2018年7月29日日曜日

山種美術館「水を描くー広重の雨、玉堂の清流、土牛のうずしおー」

暑い夏にふさわしい涼しげな展覧会が始まりました。
山種美術館で開催されている企画展「水を描くー広重の雨、玉堂の清流、土牛のうずしおー」です。
雨に川、海の波やうずしお、それに滝、どの作品も見ているとどこからともなく爽やかな風が吹いてくるようで、すがすがしい気分になってきます。


会期は9月6日(木)まで。
展覧会の詳細はこちらをご参照ください→山種美術館公式サイト

それではさっそく先日開催された特別内覧会に沿って展覧会の様子を紹介したいと思います。
※掲載した写真は、美術館の特別の許可を得て撮影したものです。


1 山種美術館 山﨑館長ごあいさつ

「今回の企画展は江戸後期の広重から近代の川合玉堂や奥村土牛、現代の奥田元宋、千住博まで、雨や川、波や滝など、水の様々な姿を描いた作品を展示しています。暑い夏に清涼感あふれる作品をご覧になっていただきたいと思います。」

「 今回撮影可能な作品は、川端龍子《鳴門》です。」


川端龍子《鳴門》(山種美術館)


「Cafe椿では出展作品にちなんだオリジナル和菓子をご用意しています。」

下の写真、中央が松岡映丘《山科の宿》のうち「雨やどり」をイメージした「今昔」、右上から時計回りに「波涛」(橋本関雪《生々流転》)、「涼やか」(小林古径《河風》)、「花の雫」(小茂田青樹《春雨》)、「白波」(川端龍子《鳴門》)(カッコ内はイメージした作品でいずれも山種美術館蔵)。

抹茶とオリジナル和菓子のセットで1,100円、テイクアウトは1個510円(2個から可)。
どれも美味なので、どれにするか迷ってしまいそうです。


「ショップでは展覧会にちなんで、広重のクリアファイル他を販売しています。」

広重のクリアファイルは広げるとこうなっています。東海道五拾三次すべての図柄付です。




「次回展覧会は9月15日から始まる企画展「日本美術院創立120年記念 日本画の挑戦者たち-大観・春草・古径・御舟-」です。」
「この展覧会では、9月28日から公開される映画『散り椿』にちなんで速水御舟《名樹散椿》(重要文化財 山種美術館)を10月16日から展示する予定です。また、関連イベントとして宮廻正明氏(日本画家、東京藝術大学名誉教授)の講演会『朦朧体に挑んだ日本画家』を開催します。ぜひこちらもご参加いただければと思います。




2 山下裕二氏(山種美術館顧問、明治学院大学教授)見どころ紹介

「今回の展覧会は水がテーマ。古くは《鳥獣戯画》甲巻では、うさぎが水に飛び込む
シーンが描かれていました。また、中世では雪舟《山水長巻》の海面の波の描写、さらに江戸琳派の青の水流の表現など、日本では古くから水が描かれていました。」

「日本は水に恵まれている一方、つい先日も西日本で豪雨があり、大きな被害をもたらしました。」

山下さんは広島県呉のご出身とのこと。地元の呉も大きな被害を受けました。
「子どもの頃からなじんでいた木造の橋が流されたところをテレビで見て、自分の故郷が持っていかれてしまったというつらい気持ちになりました。」としんみりとお話されていました。

さて、作品の紹介に移ります。
はじめに、「第一章 波と水面のイメージ」のうち「川-流れる水」。

今村紫紅《富士川》(1915(大正4)年)は、余白がほとんどなく、画面の下からモチーフを積み上げていく構図、どことなく頼りなさそうな筆致。
「これらの特徴は江戸時代の南画の影響を受けたもので、こういった作風は「大正時代に流行して『新南画』と言わました。」と山下さん。

今村紫紅《富士川》(山種美術館)

続いて山元春挙《清流》(1927-33(昭和2-8)年頃)。
春挙は、当時としては珍しくカメラを本格的に使っていて、自分が撮った写真を参考に絵を描くという手法をとっていました。
「崖が画面上部に描かれていて、そこから下は水面下を描き、その水面の上を鳥が飛ぶという大胆な構図の作品です。」

山元春挙《清流》(山種美術館)

続いて「水面の表現」。

「竹内栖鳳《緑池》(1927(昭和2)年頃)は私の特に好きな作品です。」と山下さん。
「緑の池に一匹の蛙。水中の体はグラデーションで表現されています。栖鳳の作品のおもしろさの一つは落款の位置の絶妙さです。蛙を少し右に配置して落款を左上に置いています。」

