2026年5月3日日曜日

宇都宮美術館 ヴァルラフ=リヒャルツ美術館所蔵 ゴッホの跳ね橋と印象派の画家たち

宇都宮市郊外の緑豊かな丘の上に位置する宇都宮美術館では、宇都宮美術館開館30周年・市制施行130周年記念 ヴァルラフ=リヒャルツ美術館所蔵 ゴッホの跳ね橋と印象派展が開催されています。



世界遺産のケルン大聖堂で知られるドイツ・ケルン市にあるヴァルラフ=リヒャルツ美術館は、中世後期の宗教画からバロック、さらには19世紀から20世紀初頭までの絵画を所蔵するドイツ有数の美術館で、10年ほど前に訪れてその絵画コレクションの充実ぶりに驚いたことを今でもよく覚えています。

最近、ケルンをはじめドイツの美術館巡りを再開したいと考えていたところですが、このたびヴァルラフ=リヒャルツ美術館・コルブー財団のコレクションのなかから印象派を中心としたフランス近代美術の名品の数々が来日するというので、喜び勇んで宇都宮美術館に取材に行ってきました。


展覧会開催概要


会 期  2026年4月19日(日)~6月21日(日)
開館時間 9:30~17:00(入館は16:30まで)
休館日  月曜日、5月7日(木) ※ただし5月4日(月・祝)は開館
観覧料  一般1,200円、大学生・高校生 1,000円
     ※本展は、小学生・中学生は無料です。
展覧会の詳細、関連イベント等の情報は同館公式サイトをご覧ください⇒https://u-moa.jp/
 
※本展では写真撮影が可能ですが、SNS投稿禁止の作品もあるので、写真撮影については館内で注意事項をご確認ください。

展示構成
 第1章  印象派前
 第2章  バルビゾン派
 第3章  印象派
 第4章  ポスト印象派
 第5章  点描派
 第6章  20世紀の色彩画家


第1章 印象派前


西欧では、歴史画を頂点とした絵画の主題の序列がありましたが、序列が低かった風景画の価値を高めた印象派以前の先駆者たちの作品が展示されているのが第1章です。

第1章 展示風景


第1章での注目の作品は、写実主義を貫いたギュスターヴ・クールベ(1819-1877)の《シヨン城》。

ギュスターヴ・クールベ《シヨン城》1873年

クールベというと「海の風景画」のイメージが強く、今回も《海景》という作品が展示されていますが、この《シヨン城》にはクールベの政治的な活動が色濃く反映されています。
1871年に労働者階級を中心とした革命政権パリ・コミューンに参加し、帝政の象徴であったヴァンドーム広場の円柱破壊に関与したことで投獄され、釈放後の1873年にスイスに亡命してその地で失意のうちに生涯を閉じました。
レマン湖畔にあるシヨン城はかつて牢獄として使われ政治犯も収容した古城。クールベはパリを追われた自身をこの作品に投影したとされているのです。


写実主義の画家でありながら、明るい色調などを取り入れ、印象派の先駆者ともいわれるエドゥアール・マネ(1832-1883)が描いたのは、春の訪れを告げる美味しそうなアスパラガス。
この作品には価格より高く購入したコレクターにマネが「束から一本抜けていました」と書き添えられたアスパラガス一本だけの絵(オルセー美術館蔵)を届けたというユニークなエピソードがあります。

エドゥアール・マネ《アスパラガスの束》1880年



第2章 バルビゾン派


第2章に展示されているのは、パリ近郊、フォンテーヌブローの森のはずれにあるバルビゾン村に集まった風景画家たちのグループ「バルビゾン派」の詩情あふれる自然の風景を描いた作品です。


第2章 展示風景

春と夏には各地で習作を描き集め、秋と冬はアトリエで理想の風景へと再構築するバルビゾン派の代表格カミーユ・コロー(1796-1875)の作品は、日ごろあわただしい生活を送っている私たちの心を癒してくれます。

カミーユ・コロー《ヴィル・ダヴレー》1860-70年頃


第3章 印象派


第3章には、クロード・モネ(1840-1926)やピエール=オーギュスト・ルノワール(1841-1919)をはじめ印象派の巨匠たちの名品が勢揃い。
国内で再現されたこの贅沢な空間をぜひともその場で味わっていただきたいです。

