2023年10月19日木曜日

京都国立博物館 特別展「東福寺」

京都を代表する禅宗の大寺院・東福寺の寺宝がまとめて見られる初めての機会となる展覧会、特別展「東福寺」が地元・京都の京都国立博物館で始まりました。

平成知新館1階ロビーのフォトスポット
紅葉を背景に通天橋の上にいる気分で記念撮影をぜひ!

この展覧会は、東京国立博物館で3月7日~5月7日に開催された特別展「東福寺」の巡回展ですが、東福寺の地元・京都で開催されるので内容はさらにパワーアップ。展示件数は東京より30件ほど多く、京都のみの展示も50件ほどあって、地元ならではの見どころ満載の展覧会なのです。

それでは、開幕に先立って開催された記者内覧会に参加しましたので、展示の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


展覧会名 特別展「東福寺」
会 期  2023年10月7日(土)~12月3日(日)
     【主な展示替】前期展示:10/7(土)-11/5(日)、後期展示:11/7(火)-12/3(日)
      ※会期中、一部の作品は上記以外にも展示替を行います。  
会 場  京都国立博物館 平成知新館
開会時間 午前9時~午後5時30分 ※入館は午後5時まで
休館日  月曜日
観覧料  一般1,800円(1,600円)、大学生1,200円(1,000円)、高校生700円(500円)
     ※カッコ内は団体料金(20名以上)。
     ※中学生以下、障害者手帳等をご提示の方とその介護者1名は無料(要証明)。  
     ※大学生・高校生の方は学生証をご提示ください。

展覧会の詳細、チケットの購入方法等は展覧会公式サイトをご覧ください⇒特別展「東福寺」

展示構成
 第1章 東福寺の創建と円爾
 第2章 聖一派の形成と展開
 第3章 伝説の絵仏師・明兆
 第4章 禅宗文化と海外交流
 第5章 巨大伽藍と仏教彫刻
   
※展示室内は一部を除き撮影禁止です。掲載した写真は主催者より許可を得て撮影したものです。

見どころ1 明兆作「五百羅漢図」全幅を公開!



今回の展覧会の見どころのひとつは、14年に渡る修理事業後に初めて公開される、東福寺の絵仏師で「画聖」とも崇められた明兆(1352-1431)の若き日の代表作「五百羅漢図」が、現存の47幅に後世の模写3幅を加えた全50幅公開されることです。


「第3章 伝説の絵仏師・明兆」展示風景

1幅に10人の羅漢を表した「五百羅漢図」は、ふだん仏画になじみのない私たちにとっては画面を見ただけではどのような場面なのかわからないものも多くありますが、作品ごとにつけられたわかりやすいサブタイトルと解説、さらに一部の作品には4コマ漫画による解説がついているのがとてもうれしいです。

例えば「五百羅漢図」のうち「第1号 経典奇瑞」のサブタイトルは「燃えない経典」。解説には「仏教と道教の法力比べ。道教経典は燃えてしまったが、仏教経典はピカッと光を放った。」と書かれているので、作品横の4コマ漫画とあわせて、だれが羅漢で、だれが道教の道士なのか、なぜ羅漢たちが喜び、道士たちが嘆いているのかがよくわかりました。

吉山明兆筆 重要文化財「五百羅漢図」のうち第1号「仏教奇瑞」
南北朝時代 至徳3年(1386) 京都・東福寺 展示期間 10/7-22

「五百羅漢図」の展示スケジュールは次のとおりです。

重要文化財 吉山明兆筆「五百羅漢図」(東福寺)
  第1~11号  10/7-22
  第12号       10/7-11/5
  第13~23号    10/24-11/5
  第24~34号  11/7-19
  第35~45号    11/21-12/3
重要文化財 狩野孝信筆「五百羅漢図」(東福寺)
  第46号    10/7-11/5
  第47号    11/7-12/3
重要文化財 吉山明兆筆「五百羅漢図」(東京・根津美術館)
  第48号    11/7-19
  第49号    11/21-12/3
「五百羅漢図」(復元模写) (東福寺)  通期展示

「五百羅漢図」(復元模型)は、これまで所在不明とされていた第50号を五百羅漢図下絵を参照して制作され、平成30年に完成したものですが、今年(2023年)になって原本がロシア・エルミタージュ美術館に保管されていることが判明しました。
現在の世界情勢では難しいですが、平和な世が訪れたらぜひ里帰り展を実現してほしいと思いました。

巨大な伽藍にふさわしい巨幅や連幅の明兆作品はまだまだ続きます。
下の写真左は、高さがゆうに3mを超える見上げるばかりの大作、重要文化財《白衣観音図》。前期展示(10/7-11/5)ですのでお見逃しなく!
後期(11/7-12/3)に展示される重要文化財《達磨・蝦蟇鉄拐図》も絵の部分だけで高さ2.66mもあり、明兆を代表する優品なので、こちらもぜひご覧いただきたいです。

吉山明兆筆 右《寒山・拾得図》 左 重要文化財《白衣観音図》
どちらも 室町時代(15世紀) 京都・東福寺 展示期間 10/7-11/5
 

見どころ2 特大サイズの仏像の迫力を実感! 