竹内栖鳳《緑池》(山種美術館)

次に東山魁夷《緑潤う》(1976(昭和51)年)。
この作品は「京洛四季」の連作で、「今回の展覧会にふさわしい作品なので、展示室の冒頭に展示しました。」と山下さん。
「京洛四季」は、魁夷が川端康成から「京都は今描いといていただかないとなくなります。京都のあるうちに描いておいてください。」という言葉に心を動かされて描いたというエピソードがあります。

展示室風景(手前が東山魁夷《緑潤う》(山種美術館))

「海ー波の躍動感」

橋本関雪《生々流転》(1944(昭和19)年)
「この作品は関雪がどういう意図で描いたのかわからない、6曲2双の謎めいた大作です。
《生々流転》といえば、横山大観の大作の絵巻(1923(大正12)年)を思い浮べますが、それから20年以上経過して、大観への対抗意識であえてこのタイトルをつけたのでしょうか。」と山下さん。
雨は幅広い刷毛で大胆に表現されていて、荒れ狂う波の激しさと相まって、迫力の大画面。関雪の気迫が伝わってくるような作品です。

橋本関雪《生々流転》(山種美術館)

第二章 滝のダイナミズム

「川合玉堂《松間飛瀑》(1942(昭和17)年頃)は、柔らかみのある《渡頭の春》(1935-43(昭和10-18)年頃)と作風が異なり、狩野派的、中国的なカチッとしたスタイルの作品です。」

川合玉堂《松間飛瀑》(山種美術館)

川合玉堂《渡頭の春》はこちらです。

川合玉堂《渡頭の春》(山種美術館)


千住博《ウォーターフォール》(1995(平成7)年)

現在、大阪の堂島リバーフォーラムで千住博&チームラボ コラボレーション展が開催されています。動きのある滝とチームラボは夏らしくて何とも相性のよさそうなコラボですね。

手前が千住博《ウォーターフォール》奥が《フォーリングカラーズ》
(いずれも山種美術館)


第三章 雨の情景

歌川広重(初代)「東海道五拾三次之内」《庄野・白雨》(1833-36(天保4-7)年頃)
「広重の東海道五拾三次の中でも一番好きな一枚。右から降る雨と左に上がっていく坂の線がほぼ直角になっている構図が素晴らしいです。」

歌川広重(初代)「東海道五拾三次之内」《庄野・白雨》(山種美術館)

後期(8/7-9/6)に展示される歌川広重(初代)《名所江戸百景 大はしあたけの夕立》(1857(安政4)年 山種美術館)は「ゴッホが模写したことで知られていますが、雨は平行線に描かれていません。これは急に降った様子を表しているからなのです。」と山下さん。

竹内栖鳳《雨中山水》(1932(昭和7)年頃)
「墨でグラデーションをつけて雨を表現している作品です。この作品も落款の位置に注目です。」

竹内栖鳳《雨中山水》(山種美術館)

松岡映丘《山科の宿》のうち「雨やどり」(1918(大正7)年)
「個人的には一番ほしい作品です(笑)。この作品では左の軒下に白い線で雨がしたたる様子を表しています。」

松岡映丘《山科の宿》のうち「雨やどり」(山種美術館)

この第三章では雨の細やかな描写の違いもじっくり見てみたいですね。

「今回の展覧会では、暑い夏に涼しげな作品を展示しています。涼しい展示室でぜひ作品を楽しんでください。」(拍手)

3 ギャラリートーク(山種美術館特別研究員 三戸さん)

新南画の潮流
「川合玉堂《渡頭の春》、今村紫紅《富士川》、小林古径《河風》の水の表現はプロらしくない描き方に見えないでしょうか。これらは明治の終わりから大正にかけて、南画が見直されてきた時代の作品です。」と三戸さん。

川合玉堂《渡頭の春》(山種美術館)

左が今村紫紅《富士川》、小林古径《河風》
右は平福百穂《清渓放棹》
(いずれも山種美術館)

「南画」はもともと、中国華北地方を中心とした北宗画(院体画)に対して、江南地方を中心として栄えた南宗画(=文人画)が起源で、江戸時代後半に日本でも流行したのですが、明治に入ってその形骸化したスタイルが『つくね芋山水』と揶揄されました。
そしてこの時期に今村紫紅らは職業画家でない文人(士大夫)たちのように「プロっぽくない」画風で描きました。