第3章 展示風景


アルフレッド・シスレー(1839-1899)の《ハンプトンコート橋》は、1874年に開催された「第1回印象派展」の後に訪れたロンドン滞在時の作品。
手前を流れるテムズ河の川面は夏の日を浴びてきらきらと輝いている様子が描かれていますが、これは異なる色の絵の具を混ぜると明度が下がってしまうので、色を混ぜずに置いていき、作品を観る人に色が混ざり合うように見えるような効果をもたらす「筆触分割」という、印象派の画家たちがよく用いた技法で表現されているものなのです。
この作品で特に惹かれたのは、橋から画面中央の奥に向かって伸びる道がどこまでも続くかのように見える奥行きの深さでした。この先には何があるのだろうかかという期待を感じさせてくれる作品です。

アルフレット・シスレー《ハンプトンコートの端》1874年


象の鼻のような形をした奇岩で知られるノルマンディー地方の景勝地エトルタはモネが繰り返し描いた場所なので、これはすっかりおなじみの光景です。
1885年にこの地を訪れた作家のモーパッサンは、モネが5~6枚のカンヴァスを子供たちに持たせて、それぞれのカンヴァスにモネが時間の経過に伴い変化する光や雲を描いていたといったモネの制作風景を記述しています。おそらく小遣い目あてでしょうが、強い風の中、長時間カンヴァスを持ち続けていた子供たちの姿を想像して、ほほえましく感じられました。


クロード・モネ《エトルタの浜辺の漁船》1883-84年

今回の展覧会では、モネも、ルノワールも趣きの異なる作品がそれぞれ4点来日しています。

第2章 展示風景


上の写真はルノワールの4点の作品で、右から2番目の作品は、一瞬、ルノワールが縫物をする可愛らし女の子を描いた作品と思ってしまいますが、実はモデルはルノワールの次男ジャン。
なぜジャンが女の子の姿をしているのかというと、乳幼児死亡率が高かった当時、特に男の子の死亡率が高かったことが背景にあるようです。本人は周囲からからかわれたりしたので嫌がっていたようですが、親の子に対する愛情が伝わってくる作品です。

ピエール=オーギュスト・ルノワール《縫物をするジャン・ルノワール》
1898年 


第4章  ポスト印象派


「ポスト印象派」というのは特定の表現様式でなはく、印象派の流れをくみながらも独自の世界を切り開いた個性的な画家たちの総称で、第4章にはその中心的な人物、ポール・セザンヌ(1839-1906)、ポール・ゴーガン(1848-1903)、フィンセント・ファン・ゴッホ(1853-1890)らの作品が展示されています。


第4章 展示風景



ピカソをはじめとするキュビズムに大きな影響を与えたセザンヌの《梨のある静物》は不思議な作品です。
キュビズムの特徴は「複数の視点の組合せ」ですが、この作品では机の側面を真横から見ている視点と机の奥の面を上から見下ろしている視点、皿は横から見ているようで上からも覗き込んでいるような視点が混在していて、それでいて一つの作品として成り立つように構成するというセザンヌの試みをうかがうことができます。

ポール・セザンヌ《梨のある静物》1885年頃


そしていよいよ今回の展覧会のメインビジュアルになっているファン・ゴッホの《跳ね橋》の登場です。
ミレーの影響を受け真の農民画家を目指した頃の重厚な色調の《ニューネンの農家》と、南仏アルルの明るい色調の《跳ね橋》という対照的な作品が「VIPルーム」に並んで展示される演出がとても素晴らしいです。

どちらもフィンセント・ファン・ゴッホ
 右 《跳ね橋》 1888年 左 《ニューネンの農家》 1885年 


あらためて近くで拝見すると、水面に映る跳ね橋の立体感もよくわかります。
ファン・ゴッホはアルルの黄色が特に気に入ったようですが、今回気が付いたのは、画面左のまるでホイップクリームのようにべちゃっと置かれた白い絵の具。おそらく雲なのでしょうが、右端の屋根の赤とともに明るい陽光の中に一つのアクセントになっているように感じられました。


