2019年5月22日水曜日

東京藝術大学大学美術館「藝大コレクション展2019」第二期展示が開催中です!

東京・上野公園の東京藝術大学大学美術館では、「藝大コレクション展2019」の第二期展示が開催されています。

春の装いの展覧会チラシ

第一期(4/6-5/6)は。およそ90年ぶりに全12幅そろって展示された池大雅《富士十二景図》、明治期にはフランスに留学する画学生が多かった中、イギリスに学んだ画学生たちの作品や模写、浮世絵コレクション、奈良時代の国宝《絵因果経》、重要文化財の狩野芳崖《悲母観音》と高橋由一《鮭》が展示されるなど、話題性やバラエティーに富んだ充実の内容でした。

第一期の様子は以前にブログで紹介しています。→藝大コレクション展2019(第一期展示)

さて、現在開催中の第二期展示は大幅な展示替えがあるとのことでしたので、どのような内容になっているのか気になるところでした。
そこで今回は、美術館のご協力をいただいて開会前に取材に行ってきましたので、そのときの様子をお伝えしながら、展覧会の見どころを紹介したい思います。

※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。
※取材時には、同美術館の黒川廣子教授、熊澤弘准教授に作品の解説をしていただききました。今回のレポートはお伺いしたお話をもとに、私の感想などを織り混ぜながら構成したものです。
※紹介した作品は、別に表示しているものを除き東京藝術大学所蔵です。

展示室に入ってすぐの正面には、第一期と同じく黒田清輝と、黒田清輝のフランス留学時の師、ラファエル・コランの作品が仲良く並んでお出迎え。

右 黒田清輝《婦人像(厨房)》 左 ラファエル・コラン《田園恋愛詩》

見どころ1 近代日本画の風景画表現の流れを見てみよう

順路に沿って右側の展示スペースに入っていくと、そこには私たちになじみのある日本の自然が描かれた作品が目に入ってきます。

「特集:東京美術学校日本画科の風景画」展示風景


大正末期から昭和初期にかけて、古くから描かれていた絵巻物などに見られる大和絵を復興しようという動きがありました。
その中心となったのは、1918(大正7)年から1935(昭和10)年まで東京美術学校(現在の東京藝術大学)日本画科で教鞭をとった松岡映丘(1881-1938)です。
このコーナーでは、松岡映丘とその弟子たちの作品が、ほぼ年代を追って展示されていて、近代日本の風景画表現の流れがわかるようになっています。

松岡映丘《伊香保の沼》(大正14年)
はじめに師・松岡映丘の《伊香保の沼》。
背景の山は大和絵らしく丸みを帯びていていますが、木を一本一本丁寧に描くなど、松岡映丘のこだわりが感じられます。そして、群青や緑青を多用するのも松岡映丘の特徴。
丁寧に描きこまれた背景の前には、足を水の中にひたし、物憂げな表情でたたずむ若い女性。この女性は榛名湖の木部姫伝説をもとに描かれているので、美人だからといって見惚れていると大蛇に変身するのでご用心!

続いて弟子の狩野光雅《那智》と花田實《熊野路》。
いずれも南紀の名所を題材にした作品で、師・松岡映丘の影響から、群青色や緑青を多用した鮮やかな色彩の作品が特徴です。

右が狩野光雅《那智》(大正8年)、左の三幅対が花田實《熊野路》(昭和2年)
ここまでは大正末期から昭和初期までの色鮮やかな作品が並んでいますが、昭和も一ケタの後半になると、淡く柔らかい色の風景画に変化していきます。

「特集:東京美術学校日本画科の風景画」展示風景

上の写真中央の作品は山口蓬春《市場》。
この頃には画家の関心も海外にまで広がっていきました。こちらは旅先で訪れた平壌の市場の風景です。

山口蓬春《市場》(昭和7年)
©公益財団法人 JR東海生涯学習財団

一方で、東京美術学校の画学生たちは身近な上野近辺の風景も描きました。
こちらは三浦文治の《動物園行楽》。

三浦文治《動物園行楽》(昭和6年)


一見すると社寺参詣曼荼羅を思わせる俯瞰的な構図をとっていますが、そこに描かれているのは社寺の風景と参詣者たちでなく、動物舎に入っている象をはじめとした動物や、そこに集う人たち。左上に描かれた靄の中に浮かぶ五重塔がかろうじて社寺参詣曼荼羅らしさを伝えているようです。

しかし、よく考えてみると上野公園一帯は、かつては江戸城の鬼門を守った東叡山寛永寺の伽藍が立ち並んでいた場所。やはりこの作品のベースは社寺参詣曼荼羅だったのでは?

