2022年5月22日日曜日

Bunkamuraザ・ミュージアム「ボテロ展 ふくよかな魔法」

 人物も、動物も、果物も、花も、楽器も、みんなボテッとしていて、一度見たら忘れられない作品が会場いっぱいに展示されている展覧会がBunkamuraザ・ミュージアムで開催されています。

その名も ボテロ展 ふくよかな魔法

展示会場外のフォトスポット


ボテッとしてるから「ボテロ」というわけではなく、南米コロンビアの国民的画家で、90歳を迎えて今もなお精力的に制作活動を続けているフェルナンド・ボテロの展覧会なのです。


展覧会概要

会 場  Bunkamuraザ・ミュージアム(東京・渋谷)
会 期  2022年4月29日(金・祝)~7月3日(日)
     ※5月17日(火)のみ休館
開館時間 10:00-18:00 ※毎週金・土曜日は21:00まで
     ※入館は各閉館時間の30分前まで
     ※金・土の夜間開館につきましては、状況により変更になる場合があります。
料 金  当日:一般 1,800円 大学・高校生 1,100円 中学・小学生 800円
※会期中すべての土日祝は「オンラインによる入館日時予約」が必要です。
※展覧会の詳細、日時予約等については同館公式サイトをご覧ください⇒Bunkamuraザ・ミュージアム

展覧会チラシ



展示構成
 第1章  初期作品
 第2章  静物
 第3章  信仰の世界
 第4-1章 ラテンアメリカの世界
 第4-2章 ドローイングと水彩
 第5章   サーカス
 第6章   変容する名画  

※展示室内は一部作品を除き撮影禁止です。掲載した写真は本展主催者の許可を得て撮影したものです。

※撮影には注意事項があります。会場内の掲示をご確認ください。
※混雑時などは撮影を制限させていただく場合があります。
※状況により中止させていただく場合があります。予めご了承ください。


見どころいっぱいの展覧会なのですが、今回は展示の様子を3つの見どころに絞ってご紹介したいと思います。


見どころ1 画面の中の小さなものに注目!

さて、ボテロはどうして「ふくよかな」絵を描くようになったのでしょうか。
ボテロは今までの芸術家活動の中で何回も同じ質問を受けましたが、ボテロの答はこうでした。

「私はふくよかな作品を描いているわけではない。芸術はデフォルメなのだ!」

「第2章 静物」展示風景

ボテロが、ボテロの代名詞ともいうべき「ふくよかな」絵を描くようになったきっかけはマンドリンでした。
あるときマンドリンのボディにある穴(サウンドホール)を小さく描いてみたら、マンドリン全体が爆発したように見えたのです。

フェルナンド・ボテロ《楽器》

あらためてマンドリンを見てみると、これでは弦の音がボディの中で響かないではないか、というくらいサウンドホールは小さく、マンドリンのネックやヘッドもずんぐりむっくり。ボディもかなり分厚いです。

ボテロの作品を見ていると、ふくよかな方に目が行きがちですが、このマンドリンように、実は小さなものが大きなものをさらに大きく見せていてることがわかります。
まさに描く対象をデフォルメしたものなのです。

たとえばこの作品では、小さな赤い靴のつま先の一点が、ふくよかなバレリーナをさらに大きく見せているのがわかります。



フェルナンド・ボテロ《バーレッスン中のバレリーナ》


そしてもう一点。
いくら遠近感を出しているとはいえ、右下のタキシード姿の男性のなんと小さいこと。
それとは対照的に、台の上の象はあまりに巨大に描かれています。


フェルナンド・ボテロ《象》




見どころ2 無表情な人物の顔に注目!

次に、ボテロ作品に描かれた人物の表情に注目してみましょう。

「第4-1章 ラテンアメリカの世界」展示風景


たとえ楽しそうな場面であっても、悲しい場面であっても、なぜか人物は無表情。

陽気な音楽が聴こえてきそうな場面ですが、楽士たちは黙々と演奏をしています。

フェルナンド・ボテロ《楽士たち》

《コロンビアの聖母》では、聖母の額に流れているのは汗ではなく涙。
それでも悲しげな表情をしているわけではなく、どこか遠くを眺めているようにも見えます。

フェルナンド・ボテロ《コロンビアの聖母》


ボテロは言います。

「私は人物を静物の様に描く。」

確かに果物や花には表情はありません。

ボテロにとっては人物も静物と同じく、見る人がどう感じるかその人の判断に委ねるように描いたのです。

描かれている人物が無表情だと、どうしても冷たい印象を受けがちですが、そこはふくよかなフォルムが和らげているためでしょうか、なぜか温かみが感じられるのです。
これがサブタイトルにあるように、まさに「ふくよかな魔法」なのでしょうか。


見どころ3 ボテロの好きな色は?


