2019年12月30日月曜日

2019年 私が見た展覧会ベスト10

早いもので今年(2019年)もあと2日。
今年一年間、ブログ「ドイツ~東と西~」にお付き合いいただきありがとうございました。
例年ですと、その年の展覧会ベスト10は年を越してしまうのですが、今年はがんばって年内にアップしてみました。

第1位 東京国立博物館 特別展「顔真卿 王羲之を超えた名筆」(1月16日~2月24日)

台北國立故宮博物院から1200年の時を超えて顔真卿の名筆「祭姪文稿」が奇跡の初来日!
激情の書「祭姪文稿」を目の前にした時の心を揺さぶられる思いは今でも忘れません。
日本国内だけでなく、中国大陸や台湾まで巻き込んで大きな話題を呼んだ展覧会でした。


展覧会の様子は「いまトピ~すごい好奇心のサイト~」で紹介しています。
【奇跡の6週間】1200年の時を超えた心揺さぶられる展覧会に行ってきた。

第2位 奈良国立博物館「国宝の殿堂 藤田美術館展-曜変天目茶碗と仏教美術のきらめきー」(4月13日~6月9日)

今年前半の大きな話題の一つが、世界に三碗しかなくて、それも全部日本にあって国宝の「曜変天目」が三碗そろい踏み。
奈良国立博物館のVIPルームに展示されていた「曜変天目」は満天の星空のように輝いていました。


MIHO MUSEUM「大徳寺龍光院 国宝 曜変天目と破草鞋」(3月21日~5月19日)、静嘉堂文庫美術館「日本刀の華 備前刀」(4月13日~6月9日)にも行って三碗コンプリートしました。
【三碗コンプリート!】国宝「曜変天目」関西~東京三館めぐりの旅に行ってきた。

ガチャガチャ「曜変天目」の紹介はこちらです。
【国宝の茶碗が自宅に!?】今話題の「曜変天目」をゲットしよう!


第3位 横浜美術館「原三溪の美術 伝説の大コレクション」(7月13日~9月1日)

横浜美術館開館30周年を記念して開催された企画展の第2弾は、関東大震災がなければ実現したかもしれない幻の「原三溪美術館」を実現した大里帰り展。
この展覧会の最終日も、関東大震災の発生した9月1日でした。


原三溪コレクションの充実ぶりをあらためて知ることができたのはもちろん、多くの作品が国内の主な美術館・博物館で引き取られて今でも見る機会があることがわかったのも大きな収穫でした。

こちらも「いまトピ」で紹介しています。
【幻の「原三溪美術館」】横浜に里帰りした伝説の大コレクション

横浜美術館では開館30周年記念企画展第3弾「オランジュリー美術館コレクション ルノワールとパリに恋した12人の画家たち」展が開催されています。
正月は1月3日から。1月13日で終わってしまうのでお見逃しなく!
展覧会の様子はこちらです。
「横浜美術館開館30周年記念 オランジュリー美術館コレクション ルノワールとパリに恋した12人の画家たち」展


第4位 国立西洋美術館「松方コレクション展」(6月11日~9月23日)

国立西洋美術館開館60周年を記念して開催された幻の「松方美術館」展。
「原三溪美術館」が和の文化なら、こちらは洋の文化。国内に居ながらにしてこれだけ多くの西洋の名画を見ることができるありがたみをあらためて実感しました。


第5位 すみだ北斎美術館「フリーア美術館の北斎展」(6月25日~8月25日)

「門外不出のフリーア美術館の北斎肉筆画が見たい!」という願いを高精細複製品で実現してくれた展覧会。
制作を担当したのは、特定非営利活動法人 京都文化協会とキャノン株式会社が進めている綴プロジェクト。制作された13点の肉筆画はすみだ北斎美術館に寄贈されたので、また見る機会があるかもしれません。


展覧会の様子はこちらです。
すみだ北斎美術館「フリーア美術館の北斎展」~フリーアの北斎肉筆画が見たい!