見どころ2 明治初期の国づくりの意気込みを感じてみよう

第二期展示の大きな見どころの一つは、起立(きりゅう)工商会社の工芸図案。
近代日本画の風景画のコーナーの先の一角を占めています。

「特集:起立工商会社工芸図案」展示風景
起立工商会社は、1873(明治6)年に開催されたウィーン万博を契機に、家具や調度品などの漆工、金工、陶磁器、染織、木工など日本の伝統工芸品を輸出するために設立された会社で、工芸品の多くは海外に流出し、会社も1891(明治24)年に解散しましたが、工芸家たちの中には開校間もない東京美術学校の教官になった人もいたというご縁で同校に残されました。

「特集:起立工商会社工芸図案」展示風景
明治維新後、明治政府は近代国家としての体裁を整えるため、産業の育成に力を注ぎました。そして、外貨を稼ぐために動員されたのが、最高級の日本の工芸品を作る腕利きの工芸家たち。そして、その工芸家たちが作る工芸品のデザインを担当したのが、今となっては無名の多くの絵師たちだったのです。

中には作者の判明している図案もあります。

鈴木誠一、稲垣其達、荒木探令・・・

「一」とか、「其」とか、「探」とか、どこかで見たような字が使われた名前。もしかしたらと思い解説パネルを見ると、やはりそうでした。

鈴木誠一は江戸琳派の鈴木其一の次男、稲垣其達は鈴木其一の門下、荒木探令は狩野探幽に始まる鍛冶橋狩野派の流れを汲む狩野探美の門下。

江戸幕府や大名たちの庇護を失い、活躍の場を失っていた江戸末期の絵師たちも動員されていたのです。しかしながら、丁寧に描かれた工芸図案を見ていると、国策で動員されたとはいえ、腕を振るう場が見つかって生き生きと描いている彼らの姿が思い浮かんでくるようです。

近代国家の建設に向けて邁進していた時代の熱気が感じられる工芸図案を、近くで細部までじっくりご覧になってください。

そして、今回の展示に向けた調査の中で新たな発見がありました。

東京美術学校は1909(明治42)年に各種図案が貼り込まれた資料《下図類》を購入しのですが、《下図類》には《起立工商会社工芸図案》と同じ作者の印章や関連する図案が含まれていることが判明したのです。
《起立工商会社工芸図案》では用途不明であった図案の部分図が、《下図類》の図と類似していたため高卓(花台)の部分図と判明した例もあります(解説パネルより)。

「特集:起立工商会社工芸図案」展示風景

難しいパズルを根気よく解いていくような地道な作業から見えてくる新たな事実。
詳しくは『起立工商会社の花鳥図案』(黒川廣子、野呂田純一著 光村推古書院 2019)をご覧ください。ミュージュアムショップで販売しています。


こうした工芸図案をもとに作られた工芸品は、もともと輸出用なので、多くは海外に渡ってしまったのは仕方のないことなのですが、今回の展覧会では1点だけ工芸品が特別出品されています。

起立工商会社 杉浦行宗《烏図壷》(東京村田コレクション蔵)

最近では明治の超絶技巧が注目されていますが、アートファンとしては、こういった工芸品と工芸図案がずらりと並んで展示される展覧会がいつかは開催されないかな、と勝手に想像してしまいます。

まだまだ見どころは続きます!

さて、展示室を少し戻って、東京美術学校日本画科の風景画の向かいは、第一期に引き続き、「特集 イギリスに学んだ画家たち」。

光と影のコントラストが見事な原撫松の《裸婦》は第一期からの展示、そして第二期にはレンブラント《使徒パウロ》の模写が展示されています。前回のブログでも紹介しましたが、海外から入ってくる本物の西洋絵画が少なかった明治期には、模写作品は国内の画学生にとって貴重な教材でした。

