2026年11月3日火曜日

根津美術館 特別展「舞楽装束 ―受け継がれる染織の美―」

 東京・南青山の根津美術館では、特別展「舞楽装束 —受け継がれる染織の美―」が開催されています。

展覧会チラシ

今回の特別展は、時を超えて今日まで守り伝えられた舞楽を彩る装束の美が見られる展覧会です。
展示室内に入ってすぐに感じたのは、とても明るくて華やいだ室内の雰囲気でした。
きらびやかな舞楽装束を見ているうちにとても心地よい気分になってきましたが、それだけでなく展示室内をめぐりながら、舞楽装束は常装束はじめ3種類+その他に分類できること、10世紀には中国系の左方(左舞・唐楽)と朝鮮半島系の右方(右舞・高麗楽)の二つの系統に大別する整理が進んだこと、応仁の乱以降の戦乱で舞楽をはじめとした雅楽が大打撃を受け、その後、朝廷や権力者たちによって復興して現代に受け継がれていることなど、今回の展覧会を通じて多くの学びがあったことも大きな収穫でした。

それでは、開幕前に開催された記者内覧会に参加しましたので、さっそく展示の様子をご紹介したいと思います。


展覧会開催概要


会 期  2026年10月24日(土)~11月23日(月・祝)
休館日  毎週月曜日(ただし11月23日(月・祝)は開館)
開館時間 午前10時~午後5時(入館は閉館30分前まで)
入館料  オンライン日時指定予約  一般 1600円、学生(大学生以上) 700円
※障害者手帳提示者および同伴者は200円引き、高校生以下は無料
※当日券は上記料金に一律200円プラス
※学生料金の適用ならびに高校生以下の無料入館の際は、学生証の提示が必要

展覧会の詳細、関連イベント、チケットの購入方法等は同館公式サイトをご覧ください⇒https://www.nezu-muse.or.jp/

※展示室内及びミュージアムショップは撮影禁止です。掲載した写真は記者内覧会で美術館より特別の許可を得て撮影したものです。

展示構成
 プロローグ
 Ⅰ 中世の舞楽装束
  高野山天野社の舞楽装束—中世染織の粋を今に伝える—
  描かれた舞楽—宮廷の舞絵を偲ぶ—
  現存最古の金襴裲襠と謎の裲襠裂—その伝来に迫る―
  麗しき異国の王の舞-陵王の装束を分解する—
 Ⅱ 近世の舞楽装束
  四天王寺の舞楽装束—天下統一を果たした豊臣家の文化事業―
  輪王寺の舞楽装束—近世舞楽装束の最高峰―
 エピローグ

プロローグに展示されているのは、平安時代前期の舞楽などが描かれた「信西古楽図」で知らる画巻の写本で、多くの写本が残されている中、現存最古のものと考えられる白描の《舞絵》です。
伝承が廃れた曲が描かれていたり、「羅陵王」など現在とほぼ変わらない装束の曲も描かれていて、中には曲は廃れても装束が素晴らしいので「太平楽」に転用された「秦王破陣楽」の装束も見られます。このようにとても貴重な史料なのですが、コミカルなポーズをした演者もいて、楽しみながら見ることができました。


舞絵 室町時代 14~15世紀 京都・陽明文庫蔵


中世には多くの寺社で儀礼の荘厳のため舞楽奉納が行われました。
今回展では、中世舞楽装束の代表例として高野山天野社伝来品が展示されています。

展示風景

ふと目に留まったのが、重要文化財《蛮絵袍 標地獅子丸模様》。
蛮絵とは鳥獣を丸く図案化した意匠のことで、獅子丸が版木で摺り染められていますが、丸の真ん中の獅子はまるで「赤ちゃん獅子」。とても可愛らしいのです。

重要文化財 蛮絵袍 標地獅子丸模様 室町時代 享徳3年(1454)銘 東京国立美術館蔵


舞楽を描いた巻物も、カラーであれば装束の色合いなどもダイレクトに伝わってきます。
《舞楽図巻》は、今年の京都での修理を終えて、修理後初公開となるアメリカ・サンフランシスコ・アジア美術館所蔵の作品です。こちらも冒頭ご紹介した《舞絵》と同じく、現在では失われた中世の宮中における舞楽装束を伝える貴重な史料です。

舞楽図巻 安倍季英筆 室町時代 応永15年(1408)
アメリカ・サンフランシスコ・アジア美術館蔵 


黄金色に輝くのは舶来の金襴を贅沢に用いた重要文化財《裲襠 紺地二重蔓牡丹唐草模様》。
裲襠(りょうとう)とは袖なしの貫頭衣で、このように糸房をめぐらせたものは毛縁裲襠と呼ばれています。現存最古の金襴製の裲襠です。


