2020年12月30日水曜日

2020年 私が見た展覧会ベスト10

世界じゅうをコロナ禍が席巻した2020年。
企画されていた展覧会が中止になったり、密を避けるための事前予約制が定着するなど、アートの界隈も大きな影響を受けた一年でした。

そういった中でも、主催者みなさなのなみなみならぬご努力のおかげでとても内容の濃い展覧会が開催されて、私たちアートファンを楽しませてくれました。

そこで今年も毎年恒例の展覧会ベストテンを発表したいと思います。
例年より見に行った展覧会の数は少なかったのですが、それでもベストテンを選ぶのに頭を悩まさなくてはならなかったのは、ぜいたくなことなのかもしれません。

第1位 国立西洋美術館「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」


緊急事態宣言が解除されて最初に見に行ったのがこの展覧会。
「美術展が戻ってきた!」という感慨にひたりながら展示会場をめぐっていました。
もちろん内容も充実。イギリス代表ターナーの《ポリュフェモスを嘲るオデュッセウス》の劇的なシーンが印象的でした。


当初の開催予定が記載された展覧会チラシ


第2位 東京国立博物館 特別展「桃山-天下人の100年」


室町時代末から江戸時代初期までの激動の時代に出現した桃山文化の粋が集まった展覧会。展示作品の質の高さ、量の多さに圧倒されました。前期後期とも見に行きました。



桃山といえば長谷川等伯と狩野永徳の世紀の対決。いまトピに記事を書いてます


第3位 京都国立博物館 「御即位記念 特別展 皇室の名宝」


伊藤若冲《動植綵絵》、教科書に出てくる《蒙古襲来絵詞》はじめ豪華なラインナップ。
皇居東御苑内にある三の丸尚蔵館の名宝が皇室ゆかりの地・京都に集結した展覧会でした。前期後期とも京都まで見に行きました。


同じく京都では、ほぼ同時期に京都市京セラ美術館のリニューアルオープン記念展「京都の美術 250年の夢(第1部~第3部 総集編-江戸から現代へ-)」が開催されたので、こちらも前期後期とも見てきました。
本来であれば第1部から第3部まで開催される予定でしたが、コロナ禍の影響で1回にまとめて凝縮された内容の濃い展覧会でした。


第4位 江戸東京博物館「古代エジプト展 天地創造の神話」


ベルリンの博物館島から古代エジプトの至宝がやってきました!
コロナ禍で海外からの美術品の搬入が難しい状況の中で開催された、まさに奇跡の展覧会。
日本にいながら古代エジプトにタイムスリップできる空間が広がっています。




古代エジプト展は2021年4月4日まで(年始は1月2日から)江戸東京博物館で開催中!
その後、来年秋まで京都市京セラ美術館、静岡県立美術館、東京富士美術館に巡回します。
いまトピに記事を書いてますので、詳しくはこちらをご覧ください⇒


第5位 横浜美術館「トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション」


国内有数の20世紀西洋美術コレクションを所蔵する三館のコラボ企画。コロナ禍の前に企画されたとのことですが、海外や国内の移動が制限される今では、とてもうれしい展覧会です。




トライアローグ展は、横浜美術館で2月28日まで(年明けは1月4日から)開催しています。
その後、愛知県美術館、富山県美術館に巡回するので、近くに来たらぜひご覧ください!
展覧会の様子レポートしてます


第6位 静嘉堂文庫美術館 「美の競演-静嘉堂の名宝-」


静嘉堂が所蔵する茶道具、陶磁器、山水画、花鳥画、仏画、仏像、刀剣、浮世絵などいろいろなジャンルの美術品が一堂に会した展覧会。
料理でいえば和洋中、エスニックを少しずつ味わえるぜいたくな内容でした。
同時期に開催されるはずだった東京2020オリンピック・パラリンピックは延期されましたが、この展覧会は幸いにも開催され、静嘉堂の名宝の数々を楽しむことができました。




静嘉堂文庫美術館では江戸のエナジー 風俗画と浮世絵が2月7日まで(年明けは1月5日から)開催されています。
来年早々に行く予定しています。 


第7位 そごう美術館「東京藝術大学スーパークローン文化財展」


何しろ臨場感がすごかったです。中国・敦煌の莫高窟がそのまま来たような空間がスーパークローン技術で再現されていました。
ほかにも破壊されたバーミヤン東大仏の天井画の復元作品や、デジタル技術と伝統の技が融合によって飛鳥時代の創建当初の姿に迫る取組みを取り入れた法隆寺金堂の釈迦三尊像など見応えありました。


中国・敦煌莫高窟第57窟の再現



東京藝術大学では、いつもは春に開催されるコレクション展がコロナ禍の影響で延期になったのですが、無事に秋に開催されてホッとしました。
今年開催された「藝大コレクション展2020」のテーマは、高橋由一《鮭》、上村松園《序の舞》、狩野芳崖《悲母観音》はじめよりすぐりのコレクションと、卒業生たちの個性的な自画像約100点で綴る「藝大年代記(クロニクル)」。見応えありました!


