2018年11月26日月曜日

とても美味しそうな展覧会です-すみだ北斎美術館「大江戸グルメと北斎」展

料理を作る場面を描いた絵を見たり、美味しそうに料理を食べている人を描いた絵を見れば、自然とおなかがすいてきてしまいます。
その上、料理のサンプルまで見たらとても我慢できなくなって、「何か美味しいものが食べたい!」と思わず口に出してしまいそうになります。

東京・墨田区にあるすみだ北斎美術館では、そんな美味しそうな展覧会が開催されています。


「美味しそう」なだけではありません。
美術館周辺のカフェとのコラボ企画で江戸グルメが体験できるという「美味しい」展覧会なのです。

さて、どれだけ美味しい展覧会なのかは、先日開催された内覧会の様子をお伝えしながら紹介したいと思います。
※掲載した写真は、美術館から特別の許可をいただいて撮影したものです。

館内は今回の展覧会を企画されたすみだ北斎美術館学芸員の山際さんにご案内いただきました。

「今回の展覧会は、ユネスコの無形文化遺産に登録された『和食』のルーツ、『江戸の食』がテーマです。」
「展示は4章構成になっていて、第1章が食の背景である農業や漁業といった生産の場面、第2章は食材、第3章は料理をする人、料理本、再現レプリカ(料理のサンプル)、第4章は江戸の人気料理、江戸のファストフード、北斎のグルメに関するエピソードです。」
「そして今回の展覧会では照明を通常より暖かい色合いにしてみました。みなさんどのように感じられますでしょうか。」

それではさっそく3階の第1展示室から入ってみることにしましょう。


第1展示室に入ってすぐは「第1章 江戸グルメ繁栄の背景」。

はじめに農業のコーナー。


「葛飾北斎《百人一首うはかゑとき 天智天皇》は、稲刈りの様子を詠った天智天皇の和歌にちなんで描かれていますが、江戸時代の農業の様子がよくわかります。」


「『北斎漫画』三編では、稲刈りの様子、千歯こきで脱穀する様子が描かれています。」


壁には丁寧な解説のパネルが掛かっています。


続いて漁業のコーナー。


「江戸時代は肉食は避けられ、野菜と魚介類が中心でした。(下の写真左から)海女がアワビを取る様子を描いた葛飾北斎《百人一首乳母か絵と起 参議篁》、『四つ手網』で漁をする漁師が描かれている葛飾北斎《千絵の海 総州利根川》です。」


「蔀関月「『山海名産図会』三 広島牡蠣畜養之法」(下の写真左)では牡蠣の養殖の様子が描かれています。」
江戸時代から牡蠣を養殖していたのですね。
(下の写真右は「斎藤月岑ほか筆 長谷川雪旦画『江戸名所図会』十九 中川釣鱚)

そして調味料の生産のコーナー。


葛飾北斎《五十三次江都の往かい 蒲原》では製塩の様子が描かれています。


「『北斎漫画』十三編 砂糖製」では砂糖づくりの様子が描かれています。


次に「第2章 江戸の食材」です。

はじめに「魚」。
「葛飾北斎《鮟鱇図》では鮟鱇の質感をご覧になってください。やわらかい腹の部分は水分の多い墨で描き、硬いえらは硬い筆で描いています。」
写実的な表現は、この作品が描かれた文化年間(1804-1818中期頃)当時、北斎が意識していた西洋絵画の影響もうかがえるとのことです。


こちらは写実性より見た目の面白さを求めた『北斎漫画』二編。
あんこうは逆さになって腹をふくらましていますが、実際には上の《鮟鱇図》のように腹は平たいのです。


続いて「野菜、果物」。

ここでの注目は魚屋北渓《つれつれ艸 土おほね》。
「土おほね」とは大根のことで、大根は輪郭線を摺らないで凹凸を出す空摺(からずり)で表現しています。


「食材の流通」
葛飾北斎《五十三次江都の往かい 日本橋》では、江戸時代に魚市場があった日本橋の賑わいが描かれています。


横11.1㎝、縦17.3㎝の小さな作品ですが、4階の第2展示室入ってすぐの大きなパネルを見るとこの迫力!