重要文化財 裲襠 紺地二重蔓牡丹唐草模様 南北朝時代 永和4年(1378)銘
東京国立博物館所蔵


舞楽の中でも特によく知られているのは、「陵王」(羅陵王、蘭陵王とも)ではないでしょうか。

羅陵王図 伝土佐行秀筆 室町時代 15世紀 
根津美術館蔵(植村和堂氏寄贈) 

「羅陵王」は、中国・北斉の蘭陵王長恭は美しい顔をしていたので、戦場に向かう時は味方の士気をあげるためにいつも勇壮な面をつけて兵を鼓舞したという故事にちなんだ一人舞で、この場面は童舞のため面は着けていませんが、出品番号17と19~21の作品を身につけるとこの童子のようになるので、ぜひその場で想像してみてはいかがでしょうか。


右が作品番号21 童舞 天冠 鎌倉時代 13~14世紀
東京国立博物館蔵


平安時代から室町時代前期まで宮廷芸能としての舞楽などの雅楽は続いていましたが、応仁の乱と長引く戦乱により、宮廷の雅楽は壊滅、楽人は離散し所用具も散逸してしまいました。その後、16世紀後半に天皇の主導で雅楽が復活し、豊臣家をはじめとする権力者の支援も相まって再び華やかさを取り戻したのです。
今回展では、豊臣家の寄進により再興された大阪・四天王寺の絢爛豪華な舞楽装束が展示されています。

展示風景

政治の中心が江戸に移ると新たな寺社が建立され、関東にも大々的な舞楽装束が整えられました。なかでも、栃木・輪王寺の舞楽装束は、3代将軍・徳川家光によって、寛永13年(1636)の日光東照宮の大造替ならびに徳川家康二十一回忌祭礼に合わせて納められた800点を超える大規模なものでした。
これらは数が多いというだけでなく、細部に至るまで卓越した技が尽くされていてとても貴重なものなので、1983年に一括して重要文化財に指定されました。


展示風景

そしていよいよエピローグ。
狩野探幽門下の久住守景による《舞楽図屛風》です。
右隻に「太平楽」、左隻に「納曾利」、「蘭陵王」が描かれ、舞人や楽人たちも生き生きとしているので、目の前に立つと音楽が始まって、舞人たちが踊り出しそうに思えてきます。

舞楽図屛風 久住守景筆 江戸時代 17世紀 根津美術館蔵


【同時開催】


展示室5 白描の美


墨を主として描かれる絵画は、濃淡や暈(ぼか)し、抑揚のある描線を駆使する水墨画と、均質な細い線による白描画の大きく二つに分けることができます。
今回のテーマは「白描の美」。展示室5には、12世紀から20世紀に至る静謐なモノクロームの世界が広がっています。


下の写真右の毘沙門天は、風になびく衣や火炎からものすごい迫力が感じられました。

展示風景
右 重要美術品 毘沙門天図像 平安時代 12世紀 根津美術館蔵



展示室6 開炉—冬を迎える—


茶の湯では11月になると、それまで畳の上に風炉を置いていたのが、畳を切って埋め込み式の炉に変わります。展示室6では、「茶の湯の正月」ともいわれる開炉の季節を楽しむことができます。

展示風景

今回の展示で驚いたのは、大きな銅鑼でした。
横から見るとこんなに分厚いのです。

銅鑼 東南アジア 17~18世紀 根津美術館蔵


舞楽にも登場する銅鑼は、禅宗寺院では時間を知らせる合図に用いられましたが、茶の湯では茶席の準備が整ったことを知らせる時に打たれます。
この銅鑼は松江藩の松平家伝来で、揺曳(あとに長く尾を引く響き)がひときわ長く、「天下一の銅鑼」として古来より名高いので、どんなにいい音がするのだろうかと興味が湧いてきました。
当然それはかなわぬ夢と思いましたが、なんとうれしいことに音声ガイドで銅鑼の音を聞くことができるのです。
興味のある方はチャレンジしてみてはいかがでしょうか。


ミュージアムショップ


ミュージアムショップに入ると、お香の香りがして、 何となく落ち着いた気分になってきました。今回が新発売のオリジナル香「羅陵王」です。

ミュージアムショップ

根津美術館のチケットのデザインにもなっている古代中国の青銅器「双羊尊」(殷時代 紀元前13~前11世紀)がモチーフの同館マスコット「そんちゃん」のオリジナルグッズに、今回展からマグカップが加わりました。
来年(2027年)は未年(ひつじどし)。いよいよ「そんちゃん」の出番です。
来年のカレンダーも販売が始まっているので、ミュージアムショップにもぜひお立ち寄りください。