鎌倉時代に奈良の東大寺と興福寺を合わせたような大寺の造営を願って名付けられた東福寺ですので、仏像も特大サイズ。その迫力に圧倒されます。

「第5章 巨大伽藍と仏教彫刻」 展示風景

右手前と左奥の重要文化財《二天王立像》は、3.3mを超える仏像なので、ぜひ近くで見上げてその大きさを実感してみてください。

こちらは明治の火災で焼失した東福寺旧本尊の《仏手》《釈迦如来坐像(光背化仏》《蓮弁》(右から)。

右から《仏手》京都・東福寺、《釈迦如来坐像(光背化仏)》京都・南明院、
《蓮弁》京都・即宗院 いずれも東福寺旧本尊、
鎌倉~南北朝時代 14世紀 通期展示

中央の《釈迦如来坐像(光背化仏》は、現在は京都・南明院の本尊として祀られていますが、もとは旧本尊の光背につけられていた化仏の一つだったので、旧本尊がどれだけ大きかったか想像に難くありません。
展示室内ではここだけが撮影可のエリアですので、高さが2m以上もある巨大な《仏手》と並んでぜひ記念撮影を!


今まで紹介しきれませんでしたが、「第1章 東福寺の創建と円爾」、「第2章 聖一派の形成と展開」では展示室内をめぐりながら東福寺を創建した円爾(1202-80)、中国に渡った円爾が師事した無準師範(1177-1249)、そして円爾の法を伝える聖一派の僧たちの肖像(頂相(ちんそう)=禅僧の肖像画)や古文書などで東福寺の歴史をたどることができます。

「第1章 東福寺の創建と円爾」展示風景

「第2章 聖一派の形成と展開」展示風景

そして「第4章 禅宗文化と海外交流」には、中国から伝わった貴重な仏画や経典なども展示されていて内容盛りだくさん、見応え十分の展覧会です。

「第4章 禅宗文化と海外交流」展示風景



展覧会を見たあとのお楽しみは、やはり展覧会オリジナルグッズ。

京都限定のオリジナルグッズが新登場してグッズ種類も豊富なので、お帰りにはぜひミュージアムショップにお立ち寄りください。

ミュージアムショップ


なんと、東福寺オリジナルのペーパージオラマまで登場しています!
これはさすがに巨大はでなく、卓上に置くのにちょうどいいサイズです。



そしてもちろん、東福寺のすべてを収録した決定版の公式図録も全部で400ページ近くあって、ボリュームたっぷり。下の写真をご覧ください。これだけの厚みがあります。
持って帰るのは大変という方は、オンラインショップでご購入いただけます。詳しくは展覧会公式サイトをご覧ください。

特別展「東福寺」公式図録


京都国立博物館での特別展「東福寺」にあわせて、東福寺では「令和の大修理完成記念 東福寺大涅槃図特別公開」が行われます。
普段は一年のうち3月14日から16日までの3日間しか公開されませんが、今回は11月11日(土)から12月3日(日)まで公開されます。



京都国立博物館から東福寺は直線距離で2kmほどで、バスも通っています。
特別展「東福寺」とあわせて訪れてみてはいかがでしょうか。

2023年10月18日水曜日

大阪中之島美術館 特別展 生誕270年 長沢芦雪 ー奇想の旅、天才絵師の全貌ー

大阪中之島美術館では「特別展 生誕270年 長沢芦雪 ー奇想の旅、天才絵師の全貌ー」が開催されています。

4階展示室前のフォトスポット

今回の展覧会は、江戸時代中期に京都で活躍した絵師、長沢芦雪(1754-1799)の画業を紹介する、大阪では初めての回顧展。
近年では「奇想の画家」として注目を浴び、写実性を重視する円山応挙の門下の中でも、大胆な構図と奔放な筆致による独自の画風を切り開いた芦雪は特に好きな絵師でしたので、とても楽しみにしていました。

それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。


展覧会開催概要


会 期  2023年10月7日(土)~12月3日(日)
     前期:10月7日(土)~11月5日(日) 後期:11月7日(火)~12月3日(日)
      ※会期中、一部の作品は上記以外にも展示替を行います。
休館日  月曜日
開場時間 10:00~17:00(入場は16:30まで)
会 場  大阪中之島美術館 4階展示室
観覧料  一般1800円、高大生1100円、小中学生500円  

※チケットの購入方法、展覧会の詳細、関連イベント等は同館公式サイトをご覧ください⇒長沢芦雪展

展示構成
 1章 円山応挙に学ぶ
 2章 紀南での揮毫
 3章 より新しく、より自由に
 4章 同時代の天才画家たち

※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は記者内覧会で美術館の許可を得て撮影したものです。


見どころ1 個人蔵、初公開、前期後期でほぼすべて展示替~このチャンスは見逃せません!


今回の展覧会は、11点の初公開作品を含め前期後期で100点近くの芦雪作品が展示されるので、まさにサブタイトルにあるように「天才絵師の全貌」がわかる見応え十分の内容です。
ただし、一部を除き前期後期でほぼすべての作品が入れ替わり、普段は公開されない個人蔵も多くあるので、タイミングを逃したら二度と見られなくなる作品もあるかもしれません。公式サイトに掲載されている作品リストは要チェックです。

展示室に入ると長沢芦雪さんがお出迎えしてくれます。

長沢芦鳳《長沢芦雪像》江戸時代 19世紀
千葉市美術館 展示期間10/7-11/5
(11/7-12/3には加藤頴泉《長沢芦雪像》(和歌山・草堂寺)が展示されます。) 

作者の長沢芦鳳は芦雪の養子となった長沢芦洲の子。優しいおじいちゃんを描いたからなのでしょうか、型破りな画風そのものの人かと思っていましたが、温和で落ち着きのある感じの方なので、何となく心がなごんできました。


「1章 円山応挙に学ぶ」には、師・応挙と芦雪の作品が並んで展示されているので、芦雪が応挙から受けた影響の大きさがよくわかります。
虎の毛皮を観察して虎の絵を描いた応挙のように、虎の毛並みは細かく描かれていて、女性の表情もしぐさもよく似ています。

「1章 円山応挙に学ぶ」展示風景


応挙からの影響で忘れてはならないのは、可愛くてもふもふな仔犬たち。
仔犬の師弟競演もぜひご覧いただきたいです。

長沢芦雪《人物鳥獣画巻》江戸時代 18世紀
京都国立博物館 展示期間10/7-11/19


個人蔵の作品も優品が揃っています。
「3章 より新しく、より自由に」に展示されている《蹲(うずくま)る虎図》は、獰猛な虎が牙をむいてこちらににらみを利かせている様子を描いているのですが、どことなくユーモラス。やはりモデルは虎でなく猫?

長沢芦雪《蹲る虎図》江戸時代 寛政6年(1794)
個人蔵 展示期間10/7-11/5

大胆さが特徴の芦雪ですが、前期展示の最後には、意外にも芦雪の繊細な一面が見られる作品が展示されています。
こちらも個人蔵の《蕗図》は、秋田蕗に絵具を塗って紙に押し付けて写し取った作品ですが、そこに芦雪が加筆した数多くの蟻は触覚まで詳細に描かれているのです。
さて何匹の蟻がいるのか、ぜひお近くでご覧ください。

長沢芦雪《蕗図》江戸時代 18世紀 個人蔵
展示期間10/7-11/5



見どころ2 芦雪が紀南地方で描いた作品がまとまって見られる!


天明6年(1786)から翌年2月にかけて芦雪は和歌山の紀南地方を訪れ寺院の襖絵を描きましたが、中でもよく知られているのが本州最南端の町・串本にある無量寺の《龍図襖》と《虎図襖》。どちらも重要文化財で、今回の展覧会では前期(10/7-11/5)に展示されています。

《龍図襖》《虎図襖》をはじめとした芦雪や応挙の作品は、現在では無量寺境内にある串本応挙芦雪館で公開されているのですが、大阪・天王寺から特急くろしおに乗って串本まで約3時間かかり、それだけの時間をかけて行っても荒天時は文化財保護のため収蔵庫の入館ができないので、芦雪や応挙の襖絵が見られないこともあるのです。
(筆者は台風シーズンなどを避け、年末年始にかけて行ってきました。)

