2022年1月22日土曜日

東京国立博物館 特別展「空也上人と六波羅蜜寺」

今年(2022年)3月1日(火)から5月8日(日)まで東京国立博物館で開催される、特別展「空也上人と六波羅蜜寺」の報道発表会にオンライン参加しました。

空也上人といえば、口から6体の仏像が出ている独特のお姿。
日本史の教科書には必ずと言っていいほど出てくるので、ご存じの方も多いかと思います。

展覧会チラシ



空也上人は、平安時代中期に京都に蔓延した疫病を鎮めるため、民衆に尽くされた方。
空也上人の没後1050年に当たる今年に開催される今回の展覧会では、六波羅蜜寺の多くの貴重な寺宝とともに、《空也上人立像》(重要文化財)が疫病退散を願って半世紀ぶりに京都から東京にお越しいただくという、とても貴重な機会なのです。

それではさっそく展覧会の主な見どころをご紹介したいと思います。


展覧会概要


会 期  2022年3月1日(火)~5月8日(日)
会 場  東京国立博物館 本館特別5室
開館時間 午前9時30分~午後5時
休館日  月曜日、3月22日(火)
     ※ただし3月21日(月・祝)、3月28日(月)、5月2日(月)は開館
観覧料(税込)  一般 1,600円、大学生 900円、高校生 600円、中学生以下無料
※事前予約(日時指定券)を推奨。
※日時指定券の販売開始日等の詳細は確定し次第、展覧会公式サイトでお知らせします⇒https://kuya-rokuhara.exhibit.jp



見どころ1 空也上人立像を360度、どこからでもご覧いただけます。


六波羅蜜寺の宝物館では正面や少し横からしか見ることができませんが、今回は360度どこからでも拝むことができるのです。

重要文化財 空也上人立像 康勝作
 鎌倉時代・13世紀 京都・六波羅蜜寺蔵
写真 城野誠治



作者の康勝は、鎌倉時代を代表する仏師・運慶の四男。
少し前かがみの姿勢で左足を前に出し、今にも歩き出しそうなお姿はとってもリアル。
市中をめぐりながらとなえる念仏の声や、吊り下げた鉦鼓(しょうこ)を叩く音まで聞こえてきそうです。

後ろ姿を見れば、絹や綿の柔らかさとは違う、動物の皮衣の硬さまで伝わってきます。
前や横、後ろから見て、ぜひみなさん各自のお好きな角度を探してみてください。 

重要文化財 空也上人立像 康勝作
 鎌倉時代・13世紀 京都・六波羅蜜寺蔵
 写真 城野誠治

報道発表会では、今回の特別展の開催をきっかけに空也上人ファンクラブが結成されて、芸人のみほとけさんが公式サポーターに就任されたことも発表されました。

みほとけさんにとって空也上人は「初恋の人」。
そのみほとけさんのお好きな角度は少し左斜めから見たところとのこと。瞳の玉眼が正面に見える角度だそうです。

みなさまもその場でぜひ体験してみてはいかがでしょうか。

空也上人ファンクラブの公式サイトはこちらです⇒https://kuya-rokuhara.exhibit.jp/fanclub/

さらに今回の特別展の開催を記念して、細部までこだわった空也上人のフィギュアが発売されることも発表されました。
価格は現時点では未定ですが、展覧会場特設ショップで販売されるので、フィギュア・ファン、仏像ファンのみなさまは見逃すわけにはいきません。

2月14日 フィギュア「六波羅蜜寺公認 空也上人立像」(ポリストーン、海洋堂製作、税込み9,800円)の販売方法が発表されました!
詳細はこちらです⇒https://kuya-rokuhara.exhibit.jp/goods.html 




見どころ2 「珍しい」仏さまにお会いできます。



今回の特別展では、いろいろな意味で「珍しい」仏さまにお会いすることができます。

六波羅蜜寺は、空也上人が造立された国宝・十一面観音立像を安置した西光寺がその前身でした。

創建当時のご本尊は、国宝・十一面観音立像、重要文化財・四天王立像、梵天、帝釈天でしたが、このうち秘仏の十一面観音立像は六波羅蜜寺でお留守番、梵天と帝釈天は残念ながら現存していませんが、凛々しい四天王立像が東京に出陳されることになりました。