国宝・重要文化財を多く含む約50件の今回展出品作品の美しい画像と詳しい解説に加え、雅楽・舞楽の概説や論文も掲載した特別展図録「舞楽装束—受け継がれる染織の美―」もおすすめです。

特別展図録


普段あまり触れる機会のない舞楽装束ですが、そこにはとても魅力的な世界が広がっています。この機会にぜひご覧いただきたい展覧会です。

2026年10月29日木曜日

山種美術館 開館60周年記念特別展3 ザ・ベスト・オブ・山種コレクションⅠ-横山大観、竹内栖鳳から上村松園、速水御舟へ―

東京・広尾の山種美術館では、開館60周年記念特別展3 ザ・ベスト・オブ・山種コレクション Ⅰ—横山大観、竹内栖鳳から上村松園、速水御舟へ―が開催されています。

山種美術館外観(夜景)

1966(昭和41)年、東京・日本橋兜町に日本初の日本画専門美術館として開館してから今年で開館60周年を迎えた山種美術館では、現在、およそ1年をかけて開館60周年記念特別展が開催されています。今回の特別展は、第1弾「川合玉堂-なつかしい日本の情景-」、第2弾「奥村土牛-名作でたどる100年のあゆみ—」に続く第3弾。
「ザ・ベスト・オブ・山種コレクションⅠ」では、山種美術館の創立者で初代館長・山﨑種二氏との交流のあった画家たちの作品を中心に、まさに「ベスト」の作品が展示されています。

展覧会開催概要


会 期  2026年10月10日(土)~12月6日(日)
開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日  月曜日(11/23(月・祝)は開館、11/24(火)は休館)
入館料  一般1500円、大学生・高校生1200円、中学生以下無料(付添人の同伴が必要です)

各種割引、展覧会の詳細、関連イベント等は山種美術館公式サイトをご覧ください⇒https://www.yamatane-museum.jp/  

展示構成
 第1章 ザ・ベスト・オブ・山種コレクション
 第2章 山﨑種二と日本画家

※今回展示されている作品はすべて山種美術館所蔵です。
※展示室内は次の1点を除き撮影禁止です。掲載した写真はプレス内覧会で美術館より許可を得て撮影したものです。


今回撮影可の作品は、竹内栖鳳の重要文化財《班猫》です。
 スマートフォン・タブレット・携帯電話限定で写真撮影OKです。展示室内で撮影の注意事項をご確認ください。

竹内栖鳳《班猫》【重要文化財】1924(大正13)年 絹本・彩色 

10/14(水)から11/25(水)まで、竹内栖鳳《班猫》にそっくりな猫さんの写真をXとInstagramに投稿する[SNS企画]班猫チャレンジ2026が開催されています。
詳しくはこちらをご覧ください⇒https://www.yamatane-museum.jp/news/2026/10/sns202610141125.html


いつも第1展示室の冒頭にはその時の展覧会を代表する作品が展示されていますが、今回は雲の上に浮かぶ富士山が描かれた横山大観の《心神》でした。

横山大観《心神》1952(昭和27)年 絹本・墨画淡彩

《心神》は、 山種美術館の設立に際し、美術館をつくることを条件として、大観から特別に購入を許された作品。まさに開館60周年記念特別展3の冒頭を飾るのにふさわしい作品ではないでしょうか。

「ベスト」の作品が展示されているので、どの作品も紹介したいのですが、それではきりがないので、筆者が気になった作品をいくつか紹介したいと思います。

まずは近代日本画界の重鎮・橋本雅邦の《日本武尊像》。

橋本雅邦《日本武尊像》1893(明治26)年頃 絹本・彩色


日本武尊(ヤマトタケルノミコト)は記紀などに伝えらえる英雄伝説の主人公で(『古事記』では「倭建命」)、九州の熊襲征伐や東国の蝦夷の討伐などに遣わされたのち、都への帰途、力尽きて斃れるという悲劇的のヒーローでしたが、ここでは左手に矛を持ち、右手をぐっと握りしめて敵をにらみつける凛々しい姿で描かれています。
そして注目したいのは背景の岩の表現。
雅邦は江戸幕府の御用絵師集団・狩野派の出身で、狩野派の代名詞ともいえる、斧で割ったような断面の岩(斧劈皴)を描いているのです。
明治に入って御用絵師としての地位を失い没落した狩野派ですが、芳崖は狩野派出身であることをいつまでも誇りにもち、さりげなくそのことを表現しているように思えました。


日本美術院の創設に参加し、岡倉天心とともに日本画の近代化に取り組んだ雅邦の門下からは横山大観をはじめ優れた画家が出てきました。
今回の特別展では、大観作品はさきほどご紹介した《心神》のほか中国の景観を描いた絵巻物《楚水の巻》(11/10より巻替)、京都の宇治市にある山で、六歌仙の一人・喜撰法師が隠棲していたことで知られる山を描いた《喜撰山》が展示されています。


