2020年2月20日木曜日

”細川ミラーの輝き”~永青文庫「古代中国・オリエントの美術」

古代中国の黄金の輝き、国宝”細川ミラー”期間限定公開!

東京目白台の永青文庫では、平成元年度早春展 財団設立70周年記念「古代中国・オリエントの美術」が開催されています。
※4月1日から当面の間、臨時休館のため後期展示は繰り上げて終了になりました。
 今後の展覧会の再開時期については、公式サイトまたはTwitterでご確認ください。


今回の展覧会の注目は何といっても神秘の輝きを放つ国宝"細川ミラー"。
3月15日(日)までの期間限定公開なのでお早めに!


展覧会の概要はこちらです。

展覧会概要
会 期  2月15日(土)~4月15日(水)
開館時間 10:00~16:30(入館は16:00まで)
休館日  毎週月曜日(但し2/24は開館し、2/25は休館)
入館料 一般 800円ほか
展覧会の詳細は公式サイトをご覧ください→永青文庫
※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は内覧会で美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。
※展示作品はすべて永青文庫蔵です。
※永青文庫は当面の間、通常通り開館。ご来館時にはマスク着用のご協力を。
※お出かけ前には開館情報を公式サイトまたはTwitterでご確認ください。

今回の展覧会の主役は、中国美術や古代オリエント美術のコレクションを収集した永青文庫の設立者・細川護立氏(細川家16代 1883-1970)。
中国、中東、さらに南米まで地域の広がりもあって、年代の幅も大きい護立氏のコレクションをさっそく拝見してみることにしましょう。

まずは4階展示室から。

4階展示室
4階展示室には、古代中国の美術と日本近代画家が描いた中国の作品が展示されています。

細川護立と古代中国の美術

はじめは中国・殷~西周時代(紀元前13-前8世紀)の「戈己銘夔文銅戈」(重要美術品)。
少なく見積もってもおよそ3000年前の古代中国の武器。
柄の根本部分には「戈己(かい)」の銘、刀部分にはクルクルと渦を巻いたような模様「夔文(きもん)」が描かれています。

「戈己銘夔文胴戈」(重要美術品)
(殷~西周時代 紀元前13-前8世紀)
こちらは西周~春秋時代(前9~前7世紀)に高貴な女性の小物入れとして用いられたと考えられる「龍文人脚銅匱」。
側面には龍文、そして足の部分はなんと人間!
およそ3000年の重みに耐えている人たちに注目です。

「龍文人脚銅匱」(西周~春秋時代 前9~前7世紀)

さらに進むと見えてきました!いよいよ”細川ミラー”です。


正式名称は「金銀錯狩猟文鏡」(国宝)、戦国時代(前4~前3世紀)の鏡です。
戦国時代といっても、日本の戦国時代でなく、こちらは紀元前。日本でいえば弥生時代にあたります。ちょうど水稲農耕が定着して、銅矛や銅剣、銅鐸が作られていた頃です。

三方に渦巻文様が配置されていて、その間には虎のような動物と対峙する騎馬人物(上)、鳳凰(右下)、向かい合う2頭の動物(左下)。
どれも粒粒のような金銀が丁寧に埋め込まれていてます。ものすごく根気のいる作業だったことでしょう。

「金銀錯狩猟文鏡」(国宝)
(戦国時代 前4~前3世紀)

昭和4年(1929)に日本の古美術商から護立氏が購入したこの鏡、普段は考古学者の梅原末治氏に相談して美術品を蒐集していたのですが、この時は一目見て「実に驚くべきもの」と直感して即購入したとのこと。
実際にその場で神秘の輝きをご覧になっていただきたい逸品です。

なお、「金銀錯狩猟文鏡」は3月15日までの限定公開ですが、3月17日以降もご安心を。
同じく国宝の「金彩鳥獣雲文銅盤」が展示されます。


他にも前漢~後漢時代(前2~後3世紀)の「銅製馬車」(重要美術品)(下の写真手前)はじめ、中国古代の悠久の歴史が感じられる青銅器が展示されています。


日本近代画家が描いた中国

護立氏は、同時代の画家、梅原龍三郎(1888-1986)や安井曾太郎(1888-1955)ら近代洋画家たちのパトロンとしても知られていました。
4階展示室中央の展示ケースには、安井曾太郎の護立氏あての書簡が展示されていて、交流の深さが感じられます。
こちらの手紙には今回の展覧会で展示されている「承徳の喇嘛廟」についての記述があります。