いつも趣向を凝らした展示で私たちを楽しませてくれる「すみだ北斎美術館」では、長野県・小布施にある北斎館の名品が展示されています。
正月は1月2日から開館。1月19日までなのでお早目に!
すみだ北斎美術館「北斎 視覚のマジック 小布施・北斎館名品展」


第6位 三菱一号館美術館「印象派からその先へ」展(10月30日~2020年1月20日)

サブタイトルにあるように近代フランス絵画の豊富なレパートリーで知られた「世界に誇る吉野石膏コレクション」の展覧会。
印象派やエコール・ド・パリの作品は明治の洋館を再現した内装との相性もぴったり。
正月は1月2日から始まります。会期は1月20日までです。

青い日記帳×印象派からその先へ展 in 三菱一号館美術館-世界に誇る 吉野石膏コレクション-



第7位 東京藝術大学大学美術館「円山応挙から近代京都画壇へ」(8月3日~9月29日)

江戸時代中期の円山応挙、呉春から、近代の幸野楳嶺、木島櫻谷まで、京都画壇の名作が上野に大集合した豪華な展覧会。大乗寺襖絵の再現展示がみごとでした。


展覧会の様子はこちらです。
京都画壇の作品が上野に大集合!~東京藝術大学大学美術館「円山応挙から近代京都画壇へ」

円山派の異端児・長沢芦雪の南紀への旅は「いまトピ」で紹介しています。
南紀で何があったのか?【奇想の絵師・長沢芦雪の旅路をたどってみた】


第8位 Bunkamura ザ・ミュージアム「建国300年 ヨーロッパの宝石箱 リヒテンシュタイン侯爵家の至宝展」(10月12日~12月26日)

宝石箱のようにキラキラ輝いた作品が並ぶリヒテンシュタイン侯爵家の至宝展。
そこにはヨーロッパの歴史の荒波の中、守り抜いてきたリヒテンシュタイン侯爵家当主たちの努力がありました。
Bunkamura ザ・ミュージアムでの展示は終了しましたが、来年(2020年)1月から11月まで全国5カ所を巡回しますので、詳細はこちらをご覧ください。
ヨーロッパの宝石箱が渋谷にやってきた!!


第9位 福島県立美術館「東日本大震災復刻祈念 伊藤若冲展」(3月26日~5月6日)

国内の美術館や博物館、寺院や個人が所蔵する若冲作品、それに二度と見られないかもしれないアメリカの東西南北各地の美術館の若冲作品110点が福島に大集合。
【若冲を極める!】100パーセント伊藤若冲の展覧会に行ってきた。


東北のミュージアムも、それぞれ特色があって見逃せません。
宮城県美術館はこちらで紹介しています。
杜の都で再会した二人の芸術家~カンディンスキーとパウル・クレー~


第10位 静嘉堂文庫美術館「入門 墨の美術-古写経・古筆・水墨画-」(8月31日~10月14日)

味わい深い墨の美術の世界をわかりやすく解説した入門編。
修理後初公開の伝・周文《四季山水図屏風》(重要文化財←チラシやポスターに使われています)の透き通るような透明感が印象的でした。
静嘉堂文庫美術館「入門 墨の美術-古写経・古筆・水墨画-」


この展覧会では、静嘉堂文庫美術館のキャラクター「カンザンくん」がデビューしました。


カンザンくんといっても、近代日本画家の下村観山ではありません。
中国・唐時代の伝説上の僧、寒山と拾得のうちの寒山がモデルです。

下村観山の作品紹介はこちら。
日本にラファエロのあの名画が!



番外編~美術館の紹介

12月3日には斎藤文夫さんの浮世絵コレクションを展示する川崎浮世絵ギャラリーがオープンしました。ほぼ毎月展示替えがあるので、これから目が離せません。
伝説の浮世絵コレクションが帰ってきた!