横山大観《楚水の巻》(部分)1910(明治43)年 紙本・墨画(11/10より巻替)



日本美術院の北茨城・五浦移転に伴い、岡倉天心に従い、大観とともに五浦に移り制作に専念した菱田春草、下村観山の名作も展示されています。

わずか37歳の若さで亡くなった天才画家・菱田春草の作品は、春夏秋冬それぞれの月の様子を描いた《月四題》。
落款の特徴から最晩年に近い頃の制作と考えられ、病を患いながらも最後の力を振り絞って筆を執ったことを想像すると涙なしでは見られない作品です。

菱田春草《月四題》1909-10(明治42-43)年頃 絹本・墨画淡彩


岡倉天心とともに五浦に移った大観、春草、観山、木村武山の4人の中でも筆者が一番好きなのは、これでもかというくらい細部までこだわって描く観山の作品です。
今回は《不動明王》と《老松白藤》の2点が展示されているなか、大画面の屛風《老松白藤》をご紹介します。

下村観山《老松白藤》1921(大正10)年 紙本金地・彩色

松の樹皮の質感の表現、立体感のある藤花、巨木の幹を中央に据えた桃山障壁画を思わせる空間的な広がり。さすが観山とうなってしまいます。
さてここで質問です。
「この作品の中には熊蜂が描かれていますが、どこに描かれているでしょうか。」
答はその場でぜひ探してみてください。

近代日本画の歴史のなかで、「東の大観、西の栖鳳」と並び称された東京画壇と京都画壇の巨匠の作品が一つの会場内で見られるのが「ザ・ベスト」の見どころのひとつですが、戦前にたもとを分かった二人の巨匠の作品が同時に見られるのも「ザ・ベスト」ならではではないかと思いました。

川端龍子が院展(日本美術院展覧会)脱退後に立ち上げた青龍社第1回展で発表したのが《鳴門》でした。
会場芸術を唱えて豪放な作風をめざした龍子らしく、大迫力の画面に圧倒されます。


川端龍子《鳴門》1929(昭和4)年 絹本・彩色


近代日本画壇では「東の清方、西の松園」と称された美人画の双璧、鏑木清方、上村松園の競演も見られます。松園作品は《蛍》、《砧》、《新蛍》の3点、清方作品は《伽羅》が展示されているなか、今回ご紹介するのは、松園の古典学習の成果がみられる《蛍》。


上村松園《蛍》1913(大正2)年 絹本・彩色

蚊帳を吊る女性がふと見た先には蛍が飛んでいます。
松園は江戸時代の風俗画を熱心に学んでおり、女性のこのポーズは喜多川歌麿《絵本四季花(上)  雷雨と蚊帳の女》の浮世絵を参考にした可能性が指摘されています。

そして、女性がまとう衣裳や装飾からアジャンタ石窟(インド)の神仏や観音像を思わせ、女性と風景の組合せからレオナルド・ダ・ヴィンチの《モナ・リザ》(ルーブル美術館)をはじめとしたルネサンス期の絵画に通じるものと思われる作品が、村上華岳の重要文化財《裸婦図》です。

村上華岳《裸婦図》【重要文化財】1920(大正9)年 絹本・彩色



小林古径、安田靫彦、今村紫紅、速水御舟をはじめ、大観らの次の世代の画家たちの優品も展示されています。このなかからご紹介するのは、今村紫紅《大原の奥》です。

今村紫紅《大原の奥》1909(明治42)年 絹本・彩色

描かれているのは平清盛の次女で、安徳天皇の母・建礼門院(徳子)。
壇ノ浦の戦いで源氏に敗れ安徳天皇が入水し、建礼門院も続きましたが源氏軍に救われ、その後、出家して大原の寂光院で隠棲しました。
紫紅は明治末から大正初めにかけて琳派の影響が色濃い作品を制作していますが、背景の薄野は江戸琳派の装飾性に通じるところがあることが指摘されています。


最後にもう1点ご紹介したいのは、2025(令和7)年にバンク・オブ・アメリカの文化財保護プロジェクトから助成を受けて本格的な修復が行われて今回が初公開の作品、小室翠雲《海寧観潮》です。
中国浙江省の銭塘江は、旧暦8月18日前後の満潮時に海から河へと逆流し、高潮が遡る大海嘯(だいかいしょう)で知られています。
筆者も以前訪れたことがありますが、時期外れだったのでこのような迫力ある場面を見ることはできなかったので、いつかまた行ってみたいと思います。