今回の展覧会では、無量寺のほかにも和歌山県田辺市にある高山寺などが所蔵する芦雪作品が一堂に会すのですから、こんなうれしいことはありません。

下の写真左は高山寺が所蔵する《寒山拾得図》。芦雪らしい筆の勢いが感じられます。
右の《酔李白・山水・瀧図》は個人蔵で今回が初公開の作品です。
左幅の瀧図の大胆な構図はいかにも芦雪。
中央の酔いつぶれた李白の顔は冒頭の芦雪の顔にどことなく似ているように見えてきました。これは自画像?などと想像してしまいます。

左 和歌山県指定文化財 長沢芦雪《寒山拾得図》江戸時代
天明7年(1787) 和歌山 高山寺 展示期間10/7-11/5 
右 長沢芦雪《酔李白・山水・瀧図》江戸時代 18世紀
個人蔵 通期展示 

芦雪が描く動物たちはどれも可愛いのが特徴ですが、この《朝顔に蛙図襖》の蛙たちはとぼけた表情をして可愛げです。朝顔の花を愛でているようにも見えます。

田辺市指定文化財 長沢芦雪《朝顔に蛙図襖》江戸時代 天明7年(1787)
和歌山 高山寺 展示期間10/7-11/5



芦雪が活躍した18世紀後半の京都では、師の応挙はじめ伊藤若冲、与謝蕪村、池大雅、曽我蕭白などの絵師たちが活躍して多士済々の様相を呈していました。
「4章 同時代の天才画家たち」では、「3章 より新しく、より自由に」の芦雪作品と並んで若冲や蕭白の作品が展示されているので、当時の京都画壇の盛り上がりぶりをうかがうことができます。


右から 長沢芦雪《旭日大亀図》、伊藤若冲《達磨図》
どちらも MIHO MUSEUM、伊藤若冲《桃花双鶏図》個人蔵
いずれも江戸時代 18世紀 展示期間10/7-11/5 
 


展示を見た後の大きなお楽しみのひとつは何といっても展覧会オリジナルグッズではないでしょうか。
作品のカラー図版はもちろん、コラムも作品解説も関連年表も掲載された展覧会公式図録は永久保存版です。図録は鮮やかなピンク色の表紙が目印。可愛い仔犬たちがデザインされたトートバッグは図録でセットで購入するとお得です。

ミュージアムショップ

ユーモラスな表情の《蹲る虎図》の虎はクッションになっていました!



まさに天才絵師・長沢芦雪の決定版ともいえる展覧会。
これは見逃すわけにはいきません。

2023年10月17日火曜日

東京都美術館 永遠の都ローマ展

東京・上野公園の東京都美術館では「永遠の都ローマ展」が開催されています。


展示室入口看板

二千年を超える歴史と文化をもつ永遠の都ローマは、古くから多くの人を魅了してきました。
そして、今年(2023年)は、明治政府が欧米に派遣した「岩倉使節団」がローマにあるカピトリーノ美術館を訪れて150年にあたる節目の年。のちの日本の博物館施策に大きな影響を与えた使節団の訪欧から150年の節目の年に、ローマの姉妹都市・東京でカピトリーノ美術館のコレクションをまとめて見ることができる日本での初めての機会がやってきました。

開幕前から期待でわくわくしていましたが、報道内覧会に参加する機会がありましたので、さっそく展示室内の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 期  2023年9月16日(土)~12月10日(日)
休室日  月曜日
開室時間 9:30~17:30、金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
観覧料  一般2,200円、大学生・専門学校生1,300円、65歳以上1,500円
     ※土日・祝日のみ日時指定予約制(当日の空きがあれば入場可)
     ・高校生以下無料
     ・身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康   
      手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料。
     ・高校生、大学生・専門学校生、65歳以上の方、各種お手帳をお持ちの方は、い
      ずれも証明できるものをご提示ください。
     

展覧会の詳細、日時指定予約等については展覧会公式サイトをご覧ください⇒永遠の都ローマ展


巡回展情報
 福岡会場  会 期  2024年1月5日(金)~3月10日(日)
       会 場  福岡市美術館 

※展示室内は撮影不可です。掲載した写真は報道内覧会で主催者より特別の許可を得て撮影したものです。
※2点だけ撮影可の作品があります。のちほどご紹介します。

展示構成
 Ⅰ ローマ建国神話の創造
 Ⅱ 古代ローマ帝国の栄光
 Ⅲ 美術館の誕生からミケランジェロによる広場構想
 Ⅳ 絵画館コレクション
 Ⅴ 芸術の都ローマへの憧れー空想と現実のあわい
 特集展示 カピトリーノ美術館と日本  