たびたびの兵火に見舞われた京都で、平安時代に創建されたお寺のご本尊が残っているのはとても珍しいことなのです。


重要文化財 四天王立像のうち持国天立像
 平安時代・10世紀 京都・六波羅蜜寺蔵
写真 城野誠治



こちらは空也上人の高弟・中信(ちゅうしん)が造像したと伝えられる、重要文化財・薬師如来坐像。
のちに仏師定朝が完成させる寄木造りの技法では現存最古という、これまた珍しい仏さまなのです。
重要文化財 薬師如来坐像
 平安時代・10世紀 京都・六波羅蜜寺蔵



続いて、写実的で剛健な武士好みの作風を確立した運慶作の重要文化財・地蔵菩薩坐像。
文献では多くの力作を残したことが伝わっていますが、現存するものは少なく、やはり珍しい運慶作の仏さまなのです。

重要文化財 地蔵菩薩坐像 運慶作
 鎌倉時代・12世紀 京都・六波羅蜜寺蔵




そして、重要文化財・運慶坐像。
仏像を造るのが仏師のお仕事ですが、仏師自身の肖像彫刻はとても珍しいのです。

この運慶坐像は、運慶が建立した地蔵十輪院にあったもので、江戸時代には六波羅蜜寺の境内に地蔵十輪院があったと伝わり、そのゆかりで現在では六波羅蜜寺に所蔵されています。

それにしても意志の強そうな迫力あるお顔は、運慶の作風そのものを体現しているように見えないでしょうか。
そして太くてたくましい指。さすが鎌倉仏師の第一人者の風格です。

重要文化財 運慶坐像 
鎌倉時代・13世紀 京都・六波羅蜜寺蔵






見どころ3 六波羅ゆかりのあの方にもお会いできます。



六波羅蜜寺の周辺は「六道の辻」といわれ、この世と冥界の境目とされていました。

冥界と聞いて真っ先に思い浮かべるのが、死者の生前の行いを裁く閻魔さま。
見てください、この迫力。怖い顔をした閻魔大王の前では嘘をつくことなんてできません。

重要文化財 閻魔王坐像
 鎌倉時代・13世紀 京都・六波羅蜜寺蔵



地獄に落とされても救ってくれる仏さまがいます。
『今昔物語集』で、地獄に落ちた源国挙が地蔵菩薩の助けによって蘇生したことから、平安時代の代表的な仏師定朝に地蔵菩薩像をつくらせ六波羅蜜寺に安置した像とされるのが、重要文化財・地蔵菩薩立像。

重要文化財 地蔵菩薩立像
 平安時代・11世紀 京都・六波羅蜜寺蔵



六波羅は平安時代後期に平清盛の祖父・平正盛がここに邸宅を構えて以来、平氏一門の居住地となった平氏ゆかりの地。

今年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」ではすっかり源氏の敵役になってますが、10年前の大河ドラマ「平清盛」では立派に主役をこなした清盛の坐像と伝えられるお像も日本史の教科書に出てくるので、ご存じの方も多いことでしょう。

重要文化財 伝平清盛坐像
 鎌倉時代・13世紀 京都・六波羅蜜寺蔵


「教科書で見たことある!」という仏さまをはじめ珍しい寺宝が東京で見られる、またとない機会ですので、ぜひとも多くの方にご覧いただきたい展覧会です。


そして、せっかくの機会ですので、六波羅蜜寺についても知っていただきたいです。

ご本尊の秘仏、国宝・十一面観音立像は、12年に一度、辰の年にご開扉されます。
また、空也上人以来の伝統行事で、8月8日~10日まで行われる萬燈会厳修、年末(12月13日~31日)の夕暮れ時に行われる空也踊躍念仏厳修(重要無形民俗文化財)はじめ年中行事も多くあります。

空也踊躍念仏厳修は私も一度拝見しましたが、お坊さんたちが念仏をとなえながら堂内をめぐっていたと思ったら、最後にダダダッと一瞬のうちに奥に入って堂内に誰もいなくなってしまうという場面がとても印象的でした。

