2021年7月22日木曜日

東京国立博物館 聖徳太子1400年遠忌記念 特別展「聖徳太子と法隆寺」

東京国立博物館 平成館では、聖徳太子1400年遠忌記念 特別展「聖徳太子と法隆寺」が開催されています。


冠位十二階や「和を以て貴しとなす」で知られる憲法十七条の制定、遣隋使の派遣、仏教を奨励して奈良・法隆寺の建立など、飛鳥時代に日本の基礎を築いた聖徳太子は、最も有名で、私たちにとって最も身近に感じられる歴史上の人物の一人ではないでしょうか。

その聖徳太子の展覧会が奈良国立博物館(4月27日~6月20日 終了)に続き、いよいよ東京国立博物館で始まりました。

展覧会概要


展覧会名 聖徳太子1400年遠忌記念 特別展「聖徳太子と法隆寺」
会 場  東京国立博物館 平成館
会 期  2021年7月13日(火)~9月5日(日)
 ※会期中、一部の作品は展示替を行います。
 主な展示期間 前期 7/13-8/9 後期 8/11-9/5
開館時間 午前9時30分~午後5時
休館日  月曜日(ただし、8/9は開館し、8/10(火)は休館)
観覧料  一般 2,100円ほか
※本展は事前予約制です。詳細は展覧会公式サイトをご確認ください⇒特別展「聖徳太子と法隆寺」

※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は、報道内覧会で主催者より特別の許可をいただいて撮影したものです。

展示は5つのエリアで構成されています。

第1会場 A 聖徳太子と仏法興隆
     B 法隆寺の創建
     C 聖徳太子と仏の姿
第2会場 D 法隆寺東院とその宝物
     E 法隆寺金堂と五重塔

今回の展覧会は、普段は見ることのできない国宝の秘仏にお会いできたり、法隆寺の東院や金堂の内部に入ったような雰囲気が体験できるなど、聖徳太子遠忌1400年記念ならではの盛りだくさんの内容が楽しめる、またとない機会です。

それではさっそく会場内に入ってみることにしましょう。   

見どころ1 聖徳太子のさまざまなお姿が見られます。


第1会場では、さまざまなお姿の聖徳太子や、創建当時の法隆寺の様子がうかがえる逸品が展示されています。

第1会場入口でお出迎えしてくれるのは、優しいお顔で優雅なポーズをとる「如意輪観音菩薩半跏像」(奈良・法隆寺蔵 重要文化財)。

重要文化財「如意輪観音菩薩半跏像」平安時代(11~12世紀)
奈良・法隆寺 全期間展示

なぜ平安時代の観音様が、と思われるかもしれませんが、平安時代には聖徳太子を観音様の化身とする信仰が広まったので、この観音様も聖徳太子のお姿なのです。


続いて第1会場のAエリアへ。

第1会場A「聖徳太子と仏法興隆」 展示風景

聖徳太子の時代には、「異国の宗教」であった仏教を受容するかどうかの対立がありましたが、崇仏派の太子や蘇我馬子らは排仏派の物部守屋を破り、以降、仏教が日本国内に広まりました。

このエリアには、主に仏教興隆当時が偲ばれる仏像、仏具が展示されています。


聖徳太子といえば、やはりこのお顔。
日本史の教科書やお札でおなじみの聖徳太子の肖像を見つけました!

 「聖徳太子二王子像(模本)」狩野(晴川院)養信筆
江戸時代 天保13年(1842) 東京国立博物館 全期間展示



第1会場Bエリアのテーマは「法隆寺の創建」。

一番の見どころは、聖徳太子の没後、「天寿国」に往生した太子の姿を見たいという、妃の橘大郎女の願いを受けて作られた刺繍の帷(とばり)、国宝「天寿国繍帳」。
およそ1400年の時を超えて鮮やかに残る色合いをぜひご覧いただきたいです。



国宝「天寿国繍帳」飛鳥時代 推古天皇30年(622)頃
奈良・中宮寺 前期展示

前期(7月13日~8月9日)のみの展示なのでお見逃しなく!


