2026年10月29日木曜日

山種美術館 開館60周年記念特別展3 ザ・ベスト・オブ・山種コレクションⅠ-横山大観、竹内栖鳳から上村松園、速水御舟へ―

東京・広尾の山種美術館では、開館60周年記念特別展3 ザ・ベスト・オブ・山種コレクション Ⅰ—横山大観、竹内栖鳳から上村松園、速水御舟へ―が開催されています。

山種美術館外観(夜景)

1966(昭和41)年、東京・日本橋兜町に日本初の日本画専門美術館として開館してから今年で開館60周年を迎えた山種美術館では、現在、およそ1年をかけて開館60周年記念特別展が開催されています。今回の特別展は、第1弾「川合玉堂-なつかしい日本の情景-」、第2弾「奥村土牛-名作でたどる100年のあゆみ—」に続く第3弾。
「ザ・ベスト・オブ・山種コレクションⅠ」では、山種美術館の創立者で初代館長・山﨑種二氏との交流のあった画家たちの作品を中心に、まさに「ベスト」の作品が展示されています。

展覧会開催概要


会 期  2026年10月10日(土)~12月6日(日)
開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日  月曜日(11/23(月・祝)は開館、11/24(火)は休館)
入館料  一般1500円、大学生・高校生1200円、中学生以下無料(付添人の同伴が必要です)

各種割引、展覧会の詳細、関連イベント等は山種美術館公式サイトをご覧ください⇒https://www.yamatane-museum.jp/  

展示構成
 第1章 ザ・ベスト・オブ・山種コレクション
 第2章 山﨑種二と日本画家

※今回展示されている作品はすべて山種美術館所蔵です。
※展示室内は次の1点を除き撮影禁止です。掲載した写真はプレス内覧会で美術館より許可を得て撮影したものです。


今回撮影可の作品は、竹内栖鳳の重要文化財《班猫》です。
 スマートフォン・タブレット・携帯電話限定で写真撮影OKです。展示室内で撮影の注意事項をご確認ください。

竹内栖鳳《班猫》【重要文化財】1924(大正13)年 絹本・彩色 

10/14(水)から11/25(水)まで、竹内栖鳳《班猫》にそっくりな猫さんの写真をXとInstagramに投稿する[SNS企画]班猫チャレンジ2026が開催されています。
詳しくはこちらをご覧ください⇒https://www.yamatane-museum.jp/news/2026/10/sns202610141125.html


いつも第1展示室の冒頭にはその時の展覧会を代表する作品が展示されていますが、今回は雲の上に浮かぶ富士山が描かれた横山大観の《心神》でした。

横山大観《心神》1952(昭和27)年 絹本・墨画淡彩

《心神》は、 山種美術館の設立に際し、美術館をつくることを条件として、大観から特別に購入を許された作品。まさに開館60周年記念特別展3の冒頭を飾るのにふさわしい作品ではないでしょうか。

「ベスト」の作品が展示されているので、どの作品も紹介したいのですが、それではきりがないので、筆者が気になった作品をいくつか紹介したいと思います。

まずは近代日本画界の重鎮・橋本雅邦の《日本武尊像》。

橋本雅邦《日本武尊像》1893(明治26)年頃 絹本・彩色


日本武尊(ヤマトタケルノミコト)は記紀などに伝えらえる英雄伝説の主人公で(『古事記』では「倭建命」)、九州の熊襲征伐や東国の蝦夷の討伐などに遣わされたのち、都への帰途、力尽きて斃れるという悲劇的のヒーローでしたが、ここでは左手に矛を持ち、右手をぐっと握りしめて敵をにらみつける凛々しい姿で描かれています。
そして注目したいのは背景の岩の表現。
雅邦は江戸幕府の御用絵師集団・狩野派の出身で、狩野派の代名詞ともいえる、斧で割ったような断面の岩(斧劈皴)を描いているのです。
明治に入って御用絵師としての地位を失い没落した狩野派ですが、芳崖は狩野派出身であることをいつまでも誇りにもち、さりげなくそのことを表現しているように思えました。


日本美術院の創設に参加し、岡倉天心とともに日本画の近代化に取り組んだ雅邦の門下からは横山大観をはじめ優れた画家が出てきました。
今回の特別展では、大観作品はさきほどご紹介した《心神》のほか中国の景観を描いた絵巻物《楚水の巻》(11/10より巻替)、京都の宇治市にある山で、六歌仙の一人・喜撰法師が隠棲していたことで知られる山を描いた《喜撰山》が展示されています。


横山大観《楚水の巻》(部分)1910(明治43)年 紙本・墨画(11/10より巻替)