作品はこちらです。

安井曾太郎《承徳の喇嘛廟》(右)、《連雲の町》(左)

右が昭和12年(1937)に満州を訪れた時に制作を行った《承徳の喇嘛廟》。
承徳は、北京から北に約250km、現在の河北省に位置する皇帝の避暑山荘がある都市で、当時は満州の統治下にありました。
そこでラマ廟を描いた安井曾太郎は、病を得て当地で一時静養し、日中戦争の発端となった盧溝橋事件が勃発した7月まで留まり、帰国後に加筆して完成させました。
左は、昭和19年(1944)に中国江南地方の江蘇省の港町・連雲港市で描いた《連雲の町》。安井は連雲の町並みにイタリアを感じたとのことですが、とても戦時中とは思えないのどかな雰囲気を感じさせてくれる作品です。


そして久米民十郎(1893-1923)の《支那の踊り》。不自然な形で体をくねらせるダンサーがひときわ目を引きます。
第一次世界大戦下のロンドンに留学した久米は、帰国後、絵画を通じて霊と霊との交通を表現し得ると信じた「霊媒派」を宣言しました。
背景の壁に描かれているのは中国古代の装束を身に着けた男女。古代中国との交信を試みたのでしょうか。とてもミステリアスな作品です。
独特の世界を展開した久米ですが、折からの関東大震災により30歳の若さで亡くなりました。

久米民十郎《支那の踊り》大正9年(1920)
3階展示室に移ります。



オリエントの美術

こちらは今回の展示の最古参、エジプトの「木製シャブティ」。
シャブティとは、ミイラの形をした副葬品の小像。
胴から足にかけての銘文から、ベネルメルウトという所有者の名までわかってしまうのです(解説パネルをご覧ください)。私も以前、象形文字の本を買って勉強したことがあるのですが、とても難しくてマスターできませんでした。
「木製シャブティ」(エジプト 新王朝時代第18王朝)
(前15~前14世紀頃)
こちらは2000年の時を経ても輝きを保っているガラス容器。


中でも魅力的な輝きを放つのが「ゴールドバンドガラス碗」。
解説を読むと、無色透明ガラスと紫色のガラスをねじり合わせたツイストガラス棒を板状にして、網目レース文様を作り、さらに、紫色と透明ガラスに金箔を挟んだ縞文様のガラス板を合わせて浅鉢形に成形している、とありますが、紀元前後頃の職人さんたちは、よくこんな込み入った工程を考えついたのだと思いました。
この工法は紀元前後頃に用いられた後に消滅し、1500年後にイタリアのヴェネツィアで復活したとのことです。

「ゴールドバンドガラス碗」(東地中海沿岸域)
(前2~前1世紀)
こちらも古代東地中海域の超絶技巧。
2本の円筒形瓶を合わせて、紐上のガラスで装飾するなんて、まさに熟練の職人のなせる技。

「二連瓶」(東地中海沿岸域 4~5世紀)
こちらはペルシャの鉢。


下ぶくれぎみの愛嬌のある顔の人物像です。
中央の王様も、思わず「カワイイ」と言いたくなるなごみ系のお顔。
「白釉色絵人物文鉢」(イラン 12~13世紀)
南米代表は、ペルーから来たインカ帝国の土器。
かわいい鳥だったり、おしゃれな幾何学模様だったり、今でも十分通用するデザインの焼き物です。
右から「彩色草花鳥文壺」「彩色幾何学文壺」
(いずれもペルー 15~16世紀)
最後は2階展示室。



細川家に伝わる高麗茶碗

中国からペルシャ、エジプト、東地中海、南米と、世界を一周して、お隣の朝鮮に戻ってきました。
ここに展示されているのは、細川家に伝わる高麗茶碗。
中には参勤交代で江戸と地元の熊本を行き来したものもあるとのこと。
どれも秀逸な作品なのですが、中でも特に惹かれたのが「井戸香炉」。
丸みを帯びたフォルムといい、雪山を連想させる模様といい、絶妙な安定感が感じられるのです。
「井戸香炉」(朝鮮 16世紀)
高麗茶碗の奥には、次回展を予告するパネル「細川家と明智光秀」。


次回展のご案内
令和2年度早春展 財団設立70周年記念
新・明智光秀論 -細川と明智 信長を支えた武将たち-
2020年4月25日(土)~6月21日(日)

