年、900年ご生誕記念は50年後の2073年ですので、次に開催されるのは早くても38年後かもしれません。

巡回展の予定もありませんので、親鸞聖人ゆかりの地京都で開催中の史上最大の親鸞展をお見逃しなく!

トラりんも待ってます。

京都国立博物館公式キャラクター「トラりん」

2023年4月7日金曜日

山種美術館 「【特別展】世界遺産登録10周年記念 富士と桜 ー北斎の富士から土牛の桜までー」 

今年も桜の季節がやってきました。
そして今年は2013年に富士山がユネスコの世界遺産に登録されてから10年目の記念すべき年。
東京・広尾の山種美術館では、今の時期にふさわしい「【特別展】世界遺産登録10周年記念 富士と桜 ー北斎の富士から土牛の桜までー」が開催されています。

展覧会チラシ


古くから描き続けられてきた日本の象徴、富士山と桜。
今回の特別展は、その両方が見られるという豪華な内容の展覧会です。

それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 期  2023年3月11日(土)~5月14日(日)
     ※会期中、一部展示替えあり。
     前期:3月11日(土)~4月16日(日)
     後期:4月18日(火)~5月14日(日)  
開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日  月曜日(但し、5/1(月)は開館)
入館料  一般 1300円、中学生以下無料(付添者の同伴が必要)
     ※障がい者手帳、被爆者健康手帳をご提示の方、及びその介助者(1名) 一般
     1100円
     春の学割 大学生・高校生 500円
          *本展に限り通常1000円のところ特別に半額になります。
     ※きもの特典:きものでご来館のお客様は、一般200円引きの料金となります。
     ※複数の割引・特典の併用はできません。
     入館日時のオンライン予約も可能です。詳細は山種美術館公式サイトをご覧く
     ださい。
     ※学芸員さんが「富士と桜」展の見どころを紹介するギャラリートークも開催さ
      れます。日程や内容は山種美術館公式サイトでご確認ください。

       山種美術館公式サイト⇒https://www.yamatane-museum.jp/


お得な相互割引のご案内!
     下記チケットの提示で入館料を100円割引。
     *いずれも対象券1枚につき1名様、1回限り有効。
     *入館チケットご購入時に受付にご提示ください。購入後の割引はできません。
     *他の割引との併用はできません。
     *オンラインチケットは割引対象外。

展示構成
  第1章 富士山を描く
  第2章 桜を描く
  
※展示室内は横山大観《富士山》を除き撮影禁止です。掲載した写真は内覧会で美術館より
 特別の許可をいただいて撮影したものです。
※掲載した作品のうち、前期後期で展示替えがあるものはその旨を記載しました。


第1章 富士山を描く 


富士山を描いた絵というとみなさまはどのような作品を思い浮かべるでしょうか。

葛飾北斎《冨嶽三十六景》の中でも赤い富士山が人気の「凱風快晴」や裾野の稲光が印象的な「山下白雨」でしょうか。
歌川広重《東海道五拾三次》の、切り立った薩埵峠から見た富士山や、富士山が画面からはみ出した「原・朝之富士」もこのシリーズの中では特に印象的です。
そして、富士山といえばこの方を忘れるわけにはいきません。生涯に1500点以上もの富士山を描いたと言われる横山大観です。


まずはご存じ、葛飾北斎《冨嶽三十六景 凱風快晴》。

葛飾北斎《冨嶽三十六景 凱風快晴》
1830(文政13)年頃 山種美術館 前期展示 3/11-4/16
(後期(4/18-5/14)には《冨嶽三十六景 山下白雨》(個人蔵)が展示されます。)

そして今回は北斎版本の大コレクター、浦上満氏のコレクションから『富嶽百景』(※)が展示されるので、《冨嶽三十六景》にはない富士山も見られます。

※『富嶽百景』は全3巻からなる墨摺絵本で、富士図の他に、富士山創成の神話、故事人物、名所風俗など、多彩な富士山の画題を描いています。その数なんと102図。(解説パネルより抜粋)

『富嶽百景』(浦上満氏蔵)展示風景
(『富嶽百景』は初編、二編、三編が展示され、会期中頁替があります。)


歌川広重《東海道五拾三次》のシリーズは、前期に「平塚・縄手道」「由井・薩埵嶺」「舞坂・今切真景」、後期に「川崎・六郷渡舟」「原・朝之富士」「吉原・左富士」が展示されます。

歌川広重《東海道五拾三次 由井・薩捶嶺》
1833-36(天保4-7)年頃 山種美術館 前期展示 3/11-4/16


そしてお待ちかね、横山大観の堂々とした富士山の壮観な姿。

第1展示室に入ってすぐにお出迎えしてくれるのは、雲の上に浮かぶような富士山が描かれた横山大観の《心神》。
ここにはいつも展覧会を象徴する作品が展示されていますが、今回も世界遺産としての貫禄十分の一点が展示されていました。

横山大観《心神》1952(昭和27)年 山種美術館


今回の特別展では、大観の富士は4点展示されています。
ずらりと並んだこの壮観な景色。

先日、京都に向かう新幹線の中から富士山を見たのですが、富士山が雲の上に浮かんでいるように見えたので、思わず「大観の富士山だ!」と叫んでしまいました。

右から、横山大観《富士山》1933(昭和8)年、
《霊峰不二》1937(昭和12)年、《富士》1935(昭和10)年頃
いずれも山種美術館

大観の富士のうち、上の写真右の《富士山》1点のみ写真撮影OKです。
ぜひ撮影してシェアしましょう!
(撮影はスマートフォン・タブレット・携帯電話に限ります。撮影時の注意事項は作品横のパネルでご確認ください。)