今回は特に音声ガイドがおススメです。ナビゲーターは女優の杏さん、解説ナレーターは、声優の三宅健太さん。(貸出料金:お一人様1台600円(税込))

わかりやすい解説はもちろんのこと、音声だけでなく画面には灌頂幡の再現の様子も出てくるので、創建当時のきらびやかな様子を想像することができます。

幡とは仏教儀礼で用いる旗で、特に天蓋を伴ったものは灌頂幡を指すとのことです。
下の写真は天蓋。その下の写真の幡身の上に天蓋がついて、高くそびえたつ様子はさぞかし壮観だったことでしょう。

国宝「灌頂幡」飛鳥時代(7世紀)
東京国立博物館(法隆寺献納宝物)
全期間展示


こちらは「大幡の幡身」。見事な透彫にも注目です。

国宝「灌頂幡」飛鳥時代(7世紀)
東京国立博物館(法隆寺献納宝物)
全期間展示


飛鳥時代の異国情緒あふれる逸品も展示されています。
下の写真右、国宝「竜首水瓶」の注ぎ口は竜頭で、胴部には有翼馬(ペガサス)が彫られているので、ぜひお近くでご覧ください。
近年では日本製とみなす説があるとのことですが、エキゾチックな趣が感じられます。

右 国宝「竜頭水瓶」飛鳥時代(7世紀)
東京国立博物館(法隆寺献納宝物) 前期展示
左 重要文化財「胡面水瓶」中国・唐または奈良時代(8世紀)
奈良・法隆寺 全期間展示



第1展示室Cエリアのテーマは「聖徳太子と仏の姿」。

国宝「聖徳太子および侍者像」は、今から900年前、聖徳太子の五百年遠忌にあたり制作された法隆寺聖霊院の秘仏本尊。

国宝「聖徳太子と侍者像」平安時代 保安2年(1121)
奈良・法隆寺 全期間展示

中央の像が聖徳太子なのですが、瞳の部分には青緑色の薄いガラス板が嵌め込まれていて、威厳のあるとてもリアルな表情をしています。かつてはまつ毛も植えられていたとのことです。
27年ぶりの寺外公開なので、ぜひお近くで太子様の真剣なまなざしに注目していただきたいです。


聖徳太子は、推古天皇の求めによって勝鬘経の講義を行ったという伝記が残されていますが、その場面を描いたのが「聖徳太子勝鬘経講讃図」。
蘇我馬子や、遣隋使で隋に派遣された小野妹子の姿も見られます。

「聖徳太子勝鬘経講讃図」鎌倉時代 文歴2年(1235)頃
奈良・法隆寺 前期展示


見どころ2 法隆寺伽藍の内部に入った雰囲気が感じられます。


第2会場には、法隆寺伽藍の東院、金堂、五重塔にゆかりの仏像や宝物が展示されています。

Dエリアは「法隆寺東院とその宝物」。



第2会場D「法隆寺東院とその宝物」 展示風景

中央には、太子が数え2歳の2月15日、東に向かって手を合わせ「南無仏」と称えたという伝承に基づいて制作された「聖徳太子立像(二歳像)」。この時、掌から釈迦の遺骨がこぼれ落ちたと伝えられ、それが納められているのが左の「南無仏舎利」。

後方にはかつて舎利殿内壁を飾っていた障子絵(現在は屛風に改装(※)、一部パネル展示あり)が展示されているので、東院舎利殿内陣のかつての姿をこの場で体験することができるのです。
(※)重要文化財「文王呂尚・商山四皓図屛風」南北朝時代(14世紀) 東京国立博物館(法隆寺献納宝物) 前期「文王呂尚図」後期「商山四皓図」


右 「聖徳太子立像(二歳像)」鎌倉時代(13~14世紀)
左 「南無仏舎利」[舎利塔]南北朝時代 貞和3~4年(1347-48)
[舎利据箱]鎌倉時代(13世紀)
いずれも奈良・法隆寺 全期間展示


Eエリア「法隆寺金堂と五重塔」に入ると、見上げるほど大きな四天王様が見えてきました。

ここからは金堂ゆかりの仏像をご紹介していきます。


第2展示室E「法隆寺金堂と五重塔」 展示風景

飛鳥時代の四天王立像のうち、今回東京までお出ましいただいたのは、多聞天と広目天(下の写真右から)。
現存する日本最古の四天王像ですが、後に見られるように怖い表情というより、どちらかというと穏やかな表情を浮かべていて、1400年の長きにわたり踏みつけられている邪鬼も憎めない表情をしています。