仕事帰りにふらりと寄れる美術館も紹介しています。
仕事帰りにちょっと一杯、その前にぶらっとミュージアム


今年も心に残る展覧会に多く出会うことができました。
来年も楽しみです。
これからも読者のみなさまに耳寄りなアート情報をお知らせしていきたいと思いますので、来年もよろしくお願いいたします。

「私が見た展覧会ベスト10」のバックナンバーはこちらです。

2018年 私が見た展覧会ベスト10
2017年 私が見た展覧会ベスト10
2016年 私が見た展覧会ベスト10
2015年 私が見た展覧会ベスト10
2014年 私が見た展覧会ベスト10
2013年 私が見た展覧会ベスト10












2019年12月4日水曜日

すみだ北斎美術館「北斎 視覚のマジック 小布施・北斎館名品展」

今年(2019年)11月に開館3周年を迎えた「すみだ北斎美術館」で現在開催されているのは、長野県小布施にある「北斎館」の名品が展示される「北斎 視覚のマジック 小布施・北斎館名品展」。
北斎が晩年に訪れた小布施にある北斎館が所蔵する浮世絵の名作約130点が前期後期で展示されるという豪華な展覧会。
展覧会のチラシもド派手なデザインで私たちを驚かせてくれます。

展覧会チラシ

はじめにご紹介すると、このチラシに描かれているのは、小布施の東町祭屋台天井絵の「龍」と「鳳凰」のうちの「鳳凰」と、上町祭屋台天井絵の「男浪(おなみ)」と「女浪(めなみ)」のうちの「男浪」で、どちらの天井絵も現在は北斎館に寄託されています。
そして、この天井絵ですが、「鳳凰」と「男浪」は通期展示。

オープニングセレモニーでは北斎館館長の安村敏信さんのユーモアたっぷりのご挨拶。
「今回の展覧会で『鳳凰』と『男浪』を見ていただいて、小布施で『龍』と『女浪』を見ていただいて完結します。(笑)」

今回の展覧会のタイトル「北斎 視覚のマジック」は、安村さんが編集人となっている『北斎 視覚のマジック 小布施・北斎館名品集』(2019年 北斎館編 平凡社)にちなんだもの。
北斎館の名品がこの1冊に凝縮されています。詳細な作品解説も北斎の年譜もあってお値段は2,500円+税。
ぜひお手に取ってご覧になってください。



さて、この「視覚のマジック」とは「構図や形が不自然でも全体としては不自然さを感じさせないところが北斎の魅力」とのことですが、実際にはどのようなことなのでしょうか。

館内はすみだ北斎美術館学芸員の竹村さんにご案内いただきましたので、さっそく展示作品をご紹介することにしましょう。

【展覧会概要】
会 期  2019年11月19日(火)~2020年1月19日(日)
 前期 2019年11月19日(火)~12月15日(日)
 後期 2019年12月17日(火)~2020年1月19日(日)
 ※前期後期で一部展示替えあり
休館日 毎週月曜日、年末年始(12/29-1/1)
    ※開館:2020年1月13日(月・祝) 休館:2020年1月14日(火)
開館時間 9:30-17:30(入館は17:00まで)
観覧料  一般 1,200円ほか 
会期中観覧日当日に限り、AURORA(常設展示室)もご覧になれます。

公式サイトはこちらです→すみだ北斎美術館
※企画展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。
※4階常設展示室内は一部を除き撮影できます。
※出品作品は、北斎館に寄託されている東町祭屋台天井絵の『鳳凰』と、上町祭屋台天井絵の『男浪』を除き北斎館の所蔵品です。また、特に作者名のないものは葛飾北斎作です。

まずは3階企画展示室から。

小布施・北斎館は肉筆画の貴重な作品を所蔵していることでも知られています。
最初は《肉筆画》のコーナー。

《肉筆画》のコーナー展示風景
上の写真の一番右は、北斎が亡くなる年(嘉永2(1849)年)の正月に描き初めで描いた《富士越龍》(前期展示)で、その隣が《二美人》(前期展示)。

《二美人》(前期展示)
立ち姿の美人はほぼ直角に首を曲げているというありえないポーズ。
「それでも全体的に見るとバランスよく、不自然さを感じさせないところが北斎の視覚のマジック。」と竹村さん。

こちらは《桔梗図》。手に持つ方を下に描く扇面も、北斎の手にかかると横を向いてしまいます。それでも違和感を感じないのは視覚のマジック?