第8位 山種美術館 特別展「桜 さくら SAKURA 2020-美術館でお花見!-」


山種美術館恒例の日本画で春のお花見の展覧会は4月に臨時休館してからそのまま終了してしまうのかと思っていたら、うれしいことに7月に再開して、夏までお花見ができました。


抹茶と特製和菓子のセット

山種美術館はいつも内容の充実した展覧会を開催しているので、どれにしようか迷いましたが、今回は中断後に再開したこの展覧会をにしました。

山種美術館では【特別展】東山魁夷と四季の日本画が1月24日まで(年明けは1月3日から)開催中。
詳しくはこちらをご覧ください⇒山種美術館 【特別展】東山魁夷と四季の日本画


第9位 川崎浮世絵ギャラリー 小林清親 光と影


山種美術館と並んで、いつもクオリティの高い展覧会が開催されて、毎回常連になっている
のが、すみだ北斎美術館川崎浮世絵ギャラリー三菱一号館美術館なのですが、今回は昨年12月にオープンして1周年を迎えた川崎浮世絵ギャラリーを紹介したいと思います。
小林清親の光線画も、月岡芳年の「月百姿」もじっくり味わうことができました。
新年からの企画も楽しみです⇒川崎浮世絵ギャラリー






第10位 山梨県立美術館 特別展「クールベと海」


国内のクールベ作品が大集結した展覧会。波も、故郷の森や山、岩も、雪景色や狩猟のシーンもあって、クールベの多様な側面が見られる展覧会でした。
ミレー館はじめコレクション展と相まって充実の時間がすごせました。



特別展クールベと海は、現在、広島県のふくやま美術館で2月21日まで(年明けは1月2日から)開催中。その後、4月にはパナソニック汐留美術館に巡回します。

展覧会の様子レポートしてます⇒山梨県美術館 特別展「クールベと海」


今年はコロナ禍による美術館・博物館の臨時休館がありましたが、それでも前期後期を各1回と数えると110もの展覧会を見ることができました。
そのうち、8月7日から10月6日までは「ぐるっとパス」を活用して10館の展覧会を見ることができたので、展覧会の企画・運営にかかわられたみなさんに感謝、感謝です。

来年も心に残る展覧会にめぐりあえるのが楽しみです。

今年一年ご愛読ありがとうございました。
来年もよろしくお願いいたします。

新しい年がみなさまにとってよい年になりますように!







2020年12月22日火曜日

大倉集古館 特別展「海を渡った古伊万里」~ウィーン、ロースドルフ城の悲劇~

東京・虎ノ門の大倉集古館では、江戸時代以降、はるばる海を越えてヨーロッパに渡った日本の磁器や、国内の磁器コレクションの逸品が一度に見られる特別展「海を渡った古伊万里」が開催されています。

大倉集古館外観



【展覧会概要】


会 期  2020年11月3日(火・祝)~2021年1月24日(日)
    展示再開&会期延長!   2月20日(土)~3月21日(日)
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日  毎週月曜日(休日の場合は翌平日)、年末年始(12月28日~1月1日)
入館料  一般1300円ほか
展覧会の詳細、新型コロナウィルス感染症拡大防止策等については同館HPでご確認ください⇒https://www.shukokan.org/

本展は、以下の会場へ巡回予定です。
愛知県陶磁美術館 2021年4月10日~6月13日
山口県立萩美術館・浦上記念館 2021年9月18日~11月23日

※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は大倉集古館の特別の許可をいただいて撮影したものです。

展覧会チラシ

展示は、1階の「はじめに」に始まって、

1階の 第Ⅰ部 日本磁器誕生の地「有田」
2階の 第Ⅱ部 海を渡った古伊万里の悲劇「ウィーン、ロースドルフ城」

の2部構成になっています。

今回の展覧会の見どころも2部構成にあわせて、大きく分けて二つあります。

1 1階展示室を回れば日本磁器の歴史が一目でわかる!


1階展示室には、佐賀県立九州陶磁文化館のコレクションを中心に、1610-30年代の最初期の有田焼の「染付磁器」に始まって、カラフルな色遣いの「色絵磁器」、乳白色の素地に花鳥人物や吉祥文様を描いた柿右衛門様式の器、染付素地に金、赤の二色を多用する金襴手様式のいかにもヨーロッパ人好みの「華やかな皿」、幕末期から明治初期にかけて輸出振興のために作られた豪華な輸出品が展示されています。

有田で始まり、伊万里港から各地に運ばれたので「今利(伊万里)焼」と呼ばれるようになった日本磁器の歴史に詳しくない私でも、1階展示室をぐるっと回っただけで磁器の歴史の概要がわかるという、とても親切な展示になっています。

第Ⅰ部「染付磁器」
第Ⅰ部「色絵磁器の誕生」 

第Ⅰ部「柿右衛門様式」
第Ⅰ部「華やかな皿」
第Ⅰ部「幕末、明治初期の輸出品」

外様はつらい!

