2026年7月2日木曜日

静嘉堂文庫美術館 元禄!師宣劇場 十二ヶ月風俗図巻 大公開

静嘉堂@丸の内では、元禄!師宣劇場 十二ヶ月風俗図巻 大公開が開催されています。 

展覧会チラシ


今回の展覧会は、切手趣味週間の切手デザインの中でも特に人気が高い「見返り美人」で知られ、江戸時代前期に活躍した浮世絵の始祖・菱川師宣(?~1694)の肉筆画の大作「十二ヶ月風俗図巻」が展示されるというので開幕をとても楽しみにしていました。
そのうえ、期間限定(6/27-7/12)で東京国立博物館所蔵の「見返り美人図」が展示されて、師宣最晩年の傑作がそろい踏みというのもうれしいニュースです。

それではさっそく展覧会の様子をご紹介したいと思います。


展覧会開催概要


会 期  2026年6月27日(土)~8月23日(日)
     [前期]6月27日(土)~7月26日(日)
     [後期]7月28日(火)~8月23日(日)
     ※会期中展示替えがあります。
休館日  毎週月曜日(ただし7月20日は開館)、7月21日(火)
開館時間 10:00~17:00※入館は閉館の30分前まで
     7月3日(金) ・10日(金)は師宣劇場【 見返り美人図ナイト】!20:00まで開館
     *第4水曜 7月22日(水)は20:00まで開館
     *8月21日(金)、22日(土)は19:00まで開館
トークフリーデー  毎週木曜日
入館料   一般 1500円、大高生 1000円、中学生以下 無料
      障がい者手帳をお持ちの方(同伴者1名〈無料〉を含む) 700円
      お得な前期後期セット券 2500円      
※展覧会の詳細、チケット購入方法、関連イベント等については同館公式サイトをご覧ください。今回は元禄コーデ割引もあるので、要チェックです⇒https://www.seikado.or.jp

※撮影条件 写真撮影OKエリア:Gallery2、ホワイエのみ
 *動画撮影・フラッシュ撮影は不可。会場で撮影の注意事項をご確認ください。
※掲載した写真はプレス内覧会で美術館より許可を得て撮影したものです。

展示構成
 Gallery1:序幕 主役は庶民! 師宣前史から元禄期の絵画
 Gallery2:第一幕 元禄!師宣劇場
 Gallery3:第二幕 菱川、宮川の流れ—屛風絵にみる
 Gallery4:大詰 元禄リバイバル


Gallery1:序幕 主役は庶民! 師宣前史から元禄期の絵画

今回は「師宣”劇場”」ですので、Gallery1は「序章」ではなく「序幕」です。
Gallery1の扉(幕)が開くと、楽しげな雰囲気の屛風が見えてきました。

Gallery1入口

序幕でお出迎えしてくれるのは、重要文化財「四条河原遊楽図屛風」。
中央には鴨川が流れ、左右には四条通が走り、女歌舞伎や若衆能、見世物小屋などが描かれ、多くの人たちの声や楽器を奏でる音が聞こえてきそうです。

重要文化財「四条河原遊楽図屛風」江戸時代・寛永期(1624-44)頃
(公財)静嘉堂 通期展示

「四条河原遊楽図屛風」の隣には、ご存じ「見返り美人図」。このたび東京国立博物館からお出ましです。2週間だけの期間限定展示(6/27-7/12)ですのでお見逃しなく!

菱川師宣「見返り美人図」江戸時代・元禄元~7年(1688-94)頃
東京国立博物館蔵  展示期間6/27-7/12

7月14日からは、菱川師宣筆で(公財)静嘉堂が所蔵する「美人若衆集」が展示されます。

菱川師宣「美人若衆図」江戸時代・元禄期(1688-1704)頃
(公財)静嘉堂蔵 展示期間7/14-8/23

どちらの作品にも赤い着物の女性が描かれていますが、「十二ヶ月風俗図巻」にも赤い着物の「見返り美人のバリエーション」が登場するので、気に留めながら第一幕に向かいましょう。