フィンセント・ファン・ゴッホ《跳ね橋》1888年


第5章  点描派


1874年に第1回が開催されて以来、内部での対立が続いた「印象派展」は1886年に最後となる第8回が開催されますが、その時にはモネ、ルノワール、シスラーの姿はなく、新たに参加したのはジョルジュ・スーラ(1859-1891)、ポール・シニャック(1863-1935)らの点描派の画家たちでした。

第5章 展示風景


印象派の画家が感覚的に「筆触分割」を行っていたのに対し、点描派の画家たちはそれを科学的に進め、また、彼らは現場ではスケッチにとどめ、アトリエでじっくりと制作する手法をとりました。
イタリアの地中海沿岸の景色を描いたシニャックの《カポ・ディ・ノリ》では、自由に描かれていた印象派の作品と比べて、規則的に色が配置されていることがよくわかります。

ポール・シニャック《カポ・ディ・ノリ》1898年


第6章  20世紀の色彩画家 


第6章に展示されているのは、鮮烈な色彩と荒々しい筆致から名付けられた「フォービズム(野獣派)」の指導者であったアンリ・マティス(1869-1954)や、ゴーギャンから影響を受けた「ナビ派」のモーリス・ドニ(1870-1943)、ピエール・ボナール(1867-1947)、エドゥアール・ヴュイヤール(1868-1940)らの作品です。
(第6章にはSNS投稿不可の作品が多いのでご注意ください。下の写真はSNS投稿不可でない作品です。)

右 エドゥアール・ヴュイヤール《クリクブッフの”エタンセルの庭園”の干し草》1902年
左 モーリス・ドニ《ピンク色の教会、ティヨロワ》1921年


ミュージアムショップ


19世紀から20世紀初頭のフランス絵画コレクションの充実ぶりにはあらためて感動しましたが、展覧会関連グッズの豊富なラインナップにも驚かされました。

背面の壁にかかっているのは、《跳ね橋》をモチーフにしたストール。
展示作品のカラー図版や詳しい解説、それぞれの画家の年表も掲載された展覧会公式図録は永久保存版です。
ほかにもファン・ゴッホ、マネ、セザンヌのイラストが描かれた缶に入っている瓦せんべいなどのスイーツもありますので、お帰りの際にはミュージアムショップにもお立ち寄りください。


ミュージアムショップ

宇都宮美術館のあとには、あべのハルカス美術館、名古屋市美術館に巡回しますが、東日本ではここ宇都宮以外では開催されないので、東日本にお住いの方はこの機会にぜひ宇都宮でご覧ください。
おすすめの展覧会です!

2026年4月30日木曜日

京都国際写真祭2026 KYOTO GRAPHIE international photography festival

京都市内では、歴史的建造物や近現代建築を会場にした国際的な写真祭「京都国際写真祭2026 KYOTO GRAPHIE international photography festival」が開催されています。
メインプログラムの会場は全部で14か所。ほかにもパブリックプログラムやキッズプログラムなどの会場もあって盛りだくさんの内容です。

 今年のテーマは、日本語では境界、ふち、端などと訳される「EDGE(エッジ)」。
エッジの向こうにあるのは混沌か、崩壊か、それとも新たな可能性か、不安とともに将来への期待も感じながらそれぞれの会場を見て回ることができます。

京都国際写真祭の詳細は、公式サイトをご覧ください⇒https://www.kyotographie.jp/programs/2026/


それではさっそくいくつかの会場をご案内したいと思います。

八竹庵(旧川崎家住宅)


チケット全種の販売に加え、グッズ・書籍などを取り揃えたショップを開設していて、コンシェルジュデスクでは各展覧会の案内から周辺観光まで幅広く案内をしている「インフォメーション町家」が八竹庵(旧川崎家住宅)。
入場無料の会場も、有料の会場もあって、会場内に靴を脱いで入る際に靴下着用が求められる会場や、建造物保護のため大きな荷物は持ち込み不可の会場もあるので、まずはこちらに立ち寄って情報収集するのがおすすめです。
全会場をスムーズに回ることができる便利なパスポートチケットも販売しています。



