2017年6月24日土曜日

静嘉堂文庫美術館「~かおりを飾る~珠玉の香合・香炉展」トークショー&ブロガー内覧会

6月18日(日)の午後、静嘉堂文庫美術館「~かおりを飾る~珠玉の香合・香炉展」トークショー&ブロガー内覧会に参加してきました。
国宝・曜変天目(稲葉天目)~高さ70cmの台に乗せて展示したのは初めての試み

はじめに地下一階の講堂で、ゲストの陶磁研究家 森 由美さん、静嘉堂文庫美術館学芸員 長谷川祥子さん、ナビゲーターに 青い日記帳のTakさんのトークショーをおうかがいしました。

Takさんの「今回の展覧会のタイトルは『香合・香炉』。はじめに香合と香炉の違いをご解説お願いします。」との投げかけから始まったトークショー。とても楽しく、とても参考になる内容でしたので、ここでみなさんのお話の概要を紹介したいと思います。
(筆者の判断で編集しました。文責は筆者にあります。トークショーの雰囲気だけでもつかんでいただければと思います。)

長谷川さん 香合は、貴重なものを入れる蓋付き容器。香炉は香りを焚く器。
     中に練香(ねりこう)や香木を入れて焚きます。
      静嘉堂文庫では漆の香合を約130点、焼物の香合を約120点、香炉を約百数
     十点所蔵していて、その中から100点ほどを厳選して展示しました。
      歴史的には香炉の方が先ですが、展覧会のタイトルには所蔵点数の多い香合
     を先にもってきました。
Takさん 香合は千利休の侘び茶の時期に注目度が上がったのでは?
森さん  堆朱(ついしゅ)といって漆を重ね塗りして文様を彫刻した漆の香合が室町時代
    に流行して、桃山時代以降には焼物の香合が流行して江戸時代にブームを迎えま
    した。
長谷川さん 漆の香合は、明時代のものが特に貴重でした。もとはおしろい入れなどだっ
     たのでしょうが、日本にやってきて香合に見立てられました。
Takさん 室町時代から桃山時代にかけて価値観の変化があったのでは?
森さん  室町時代には、「君台観左右帳記」に記載されているように、中国から来た、
    茶碗、青磁、香合、香炉といった唐物(からもの)が室町将軍家によって重要なも
    のとなりました。それは権力者に必要なものだったのです。
     安土桃山時代に書かれた「山上宗二記」には以前とは違うものが「名物」とし
    て掲載されいてます。
Takさん そういった意味では、室町時代に貴重だった「曜変天目(稲葉天目)」は人寄せパ
    ンダでなく、当時の人たちの価値観の変化の中に位置づけられますね。
長谷川さん 人寄せパンダというところもありますが(笑)、唐物にちなんだものとして展
    示しています。
     曜変天目は、最近、積極的に展示するようにしていますが、出会うたびに見え
    方が違います。
     高い台に展示すると上から見えにくいので、今回は初めての試みとして、高さ
    70㎝の台に展示してみました。
     この高さなら子どもや車いすの方でも茶碗の内側を見ることができます。
     他館からお借りしたものでは、低い台に展示すると価値を低くするようで抵抗
    がありますが、当館の所蔵品なので遠慮せずにできました(笑)。
森さん  青磁の香炉も展示されていますが、曜変天目と同じくらい貴重なものです。
    唐物趣味の出発点ですね。
長谷川さん 今回は曜変天目のレプリカも展示しています。重さは本物より6グラムだけ軽
     いものなので、ぜひお手にとって曜変天目の感触を実感してみてください。
      今回の展覧会のために九代・長江惣吉さんに、土も福建省の建窯から取り寄
     せていただいただき、曜変天目の寸法と重量に近づけた天目茶碗を作成してい
     ただきました。

曜変天目とほぼ同寸、同重量で作られた茶碗、重さは270g
天目茶碗の感触が何ともいえずいいです。

Takさん 価値観が変わる2つめの転換点は江戸後期ですね。
森さん  安政2年(1855年)に名古屋の道具商を中心に作られた番付「形物香合相撲」に
    は、江戸初期にめでられたものと違うものが並んでいます。
     ただし、いいものは大関に位置づけられていますが、下の前頭の方は道具商側
    が売り出したいという思惑もあったようです。
     

壁にかけられた番付のパネル
この番付に静嘉堂コレクション35点が確認され、そのうち
今回は32点が展示されていて、展示作品には青字で展示番号がふられています。
森さん  番付の東方上位には交趾と書かれた香合が多いですが、交趾とは現在のベトナ
    ム北部のことで、ベトナム方面からの「交趾船」でもたらされたものです。
     現在では中国福建省産ということがわかっていますが、黄、紫、緑に彩られて
    いるのが特徴です。

右が「交趾鹿香合」、左が「交趾狸香合」

解説にはふたを開けた状態の写真が掲載されていて、
中の構造がわかるようになっています。

Takさん 交趾は香入れだったのでしょうか?
森さん  薬や軟膏、紅などの化粧品、またはアクセサリーといった貴重なものを入れて
    いた可能性があります。
     茶の湯で重要なのは「見立て」です。小さくてかわいいものを香合に見立てて
    茶の湯に取り入れたのでしょう。
     19世紀には海外で日本ブームがおこり、香合をコレクションした外国人もい
    て、中には3000点も蒐集した人もいました。
     香合ではありませんが、マリー・アントワネットは蒔絵と香箱のコレクターで
    した。