今年(2022年)5月末には新宝物館「令和館」が開館するので、京都に行ったらぜひ訪れてみてください。

六波羅蜜寺 写真 浅沼光晴

六波羅蜜寺の公式サイトはこちらです⇒https://www.rokuhara.or.jp/

2022年1月1日土曜日

すみだ北斎美術館「北斎で日本史-あの人をどう描いたか-」

明けましておめでとうございます。
今年最初におススメする展覧会は、昨年12月21日(火)に開幕して年末年始の休みをはさんで明日2日(日)から再開する、すみだ北斎美術館「北斎で日本史-あの人をどう描いたかー」です。

展覧会チラシ




神話の時代から明治時代まで、北斎や一門の弟子たちが描いた歴史上の人物や出来事で綴る日本史が見られる楽しい展覧会です。
日本史ファンはもちろん、大河ドラマで見た場面も出てくるので、大河ドラマファンも見逃すわけにはいきません。

それではさっそく展覧会の様子をご紹介したいと思います。

※展示室内は撮影不可です。掲載した写真は内覧会で美術館の特別の許可をいただいて撮影したものです。
※出品作品はすべてすみだ北斎美術館所蔵品です。

展覧会概要


会 期  2021年12月21日(火)~2022年2月27日(日)
     前期 12月21日(火)~1月23日(日)
     後期 1月25日(火)~2月27日(日)
開館時間 9:30~17:30(入館は17:00まで)
休館日  毎週月曜日、年末年始(12月29日~1月1日)
     ※開館:1月2日(日)、1月3日(月)、1月10日(月・祝)
      休館:1月4日(火)、1月11日(火)
観覧料 ※AURORA(常設展示室)、常設展プラス観覧料を含む
 一般 1,000円、高校生・大学生 700円 ほか
(今回の企画展の会場は3階で、4階はAURORA(常設展示室)、常設展プラスの会場です。)

展覧会の詳細、関連イベント等につきましては同館公式HPをご確認ください⇒すみだ北斎美術館      


歴史上のあの有名人が続々登場!


こちらは、遣唐使として唐に渡り、玄宗皇帝に重用された阿倍仲麻呂がようやく帰国を許されて、故郷の奈良の都からも見える月を懐かしんで眺めている場面です。

葛飾北斎《詩歌写真鏡 安倍の仲麿》
前期展示
(後期には葛飾北斎《百人一首うはかゑとき 安倍仲麿》が展示されます。)


残念ながら仲麻呂の乗った船は難破して安南(今のベトナム中部)に漂着したため、仲麻呂は唐の都長安に戻り、再び唐朝に仕え、その地で生涯を終えました。

一方、東シナ海の荒波を越えて二度唐に渡り、二度とも無事日本に帰国した強運の持ち主が吉備大臣こと吉備真備。

岳亭春信『画本柳樽』五編
前期展示

唐に留学中の吉備真備が、蜘蛛に助けられ難解な詩を解読できたという逸話の場面が描かれていますが、唐の朝廷から多くの難題を出され、阿倍仲麻呂の霊が鬼に化けて真備を助ける場面が描かれた『吉備大臣入唐絵巻』(ボストン美術館蔵)を思い浮かべます。

『吉備大臣入唐絵巻』は、2年前に東京都美術館で開催予定の「ボストン美術館展 芸術×力」で来日するはずでしたがコロナの影響で中止になり、今年夏にあらためて来日が決定しています。
さすが吉備大臣、今の時代に太平洋を渡ることなど何の問題もないことなのでしょう。
(ちなみに、吉備大臣が最初に入唐したときは阿倍仲麻呂と一緒で、二度目に唐に渡ったときは阿倍仲麻呂は生きていので、鬼に化けるということはなかったのですが。)

今回の展示では、解説パネルにも注目です。
中段の白抜きの部分は登場人物や時代背景の解説、その下が作品の解説になっているので、より深く作品を味わうことができる工夫がなされています。