さて、食材の生産の場面と、食材を見たところで次はいよいよ江戸のグルメです。

「第3章 江戸の料理帖」
まずは料理人たちの姿を描いた作品。
左からいずれも葛飾北斎「『北斎漫画』九編 士卒英気養図」、「『北斎漫画』八編」、「『絵本庭訓往来』初編」。
「現在の便利になったキッチンとは違って、江戸時代には、水は井戸から汲んだり、火は自分でおこしたりしていました。」


次に「レシピ本」のコーナー。
今回の展覧会は公益財団法人 味の素食の文化センターと東京家政学院生活文化博物館の協力によって、江戸時代のレシピ本や、そのレシピ本に基づいて再現された料理の再現レプリカやレシピのパネルが展示されています。


こちらは100種類の豆腐の料理方法が記された醒狂道人何必醇著『豆腐百珍』。
これは味の素食の文化センターの所蔵です。


続いて『豆腐百珍』に基づいて再現された料理の再現レプリカとレシピのパネル。

こちらが「鶏卵様」。料理の再現レプリカは東京家政学院生活文化博物館の所蔵です。


江戸時代の資料には分量や味付けなどが記載されていないので、再現には苦労されたとのこと。こちらは「鶏卵様」のレシピの拡大。
作り方の詳しい説明があるのでぜひご自宅でお試しを!



とはいっても一つひとつメモしていたら大変です。
1階ミュージアムショップでは「江戸料理簡単レシピ付 大江戸グルメと北斎」という8ページのリーフレットを税込300円で販売しているので、ご興味のある方はこちらをお買い求めください。




卵料理もあります。
右が「源氏卵」、左が「茶巾卵」。


大根を使った料理もあります。こちらは「揚げ出し大根」です。



そして第1章から盛り上がってきた勢いそのままに第4章 江戸の人気料理「江戸のいちおしグルメ」に突入します。

「このコーナーでは、まず料理を食べる場面の絵のあとに料理の再現レプリカを見るという構成になっています。」と山際さん。


このコーナーも味の素食の文化センターと東京家政学院生活文化博物館の美味しそうなコラボ企画が続きます。

「歌川国芳《縞揃女弁慶 安宅の松》(味の素食の文化センター)では、女性の手にする箱に『あたけ 松のすし』との文字が見えます。これは当時の高級すし店「松ヶ鮨」のもので、隣には鯛の香物鮓の再現レプリカ(東京家政学院生活文化博物館)。




こちらは鯛や刺身が描かれた三代歌川豊国《三長寿人》(味の素食の文化センター)と「鯛の刺身・煎り酒」の再現レプリカ(東京家政学院生活文化博物館)。


続いて「味噌田楽」。
左は田楽売りが描かれている「『新編女水滸伝』二之巻 好花堂野亭著 葛飾北雲画」。
右は「豆腐田楽」の再現レプリカ。

「江戸時代の田楽用の豆腐は今より固く、扱いやすかったのです。画面左下では屋内で焼いている場面が描かれています。」

4階の第2展示室に移りましょう。


第4章の続きで、はじめが「季節のグルメ」。
「右から、葛飾北斎《正月の台所》では後ろにぶら下がる新巻鮭に注目、三代歌川豊国《十二月之内 水無月 土用干》ではすいかが四角く切られて皿に盛られています。すいかは今ほど甘くなかったので砂糖をかけて食べていました。」
「勝川春亭《江戸大かばやき》ではうなぎを食べる人が後ろに描かれています。主役はつくる人たちなのです。」