右 国宝「四天王立像 多聞天」
左 国宝「四天王立像 広目天」
いずれも飛鳥時代(7世紀) 奈良・法隆寺
全期間展示

続いて、四天王立像と同じく法隆寺金堂の須弥壇上に安置されている国宝「薬師如来坐像」(飛鳥時代(7世紀) 奈良・法隆寺 全期間展示)(下の写真中央)。


展示室E「法隆寺金堂と五重塔」 展示風景

そしてラストは、かつては金堂に安置されていた国宝「伝橘夫人念持仏厨子」。

国宝「伝橘夫人念持仏厨子」 飛鳥時代(7~8世紀)
奈良・法隆寺 全期間展示


金堂ゆかりの仏像がこれだけゆったりした空間で間近に見られる機会はそう多くはないでしょう。
この厳かな空間をぜひご覧いただきたいです。

東京国立博物館 東洋館地下1階では、ヴァーチャルリアリティで金堂内の仏像や壁画をすべてご覧いただくことができるVR作品が上映されています。特別展とあわせてぜひご覧ください。



また、昨年(2020年)、コロナ禍の中、残念ながら中止になった特別展「法隆寺金堂壁画と百済観音」で、東京までお越しいただいたのに公開されることなく奈良に帰られた国宝「百済観音」と、同じく国宝の救世観音を3DGCでご覧いただくことができます。
場所は平成館1階です。こちらもぜひお立ち寄りください。





展覧会オリジナルグッズも盛りだくさん。




私のおススメは、カラー図版も解説も充実している展覧会公式図録。


展覧会公式図録(1冊 税込2,800円)


おうちでもぜひ特別展「聖徳太子と法隆寺」をお楽しみください! 

『巨大映像で迫る五大絵師』ー北斎・広重・宗達・光琳・若冲の世界ー

 東京大手町の大手町三井ホールでは『巨大映像で迫る五大絵師ー北斎・広重・宗達・光琳・若冲の世界ー』が開催されています。



雷雨の轟音とともに天から降ってくる身の丈より大きな風神雷神。
目の前に迫りくる見上げるほど大きな赤富士。
大きく拡大してわかる鶏や菊の花の細かな描写。

超細密データ画像の巨大映像だからこそわかる名作の世界が楽しめます。
セレクトされた作品も名作ばかり。
江戸時代の五大絵師の名作を巨大スクリーンで楽しめる展覧会です。

それでは、開幕前に開催された特別内覧会に参加しましたので、その時の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 場  大手町三井ホール(東京都千代田区大手町1-2-1 Otemachi One 3F)
     東京メトロ・都営地下鉄各線「大手町」駅 C4出口直結
会 期  2021年7月16日(金)~9月9日(木)
開館時間 10:30-19:30 ※最終入館は閉館の60分前まで
観覧料  一般 2,000円、大学生・専門学校生 1,500円、中学生・高校生 1,000円
     ※満70歳以上、小学生以下は入場無料。
     ※障がい者手帳をお持ちの方(付添者は原則1名まで)は無料。
     ※ご来場時、年齢証明ができるもの、または学生証をご提示ください。

※プログラムは、A、B二つの作品リストがあって毎日入れ替わります。下記公式サイトで「開催カレンダー」「上映作品一覧」をご確認ください。

展覧会の詳細等は展覧会公式ウェブサイトをご覧ください⇒巨大映像で迫る五大絵師
展覧会公式ツィッター⇒https://twitter.com/faaj_staff
You Tubeチャンネル⇒巨大映像で迫る五大絵師

会場は次の3つのエリアで構成されています。

【解説シアター】
 超高精細デジタル画像で作品の緻密な部分を拡大表示し、ナレーション(英文字幕)とともに作品をわかりやすく解説します。(上映時間20分)

【メイン会場】
 縦7m、横45mの3面ワイドスクリーンによる圧巻の巨大映像空間。先進デジタル技術と高輝度4Kプロジェクター複数台を駆使した映像と、音楽のコラボレーションによる大スペクタクルを体験いただけます。(上映時間約20分)
 フォトタイムには巨大は名画をバックに写真撮影が可能です。

【Digital北斎×広重コーナー】
 超高精細デジタル画像による「冨嶽三十六景」と「東海道五拾三次」からベストセレクション58作品を大型モニター12台で紹介します。