右の肖像画は、日本人で初めてロンドンのロイヤル・アカデミーに入学して伝統的な肖像画の画法を身につけた石橋和訓の《男の肖像》。

右から、石橋和訓《男の肖像》、原撫松《裸婦》、
レンブラント・ファン・レイン原作 原撫松摸本制作《使徒パウロ》

次に「特集 イギリスに学んだ画家たち」の反対側の展示スペースに向かいます。
左側が「名品:西洋画」、右側が「名品:日本画」のコーナーです。

「名品:西洋画」展示風景

「名品:日本画」展示風景

「名品:西洋画」のコーナーでは、五姓田義松《操芝居》、第一期から引き続きの高橋由一《鮭》(重要文化財)と並んで展示されている、彼らの次の世代の山本芳翠の作品《西洋婦人像》に注目です。


左 山本芳翠《西洋婦人像》、
右 ジョン・シンガー・サージェント《ジュディット・ゴーティエ像》
この作品のモデルは、文豪テオフィル・ゴーティエの娘で象徴派詩人のジュディット。
ジョン・シンガー・サージェントが記念として山本芳翠に送った《ジュディット・ゴーティエ像》と並んで展示されています。

フランスに渡り、パリでジェロームらからアカデミックな技法を学んだ山本芳翠ですが、滞欧時の作品のほとんどは、作品を積んで日本に向かっていた船が沈没して失われるという不運にみまわれました。
この《西洋婦人像》は滞欧期の数少ない作品の一つで、まばゆく輝くばかりの女性をこんなに美しく描く山本芳翠のほかの作品もぜひ見てみたかったと思いました。

ちなみに山本芳翠の作品を積んていた船は、旧日本海軍がフランスに注文した巡洋艦「畝傍(うねび)」だったのです。
大和三山の畝傍山からとって命名されたこの巡洋艦が日本に回航途中の1886(明治19)年12月、シンガポール出港後に行方不明になり、のちに沈没と認定されたことは知っていたのですが、まさかこの軍艦に美術品が積まれていたとは想像もできませんでした。

「名品:日本画」のコーナーには、明治初期の近代日本画界の二人のスーパースター、橋本雅邦の《白雲紅樹》、狩野芳崖の《不動明王》(いずれも重要文化財)、そして、橋本雅邦が指導した次の世代の横山大観、下村観山、川合玉堂ほかの作品が展示されています。

橋本雅邦の《白雲紅樹》はなにしろ大きな作品です。
ビッグサイズの作品が展示できるように作られた、この美術館の大きな展示ケースだからこそ展示できる作品です。この迫力をぜひ感じとってください。

橋本雅邦《白雲紅樹》(重要文化財)(明治23年)
狩野芳崖は、第一期の《悲母観音》に続き、第二期に展示されているのは亡くなる前年に描いた《不動明王》。

狩野芳崖《不動明王》(重要文化財)(明治20年)

「藝大コレクション展2019」の後期展示はいかがだったでしょうか。
第二期も盛りだくさんな内容でバラエティに富んだ展示です。

緑が映える季節になってきました。ぜひ上野公園の東京藝術大学大学博物館にお越しになってください。

「藝大コレクション展2019」第二期展覧会概要
会 場  東京藝術大学大学美術館 本館地下2階 展示室1
会 期  5月14日(火)~6月16日(日)
開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日  毎週月曜日
観覧料  一般 430円(320円) 大学生 110円(60円)
*高校生以下及び18歳未満は無料
*(  )は20名以上の団体料金
*団体観覧者20名につき1名の引率者は無料
*障がい者手帳をお持ちの方(介護者1名を含む)は無料

展覧会の詳細はこちらをご覧ください→東京藝術大学大学美術館公式サイト

美術館の建物に入って正面のチケット売り場前の床の鮭も健在です。
ここだけは撮影可なので、みなさんの足元と一緒にぜひ記念に一枚!




今回の展覧会紹介記事は、アートブログ「あいむあらいぶ」主宰・かるびさんの取材に同行したレポートです。
かるびさんの詳細な展覧会レポートはこちらです。

【日本画ファン必見】藝大コレクション2019・第2期展示の見どころを一挙紹介!【展覧会レビュー・感想・解説】








2019年5月21日火曜日

東京都江戸東京博物館 特別展「江戸の街道をゆく~将軍と姫君の旅路~」

1年半ぶりに特別展が再オープン!