そして食事の後はスイーツ。「江戸のスイーツ」のコーナーです。


ひとつ拡大してみましょう。
くるみ、黒胡麻、醤油を使った焼き菓子「けんぴん」です。


「けんぴん」はすみだ北斎美術館から高架線をはさんで反対側、徒歩3分の「松崎珈琲」で販売しています。コーヒーによく合うスイーツです。


今回の展覧会とコラボしているカフェは、3階ホワイエにあるパネルやその左隣の台に置いてある緑色の縦長のパンフレットでご確認ください。


そして最後は「江戸の高級料亭グルメ巡り」。歌川広重が背景を、三代歌川豊国が人物を描くという豪華コラボ《東都高名会席尽》のシリーズ。


「背景と人物は、たとえば「万久 髯の意休」では背景の料理屋万久(まんきゅう)と歌舞伎に登場する髯の意休(いきゅう)とをかけあわせていたり、関連を持たせています。」


「今回の展覧会は江戸のグルメを紹介しています。ぜひ江戸の食を楽しんでください。」(拍手)

最後に3階ホワイエにある撮影スポットをご紹介します。
展覧会チラシにある「鰻登り」です。


この原画は第4章の「季節のグルメ」のコーナーに展示されている『北斎漫画』十二編「鰻登り」(下の写真)で、それに着色をしているものです。


後ろの看板には「千客万来」と書かれています。
鰻をつかまえるポーズをとって記念に写真をとれば運勢も上昇するかも!?

あっ、もう一ヶ所ご案内するのを忘れていました。
4階のAURORA(常設展示室)です。


せっかくすみだ北斎美術館に来たのですから北斎師匠にご挨拶をしましょう。
手前が北斎、奥が娘の阿栄(おえい)です。


常設展示室内には北斎の高精度複製画が年代順に展示されていて、一部の作品を除き撮影できます。北斎の画業の軌跡を予習するにはちょうどいいので、企画展を見る前に常設展示を見てもいいかもしれません。



さて、駆け足で紹介してきましたが、おなかがすいてきましたでしょうか?
本当に美味しい展覧会です。ぜひ美術館にお越しいただいてその場でご覧になっていただければと思います。

会期は来年の1月20日(日)までありますが、前期後期で展示替えがあって、前期は12月16日(日)までなので、お早めに!

関連イベントもあります。
展覧会の詳細は公式ホームページをご覧ください。➡すみだ北斎美術館

2018年11月22日木曜日

古代中国の青銅器が面白い―泉屋博古館分館「神々のやどる器―中国青銅器の文様」

古代中国の青銅器はこんなに面白かった!
東京・六本木の泉屋博古館分館で開催されている「神々のやどる器-中国青銅器の文様-」に注目です。


今までも美術館で青銅器は大きいものから小さいものまでいくつも見て、何千年も前にこんなすごいものを作っていたんだと驚いていましたが、今回の展覧会では、展示されている青銅器の質も量も充実しているのはもちろんのこと、展示解説も工夫がこらされていたり、実際に触ったり叩いて音が出せるレプリカの青銅器があったりして、何倍も楽しめる内容になっています。

さて、どれだけ楽しめる内容なのかは、開会に先がけて開催されたブロガー内覧会の様子をお伝えしながら紹介したいと思います。
※掲載した写真は、美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。

はじめに野地耕一郎分館長からご挨拶がありました。

「泉屋博古館の青銅器コレクションは、世界的に知られているコレクション。細かい文様や形の面白さを楽しんでください。」

第一展示室はこのように青銅器がずらり。
すごい青銅器コレクションです!