Gallery2:第一幕 元禄!師宣劇場

第一幕に登場するのは、上巻、下巻ともそれぞれ約10mにも及ぶ長い巻物の「十二ヶ月風俗図巻」。前期(6/27-7/26)には上巻、後期(7/28-8/23)には下巻が展示されます。


菱川師宣「十二ヶ月風俗図巻」上巻 展示風景
江戸時代・元禄5-6年(1692-93)頃 (公財)静嘉堂蔵 前期展示(6/27-7/26)


「十二ヶ月風俗図巻」は、遊里や名所風俗などを得意とした師宣作品の中では唯一「月次風俗(つきなみふうぞく)」を題材とした肉筆画で、武家からの注文による特別上製本と見られ、上巻には1月から6月まで、下巻には7月から12月までの代表的な年中行事の場面が描かれています。



菱川師宣「十二ヶ月風俗図巻」下巻 十二月 江戸時代・元禄5-6年(1692-93)頃
(公財)静嘉堂蔵 後期展示(7/28-8/23)


さきほどふれた「見返り美人のバリエーション」は見返っていない美人もいますが、さまざまなポーズをとる赤い着物の女性に注目したいです。
神妙な面持ちで重箱をうやうやしく受け取る場面もいい感じです。

菱川師宣「十二ヶ月風俗図巻」上巻 三月 江戸時代・元禄5-6年(1692-93)頃
(公財)静嘉堂蔵 前期展示(6/27-7/26)

令和3~4年度に本格解体修理が行われて折れやシワが解消され、全面的に裏彩色が施されていることや、軸木の墨書から制作年代が元禄5~6年(1692-93)であることなどが判明するなど新たな発見もありました。
詳しくはGallery2内に掲示されている解説パネルをご覧ください。修理前と修理後の違いを写真で比較することができます。


Gallery3:第二幕 菱川、宮川の流れ—屛風絵にみる

一番大きな展示室のGallery3に六曲一双の大きな屛風が並ぶ様はまさに壮観!
手前は、「見返り美人図」「十二ヶ月風俗図巻」と並んで師宣晩年の傑作、重要文化財「歌舞伎図屛風」。
右隻には華やいだ舞台の様子が描かれ、左隻には舞台裏の楽屋や、役者が客をもてなす芝居小屋まで描かれていて、当時の歌舞伎の人気ぶりがよく伝わってきます。

手前 菱川師宣 重要文化財「歌舞伎図屛風」江戸時代・元禄5-6年(1692-93)頃
東京国立博物館蔵 前期展示 
奥 「上野隅田川図屛風」江戸時代・元禄~享保期(1688-1736)頃
(公財)静嘉堂蔵 通期展示


「歌舞伎図屛風」は前期展示で、後期には、原本:菱川師宣「江戸風俗屛風(高精細複製)」(原本:米国フリア美術館蔵 元禄元~7年(1688-94)頃 千葉県立中央博物館蔵)が展示されます。
「複製」といっても、現在の技術では本物と見紛うばかりの出来栄えですし、「門外不出」という方針の米国フリア美術館が所蔵する作品ですので、本物の雰囲気を味わうことができる絶好のチャンスです。

「上野隅田川図屛風」には、上野の花見の様子が右隻に、隅田川の納涼の様子が左隻に描かれていますが、ここで注目したいのは、師宣が挿絵を担当した墨摺絵本『江戸雀』。
『江戸雀』で師宣が描いた上野や両国橋などの構図が「上野隅田川図屛風」に受け継がれているのがよくわかります。

近行遠通 撰 菱川師宣 画『江戸雀』江戸時代・延宝5年(1677)
全十二冊のうち二冊 (公財)静嘉堂蔵 通期展示 

ほかにも静嘉堂所蔵の師宣や、同時代の浮世絵師・杉村治兵衛、近藤清信の版画が初公開されていますが、世界に一枚しか確認されていない貴重な版画がさりげなく展示されているところがすごいです(下の写真の2点)。


右 近藤清信「朝鮮人押大名行烈 四」江戸時代・正徳~享保期(1711-36)頃
左 杉村治兵衛「風流絵尽」のうち一枚 江戸時代・貞享~元禄前期(1684-96)頃
どちらも(公財)静嘉堂 通期展示