小室翠雲《海寧観潮》1922(大正11)年 紙本・墨画淡彩



豪華ラインナップの展示ですので、ミュージアムグッズも盛りだくさん。
今回出展作品の竹内栖鳳《班猫》【重要文化財】をデザインした「オリジナルふきん」をはじめ新発売のグッズもお楽しみです。

ミュージアムグッズ



1階の「Cafe椿」では、出品作品をモチーフにしたオリジナル和菓子をいただきながら、美術鑑賞の余韻に浸ってみてはいかがでしょうか。


オリジナル和菓子のご案内



山種美術館開館60周年を記念して発行される名品選図録Ⅰ、ⅡのうちⅠにあたる『開館60周年記念 ザ・ベスト・オブ・山種コレクションⅠ』も好評発売中。
今回の特別展の出品作品だけでなく、開館60周年記念特別展1、2で紹介された川合玉堂や奥村土牛の作品、江戸絵画や浮世絵、論文や詳しい作品解説も収録されている充実した内容の図録なので、これは間違いなく永久保存版です。




「ザ・ベスト」という名にふさわしく、近代日本画の巨匠たちの名品が勢揃いした展覧会です。ぜひお楽しみください。

2026年10月27日火曜日

東京国立博物館 開創700年記念 特別展「大徳寺 本朝無双之禅苑」 

東京・上野公園の東京国立博物館では、開創700年記念 特別展「大徳寺 本朝無双之禅苑」 が開催されています。 



今回の特別展は、京都紫野の地に七堂伽藍を構える洛北随一の巨刹・大徳寺開創700年を記念して、塔頭や大徳寺派寺院を含む大徳寺山内の寺宝が一挙公開される超豪華な内容の展覧会です。


展覧会開催概要


展覧会名 開創700年記念 特別展「大徳寺 本朝無双之禅苑」
会 場  東京国立博物館 平成館
会 期  2026年10月14日(水)~12月6日(日)
     前期10月14日(水)~11月8日(日)
     後期11月10日(火)~12月6日(日)
開館時間 午前9時30分~午後5時
     ※毎週金・土曜、11月1日・2日・22日は午後8時まで
     入館は閉館の30分前まで
休館日  月曜日(ただし、11月2日・23日・30日は開館)、11月24日
     ※11月30日は大徳寺展のみ開館(東博コレクション展は休館日のため観覧不可)
観覧料  一般2300円、大学生1300円、高校生900円
※展覧会の最新情報、チケットの購入方法、関連イベント等は展覧会公式サイトをご覧ください⇒https://daitokuji2026.exhn.jp/

展示構成
 序章  禅の広がり—心から心へ
 第1章 大徳寺の開創
 第2章 大燈禅の継承
 第3章 戦国武将と塔頭
 第4章 江戸時代の名僧
 第5章 禅宗美術の精華
 終章  禅とともに—大徳寺三門の世界

※展示室内は、終章を除き撮影不可です。掲載した写真は報道内覧会で主催者より許可を得て撮影したものです。
※前期・後期で展示作品はほぼ総入れ替えになります。展示期間表記のない作品は全期間展示です。


第1会場に入ってすぐにご対面するのは、大徳寺の開山、宗峰妙超(大燈国師 1282-1337)の坐像。正面を見据え、威厳に満ちた姿が印象的です。一礼をして会場内に向かいました。
後方は、後醍醐天皇が「本朝無双之禅苑」とたたえた言葉が記された扁額です。


手前 宗峰妙超坐像 江戸時代 18世紀 京都・雲林院蔵
後方 扁額「本朝無双禅苑」 江戸時代 17世紀 大徳寺蔵



さらに先に進むと、奇跡の空間が広がっていました。
ここは前期の大きな見どころのひとつ。
東洋一の名画と謳われる水墨芸術の最高傑作、中国・南宋時代の画僧で、日本では絶大な人気を誇る牧谿筆の国宝《観音猿鶴図》と、伝牧谿作の重要文化財《龍虎図》が並んで展示されているのです。

中央の三幅 国宝 観音猿鶴図 牧谿筆 中国・南宋時代  13世紀
両脇の二幅 重要文化財 龍虎図 伝牧谿筆 中国・南宋~元時代 13世紀
いずれも大徳寺蔵 前期展示(10/14-11/8)  

後期には、咸淳5年(1269)の墨書銘がある伝牧谿筆の重要文化財《龍虎図》を脇幅、伝月壺筆《白衣観音像》を中幅とした三幅対と、国宝《楊柳観音図》を中幅、北宋から南宋にかけて活躍した宮廷画家・李唐筆の国宝《山水図》を左右に配した三幅対の水墨画が展示されます。
いずれも中国水墨画の傑作なので後期展示も楽しみです。


