2016年12月31日土曜日

AfDの台頭~ワイマール末期の再来か?~(3)

ベルリン市(都市州)では、市議会議員選挙が行われた9月18日以降の長い連立交渉の結果、州レベルで初めてSPD(社会民主党)主導の「赤赤緑連立政権」が成立し、12月9日にはミヒャエル・ミューラー氏(SPD)がベルリン市長に再任された(チューリンゲン州の「赤赤緑連立政権」は州議会第一党の左派党が主導)。

これで今年行われた5つの州で連立の枠組みが決まり、各州でAfDが多くの議席を獲得したが、既成政党が連立の枠組みを変えるなどして過半数を確保したため、結果的にどの州もトップの顔ぶれは変わらず、ポピュリズムに流されることにはならなかった。

 ①バーデン・ビュルテンベルク州  ヴィンフリート・クレッチマン首相(緑の党)再任
   緑の党とSPD(社会民主党)との連立 → 緑の党とCDU(キリスト教民主同盟)の連立

 ②ラインラント・プファルツ州  マル・ドライヤー首相(SPD)再任
   SPDと緑の党の連立 → SPD、緑の党、FDP(自由民主党)の連立

 ③ザクセン・アンハルト州  ライナー・ハーゼルホフ首相(CDU)再任
   CDUとSPDの連立  → CDU、SPD、緑の党の連立

 ④メクレンブルク・フォアポメルン州 エルビン・ゼレリング首相(SPD)再任
   SPDとCDUの連立で変わらず

 ⑤ベルリン市(ベルリン市は都市州) ミヒャエル・ミューラー市長(SPD)再任
   SDPとCDUの連立  → SPD、左派党、緑の党の連立
   

このようにポピュリズムの台頭に既成政党が団結して対抗するというメカニズムがうまく機能した結果となったが、19日のベルリンでのテロ以降、AfDが勢いづいているので、これから先はどうなるかわからない。

AfDも、今では反移民政策を掲げ「右派大衆政党」とのレッテルを貼られているが、2013年4月に設立された当初はEU統合に反対するインテリ集団というイメージがあった。
しかしながら、2014年には早くも党内のリベラル派と右派の権力闘争が表面化し、2015年7月に行われた党大会では、設立時の共同代表の一人でリベラル派のベルント・ルッケが党を去り、同じく共同代表の一人で右派のフラウケ・ペトリが党の代表に就任して現在に至っている。

来年は連邦議会選挙が実施される。
メルケル首相率いるCDUの姉妹政党CSU(キリスト教社会同盟)のゼーホーファー党首は「移民政策、治安政策を考え直さなくてはならない」と発言し、CDUだけでなく、他の既成政党に波紋を投げかけている。

既成政党は移民受け入れ寛容な政策を修正するのだろうか。ベルリンで成立したSPD主導の「赤赤緑」連立は連邦レベルでの連立の試金石となるのだろうか。AfDはこのままの勢いで選挙に突入するのだろうか。これからもドイツから目を離せない。

(「AfDの台頭~ワイマール末期の再来か?~」の稿終了)

「ドイツ~東と西~」の読者のみなさま、今年一年おつきあいいただきありがとうございました。
これからもドイツ関連の記事をはじめ、気に入った美術展なども紹介していきたいと考えていますので、来年もよろしくお願いいたします。
それでは、みなさまよいお年を。

ベルリン・ブランデンブルク門





2016年12月5日月曜日

損保ジャパン日本興亜美術館「風景との対話」ブロガー内覧会

12月1日(木)、東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館で開催中の「風景との対話 コレクションが誘う場所」のブロガー内覧会に参加してきました。


とてもいい雰囲気の展示室


パリの風景、日本の風景、異国の風景、日常の風景、さらにシュールな心象風景、会場いっぱいにさまざまな風景が広がっていて、私たちを小さな旅へと誘ってくれます。

展示室内は、今回の展覧会を担当された主任学芸員の中島啓子さんにご案内いただきました。

「当館では毎年1回コレクション展を開催していて、今回のテーマは『風景』。今までのテーマではあまり展示する機会のなかった”秘蔵”の作品も多く展示されています。」と中島さん。

次にいつお目にかかれるかわからない作品が展示されているとなると見逃すわけにはいきませんね。

第1章 フランスのエスプリ

入口を入ってすぐの部屋に展示されているのはフランスの画家たちの作品。

「第1章は主にパリを中心に活躍した画家の作品です。ユトリロを除いて1960年代の画家たちの作品で、戦前のパリの良さを描いています。戦時中のナチス占領からの解放感からどの作品も温かい色を使っています。」





第2章 東郷青児の旅

第2章は、損保ジャパン日本興亜美術館の所蔵作品の中心をなす東郷青児のコーナー。

「東郷青児は、欧州や南米を旅行して多くの旅のスケッチを残しています。映画「ローマの休日」で有名になったローマの「スペイン広場」も描いています。確立したスタイルを変えようとした意欲作「古城」もぜひご覧になってください。」





第3章 日本の風土

こちらのコーナーにはポスト印象派に傾倒した岸田劉生や有島生馬、そして東山魁夷をはじめとした日本画も展示されていて、さまざまな日本の風景が広がっています。






第4章 異国の魅力

第4章は私の一番のお気に入りのコーナー。
中でもよかったのが後藤よ志子「白夜の街Ⅰ」(下の写真正面)。今回の展覧会の私の一押しです。
作者は中国の青島出身とおうかがいしたので、映画「恋の風景」で見た青島の古い街並みを描いているのでは、と錯覚してしまいました。





第5章 意識の底の地

シュールレアリズムの作品もあります。
私の二番目のおススメは矢元政行「極楽塔」(一番右の作品)。いったい何人の子どもたちが描かれているのでしょうか。



第6章 日常の向こう側

「このコーナーは他のどこにも属さない”余った人たち”のコーナーです(笑)。」と中島さん。
「でも私はここがお気に入りのコーナーで、このコーナーを作っているときに展覧会のタイトル『風景との対話』が頭の中に思い浮かんできました。たとえばキッチンで鍋を見ると、笠井さんの作品「二つの卓上生物」(下の写真左)を思い浮かべるとか、日常の中によみがえる記憶との対話ができる作品を展示しています。」



第7章 世界の感触

「このコーナーも余った人たちの作品ですが、第6章の作品とは合わない作品が展示されています。」と中島さん。
「その違いは作家の生きた世代がもっているテーマだと思います。1960年代に学生運動を経験して、一度カンバスを放棄した人たちが絵を描くことにもどってきて、平面に何を表現するか考えた人たちや、現在、20歳代から30歳代の人たちが自分自身の手作業で表現していく作品だったりします。」
「不確かな風景」(櫃田伸也)の前で解説する中島さん

「WALL(宮里紘規 下の写真右)は過去に開催された美術展のパンフレットを細く切って貼ったものです。パンフレットは古くなると退色してしまうので、保存には困る作品です(笑)。」



第8章 思い出のニューヨーク州

第8章はグランマ・モーゼスのほのぼのとした風景の作品が展示されています。



東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館で開催中の「風景との対話 コレクションが誘う場所」は12月25日(日)まで開催されています。

広々とした空間に広がるさまざまな風景。作品一枚一枚それぞれ違った場所に旅をしているような、とても楽しい気分にさせてくれる展覧会です。おすすめです。

詳しくはこちらをご参照ください。
  ↓
損保ジャパン日本興亜美術館「風景との対話 コレクションが誘う場所」



(掲載した写真は美術館の特別の許可を得て撮影したものです。)