華やかなデザインの有田焼ですが、その陰には外様大名ならではの涙ぐましい苦労を感じさせるエピソードがありました。
有田が所在する肥前佐賀を治めていた鍋島家は、1600(慶長5)年の関ケ原の合戦では西軍についたため戦後は苦境に立たされましたが、のちに徳川家康に赦されて佐賀藩(鍋島藩)の領有が認められ、その後は徳川幕府と良好な関係を築くことに努めました。
そこで作られたのが上品なデザインの「鍋島磁器」。採算を度外視して、最高の原料と、最高の陶工を投入して献上品として作られた御用磁器なのです。

第Ⅰ部「鍋島磁器のデザイン」


大倉集古館から出品されている逸品も鍋島磁器《青磁染付宝尽文大皿》。
宝尽くしというだけあって、器に描かれているのはおめでたいものばかり。上品な淡い色彩が心を和ませてくれます。

《青磁染付宝尽文大皿》日本/鍋島藩窯
1690-1720年代 大倉集古館

華美なものはダメ!

ところがこの高級感あふれる鍋島磁器も、のちに幕府の方針に翻弄されることになります。
江戸初期からたびたび出されていた倹約令は、八代将軍徳川吉宗の享保の改革(1716-45)の時は特に厳しく、有田焼の色絵の生産も減少していきました。
盛り返してきたのは先ほどご案内したように、幕末期からです。


2 ヨーロッパの王侯貴族を魅了した豪華な磁器が来日!


紹介の順番が逆になりましたが、1階展示室に入ってすぐにお出迎えしてくれるのは、ウィーン郊外にあるロースドルフ城所蔵の色鮮やかな日本とヨーロッパの磁器。

《色絵唐獅子牡丹文亀甲透彫瓶(部分修復)》
日本/有田窯 1700-1730年代
ロースドルフ城

《色絵花卉美人文盆器》(組み上げ・部分修復)
ヨーロッパ 18-19世紀
ロースドルフ城

どちらも破損したものを部分修復した器です。

今回の特別展は日本や中国、そしてヨーロッパで作られた磁器が中心の展覧会なのですが、今まで他の博物館・美術館で開催された展覧会とは少し様子が違うようです。

展覧会チラシには磁器の破片、サブタイトルは「~ウィーン、ロースドルフ城の悲劇~」
磁器の破片は何を意味しているのでしょうか、そしてロースドルフ城の悲劇とは何なのでしょうか。

1階で有田焼のおさらいをしたあとは、2階で海を渡った磁器を見ていくことにしたいと思います。

ウィーン郊外にある中世の古城・ロースドルフ城は、展覧会チラシ裏面にも写真が掲載されていますが、優雅なたたずまいの白亜の宮殿です。


展覧会チラシ(裏面)

2階展示室は大きく3つのエリアに分かれています。


破壊された陶片がインスタレーションとして展示されているエリア

第二次世界大戦前年の1938年、オーストリアはナチス・ドイツによって併合されてドイツの一部となり、敗戦後は戦勝4か国(米、英、仏、ソ)により分割管理され、ウィーン周辺のオーストリア東部はソ連の管理下に置かれました。

当時、ロースドルフ城はソ連軍の兵舎として使用されていたのですが、陶磁器コレクションの接収をおそれたピアッティ家の当主はそれを地下室に隠していました。
ところがある時、ソ連軍兵士たちに見つかり、徹底的に破壊されてしまったのです。
それがサブタイトルにある「ロースドルフ城の悲劇」だったのです。

破壊された大量の陶磁器はもう使うことはできないので、廃棄される運命にあったはずですが、当主はそれを集め、戦争遺産として城の室内に展示して一般公開しました。

それを再現したのが、2階展示室中央の破壊された陶片がインスタレーションとして展示されている「陶片の間」の再現コーナーなのです。

第Ⅱ部「陶片の間」再現コーナー



これは作りものではありません。まぎれもなく実際にソ連兵たちの手によって破壊された陶片なのです。
いくら何でもここまでやるか、と思ってしまいますが、ちょうど岩波新書『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』(大木毅著 2019年)を読んだ後だっただけに、これがまさに人間も家もモノも敵のものは破壊し尽くしてしまう絶滅戦争の一側面なのかと、ものすごいリアリティをもって感じられたのです。

「独ソともに、互いを妥協の余地のない、滅ぼされるべき敵とみなすイデオロギーを戦争遂行の根幹に据え、それがために惨酷な闘争を徹底して遂行した点に、この戦争の本質がある。」(前掲書 はじめにⅱ)

展示室内の荘厳な円柱を背景に展示を見ると、まるでロースドルフ城の室内に入ったかようなリッチな気分になってきます。

第Ⅱ部展示風景



第Ⅱ部展示風景



破損が少なく形が残っている陶磁器のエリア

エレベーターで2階に上がってすぐのエリアには、破損が少なく形が残っている陶磁器が展示されていて、中国や日本、西洋各地から集められたピアッティ家の国際色豊かな陶磁器コレクションの面影をしのぶことができます。
国内所蔵の磁器も並べて展示されているので、西洋と東洋の文様の交流を見ることもできます。

第Ⅱ部「中国磁器、日本陶磁」 



第Ⅱ部「伝世品に見られる文様の交流史」



修復された陶片のエリア

最後のエリアには、今回の展覧会にあたって日本に運ばれ修復された磁器が展示されています。
下の写真はどちらも《色絵花卉文大皿》で、右が現代の技法で往時の姿をよみがえらせた「修復」、左が破片を組み上げた「組み上げ修復」。