水面の表現

「速水御舟《埃及土人ノ灌漑》(1931(昭和6)年)では、エジプトの暑く乾いた空気を表すため、絹地の裏に金箔を貼る「裏箔」がほどこされています。水は一見すると青でなく、緑色に見えますが、異国情緒が感じられる表現になっています。」

速水御舟《埃及土人ノ灌漑》(山種美術館)


小野竹喬《沖の灯》(1977(昭和52)年)
「漁火や海面に写る夕陽の単純化された桃色が映えるこの作品は、若々しさが感じられますが、実は竹喬最晩年の作です。『単純化』は琳派に倣ったものといえます。」

小野竹喬《沖の灯》(山種美術館)


今年1月に東京藝術大学退官記念展を拝見した宮廻正明さんの作品も展示されていました。
薄い紙に裏から彩色していく『裏彩色』で描いた宮廻さんの《水花火(螺)》(2012(平成24)年)。
「海面の表現や投網の表現の細やかさ、このディテールを見てください。」

宮廻正明《水花火(螺)》(山種美術館)


海の表現

橋本関雪《生々流転》(1944(昭和19)年)
「一見、墨と青色だけの海面に見えますが、水面の表現に銀泥が使われています。」
確かに斜め下から見ると、キラキラ輝いているように見えます。

橋本関雪《生々流転》(部分)(山種美術館)


川端龍子《鳴門》(1929(昭和4)年)
「最初は神奈川の江ノ浦の景色を描こうとしましたが、自らが青龍社を立ち上げ、この作品を第1回青龍展に出品したときだったので、その高揚感が表されたダイナミックな海の表現となったのでしょう。龍子は実際に鳴門を見たのでなく、想像で描きました。」
高価な群青を6斤(約3.6kg)も使った大作です!
川端龍子《鳴門》(山種美術館)



奥村土牛《鳴門》(1959(昭和34)年)
奥様に着物の帯をつかんでもらって舟から乗り出すように鳴門の渦を写生したというエピソードがある作品。
「等寸大の下絵を描かなかったので、土牛は鳴門での強烈な体験をそのまま描いたのではないでしょうか。」
龍子の《鳴門》と比べると静かな迫力が感じられます。

奥村土牛《鳴門》(山種美術館)



川の表現

奥田元宋《奥入瀬(秋)》(1983(昭和58)年)
「70歳になったとき、80歳までが制作の限度と考えて大作の制作を始めた元宋の第一作は元宋のテーマカラーの赤が強調されています。深い青の川と鮮やかな赤のコントラストが見事です。」

奥田元宋《奥入瀬(秋)》(山種美術館)


滝の表現

奥村土牛《那智》(下の写真左)はじめ、このコーナーには滝の作品が並んでいて、滝の涼しげな音が聞こえてきそうです。

左が奥村土牛《那智》、右は山本丘人《白滝》
(いずれも山種美術館)


左から、小堀鞆音《伊勢観龍門滝図》、山元春挙《冷夢図》
川合玉堂《松間飛瀑》(いずれも山種美術館)

千住博《ウォーターフォール》(1995(平成7)年)
「とにかく滝が描きたかった」という千住博氏の滝。

千住博《ウォーターフォール》(山種美術館)


雨の表現

「墨を刷いたり、雨粒を描いたり、雨の線を描いたりして、パラパラ降る雨、ザーザー降る雨、しとしと降る雨など、雨をどう表現するか、画家たちは工夫してきました。近代でもその試みは続いていています。」

「山本丘人《雨を呼ぶ山野》(1958(昭和33)年) (下の写真右)では、今にも雨が降りそうな様子を、奥田元宋《山澗雨趣》(1975(昭和50)年) (下の写真左)では、しっとり、しとしと降る雨を表現しています。」


右が山本丘人《雨を呼ぶ山野》左が奥田元宋《山澗雨趣》
(いずれも山種美術館)


最後に

「今年9月には『国際水協会(IWA)世界会議』が東京で開催されます。大きな被害をもたらした今回の西日本豪雨を受けて、自然の中の水にもっと関心をもつ必要があるのでは、と感じました。今回の展覧会も自然と向き合う機会としてご覧になっていただければ幸いです。」(拍手)


さて、企画展「水を描く-広重の雨、玉堂の清流、土牛のうずしお-」はいかがだったでしょうか。
外は暑くても、館内も作品もとても涼しげ。その上、Cafe椿で作品にちなんだ和菓子を味わっていただければ、すがすがしい気分になること間違いなしです。

会期は9月6日(木)までありますが、前期展示は8月5日(日)までです。前期のみ展示の作品もお見逃しなく!