海外の美術館の展覧会の大きな魅力のひとつは、日本に居ながらにして海外に行った気分になれることではないでしょうか。

展示の順番は前後しますが、はじめに奇跡の初来日を果たした《カピトリーノのヴィーナス》からご紹介します。

《カピトリーノのヴィーナス》2世紀 大理石
カピトリーノ美術館蔵


《カピトリーノのヴィーナス》は、教皇クレメンス10世(在位1670-76)の在位中にサン・ヴィターレ聖堂付近から出土したもので、1797年に教皇庁からナポレオン指揮下のフランス軍によって接収されてルーブル美術館に所蔵されましたが、ナポレオン失脚後の1816年にローマに返還されたという数奇な運命をたどった彫像でした。
1834年以降はカピトリーノ美術館の「ヴィーナスの間」と呼ばれる八角形の小部屋に展示されていますが、この東京でも八角形に区切られた空間で見られるのがうれしいです。

展覧会チラシなどのメインビジュアルになっている《カピトリーノのヴィーナス》は、東京展のみの展示ですので、ぜひこの東京でまるで現地で見ているようなこの空間をお楽しみいただきたいです。


そして、もう一つメインビジュアルになっているのは、帝国の栄華を象徴する《コンスタンティヌス帝の巨像》の頭部を原寸大で複製した作品。《コンスタンティヌス帝の巨像》は頭部だけで約1.8メートルのスケールをもちます。

コンスタンティヌス帝は、分裂していた帝国を再統一したローマ皇帝(在位306-37)で、キリスト教を公認したことや、コンスタンティノポリス(コンスタンティノープル 現在のイスタンブル)を首都とする基礎を築いた皇帝としても知られています。


《コンスタンティヌス帝の巨像の頭部(複製)》
1930年代(原作は330-37年)、石膏にブロンズ(原作はブロンズ)
ローマ文明博物館蔵

この巨大な頭部の原作はブロンズ製でカピトリーノ美術館が所蔵していますが、複製とはいっても原寸大なので、近くで見上げるとその大きさに圧倒されます。
頭部と並んで展示されている左手と左足の複製とあわせて、巨像の巨大さを想像してみたいです。

少し先走りしましたが、地下1階の展示の冒頭に戻ります。

Ⅰ ローマ建国神話の創造


ローマ建国神話でよく知られているのは、双子のロムルスとレムスが牝狼に育てられ、のちにロムルスが初代ローマ王になったというエピソード。

「Ⅰ ローマ建国神話の創造」展示風景

この《ボルセナの鏡》の背面にはロムルスとレムスがパラティーノの丘のふもとのルペルカル洞窟で発見された場面が線刻で見事に描かれているので、目を凝らしてご覧になってみてください。

《ボルセナの鏡》前4世紀 ブロンズ
カピトリーノ美術館蔵


Ⅱ 古代ローマ帝国の栄光


続いては、カエサル、アウグストゥス、トラヤヌス帝など世界史の授業で習ったことのあるローマの皇帝や政治家、そして皇后と思われる女性の彫像がずらりと並んでいます。

「Ⅱ 古代ローマ帝国の栄光」展示風景


中でも印象的なのが、ローマ市内に大浴場を建設したことで知られるカラカラ帝(在位211-17)。
暗殺や、税収増を目的として領内の全自由人に市民権を与えたり、貨幣改悪によってインフレを起こしたりなど、悪名が高い皇帝でしたが、やはり近寄りがたい雰囲気が感じられます。

《カラカラ帝の肖像》212-17年 大理石
カピトリーノ美術館分館 モンテマルティーニ美術館蔵


続いて1階展示室に移ります。

Ⅲ 美術館の誕生からミケランジェロによる広場構想


カピトリーノ美術館の原形ができたのは古く、1471年に教皇シクストゥス4世(在位1471-84)が《カピトリーノの牝狼》《コンスタンティヌス帝の巨像》、《カミッルス》《とげを抜く少年》をローマ市民に返還/寄贈し、公開したのが始まりでした。
(今回の展覧会では《とげを抜く少年》を除く3点の複製(《コンスタンティヌス帝の巨像》は一部原寸大複製)が展示されています。)

「Ⅲ 美術館の誕生からミケランジェロによる広場構想」展示風景

1537年に教皇パウルス3世(在位1534-49)が《マルクス・アウレリウス帝騎馬像》をカピトリーノの丘に移したことをきっかけに始まったカンピドリオ広場の整備計画を任されたのが、イタリア・ルネサンスを代表する芸術家の一人、ミケランジェロでした。