八竹庵(旧川崎家住宅)

八竹庵(旧川崎家住宅)ではメインプログラムの2つの展覧会が開催されています。
かつての土蔵を利用した会場では、昨年4月にガザでイスラエルの爆撃により25歳の若さで亡くなった故パレスチナ人のフォトジャーナリスト、ファトマ・ハッスーナの写真作品がスライドプロジェクションで発表されています。


ファトマ・ハッスーナ「The Eye of Gaza」展示風景


今回のメインプログラムの重要なハイライトのひとつは「South Africa」。
和室には1945年から現在まで200冊以上の南アフリカにまつわるフォトブックが展示されていて、自由に閲覧することができます。
ここは「SOUTH AFRICA IN FOCUS」の会場の一つです。

「Photo Book! Photo-book! Photobook!」展示風景

ショップでは各会場の展示作品をモチーフにしたトートバックをはじめ、関連グッズや書籍なども販売されているので、来場記念にいかがでしょうか。

八竹庵(旧川崎家住宅)のショップ



嶋臺(しまだい)ギャラリー


御池通に面しているのでいつも大きな店構えは見ているのに、中には入ったことがなかった嶋臺ギャラリーでは、50年にわたり世界の名だたるミュージシャンやアーティストたちのポートレートを撮影してきた稀代の写真家アントン・コービンの軌跡をたどるセレクティブ・レトロスペクティブ(選集的回顧展)が開催されています。

嶋臺ギャラリー

古民家をリノベーションしてギャラリーにした内装は神秘的な雰囲気が漂い、個性的なミュージシャンやアーティストたちのポートレートがピッタリとフィットしています。

アントン・コービン「Presence」展示風景


アントン・コービン「Presence」展示風景


嶋臺ギャラリーからは御池通をはさんで反対側にある「NTT西日本 三条コラボレーションプラザ」ではキッズプログラムが開催されています。

各会場の展示から厳選された作品や、「子ども写真コンクール」の入選作品も展示されていて、お子様連れでも気軽に見ることができます。

「キッズプログラム」展示風景

有斐斎弘道館


江戸中期の京都を代表する儒者・皆川淇園が創設して、現在でも日本文化の研究・教育機関としての活動を続けている学問所「弘道館」もおすすめです。

有斐斎弘道館

鉱物や植物を静謐に写し出すジュリエット・アニエルの作品は、古民家の和室や庭園を眺めながら見ると、また格別の味わいがあります。


ジュリエット・アニエル「光の薫り」展示風景




ジュリエット・アニエル「光の薫り」展示風景




重信会館(じゅうしんかいかん)


蔦の絡まる外観が特徴的な重信会館は、かつては学生会館として利用されていました。
いわば「廃墟」となった建物に展示されているのは、フランスの写真家ユニット(イヴ・マルシャン&ロマ・メェッフェル)による近代の廃墟を写した作品と、AI技術によって廃墟に加工されたパリの作品など。

重信会館


会場は地下1階、地上4階、さらには屋上まであってさながらスリリングな廃墟めぐり。
作品と建物がこれ以上ぴったりとはまっている会場はほかにはないかもしれません。


イヴ・マルシャン&ロマ・メェッフェル「残されるもののかたち」展示風景

2015年に世界文化遺産に正式登録された「軍艦島」の過去と現在の様子を写した写真の比較はとても興味深く拝見することができました。

イヴ・マルシャン&ロマ・メェッフェル「残されるもののかたち」展示風景

そして屋上の展示は、赤い望遠鏡を覗くと見ることができます。さてどんな光景が広がっているか、その場でのお楽しみです。

イヴ・マルシャン&ロマ・メェッフェル「残されるもののかたち」展示風景


 

京都市京セラ美術館


京都市京セラ美術館では、時代を代表するストリートフォトグラファー 、森山大道の「A Retrospective」、南アフリカを内側から捉えた「黒人」写真家・アーネスト・コールの「囚われの地」、生と死、そしてそのはざまで迎える数々の節目に目を向けながら、人生のありようを見つめてきたピーター・ヒューゴ「光が降りそそぐところ」という、それぞれ個性的な写真家による3つの展示を見ることができます。