吉野山蒔絵十種香道具
Takさん  こちらの香道具は一度出すと、しまうのが大変では。
長谷川さん 決められたとおりしまわないと納まらなくなってしまいます(笑)。
      しまい方がわからなくならないよう写真に撮っていて、それを見ながらしま
     うのです。
      この香道具はおそらく大名家の嫁入り道具だったと思われます。金づくし
     で、絵も素晴らしいです。
      数種の香をたき、その香の名を言い当てる「組香(くみこう)」では源氏物
     語、伊勢物語などの古典や和歌の素地が必要でした。文学の素養がないと上
     流階級のサロンにはいられませんでした。
森さん  「香を聞く」と「お茶のお点前」は感覚が違うということをあらためて感じ
     ました。
      お茶席に出されるものの中では色どりがある香合の季節は冬とされ、例え
     ば、夏にふさわしい涼しげな川の模様も、雪景色に見立てられました。
Takさん 茶道具というと敷居が高いと思ってしまいますが、実際に展覧会を見ると、小さ
    くて色とりどりのものあがって、見ていて楽しくなって、「かわいい」を連発し
    てしまいました。ご来場のみなさんもぜひこの印象をお持ち帰りいただきたい。
長谷川さん 香合は「かわいい」と読めませんか?(笑)
Takさん 香合・香炉の展覧会ですが、匂いがわかりませんが。
長谷川さん 香老舗 松栄堂さんのご協力をいただいて、匂い香づくり体験ができるワー
     クショップを7月1日(土)に開催しますので、ぜひご参加ください。
      また、ミュージアムショップでも、松栄堂さんのお香を販売しています。
      お香の匂いを体験していただいて、ぜひとも平安時代からつながる薫物(たき
     もの)の文化につながっていただきたい。
森さん  焼物を見ると、それを作った人、愛でた人、「かわいい」といって集めた人、
    そういった人たちが見えてきて話しかけてくるように思えます。
     この展覧会は内容がとても素晴らしいので、焼物の楽しみ方の入門にしてい
    ただきたいと思います。

トークショーの後は、学芸員の長谷川さんのギャラリートーク。
展示作品を丁寧に解説していただきました。

「こちらは平安時代の香炉です。仏教伝来とともに香料が伝えられ、香炉は仏教の必需品でした。」
正面が瓶鎮柄香炉(銅製鍍金) 平安時代
続いて中国・明時代に作られた青磁の香炉。
船に乗っている人や、家の中にいる人、それに上に乗っている獅子もかわいいです。
右の李白の顔が赤いのは、やはり大酒飲みだったから?
右から「青磁李白香炉」、「青磁獅子人物火燈香炉」、「青磁舟形香炉」
いずれも明時代
 次に同じく明時代の彩色の香炉が続きます。
船の上の人も、飛び跳ねる馬もかわいいです。
京焼の鳥兜もかわいいです。
右から「五彩人物文三日月形香炉」、「古染付雲鶴馬文香炉」(いずれも明時代)、
「色絵鳥兜香炉」(京焼(小清水) 江戸時代)
 続いて、漆芸(しつげい)香合(塗物(ぬりもの)香合)。
右から「紅花緑葉太公望香合」、「堆朱桃形牡丹香合」、「屈輪冠香合」
(いずれも明時代)

日本の焼物も頑張っています。こちらは香炉です。
右から「俵に猫香炉」、「彩色備前鵜香炉」(以上、備前焼 江戸時代)
「黄瀬戸獅子香炉」(美濃焼 桃山時代)
こちらは同じく日本の香合です。
右から「朱漆塗蒔絵柿香合」、「小手毬形蒔絵香合」(江戸時代)
こちらは野々村仁清の作品です。
法螺貝は近くで見ると金を使っているのがよくわかります。
重要文化財 色絵法螺貝香炉(野々村仁清 江戸時代)
左の香合の白くて小さい蝸牛がかわいい!
右から「仁清羽子板香合」、「仁清蝸牛香合」(いずれも京焼「仁清」印 江戸時代)
長谷川さんには時間いっぱいまで会場内をまわって解説していただきました。
どうもありがとうございました。

大きい作品もありますが、とても小さくて、かわいい作品がたくさん並んでいて、細部までじっくり見れば見るほど楽しめる展覧会です。

先ほど紹介した、匂い香づくりが体験できるワークショップ、講演会や学芸員さんによる列品解説に参加してみるのはいかがでしょうか。
詳細は静嘉堂文庫美術館の公式サイトをご覧ください。
  ↓
 静嘉堂文庫美術館 ~かおりを飾る~珠玉の香合・香炉展 

ミュージアムショップで販売している文庫サイズの小さなガイドブックも、主な作品が掲載され、解説も丁寧なのでとても参考になります。

ガイドブックとクリアファイル


 最後に会場で河野元昭館長さんにお話をおうかがいする機会があって、「曜変天目は最初はもっと照明が暗かったが、開会直前に私の判断でもっと明るくした。」とのお話をお聞きすることができました。
 みなさまどうもありがとうございました。


※掲載した写真は美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。