拡大写真のパネルも充実。
青銅器の後の壁には拡大写真が掛けられていて、描かれた文様がデジタル処理で色付けされていて目立つようになっています。
拡大写真のパネルを見てから実物を見ると、どこにどういった文様が描かれているのかがよくわかります。

続いて、京都・泉屋博古館の廣川守副館長から展覧会の見どころを解説していただきました。

「今から三千数百年前から約七百年間、中国では青銅器が作られました。これらは日常生活に使うものでなく、先祖を手厚く祀る儀式のために使われていたものです。」
「青銅器の表面には様々な模様が描かれています。その多くが動物で、人物はあまり描かれていませんでした。当時は動物の姿を借りて神を表していたのです。」
「大きな特徴は、実在の動物だけでなく、実在しない動物も表現されていたことです。実在の動物でも、たとえば虎はデフォルメされていたり、変なパーツがついていたりして、実在の動物とは異なっていました。実在しない動物の代表は、龍や鳳凰でした。」

「今回の展覧会のもう一つの見どころは、青銅鏡です。」
「約二千五百年ぐらい前から製造が始まり、漢代以降大流行しました。」
「青銅鏡は青銅器と異なり、官僚クラスの個人も所有していました。当時、鏡は姿見としてでなく、魔力、霊力があったと考えられていたので、不老長寿、子孫繁栄、そして、この鏡を持っていれば大臣にまでなれる、といった現生での願いをかなえるための幸せのアイテムだったのです。」
「その魔力、霊力の源が鏡に描かれた文様です。当時の人々の願いがこめられた文様をぜひご覧になってください。」

第一展示室は青銅器でしたが、第二展示室には青銅鏡が展示されています。


こちらも後ろの壁にはデジタル処理で文様が色分けされた拡大写真のパネルが掛けられているので、実物を見たときにどういった文様が描かれているかわかるようになっています。


そして解説パネルも年代ごとに色分けされています。
これは、描かれたモチーフごとにまとめて展示しているので、年代がわかるようにするための工夫です。

作品名のパネル(下の写真の左)の下の帯が薄緑色は戦国時代の鏡。


帯の色が黄色は漢・三国時代の鏡。


帯の色がピンクは隋・唐時代の鏡。


そしてロビーにはレプリカの青銅器。


こちらは本物の青銅器からシリコンで型をとり鋳造した実物大の復元模型です。
このレプリカは写真撮影可です。ぜひ記念撮影を!
そして触ることもできます。ぜひ青銅の質感を実感してみてください。

そして第二展示室の入口には、レプリカの鐘(しょう)が展示されています。
木槌で叩いてみて古代の音を体感してみてください。
叩く位置によって違う音階の音が出ます。
春秋戦国時代には10~20個セットで並べて演奏したそうです。



さてここで、古代中国王朝のおおまかな年代をおさらいしてみましょう。

まず、青銅器が盛んにつくられたのが、商と周の時代。
殷ともいわれる商王朝は年代について諸説ありますが、紀元前1600年頃に成立して紀元前11世紀頃、周に滅ぼされたとされています。
次の周王朝(西周)は紀元前770年頃、一度滅んで、翌年再興しますが(東周)、勢力は衰え、以後、春秋時代(前770年~前403年)、戦国時代(前403~前221年)と続きます。

そして秦の始皇帝が中国を統一したのが前221年。
それ以降は次のとおりです(王朝交代時などの混乱で年代が空いたり、重複したりします)。

秦(~紀元前206年)
前漢(紀元前202年~紀元後8年)
新(8年~23年)
後漢(25~220年)
三国時代(220年~280年)
西晋(280年~316年)
五胡十六国時代(304年~439年)
南北朝時代(439年~581年)
隋(581年~618年)
唐(618年~907年)

続いて泉屋博古館学芸員の山本尭さんのギャラリートークをおうかがいしました。

今回のチラシの表面を飾るのが「虎卣(こゆう)」(商後期)。
「青銅器のコーナーは3つのモチーフに分けて展示しています。一つめが『実在の動物』です。」

「虎の口の中にいるのは人の顔です。今にも食べられそうですが、怖がっている表情ではなく、何となく安心した顔をしていませんでしょうか。きっと虎に抱かれて守らている様子を表しているのでしょう。」

「この『虎卣』にはいろいろな動物がいます。人のお尻には蛇、取っ手は鹿、持ち手の根本はバク?、尻尾は象のような鼻といった具合に。後ろのパネルを見ながら動物を探してみてください。青銅器には動物をさがす楽しみがあります。」