森山大道「A Retrospective」展示風景

アーネスト・コール「囚われの地」はもちろん、「SOUTH AFRICA IN FOCUS」の会場の一つです。

アーネスト・コール「囚われの地」展示風景

ピーター・ヒューゴ「光が降りそそぐところ」展示風景


とてもすべては紹介しきれませんが、まだまだ興味深い会場があるので、この機会にぜひご覧いただきたいです。
爽やかな初夏の風が心地よいゴールデンウイークに訪れてみてはいかがでしょうか。
会期は5月17日(日)までなのでお早めに!

2026年4月22日水曜日

根津美術館 開館85周年記念特別展 光琳派―国宝「燕子花図」と尾形光琳のフォロワーたち

東京・南青山の根津美術館では、開館85周年記念特別展「光琳派 -国宝『燕子花図』と尾形光琳のフォロワーたち」が開催されています。



現在では「琳派」という呼び方が定着しているこの流派は、狩野派や土佐派などが血縁関係や師弟関係で続いているのに対して、江戸時代初期の俵屋宗達(生没年不詳)から江戸中期の尾形光琳(1658-1716)へ、光琳から江戸後期の酒井抱一(1761-1829)へと、年代を超えて「私淑」という先人への強いあこがれによって継承されてきました。
そして、今回の特別展では琳派の中でも、光琳と直接、間接にかかわりがあった渡辺始興(1683-1755)、深江芦舟(1699-1757)、立林何帠(生没年不詳)、光琳の弟・尾形乾山(1663-1743)という4人のフォロワーたちに焦点を当てています。
そのため特別展のタイトルは「琳派」ではなく、ずばり「光琳派」。

初夏の風物詩としてすっかり定着した尾形光琳筆・国宝「燕子花図屏風」(根津美術館蔵)を中心に、アメリカ・クリーブランド美術館から里帰りした渡辺始興筆「燕子花図屏風」をはじめ、光琳とそのフォロワーたちの名品の数々が展示される充実した内容の展覧会なので開幕を心待ちにしていました。

それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。


展覧会開催概要


会 期  2026年4月11日(土)~5月10日(日)
     前期(4/11-4/26)、後期(4/28-5/10)で一部作品の展示替えがあります。
開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30まで)
【夜間開館】
 5月5日(火・祝)~5月10日(日) 午後7時まで開館(入館は午後6時30分まで)
休館日  毎週月曜日 ただし5月4日(月・祝)は開館
入館料  オンライン日時指定予約 一般 1800円、学生(大学生以上) 800円
※当日券(一般2000円 学生1000円)も販売しています。ご予約の方を優先してご案内いたします。当日券の方は少々お待ちいただくことがあります。同館受付でお尋ねください。
※障害者手帳提示者及び同伴者1名は200円引き。
※今回の入館料の改定で、学生料金がぐっと下がり、高校生以下は無料になりました。学生さんもぜひお楽しみください!

展覧会の詳細、関連イベント、チケットの購入方法等は同館公式サイトをご覧ください⇒https://www.nezu-muse.or.jp/

※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は報道内覧会で美術館より特別の許可を得て撮影したものです。


渡辺始興


最初に紹介するフォロワーは、「光琳派のキーパーソン」渡辺始興(わたなべ しこう)。

長い間、光琳の弟子と言われてきた渡辺始興ですが、始興が光琳に学んだという同時代の文献は存在しません。そこで、作品の中から二人の関わりをさぐろうという試みが今回の特別展の大きな見どころのひとつです。

冒頭に並んで展示されているのは、その二人による掛軸の作品。

右 黄山谷愛蘭図 尾形光琳筆・伊藤東涯賛 MOA美術館蔵
左 寿老鹿鶴図 渡辺始興筆 細見美術館蔵
どちらも江戸時代 18世紀 通期展示 

両方の作品を見比べてみると、蘭を愛でる中国北宋の詩人・黄山谷(黄庭堅)と、鹿や鶴を前に地面に座る寿老人が着ている衣の線の太さの描き分けやポーズがそっくり。
どちらの作品も異なる美術館の所蔵ですが、このように並んで展示されると、始興が光琳の弟子であることがうかがえ、さらに、より緻密な描写を行い、周囲に鹿などを描き加えて賑やかな画面を作り出している始興の個性を見ることもできるので、このような機会はとてもありがたいです。