五大絵師の主な作品
(カッコ内は、ABそれぞれの作品リストを表します。)
葛飾北斎 冨嶽三十六景「神奈川沖浪裏」「凱風快晴」「山下白雨」他(ABとも)
歌川広重 東海道五拾三次「日本橋 朝之景」「蒲原 夜之雪」「庄野 白雨」他(ABとも)
俵屋宗達 国宝「風神雷神図屏風」(ABとも)国宝「源氏物語関屋澪標図屏風」(Bのみ)
尾形光琳 重要文化財「風神雷神図屏風」(ABとも)「菊図屏風」(Bのみ)「雪松群禽図屏風」(Aのみ)
伊藤若冲 重要文化財「仙人掌群鶏図」(ABとも)「百花の図」(Aのみ)


【解説シアター】でそれぞれの絵師や作品の解説を見たあと、【メイン会場】に移ります。
そこで体験するのは、圧巻の巨大映像。
※解説シアター及びメイン会場の3面シアターの上映プログラムはともに撮影禁止です。
3面シアターにて約10分のフォトタイムがあります。
掲載した写真はフォトタイムで撮影したものです。


まずは国内だけでなく海外でも大人気の葛飾北斎「冨嶽三十六景 凱風快晴」。
ご覧ください!人の影と比べたこの赤富士の大きさ!

葛飾北斎「冨嶽三十六景 凱風快晴」


客引きの女性が強引に旅人を引っ張っている場面で知られる、歌川広重「東海道五拾三次 御油 旅人留女」。
私たちも宿場町にスーッと入って行けそうな感じです。

歌川広重「東海道五拾三次 御油 旅人留女」


雨と雷の激しい音で降臨してきた俵屋宗達の風神雷神は特に大迫力!

俵屋宗達 国宝「風神雷神図屏風」

風神雷神がさらに近くまで迫ってきました。

俵屋宗達 国宝「風神雷神図屏風」


尾形光琳の「菊図屏風」もここまでアップになると、胡粉で盛り上がった菊の花や、金泥で描かれた葉の葉脈の様子もよくわかります。

尾形光琳「菊図屏風」



伊藤若冲の作品は、やはり鶏。重要文化財「仙人掌群鶏図」です。
人間より大きい鶏が迫ってきます!

伊藤若冲 重要文化財「仙人掌群鶏図」

さらにアップになると、鶏の目のまわりの細かな表現や、とさかに描かれた黒い点々まで細部にわたる描写がよくわかります。

伊藤若冲 重要文化財「仙人掌群鶏図」





巨大スクリーンだからこそ迫力いっぱい、巨大スクリーンだからこそ細かいところまでよくわかる。
そしてそれぞれの作品にぴったりのBGMと効果音。

ぜひこの迫力を体感してみてください!

続いて【Digital北斎×広重コーナー】に移ります。
※【Digital北斎×広重コーナー】は撮影OKです。

このコーナーでは、20億画素の超高精細デジタル技術で復元された「冨嶽三十六景」と「東海道五拾三次」からのベストセレクション58作品をご紹介しています。


【Digital北斎×広重コーナー】展示風景


全部で12台のモニターが並んでいて、1台の大型モニターで1作品約1分、3~5作品をご覧いただくことができます。


【Digital北斎×広重コーナー】展示風景

そして最後は、ミュージアムショップでお買い物タイム。
五大絵師の作品を中心にとっておきの商品が多数ご用意されています。

※ミュージアムショップでの撮影はご遠慮ください。


いろいろ迷ってしまいますが、中でも私のおススメは展覧会公式ガイドブック。



今回の展覧会のメイキングのお話や、五大絵師のプロフィール、作品のカラー写真など盛りだくさんの内容で税込2,200円。
ミュージアムショップにて会場限定販売。書店ではお取り寄せできませんので、ぜひその場でお買い求めください。おうちでも五大絵師がお楽しみいただけます!

この夏、巨大スクリーンの迫力をぜひご体験ください!

2021年7月19日月曜日

三井記念美術館コレクション名品展「自然が彩る かたちとこころー絵画・茶道具・調度品・能装束などー」 

東京日本橋の三井記念美術館では、三井記念美術館コレクション名品展「自然が彩る かたちとこころー絵画・茶道具・調度品・能装束などー」が開催されています。

展覧会チラシ


今回は、日本をはじめ東洋の名品を所蔵する三井記念美術館のコレクションの中から、絵画、茶道具、調度品、能装束など、さまざまなジャンルの選りすぐりの逸品が展示されている、盛りだくさんの内容の展覧会。