右《色絵花卉文大皿(修復)》ヨーロッパ 19世紀、
左《色絵花卉文大皿(組み上げ修復)》日本/有田窯 19世紀中頃
いずれもロースドルフ城


こちらには「組み上げ修復」による中国景徳鎮窯の器が並びます。
修復前の破片のパネル写真とぜひ見比べてみてください。
第Ⅱ部「蘇った陶片」


私のおススメの逸品(一品)

さて、最後に私のおススメの逸品(一品)をご紹介したいと思います。
いろいろ悩みましたが、19世紀に西欧でつくられた古伊万里金襴手の模倣作品とされる《色絵唐獅子牡丹文蓋付壺》を挙げます。

《色絵唐獅子牡丹文蓋付壺》ヨーロッパ
19世紀 ロースドルフ城

こちらは「第Ⅱ部 伝世品に見られる文様の交流史」のコーナーに展示されていますが、なぜこの器を選んだのかといいますと、愛嬌のある獅子を発見してしまったからなのです。
それはどこかというと・・・
ぜひみなさんもその場で探してみてください! 



ミュージアムショップも充実のラインナップ


大倉集古館のミュージアムショップは地下1階にあります。
展覧会オリジナルグッズや展覧会公式図録を販売していますので、ぜひお立ち寄りください。


オリジナルグッズ

絵葉書は1枚165円(税込)




展覧会公式図録(税込2,750円)

年末は12月27日(日)まで、年始は1月2日(土)から開館しています。
会期は1月24日(日)までです。 展示再開&会期延長! 2月20日(土)~3月21日(日)
この冬おススメの展覧会がまた一つ増えました。



2020年12月12日土曜日

山種美術館 【特別展】東山魁夷と四季の日本画

街じゅうイルミネーションで輝いて、気分はすっかりクリスマス。
そんな華やいだ季節にふさわしく、美しい日本の四季をめぐる展覧会が東京・広尾の山種美術館で開催されています。


展覧会チラシ


さて、みなさんは東山魁夷というと、どういった作品を思い浮かべるでしょうか。
幻想的な森の風景でしょうか、京都の景色でしょうか、雄大な海の景色でしょうか。

どれも見る人の心の中にスーッと入ってくる作品ばかりなのですが、今回の特別展は、森も、京都も、海も見ることができる、とてもうれしい展覧会なのです。

展覧会概要


会 期  2020年11月21日(土)~2021年1月24日(日)
開館時間 平日   10時から16時
     土日祝日 10時から17時
     ※入館はいずれも閉館時間の30分前まで
休館日  月曜日(ただし、1/4(月)、1/11(月)は開館、1/12(火)は休館)
     12/28~1/2は年末年始休館
入館料  一般 1300円ほか
※入館日時のオンライン予約ができます。また、当日、美術館受付でのチケット購入も可能です。
展覧会詳細、入館日時のオンライン予約、感染症対策等については同館公式HPをご覧ください⇒https://www.yamatane-museum.jp/

※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は内覧会で美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。
※掲載した写真はすべて山種美術館所蔵作品です。

展示は3章構成になっています。
 第1章 日本の四季を描いた系譜
 第2章 皇居新宮殿ゆかりの絵画
 第3章 風景画に見る日本の四季

幻想的な森の景色に魅了される


展示室に入ってすぐにお出迎えしてくれるのは、東山魁夷《月出づ》
手前の山には白樺の森、後ろの緑をたたえる山からは朧月が顔を出して春の訪れを知らているかのよう。まずは幻想的な森の絵で雰囲気を盛り上げてくれます。


第1展示室展示風景
手前が東山魁夷《月出づ》(1965(昭和40)年)


「東山魁夷ならやっぱり冬の山!」という方(私もですが)、お望みの作品があります。

東山魁夷《白い嶺》(1964(昭和39)年)

魁夷は、《白い嶺》を描いた2年前の1962(昭和37)年4月から7月にかけて北欧四か国を旅行して多くのスケッチを残しました。
北欧とはいえ、この時期に森はこれだけの雪は被っていなかったかもしれませんが、ピンッと緊張した北欧の森の空気が伝わってくるような、とても神秘的な作品です。


京都の四季が味わえる


展示室入口のパネル
「京洛四季」の作品がデザインされています。

今回は約4年ぶりに一挙展示される東山魁夷の連作「京洛四季」4点を楽しむことができます。その上、なんとそれぞれの作品をイメージしたオリジナル和菓子を実際に味わうこともできるのです!
抹茶とのセットが1,200円、1階cafe椿でぜひご賞味ください。
※和菓子のテイクアウト2個から承ります。1個 650円 ※いずれも税込価格

下の写真上から時計回りに、「除夜の鐘」《年暮る》、「峰の桜」《春静》、「今ひとたびの」《秋彩》、「ときわ木」《緑潤う》、以上が「京洛四季」の連作から、そして最後が「波しぶき」《満ち来る潮》。
※《》内はイメージした東山魁夷の作品で、すべて山種美術館蔵です。





「京洛四季」のオリジナルグッズも充実!