Gallery4:大詰 元禄リバイバル

そしていよいよ大詰へ。

師宣の没後数年を経た元禄末年頃、菱川工房を率いていた息子の師房は祖先の家業である紺屋(こうや)に戻り菱川派は途絶えましたが、師宣が描いた「浮世」の風景は、次の世代の宮川長春(1682-1752)らの宮川派に受け継がれました。


Gallery4:大詰 元禄リバイバル 展示風景

宮川長春はあでやかで美しい肉筆美人画を数多く制作した絵師で、今回の展覧会でも(公財)静嘉堂が所蔵する「美人図」(前期展示)、「形見の駒図」(通期展示)、東京国立博物館所蔵の重要文化財「風俗図巻」(展示期間 第一段:8/4-8/16、第二・三段:8/18-23)を見ることができます。

宮川長春「風俗図巻」江戸時代・ 元文~寛延期(1736-51)頃 
東京国立博物館蔵 展示期間8/4-8/23 *この場面の展示期間(8/18-23)
Image:TNM Image Archives


そして時が下って江戸後期の元禄懐古趣味の中で師宣を再評価したのは、浮世絵師にして戯作者、考証家の山東京伝(1761-1816)でした。そういった時代背景の中、文化文政期(1804-30)に江戸琳派の鈴木其一(1796-1858)によって、古画に倣った「雪月花三美人図」が描かれたのです。


鈴木其一「雪月花三美人図」江戸時代・文政期(1818-30)頃
(公財)静嘉堂蔵 通期展示 


ミュージアムショップ

ミュージアムショップには、静嘉堂のコレクションをモチーフにしたオリジナルグッズが盛りだくさん。
なかでも国宝・曜変天目「稲葉天目」をモチーフにしたグッズは、絵はがき、ハンカチ、ぬいぐるみ、アロハシャツと充実の品揃えです。ショップのみのご利用も可能ですので、ぜひお立ち寄りください。



展覧会図録も販売中です。
菱川師宣の代表作「見返り美人図」ほか師宣とその系譜の作品27点が掲載され、静嘉堂所蔵の「十二ヶ月風俗図巻」は詳細な図版で紹介されているので、自宅に帰ってからでも作品の余韻に浸ることができるのでおすすめです。

展覧会図録

菱川師宣の晩年の傑作も、江戸時代を通じて流れる師宣の画風を継承した作品も見られ、まさに「師宣劇場」が楽しめる展覧会です。
前期も後期もぜひご覧いただきたいです。

2026年6月29日月曜日

三菱一号館美術館 「”カフェ”に集う芸術家—印象派からゴッホ、ロートレック、ピカソまで」

東京・丸の内の三菱一号館美術館では「”カフェ”に集う芸術家—印象派からゴッホ、ロートレック、ピカソまで」が開催されています。

展覧会ポスター

飲食や娯楽を楽しむだけでなく、新たな芸術が生まれる場所となってきた19世紀後半のパリの"カフェ"。
三菱一号館美術館とひろしま美術館の共催で開催されている「"カフェ"に集う芸術家」展は、印象派をはじめ多くの芸術家たちが集った"カフェ"に迷い込んだ気分になって、当時の雰囲気が楽しめる展覧会です。

それではさっそく展覧会の様子をご紹介したいと思います。


展覧会開催概要


会 期  2026年6月13日(土)~9月23日(水・祝)
     ※8/4(火)以降一部作品の展示替があります。
開館時間 10:00~18:00
     但し、金曜日、第2水曜日、7/25(土)、9/19(土)~9/23(水・祝)は20時
     まで開館。入館は閉館時間の30分前まで
     ・夜間開館時間(18~20時)限定特別企画を予定
     ・スペシャルトークフリーデー:7/25(土)15~20時(予定)
休館日  祝日を除く月曜日 但し、トークフリーデー(6/29、7/27、8/31)は開館
観覧料  一般:2,300円、大学生:1,300円、高校生:1,000円、中学生以下:無料