先日開催されたプレス内覧会に参加しましたので、さっそく会場内の様子をご紹介したいと思います。

展覧会概要


会 期  2021年7月10日(土)~8月22日(日)
開館時間 午前11時~午後4時(入館は午後3時30分まで)
休館日  月曜日(但し8月9日は開館)
入館料  一般 1300円ほか
※本展は予約なしでご入館いただけます。
※新型コロナウイルス感染拡大状況ならびに緊急事態宣言の状況等で、本展の開催時期・開館時間等について変更・中止の可能性があります。

展覧会の詳細、新型コロナウイルス感染症感染防止策等については、同館公式サイトをご覧ください⇒三井記念美術館

主な展示作品は以前に紹介しているので、今回は会場内の様子や紹介しきれなかった作品を中心にご紹介したいと思います。前回の記事はこちらです。

※会場内は撮影禁止です。掲載した写真は、内覧会で美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。

自然が彩るさまざまなかたちやこころ


三井記念美術館で特に好きなのがこの空間。

廊下のように長い展示スペースに、個別ケースに入った逸品がずらりと並ぶ「展示室1」です。

「展示室1」展示風景

「展示室1」に展示されているのは、日本、中国、朝鮮の茶道具。

今回は、「自然」をキーワードとした9つのテーマにもとづいて作品が展示されているので、一つひとつの作品がどれにあてはまるのか、解き明かしながら見ていく楽しみがあります。

【9つのテーマ】
 ①理想化された自然を表す
 ②自然をデフォルメして表す
 ③銘を通して自然を愛でる
 ④素材を活かして自然を表す
 ⑤実在する風景を表す
 ⑥文学(物語や詩歌)のなかの自然を表す
 ⑦自然物を造形化する
 ⑧掌のなかの自然
 ⑨自然を象徴するかたち

たとえば展示室1の最初の茶道具(下の写真手前)は《染付桃源僊居図水指》(江戸時代・19世紀)。

「展示室1」展示風景


この作品のテーマは「①理想化された自然を表す」。

この水指に描かれた桃源郷は、桃の花に誘われて川を上った漁師がたどり着いたという、陶淵明の『桃花源記』に記されている理想郷。
漁師がもう一度行こうとしても、たどり着けなかったという理想郷なので、忘れないようにぜひこの景色をじっくりご覧ください。

続いて、選りすぐりの逸品が一品だけ展示される「展示室2」。
今回は重要文化財 本阿弥光悦作《黒楽茶碗 銘雨雲》(江戸時代・17世紀)が展示されています。

「展示室2」展示風景

この作品のテーマは、「③銘を通して自然を愛でる」。
茶碗の筋状になった黒い釉薬と暗褐色の素地がつくる景色がまるで黒い雲間から降りしきる雨筋の様に見えることからつけられた「銘 雨雲」。
茶碗につけられる銘はどれもオシャレです。

三井記念美術館の顔ともいえる、国宝《志野茶碗 銘卯花墻》(桃山時代・16~17世紀)は国宝の茶室「如庵」を再現した展示室3に展示されていました。

国宝の茶室に国宝の茶碗。「絵になる」とはまさにこのことではないでしょうか。
もちろんこの作品のテーマは、「③銘を通して自然を愛でる」です。

「展示室3」展示風景


もう一つの三井記念美術館の顔といえば、やはり国宝の円山応挙筆《雪松図屏風》(江戸時代・18世紀)(下の写真中央)。
展示室4には、大きな屏風をはじめとした絵画作品が展示されています。


「展示室4」展示風景

《雪松図屏風》の松の幹や葉に積もる雪の白さは、塗り残した地の紙の色なのですが、なぜか雪のふくらみが感じられることは前回の記事でもふれましたが、少し離れたところから見ると、雪の重みに耐える左右の松が浮かび上がり、その場にどっしりと存在するかのように見えることに気がつきました。

写生を重んじたため「画を望まば、我に乞うべし、絵図を求めんとならば、円山主水よかるべし。」と曽我蕭白が応挙を蔑んだと伝えられていますが、写生はあくまでも練習で、実際にはこのように堂々とした「画」を描くのが応挙なのだ、と納得させてくれる作品です。
なお、この作品のテーマは、「④素材を活かして自然を表す」。まさにその通りの作品です。


続いて展示室5は、工芸と絵画。


「展示室5」展示風景

この展示室には日本や中国の技巧を凝らした工芸品が展示されています。
ぜひ細部までご覧いただきたいです。

平成26(2014)年にこの三井記念美術館で開催された「明治の超絶技巧展」で注目された安藤緑山の《染象牙貝尽置物》、《染象牙果菜置物》(明治~昭和時代初期・20世紀)や、昆虫や海老の脚や胴体などが実物と同じように動く「自在」を製造した高瀬好山の《昆虫自在置物》、《伊勢海老自在置物》(明治~昭和時代初期・19~20世紀)も展示されています。
これらの作品のテーマは、「⑦自然物を造形化する」です。