「謀反人・光秀」のイメージを覆す、先進的な智将としての新たな人物像とは?
こちらも楽しみな企画です。

「季刊永青文庫」もおススメです

こちらは「季刊永青文庫」(税込500円)。
最新号のテーマはもちろん「古代中国・オリエントの美術」。
写真も豊富で展示作品の解説も詳しく、作品観賞のお伴におススメです。



2020年2月16日日曜日

FACE展2020(損保ジャパン日本興亜美術賞展)

今回で8回目を迎えた公募展「FACE展2020」が今年も東京新宿の損保ジャパン日本興亜美術館で開催されています。


いつものことながら、新進作家たちの力のこもった作品ばかりが並んだ見ごたえのある内容の展覧会。そしていつもと違うのは、損保ジャパン日本興亜本社ビル42階で開催される最後の展覧会。
そうです、高層ビルから眺める都心の景色も今回が見納めなのです。



展覧会概要
会 期  2月15日(土)~3月15日(日)→3月1日(日)で終了です!
休館日  月曜日(ただし2月24日は開館、翌25日も開館)
開館時間 午前10時から午後6時まで(入館は午後5時30分まで)
観覧料  600円(前売及び2名以上の団体 500円) ※大学生以下無料
相互割引などもあります。展覧会の詳細は公式サイトをご覧ください→https://www.sjnk-museum.org/

そして「さよなら42階」企画も!
~さよなら42階 お客様感謝企画~
・大学生の観覧料も無料!
・2月29日(土)、3月1日(日)は観覧料無料!

※展示室内での作品撮影が可能です。
(収蔵品コーナーは撮影不可です。)

収蔵品のゴッホ《ひまわり》も撮影不可ですが、ロビーにある複製画は撮影可なので、ぜひ記念に一枚!

撮影スポットのゴッホ《ひまわり》(複製画)

「年齢・所属を問わず、真に力のある作品」を公募するFACE展。
今回は875人の新進作家たちの応募作品の中から審査を経て選ばれた入選作品71点が展示されています。
風景画に人物画、具象あり抽象あり、さらに油彩、水彩、日本画、版画など技法も様々。
いろいろなジャンルの作品が楽しめる展覧会なのですが、いったいどのような作品が展示されているのでしょうか。
開会に先立って開催された内覧会に参加しましたので、その時の様子の一部をここにご紹介したいと思います。

会場風景はこういった感じです。
作品の前では作家さんがご自身の作品を解説していて、参加者からの質問にも答えていました。






FACE展のもう一つの楽しみは観覧者の投票によって選出される「オーディエンス賞」。
今回も「私が選ぶ1点」をどれにしようか悩みました。

1つの候補が野片恵理子さんの《丘の町》(作品番号50)。
画面下に小さく描かれた丘の上の街並みと、緑が基調の夜空に映える花火のような星座(もしかしたら星座のように見える花火?)。
そして何より部屋に飾るのにちょうどいい大きさ。


続いて目に留まったのが、山内太陽さんの《消失点喪失》(作品番号66)。


こちらは作家さんのお話を直接おうかがいできました。
今までは具象画を多く描いていたという山内さん。
「前もって頭の中に絵のイメージがあるのですか。」と質問したところ、「ぼんやりとしたイメージはありますが、描きながら頭の中のイメージと照合していきます。」とのこと。
何が描かれているのかはっきりとわからないからこそ想像力を掻き立たてさせてくれる作品です。


こちらも作家さんにお話をおうかがいできました。
桃山三さんの《麒麟よ》(作品番号61)です。


パソコンで描いたものをプリントアウトして、さらに彩色をほどこしているという作品。
平和な世に出てくるという麒麟と、牛の皮、そして日光東照宮陽明門の彫刻から着想を得たというカラフルな唐子や装飾。
欧米の公募展でも入選されている桃山さん。このエキゾチックで謎めいた雰囲気に惹かれます。

まだまだ紹介したい作品もたくさんあるのですが、ぜひその場でご覧になっていただいて「お気に入りの1点」を探しだしてみてください。

さて、ここで私の「オーディエンス賞」作品予想です。
これが実は大変難しいのです。
自分が気に入った作品でなく、みんなが気に入りそうな作品を選ぶのですから。

ということで悩みながら会場内をうろうろしましたが、この作品に決めました。
任田教英さんの《星天停止》(作品番号48)。
近くで見ると、まるで伊藤若冲の升目描きのように升目一つひとつに着色しているのがわかります。とても根気のいる作業だったでしょう。
もちろん私のお気に入りの作品の一つでもあります。