マンドリンが「爆発」してからのボテロの作品を見た印象は、南米らしい情熱的な色遣い。

こちらの黄、青、赤の3枚組の花の作品は、それぞれが大きな画面の作品ですが、1枚の絵にはなんと500種類以上もの花が描かれています。

フェルナンド・ボテロ 左から《黄色の花(3点組)》
《青の花(3点組)》《赤の花(3点組)》

そしてこの3色はコロンビアの国旗の色。
20歳で祖国コロンビアを離れたボテロですが、生まれ育った故郷は今でも心の中に残っているのですね。

何気ない日常の様子を描いても、サーカスの場面を描いてもいつもカラフル。


フェルナンド・ボテロ
右から《寡婦》《パーティーの終わり》



「第5章 サーカス」展示風景


こんなカラフルな絵を描くボテロですが、ボテロの一番好きな色は、実は「〇」なのです。
答はぜひ音声ガイドでお聴きください。

【音声ガイド】
音声ガイドのナレーターは声優の伊東健人さん。そして、本展オフィシャルサポーターを務めるBE:FIRSTが音声ガイドのスペシャルゲストとして登場します。
 料金
  会場レンタル版 貸出料金 一人1台 650円(税込)
  アプリ配信版「聴く美術」(iOS/Android)  販売価格 730円(税込)
   配信期間 2022年4月29日(金・祝)~12月11日(日)予定


「第4-1章 ラテンアメリカの世界」展示風景



第6章「変容する名画」では、西洋絵画の巨匠たちの名画をモチーフにした作品が展示されています。

「第6章 変容する名画」展示風景


「第6章 変容する名画」展示風景



第6章については、5月5日に書いたボテロ展の記事で紹介していますので、ぜひこちらもあわせてご覧ください。


ボテロ本人が出演して、人柄や芸術に対する信念を知ることができるドキュメンタリー映画「フェルナンド・ボテロ 豊満な人生」も紹介しています。
Bunkamuraル・シネマほかで絶賛上映中。
映画も展覧会も見れば楽しさ倍増間違いなしです!

映画「フェルナンド・ボテロ 豊満な人生」チラシ




展示会場を出ると、そこに待ち受けているのはミュージアムショップ。
ついつい財布のひもが緩んでしまう場所です。

ボテロ展なので展覧会グッズもカラフル。まさに色とりどり。

展覧会カタログ(税込2,700円)も「ふくよか」!
ボテロ作品がデザインされたマスキングテープは3種類あって、各税込715円。
どれにしようか迷ってしまいます。

ミュージアムショップ


会期は7月3日(日)まで。おススメの展覧会です。

【巡回展情報】
 名古屋展 2022年7月16日(土)~9月25日(日)名古屋市美術館
 京都展  2022年10月8日(土)~12月11日(日)京都市京セラ美術館

 


2022年5月18日水曜日

山種美術館【特別展】生誕110周年 奥田元宋と日展の巨匠-福田平八郎から東山魁夷へ-

東京・広尾の山種美術館では、「【特別展】生誕110周年 奥田元宋と日展の巨匠 -福田平八郎から東山魁夷へ-」が開催されています。

展覧会チラシ





今回のお目当てはなんといっても、「元宋の赤」が映える《奥入瀬(秋)》(山種美術館)。
そして今の季節にふさわしい新緑が映える作品をはじめ、さまざまな色合いの作品が展示されているので、今回は特に「色」に注目して展覧会の様子をご紹介したいと思います。