待ちに待った特別展が始まりました。
東京都江戸東京博物館では、4月27日(土)から特別展「江戸の街道をゆく~将軍と姫君の旅路~」が開催されています。


江戸時代には東海道をはじめとした街道が幕府によって整備されて、多くの人たちが行きかい、街道沿いの宿場町も栄えました。

今回の特集は、将軍たちの上洛、大名行列、そして姫君たちが将軍家に嫁ぐ下向がメインテーマ。街道をめぐる絵巻や浮世絵、旅や婚礼の調度品など、豪華な旅行気分が楽しめる展覧会です。

それではさっそく私たちも江戸時代にタイムスリップして街道をゆく旅に出てみることにしましょう。

※展示資料は、すべて東京都江戸東京博物館所蔵です。

展覧会概要
会 期  4月27日(土)~6月16日(日)
展示期間 前期 4月27日(土)~5月26日(日) 後期 5月28日(火)~6月16日(日)
休館日  5月27日(月)、6月3日(月)、10日(月)
開館時間 午前9時30分~午後5時30分(土曜日は午後7時30分まで)
*入館は閉館の30分前まで
観覧料(税込) 一般 特別展専用券 1,000円 特別展・常設展共通券 1,280円ほか
展覧会の詳細はこちらをご覧ください→江戸東京博物館公式ホームページ



特別展示室入口
プロローグ

やはり旅立ちはお江戸日本橋から。
今回の特別展ではレイアウトも凝っていて、会場入口には日本橋を模した橋が架かっています。そして渡った先には畏れ多くも東照大権現「徳川家康像」がお出迎え。

奥が「徳川家康像」 全期間展示
東照大権現を拝んでから、関所を通って次の展示に向かいます。



第1章 武家の通行~威信をかけた旅路~

武士たちの通行は決して物見遊山ではありませんでした。お家の存亡をかけた過酷な旅路だったのです。

徳川家康は慶長5年(1600)の関ヶ原の戦いに勝って天下の実権を握り、慶長3年(1603)に征夷大将軍になりました。
はじめに関ヶ原の戦いに関する資料が展示されています。

奥の左が「徳川秀忠書状」全期間展示、右が関ヶ原の戦い
に関わる徳川家康・秀忠親子の軍勢の動きを示したパネル、
手前は山鹿素水/画「関ヶ原合戦絵巻」(前巻)後巻は後期展示

「徳川秀忠書状」は、のちに2代将軍になる秀忠が、挙兵した石田三成を迎え討つため西に向かう途中、真田昌幸の上田城を攻撃しているときに書いたもので、上田城攻めは早々に終わり、すぐに西上できるだろうという秀忠の心情がうかがえる貴重な資料。
実際には上田城攻めにてこずり、関ヶ原の戦いに間に合いませんでした。

続いて展示されているのが、参勤交代にまつわる資料。
大名統制策の一つとして武家諸法度で定められた参勤交代は、大名たちに過酷な出費を強いることとなりました。

奥が安達吟光/画 児玉又七/版
「旧諸侯江戸入行列之図」前期展示、
手前が「酒井忠器書状」全期間展示

第1章展示風景
大名行列の時に使われた武具や鞍が
展示されています。

続いて中山道に進みましょう。

第2章 姫君の下向~華麗なる婚礼の旅路~

宮家や五摂家、さらには皇室の姫君たちは、大きな河川が多く、川が氾濫すると川留めになる東海道ではなく、距離は長くても川の氾濫がほとんどない中山道を通って将軍家に嫁ぎました。

今回の展示の見どころの一つは、全長約24mにおよぶ絵巻「楽宮下向絵巻」。
巻き替えはありません。すべてを一度に見ることができます。

第2章展示風景
右のケースの中に青木正忠/画「楽宮下向絵巻」
(全期間展示)が展示されています。

こちらは、姫君たちの豪華な婚礼道具のコーナー。

第2章展示風景
豪華な蒔絵の婚礼道具が展示されています。
島津家ゆかりの女性の駕籠も展示されています。内部の貼付絵も見事なので、ぜひ内部もご覧になってください。
第2章展示風景
中央は「黒漆丸十紋散牡丹唐草蒔絵女乗物」全期間展示
公武一和のため、14代将軍・徳川家茂に嫁ぐ孝明天皇の妹・和宮が京都を出発したのは文久元年(1861)。そのときの様子を描いたのが関行篤/詞書「和宮江戸下向絵巻」です。