これが壁のパネルです。


続いて「戈卣(かゆう)」(商後期)。


「これは大きな耳があるのでフクロウでなくミミズクでしょう。二匹のミミズクが背中合わせになっています。すでに泉屋博古館分館のスタッフの間では『内股ぎみの足がかわいい』と評判です(笑)。」
この写真だとよく分かりませんが、ミミズクの正面からご覧になってみてください。

「よく見ると首のところに龍が、足には鳥が描かれています。」

「2つめのモチーフは饕餮文(とうてつもん)です。饕餮とは首だけの姿で、人を食べる怪獣とされています。」

「この『平底爵(へいていしゃく)』(商中期)は、もっとも古いタイプで、くりっとした目、左右に広がる胴体が特徴です。」


「続いて『饕餮文瓿(とうてつもんほう)』(商後期)です。時代が新しくなると、牙が生えてきます。」
近くで見ると口の下から牙が左右2本ずつ出ているのがわかります。

こちらはロビーにレプリカが展示されていた「犧首方尊(ぎしゅほうそん)」(商後期)の本物。
「顔のパーツは浮き彫りになっていますが、背景の渦巻きはフリーハンドで描いたのですが、角がきちんと揃っています。とても精巧です。」

「『方彛(ほうい)』(西周前期)では、脚があって爪も描かれています。爪は猛禽類のものに似ています。」

「3つめのモチーフは龍です。中国では龍は皇帝の象徴ですが、この原点は青銅器にあります。」
「『鬲父乙盉(れきふいつか)』(西周前期)は二股に分かれた角に注目です。」

「『直文方座簋(ちょくもんほうざき)』の龍は、角が牛?面長なところは馬?このように想像上の動物でも実際の動物のパーツをとることがあります。」
「このように同じ龍でも違いがあります。青銅器には、古代中国の人たちの想像力を読みとる楽しみがあります。」


ロビーの展示ケースに移ります。
ここでは、酒器、食器、楽器と、器の種類ごとに展示キャプションの色を変えていてます。

左から「饕餮文爵(とうてつもんしゃく)」(商後期)、「饕餮文觚(とうてつもんこ)」(商後期)。
「爵は酒を温めるための器で、底の部分に黒い煤がついています。温めた酒を入れるのが隣の觚です。」
「酒器は商時代に流行しました。商の人たちはお酒が好きで、お酒を飲み過ぎて周に倒されたという噂もあるくらいです(笑)」


「これは上下二つのパーツに分かれていて、下の器に水を入れて、下から火を焚いて蒸し料理をつくる器『饕餮文甗(とうてつもんげん)』(西周前期)です。」


「周時代に作られた楽器『兮仲鐘(けいちゅうしょう)』(西周後期)です(下の写真中央)。複数セットでいろいろな音階を奏で、祖先をもてなしていました。」

第二展示室には、描かれたモチーフごとに青銅鏡が展示されています。

最初のモチーフは「龍」
「商や周の時代、政治はまつりごとで、そのために青銅器が作られてきましたが、紀元前221年に秦の始皇帝が中国を統一して官僚制を整備してから青銅器はすたれ、代わって青銅鏡が流行しました。」
「文様は吉祥文様で、それを持っている人のラッキーアイテムでした。」

ここでは時代によって描かれる龍の変化に注目です。

「『(四螭文鏡(しちもんきょう)』(戦国後期)ではポケモンに出てきそうな龍が描かれています(笑)。」

こちらはパネルの写真です。龍が蛇のように細身ですね。

「こちらは『細線獣帯鏡(さいせんじゅうたいきょう)』(前漢後期)です。鏡には人物も描かれるようになります。龍は仙人の乗り物と考えられていました。」
(写真だけではわかりにくくてすみません。ぜひ現地でじっくりご覧になってください。)