展覧会概要


会 期  2022年4月23日(土)~7月3日(日)
開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
 ※今後の状況により会期・開館時間等は変更する場合がございます。
休館日  月曜日
入館料  一般 1,300円、大学生・高校生 1,000円、中学生以下無料(付添人の同伴が必要)
※他にも割引・特典があります。チケットはご来館当日、美術館受付で通常通りご購入いただけます。また、入館日時のオンライン予約も可能です。
※オンライン展覧会などの各種イベントも開催されますので、詳細は同館公式Webサイトをご覧ください⇒https://www.yamatane-museum.jp/

展示構成
 第1章 奥田元宋
 第2章 文展から日展へ
 第3章 東山魁夷・杉山寧・髙山辰雄 元宋と同時代に日展で活躍した三巨匠

※展示室内は次の1点を除き撮影不可です。掲載した写真はプレス内覧会で美術館より特別に許可をいただいて撮影したものです。

今回の展覧会で撮影可の作品は、奥田元宋《山澗雨趣》(山種美術館)です。

奥田元宋《山澗雨趣》1975(昭和50)年
絹本・彩色 山種美術館


第1章 奥田元宋


第1章では、奥田元宋の奥入瀬の春(個人蔵)と秋(山種美術館)を描いた大作2点を含む8点と、元宋の師、児玉希望の作品3点が展示されています。

第1章展示風景


初めにご紹介するのは、今回の展覧会のメインビジュアルにもなっている「赤」の作品。

奥田元宋《奥入瀬(秋)》1983(昭和58)年
紙本・彩色 山種美術館

70歳を過ぎた元宋が、大作に取り組めるのも80歳までが限度と思い、1年に1点大作を描こうと決めて描いた最初の作品が《奥入瀬(秋)》(山種美術館)。

「実物大」ではありませんが、そう思えるほどの迫力の大画面なので、まるでその場に行って紅葉に染まった景色を眺めているような気分になってきます。
渓流の水の音まで聞こえてきそうです。

続いて同じく元宋の「緑」の作品。

奥田元宋《奥入瀬(春)》1987(昭和62)年
紙本・彩色 個人蔵

《奥入瀬(秋)》(山種美術館)の4年後に描かれた作品で、目の前に立つと、鳥の鳴き声を聞きながら森林浴をしているようなすがすがしい気分になってきます。

奥入瀬を描いたこの2つの大作が同時に公開されるのは10年ぶりとのこと。
ぜひお揃いのところをご覧いただきたいです。


児玉希望の作品で印象に残った色は「白」
白い雪の壁がこちらに迫ってくるような迫力が感じられる《モンブラン》(山種美術館)です。
手前の黒い木々が雪の白を引き立てています。


児玉希望《モンブラン》1957(昭和32)年
絹本・墨画 山種美術館




第2章 文展から日展へ


1907(明治40)年に明治政府によって創設された文展(文部省美術展覧会)から、帝展、新文展と続く官設の展覧会から、戦後の日展、新日展、改組新日展と現代に至るまでの歴代の出品作が展示されている第2章では、横山大観、小林古径、松岡映丘、川合玉堂はじめ近代日本画を代表する錚々たる顔ぶれの作品が展示されています。

こちらは第6回新文展出品作の川合玉堂《山雨一過》(山種美術館)。

川合玉堂《山雨一過》1943(昭和18)年
絹本・彩色 山種美術館

第2章でご紹介する「色」は、第2回新日展に出品された橋本明治《月庭》(山種美術館)の「青」
月は描かれてませんが、女性たちの顔や着物の青で月あかりを表現しているところが、かえってロマンチックな雰囲気を醸し出しています。

橋本明治《月庭》1959(昭和34)年
紙本・彩色 山種美術館


続いては、第3回日展に出品された福田平八郎《筍》(山種美術館)の「黒」
同じく本展で展示されている福田平八郎が描いた写実的な《牡丹》(山種美術館)も妖艶さが感じられて好きなのですが、大胆な構図で単純かつ明快な作風で描くようになった時代の《筍》(山種美術館)も、地面から突き出てきた二本の柱のような竹の子の力強さが感じられて好きな作品です。