第2章展示風景
手前が関行篤/詞書「和宮江戸下向絵巻」前後期で場面替


第3章 幕末の将軍上洛~描かれた徳川家茂の旅路~

さあ、いよいよ最後のコーナー。東海道に入りましょう。



寛永11年(1634)、3代将軍家光が30万人を超える諸大名らの軍勢を率いて上洛、徳川幕府の威光を示したのは遠い昔の話。その229年後の文久3年(1863)に14代将軍家茂が上洛したのは、ペリー来航後に攘夷をめぐって対立した朝廷との融和を図るためでした。
家茂は、その後、元治元年(1864)、慶応元年(1865)にも上洛。
将軍の上洛は話題を呼び、そのときの様子は「東海道名所風景」や「末広五十三次」に描かれました。
「東海道名所風景」や「末広五十三次」は前後期で展示替えがあります。

第3章展示風景
こちらは「東海道名所風景」


第3章展示風景
こちらは「末広五十三次」


エピローグ~東京の道をゆく~

フィナーレは明治維新後の「東京の道」。 
明治天皇が京都から東京に向かう行幸(東幸)や蒸気機関車が走る様子が描かれた錦絵などが展示されています。
エピローグ展示風景

さて、駆け足で紹介してきましたが、特別展「江戸の街道をゆく」はいかがだったでしょうか。
江戸時代の将軍や姫君たちの旅の様子がうかがえる、とても楽しめる展覧会です。
会期は6月16日(日)までですが、前期展示は5月26日(日)までなので、お見逃しなく!

ミュージアムショップでは、展覧会関連グッズや展覧会図録を販売しています。
展覧会図録は、写真もきれいで説明も丁寧でわかりやすくて、これで2,200円(税込)。
レイアウトもおしゃれ。展示室内の解説パネルにありましたが、「朱傘」は将軍や姫君の存在を暗示する象徴です。


1階ロビーには撮影スポットがあります。中に入って江戸時代の姫君になった気分で、来館記念に一枚いかがでしょうか。













2019年5月3日金曜日

すみだ北斎美術館「北斎のなりわい大図鑑」~200年前のお仕事大集合!

いつも趣向を凝らした企画展で楽しませてくれる東京・墨田区にある「すみだ北斎美術館」では「北斎のなりわい大図鑑」が開催されています。

今回のテーマは「なりわい」。
ものを売ったり、作ったり、人やものを運んだり、磨いた芸を見せたり、今でもある生業(なりわい)も、今はもうない生業もあって、江戸時代の人たちの生き生きとした生活が見ることができるとても楽しい展覧会です。

3階企画展示室前のホワイエにある撮影スポット
富士山を背景に職人さんとぜひ記念写真を!

どれだけ楽しい展覧会かは実際にご覧になってからのお楽しみですが、開会に先がけて開催されたプレス内覧会に参加しましたので、ちょっとだけ展覧会の見どころをご紹介したいと思います。

※掲載した写真は、美術館の特別の許可をいただいて撮影したものです。
※展示作品はすべてすみだ北斎美術館所蔵品です。
※展覧会は4月23日(火)から6月9日(日)までですが、前期と後期で展示替えがあります。 
前期:4月23日(火)~5月19日(日) 後期:5月21日(火)~6月9日(日)
※関連イベントやコラボ企画もあります。詳しくはこちらでご確認ください
すみだ北斎美術館公式ホームページ
最新情報は公式フェイスブック、ツィッターでご確認ください。公式ホームページの画面で見ることができます。

企画展示室入口
展示室内をご案内いただいたのは、今回の企画展を担当されたすみだ北斎美術館学芸員の山際さん。
それでは200年ばかり前の江戸時代にタイムスリップしてみましょう。

「今回の展覧会では、北斎と一門の作品が、前後期で約100点展示されます。」と山際さん。

展示は6章構成になっています。

第1章 ものを売る生業
第2章 自然の恵みをいただく生業
第3章 人を楽しませる生業
第4章 ものを運ぶ生業
第5章 ものを作る生業
第6章 生業いろいろ


第1章 ものを売る生業


第1章展示風景


最初に出てくるのは葛飾北斎《東海道五十三次 桑名》。
焼き蛤(はまぐり)が名物だった桑名宿で、団扇を片手に蛤を焼いて売る女性と、おいしそうに食べている男性が描かれています。

葛飾北斎《東海道五十三次 桑名》前期展示
パネルの解説にも注目です。
作者や絵のタイトルや解説はじめ、描かれている生業も絵のタイトルの右下に書かれています。この絵の生業は「焼き蛤売り」。
「その手は桑名(=食わぬ)の焼き蛤」というダジャレもあったそうです。