大徳寺にゆかりの深い後醍醐天皇の肖像画にも注目したいです。
後醍醐天皇は二度の討幕計画に失敗して隠岐に流され、それでも脱出して鎌倉幕府が滅亡すると建武の新政を行ったものの、足利尊氏にそむかれ吉野に移って南朝を開き、その地で亡くなるという激動の人生を歩んだ強烈な個性の持ち主でした。
堂々とした風格の後醍醐天皇の姿からは、そのような個性がうかがえるように感じられました。

重要文化財 後醍醐天皇像 鎌倉~南北朝時代 14世紀
大徳寺蔵 前期展示(10/14-11/8) 


後期には、後醍醐天皇が隠岐から京都に帰還した元弘3年(1333)に宗峰妙超に与えた国宝《後醍醐天皇宸翰置文》が展示されます。そこには「本朝無双之禅苑」と讃える言葉が記されているのでぜひ注目してみてください。

国宝 後醍醐天皇宸翰置文 南北朝時代 元弘3年(1333)
大徳寺蔵 後期展示(11/10-12/6)



開山以来、大徳寺は各時代を代表する名僧を輩出していますが、中でもよく知られているのが、「一休さん」で知られる一休宗純ではないでしょうか。
室町時代に活躍した型破りな禅僧だけあって、一休宗純の頂相(禅僧の肖像)もボサボサの髪、伸び放題の無精髭と、これまた型破りな風貌です。
前期・後期で5点展示されるので、それぞれ特徴のある表情の一休さんに出会うことができます。

重要文化財 一休宗純像 自賛、 宗辨禅人請 室町時代 15世紀
京都・酬恩庵蔵 前期展示(10/14-11/8)

頂相が続く展示の間に敷かれた石畳を模した敷物の先に見えてくるのは、縦は6mを超え、横幅も4m近くある巨大な《仏涅槃図》。

「大徳寺展」展示風景

作者は狩野松栄。父・元信と子の永徳の陰に隠れて目立たない存在ですが、なかなかどうして。近くで見たらすごい迫力です。
画面下の悲しんでいる動物たちも表現豊か。間近に見ることができます。

重要文化財 仏涅槃図 狩野松栄筆 室町時代 永禄6年(1563)
大徳寺蔵 前期展示(10/14-11/8)


戦国武将との関わりが深いのも大徳寺の特徴です。
織田信長が天正10年(1582)に本能寺の変で没したのちに豊臣秀吉の主導で葬儀を執り行う場所として選定されたのが大徳寺でした。秀吉は信長の位牌所として総見院を建立して、その菩提を盛大に弔いました。
前期には信長の葬儀で掲げられた可能性が高い総見院蔵の《織田信長像》が展示されます。(後期には大徳寺蔵のものが展示されます)
《織田信長像》の隣に並んでいるのは《豊臣秀吉像》です。


右 織田信長像 狩野永徳筆 安土桃山時代 16世紀 京都・総見院蔵 
前期展示(10/14-11/8)
左 豊臣秀吉像 江戸時代 17世紀 大徳寺蔵


第2会場に移ります。
第2会場では大徳寺各塔頭の至宝をはじめ、禅宗美術の精華をたっぷり楽しむことができます。

重要文化財の《五百羅漢図》や《十王図》も展示されていますが、ここでご紹介したいのは同じく重要文化財の《百鬼夜行絵巻》。
さまざまな妖怪が闇夜にまぎれて行進する様子が描かれた絵巻は江戸時代制作のものを含め60件以上確認され、その流行ぶりを知ることができますが、この真珠庵のものは現存最古という貴重なものなのです。
寺伝では、真珠庵の開祖でもある一休宗純が構想を練ったとも、室町時代後期の絵所預・土佐光信が描いたとも伝わっているので、さらに貴重なものといえるかもしれません。


重要文化財 百鬼夜行絵巻 伝土佐光信筆 室町時代 15世紀
京都・真珠庵 半期で巻替え


狩野派の始祖・狩野正信から、元信、永徳、探幽と続く狩野派の絵師たちをはじめとした障壁画の名品の数々も大きな見どころのひとつです。
まるで塔頭を訪れたようなしつらえの中で見る障壁画はまた格別な味わいがあります。


「大徳寺展」展示風景

そしてフィナーレは、大徳寺三門楼上内の再現展示。
特別公開の時などに大徳寺にはよく訪れるのですが、この三門はいつも外から見るだけで、中まで入る機会はなかったので、この再現展示はうれしかったです。


大徳寺三門


現在の三門は、応仁の乱ののち、享禄2年(1529)に連歌師・宗長によって単層で再建され、天正17年(1589)に千利休が上層を造営して「金毛閣」と名づけられました。千利休が秀吉に切腹を命じられる要因にもなったという利休の木像が安置されていたのもこの三門楼上でした。