第3章 東山魁夷・杉山寧・髙山辰雄 元宋と同時代に日展で活躍した三巨匠


奥田元宋と同時代に日展で活躍した東山魁夷、杉山寧、髙山辰雄の作品は、第2展示室に展示されています。

第3章でご紹介する「色」は、東山魁夷の「緑」
京都の四季を描いた「京洛四季」の連作のひとつで、新緑に彩られた修学院離宮を描いた《緑潤う》(山種美術館)。今の時期にぴったりの作品です。


東山魁夷《緑潤う》1976(昭和51)年
紙本・彩色 山種美術館


オリジナルグッズも和菓子も色とりどりです。


これだけ彩りあざやかな作品が揃っている展覧会ですので、オリジナルグッズも色とりどり。


オリジナルグッズ

奥田元宋のはがき《奥入瀬(春)》は新製品。《奥入瀬(秋)》ももちろんあります。
上の写真ではがきを支えているのは、桜の花や猫などのデザインのマグネットカードスタンド。
(はがき 税込各110円、マグネットカードスタンド 税込各880円)

川合玉堂のグリーティングカード(封筒付き)は6種類あってそれぞれ税込各385円ですが、お得な6枚セットはなんと税込1,100円!

夏の暑い時期におススメなのは、雁皮紙という「美濃手漉き和紙」で作られた「水うちわ 小丸」(税込4,400円)。



オリジナルグッズも盛りだくさんの内容なので、観覧後はぜひミュージアムショップにお立ち寄りください。

山種美術館のもう一つの楽しみは、展覧会出品作品にちなんだ和菓子。
抹茶とのセットで税込1,200円です。

どれも美味しそうなので、いつもどれにしようか迷ってしまいます。


上の写真、右上から時計回りに、「葉のしずく(川合玉堂《山雨一過》●)」、「青もみじ(奥田元宋《奥入瀬(春)》〇)」、「秋のいろ(奥田元宋《奥入瀬(秋)》●)、「雪けしき(奥田元宋《松島暮色》●)、「月あかり(橋本明治《月庭》●)」。
(カッコ内はモチーフにした作品で、〇は個人蔵・山種美術館寄託品、●は山種美術館蔵)


赤、緑、白、青、黒-色とりどりの作品でいっぱいの展覧会をぜひお楽しみください。

2022年5月16日月曜日

三井記念美術館 リニューアルオープンⅠ「絵のある陶磁器ー仁清・乾山・永樂と東洋陶磁」

東京・日本橋の三井記念美術館が待望のリニューアルオープン!

リニューアルオープン第1弾は、「絵のある陶磁器-仁清・乾山・永樂と東洋陶磁」。
今回のメインビジュアルのとおり、ともて華やかでカラフルな陶磁器が楽しめる展覧会です。


展覧会チラシ

展覧会開催概要


会 期  2022年4月29日(金・祝)~6月26日(日)
開館時間 11:00~16:00(入館は15:30まで)
休館日  月曜日
入館料  一般 1,000円、大学・高校生 500円 中学生以下無料
展覧会の詳細、新型コロナウイルス感染防止対策等は同館公式サイトでご確認ください⇒三井記念美術館

※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は内覧会で美術館の特別の許可をいただいて撮影したものです。


あの素晴らしい空間が帰ってきた!


三井記念美術館に来る大きな楽しみの一つは、細長い空間に個別展示ケースが置かれた展示室1のこの光景を見ること。
重厚な洋風建築の内装と相まってゴージャスな雰囲気を醸し出しています。

展示室1展示風景



続いて、毎回メインの一品が展示される展示室2。
今回は尾形乾山の「銹絵染付笹図蓋物」が展示されています。

展示室2展示風景


国宝の茶室「如庵」を再現した展示室3もいつもながら風情のあるしつらえです。

展示室3展示風景

広々とした展示室4には大画面の屏風がお似合いです。

展示室4展示風景

大きめの独立ケースがアクセントの展示室5。

展示室5展示風景

展示室6は小さな部屋ですが、作品がガラス越しのすぐ手前に展示されているので、小さい作品を細部までよく見ることができます。
今回は小さくてかわいらしい香合が展示されています。