※展覧会の詳細、チケット購入方法、夜間開館時間(18~20時)限定特別企画などの各種イベントは展覧会特設サイトをご覧ください⇒https://mimt.jp/ex_sp/cafe/
    
※この展覧会では撮影禁止マークついている作品を除き写真撮影ができます。展示室内で撮影の注意事項をご覧ください。

展示構成
 第一章 カフェを描く—レアリスムから印象派へ
  第一節 近代絵画の誕生とカフェ
  第二節 メディアとしての版画の隆盛とカフェ
 第二章 夜のカフェ—シェレ、ロートレックの世紀末
  第一節 広告芸術に現れるカフェ—シェレのポスター
  第二節 ロートレックとカフェ
       —〈ムーラン・ルージュ〉とモンマルトル界隈
 第三章 〈シャ・ノワール〉の登場とその後の展開
      ―パリとバルセロナの往還
  第一節 「パリの頭脳」と呼ばれた〈シャ・ノワール〉とその影響
  第二節 〈シャ・ノワール〉から〈クアトラ・ガッツ〉へ
  第三節 〈クアトラ・ガッツ〉からピカソ、そしてモンパルナスへ


第一章 カフェを描く—レアリスムから印象派へ


マネが常連であった〈カフェ・ゲルボワ〉に、マネを慕ってモネやルノワール、ドガが集まり、のちの印象派展につながったことはよく知られています。
最初の展示室には、マネをはじめ、印象派展に参加した画家たちの作品が展示されています。

右 アルマン・ギヨマン《ロバンソンの散歩》1878年頃 ポーラ美術館
左 アルフレッド・シスレー《サン=マメス》1885年 ひろしま美術館

ギヨマンは、生計を立てるため働きながら絵を描いていたので〈カフェ・ゲルボワ〉に出入りする時間はなかったようですが、セザンヌやピサロらとの交流があり、1874年から1886年まで8回開催された印象派展には6回参加しています。
ギヨマンはのちに宝くじで大金を手にしてからは絵画に専念したというエピソードでも知られています。
一方、印象派の中でも特に風景画家として知られるシスレーは、印象派展には4回参加しています。


三菱一号館美術館の展示室に入ると、いつもヨーロッパの貴族の邸宅に入ったようなゴージャスな気分が味わえるのが楽しみなのですが、今回もマントルピースとその上に飾られた絵画のコンビネーションがいい雰囲気を醸し出しています。

展示風景



続いては、マネや印象派による近代絵画に先立ち、レアリスムの画家・版画家であるドーミエやガヴァルニらによって描かれたカフェや、カフェの中の人間模様の版画作品が展示されている部屋へ。

展示風景

思わず吹き出してしまいそうな場面もありますが、このように日常を題材にしたカリカチュアは新聞や諷刺雑誌を通じてパリ市民の間に広まりました。
さらに、写真左、ドーミエ《〈音楽のクロッキー〉17悲劇上演中のオーケストラ》のように、 画面上部に演者、下部に観客あるいはオーケストラを配置する上下構造は、のちにマネやドガによるカフェ・コンセールの表現に影響を与えた点でも重要なことでした。

展示風景


第二章 夜のカフェ—シェレ、ロートレックの世紀末


賑わう夜のカフェを背景に展示されているのは、鮮やかな色彩で生き生きとした女性たちを描いた売れっ子芸術家、ジュール・シェレのポスター作品です。
今にも人々の会話が聞こえてきそうな雰囲気の中、公演を宣伝するポスターを見ていると、気分はすっかり19世紀末の夜のパリ。これはもうたまらない演出ですね。

ジュール・シェレ 左 《「ロータスの花」フォリー・ベルジェール》
1893年 京都工芸繊維大学美術工芸資料館(AN.3363)(前期展示)
右《「ルイーズ・バルティ公演」アルカザール・デ・テ》
1893年 京都工芸繊維大学美術工芸資料館(AN.3346)(前期展示)



ロートレックとゴッホの作品が並んで展示されていました。
これは珍しいと思いましたが、ゴッホは1886年から2年ほどパリに住んで、コルモンの画塾でロートレックと知り合ったので、二人はいわば「同門」だったのです。