日本美術院の北茨城・五浦移転に伴い、岡倉天心に従い、大観とともに五浦に移り制作に専念した菱田春草、下村観山の名作も展示されています。

わずか37歳の若さで亡くなった天才画家・菱田春草の作品は、春夏秋冬それぞれの月の様子を描いた《月四題》。
落款の特徴から最晩年に近い頃の制作と考えられ、病を患いながらも最後の力を振り絞って筆を執ったことを想像すると涙なしでは見られない作品です。

菱田春草《月四題》1909-10(明治42-43)年頃 絹本・墨画淡彩


岡倉天心とともに五浦に移った大観、春草、観山、木村武山の4人の中でも筆者が一番好きなのは、これでもかというくらい細部までこだわって描く観山の作品です。
今回は《不動明王》と《老松白藤》の2点が展示されているなか、大画面の屛風《老松白藤》をご紹介します。

下村観山《老松白藤》1921(大正10)年 紙本金地・彩色

松の樹皮の質感の表現、立体感のある藤花、巨木の幹を中央に据えた桃山障壁画を思わせる空間的な広がり。さすが観山とうなってしまいます。
さてここで質問です。
「この作品の中には熊蜂が描かれていますが、どこに描かれているでしょうか。」
答はその場でぜひ探してみてください。

近代日本画の歴史のなかで、「東の大観、西の栖鳳」と並び称された東京画壇と京都画壇の巨匠の作品が一つの会場内で見られるのが「ザ・ベスト」の見どころのひとつですが、戦前にたもとを分かった二人の巨匠の作品が同時に見られるのも「ザ・ベスト」ならではではないかと思いました。

川端龍子が院展(日本美術院展覧会)脱退後に立ち上げた青龍社第1回展で発表したのが《鳴門》でした。
会場芸術を唱えて豪放な作風をめざした龍子らしく、大迫力の画面に圧倒されます。


川端龍子《鳴門》1929(昭和4)年 絹本・彩色


近代日本画壇では「東の清方、西の松園」と称された美人画の双璧、鏑木清方、上村松園の競演も見られます。松園作品は《蛍》、《砧》、《新蛍》の3点、清方作品は《伽羅》が展示されているなか、今回ご紹介するのは、松園の古典学習の成果がみられる《蛍》。


上村松園《蛍》1913(大正2)年 絹本・彩色

蚊帳を吊る女性がふと見た先には蛍が飛んでいます。
松園は江戸時代の風俗画を熱心に学んでおり、女性のこのポーズは喜多川歌麿《絵本四季花(上)  雷雨と蚊帳の女》の浮世絵を参考にした可能性が指摘されています。

そして、女性がまとう衣裳や装飾からアジャンタ石窟(インド)の神仏や観音像を思わせ、女性と風景の組合せからレオナルド・ダ・ヴィンチの《モナ・リザ》(ルーブル美術館)をはじめとしたルネサンス期の絵画に通じるものと思われる作品が、村上華岳の重要文化財《裸婦図》です。

村上華岳《裸婦図》【重要文化財】1920(大正9)年 絹本・彩色



小林古径、安田靫彦、今村紫紅、速水御舟をはじめ、大観らの次の世代の画家たちの優品も展示されています。このなかからご紹介するのは、今村紫紅《大原の奥》です。

今村紫紅《大原の奥》1909(明治42)年 絹本・彩色

描かれているのは平清盛の次女で、安徳天皇の母・建礼門院(徳子)。
壇ノ浦の戦いで源氏に敗れ安徳天皇が入水し、建礼門院も続きましたが源氏軍に救われ、その後、出家して大原の寂光院で隠棲しました。
紫紅は明治末から大正初めにかけて琳派の影響が色濃い作品を制作していますが、背景の薄野は江戸琳派の装飾性に通じるところがあることが指摘されています。


最後にもう1点ご紹介したいのは、2025(令和7)年にバンク・オブ・アメリカの文化財保護プロジェクトから助成を受けて本格的な修復が行われて今回が初公開の作品、小室翠雲《海寧観潮》です。
中国浙江省の銭塘江は、旧暦8月18日前後の満潮時に海から河へと逆流し、高潮が遡る大海嘯(だいかいしょう)で知られています。
筆者も以前訪れたことがありますが、時期外れだったのでこのような迫力ある場面を見ることはできなかったので、いつかまた行ってみたいと思います。

小室翠雲《海寧観潮》1922(大正11)年 紙本・墨画淡彩



豪華ラインナップの展示ですので、ミュージアムグッズも盛りだくさん。
今回出展作品の竹内栖鳳《班猫》【重要文化財】をデザインした「オリジナルふきん」をはじめ新発売のグッズもお楽しみです。