そして、今回の特別展の最大の見どころは、アメリカ・クリーブランド美術館所蔵の渡辺始興筆「燕子花図屛風」が里帰りして、根津美術館が所蔵する尾形光琳筆の国宝「燕子花図屛風」と並んで見られることです。これは初めてのことですので、この壮観な景色をぜひご覧いただきたいです。

右 国宝 燕子花図屛風 尾形光琳筆 根津美術館蔵
左 燕子花図屛風 渡辺始興筆 クリーブランド美術館蔵
どちらも江戸時代 18世紀 通期展示

こちらが渡辺始興筆「燕子花図屛風」ですが、いつも見慣れている尾形光琳筆の国宝「燕子花図屛風」と見比べてどのような印象を持たれますでしょうか。


燕子花図屛風 渡辺始興筆 江戸時代 18世紀
クリーブランド美術館蔵 通期展示



筆者は、最初見たとき、カキツバタが上の部分しか描かれていないので、株の部分は水没しているのではと思ってしまいました。
ところがこれは、宗達工房に見られる、金泥によって花だけが浮かんでいるような表現ではないかと考えられているのです。総金地に燕子花を描くという発想は光琳の影響でしょうが、同時に始興は宗達の影響を受けていたのでした。
また、一つひとつの花のつぼみや開花の様子、さらに花びらの裏側まで細かく描かれているところは、植物学に詳しく、植物写生図『花木真写』を著した近衛家熙(このえ いえさと)に始興が仕えたことが大きく、また、始興自身も写生を重視したことは、次の世代の円山応挙に影響を与えました。


深江芦舟


続いてのフォロワーは深江芦舟(ふかえ ろしゅう)。

今回の特別展でクリーブランド美術館から里帰りした2点のうちのもう1点が、『伊勢物語』第九段、東国へ下る男が駿河国の宇津の山で旧知の修行僧に出会い、都に残してきた女への手紙を託す場面が描かれた深江芦舟の筆による「蔦の細道図屛風」。
根津美術館が所蔵する尾形光琳筆「白楽天図屛風」と並んで展示されています。

右 蔦の細道図屛風 深江芦舟筆 クリーブランド美術館蔵
左 白楽天図屛風 尾形光琳筆 根津美術館蔵
どちらも江戸時代 18世紀 通期展示

光琳が足掛け6年に及んだ江戸滞在から京都に戻ったのは芦舟が11歳の時で、芦舟が16歳の時には京都銀座の役人であった父が銀座取締りにより流罪になり、芦舟自身も京都を追われ、光琳はその2年後に亡くなっているので、若い芦舟は晩年の光琳に絵の手ほどきを受け、その後は宗達やその後継者たちの影響を受けたと考えられています。
上の写真右の「蔦の細道屛風」の、男が修行僧を見送る場面は、光琳や宗達の作品にならうものですが、特に山の色面で金地画面を構成する手法は宗達画への理解がうかがえます。

芦舟作品で光琳からの影響が見られるのは「独特の枝ぶり」。
比較的若い頃の作品とされる「白梅に鴬図」の白梅の枝ぶりは、光琳最晩年の名作・国宝「紅白梅図屛風」(MOA美術館蔵)を芦舟なりに咀嚼した結果と見ることができます。

白梅に鴬図 深江芦舟筆 江戸時代 18世紀
個人蔵 通期展示



立林何帠


次のフォロワーは、生没年も不詳で、相模鎌倉の人であるとも、加賀前田家の医官であったとも伝えられる謎の絵師・立林何帠(たてばやし かげい)。
確かなのは、ある時期に江戸に出て、晩年そこに暮らした乾山に師事したこと、乾山から光琳が宗達の扇面画を写した巻物を与えられたこと、光琳晩年の名である「方祝(まさとき)」の印を用いたことで、酒井抱一はそんな何帠を、乾山(「光琳二世」)から継いだ「光琳三世」とみなして評価したので、のちの江戸琳派の形成にも一定の役割を担ったとされる絵師でした。