下の写真手前が「自在」、壁にかかっている作品は、左から、円山応挙の写生、《昆虫・魚写生図》(江戸時代・明和6~8年(1769-71))、《水仙図》(江戸時代・天明3年(1783))です。

「展示室5」展示風景


展示室6には、手のひらサイズの印籠や根付が展示されています。
背後に鏡が付いているので、どれも裏側の文様まで見ることができます。
これらの作品のテーマは、「⑧掌のなかの自然」です。

「展示室6」展示風景

展示室7には、絵画・能面・能装束が展示されています。


「展示室7」展示風景

能装束のテーマは、「②自然をデフォルメして表す」。
カラフルな能装束から水の流れや草花など自然をモチーフにした文様を、ぜひ探してみてください。

能面のテーマは、「⑨自然を象徴するかたち」。

今回展示されている能面は6面。
《大飛出》(重要文化財 伝赤鶴作 室町時代・14~16世紀)は雷神や蔵王権現の役に用いられる鬼神面、《黒髭》(重要文化財 伝赤鶴作 室町時代・14~16世紀)は竜神の面。どれも自然を司る神の面とは知りませんでした。


「展示室7」展示風景


おうちでも三井家の至宝が楽しめる!


三井記念美術館は、今回の展覧会終了後から2022年4月下旬(予定)までリニューアル工事のため休館になるので、同館コレクションの名品はしばらくお目にかかることはできません。
そこでおススメなのが、休館中におうちでも三井家の至宝が楽しめる図録です。

図録『三井家伝来の至宝』



この図録は、平成27(2015)年に三井記念美術館開館十周年を記念して開催された記念特別展Ⅱ「三井家伝来の至宝」の開催に合わせて発行されたもので、今回展示されている以外の作品も掲載されている豪華版。税込2,500円。ミュージアムショップで販売しています。


暑い日が続きますが、この夏は、しばらく見られなくなる三井記念美術館の名品をご覧になって、自然に親しんでみてはいかがでしょうか。

2021年7月17日土曜日

開館55周年記念特別展「山種美術館所蔵 浮世絵・江戸絵画名品選ー写楽・北斎から琳派までー」

東京広尾の山種美術館では、開館55周年記念特別展「山種美術館所蔵 浮世絵・江戸絵画名品選ー写楽・北斎から琳派までー」が開催されています。

展覧会チラシ

近代日本画の豊富なコレクションの展覧会で私たちを楽しませてくれる山種美術館ですが、今回は浮世絵と江戸絵画。少し意外にも思えますが、実は浮世絵や江戸絵画も貴重なコレクションを所蔵しているのです。

それでは、先日開催された内覧会に参加しましたので、さっそく展覧会の様子をご紹介したいと思います。


展覧会概要


会 期 2021年7月3日(土)~8月29日(日)
 ※会期中展示替えあり
  前期 7/3-8/1 後期 8/3-8/29
開館時間 平日:午前10時から午後4時
     土・日・祝日:午前10時から午後5時
    (入館はいずれも閉館時間の30分前まで)
休館日 月曜日(但し、8/9(月)は開館、8/10(火)は休館)
入館料 一般 1300円ほか
夏の学割 大学生・高校生500円
     ※本展に限り、特別に入館料が通常1000円のところ半額になります。
チケット ご来館当日、美術館受付で通常通りご購入いただけます。
     また、入館日時が予約できるオンラインチケットもご購入可能です。
展覧会の詳細、新型コロナウイルス感染予防策、日時指定オンラインチケットの購入方法などは、美術館公式サイトでご確認ください⇒https://www.yamatane-museum.jp 

※展示室内は次の1点を除き撮影不可です。掲載した写真は、内覧会で美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。
※展示作品はすべて山種美術館蔵です。