《桔梗図》(前期展示)

『肉筆画帖』は、天保の大飢饉で本が出版できなかった時期に肉筆画を描き、それを売って飢えをしのいだという作品。全部で10図あって、10図揃っているのは北斎館を含めて3例、海外に1例あるだけという貴重なもの。

《『肉筆画帖』福寿草と扇、鷹匠の鷹、はさみと雀、器と梨の花、蛇と小鳥》
(前期展示 後期には、ほととぎす、かれいと撫子、ゆきのしたと蛙、鮎、塩鮭と白鼠が展示されます。)

続いて《版画》のコーナー。
下の写真右から2点目《三夕 しき立さわ まきたつ山 うらの苫屋》(前期展示)は「新古今和歌集」に収載された「秋の夕暮」で結ばれる三首にちなんで描かれたもので、三図揃っているのはこの北斎館所蔵のものだけという、これも貴重な一品。
《版画》のコーナー展示風景
こちらの小さな版画は、「阿蘭陀画鏡 江戸八景」8枚セットのうちの「吉原」(右)と「高輪」(左)。

拡大すると西洋の銅版画風。だから「阿蘭陀」なのです。後期には「両国」「観音」「堺町」が展示されます。
「阿蘭陀画鏡 江戸八景 吉原」(前期展示) 
そしておなじみ「冨嶽三十六景」シリーズ。
前期後期で36点展示されます。

「冨嶽三十六景」
こちらも北斎の売れ筋シリーズ「諸國名橋竒覧」。前期後期で10点展示されます。

「諸國名橋竒覧」

黒が基調の部屋のしつらえになっているスペースに展示されているのは「日新除魔」。

「日新除魔」のコーナー展示風景

「北斎が毎日獅子の絵を描いては丸めて家の外に捨てていたので、ある人が北斎に理由を尋ねたところ、放蕩な孫の悪魔を払うためだ、と答えたとのことです。」と竹村さん。
1枚1枚に描いた日付が記されています。

除魔といっても、描かれているのは唐獅子だったり、獅子舞だったり、愛嬌のある獅子。
後期には違う日付のものが展示されます。
「日新除魔」
ここで思い出したのが、AURORA(常設展示室)の北斎さん。
よく見ると描いているのは獅子。そして娘のお栄の後ろには丸めて捨てられた紙屑が。
そうです。北斎さんはちょうど「日新除魔」をせっせと孫のために描いているところだったのです。

版画の中でも、狂歌師が新年に配ったり、襲名披露や絵暦などに用いたのが摺物。
一般に売られていたのでなく、限られた人たちに配られていたので、とても貴重なものなのですが、北斎館では世界的にみても貴重な作品を多く所蔵しているとのこと。

《摺物》のコーナー展示風景
こちらは寛政9(1797)年作《琵琶を弾く弁天》。
「弁天が座る岩にはこの年の大の月(30日)と小の月(29日)が記されています。そしてこの年は巳年、弁天の使いが蛇なので弁天様が描かれているのです。」と竹村さん。

《琵琶を弾く弁天》(前期展示)
文化6(1809)年作《遠眼鏡》は、遠眼鏡を横から見た図と、遠眼鏡で風景を覗いた図が描かれています。この年が己未(つちのとみ)なので、己未の日が縁日の弁財天にかけて、滝野川の松橋弁天(岩屋弁天)を眺めているところです。

《遠眼鏡》(前期展示)
4階の企画展示室に移ります。

こちらには北斎館の貴重なコレクションの版本がずらりと展示されています。

世界に3例しかないという《春の曙》。
《春の曙》(前期展示)
『水滸伝』のシリーズ本。

『新編水滸画伝』初編(前期後期で頁替あり)