展示室6展示風景

そしてフィニッシュは大ぶりな掛け軸を展示しても広々と感じられる展示室7。

展示室7展示風景

今回のリニューアルでは蛍光灯からLED照明に全面改修されているので、作品の見え方が格段に良くなっているのが実感できます。

陶磁器に描かれた絵の世界にうっとり


最初に展示室それぞれの特徴あるしつらえをご紹介しましたが、続いて今回のテーマ「陶磁器に描かれた絵」をご覧いただきたいと思います。

「陶磁器に描かれた絵」を見る時のコツというわけではありませんが、平面の掛け軸や屏風でなく立体の器に描かれているので、

まずは少しかがんで横から見て、


展示風景



背伸びして器の中をのぞき込んで、

展示風景


独立ケースに入っている器はぐるっと回って、といった具合にいろいろな角度から見てお楽しみください。


展示風景



さて、今回の展示作品の中で、仁清、乾山、永樂保全・和全、東洋陶磁の中からお気に入りの逸品をご紹介したいと思います。

最初にご紹介するのは、白地を背景に品のある色合いの桐と巴が描かれた野々村仁清の「色絵桐巴文水指」。
仁清は京焼色絵陶器の完成者とも言われる江戸初期の京焼の名工で、この落ち着いた雰囲気の絵を眺めていると、スーッと心が和んでくるように感じられます。

色絵桐巴文水指 1口 仁清作 江戸時代・17世紀 三井記念美術館蔵


続いては仁清に陶法を学んだ尾形乾山(1663-1743)の「銹絵染付笹図蓋物」。
先ほどご紹介した、毎回メインの一品が展示される展示室2に展示されていますが、そこでは蓋を開けた状態で展示されているので、ぜひ器の中までご覧ください。


さてこれは何が描かれているのだろう、と思いましたが、蓋と身の内外に描かれているのは、雪の中の笹の葉。
雪が積もる中でも生い茂る笹の葉の力強い生命力が感じられる作品です。

銹絵染付笹図蓋物 1合 乾山作 江戸時代・18世紀 三井記念美術館蔵



幕末期に活躍した永樂保全(1795-1854)の「交趾釉兎花唐草文饅頭蒸器」は、色合いも、文様も、花の描き方も中国風。
唐草文様の中をぴょんぴょん飛び跳ねるウサギが可愛い作品です。
この器で蒸した饅頭を一度は食べてみたいと思いました。


交趾釉兎花唐草文饅頭蒸器 1合 保全作 江戸時代・19世紀 三井記念美術館蔵


まるで布にほどこされた刺繍のような感触が感じられる永樂和全(1823-96)の「布目色絵団扇形食籠」。
保全の長男で、幕末から明治にかけて活躍した和全のこの作品は、多くの色を使いながらも、全体的に落ち着いた色調になっているところに品のよさが感じられます。


 布目色絵団扇形食籠 1合 和全作 江戸時代・19世紀 三井記念美術館蔵

今回の展覧会では永樂保全・和全の作品が多く展示されていて、青が基調の山水画、金襴の輝いた絵柄など、バラエティーに富んだ器を楽しむことができます。

展示風景




最後にご紹介するのは、展示室6に展示されている「交趾金花鳥香合」。明時代の作品です。
金色に輝く花と、優雅に羽ばたく鳳凰の姿をぜひ近くでじっくりご覧ください。


交趾金花鳥香合 1合  明時代・17世紀  三井記念美術館蔵


今回のリニューアル工事では、ミュージアムショップのスペースが約2倍の広さに拡張されて休憩、読書スペースも兼ねたアートサロンがオープンしました。

ミュージアムショップには、円山応挙の国宝「雪松図屏風」はじめ三井記念美術館のコレクションにちなんだグッズが揃っているので、ぜひお立ち寄りください。

ミュージアムショップ(奥がアートサロン)


7月9日(土)からはリニューアルオープン第2弾「茶の湯の陶磁器 ”景色”を愛でる」が開催されます。
三井記念美術館の豊富な陶磁器コレクションが一挙に見られる絶好の機会ですので、どちらもお見逃しなく!