今回撮影OKの作品は次の1点のみです。

椿椿山《久能山真景図》【重要文化財】
1837(天保8)年 全期間展示


第1章 山種コレクションの浮世絵


展示室に入って驚きました。
いつもなら近代日本画の掛軸が展示されている場所には、よく知られた浮世絵の名作がずらりと並んでいるのです。

展示室入口で私たちをお出迎えしてくれるのは、ご存じ葛飾北斎の《冨嶽三十六景 凱風快晴》。

葛飾北斎《冨嶽三十六景 凱風快晴》
1830(文政13)年頃 前期展示

説明をしなければ、これが山種美術館の展示室だとは信じてもらえないかもしれませんが、そこは日本画専門の美術館。ただ単に浮世絵コレクションが並んでいるだけではありません。

最初から順を追って見て行きましょう。
浮世絵は、最初からいくつもの色を使った多色摺りができたわけでなく、墨で摺ったあとに1枚ずつ筆で彩色した「紅絵」に始まり、2,3色を使った色刷りの「紅摺絵」、より多くの色を使った「錦絵」といった具合に、摺りの技術が発達していくのですが、その過程が作品と解説パネルでわかるような展示になっているのです。
(下の写真では左から右に見ていきます。)

第1章展示風景

雲母の粉を使ってキラキラ輝く効果を出す「雲英摺(きらずり)」をはじめとした、摺りの技術の解説もあります。

東洲斎写楽《八代目森田勘弥の駕籠舁鶯の次郎作》
1794(寛政6)年 前期展示



そして反対側には歌川広重《東海道五拾三次》のシリーズ。

「広重の《東海道五拾三次》なら何回も見たことある。」とおっしゃる方もいらっしゃるかもしれませんが、こちらの《東海道五拾三次》はちょっと違います。

第1章展示風景



こちらは、広重の東海道シリーズの中でも最も出来映えのよい「保永堂版」で、さらに、題字を記した扉があるので、もとは画帖仕立てのものがまとまって残った数少ない例で、後摺では省略された雲が摺られていたりなど、初摺の特徴を持つ図が多く含まれるものなのです。

そしてなにより、色合いがとても鮮やかです。

歌川広重《東海道五拾三次》のうち「蒲原・夜之雪」
1833-36(天保4-7)年頃 前期展示


広重の《東海道五拾三次》は、53の宿場に、扉と起点の「日本橋・朝之景」と終点の「京師・三條大橋」を加えて全部で56点あります。
扉から「掛川・秋葉山遠望」までの28点が前期展示。「袋井・出茶屋之図」から「京師・三條大橋」までの28点が後期展示です。
前期後期あわせて江戸から京都まで東海道の旅を楽しんでみませんか。

第2章 山種コレクションの江戸絵画


続いて江戸絵画のエリアに移ります。

まずは琳派の世界。
華やかな金屏風が並ぶ壮観な光景が目の前に広がります。

右から、伝 俵屋宗達《槇楓図》17世紀(江戸時代)
酒井抱一《秋草鶉図》(重要美術品)19世紀(江戸時代)
鈴木其一《四季花鳥図》19世紀(江戸時代)
いずれも全期間展示

続いて掛軸の琳派作品。

江戸時代前期の俵屋宗達、江戸時代後期の酒井抱一、鈴木其一と、200年の時を越えて引き継がれた琳派の名品が一堂に会しています。

右から、[絵]俵屋宗達、[書]本阿弥光悦
《鹿下絵新古今集和歌巻断簡》17世紀(江戸時代)、
酒井抱一《菊小禽図》《飛雪白鷺図》19世紀(江戸時代)、
鈴木其一《伊勢物語図 高安の女》19世紀(江戸時代)
いずれも全期間展示


上の写真一番右は、俵屋宗達の絵と本阿弥光悦の書のおしゃれなコラボ作品。
振り返る鹿と、墨のくずし字の配置にリズミカルな動きが感じられて、とても好きな作品です。


[絵]俵屋宗達 [書]本阿弥光悦
《鹿下絵新古今集和歌巻断簡》17世紀(江戸時代)
全期間展示


展覧会のサブタイトルは「ー写楽・北斎から琳派までー」ですが、江戸絵画は琳派だけではありません。

琳派のコーナーの反対側にはなんと岩佐又兵衛!

岩佐又兵衛《官女観菊図》(重要文化財)
17世紀(江戸時代) 全期間展示

なぜここで驚いたのかと言いますと、この作品は又兵衛が得意とする古典を題材とした作品ですが、近世初期風俗画を描いた又兵衛は、のちに第1章に展示されている浮世絵の祖と呼ばれるようになったので、浮世絵のちょうど反対側に展示されているのを見て、この配置は絶妙の隠し味と感じたからなのです。

織田信長の軍勢に包囲された時、家族や家臣たちを見捨てて、大切にしていた茶道具をもって有岡城を脱出した戦国武将、荒木村重を父にもつ岩佐又兵衛。
よく生き延びて「浮世絵の祖」になってくれたものです。


NHKの正月時代劇「ライジング若冲」の名コンビがいる!