解説パネル

時代を先に進めてみると、後世の評価が対照的な二人の武将の作品が並んでいました。

右 葛飾北斎『北斎漫画』五編 楠正成
左 二代柳川重信『日本百将伝一夕話』九 尊氏の将士出陳の図
どちらも通期展示

二人の武将とは、後醍醐天皇に反旗を翻して室町幕府を開いた足利尊氏と、後醍醐天皇に従い尊氏と戦いに敗れ自害した楠木正成のことです。

天皇に従ったことから明治期には「大楠公」と称され、近代日本画の題材にもなった楠木正成が、のちの将軍・尊氏に背いたにもかかわらず江戸時代に描かれていたことは意外でした。

一方の尊氏は、幕末の尊王攘夷運動の中、京都・等持院に安置されている足利歴代将軍の木像のうち、尊氏、義詮、義満の木像の首が、朝敵として三条河原にさらされるという事件がありましたが(足利氏木像梟首事件)、この時はさすがに武将としての勇壮な姿で描かれています。

他にも、『日本書紀』や『古事記』に登場する木花開邪姫命(コノハナノサクヤビメ)、平安時代の紫式部、戦国時代の武田信玄はじめ多くの歴史上の人物が登場するので、ぜひ会場でお会いになってください!


森高雅《紫式部》
前期展示
後期には岳亭春信《葛飾連額面婦人合 紫式部》が展示されます。




大河ドラマのあのシーンがよみがえる!


この展覧会が始まった12月に欠かすことができないテーマは、やはり「忠臣蔵」。
そしてクライマックスはもちろん討入りの場面。

葛飾北斎《忠臣蔵討入》
前期展示
NHK大河ドラマでは1999年に放映された「元禄繚乱」が一番新しいものですが、忠臣蔵をテーマにした大河ドラマはこれで4作目だったそうです。


2020年から2021年にかけて放映された「麒麟がくる」のクライマックスシーンはもちろん本能寺の変。

二代柳川重信『日本百将一夕話』十二 
本能寺に明智主に逼る
通期展示

そしてその伏線となった、明智光秀が織田信長に叱りつけられている場面も出てきます。

二代柳川重信『主従心得草』五編 上
通期展示

しかしながらこの場面は、江戸時代の封建社会の中では、気に入らないことがあっても家臣を憎むと信長のようになってしまうという、主君に対する戒めの意味があったのですね。

そして今年(2022年)の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の登場人物も出てきますので、お見逃しなく!
(下の写真の左ページの上の方に北条時政と政子が描かれています。)

葛飾北斎『絵本早引 名頭武者部類』
政子尼公 北條時政
 通期展示



まだまだ紹介したい歴史上の人物や名場面はあるのですが、続きは会場でご覧いただくとして、3階ホワイエに移ります。

こちらは3階ホワイエのフォトスポット。

フォトスポット

ぜひこちらで記念撮影をして、SNSなどでシェアしてください。
おそれ多くも徳川家康公から「頼んだぞ!」と声をかけられたら断るわけにはいきません。



3階ホワイエには、所蔵作品は門外不出のアメリカ・フリーア美術館が所蔵する葛飾北斎肉筆画の高精細複製画が展示されています。
こちらも撮影可です。

葛飾北斎《新年風俗図(初夢・朝化粧)》
(高精細複製画)
原画 フリーア美術館蔵



4階はAURORA(常設展示室)と常設展プラスの展示室に分かれています。

常設展プラスには、全長約7mの《隅田川両岸景色図巻》の複製画が展示されていて、『北斎漫画』ほか北斎絵手本のレプリカの立ち読みができるコーナーもあります。

※常設展プラス展示室内は撮影不可です。

『北斎漫画』ほか立ち読みコーナー

『北斎漫画』のレプリカはまるで本物のような出来映え。これが発売されたら間違いなく全巻揃えたいです!

AURORA(常設展示室)では、ぜひ北斎の画業の変遷をたどってみてください。
北斎さんにお会いすることもできます。

※AURORA(常設展示室)は一部を除き撮影可。

4階AURORA(常設展示室)北斎のアトリエ再現模型

今回の展覧会の紹介パンフレットも1階ミュージアムショップで好評発売中です(税込300円)。


今年の年初めには、「北斎で日本史」をぜひお楽しみください!