「京洛四季」の絵はがきは1枚110円。4枚そろえて記念にぜひ!
ほかにも《年暮る》のおしゃれなブックカバーしおりセット418円、《秋彩》の一筆箋418円など豪華ラインナップ。
※いずれも税込価格 




雄大な海を見て大きな気分


東山魁夷《満ち来る潮》(1970(昭和45)年)


横幅が9mもある迫力の大画面。
波が岩にぶつかる激しい音、ゴーゴーと吹く風の音、潮気を含んだ磯の香り。
右に左に角度を変えて見ると、金やプラチナの箔や砂子がキラキラ輝いて見えます。
 
この作品は、1968(昭和43)年、東山魁夷が皇居新宮殿の壁画《朝明けの潮》を完成させたとき、山種美術館の創設者で初代館長の山﨑種二氏から、その壁画を偲ぶことができる作品を描いてほしいと依頼されて制作したもので、魁夷は、皇居新宮殿の壁画を描くため、1年かけて全国の海岸を巡ってスケッチをしたとのこと。

まるでその場にいるような臨場感が味わえます。

東山魁夷の作品は、波、岩、海のスケッチ3点、《満ち来る潮》の小下図1点を含む全部で13点が展示されています。

東山魁夷をめぐる日本画家たち


今回の展覧会のもう一つの見どころは、近代から現代の日本画家たちが描いた四季の風景。

東山魁夷の東京美術学校(現 東京藝術大学)時代の師で、写実を重んじ、自然を写生することを魁夷に説いた結城素明の《春山晴靄・夏渓欲雨・秋嶺帰雲・冬海雪霽》。
日本の豊かな自然の風景に心が和みます。

結城素明《春山晴靄・夏渓欲雨・秋嶺帰雲・冬海雪霽》(1940(昭和15)年)


もう一人の師は川合玉堂

川合玉堂《雪志末久湖畔》(1942(昭和17)年)


山種美術館の次回展、【開館55周年記念特別展】「川合玉堂-山﨑種二が愛した日本画の巨匠-」(2021年2月6日~4月4日)も楽しみなのですが、一足早く玉堂の作品を見ることができました。
雪の部分は絹地の白を残して、墨の濃淡で雪国の景色を描いたこの作品は、玉堂作品の中でも特に好きな作品なのです。

そして、東京美術学校の大先輩で、岡倉天心や横山大観らとともに近代日本画をけん引した
菱田春草の《月四題》にもまた巡り合えました。
満月の月明かりの中に浮かぶ、墨の濃淡で描かれた季節の草木。
満年齢37歳を目前に若くして亡くなった天才画家・春草が、病魔に侵されながらも描いた晩年の名作です。

菱田春草《月四題》(1909-1910(明治42-43)年頃)


第2展示室には現役の千住博《四季》。
解説パネルにある千住博氏のことばが印象的でした。
「僕自身、日本画といえば東山魁夷だったんですよ。(略)日本画に描かれる風景というのは、見ていて心が落ち着いてくるような、こういうしっとりしたものなのだ(略)」

千住博《四季》1989(平成元)年

まだまだ紹介したい作品はたくさんあるのですが、最後にご紹介するのは東京美術学校で東山魁夷の同期生、加藤栄三の見上げるほど大きな画面の作品《流離の灯》。
華やかさとはかなさが交差した色とりどりの輪を見上げていると、おなかに響くドーンという音や、花火が開くバチバチという音まで聞こえてきそうです。

日本の夏の風物詩といえば花火大会ですが、コロナ禍で軒並み中止になるご時世。
ぜひ日本画の世界で花火大会をお楽しみください。


加藤栄三《流離の灯》1971(昭和46)年


コロナ禍で海外どころか、国内も安心して旅行ができない今。
今回の特別展は、東山魁夷や近現代の日本画家たちともに四季の旅ができる展覧会です。

年末は12月27日(日)まで、年始は1月3日(日)から開館しています。
日時指定のオンライン予約ができますので、密を避けてぜひお楽しみください。


山種美術館で初もうで


年内は忙しくて来られないという方、年始がチャンスです。
1月3日(日)午前10時から、ミュージアムショップの人気アイテムが数多く入った福袋が販売されます。
お値段は6,000円相当のグッズが入って2,500円(税込)!
販売場所は山種美術館地下1階ミュージアムショップ
限定50個、お一人様1個まで、なくなり次第終了です。
新しい年に山種美術館で福をつかんでみませんか。



さらにお得なお正月限定サービスのご案内!

★ 1月3日限定 プチギフト配布 ※先着100名様
★ Cafe椿にてお正月限定和菓子をご提供(1月7日まで実施)

※いずれも、無くなり次第終了となります。





2020年12月6日日曜日

MANGAのルーツをたどってみませんか? すみだ北斎美術館「GIGA・MANGA 江戸戯画から近代漫画へ」 

いつも楽しい展覧会を企画してくれるすみだ北斎美術館の今回の企画展は、笑って楽しめて、諷刺のスパイスもきいた展覧会。それもそのはず、近代漫画(MANGA)のルーツを江戸戯画(GIGA)に求める、とてもユニークな展覧会なのです。

3階ホワイエの撮影スポット

そして、歌川国芳河鍋暁斎小林清親といった一筋縄ではいかないクセ者や、明治期に来日したチャールズ・ワーグマンジョルジュ・ビゴーといった世相に鋭く切り込む外国勢も、人気者「のらくろ」の田河水泡や「フクちゃん」の横山隆一も登場して、会場内は百花繚乱、多士済々。もちろんすみだ北斎美術館の主(ぬし)、葛飾北斎も登場します。