「北斎館は、貴重な初摺りを多く所蔵しています。」と竹村さん。
竹村さんに初摺りならではの注目点をご紹介いただきました。

上の写真2冊目には、黒い光線(?)の裏には茶色の悪魔が描かれていますが、後摺以降では
省略されているとのこと。
『新編水滸画伝』初編2冊目

『近世怪談霜夜星』5冊のうち最初の1冊。
右ページの女性が持つ鏡に映るのは女性でなく妖怪。
後摺以降は妖怪が省略されるのですが、鏡に何も映っていないと「怪談」ではなくなってしまいます。
「やはり初摺りが大切です。」と竹村さん。

『近世怪談霜夜星』1冊目(前期後期で頁替あり)

そして4階企画展示室の一番奥には冒頭紹介した東町祭屋台天井絵の「鳳凰」と、上町祭屋台天井絵の「男浪」が鎮座しています。
実物の存在感はすごいのですが、3階ホワイエにはフォトスポットがあるので、ここで写真を撮ってSNSでシェアしましょう!


会期は2020年1月19日(日)までありますが、前期展示は12月15日(日)までなのでお早めに!
後期展示も楽しみです。

































 



2019年11月26日火曜日

泉屋博古館分館「金文-中国古代の文字-」展

東京・六本木の泉屋博古館分館では、企画展「金文-中国古代の文字-」が開催されています。


「金文(きんぶん)」とは、青銅器に鋳込まれた中国古代の文字。
3000年も前の中国ではこんなに大きくて精密で頑丈な青銅器が作られていたのかと驚くだけでなく、文字を読み解いていけば当時の人たちの姿が思い浮かんできて、さらに青銅器の楽しみが増すこと間違いなし。
世界に冠たる泉屋博古館(京都の本館)の青銅器コレクションの粋をぜひ味わっていただきたいです。
※他にも台東区立書道博物館、黒川古文化研究所の貴重な青銅器も展示されています。

【展覧会概要】
会 期  11月9日(土)~12月20日(金)
開館時間 10時~17時(入館は16時30分まで)
休館日  月曜日
入館料  一般 800円ほか
公式サイトはこちら→泉屋博古館分館
※会場内は撮影禁止です。掲載した写真は内覧会で美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。
※内覧会では泉屋博古館学芸員の山本さんのギャラリートークをおうかがいしました。

それでは、さっそく展示室内をご案内していきましょう。

黒を基調としたシックな雰囲気の第1展示室には今回の主役・青銅器がずらり並んでいます。
はじめのコーナーに並んでいるのは、中国古代王朝・商の時代(前16世紀頃~前11世紀頃)から西周時代(前11世紀末~前770頃)の青銅器。
第1展示室展示風景
三本足の爵(しゃく)は酒を温めるための器で、把手があって、注ぎ口があるのが特徴。
爵では、把手の内側の本体側に記された銘に注目です。
そこには魚そのものの絵のように見える文字があったり、複数の板を紐で束ねたような文字があったり、現在の「魚」や「冊」といった文字の原型が象形文字であったことがよくわかります。
束ねられた板には君主の命令が記載されていました。「冊」の持つ本来の意味は、中国の皇帝が周辺諸国の君主に官号・爵位などを与えてその統治を認める冊封体制(さくほうたいせい)ということばに引き継がれています。

作品の右側にはキャプション、左側には文字の拓本があるので、ぜひ見比べてみてください。

右 「冊爵」(商後期 前12世紀)
左 「魚爵」(西周前期 前11-10世紀)
いずれも泉屋博古館
釣り手がついて、酒を持ち運ぶために使われた器が卣(ゆう)。

第1展示室展示風景(続き)
「見卣」(上の写真右から2点め)には、本体の内底と蓋の裏側に銘があります(上の写真にあるように、後ろの壁には金文の部分を拡大したパネルがありますので、こちらも同時にご参照ください。)。
そこには、現在の「見」という文字の原型となる、大きな目玉を持つ人が下を見ているところを表した文字があって、水を張ったたらい「皿」という字を下に置くと野球の監督の「監」になって、それが自分自身の姿を見るという「鑑(かんが)みる」につながっていくのです。
「古代中国の人たちの考え方はとても絵画的でした。」と山本さん。