右 フィンセント・ファン・ゴッホ《モンマルトルの風車》
1886年 石橋財団アーティゾン美術館
左 アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック《『ルイ13世風の椅子の
リフレイン(アリスティド・ブリュアンのキャバレーにて)》1886年
ひろしま美術館


ゴッホが描いた風車は有名なダンスホール〈ムーラン・ド・ラ・ガレット〉。
ロートレックが描いたのは、芸術キャバレー〈シャ・ノワール〉が引っ越した跡地にシャンソン歌手アリスティド・ブリュアンが支配人を務めた〈ル・ミルリトン(葦笛)〉。タクトを振りながら歌っているのがブリュアンで、彼の後ろの柱の左、黒い帽子の人物がロートレック。この作品にはゴッホも描かれているという研究もあるのですが、はたしてどの人物でしょうか。作品を前に想像してみるのも面白いかもしれません。

ロートレックは、〈ムーラン・ルージュ〉の宣伝用ポスターを制作しています。
(下の写真左の《ムーラン・ルージュ、ラ・グーリュ》1891年 三菱一号館美術館)
これは彼のポスター第1作でしたが、大胆な色彩と構図などから、このポスターが街に貼り出されるとたちまち話題になり、ロートレックはポスターデザイナーとして一躍有名になったという記念すべき作品になったのです。
それにしても、背景の赤色の壁や奥の小窓など展示の演出が絶妙で、ポスターの良さをさらに引き出しているように感じられました。

展示風景



第三章 〈シャ・ノワール〉の登場とその後の展開―パリとバルセロナの往還


さて、ここまではなんとなく猫に導かれているような気がしていたのですが、第三章に来てようやくその理由がわかりました。


第三章で焦点を当てているのは、1881年にロドルフ・サリスによってモンマルトルに開かれ、ボヘミアン芸術家たちが集った芸術キャバレー〈シャ・ノワール(黒猫)〉だったのです。
第三章の看板には、今までなかった猫のシルエットがぶら下がっています。


これは、アンリ・リヴィエールが考案した影絵芝居の巡業を告知するスランタンのポスター《シャ・ノワール巡業公演》(下の写真右 1896年 京都工芸繊維大学美術工芸資料館)に登場する黒猫がモチーフですが、らんらんと輝く目、ピンと伸びたヒゲ、背中を丸め、独特のポーズでこちらをにらむ姿が印象的です。
ロートレックと同じように、スランタンもこのポスターの成功で、以後多くのポスターの注文を受けるアール・ヌーヴォーを代表するデザイナーの一人となっていったので、まさに出世作といえるでしょう。

展示風景

影絵芝居で人気を博したアンリ・リヴィエールは、版画でも名作を残しています。

アンリ・リヴィエール
右 《波『レスタンプ・オリジナル』》1893年 三菱一号館美術館
左 《エッフェル塔の建築現場》1889年 町田市立国際版画美術館(前期展示)
 


《エッフェル塔の建築現場》は、1887年に着工し、1889年パリ万国博覧会に向けて急速に建設された塔の工事風景を描いたもので、リヴィエールは葛飾北斎の《冨嶽三十六景》に着想を得て、1902年には《エッフェル塔三十六景》として刊行しています。
一方で、リヴィエールは1890年代初頭にブルターニュの海を観察した木版連作《海ー波の習作》を制作し、その延長として版画集『レスタンプ・オリジナル』に《波》を寄稿しました。
この作品を見た瞬間、「東山魁夷の海だ!」と思ったのですが、もちろん東山魁夷はリヴィエールよりあとの世代の人。図録の解説を読むと、ブルターニュの海がモチーフになっているので、これは北斎の《冨嶽三十六景》のうち「神奈川沖浪裏」へのオマージュではと思いました。それにしても、実際には刷らない紙の白い部分を飛沫として生かすところがすごい!