左から、伊藤若冲《伏見人形図》1799(寛政11)年、
池大雅《指頭山水図》1745(延享2)年、
《東山図》18世紀(江戸時代)
いずれも全期間展示

みなさまはNHKの正月時代劇「ライジング若冲」をご覧になられましたでしょうか。
人付き合いが嫌いな伊藤若冲が、唯一親交を深めたのが池大雅。
その二人の作品が並んで展示されています。

「ライジング若冲」を見て以来、池大雅の作品を見ると、豪放磊落な大雅の姿が目に浮かんでくるのですが、《指頭山水図》のように、筆を使わずに指や爪を使う「指頭画」を描いている場面が出てきたことを思い出しました。


そして冒頭に紹介しましたが、今回唯一の撮影可の作品が椿椿山《久能山真景図》(重要文化財)。


右から、椿椿山《久能山真景図》(重要文化財)1837(天保8)年、
谷文晁《辛夷詩屋図》1792(寛政4)年
いずれも全期間展示


椿椿山は、江戸幕府の鎖国政策を批判して蛮社の獄(1839年)で捕らえられた師・渡辺崋山の救援活動に奔走しましたが、当時、幕府に逆らうことは命がけのことでした。

勇気ある椿山がこの作品を描いたのは蛮社の獄の2年前のことですが、中央の2人の人物は、椿山が慕う師・崋山と、そのあとを追う椿山自身ではと思えてならないのです。

そして、隣には崋山の師・谷文晁の《辛夷詩屋図》。
こちらも山あいの理想郷を描いた素晴らしい作品です。


第2展示室では、円山応挙の奔放な弟子、長沢芦雪の作と伝わる《唐子遊び図》を見つけました。

 長沢芦雪《唐子遊び図》(重要美術品)
18世紀(江戸時代) 全期間展示

中国では古来から士大夫が身につける芸とされた琴棋書画をまじめに習っている唐子ばかりと思ったら、そうではなく、じゃれあう唐子たちがいて、その足元では碁石がばらけていたり、芦雪の「龍図」「虎図」襖で知られた紀州・無量寺で見た、芦雪の「唐子遊図」襖を思わせるユーモアたっぷりな作品です。

紹介しきれませんでしたが、京狩野最後の輝きを放った狩野永岳の作品も展示されるなど、「第2章 山種コレクションの江戸絵画」では、琳派をはじめとした江戸絵画の粋が楽しめます。


展覧会オリジナルグッズ・オリジナル和菓子も充実!


山種美術館の展覧会でいつも気になるのが、展覧会オリジナルグッズ。
今回も充実の内容です。

展覧会オリジナルグッズ



私のイチ押しは、歌川広重《東海道五拾三次》のすべての図柄が載って、解説も付いているA4Wクリアファイル(税込715円)。おうちに帰ってからも東海道の旅が楽しめます。

俵屋宗達(絵)・本阿弥光悦(書)《鹿下絵新古今集和歌巻断簡》の金箔はがき入れ(税込3,850円)、名刺箱(税込1,800円)、一筆箋(税込462円)もオシャレです。


1階ロビーの「Cafe椿」では、オリジナル和菓子をお召し上がりいただけます。

オリジナル和菓子
上から時計回りに、
「赤富士」(葛飾北斎《冨嶽三十六景 凱風快晴》作品展示期間:7月3日~8月1日)、
「秋のおとずれ」(俵屋宗達(絵)・本阿弥光悦(書)《四季草花下絵和歌短冊帖(朝顔)》作品展示期間:8月3日~8月29日)、
「月夜の海」(歌川広重《武陽金沢八勝夜景(雪月花之内 月)》作品展示期間:8月3日~8月29日)、
「夏の日」(鈴木其一《四季花鳥図》(右隻))、「菊の香」(酒井抱一《菊小禽図》)
カッコ内はモチーフとなった作品ですべて山種美術館蔵

抹茶とのセットで1,200円(税込)。いつもどの和菓子とのセットにしようか迷ってしまうのです。


この夏に山種美術館の浮世絵と江戸絵画はいかがでしょうか。
ぜひ前期後期ともご覧ください!