2018年7月25日水曜日

青い日記帳×ショーメ展ブロガー特別内覧会 in三菱一号館美術館

明治の洋館の趣を残す三菱一号館美術館にピッタリの展覧会が始まりました。
パリの伝統あるジュエラー(宝石商)、ショーメの宝飾品の数々が展示されるショーメ展です。


宝石の展覧会というと、男性のみなさんは「興味ないなあ」とすぐにおっしゃるかもしれません。私も展覧会を見るまでは同じように思っていました。
でも、展示会場に入ればすぐにそんな考えは吹き飛んでしまいます。

大きな肖像画とジュエリーの展示ケース、そしてこの三菱一号館美術館の洋風の内装がコラボして、まるでヨーロッパの貴族のお屋敷に迷い込んだような不思議な気分。
女性だけでなく決して男性も裏切らない内容の展覧会です。
(展覧会の概要はこちらです→ショーメ展特設サイト)

さて、さっそく先日参加したブロガー内覧会の様子をご紹介したいと思います。
※掲載した写真は、美術館の特別の許可をいただいて撮影したものです。

はじめに高橋館長からご挨拶がありました。

「今回の展覧会は『ブランドとのコラボ』という新たな試みです。レイアウトにも凝りました。ヴァチカンからは普通では借りることができないローマ教皇の王冠が来日しています。ぜひ多くの方にご覧になっていただければと思います。」

  こちらが、最初の部屋の右奥に鎮座する「皇帝ナポレオン1世より贈呈された教皇ピウ
 ス7世のティアラ」です。ヴァチカンはこのティアラの修復をショーメに委任しました。


続いて、今回の展覧会を担当した同館学芸員の岩瀬慧さんと「青い日記帳」主宰のTakさんのトーク。
今回の展覧会のテーマは宝石なので、女性の方が担当されたのではと思っていましたが、岩瀬さんは男性!だからこそ男性にも受ける内容になっているのでしょうか。
岩瀬さんはこれまで昨年の「レオナルド×ミケランジェロ展」や一昨年の「PARIS オートクチュール」展を担当されたとのことです。

Takさん 今まで担当された中でどの展覧会が大変でしたか。
岩瀬さん やはり今回のショーメ展でしょうか。
     今回は特に作品をどう展示するかという点に力を注ぎました。ショーメ側も熱
    意があって、よく議論しました。時には建物のキャパシティをオーバーするよう
    な提案もあって調整に苦労しました。
     レイアウトの作業は、レタックというフランスでファッション・ショーの舞台
    装置を引き受けているチームが担当しました。
Takさん フランスからスタッフが来たのですか。
岩瀬さん 50人も来ました(→すごい!)
Takさん 展示は必ずしも年代順でなく、テーマ別になっていますね。
岩瀬さん 最初がナポレオン、続いてティアラ(頭頂部につけるアクセサリー)、中国・イ
    ンド、中世・ルネサンス、アールデコ、トランスフォーム(変化=宝石の加工)、
    そして最後が日本の部屋です。
Takさん 展示の雰囲気がいいですね。
    最初の部屋はナポレオンとジョセフィーヌの絵があって、入った瞬間、こここは
   どこ?といった感じでした。

 こちらが最初の部屋です。 (「Ⅰ 歴史の中のショーメ」)
 ナポレオン1世と皇妃ジョセフィーヌの肖像画。いきなりフランスです!
 

 肖像画と宝飾品のショーケース。



高橋館長 絵画と宝石を並べて展示して、社会史や文化史とのつながりを見ていただきた
   いというコンセプトです。
Takさん 展示室内に入って、絵画もあるので安心しました(笑)。キラキラだけかと思って
   いたので(笑)。これなら女性が夫や彼氏と一緒に来ても大丈夫ですね。

 ここで展示室内をご案内しましょう。

 Ⅱ 黎明期のミューズ
 (1)皇妃ジョセフィーヌ
    左の宝飾品の展示ケースの後ろの壁に描かれているのは麦の穂。
    これは皇妃ジョセフィーヌのアイコン。豊穣の女神セレスに由来しています。


 (2)王妃オルタンスと皇妃マリー=ルイーズ
   ナポレオン1世の2番目の皇妃マリー=ルイーズの肖像画と宝石
   (王妃オルタンスのオルタンシア(アジサイ)のブローチは後で出てきます。)




 Ⅲ 戴冠!ティアラの芸術
  この広い部屋にティアラがずらり!この部屋は撮影可です!