帰るときには外はすっかり日も暮れていました。
新宿の夜景ともお別れです。


別れがあれば出会いもあります。
こちらが損保ジャパン日本興亜本社ビル敷地内に建てられた、やわらかな曲線が特徴の「SOMPO美術館」。


もちろん開館記念展も開催されます。こちらも楽しみです。

Ⅰ 珠玉のコレクション  5月28日(木)~7月5日(日)
Ⅱ 秘蔵の東郷青児    7月18日(土)~9月4日(金)



そして10月からは「ゴッホと静物画」(10月6日(火)~12月27日(日))。


生まれ変わるSOMPO美術館、これからも目が離せません。

2020年2月11日火曜日

すみだ北斎美術館「北斎師弟対決!」

東京・墨田区のすみだ北斎美術館では、とてもエキサイティングな企画展「北斎師弟対決!」が開催されています。

こちらは3階ホワイエの撮影コーナー。
どうですか、この二人の武将の迫力。記念に撮影してぜひシェアしましょう!

孫弟子まで含めると200人はいたという北斎の弟子たち。
大きな工房を構えて分業体制を確立したわけでも、手取り足取り指導したわけでもなく、それでも弟子たちの能力を引き出していった天才絵師・北斎と、時には北斎に倣い、時には北斎を超えようとした弟子たちの火花散る対決が見られる展覧会。

展覧会の概要はこちらです。

【展覧会概要】
会 期  2月4日(火)~4月5日(日)
 前期 2月4日(火)~3月8日(日) 後期 3月10日(火)~4月5日(日)
 ※前後期で一部展示替えがあります。
開館時間 9:30-17:30(入館は17:00まで)
休館日 毎週月曜日
 ※ 2月24日(月・振替休日)開館、2月25日(火)休館
観覧料 1,000円ほか
展覧会の詳細は公式サイトをご参照ください→すみだ北斎美術館  

スライドトークも開催されます。興味のある方はぜひ!
2/29(土)、3/21(土) 14:00-14:30(開場13:30) 定員 60名
場所 1階 MARUGEN100(講座室) 参加費無料(ただし観覧券または年間パスポートが必要)

※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は、内覧会で美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。

今回の展覧会は、北斎の作品と弟子たちの作品を収集しているすみだ北斎美術館ならではの企画。そして200人の弟子たちのうち、よりすぐりの20人が登場します。
すべて同館所蔵の版画作品で、前後期合わせて100点以上が展示される盛りだくさんの内容。

「偉大な師・北斎に弟子たちがどのように挑んだか、じっくり見ていただきたいです。」と、今回の展覧会を担当された山際さん。

展示は、作品の主題ごとに4章構成になっています。

1章 人物
2章 風景
3章 動物
4章 エトセトラ

それではさっそく山際さんのご案内で作品を見ていくことにしましょう。

1章 人物

「今回は北斎と弟子の作品が並べて展示されています。」と山際さん。
最初は葛飾北斎《大黒酒宴図》と雪斎《門松と遊女》。

右 葛飾北斎《大黒酒宴図》、左 雪斎《門松と遊女》
どちらも前期展示
この雪斎という人、生没年不詳でこの作品以外は知られていない「謎の門人」。
それでも署名に「北斎門人」とあるので、北斎の弟子ということがわかるのです。
画面の右下の署名に注目!

雪斎《門松と遊女》前期展示

二つの作品の共通点は、ほっそりとした顔立ちの遊女の蝶が羽を広げたような形の髷と、正面を向いたあどけない顔の禿(かむろ)。

葛飾北斎《大黒酒宴図》前期展示

作品の主題や構図は異なりますが、こういったさりげないところから師への思いが伝わってくるようです。

作品にはそれぞれ解説パネルがついているので、師弟の比較を読みながら、近くでじっくりご覧になってください。

続いて北斎と、娘の葛飾応為の描く女性たち。

右 葛飾北斎《春興五十三駄之内 白須賀》、
(前後期で別摺の《白須賀》が展示されます)
左 葛飾応為《『女重宝記』四 女ぼう香きく処》
前後期展示
北斎が柏餅をつくる女性なら、応為はお香を練る女性。
ポーズは似ていますが、「手の描写が応為の方が細やかです。」と山際さん。
北斎は「美人画では応為の方が自分より上手だ。」と言ったそうですが、北斎も自分の娘の成長ぶりを見て、きっと嬉しかったのでしょう。

葛飾北斎《春興五十三駄之内 白須賀》
(前後期で別摺の《白須賀》が展示されます)