ミュージアムグッズ



1階の「Cafe椿」では、出品作品をモチーフにしたオリジナル和菓子をいただきながら、美術鑑賞の余韻に浸ってみてはいかがでしょうか。


オリジナル和菓子のご案内



山種美術館開館60周年を記念して発行される名品選図録Ⅰ、ⅡのうちⅠにあたる『開館60周年記念 ザ・ベスト・オブ・山種コレクションⅠ』も好評発売中。
今回の特別展の出品作品だけでなく、開館60周年記念特別展1、2で紹介された川合玉堂や奥村土牛の作品、江戸絵画や浮世絵、論文や詳しい作品解説も収録されている充実した内容の図録なので、これは間違いなく永久保存版です。




「ザ・ベスト」という名にふさわしく、近代日本画の巨匠たちの名品が勢揃いした展覧会です。ぜひお楽しみください。

2026年10月27日火曜日

東京国立博物館 開創700年記念 特別展「大徳寺 本朝無双之禅苑」 

東京・上野公園の東京国立博物館では、開創700年記念 特別展「大徳寺 本朝無双之禅苑」 が開催されています。 



今回の特別展は、京都紫野の地に七堂伽藍を構える洛北随一の巨刹・大徳寺開創700年を記念して、塔頭や大徳寺派寺院を含む大徳寺山内の寺宝が一挙公開される超豪華な内容の展覧会です。


展覧会開催概要


展覧会名 開創700年記念 特別展「大徳寺 本朝無双之禅苑」
会 場  東京国立博物館 平成館
会 期  2026年10月14日(水)~12月6日(日)
     前期10月14日(水)~11月8日(日)
     後期11月10日(火)~12月6日(日)
開館時間 午前9時30分~午後5時
     ※毎週金・土曜、11月1日・2日・22日は午後8時まで
     入館は閉館の30分前まで
休館日  月曜日(ただし、11月2日・23日・30日は開館)、11月24日
     ※11月30日は大徳寺展のみ開館(東博コレクション展は休館日のため観覧不可)
観覧料  一般2300円、大学生1300円、高校生900円
※展覧会の最新情報、チケットの購入方法、関連イベント等は展覧会公式サイトをご覧ください⇒https://daitokuji2026.exhn.jp/

展示構成
 序章  禅の広がり—心から心へ
 第1章 大徳寺の開創
 第2章 大燈禅の継承
 第3章 戦国武将と塔頭
 第4章 江戸時代の名僧
 第5章 禅宗美術の精華
 終章  禅とともに—大徳寺三門の世界

※展示室内は、終章を除き撮影不可です。掲載した写真は報道内覧会で主催者より許可を得て撮影したものです。
※前期・後期で展示作品はほぼ総入れ替えになります。展示期間表記のない作品は全期間展示です。


第1会場に入ってすぐにご対面するのは、大徳寺の開山、宗峰妙超(大燈国師 1282-1337)の坐像。正面を見据え、威厳に満ちた姿が印象的です。一礼をして会場内に向かいました。
後方は、後醍醐天皇が「本朝無双之禅苑」とたたえた言葉が記された扁額です。


手前 宗峰妙超坐像 江戸時代 18世紀 京都・雲林院蔵
後方 扁額「本朝無双禅苑」 江戸時代 17世紀 大徳寺蔵



さらに先に進むと、奇跡の空間が広がっていました。
ここは前期の大きな見どころのひとつ。
東洋一の名画と謳われる水墨芸術の最高傑作、中国・南宋時代の画僧で、日本では絶大な人気を誇る牧谿筆の国宝《観音猿鶴図》と、伝牧谿作の重要文化財《龍虎図》が並んで展示されているのです。

中央の三幅 国宝 観音猿鶴図 牧谿筆 中国・南宋時代  13世紀
両脇の二幅 重要文化財 龍虎図 伝牧谿筆 中国・南宋~元時代 13世紀
いずれも大徳寺蔵 前期展示(10/14-11/8)  

後期には、咸淳5年(1269)の墨書銘がある伝牧谿筆の重要文化財《龍虎図》を脇幅、伝月壺筆《白衣観音像》を中幅とした三幅対と、国宝《楊柳観音図》を中幅、北宋から南宋にかけて活躍した宮廷画家・李唐筆の国宝《山水図》を左右に配した三幅対の水墨画が展示されます。
いずれも中国水墨画の傑作なので後期展示も楽しみです。