「こちらが北斎にゆかりのある唐がらし売りです。」と山際さん。
「北斎は30代後半、「宗理」という雅号のころ、生活が苦しかったので七味唐がらしを売っていたと伝わっています。」

牧墨僊『写真学筆 墨僊叢画』 全期間展示
左のページの左上に描かれているのが、大きな唐がらしの形のものを肩に下げて、そこに粉唐がらしの小袋を入れて売り歩く唐がらし売りです。
牧墨僊『写真学筆 墨僊叢画』(部分) 全期間展示
壁の所々に詳しい解説パネルがあるので、こちらも注目です。


新発見「蛤売り図」!

すみだ北斎美術館のコレクションに加わった葛飾北斎《蛤売り図》が、今回初めてお披露目されます。

葛飾北斎《蛤売り図》 前期展示

蛤売りの上には、「蜆子(しじみ)かと思ひの外の蛤は げにく(ぐ)りはまな思ひつき影 蜀山人筆(花押)」と書かれた江戸時代後期の狂歌師・蜀山人の賛があります。

描かれた人物を「蜆子(けんず)和尚」(居所を定めず、夏も冬も一衲(いちのう)をまとい、蜆や蝦を食べていたという唐末の禅僧)に見立て、籠の中の貝は蜆かと思ったら、よく見たら大きい貝なので蛤だった。これはとんだ見当違い(「ぐりはま」)だと思いついた、といった意味。
「はまぐり」を倒置した「ぐりはま」は「貝合わせ」から来た言葉で、食い違うことや
あてが外れること。「思いつき影」は、思い「付き」と「月」影の掛詞(かけことば)。
さすが狂歌師として一世を風靡した蜀山人らしいエスプリのきいた賛です。

籠の中の蛤の白色は、貝殻を焼いて砕いて粉末にした胡粉で描かれています。
ぜひ近くでご覧になってください。

葛飾北斎《蛤売り》(部分) 前期展示


そしてもう一つ。「蜆子和尚」といえば京都大徳寺・真珠庵の《蜆子豬頭図襖》のように蝦を手に持ってうれしそうな顔をしているところを思い浮べるので、この絵に描かれた蛤売りのおじさんとはイメージが違いますが、威勢よくものを売るというより、少しうつむき加減で、どことなく世の中を達観したような表情をしているので、蜀山人が和尚さんに見立てたのも一理あるのかなと、勝手に想像してしまいました。

葛飾北斎《蛤売り図》(部分) 前期展示


第2章 自然の恵みをいただく生業

第2章展示風景

「北斎の魅力は大胆な構図です。」と山際さん。
働いている場面だけでなく、焚火の前で暖をとる猟師を描いたりするところも北斎の魅力。そしてこの燃え上がるような炎の赤が印象的です。

葛飾北斎《百人一首うはかゑとき 源宗干朝臣》前期展示
第3章 人を楽しませる生業

第3章展示風景
子どもたちが熱心に穴の中をのぞきこんでいます。
さてその向こうには何が見えるのでしょうか。

葛飾北斎《覗機関(のぞきからくり)》 前期展示 
覗機関(のぞきからくり)は、凸レンズを通して奥行きを強調した絵を見たり、紙芝居のように絵を替えて物語を見せるものでした。

安定しない台の上に高下駄で乗って刀を振り回している人がいます。
この人の職業は「居合抜」なのですが、これは歯磨粉などを売るためのパフォーマンス。
よく見ると後ろの看板には「はみがき」と書かれています。
そしてこの「居合抜」の御仁、歯の治療もするそうなのですが、居合抜きよろしく歯を抜かれてはたまったものではありません。
「この先生にはあまり治療してもらいたくないですね(笑)。」と山際さん。


八隅景山著 葛飾北秀画『養生一言草』 全期間展示
第4章 ものを運ぶ生業

第4章展示風景
情報を運ぶのが飛脚、人を運ぶのが駕籠かき、そして川を越える人やものを運ぶのが川越人足。
こちらは、東海道の要所として橋をつくることや渡船が禁止されたため、川越人足が人やものを運んでいた大井川。
「箱根八里は馬でも越が越に越れぬ大井川」と言われたように、大雨で川が増水したときには水が引くまで何日も待たされたのですが、こんなに増水して流れが急な時でも人を渡したのを見ると、川越人足も、上に乗って運ばれている人も命がけですね。