葛飾応為《『女重宝記』四 女ぼう香きく処》
前後期展示
そしてこちらが展覧会チラシや撮影コーナーのパネルにもなっているド迫力の武将たち。

左 葛飾北斎《鎌倉の権五郎景政 鳥の海弥三郎保則》
右 卍楼北鵞《椿説弓張月巻中略図 山雄(狼ノ名也)
主のために蟒蛇を噛て山中に躯を止む》
いずれも前期展示
「武将の顔に注目です。眉を吊り上げ、口をへの字に曲げたところは似ていますが、卍楼北鵞の方は、食いしばっている歯も描かれていて、目も血走っています。」と山際さん。
右側の武将が須藤重李。師に倣いつつも師を超えようとした北鵞の意気込みが感じらるようです。

卍楼北鵞《椿説弓張月巻中略図 山雄(狼ノ名也)
主のために蟒蛇を噛て山中に躯を止む》
前期展示
そして、師匠も負けてはいません。
上から覆いかぶさるように襲いかかる鎌倉権五郎景政は、「まだまだお前たちには負けないぞ。」と弟子たちに言っている北斎にも見えてくるから不思議です。

葛飾北斎《鎌倉の権五郎景政 鳥の海弥三郎保則》
前期展示

とても興味深い解説パネルを見つけました。
北斎の「東海道五十三次」シリーズと、魚屋(さかなや)さんから北斎の門人になった魚屋(ととや)北溪の『狂歌東関駅路鈴』が比較されていて、北溪はところどころ北斎の描いた場面を取り入れているのがわかります。
北溪の『狂歌東関駅路鈴』は、のちに狂歌が削られ絵のみとなって『北斎道中画譜』とタイトルを変えて北斎作として出版されました。
版元が北斎の作品として出版した方が売れると考えたからなのでしょうが、北斎作として通用してしまうところは、「おそるべし北溪!」です。
この解説パネルでは、今回の展覧会で展示しきれなかった作品を紹介しています。
2章 風景

こちらは本の見開き2ページ分を使った横長の構図の葛飾北斎『東遊』を、縦長の構図にアレンジした昇亭北寿「江戸名所十景」シリーズの比較です。
後期にはそれぞれ王子稲荷社を描いた作品が展示されます。
葛飾北斎『東遊』新吉原
前期展示 

昇亭北寿《江戸名所十景 新吉原桜の風景》
前期展示
そしてご存じ「冨嶽三十六景」のシリーズ。
ミニチュア版を制作したのは、北斎の孫弟子で大坂の人、春婦斎北妙。
「ミニチュアならではのかわいらしさをお楽しみください。」と山際さん。

左 葛飾北斎《冨嶽三十六景 隠田の水車》
右 春婦斎北妙《冨嶽三十六景 隠田の水車》
いずれも前期展示
ミニチュア版なら出来栄えもよくて、かさばらないので、コレクションにはちょうどいいかも。
後期は「武州千住」が展示されます。

こちらもおなじみ「諸国名橋奇覧」のシリーズ。
前期は半分が石造りで、半分が木製という「ゑちぜんふくゐの橋」。
後期には「東海道岡崎矢はきのはし」が展示されます。

左 葛飾北斎《諸国名橋奇覧 ゑちぜんふくゐの橋》
右 春婦斎北妙《諸国名橋奇覧 ゑちぜんふくゐの橋》
いずれも前期展示
3章 動物

まずは猫から。
今回の展示では珍しく、師弟3人のそろい踏みです。

右から 葛飾北斎『北斎漫画』二編 ねこ、
魚屋北溪『北里十二時』、
葛飾為斎『山水花鳥早引漫画』第二編 猫
いずれも前後期展示
まずは師匠・葛飾北斎の絵手本『北斎漫画』二編から。
左のページ下の方に赤い矢印で示されているのが、このコーナーの主役の猫です。
葛飾北斎『北斎漫画』二編 ねこ
前後期展示
続いて、遊郭の部屋の中に猫を登場させた魚屋北溪の『北里十二時』。
右のページの下に猫がいます。
魚屋北溪『北里十二時』
前後期展示
そして横浜開港後も活躍した葛飾為斎の『山水花鳥早引漫画』第二編から。
右のページの右上に猫が描かれています。
どの猫も背中を丸め、しっぽを体に巻き付けて首にはリボンをつけていますが、表情は少しずつ違って描かれています。
同じようなポーズの猫でも作者によって三者三様。
さて、どの猫がお気に入りでしょうか。