 Ⅳ 旅するショーメ
 (1)時間旅行
   下の写真左は皇妃マリー=ルイーズのゴシックスタイルのベルト


 注文主にちなんでホープ・カップと呼ばれる大きなカップ。
 金銀細工の細かさがすごいです!何回もぐるぐる回って四方から眺めてました。


 (2)水平線の彼方の新たな世界へ
    中国風の扇もあります。

 フォトスポット
  記念写真をぜひ!

 Ⅴ 自然を披露する
 (1)自然史
   重厚なディスプレイケースに圧倒されます。
   このディスプレイケースの重さに耐えるように床は補強したとのことです。


  自然史のコーナーなので、よく見ると百合だったり、蝶だったり、ハチだったり。


 (2)「この光輝く金と宝石の世界」(ボードレール)
   金銀、真珠は自然の恵み、光り輝いています。

 Ⅵ 身につける芸術=ジュエリー
   後半になると映像が多くなるのが今回の展覧会の特徴のひとつです。
   下の画面では人の首から上の映像が360°回転するので、ネックレスを身につけたと
  きのイメージがわかるようになっています。
   ここはまだおとなしい動きの映像ですが、次のコーナーからは少ずつ動きがダイナ
  ミックになって、そこはまるでチームラボ。


 Ⅶ キネティック・アートとしてのジュエリー
  
  中央のディスプレイの左に飾られている《6羽のツバメの連作》と連動して右の画面
 ではツバメが壁いっぱいに勢いよく飛んでいます。
  (《6羽のツバメの連作》は写真では小さくてよくわからないので、ぜひ近くでご覧に
   なってください。) 



 Ⅷ 遥けき国へーショーメと日本
  そしていよいよ日本の部屋。
  正面のスクリーンの映像はめまぐるしく変化するので、その場に立っていると足元を
 すくわれそうな感覚。やっぱりチームラボ、楽しい気分です。


  中央の円形のディスプレイには西洋と日本の文化がマリアージュしたネックレスやイ
 アリング。


 こちらは漆器の硯箱。



さて、ふたたびトークに戻ります。

Takさん 岩瀬さんおススメの一点は。
岩瀬さん 最後の日本の部屋の雷神のブローチです。19世紀後半にはフランスに日本の芸
    術が入ってきましたが、この雷神は俵屋宗達のとちがい、服を着ていて、女性と
    向かい合っています。ジョセフ・ショーメはいろいろな要素を混ぜ込んでこのブ
    ローチをつくったのでしょう。
     この不思議さを楽しんでください。


Takさん 雷神が叩いているのはどうも太鼓のように見えないですね。
岩瀬さん タンバリンのようです(笑)。
高橋館長 西洋のジュエリーはきらきら輝いています。これは教会のステンドグラスに見
    られるように、ヨーロッパの、特に北の方の人たちの、光に対するあこがれが原
    点ではないでしょうか。
Takさん ただ「きれい」というのでなく、そこには西洋的価値観、光へのあこがれがあり
    ますね。

Takさん 他に見るべきポイントはありますか。
岩瀬さん ダイヤモンドのカッティングとセッティングですね。
     ダイヤモンドのカッティングはルネサンス期から洗練されてきて、20世紀以降
    は格段の差で進歩しました。
     また、ダイヤモンドと一緒に飾られる金や銀も磨かれていないとダイヤモンド
    の輝きも悪くなります。ダイヤモンドと金や銀、その他の宝石とのセッティング
    や地金の彫刻も洗練されてきています。時代とともに洗練されてくるカッティン
    グやセッティングも見どころの一つです。
Takさん ダイヤモンドの輝きだけでなく地金の部分も注目ですね。
岩瀬さん もうひとつは、トランブルーズ(フランス語で「震えるもの」という意味)とい
    って、後ろに小さなばねが入っていて、身につけたときに震えて独特の輝きを見
    せる作品もあります。
Takさん ありがとうございました。それではみなさんショーメの輝きをお楽しみください
    (拍手)。

 王妃オルタンスのオルタンシア(アジサイ)のブローチはこちらです。
 アジサイの花の茎のところにバネがあるのがおわかりでしょうか。
 展示していると震えないので、自分の頭を揺らして角度の違いによる輝きの違いを味わいました。


 こちらが清楚な王妃オルタンスの肖像。
 暖炉がいい雰囲気を出しています。



さて、ショーメ展はいかがだったでしょうか。
繰り返しで申し訳ありませんが、男性でも十分楽しめる展覧会です。
ぜひともショーメの細かい技巧がほどこされた宝飾品を近くでじっくりご覧になっていただければと思います。