葛飾北斎《富嶽三十六景 東海道金谷ノ不二》 前期展示
第5章 ものを作る生業

第5章展示風景

3階ホワイエの撮影スポットのパネルにもなっているのが葛飾北斎《富嶽三十六景 尾州不二見原》。

葛飾北斎《富嶽三十六景 尾州不二見原》 前期展示

「大きな丸い桶の中に三角形の富士という構図の面白さもありますが、丸い桶を動かないように木槌をストッパーにして固定しているところに注目です。北斎はこういった細かいところまで観察していたのです。」

葛飾北斎《富嶽三十六景 尾州不二見原》(部分) 前期展示

第6章 生業いろいろ

この章には、医師、手習師匠、質屋、さらには留女といった、今まで章のジャンルに入らなかった職業の人たちが登場します。

その中でも、現在、地球温暖化対策で見直されているリサイクルを生業とする人たちを紹介しましょう。

「下の写真左上は、焼き接ぎ師。割れた茶碗を修理しています。」

岳亭春信『略画職人尽』 前期後期で頁替え
「下の写真の左ページ手前の人物は紙屑買い。集めた紙は紙屑問屋がすき返して、浅草紙の名で売られました。右ページの人物は唐傘の古骨買い。集めた古傘は傘屋で新しい紙を張り、張替傘として売りました。」と山際さん。

寿福軒真鏡著 二代柳川重信画『主従心得草』後編 上 全期間展示
最後に、ご案内いただいた山際さん「北斎や門人たちの描いた江戸時代の仕事をする人たちの生き生きとした姿をぜひお楽しみください。」(拍手)

さて、「北斎のなりわい大図鑑」はいかがだったでしょうか。

江戸時代には、いろいろな職業がありました。
今ではもう存在しない職業だったり、今でも綿々と続く職業だったり、いろいろな職業があって、およそ200年前の江戸時代に仕事をしている人たちの姿がよくわかるとても楽しい展覧会です。

会期は6月9日(日)までありますが、前期後期で一部展示替えがあって、前期は5月19日(日)までなので、お早めに!

企画展「北斎のなりわい大図鑑」展覧会概要
会 期  4月23日(火)~6月9日(日)
開館時間 9:30~17:30(入館は17:00まで)
休館日 5/7(火)、5/13(月)、5/20(月)、5月27日(月)、6月3日(月)
観覧料 一般 1000円(800円)ほか カッコ内は団体料金
(本展チケットで会期中観覧日当日に限り、次に紹介する4階の「AURORA(常設展示)」と「常設展プラス」もご覧になれます。)
詳細は展覧会公式HPでご確認ください。→すみだ北斎美術館公式ホームページ



「北斎のなりわい大図鑑」展リーフレットも販売しています。これで税込300円。絵も多くて、解説もわかりやすいのでお買い得です!

リーフレット表紙

4階では「常設展プラス」と「常設展」が開催されています。
前回企画展のブログでも紹介しましたが、ここに再掲します。

他にも楽しさいっぱい~『北斎漫画』を立ち読みしよう!
4階の常設展示室(AURORA)では、北斎の画業の流れがわかる複製画の展示があって、北斎さんに会うこともできます。こちらは一部を除き写真撮影ができます。

北斎と娘のお栄


同じく4階の企画展示室では新しい企画として「常設展プラス」が開催されていて、すみだ北斎美術館所蔵の『北斎漫画』や全長7mの「隅田川両岸景色図巻(複製画)」が展示されています。こちらは写真撮影不可です。
会場入口

葛飾北斎『隅田川両岸景色図巻(複製画)』
『北斎漫画』(これは複製です)の立ち読みだってできる!
『北斎漫画(複製)』の立ち読みコーナー
常設展プラスの開催概要
会 期  2月5日(火)~6月9日(日)
開館時間 9:30~17:30(入館は17:00まで)
休館日 毎週月曜日(祝日の場合は翌平日)
観覧料(常設展プラスと常設展示室(AURORA)のみ) 一般700円(560円)ほか カッコ内は団体料金
(企画展開催中は企画展のチケットで会期中観覧日当日に限り常設展プラスとAURORA(常設展示)もご覧になれます。)

次回の企画展は、「門外不出」のアメリカ・フリーア美術館の北斎作品を「綴プロジェクト」の高精密複製画で綴る「フリーア美術館の北斎展」。
こちらも楽しみです。