葛飾為斎『山水花鳥早引漫画』第二編 猫
それにしてもこの本のタイトルの『早引』とは、いかにも絵師だったらすぐに飛びつきそうな本。「山水花鳥を描くならすぐに調べられるこの絵手本がおススメ!」と宣伝しているかのよう。絵も升目に入っていて見たい絵がさがしやすいです。

展示は実在の動物、貂(てん)、さらに想像上の動物、獅子、河童、海馬と続いて、鳥のコーナーへ。

右から 葛飾北斎《小禽》、
二代葛飾戴斗『花鳥画伝』初編 加奈阿利
いずれも前期展示

加奈阿利とはカナリアのこと。
北斎の画風に忠実だった二代葛飾戴斗は、北斎の小禽をもとにカナリアを描いています。

葛飾北斎《小禽》 前期展示
「目の下の模様まで再現しています。」と山際さん。
二代葛飾戴斗『花鳥画伝』初編 加奈阿利
今回の展覧会で展示しきれなかった二代葛飾戴斗の作品がパネルに展示されています。


4章 エトセトラ

こちらには3章までのジャンルに入らなかった主題の作品が展示されています。
江戸時代の小説にあたる「読本」の挿絵を多く手がけた北斎とその弟子たち。
まるで現代のアクション漫画といっても通用するような派手な構図の作品の数々が展示されています。

こちらは放射状に広がる閃光。

左から 葛飾北斎『椿説弓張月』続編 巻三
石櫃を破て曚雲出現す
二代葛飾戴斗『画本西遊全伝』四編 五
青竜山の妖怪三蔵を摂去
いずれも前後期展示
こちらは師・北斎。
封印されていた棺を暴いたところ、棺が砕け散った場面。

葛飾北斎『椿説弓張月』続編 巻三
石櫃を破て曚雲出現す
前後期展示
こちらは西遊記をもとに書かれた『画本西遊全伝』の三蔵法師が妖怪に連れ去られる場面。
「本文には放射状の閃光の描写はないのですが、ここではそれが描かれています。」と山際さん。
当時の読者も、本を読み進めながら「来るぞ、来るぞ」と期待しつつ、パッとこのページが出てきたとたん、「来たー!」と小躍りしたのでしょう。
閃光シーンがあるとないとでは本の売り上げにも響いたのでは?

二代葛飾戴斗『画本西遊全伝』四編 五
青竜山の妖怪三蔵を摂去
前後期展示
こちらは北斎と、女性画家との説もある葛飾北明の幽霊。
霊に切りかかる場面や男が廃墟で霊に出会う場面が描かれていますが、こういった大胆な構図のシーンも当時の読者には人気があったのでしょう。
右から 葛飾北斎『近世怪談 霜夜星』四
葛飾北明『復讐奇談 幸物語』四
いずれも前後期展示 
3階の企画展は以上ですが、4階右半分の企画展示室では「常設展プラス」が復活しました。

常設展プラス

ここでは前回と同じく北斎の肉筆画としては最長とされる全長約7mの《隅田川両岸景色図巻》(複製画)が展示されています。
常設展プラスは6月14日(日)まで開催されています。
休館日は毎週月曜日、(2/24(月・振休)、5/4(月・祝)は開館、2/25(火)、5/7(木)は休館)。

葛飾北斎《隅田川両岸景色図巻》

そして、こちらは『北斎漫画』立ち読みコーナー。
『北斎漫画』全15冊の実物大高精細レプリカを手に取ってご覧いただくことができます。


以前、書店で豆本版の『北斎漫画』を見かけたことがあるのですが、この実物大レプリカが売りに出されたら、ぜひ買い揃えたいです。

AURORA(常設展示室)もお見逃しなく

すっかりお馴染みになった北斎さんと娘の阿栄(葛飾応為)も健在です。
AURORA(常設展示室)内は一部を除き撮影可です。

まだまだ楽しみはあります

3階に戻ってホワイエには葛飾北斎《富士田園景図》(高精細複製画 原画 フリーア美術館)が展示されています。撮影もできます。


そして、せっかくの機会ですので北斎さんに弟子入りしてみませんか。
弟子の気分になりきってボードに絵を描いてみましょう!
こちらも3階ホワイエにあります。

さて、楽しみいっぱいの企画展「北斎師弟対決!」。
展示替えがあるので、前期後期ともご覧になっていただきたい展覧会です。