小克鼎はセットで作られることが流行しました。
下の写真中央の2点は、7基が確認されていて、日本に3基、中国に4基あるうちの2基。
右の小さい方は、東京の台東区立書道博物館、左の大きい方は兵庫県西宮市にある黒川古文化研究所が所蔵するもので、およそ3,000年ぶりとなる兄弟の感動のご対面です!


第1展示室展示風景(続き)

西周時代になると文字を鋳造する技術が発達して文字数も多くなり、記録としても貴重なものになりました。
この鼎は、「克」という人が、周王から洛陽の駐屯軍に喝を入れに行くよう命ぜられたことを記念して製作制作されたもの。
「戦争が多かった当時の社会情勢をうかがい知ることができます。」と山本さん。

こちらには、棒状の吊手がついた鐘がいくつも展示されています。


第1展示室展示風景(続き)
ここでも生き別れた兄弟が3,000年ぶりに再会する感動のドラマがあります。
詳しくはチラシ裏面をご参照ください。



ところで、金文はどのようにして青銅器に鋳込まれたのでしょうか。
過去にも多くの仮説ありましたが、どれも決定的なものではありませんでした。
そういった中、山本さんは新たな仮説を立て、そして実際に青銅器に鋳込むことに成功したのです。
金文を復元鋳造した過程がロビー展示室に展示されていますので、ぜひこちらにも注目です。
下の写真の一番右のカラーパネルは、山本さんが作業をしている場面です。
※金文復元鋳造は、福岡県にある芦屋釜の里の協力により行われました。下の写真一番右奥は芦屋釜の里で製作された釜、その上は芦屋釜の里の紹介パネルです。

ロビー展示風景

ロビーには鋳造復元したレプリカが展示されています。ぜひ手に取って青銅器の感触を感じとってみてください。


第2展示室は明るい雰囲気の白が基調。
右側に展示されているのは、西周後期から春秋時代(前770~前403)、戦国時代(前403~前221)にかけての紀元前9~3世紀の青銅器。

第2展示室展示風景
3つ並んでいる「ひょう(「广」の中に「驫」)羌鐘」(戦国時代前期(紀元前5-4世紀))は、洛陽市から出土された全部で14基残っている鐘のうち泉屋博古館が12基所蔵しているうちの3基。残りの2基はカナダのロイヤル・オンタリオ・ミュージアムが所蔵しているとのこと。
「いつか再び全部揃えて展示したいです。」と山本さん。

全部揃ったらやはり離れ離れになった兄弟たちの感動のご対面ですね。
こちらは以前、上海博物館の青銅館に展示されている鐘を撮ったものです。
(参考)上海博物館の青銅館に展示されている鐘
第2展示室正面には秦の始皇帝とその息子・胡亥が作らせた権(秤に使う錘)。
中国を統一した始皇帝は度量衡・貨幣・文字の統一を行いました。
「秦の時代になると、青銅器は政(まつりごと)から実用に使われるようになりました。」と山本さん。

第2展示室風景(続き)


左側に展示されているのは漢から唐にかけての鏡。
漢代に普及した鏡は、個人の工房でも多く作られるようになり、鏡を製作した工人の名が記されていたり、内容も、この鏡を持てば願いがかなうといった現世の利益を謳った銘文が記されているので、現代に住む私たちにより身近になってきたような気がします。

第2展示室風景(続き)

じっくり見れば見るほど味わいが増してくるのが青銅器。
この展覧会のあと泉屋博古館分館はリニューアルのため約2年間休館になります。
休館前にぜひご覧になっていただきたい展覧会です。

コンパクトサイズの図録も販売しています。税込1,500円です。
写真も多く、詳しい解説もあるので、青銅器入門に最適です。