自分の姿を描かれるのを嫌ったミケランジェロの表情が少しはにかんだように見えるのは気のせいでしょうか。

トスカーナの画家(16世紀)《ミケランジェロ・ブオナローティの肖像画》
1535年以降 油彩・板 カピトリーノ美術館 絵画館蔵


Ⅳ 絵画館コレクション


既存の作品群と新たに購入した古代遺物コレクションを一般市民に公開して、1734年に創立されたカピトリーノ美術館は、1750年には絵画コレクションを加えて絵画館を開館しました。赤い壁面に肖像画や宗教画がずらりと並ぶ様は、これぞヨーロッパの美術館という感じがします。

「Ⅳ 絵画館コレクション」展示風景


そして最後に2階展示室に入ります。

Ⅴ 芸術の都ローマへの憧れー空想と現実のあわい


中世、ルネサンス期以降、多くの芸術家やヨーロッパの君主たちを魅了したのが、約40メートルもの高さのトラヤヌス帝記念柱でした。

《トラヤヌス帝記念柱、1/30縮尺模型》1960年代(原作は113年)
雪花石膏 ローマ文明博物館蔵

五賢帝の一人でローマ帝国の領土を最大にしたトラヤヌス帝(在位98-117)が、ダキア戦争に勝利してダキア(現在のルーマニア)を属州としたことを記念して建てられたもので、長さ約200メートルに及ぶ螺旋状に連続した浮彫には戦闘の様子などが詳細に描かれています。

浮彫の一部の場面の複製も展示されています。
今回来場者による撮影可の作品はこの2点です。撮影する際は、会場に掲示されている注意事項をお守りください。

左 《モエシアの艦隊(トラヤヌス帝記念柱からの石膏複製)》
右 《デケバルスの自殺》(トラヤヌス帝記念柱からの石膏複製)
どちらも1861-62年(原作は113年) 古色加工を施した石膏
ローマ文明博物館蔵


特集展示 カピトリーノ美術館と日本


カピトリーノ美術館と日本とは実は深いご縁がありました。
冒頭で「岩倉使節団」がカピトリーノ美術館を訪れたことはご紹介しましたが、特集展示では、彼らが現地で入手したと思われる絵葉書などから制作された視察報告書『米欧回覧実記』の挿絵が展示されています。
また、1876(明治9)年に日本最初の美術教育機関として設立された工学寮美術校(のちの工部美術学校)に教材として持ち込まれた石膏像のうち《アリアス》の名で親しまれている石膏像はカピトリーノ美術館所蔵の《ディオニュソスの頭部》を原作としているのですが、今回はその《ディオニュソスの頭部》とあわせて、《アリアス》を模した作品《欧州婦人アリアンヌ半身》が並んで展示されています。


「特集展示 カピトリーノ美術館と日本」展示風景
手前右から 小栗令裕《欧州婦人アリアンヌ半身》1879年(明治12)年 石膏
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻蔵
《ディオニュソスの頭部》2世紀半ば 大理石 カピトリーノ美術館蔵


時代も空間も超えてカピトリーノ美術館と日本とを結びつける二つの像が並ぶ光景は感動的でもあります。

展覧会を見たあとの楽しみは展覧会オリジナルグッズ。
お帰りにはぜひ特設ショップにもお立ち寄りください。

全出品作品の詳細な解説に加え、主要作品には拡大図も掲載されている展覧会公式図録もおすすめです。

特設ショップ



それにしても、ローマ展オリジナルキャラクターのこのオオカミ、かわいすぎる!




展示室1Fエスカレーター横にはコンスタンティヌス帝の巨大な頭部の原寸大フォトスポットがあるので、一緒に並んで記念写真をとってその大きさを実感してみてください。



ローマの大きさも歴史も、日本とのご縁も感じられる充実した内容の展覧会です。
会期は12月10日(日)までですが、会期末になると混雑することが多いので、お早めにご覧ください!