次回展チラシ


2022年5月9日月曜日

東京都美術館「スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち」

 東京・上野公園の東京都美術館では、特別展「スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち」が開催されています。

展示室入口前の撮影スポット

絵画、水彩画、彫刻などおよそ12万点の所蔵を誇るスコットランド国立美術館から、ルネサンス期~19世紀後半の西洋絵画の名作約90点が来日しています。
さらに同館を特徴づけるゲインズバラ、レノルズ、ターナー、ミレイといったイングランド出身の画家に加え、日本ではなかなか見ることのできないレイバーン、ラムジー、グラントなどスコットランド出身の代表的な画家たちの名品も多数出品されており、ヨーロッパ大陸と英国の文化交流から、英国美術がはぐくまれた様子も紹介しています。

展覧会概要

会 期   2022年4月22日(金)~7月3日(日)
東京会場  東京都美術館 企画展示室
休室日   月曜日(6月27日(月)は臨時開室!)
開室時間  9:30~17:30 金曜日は9:30~20:00
      (入室は閉室の30分前まで)
     ※夜間開室については展覧会公式サイトでご確認ください。 
観覧料(税込) 一般 1,900円 大学生・専門学校生 1,300円 65歳以上 1,400円
       ※高校生以下無料(日時指定券必要)
※本展は日時指定予約制です。
※チケット購入・日時指定、展覧会の詳細等は展覧会公式サイトをご覧ください⇒スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち

音声ガイド
 会場レンタル版 貸出料金:お一人様1台 600円(税込)
 アプリ配信版(iOS/Android)「聴く美術」:販売価格 730円(税込)
  配信期間:2022年4月22日~11月末予定
音声ガイドナビゲーターは女優の天海祐希さん。
名画の見どころや、巨匠たちの知られざるエピソードなどを案内していただけるので、とても聴きやすいです。

展示構成
 プロローグ-スコットランド国立美術館 
 1 ルネサンス
 2 バロック
 3 グランド・ツアーの時代
 4 19世紀の開拓者たち
 エピローグ

※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は報道内覧会で美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。

【巡回展情報】
 神戸会場  会 期 2022年7月16日(土)~9月25日(日) 終了しました。
       会 場 神戸市立博物館
 北九州会場 会 期 2022年10月4日(火)~11月20日(日)
       会 場 北九州市立美術館 本館 


展示室に入ってまず感じたのは、まるでヨーロッパのミュージアムにいるような心地よい雰囲気。


「2 バロック」展示風景



「3 グランド・ツアーの時代」展示風景


こんな素晴らしい空間の中で名作の数々を見るだけでも満足なのですが、スコットランド国立美術館のコレクションが地元出身の篤志家たちの祖国愛に支えられて充実してきたということを知って、さらに作品やスコットランド国立美術館への愛着が湧いてきました。
 

祖国愛に支えられたスコットランド国立美術館コレクション


スコットランド出身の篤志家たちのエピソードは展示室最後の映像コーナーで放映されています(放映時間 約5分)。
それがとても興味深い内容でしたので、今回はそのエピソードに沿って展示室内の様子をお伝えしたいと思います。

「プロローグ」
アーサー・エルウェル・モファット
《スコットランド国立美術館の内部》1885年



「プロローグ」に展示されている上の作品では、絵画が壁一面に架けられ、フロアには人が通るのがやっとというほどいくつもの彫刻が展示され、コレクションの多さを物語っているように見えますが、中には借り物の作品もあったようです。

1859年に開館したスコットランド国立美術館ですが、当初は順風満帆な船出ではありませんでした。
スコットランド国立美術館は、ヨーロッパの多くの美術館と違い、王侯貴族のコレクションがベースになっていたわけではなく、当初は作品購入のための予算はなんとゼロだったのです。

そのような苦しい状況を救ったのが、地元出身の篤志家たちでした。


その一人が、スコットランド出身の実業家、カウアン・スミス

彼は、1919年、作品購入のための資金としてスコットランド国立美術館に当時の金額で5.5万ポンド、現在の価値に換算するとおよそ200万ポンド(日本円でおよそ3.2億円)を寄付したのです。
同館はその資金を運用して、レノルズやターナーの作品を購入できるようになりました。


こちらは、展覧会のメインビジュアルになっているジョシュア・レノルズの《ウォルドグレイヴ家の貴婦人たち》。

「3 グランド・ツアーの時代」
ジョシュア・レノルズ《ウォルドグレイヴ家の貴婦人たち》
1780-81年

作者のレノルズは、18世紀を代表する英国の肖像画家。
ロイヤル・アカデミーの創立者の一人でのちに初代会長に就任するほどまでになった英国美術界の巨匠でしたが、当時、肖像画より格上とされた神話を主題とした神話画を描かせてもらえなかったため、この作品にギリシャ神話の三美神の主題を暗示したとのことです。