大徳寺にゆかりの深い後醍醐天皇の肖像画にも注目したいです。
後醍醐天皇は二度の討幕計画に失敗して隠岐に流され、それでも脱出して鎌倉幕府が滅亡すると建武の新政を行ったものの、足利尊氏にそむかれ吉野に移って南朝を開き、その地で亡くなるという激動の人生を歩んだ強烈な個性の持ち主でした。
堂々とした風格の後醍醐天皇の姿からは、そのような個性がうかがえるように感じられました。

重要文化財 後醍醐天皇像 鎌倉~南北朝時代 14世紀
大徳寺蔵 前期展示(10/14-11/8) 


後期には、後醍醐天皇が隠岐から京都に帰還した元弘3年(1333)に宗峰妙超に与えた国宝《後醍醐天皇宸翰置文》が展示されます。そこには「本朝無双之禅苑」と讃える言葉が記されているのでぜひ注目してみてください。

国宝 後醍醐天皇宸翰置文 南北朝時代 元弘3年(1333)
大徳寺蔵 後期展示(11/10-12/6)



開山以来、大徳寺は各時代を代表する名僧を輩出していますが、中でもよく知られているのが、「一休さん」で知られる一休宗純ではないでしょうか。
室町時代に活躍した型破りな禅僧だけあって、一休宗純の頂相(禅僧の肖像)もボサボサの髪、伸び放題の無精髭と、これまた型破りな風貌です。
前期・後期で5点展示されるので、それぞれ特徴のある表情の一休さんに出会うことができます。

重要文化財 一休宗純像 自賛、 宗辨禅人請 室町時代 15世紀
京都・酬恩庵蔵 前期展示(10/14-11/8)

頂相が続く展示の間に敷かれた石畳を模した敷物の先に見えてくるのは、縦は6mを超え、横幅も4m近くある巨大な《仏涅槃図》。

「大徳寺展」展示風景

作者は狩野松栄。父・元信と子の永徳の陰に隠れて目立たない存在ですが、なかなかどうして。近くで見たらすごい迫力です。
画面下の悲しんでいる動物たちも表現豊か。間近に見ることができます。

重要文化財 仏涅槃図 狩野松栄筆 室町時代 永禄6年(1563)
大徳寺蔵 前期展示(10/14-11/8)


戦国武将との関わりが深いのも大徳寺の特徴です。
織田信長が天正10年(1582)に本能寺の変で没したのちに豊臣秀吉の主導で葬儀を執り行う場所として選定されたのが大徳寺でした。秀吉は信長の位牌所として総見院を建立して、その菩提を盛大に弔いました。
前期には信長の葬儀で掲げられた可能性が高い総見院蔵の《織田信長像》が展示されます。(後期には大徳寺蔵のものが展示されます)
《織田信長像》の隣に並んでいるのは《豊臣秀吉像》です。


右 織田信長像 狩野永徳筆 安土桃山時代 16世紀 京都・総見院蔵 
前期展示(10/14-11/8)
左 豊臣秀吉像 江戸時代 17世紀 大徳寺蔵


第2会場に移ります。
第2会場では大徳寺各塔頭の至宝をはじめ、禅宗美術の精華をたっぷり楽しむことができます。

重要文化財の《五百羅漢図》や《十王図》も展示されていますが、ここでご紹介したいのは同じく重要文化財の《百鬼夜行絵巻》。
さまざまな妖怪が闇夜にまぎれて行進する様子が描かれた絵巻は江戸時代制作のものを含め60件以上確認され、その流行ぶりを知ることができますが、この真珠庵のものは現存最古という貴重なものなのです。
寺伝では、真珠庵の開祖でもある一休宗純が構想を練ったとも、室町時代後期の絵所預・土佐光信が描いたとも伝わっているので、さらに貴重なものといえるかもしれません。


重要文化財 百鬼夜行絵巻 伝土佐光信筆 室町時代 15世紀
京都・真珠庵 半期で巻替え


狩野派の始祖・狩野正信から、元信、永徳、探幽と続く狩野派の絵師たちをはじめとした障壁画の名品の数々も大きな見どころのひとつです。
まるで塔頭を訪れたようなしつらえの中で見る障壁画はまた格別な味わいがあります。


「大徳寺展」展示風景

そしてフィナーレは、大徳寺三門楼上内の再現展示。
特別公開の時などに大徳寺にはよく訪れるのですが、この三門はいつも外から見るだけで、中まで入る機会はなかったので、この再現展示はうれしかったです。