2023年10月9日月曜日

三井記念美術館 特別展「超絶技巧、未来へ! 明治工芸とそのDNA」

東京・日本橋の三井記念美術館では特別展「超絶技巧、未来へ! 明治工芸とそのDNA」が開催されています。

展覧会チラシ

今回の展覧会は、2014~15年に全国巡回した「超絶技巧!明治工芸の粋」展、2017~19年に全国巡回した「驚異の超絶技巧!明治工芸から現代アートへ」展に続く「超絶技巧」シリーズの第3弾。
今回は、金属、木、陶器、漆、ガラス、紙などの素材を用い、現在進行形で新たな表現に挑戦する現代作家のアッと驚く作品を中心に、超絶技巧のルーツでもある明治工芸の逸品もあわせて見られる超豪華な内容の展覧会です。

それでは先月開催された《超絶!SNS内覧会》に参加してきましたので、会場の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 期  2023年9月12日(火)~11月26日(日)
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日  月曜日(ただし10月9日は開館)、10月10日(火)
入館料  一般1,500円(1,300円)、大学・高校生1,000円(900円)、中学生以下無料
     (カッコ内は団体(20名以上)料金) 
    *70歳以上の方は1,200円(要証明)
    *リピーター割引:会期中一般券、学生券の半券のご提示で、2回目以降は団体料金
     となります。
    *障害者手帳をご呈示いただいた方、およびその介護者1名は無料です(ミライ
     ロIDも可)。
※展覧会の詳細、展覧会関連イベント等については、同館ホームページをご覧ください⇒三井記念美術館

※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は《超絶!SNS内覧会》にて許可を得て撮影したものです。
※一部撮影可の作品があります。
※所属先に記載のない作品は個人蔵です。


今回の超絶技巧展も驚きの連続でしたが、受付のあるエントランスホールの展示にまずは驚かされました。

金属を叩いて変形させる鍛金(たんきん)の中でも特に最も難しいとされる鉄鍛金の技法を独自の研究で現代に復活させて立体作品を制作している本郷真也さんの《Visible 01 境界》は、烏を実物大で表した作品ですが、ただの烏ではないのです。

本郷真也《Visible 01 境界》2021年 鉄、赤銅、銀

初めに骨格と筋肉を形にした上から羽を一枚ずつ重ね付け内部構造まで造り上げ、さらには烏が餌と間違えて飲み込んだキャンディーの袋のかけらを銀で表して胃の中に置いたというしろもの。
右上のモニターにはCTスキャンによって撮影された内部の構造が映し出されています。
レーザー光線によってどの部分がスキャンされているわかるので、その場で胃の中や内部構造を確認してみてください。 

展示前室でもまたまた驚かされました。

古代エジプトのオベリスクを思わせるような形をした作品は池田晃将さんの《Airtifact03》。
表面に黒漆を施した木の上に、夜光貝や鮑貝などの真珠色に光る部分を漆地の面に貼り付けたり、嵌め込む螺鈿という技法で0~9の数字を並べている作品ですが、まるで電子機器の基板のようにも見えてきます。
螺鈿という古来からの技法と現代的なデザインが不思議な魅力を醸し出しているのかもしれません。

池田晃将《Artifact03》2019年 漆、栃、鮑貝


展示室に入る前にすっかり驚かされてしまいましたが、展示室に入ってからも驚きの作品が続きます。

展示室1 入口


展示室1の入口左に見えるオレンジのマークは写真撮影可の印です。このマークのある作品は撮影ができるので、ハッシュタグ「#超絶技巧展」「#三井記念美術館」をつけてSNSにアップしましょう!


《超絶!SNS内覧会》には、木彫作品を出展されている福田享さんが特別に参加されていて、制作の際に苦心したことなどをおうかがいすることができました。

こちらは板の上の水滴の表現が話題になっている《吸水》。

福田享《吸水》2022年
 黒檀、黒柿、柿、真弓、朴、苦木、柳、ペロバローザ

現代作家の作品は、出品目録に作家名、作品タイトル、制作年とあわせて素材の記載がありますが、超絶技巧の作品は素材にも注目したいので作品紹介のキャプションにも記載しました。

1994年生まれで、今回の展覧会に出品されている17人の作家の中では最年少の福田享さんのこだわりは木の色。
この《吸水》でも多くの種類の木が使われていますが、着色ではなくすべてオリジナルの木の色で、アゲハチョウの羽も黄色の木を嵌め込んだ「立体木象嵌」。そして板の上の水滴も貼り付けたのではなく、一枚の板を彫って浮き彫りにしたもので、水滴部分だけ研磨してつやを出すのに苦労されたとのこと。

《吸水》は福田さんのこだわりがぎゅっと詰まった作品なのです。

展示室2に移ります。

毎回、三井記念美術館が所蔵する国宝《志野茶碗 銘卯花墻》はじめそれぞれの展覧会の逸品が展示される展示室2には、大竹亮峯さんの木彫作品《月光》が展示されています。

動物や植物などを精緻に写し取り、「動く彫刻」が多いのが大竹さんの特徴ですが、1年に1度、夜にだけ大輪の花を咲かせるといわれる月光を表したこの作品も、花器に水を注ぐとゆっくりと花が開く仕掛けになっているのです。
展示中は花が開いた状態になっていますが、エントランスホール横の映像ギャラリーで花が開く様子の映像を見ることができるのでぜひご覧ください。