横山大観《富士山》1933(昭和8)年 山種美術館


今回の特別展のサブタイトルは「北斎の富士から土牛の桜まで」ですが、奥村土牛は桜だけなく、堂々としていながらもほのぼのとした富士山が描かれた作品も展示されています。

「第1章 富士山を描く」展示風景

さて、みなさんは大観の富士と、土牛の富士とどちらがお好きでしょうか。
2人の他にも18人の日本画家のそれぞれ個性的な富士山が見られるので、お気に入りの富士山を探してみてはいかがでしょうか。

私のお気に入りの一品は、まるでエルグレコのように神秘的な雰囲気が漂う川崎春彦《霽るる》(山種美術館)(下の写真左)です。

「第1章 富士山を描く」展示風景


第2章 桜を描く


山種美術館の桜の代表作は、京都・醍醐寺三宝院のしだれ桜を描いた奥村土牛の《醍醐》(山種美術館)。

《醍醐》に描かれた醍醐寺の「太閤しだれ桜」の桜を組織培養した若木「太閤千代しだれ」が山種美術館の玄関横に植えられているので、今の時期には美術館の外と中で土牛ゆかりの桜を楽しむことができます。

《醍醐》と並んでいるのは、桜の中でも特に山桜にこだわった横山大観の《山桜》(山種美術館)。
近代日本画の巨匠たちによるそれぞれ趣きの異なった桜の競演が楽しめるのがいいですね。

右 横山大観《山桜》1934(昭和9)年 
左 奥村土牛《醍醐》1972(昭和47)年
どちらも山種美術館


そして「土牛の桜」のもう一点が、千本桜で知られる吉野山を描いた《吉野》(山種美術館)(下の写真左)。
桜の花がまるで雲海のように画面一面に広がる景色はとても幻想的です。

「第2章 桜を描く」展示風景
左 奥村土牛《吉野》1977(昭和52)年 山種美術館


そして第2展示室は夜桜特集。
少し照明を落としているので、まるで月夜に桜を見ているような雰囲気が楽しめます。

桜の作品の中で私のお気に入りの一品は、第2展示室に展示されている速水御舟《あけぼの・春の宵》のうち「春の宵」(山種美術館)。

三日月のかすかな明かりの中に浮かび上がる桜の花、はらはらと散る花びらが何ともいえないロマンチックな雰囲気を醸し出しています。

速水御舟《あけぼの・春の宵》のうち「春の宵」
1934(昭和9)年 山種美術館

雄大な富士山の景色も、華やいだ桜の花も楽しめます。
この春おすすめの展覧会です。


オリジナルグッズも充実してます!


いつものことながら、山種美術館所蔵作品を中心にデザインしたオリジナルグッズも充実しています。
葛飾北斎《冨嶽三十六景 凱風快晴》をはじめとした展示作品がデザインされたA4クリアファイル(税込385円)、桜がデザインされた「マグネットカードスタンド 桜」(税込880円)をはじめ、富士山と桜のオリジナルグッズがたくさん揃っているので、ぜひミュージアムショップにもお立ち寄りください。



鑑賞後のお楽しみはオリジナル和菓子がおすすめです!


展覧会をご覧いただいたあとは、富士山や桜をモチーフにしたオリジナル和菓子がおすすめです。
抹茶とオリジナル和菓子のセットは1,250円(税込)。美術館1階ロビーの「Cafe 椿」でぜひお召し上がりください。
どのオリジナル和菓子も美味で、どれもおすすめなのですが、私のイチ押しを一つ選ぶとするなら、羊羹の甘みと寒天のさわやかさの相性がぴったりの「春の宵」でしょうか。
さて、みなさまのおすすめはどれでしょうか。


次回展関連イベントのチケットも発売中です!


5月20日(土)から始まる【特別展】小林古径 生誕140年記念 小林古径と速水御舟 ー画壇を揺るがした二人の天才ーの関連イベントのチケットも発売中です。


講演会「古径と御舟ー共鳴した二人の天才画家の知られざる物語」
 日 時 2023年6月4日(日)14:00~15:00(開場・受付開始13:30)
 講 師 山種美術館 山﨑妙子館長
 参加費 500円(事前購入制/全席自由)
     *参加には別途「小林古径と速水御舟展」入場券または半券が必要
 会 場 國學院大學 院友開館
     *渋谷区東4-12-8 山種美術館より徒歩3分
 定 員 70名(先着順)  

詳しくは山種美術館公式サイトをご覧ください⇒https://www.yamatane-museum.jp/


今年も公募展が開催されます!


今年で3回目を迎えた「Seed 山種美術館 日本画アワード 2024 ー未来をにな日本画新世代ー」。
今回から関西エリア(京都近郊)での作品の搬入受付が決定しました。応募期間は2023年8月16日(水)から9月10日(日)まで。

詳細は本展特設ページをご覧ください⇒http://www.yamatane-museum.jp/seed2024/

受賞・入選作品が展示公開される「Seed 山種美術館 日本画アワード 2024 ー未来をになう日本画新世代ー」[会期:2024年2月17日(土)~3月3日(日)]も楽しみです。