4階AURORA(常設展示室)の北斎と娘の阿栄(おえい)


今回展示されるのは全部で約270点。同館始まって以来の3つの会期に分けて展示される豪華版。会期は来年の1月24日(日)までです。
ぜひMANGAのルーツをたどる旅をお楽しみください。

展覧会概要


会 期 2020年11月25日(水)~2021年1月24日(日)
  前期 2020年11月25日(水)~12月13日(日)
  中期 2020年12月15日(火)~2021年1月3日(日)
  後期 2021年1月5日(火)~1月24日(日)
  ※前中後期で一部展示替えあり
休館日 毎週月曜日、年末年始(12/29(火)-1/1(金))
    1月11日(月・祝)開館、1月12日(火)休館
開館時間 9:30~17:30(入館は17:00まで)
観覧料 一般 1,200円ほか
※本展のチケットは、会期中観覧日当日に限り、AURORA(常設展示室)をはじめ全ての展示をご覧になれます。
展覧会の詳細、新型コロナウィルス感染症の拡大防止策等については同館公式HPをご覧ください⇒https://hokusai-museum.jp/

※展示室内は撮影不可です。掲載した写真は、内覧会で美術館の特別の許可をいただいて撮影したものです。AURORA(常設展示室)内は一部を除き撮影可。

展示は3章構成になっています。

第1章 商品としての量産漫画の誕生 江戸中期から戯画の大衆化~戯画本・戯画浮世絵~
第2章 職業漫画家の誕生 ~ポンチ・漫画の時代へ~
第3章 ストーリー漫画の台頭 ~昭和初期から終戦まで~

さて、さっそく3階展示室からご案内していくことにしましょう。


第1章 商品としての量産漫画の誕生 江戸中期から戯画の大衆化~戯画本・戯画浮世絵~



「鳥羽絵」本と鳥羽絵スタイル

やたら手足が細くて長い二人の若者が力くらべの腕相撲。

作者不詳《鳥羽絵風戯画 腕相撲》
前期展示


期待にたがわず最初から笑いを誘う絵が出てきたので、さてこれは何だろうと思い解説パネルを見ると、「鳥羽絵」本に影響された「鳥羽絵」風の戯画とのこと。

そして、鳥羽絵スタイルの画がユーモアあふれる「遊び絵」として発展したもののひとつが、漢字やひらがな、カタカナを使った「文字絵」
こちらは、丸っこいひらがなで武士や町人、馬や猫が描かれていて、狐はひらがなの「きつね」三文字。

有楽斎長秀《後篇 大新板文字画姿》
前期展示

もう一つの「遊び絵」は、「影絵」

歌川国利《有が多気御代の蔭絵》
前期展示
何やら楽し気な影絵遊び。
とは言っても演じている人は大変そう。
こうもりも、かたつむりも、富士山も、よく見るとかなり難しい姿勢を取っています。
橋の欄干の人は左足をちょこんと上げてお茶目なポーズ。

一見すると人の顔のように見えても、実は何人もの人間のかたまり。
これが歌川国芳が得意とした「寄せ絵」です。
でも、実際に人間がやるのはちょっと無理そう。

歌川国芳《人をばかにした人だ》
前期展示

ところで「鳥羽絵」本とは何なのでしょうか。

冒頭に展示されているのが江戸中期、1720(享保5)年に大坂で刊行された「鳥羽絵」本

右から、竹原春潮斎『鳥羽絵欠とめ』、通期展示
大岡春卜『鳥羽絵三国志』、前期展示
作者不詳『軽筆鳥羽車』、通期展示


ガラスケースの上には本の中の絵がパネル展示されていますが、これが、手足が長く、眼は黒丸か一文字に省略されたスタイルが特徴の鳥羽絵なのです。

パネル展示『鳥羽絵欠とめ』


平安時代にまでさかのぼれば、貴族など特権階級の人たちだけが楽しんでいた戯画も、江戸時代に入って木版摺が発達して、さらに人口が急増した江戸中期になると町人も戯画が印刷された本を読むようになって、まさに第1章のタイトルにあるように、戯画が大衆化した時代でした。

ところで、「鳥羽」とは平安時代に活躍した天台宗の高僧、鳥羽僧正覚猶(1053-1140)のこと。
画家としての力量も相当のものだったようで、あの《鳥獣戯画》の作者ではとの説もあったくらい「戯画」も得意だったようです。
当時の人たちにとって「鳥羽」といえば「戯画」。
「鳥羽絵」とは売れ筋を考えた絶妙のネーミングだったのです。
それにしても600年近くもたって自分の名前が勝手に使われた鳥羽僧正はさぞかし驚いたことでしょう。


『北斎漫画』

「漫画」といっても『北斎漫画』は現代の「マンガ」と違って、「漫然と描いた絵」とのことですが、けっして「漫然」ではなく、北斎の弟子たちにとっては絶好の教科書でした。

北斎漫画
一部展示替えあり

その中でも現在の四コマ漫画の源流ともいえるのが『北斎漫画』十編 芸競べ図

葛飾北斎『北斎漫画』十編 芸競べ図
前期展示(中期後期には明治版が展示されます)