大徳寺三門


現在の三門は、応仁の乱ののち、享禄2年(1529)に連歌師・宗長によって単層で再建され、天正17年(1589)に千利休が上層を造営して「金毛閣」と名づけられました。千利休が秀吉に切腹を命じられる要因にもなったという利休の木像が安置されていたのもこの三門楼上でした。

会場内はご覧のように三門楼上の雰囲気がよく出ています。再現展示ではありますが、正面の仏像は本物です。

釈迦如来坐像および迦葉・阿難立像 釈迦:印慶作 
釈迦:室町時代 応永11年(1404) 迦葉・阿難:鎌倉時代 13~14世紀
大徳寺蔵

三門楼上に置かれている《千利休立像》も展示されています。これは天正17年(1589)に置かれた利休の木像ではなく後世のものです。
柱などもとてもリアル。実際に三門楼上に上ったような気分が味わえます。

千利休立像 体部:田中浄慶作 頭部:天保11年(1840) 体部:明治2年(1869)
大徳寺蔵

展覧会特設ショップには、本展限定御朱印付きの御朱印帳や、《百鬼夜行絵巻》をイメージしたぬいぐるみクッションまで、展覧会の思い出になるグッズが盛りだくさん。
実はさきほど《百鬼夜行絵巻》をご紹介したのは、ここでこのぬいぐるみクッションを紹介したかったからなのです。

展覧会特設ショップ


公式図録は、表紙には黒地に「本朝無双」という黒い文字が浮かび上がり、左上には特別展の名称が銀色に輝いているという渋くてかっこいいデザイン。牧谿筆の国宝《観音猿鶴図》など一部作品の拡大写真をはじめすべての出品作品が収録され、大徳寺三門の写真や、詳細な作品解説や豊富なコラムも収録されてます。大徳寺の歴史と文化を紐解くことができる豪華な内容なのでおすすめです。

公式図録


通常非公開の名宝が一堂に会する展覧会はなんと41年ぶり。そして東京では初めてなので、この機会にぜひご覧いただきたい展覧会です。 

2026年10月23日金曜日

大倉集古館 企画展「美しい瞬間(とき)ー美人画を中心に」

東京・虎ノ門の大倉集古館では、企画展「美しい瞬間(とき)ー美人画を中心に」が開催されています。

大倉集古館外観


今回の企画展は日本・中国・インドで17世紀から20世紀に描かれた美人画や風景画、さらには化粧道具なども展示されているとても華やいだ雰囲気の展覧会です。
先日、展覧会におうかがいしましたので、さっそく展示の様子をご紹介したいと思います。


展覧会開催概要


会 期  2026年10月3日(土)~12月20日(日)
     前期:10月3日(土)~11月8日(日) 後期:11月10日(火)~12月20日(日)
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日  毎週月曜日(休日の場合は翌火曜日)
入館料  一般 1,000円、大学・高校生 800円※学生証をご提示ください
     中学生以下無料
展覧会の詳細、ギャラリートークなどのイベント、各種割引等は同館公式サイトをご覧ください⇒https://www.shukokan.org/ 

※今回の企画展では一部作品を除き撮影ができます。展示室内で撮影の注意事項をご確認ください。後期展示作品及び鏡台は、主催者より広報用画像をお借りしたものです。



展示は1階展示室の「いにしえの女性」で始まります。
冒頭に登場するのは、中国8世紀・唐時代の最新モードを取り入れたメイクをして優雅にたたずむ女性と、記紀に伝えられる三韓征伐の主役で、応神天皇の母とされる神功皇后が鎧を身につけ弓を持った勇ましい姿です。
《鳥毛立女図(模本)》は、正倉院宝物の《鳥毛立女屛風》(奈良時代・8世紀)の模写の一部で、古代における理想の美人像を今に伝える作品です。《神功揚武図》は泰麗という生没年不明の画家により明治~大正時代に描かれたとされる作品で、赤子の応神天皇とともに描かれるのは、母子信仰を背景としているものです。

右 《鳥毛立女図(模本)》大正・20世紀(原本・奈良時代・8世紀)大倉集古館蔵
左 泰麗《神功揚武図》 明治~大正・20世紀か 個人蔵 どちらも通期展示


次にご紹介するのは、仇英の落款と印章が付された《宮女図巻》。

《宮女図巻》(部分)「仇英」款 中国 明~清時代・17世紀 大倉集古館蔵 巻替あり 


中国・明時代に活躍した画家で、沈周、文徴明、唐寅ともに明四大家と称される仇英は、山水画、人物画を得意とし、なかでも優美な女性像を描いた美人画は人気を集め、後世多くの画家に模倣されました。
この《宮女図巻》も後世描かれたものの一つと考えられますが、女性たち一人ひとりの表情が穏やかで、とても優雅な姿で描かれています。