会場内はご覧のように三門楼上の雰囲気がよく出ています。再現展示ではありますが、正面の仏像は本物です。

釈迦如来坐像および迦葉・阿難立像 釈迦:印慶作 
釈迦:室町時代 応永11年(1404) 迦葉・阿難:鎌倉時代 13~14世紀
大徳寺蔵

三門楼上に置かれている《千利休立像》も展示されています。これは天正17年(1589)に置かれた利休の木像ではなく後世のものです。
柱などもとてもリアル。実際に三門楼上に上ったような気分が味わえます。

千利休立像 体部:田中浄慶作 頭部:天保11年(1840) 体部:明治2年(1869)
大徳寺蔵

展覧会特設ショップには、本展限定御朱印付きの御朱印帳や、《百鬼夜行絵巻》をイメージしたぬいぐるみクッションまで、展覧会の思い出になるグッズが盛りだくさん。
実はさきほど《百鬼夜行絵巻》をご紹介したのは、ここでこのぬいぐるみクッションを紹介したかったからなのです。

展覧会特設ショップ


公式図録は、表紙には黒地に「本朝無双」という黒い文字が浮かび上がり、左上には特別展の名称が銀色に輝いているという渋くてかっこいいデザイン。牧谿筆の国宝《観音猿鶴図》など一部作品の拡大写真をはじめすべての出品作品が収録され、大徳寺三門の写真や、詳細な作品解説や豊富なコラムも収録されてます。大徳寺の歴史と文化を紐解くことができる豪華な内容なのでおすすめです。

公式図録


通常非公開の名宝が一堂に会する展覧会はなんと41年ぶり。そして東京では初めてなので、この機会にぜひご覧いただきたい展覧会です。 

2026年10月23日金曜日

大倉集古館 企画展「美しい瞬間(とき)ー美人画を中心に」

東京・虎ノ門の大倉集古館では、企画展「美しい瞬間(とき)ー美人画を中心に」が開催されています。

大倉集古館外観


今回の企画展は日本・中国・インドで17世紀から20世紀に描かれた美人画や風景画、さらには化粧道具なども展示されているとても華やいだ雰囲気の展覧会です。
先日、展覧会におうかがいしましたので、さっそく展示の様子をご紹介したいと思います。


展覧会開催概要


会 期  2026年10月3日(土)~12月20日(日)
     前期:10月3日(土)~11月8日(日) 後期:11月10日(火)~12月20日(日)
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日  毎週月曜日(休日の場合は翌火曜日)
入館料  一般 1,000円、大学・高校生 800円※学生証をご提示ください
     中学生以下無料
展覧会の詳細、ギャラリートークなどのイベント、各種割引等は同館公式サイトをご覧ください⇒https://www.shukokan.org/ 

※今回の企画展では一部作品を除き撮影ができます。展示室内で撮影の注意事項をご確認ください。後期展示作品及び鏡台は、主催者より広報用画像をお借りしたものです。



展示は1階展示室の「いにしえの女性」で始まります。
冒頭に登場するのは、中国8世紀・唐時代の最新モードを取り入れたメイクをして優雅にたたずむ女性と、記紀に伝えられる三韓征伐の主役で、応神天皇の母とされる神功皇后が鎧を身につけ弓を持った勇ましい姿です。
《鳥毛立女図(模本)》は、正倉院宝物の《鳥毛立女屛風》(奈良時代・8世紀)の模写の一部で、古代における理想の美人像を今に伝える作品です。《神功揚武図》は泰麗という生没年不明の画家により明治~大正時代に描かれたとされる作品で、赤子の応神天皇とともに描かれるのは、母子信仰を背景としているものです。

右 《鳥毛立女図(模本)》大正・20世紀(原本・奈良時代・8世紀)大倉集古館蔵
左 泰麗《神功揚武図》 明治~大正・20世紀か 個人蔵 どちらも通期展示


次にご紹介するのは、仇英の落款と印章が付された《宮女図巻》。

《宮女図巻》(部分)「仇英」款 中国 明~清時代・17世紀 大倉集古館蔵 巻替あり 


中国・明時代に活躍した画家で、沈周、文徴明、唐寅ともに明四大家と称される仇英は、山水画、人物画を得意とし、なかでも優美な女性像を描いた美人画は人気を集め、後世多くの画家に模倣されました。
この《宮女図巻》も後世描かれたものの一つと考えられますが、女性たち一人ひとりの表情が穏やかで、とても優雅な姿で描かれています。


中国・中唐期の詩人・白居易の「長恨歌」で語られる絶世の美女・楊貴妃は、唐の皇帝・玄宗の寵愛を一身に受け栄華を極めましたが、安史の乱で悲惨な最期を遂げた悲劇のヒロインでもありました。
ここには楊貴妃にまつわる作品が展示されています。