歌川国芳の「諷刺画」

「江戸戯画」にはもう一つ、大きな側面がありました。
当時の世相を風刺する「諷刺画」です。

当時は幕府に不平不満があっても大っぴらに言うことはできなかった時代。少しひねりをきかせた諷刺が人気を呼びました。
中でも人気だったのが「江戸のヒットメーカー」歌川国芳

歌川国芳《浮世又平名画奇特》
前期展示


正面切って諷刺ができなかった当時は、幕府を諷刺していることをわからせないようにして検閲をかいくぐるのが腕の見せどころ。それでも絵師や版元は薄氷を踏む思いでした。

歌舞伎役者を大津絵のキャラクターに見立てたこの《浮世又平名画奇特》も幕府の重臣を諷刺したものという評判が立って売れに売れたのですが、後に発禁になり版木は没収されてしまいました。


私のお気に入りの一枚が、厳しい統制政策で庶民を苦しめた天保の改革を諷刺した《源頼光公館土蜘作妖怪図》


歌川国芳《源頼光公館土蜘作妖怪図》
前期展示


描かれているのは、右から大江山の酒呑童子退治の伝説で知られる源頼光、頼光四天王(卜部季武、渡辺綱、坂田金時、碓井貞光)の面々なのですが、当時の人が見れば誰を描いているのかは、すぐにわかったのでしょう。
頼光の後ろで衣をかけようとしている土蜘蛛は、厳しい取り締まりで「妖怪(耀甲斐)」と恐れられた南町奉行鳥居耀蔵、頼光は将軍徳川家慶、卜部季武は老中水野忠邦、背後の妖怪は庶民を苦しめた禁止令や倹約令だったのです。


こちらは、1868(慶応4)年の江戸開城を暗喩したものの可能性があるという《当時流好諸喰商人尽》。徳川慶喜は豚肉を好んだので「豚一殿」と呼ばれたとは知りませんでした。
手前の豚は慶喜を表しているのでしょうか。
ただし、この前年に徳川慶喜は京都・二条城で大政奉還して、その後、王政復古によって将軍職も罷免されたので、この時はすでに「元将軍」。幕府も消滅したので、作者はとがめられることもなかったのでは。

作者不詳《当時流好諸喰商人尽》
前期展示



河鍋暁斎「狂斎百図」

第1章最後のハイライトは、画鬼・河鍋暁斎「狂斎百図」

全104枚が発行されたというこのシリーズ、今回の展覧会では三期に分けて36枚が展示されます。

「ふぐハ喰いたし命はおしし」「地獄デ仏」「牛にひかれて善光寺まいり」など聞いたことのあることわざが戯画になった、暁斎らしいユーモアたっぷりで色鮮やかな絵ばかりの、まさに「暁斎ワールド」。

河鍋暁斎「狂斎百図」
右 小坊主に天狗八人/ふぐハ喰いたし命は惜しし
左 地獄デ仏
前期展示

河鍋暁斎「狂斎百図」
右 書の大天狗/象の鼻引、左 すずめ踊り
前期展示


上の写真左の「すずめ踊り」は、『北斎漫画』三編の「雀踊り図」に倣ったものなので、ぜひ比べてみてください。

葛飾北斎『北斎漫画』三編(明治版)
雀踊り図 通期展示


続いて、4階の第2章に移ります。

4階企画展示室入口



第2章 職業漫画家の誕生 ~ポンチ・漫画の時代へ~


チャールズ・ワーグマン『THE JAPAN PUNCH』


さて、明治に入って文明開化の時代らしく外国勢が登場。
まずは、幕末から明治にかけて美術特派員として日本に滞在したチャールズ・ワーグマン

手前から、チャールズ・ワーグマン『THE JAPAN PUNCH』1883(明治16)年5月号、
仮名垣魯文『絵新聞日本地』第1号、第2号
いずれも通期展示


上の写真手前は、ワーグマンが横浜の居留地で創刊した『THE JAPAN PUNCH』
時局諷刺画のことを指す「ポンチ」という言葉が使われたのは、この雑誌がきっかけとのこと。
そして奥は、当時の日本のジャーナリスト代表、仮名垣魯文。新聞小説の草分けで、『安愚楽鍋』が有名です。

ところで、『THE JAPAN PUNCH』表紙のサムライ、どこかで見たことありませんか。
そうです、横浜・馬車道にある神奈川県立歴史博物館の営業部長、「パンチの守(かみ)」です。(地元民でないと知らないかも)
神奈川県立歴史博物館ツィッター⇒https://twitter.com/kanagawa_museum


雑誌ブームに火がついた!