そして、何帠の作品の特徴はその多様性。
何帠の「天神図」(下の写真左)が、師・乾山の晩年の書画、重要文化財「花籠図」(下の写真右)と並んで展示されていますが、どちらも意匠化されて落ち着いた雰囲気の琳派風の作品とは少し違う、いい意味での荒々しさ、おおらかさが感じられました。

右 重要文化財 花籠図 尾形乾山筆 江戸時代 18世紀
福岡市美術館蔵(松永コレクション) 前期展示
左 天神図 立林何帠筆 江戸時代 延享2年(1745) 
永青文庫蔵 通期展示

かと思うと、二曲一双の屏風「扇面貼交屛風」は、屛風に貼り交ぜられた計18枚の扇面画の図様は、乾山画や、乾山も利用した光琳による工芸図案などに典拠しているので、これぞ琳派という上品な作品に仕上がっています。
茶碗を描いた扇面画があるのは、乾山へのオマージュでしょうか。

扇面貼交屛風 立林何帠筆 江戸時代 18世紀
千葉市美術館 通期展示 

光琳、乾山を特集した展覧会は多くの美術館で開催されますが、深江芦舟や立林何帠の作品がこれだけまとまって見られるのは貴重な機会かもしれません。



尾形乾山


最後にご紹介するフォロワーは、光琳の弟。尾形乾山(おがた けんざん)。
これまでご紹介した作品は1階の展示室1、2に展示されていますが、2階展示室5は尾形乾山特集のエリア。乾山作や、乾山作・光琳画の兄弟合作のやきもの、乾山晩年の書画などがずらりと並んで展示されています。

展示風景


始興が光琳と接して画を学ぶきっかけとなった、乾山作・渡辺素信(始興)画の焼き物も、始興の書画と並んで展示されています。


右から 銹絵蘭図角皿 尾形乾山作・渡辺素信(始興)画 根津美術館蔵
銹絵山水図八角皿 尾形乾山作、赤壁図 渡辺始興筆・伊藤蘭嵎賛
どちらも個人蔵 いずれも通期展示

同時開催


展示室4 古代中国の青銅器 


青銅鏡の展示替えがありました。
今回のテーマは、「鏡・神の依代、そして天上界への道しるべ」です。
青銅鏡に表された文様は、古代中国の人々の宇宙観、世界観がどのようなものだったのか思いをはせることができるので、いつもじっくり見ています。

展示風景


展示室6 初夏の茶の湯


立夏(5月5日)を迎えると、暦のうえでは夏。
茶の湯では、冬から半年間続けた「炉」を塞ぎ、畳の上に「風炉」を据えて釜をかける夏の仕様に替わる時期です。
道具も夏向きのものへと一新され、茶室にはさわやかな風が吹いているように感じられます。

展示風景

今回のお気に入りの一品は、こちら。
竹にとまる色鮮やかな翡翠(かわせみ)が陶板の嵌め込みによってあらわされた溜塗の煙草盆と、縞状に巡らされた色絵具が可愛らしい火入です。

「竹翡翠蒔絵手付煙草盆」 小川破笠作 日本・江戸時代 18世紀
色絵竹節形火入 景徳鎮窯 中国・明時代 17世紀
どちらも根津美術館蔵 通期展示


ミュージアムショップ


ミュージアムショップでは、「燕子花図屛風」をはじめ、展示作品をモチーフにした限定グッズも販売しています。
開館85周年記念特別展図録「光琳派 国宝『燕子花図』と尾形光琳のフォロワーたち」も好評発売中。全164ページ、展示作品のカラー図版や詳しい解説、4人のフォロワーに関する論文も掲載されているのでおすすめです。

特別展図録


根須美術館の広大な庭園では、これからカキツバタが満開を迎えます。
会期は5月10日(日)まで。
ゴールデンウイークにぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。