中国・中唐期の詩人・白居易の「長恨歌」で語られる絶世の美女・楊貴妃は、唐の皇帝・玄宗の寵愛を一身に受け栄華を極めましたが、安史の乱で悲惨な最期を遂げた悲劇のヒロインでもありました。
ここには楊貴妃にまつわる作品が展示されています。


右から 鈴木淡園《楊貴妃図》 明治~昭和・20世紀 個人蔵
河鍋暁翠《楊貴妃(能楽圖繪のうち)》 明治32年(1899) 櫂舟三郎コレクション
《能面 増女》「出目洞水」焼印 江戸時代・18世紀、大倉集古館蔵
《天冠》、 《唐団扇》どちらも江戸時代・18~19世紀 大倉集古館蔵
いずれも通期展示


大阪で活躍した絵師・鈴木淡園の《楊貴妃図》は、長澤蘆雪《唐美人図》を手本にしたと考えられていますが、蘆雪画が鏡を見る美人であるのに対して、この作品は落ち着いた才女としての側面が強調されています。
鬼才・河鍋暁斎の娘・河鍋暁翠筆《楊貴妃(能楽圖繪のうち)》は、能「楊貴妃」を題材とした作品。
能「楊貴妃」は、楊貴妃を死に追いやった玄宗皇帝が、方士(呪術師)に命じて彼女の霊魂を探させる話。狩野山雪《長恨歌図巻》)(アイルランド チェスター・ビーティ―コレクション)に描かれた、楊貴妃の霊魂を求めて冥界に飛んでいく方士の姿を思い出しました。
絵画作品とともに、天女や女神、楊貴妃のような貴人女性の役に用いられる能面の「増女(ぞう)」や、高貴な女性や天女などの役に用いる「天冠」、中国風を表す「唐団扇」が展示されているので、ここは能「楊貴妃」の雰囲気が立体的に表現された素晴らしい空間です。


冒頭でご紹介したように、女性が描かれた作品だけでなく、化粧道具も展示されていて、それがとてもいいアクセントになっています。

《鏡台》(鏡) 江戸時代・18~19世紀 個人蔵 通期展示 



2階に向かうと、インドの女性と女神が描かれた細密画が12点も展示されていました。どれも小さな作品ですが、文字どおり細部まで細かく描かれているので、とても見ごたえがあります。

中でも特に気に入ったのは、ヴェールの透明感が見事に表現された《バニ・タニ像》でした。
原画は18世紀に描かれた「インドのモナ・リザ」ともいわれる有名な作品で、この作品は原画をもとに象牙絵として作られたものです。

《バニ・タニ像》 マザール(原画:キシャンガル派) インド・1970年
大倉集古館蔵(山内コレクション) 通期展示


このように、古代日本の女性や、中国やインドの女性が描かれた作品が展示されているのが今回の企画展の大きな見どころですが、江戸時代の浮世絵や、近代日本画家によって描かれた美人画のファンのみなさま、ご心配なく。
人気浮世絵師による肉筆浮世絵も、「西の松園、東の清方」と並び称された上村松園や鏑木清方の美人画も今回の企画展の大きな見どころのひとつです。


上村松園の作品は前期後期で総入れ替えという豪華版。

右から 上村松園《初春図》、《美人之図》 大正・20世紀 個人蔵
上村松園《「春さ免」「衣可え」(春夏秋冬四題のうち)》 昭和9年、10年
(1934年、1935年) 大倉集古館蔵 いずれも前期展示



鏑木清方と清方の弟子の伊東深水の作品は撮影不可ですが、展示室内では東西美人画の名手たちによる美人画の競演が楽しめます。

メインビジュアルになっている三木翠山《鏡》は前期展示ですのでお見逃しなく!
うれしそうな顔がとてもチャーミングです。

 三木翠山《鏡》 昭和4年(1929) 大倉集古館蔵 前期展示



かがり火に照らされた桜の花が映える横山大観の大作《夜桜》は後期展示です。


横山大観《夜桜》(左隻) 昭和4年(1929) 大倉集古館蔵 後期展示 


勝川派の祖で、葛飾北斎の師としても知られる勝川春章筆《娘道成寺図》も後期に展示されます。


勝川春章《娘道成寺図》 江戸時代・1783~87頃 個人蔵 後期展示


楊貴妃のコーナーでもご紹介しましたが、今回の企画展では絵画作品だけでなく、工芸作品も組み合わされて展示されているのがとてもよかったです。
後期に展示される《友禅黒留袖 時国風景》は、現代の名工による能登の風景をモチーフにしたきらびやかな作品です。