「ギェーッ」という悲鳴が聞こえてきそうなこの絵の作者は誰だと思いますか。

「團團珍聞」第508号 眼を廻す器械
前期展示

なんと、明治の東京の風景を描いたあの光線画の小林清親なのです。清親は、1882(明治15)年から8年間、「團團珍聞」に諷刺画を寄稿していたのでした。

そして、二人目の外国勢は、日本美術研究のために来日したフランスの画家、ジョルジュ・ビゴー。学校の教科書でもビゴーの諷刺画を見たことがあるのでは。
居留フランス人向けに発行した諷刺雑誌『TÔBAÉ』の表紙を飾るのは道化師の扮装をしたビゴー自身。
もしかしたらビゴーさん、副題に"JOURNAL SATIRIQUE"(諷刺雑誌)と注釈をつけて「鳥羽絵」という言葉をフランス人にも流行させたかったのかも。

ジョルジュ・ビゴー『TÔBAÉ』10号/33号
通期展示 

筆禍事件で3年間投獄されたあとも時代諷刺を続けたのが気骨のジャーナリスト宮武外骨。外骨が創刊した『滑稽新聞』はヒットして、明治後期の漫画雑誌ブームに火をつけました。

『滑稽新聞』 右 第109号 通期展示 
左 第120号 前期展示

同じく漫画雑誌ブームに火をつけたのが、日本初の職業漫画家とされる北沢楽天らが創刊した『東京パック』。ユーモラスな似顔絵が目を引きます。

第1次東京パック第1巻第4号
通期展示


ビゴーは官憲の追及をおそれて帰国しましたが、大正時代に「鳥羽絵」が甦りました!
こちらの『トバヱ』は、石井柏亭、平福百穂、岡本一平、近藤浩一路らが美術としての漫画の創造をめざして創刊したものです。

右 『トバヱ』第2巻第1号 通期展示
『トバヱ』第2巻第2号 前中期展示

大正時代にはアメリカ漫画の翻訳も出てきました。
ひょんなことから上流階級の仲間入りをしたジグスとマギー夫婦の日常生活を描いた漫画『親爺教育』。


ジョージ・マクマナス『親爺教育』第1集
通期展示

この頃になると、今の漫画と同じような体裁になってくるので読みやすそうです。

小星・東風人『お伽 正チャンの冒険』二の巻
通期展示




第3章 ストーリー漫画の台頭 ~昭和初期から終戦まで~



ナンセンス漫画の流行


下の写真右は、アメリカのナンセンス漫画を紹介したり、投稿欄には「フクちゃん」で知られる横山隆一の漫画も掲載した『月刊マンガ・マン』。


右から、『月刊マンガ・マン』第2年第3号、
『漫画の国』第1巻第3号、以上通期展示
『漫画の国』第1巻第5号 前期展示
 『漫画』第8巻第9号 通期展示


横山隆一といえば新聞4コマ漫画のフクちゃん。
1936(昭和11)年に朝日新聞東京版で「江戸っ子健ちゃん」の連載が始まったときは脇役だったフクちゃんは、のちに主役になって、戦後になって『毎日新聞』で連載が始まって、1971(昭和46)年まで5000回を超えて連載されたロングラン。私もかすかに覚えています。

横山隆一『江戸っ子健ちゃん』
通期展示

漫画界にも忍び寄る戦争の影

企画展の最後は、戦争の影が大きく映し出された戦前期の漫画。
多くの漫画家たちは、国家体制に組み込まれ、国威発揚、戦争推進のための漫画を描くことになります。

下の写真右は、平井房人が大阪朝日新聞に連載した漫画をまとめた単行本『家庭報国 思ひつき夫人』(1938(昭和13)年~1939(昭和14)年)。倹約をテーマにして人気を博した作品です。
下の写真左は、杉浦幸雄『ハナ子さん』(1942(昭和17)年。開いているページは戦地に赴いている兵士に送る慰問袋のお話。


右 平井房人『家庭報国 思ひつき夫人』全3集
杉浦幸雄『ハナ子さん』
いずれも通期展示

戦時下という厳しい状況の中でも日々、一生懸命生きようとする人たちの姿を見ていると、キュッと胸を締め付けられる思いがしました。
もしかしたら、この時代の漫画からは、今の平和な時代に向けて「二度と戦争を起こしてはならない」というメッセージが発信されているのかもしれません。


笑いに始まり、シリアスに締めた今回の特別展ですが、展示はこれだけではありません。
4階ラウンジに展示さている、すみだ北斎美術館・マンガ館 友好協力協定締結1周年記念「クラクフ ドラゴンとドラゴン」展もお見逃しなく!
※会期は特別展「GIGA・MANGA 江戸戯画から近代漫画へ」と同じです。
※「クラクフ ドラゴンとドラゴン」展も撮影不可です。


「クラクフ ドラゴンとドラゴン」展も見逃せない!



ポーランド南部の古都クラクフにある日本美術技術博物館マンガ(通称:マンガ博物館)とすみだ北斎美術館が友好協力協定を締結して一周年を記念指定開催されている「クラクフ ドラゴンとドラゴン」展
北斎へのオマージュ作品をはじめ、ポーランドの現代アーティストの作品は必見です!




建築家・磯崎新氏が地元クラクフの建築家と協力して設計したマンガ博物館も北斎の浮世絵風。


ダ・ヴィンチの貴婦人が抱いているのは白貂ではなく、お岩の霊。
非業の死を遂げたお岩の霊を優しく抱く貴婦人の姿が印象的です。



目を凝らせば富士山や神奈川沖浪裏も作品の中に見つけられるジャポニズムの版画。


冒頭に紹介した撮影スポットや、北斎さんに会えるAURORA(常設展示室)もあって盛りだくさんのすみだ北斎美術館。
今回紹介したのは前期展示ですが、中期後期も充実のラインナップ。
いつ来ても、三期全部来ても楽しい展覧会です。