一見、優雅に手芸にいそしんでいる三姉妹のように見えますが、実はレノルズの反骨精神が垣間見える作品でもあったのです(詳しくはオーディオガイドでお聴きください!)。


こちらは19世紀英国を代表する風景画家で、お互いにライバルでもあった、ターナーとコンスタブルの作品。


「4 19世紀の開拓者たち」
右 ジョン・コンスタブル《デダムの谷》1828年
左 ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー
《トンブリッジ、ソマー・ヒル》1811年


国内外を旅行して多くのスケッチを描いたターナーに対して、自らが慣れ親しんだ土地を描いたコンスタブルのそれぞれの持ち味が出ている作品で、こうやって並んで展示されると画風の違いもよくわかります。



続いては、弁護士で、美術収集家のアレクサンダー・メイトランド

メイトランドは、スコットランド国立美術館への寄贈を前提に美術品を収集していたことがわかっていて、彼が同館に寄贈した印象派、ポスト印象派の作品26点のうち代表的なものは、ゴーガンの《三人のタヒチ人》。

「4 19世紀の開拓者たち」
ポール・ゴーガン《三人のタヒチ人》1899年


この作品をスコットランド国立美術館が収蔵したことによって、その名を世に知らしめたという記念碑的な作品なのです。
なお、ゴーガン《三人のタヒチ人》は東京会場だけの展示です!


日本でも人気の高い印象派、ポスト印象派。
今回の展覧会でも、モネ、ルノワール、ドガ、ゴーガンはじめ巨匠たち名作が展示されているのでご安心を(モネ、ドガ、ゴーガンは東京会場のみ)。

「4 19世紀の開拓者たち」展示風景



「4 19世紀の開拓者たち」
クロード・モネ《エプト川沿いのポプラ並木》
1891年



そして、三人目の篤志家は、ジョン・スチュワート・ケネディ

故郷スコットランドの貧しい家庭で育ったケネディはアメリカに渡り、実業家として大成功を収めます。
実業家としての活動のかたわら、慈善活動も積極的に行い、母国への愛と感謝を込めてスコットランド国立美術館に寄贈したのが、エピローグに展示されているこの作品。

「エピローグ」
フレデリック・エドウィン・チャーチ
《アメリカ側から見たナイアガラの滝》1867年

チャーチは、19世紀に活動したアメリカの風景画で、描いている場面もアメリカ側から見たナイアガラの滝。

はじめは、なぜこの作品がアメリカでなくスコットランドに、なぜこの作品がこの展覧会のエピローグに、と不思議に思いましたが、その背景にはこんな素晴らしいエピソードがあったのです。

お帰りの際には雄大なナイアガラ滝の前でぜひ記念撮影を!

フォトスポット





お気に入りの逸品を探そう!


展示作品はどれも名作ばかりなのですが、そのなかでも自分のお気に入りの画家、お気に入りの作品を見つけるとうれしくなってきます。

今回の展覧会の私のお気に入りの逸品(一品)はこちら。

ラファエロ・サンツィオの《「魚の聖母」のための習作》です。

「1 ルネサンス」
ラファエロ・サンツィオ《「魚の聖母」のための習作》
1512-14年頃

この作品はプラド美術館が所蔵する《魚の聖母》の習作ですが、習作といっても決してあなどってはいけません。

これは、すべてラファエロ自身の手で描いたという、きわめてレアな素描なのです。
ぜひ間近でご覧いただき、ラファエロ独特の柔らかいタッチを感じ取っていただきたいです。


みなさまもぜひ「お気に入りの逸品」を探してみてはいかがでしょうか。


展覧会の思い出に欠かせないのが、展覧会のオリジナルグッズやコラボグッズ。

レパートリーが充実しているので、お帰りにはぜひ展覧会特設ショップにお立ち寄りください。


展覧会特設ショップ

公式図録は、全作品を収録して、作品や作家の解説も充実。ボリュームたっぷりでお値段は2,500円(税込)。おススメです。