毎田仁郎《友禅黒留袖 時国風景》平成4年(1992)頃 個人蔵 後期展示


絵画や工芸作品を通じて、女性たちの美しい瞬間が見られる展覧会です。
前期は11 月8日(日)まで、後期は11月10日(火)~12月20日(日)。
前期も後期もぜひご覧いただきたい展覧会です。

2026年10月20日火曜日

三井記念美術館 館蔵の茶碗100撰―国宝から手造茶碗まで―

東京・日本橋の三井記念美術館では、館蔵の茶碗100撰—国宝から手造茶碗まで—が開催されています。

展覧会ポスター


今回は、同館が所蔵する200件を超える茶碗の中から、国宝、重要文化財を含む名品・優品、和物や唐物、高麗茶碗や三井家ゆかりの茶碗をはじめ、さまざまな種類の茶碗100件が選ばれて展示されている、とても豪華な内容の展覧会です。

遅ればせながら、先日展覧会におうかがいしましたので、展示の様子をご紹介したいと思います。


展覧会開催概要


会 期  2026年9月12日(土)~11月23日(月・祝)
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日  月曜日(ただし、10月12日、11月2日・23日は開館)、10月13日(火)
主催   三井記念美術館
入館料  一般 1,200円、大学・高校生 700円、中学生以下無料
※展覧会の詳細、各種割引等については同館公式サイトをご覧ください⇒https://www.mitsui-museum.jp/

展示構成
 展示室1:重要文化財と当館を代表する名碗
 展示室2:国宝 志野茶碗 銘卯花墻
 展示室3:如庵 茶道具取り合わせ
 展示室4:唐物茶碗・高麗茶碗・和物茶碗
 展示室5:樂の茶碗・永樂の茶碗(保全)
 展示室6:永樂の祥瑞写(保全)
 展示室7:永樂の茶碗(保全・和全)・手造茶碗


※展示室内は、展示室4を除き撮影禁止です。掲載した写真は美術館より広報用画像をお借りしたものです。


国宝・重要文化財の名碗が勢揃い!


独立ケースが並んだ展示室1には三井記念美術館が所蔵する重要文化財の名碗5点が勢揃い。千利休が所持したと伝わる《古三島茶碗(二徳三島)》などの名物とされる名碗とともに展示されています。

《重要文化財 中興名物 玳皮盞(鸞天目)》の見込に描かれた尾の長い鳥は瑞鳥の鸞(らん)。
独立ケースの中に展示されているので、360度ぐるりと回って見込みを眺めると、まるでアニメのように二羽の鷺が動き出して大空を優雅に飛んでいるように見えてきました。

重要文化財 中興名物 玳皮盞(鸞天目)南宋時代・12 ~ 13世紀 三井記念美術館蔵


 重要文化財《粉引茶碗(三好粉引)》は朝鮮半島で16世紀に焼かれた茶碗で、戦国武将・三好長慶(1522-1564)が所持していたことから三好粉引と呼ばれています。
正面にある笹の葉のような模様がアクセントになってかっこいいなと思ったら、これは釉薬の掛け外れによるものだったのですね。

重要文化財 粉引茶碗(三好粉引) 朝鮮時代・16世紀 三井記念美術館蔵

そして茶碗で注目したいのは「銘」。
濃淡をつけた釉薬が作る模様がどんより曇って今にも雨が降ってきそうな様子に見える本阿弥光悦作の黒楽茶碗の銘は「雨雲」。昔の人たちの粋な銘を付けるセンスにはまさに「感銘」を受けてしまいます。


重要文化財 黒樂茶碗 銘雨雲 本阿弥光悦作 江戸時代・17世紀 三井記念美術館蔵


いつも展覧会を代表する作品が1点のみ展示されている「VIPルーム」展示室2には、日本で焼かれた和物茶碗で国宝に指定された2碗のうちの1碗、ご存じ《国宝 志野茶碗 銘卯花墻》が展示されています。(もう1碗は本阿弥光悦作の白樂茶碗(銘不二山)(サンリツ服部美術館蔵)です。

垣根文様は鉄絵で描かれていて、付属の小色紙に記された和歌「やまざとのうのはながきのなかつみち ゆきふみわけしここちこそすれ」から「卯花墻」という銘が付けられました。昔の人たちの感性はどこまでもおしゃれです。


国宝 志野茶碗 銘卯花墻 桃山時代・16~17世紀 三井記念美術館蔵


個性的な茶碗も勢揃い!