大竹亮峯《月光》2020年 鹿角、神代欅、楓、榧、チタン合金


普段は茶道具が展示されている国宝の茶室「如庵」を再現した展示室3にも現代の超絶技巧の作品が展示されています。
下の写真手前は、素材を薄さ数ミリまで彫り込み、生と死の境界を作り上げる松本涼さんの木彫《涅槃》。枯れゆく大菊の姿を悟りを開いて入滅する釈迦の姿に見立てたこの作品は、侘び寂びの世界にとてもしっくりくるように感じられました。


展示室3 展示風景
手前 松本涼《涅槃》2021年 樟 


展示室4に移ります。

展示室4 展示風景
手前 本郷真也《円相》2023年 鉄、金

こちらも話題沸騰のスルメ。
前原冬樹さんの木彫作品なのですが、近くで見てもスルメにしか見えません。
そして横にある茶碗もどう見ても陶器の茶碗にしか見えません。
しかしこの作品の材質は木、それも一本の木なのです。タイトルの《一刻》にあるように一木にこだわる前原さんならではの作品です。

前原冬樹《《一刻》スルメに茶碗》2022年 朴、油彩、墨


展示室4から5にかけては明治工芸の逸品が登場してきます。

展示室5 展示風景


展示室5の七宝作品の中で見覚えのあるデザインを見つけました。
橋本雅邦と並んで明治初期の近代日本画界のスーパースター・狩野芳崖の絶筆とされる《悲母観音》(現東京藝術大学大学美術館蔵)をもとに制作された花瓶ですが、もともと原画が好きなので、心の中で「これはほしい!」と叫んでしまいました。
作者の柴田については、詳細は不詳とのことですが、ものすごい腕前の名工だったことはこの作品を見てよくわかりました。

柴田《悲母観音図花瓶》清水三年坂美術館蔵


香合や印籠など小さな作品が間近に見られる展示室5では何が展示されているのだろうと考えながら中に入ろうとしたら、なぜかそこは暗室のように暗く、光り輝くガラスの作品が展示されていました。
この作品は、2022年に41歳の若さで逝去された青木美歌さんの《あなたと私の間に》。
まるで空中に浮遊しているようなこの作品には、上と下から光が当たり、天井と床に影が映し出されていて、この空間そのものが一つのインスタレーションになっています。
光と影の幻想的なページェントをぜひご覧いただきたいです。

青木美歌《あなたと私の間に》2017年
ガラス、ステンレススティール


最後の展示室7には金工、漆工、陶磁など明治工芸の粋が詰まった作品が展示されています。
中央の独立ケースに展示されているのは、無銘なので名の知れない名工が制作した《鳩の親子》。
雀のように丸みを帯びた鳩や、口を大きく開けて餌を求めるひな鳥がとても可愛らしいです。
鳩の胴体は、今では商業取引が原則禁止されている象牙、丸い胴体を支える足は真鍮製。
そして目には黒蝶貝を嵌め込んでいるので、うるんだ瞳に胸がキュンとなること間違いなしです。

展示室7 展示風景
中央 無銘《鳩の親子》


ほかにもまだまだ紹介しきれないほど多くの作品が展示されているので、この機会にその場でぜひ超絶技巧の粋をお楽しみいただきたいです。


展覧会オリジナルグッズももりだくさん。ミュージアムショップにもぜひお立ち寄りください。
するめのトートバッグ発見!来館記念にいかがでしょうか。

ミュージアムショップ


展示作品のカラー図版と詳しい解説が掲載された展覧会公式図録もおすすめです。
永久保存版です!



巡回展情報
 岐阜県現代陶芸美術館 2023年2月11日(土・祝)~4月9日(日)【終了】
 長野県立美術館        2023年4月22日(土)~6月18日(日)【終了】
 あべのハルカス美術館 2023年7月1日(土)~9月3日(日)【終了】
 三井記念美術館    2023年9月12日(火)~11月26日(日) ⇒開催中! 
 富山県水墨美術館   2023年12月8日(金)~2024年2月4日(日)
 山口県立美術館(予定) 2024年9月12日(木)~11月10日(日)
 山梨県立美術館(予定) 2024年11月20日(水)~2025年1月30日(木)