「『雲龍八花鏡(うんりゅうはっかきょう)』(盛唐)ではたなびく雲と龍が描かれています。龍は恵みの雨をもたらすと考えられていました。唐時代になると私たちにもお馴染みの龍になります。」
(太い体の龍がくねっているのがわかりますでしょうか。)


次のモチーフは鳳凰。
「鳳凰は徳の高い聖人が政治を行っているときに出てくると考えられていました。」
「こちらは『四鳳文鏡(しほうもんきょう)』(戦国中期)です。戦国時代の鏡には4羽の鳥が描かれていました。」


「次に『双鸞瑞花八花鏡(そうらんずいかはっかきょう)』(盛唐)。
唐代に入ると私たちのイメージの鳳凰が描かれるようになります。」



続いて四神です。
「『貼銀鍍金舞鳳狻倪八稜鏡(ちょうぎんときんぶほうさんげいはちりょうきょう)』(盛唐)は青銅の鏡の上に銀の板を貼ったもので、鳥と獅子が描かれています。重さは3㎏あります。」


青銅器、青銅鏡とも解説パネルには寸法だけでなく重さも記載されています。


「後漢以降は神仙思想が広まり、仙人への憧れから、人物が描かれるようになりました。」

「『神人龍虎画像鏡(しんじんりゅうこがぞうきょう)』(後漢中期)には、徳の高い皇帝を祝福しに現れると考えられていた西王母とその対になる東王父が描かれています。」





「また、この時代には民間の工房が盛んになり、鏡は商品として売られ、『大臣になれる』『長生きできる』といったキャッチコピーも考えられるようになりました。」
「『重列神獣鏡(じゅうれつしんじゅうきょう)』(後漢後期)には、「君宜高官(あなたは高官になれる)」といった文言が書かれています。」
こちらもぜひ現地で目を凝らしてごらんになってください。


ここからは鏡に描かれた人物や動物の位置にも注目です。

「『建安廿二年重列神獣鏡(けんあんにじゅうにねんじゅうれつしんじゅうきょう)』(後漢)
には人物と獣が描かれていて、雛壇のようにならんでいます。」


こちらが解説パネルです。



「『建安廿四年対置式神獣鏡(けんあんにじゅうよねんたいちしきしんじゅうきょう)』(後漢)では、下の文様は上向き、上の文様は下向きに対置させるように配置されています。




「『黄初二年同向式神獣鏡(こうしょにねんどうこうしきしんじゅうきょう)』(魏・黄初二年(221年))では、人物は丸く並んでいますが、みんな上を(=同じ方向)を向いています。」



青銅鏡の最後のコーナーには、京都府・久津川車塚古墳から出土された重要文化財の鏡が展示されています。

「『三角縁四神四獣鏡(さんかくえんししんしじゅうきょう)』(三国時代)は、日本でしか出土されていない三角縁の鏡で、『魏志倭人伝』に伝えられている卑弥呼に与えられた鏡100枚のうちの1枚である可能性もあります。」


「『画文帯同向式神獣鏡(がもんたいどうこうしきしんじゅうきょう)』の上段には、自分の演奏を完全に理解した友人・鐘子期の死後、琴の弦を自ら断ったという言い伝えのある琴の名手・伯牙が描かれています。」




「一粒で何度も美味しいのが中国の青銅器です(笑)。ぜひじっくりご覧になって楽しんでください。」(拍手)


建物の入口には記念撮影用のパネルがあります。
虎卣の口の中から顔を出して記念撮影をするのもお忘れなく。


さて、「神々のやどる器」展はいかがだったでしょうか。
じっくり見れば見るほど面白さがわかる展覧会です。
この冬おススメの展覧会です。
12月24日(月・祝)までなので、あと1ヶ月しかありません。お見逃しなく!

ギャラリートークはじめ関連イベントも開催されますので、時間を合わせて行ってみてはいかがでしょうか。
展覧会の公式サイトをぜひチェックしてみてください。→神々のやどる器