東京・半蔵門ミュージアムで3月7日(土)に開催された「富士山 花と雲と湖と」イベント講演会「徳川時代の富士山図—饒舌館長ベストテン―」に参加してきました。
この講演会は、同館で1月17日(土)から5月10日(日)まで開催中の特集展示「富士山 花と雲と湖と」 にちなんで開催されているイベントのひとつで、講師はアートブログ「饒舌館長」でおなじみの河野元昭氏(出光美術館理事、東京大学名誉教授)。
(アートブログ「饒舌館長」のURLはこちらです⇒https://jozetsukancho.blogspot.com/)
会場内は超満員で、オンライン聴講された方もいらっしゃったので、多くの方が河野氏の楽しくて、とても興味深いお話を聴かれたのではないでしょうか。
| 講演会の様子 |
講演では、江戸狩野を確立した狩野探幽、琳派を大成した尾形光琳、今や世界的に有名になった葛飾北斎をはじめ、江戸時代を代表する絵師たちが描いた富士山作品の「饒舌館長ベストテン」を中心に、富士山が描かれた絵画の魅力や、古来より聖なる山として敬う対象であった富士山が、江戸時代には富士講によって登山する対象になり、また、富士山を見ながら酒を飲むなど生活を楽しむための山に大きく変化したこと、さらに特集展示「富士山 花と雲と湖と」展示作品の見どころなどをご紹介いただきました。
そして、注目したいのが講演会のタイトル。
平和な時代が続いた江戸時代は、「パクスロマーナ(ローマの平和)」になぞらえて「パクストクガワーナ(徳川の平和)」とも呼ばれますが、長い間戦争がなかったことによって町衆が豊かになり、それが文化として結実して、絵画の分野でも優れた作品が生み出された江戸時代を、河野氏はあえて「徳川時代」としているのです。
世界各地で紛争が続いている中、このタイトルから河野氏の平和に対する強い思いを感じ取ることができました。
講演会終了後は地下展示室に移り、常設展示と特集展示を拝見しました。
特集展示開催概要
展覧会名 富士山 花と雲と湖と
会 期 2026年1月17日(土)~2026年5月10日(日)
会 場 半蔵門ミュージアム(東京都千代田区一番町25)
時 間 10時~17時30分(入館は17時まで)
休館日 毎週月曜日・火曜日
入場料 無料
半蔵門ミュージアムは、入口の大きな看板が目印です。
※展示室内は撮影不可です。掲載した写真は、美術館より広報用画像をお借りしたものです。
※掲載した作品はすべて半蔵門ミュージアム所蔵です。
地下展示室の構成は、常設展示の「ガンダーラの仏教美術」、同じく常設展示の「祈りの世界」、そして今回は富士山を描いた作品が並ぶ特集展示「富士山 花と雲と湖と」と、大きく3つのに分かれています。
常設展示「ガンダーラの仏教美術」には、2~3世紀ごろ作られたガンダーラ仏伝浮彫が複数展示されています。キャプションには詳しい解説があるので、それぞれの作品がどの場面をあらわしていて、誰がどの人物がなのかもよくわかるので、作品を見ながら釈尊の生涯をたどることができます。そして、立体作品なので、正面からだけでなく、左や右から眺めると人物たちの違った表情が見えてくるのでぜひ試してみてください。
| ガンダーラ仏伝浮彫 初転法輪 2~3世紀 |
常設展示「祈りの世界」には、運慶作と推定されている大日如来坐像(重要文化財)をはじめ、醍醐寺ゆかりの如意輪観音菩薩坐像、不動明王坐像、二童子立像が常設展示されています。
落ち着いた雰囲気の中、心穏やかに仏様を拝むことができるとても素晴らしい空間です。
冒頭を飾るのは、東京美術学校(現・東京藝術大学)の第1期生で、岡倉天心を中心に創立された日本美術院に参加し、近代日本画界に大きな足跡を残した横山大観の《霊峰不二》。
生涯を通じて富士山を主題とした絵を2000点以上も描いた大観は、この作品では手前に松の木が並ぶ三保の松原、奥に雪化粧の富士山を描いていますが、雲の上に浮かぶように見える富士山の姿がより一層神秘的に感じられました。
| 横山大観《霊峰不二》1939年 |
片岡球子が1966年第51回院展に《面構(つらがまえ) 足利義政》を出品してから始まった「面構シリーズ」では、そこに描かれた足利将軍や浮世絵師など人物の迫力に驚かされましたが、「富士山」シリーズでは、その大胆な構図と、鮮やかな色彩に驚かされます。
片岡球子の作品は他にも2点展示されていますが、どれもどっしりとした存在感のある富士山が描かれています。
| 片岡球子《花に囲まれし富士》1985年頃 |
「会場芸術」を提唱して日本美術院を脱退し、青龍社を立ち上げた川端龍子が祖父にあたり、龍子のもと青龍社で日本画家としての道を歩んだ岡信孝の《紅梅富士》は、紅梅の赤と雪化粧の富士山の白の対比がとても印象的です。
| 岡信孝《紅梅富士》1990年代 |
川端龍子や龍子門下の横山操を慕い、青龍社展に1960年の初入選から1966年の解散まで出品した平松礼二の「路」シリーズの作品2点が展示されています。
そのうちの1点が《路・爽秋路》。すすきをはじめ、秋の草花が描かれている中、遠くに見える富士山の白がいいアクセントになっています。
河野氏の「イチ押し」が、版木に直接インクを付けず、版木に紙を押し当てて図柄を浮き立たせ、紙の上からインクを塗る「拓刷り」という独自の版画技法を確立した版画家・笹島喜平の作品。力を込めてバレンで摺り込んでいるので、白い部分にも凹凸があり、それが「陰影となってのものしさを感じさせている。」と河野氏。
今回の特集展示では《飛雲富士B》、《清秋富士》、《精進湖の富士》の3点が展示されているので、ぜひ近くからご覧いただいてこれらの作品がもつ迫力を感じとっていただきたいです。
| 笹島喜平《清秋富士》1973年 |
現在の静岡県富士市に生まれ、幼少期より目にしていた富士山を主題とした作品を数多く描いた野田好子の《飛翔》は、三保の松原に天女が舞い降りたとされる「羽衣伝説」を彷彿とさせるとても幻想的な作品です。
講演会で河野氏は「江戸時代には、富士山に自分の感情を投影するようになった。」とお話しされていましたが、日本画、版画、洋画と異なるジャンルの近現代の作家10名の15作品からも、作者それぞれの思いが込められた、全く異なった表情を見せてくれる富士山を楽しむことができました。
ぜひ多くの方にご覧いただきたい展示です。おすすめです。