三井記念美術館の中でも一番大きい展示室4には、唐物茶碗、高麗茶碗、和物茶碗がずらりと並んでいます。(展示室4は撮影可です。展示室内で撮影の注意事項をご確認ください。)


展示室4 展示風景



国宝や重要文化財でないからといって決して見劣りするものではありません。
個性的な茶碗が20点以上も展示されているので、どれもじっくりと見たくなる名碗ばかりです。その中から特に気になった茶碗をご紹介します。

唐物茶碗で気になったのは《染付雲堂手鉢の子茶碗》。
一見すると何が描かれているのかわからなかったのですが、胴から腰にかけては雲堂模様と呼ばれ渦巻状の雲などが描かれ、見込には草花と花弁文が描かれていて、とても斬新なデザインに感じられました。


染付雲堂手鉢の子茶碗 明時代・17世紀 三井記念美術館蔵


高麗茶碗で気になったのは《御所丸茶碗(黒刷毛)》。
その名のとおり刷毛で黒釉を塗った模様には、塗るときのすごい勢いが感じられました。


御所丸茶碗 朝鮮時代・17世紀 三井記念美術館蔵


和物茶碗で気になったのは野々村仁清作の《色絵薄絵茶碗》。
仁清にしては控えめな色使いですが、秋の落ち着いた雰囲気が感じられます。
この茶碗は北三井家六代の三井高祐が入手したもので、展示室1に展示されている《青磁人形手茶碗》とともに、明治23年(1890)に京都府高等女学校において皇后陛下への献茶に用いられました。北三井家こだわりの仁清茶碗だったことがうかがえます。

色絵薄絵茶碗 野々村仁清作 江戸時代・17世紀 三井記念美術館蔵



三井家ゆかりの樂茶碗・永樂茶碗・手造茶碗も勢揃い!


《赤樂茶碗 銘再来》は、初代長次郎から数えて樂家三代道入の作。
この茶碗は三井越後屋創業者の元祖三井高利が所持したもので、出身地の松坂時代に一族が集まる椀飯振舞(おうばんぶるまい)で濃茶を点てて飲んだといわれ、高利所持の茶道具として唯一伝わったとても貴重な樂茶碗なのです。
余談ですが、気前よくもてなすことを「大盤振舞(おおばんぶるまい)」といいますが、これは一家の主人が親類縁者を招いて盛大な宴会を催す「椀飯振舞」から転じたものです。


赤樂茶碗 銘再来 三井高利所持 樂道入作 江戸時代・17世紀 三井記念美術館蔵


室町時代に初代宗禅により始まり、西村姓を名乗った永樂家と三井家の交流は、十代了全の代から見られ、十六代即全まで続き、中でも十一代保全(1795-1854)、十二代和全(1823-1896)の作品は150件近く三井記念美術館に所蔵されています。
今回の展覧会では、保全と和全の茶碗に限って32件(35点)が展示されています。

《赤地金襴手鳳凰文天目》は、明治20年(1887)2月1日、京都御苑で行われた京都博覧会で、北三井家九代高朗と十代高棟が席主となって行われた明治天皇への献茶で使用された由緒ある茶碗です。
明治もこの頃から日本文化見直しの機運が高まってきましたが、この京都博覧会における明治天皇への献茶は、明治23年(1890)の京都府高等女学校における明治天皇の皇后への献茶とともに伝統文化振興における画期的な出来事でした。
そのような場面で重要な役割を担った茶碗を目の前で見ることができて、とてもうれしい気分になってきました。  


赤地金襴手鳳凰文天目 永樂和全作 明治時代・19世紀 三井記念美術館蔵


とても可愛らしい亀が何匹もスイスイと泳いでいる絵が描かれた《赤樂亀絵茶碗》は、文政2年(1819)に和歌山の西郊西浜御殿の偕楽園で行われた御庭焼において、紀州徳川家十代藩主徳川治宝(1771-1853)に命じられて北三井家六代高祐が手造りした茶碗で、亀の絵は徳川治宝が描いています。
「亀が可愛い」というのは率直な感想ですが、当時、大名の描いた亀を「可愛いですね」と言ったら大変なことになっていたかもしれません。

赤樂亀絵茶碗(紀州御庭焼・偕楽園窯)三井高祐作・徳川治宝画 江戸時代・文政2年(1819) 三井記念美術館蔵



手のひらに乗るほどの小さな茶碗ですが、そこには色鮮やかな絵が描かれていたり、釉薬の偶然が生み出す文様が表れていたり、とても魅力的な小さな宇宙が広がっています。

このような味わい深い小宇宙が楽しめるので、ぜひ多くの方にご覧いただきたいおすすめの展覧会です。