右から 鈴木淡園《楊貴妃図》 明治~昭和・20世紀 個人蔵
河鍋暁翠《楊貴妃(能楽圖繪のうち)》 明治32年(1899) 櫂舟三郎コレクション
《能面 増女》「出目洞水」焼印 江戸時代・18世紀、大倉集古館蔵
《天冠》、 《唐団扇》どちらも江戸時代・18~19世紀 大倉集古館蔵
いずれも通期展示


大阪で活躍した絵師・鈴木淡園の《楊貴妃図》は、長澤蘆雪《唐美人図》を手本にしたと考えられていますが、蘆雪画が鏡を見る美人であるのに対して、この作品は落ち着いた才女としての側面が強調されています。
鬼才・河鍋暁斎の娘・河鍋暁翠筆《楊貴妃(能楽圖繪のうち)》は、能「楊貴妃」を題材とした作品。
能「楊貴妃」は、楊貴妃を死に追いやった玄宗皇帝が、方士(呪術師)に命じて彼女の霊魂を探させる話。狩野山雪《長恨歌図巻》)(アイルランド チェスター・ビーティ―コレクション)に描かれた、楊貴妃の霊魂を求めて冥界に飛んでいく方士の姿を思い出しました。
絵画作品とともに、天女や女神、楊貴妃のような貴人女性の役に用いられる能面の「増女(ぞう)」や、高貴な女性や天女などの役に用いる「天冠」、中国風を表す「唐団扇」が展示されているので、ここは能「楊貴妃」の雰囲気が立体的に表現された素晴らしい空間です。


冒頭でご紹介したように、女性が描かれた作品だけでなく、化粧道具も展示されていて、それがとてもいいアクセントになっています。

《鏡台》(鏡) 江戸時代・18~19世紀 個人蔵 通期展示 



2階に向かうと、インドの女性と女神が描かれた細密画が12点も展示されていました。どれも小さな作品ですが、文字どおり細部まで細かく描かれているので、とても見ごたえがあります。

中でも特に気に入ったのは、ヴェールの透明感が見事に表現された《バニ・タニ像》でした。
原画は18世紀に描かれた「インドのモナ・リザ」ともいわれる有名な作品で、この作品は原画をもとに象牙絵として作られたものです。

《バニ・タニ像》 マザール(原画:キシャンガル派) インド・1970年
大倉集古館蔵(山内コレクション) 通期展示


このように、古代日本の女性や、中国やインドの女性が描かれた作品が展示されているのが今回の企画展の大きな見どころですが、江戸時代の浮世絵や、近代日本画家によって描かれた美人画のファンのみなさま、ご心配なく。
人気浮世絵師による肉筆浮世絵も、「西の松園、東の清方」と並び称された上村松園や鏑木清方の美人画も今回の企画展の大きな見どころのひとつです。


上村松園の作品は前期後期で総入れ替えという豪華版。

右から 上村松園《初春図》、《美人之図》 大正・20世紀 個人蔵
上村松園《「春さ免」「衣可え」(春夏秋冬四題のうち)》 昭和9年、10年
(1934年、1935年) 大倉集古館蔵 いずれも前期展示



鏑木清方と清方の弟子の伊東深水の作品は撮影不可ですが、展示室内では東西美人画の名手たちによる美人画の競演が楽しめます。

メインビジュアルになっている三木翠山《鏡》は前期展示ですのでお見逃しなく!
うれしそうな顔がとてもチャーミングです。

 三木翠山《鏡》 昭和4年(1929) 大倉集古館蔵 前期展示



かがり火に照らされた桜の花が映える横山大観の大作《夜桜》は後期展示です。


横山大観《夜桜》(左隻) 昭和4年(1929) 大倉集古館蔵 後期展示 


勝川派の祖で、葛飾北斎の師としても知られる勝川春章筆《娘道成寺図》も後期に展示されます。


勝川春章《娘道成寺図》 江戸時代・1783~87頃 個人蔵 後期展示


楊貴妃のコーナーでもご紹介しましたが、今回の企画展では絵画作品だけでなく、工芸作品も組み合わされて展示されているのがとてもよかったです。
後期に展示される《友禅黒留袖 時国風景》は、現代の名工による能登の風景をモチーフにしたきらびやかな作品です。


毎田仁郎《友禅黒留袖 時国風景》平成4年(1992)頃 個人蔵 後期展示


絵画や工芸作品を通じて、女性たちの美しい瞬間が見られる展覧会です。
前期は11 月8日(日)まで、後期は11月10日(火)~12月20日(日)。
前期も後期もぜひご覧いただきたい展覧会です。