アンリ・リヴィエールの影絵芝居は、巡業によってヨーロッパ各地に伝播していきました。
その具体例の一つが、1897年にバルセロナで開店した〈クアトラ・ガッツ(4匹の猫)〉で、若き日のパブロ・ピカソもこの店に出入りしていました。

〈クアトラ・ガッツ〉の開店に関わった一人、ラモン・カザスが描いた《マドレーヌ》は、モンマルトルの〈ムーラン・ド・ラ・ガレット〉に出入りしていた実在の人物で、今回の展覧会のメインビジュアルになっています。

ラモン・カザス《マドレーヌ》1892年
ムンサラット美術館(J.Sala.Ardiz寄贈)


そして、気になるのは彼女の不自然なポーズ。
マドレーヌは壁際に一人で座り、足先は画面右へ、上半身はテーブルに傾き、顔は正面を向きながら視線は画面左に流れています。
彼女は長い間このような姿勢を取っていたのではなく、今まさに何かに気がつき、左の方に視線を向けた瞬間をとらえたのではないかと感じられました。視線の先が気になります。


マドレーヌが表紙になっている展覧会公式図録もおすすめです。展示作品のカラー図版や詳しい解説満載です。




19世紀末のパリの雰囲気が楽しめる展覧会です。
趣向を凝らしたイベントも盛りだくさんなので、展覧会公式サイトをチェックしてぜひお楽しみください!

2026年6月18日木曜日

加島美術 「櫂 舟三郎コレクション 暁斎が描いた浮世のことども ―肉筆画と版画でたどるその画業―」

 東京・京橋の加島美術では、「櫂 舟三郎(かい しゅうざぶろう)コレクション 暁斎が描いた浮世のことども ―肉筆画と版画でたどるその画業―」が開催されています。

加島美術入口では鬼を捕らえた巨大な鐘馗様がお出迎え

加島美術は、絵画、掛け軸などの日本美術を中心に、主に江戸時代から近代までの美術品全般を取り扱い、定期的に「美術品入札会 廻-MEGURU-」やWEB限定オークション「廻オンライン」などを開催していますが、日本美術の普及に向けた取り組みとして、展覧会などの開催にも取り組んでいます。
2017年には加島美術で「蘇る!孤高の神絵師 渡辺省亭」展が開催され、その後、「幻の画家」渡辺省亭が注目されるきっかけとなりましたが、今回の主役は河鍋暁斎。

暁斎なら知ってるという方も多くいらっしゃるかもしれませんが、今回は国内屈指の暁斎コレクター・研究者である藤田昇氏が長年にわたり蒐集し、暁斎の幼名「甲斐周三郎」にちなんで自身が名づけた「櫂 舟三郎コレクション」の中から選りすぐりの作品が展示され、肉筆画・版画あわせて167点のうち65点に上る作品が東京では初公開ですので、暁斎ファンならずとも見逃すわけにはいきません。

それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 期  2026年6月13日(土)~6月28日(日) ※会期中無休
営業時間 10:00~18:00
出展作品 167点
※展示スペースの都合により、本展では展示替を実施いたします。一部作品は6月22日(月)からの後期展示にて公開いたします。
会 場  加島美術(〒104-0031 東京都中央区京橋3-3-2)
主 催  加島美術
※観覧無料、作品販売はありません。

最新情報は加島美術公式サイトでご確認ください⇒https://www.kashima-arts.co.jp/

※館内には撮影可能な作品が1点ありますが、それ以外の作品は撮影禁止となっています。掲載した写真は内覧会で主催者の許可を得て撮影したものです。

撮影可の作品はこちらです。

河鍋暁斎《瀧に白鷲図》明治4年(1871)以降



作品を拝見して最初に驚いたのは、その保存状態のよさ、色合いの鮮やかさでした。
そして、肉筆画と版画が「美とモード」「花鳥風月」「戯画・狂画・諷刺画」など、14のテーマに分けられ、それぞれのテーマごとに作品解説があるので、作品の見どころがよくわかりました。

「美とモード」展示風景

※作品は原則、ガラスケースなしの露出展示ですので、あまり近づかないように気を付けて鑑賞しましょう。

「花鳥風月」のコーナーに展示されている《鴛鴦図》は特に注目したいです。

「花鳥風月」展示風景


生涯に数千点にも及ぶ作品を制作したとも言われる暁斎ですが、その画業の初期にあたる20代前半の肉筆画は現存数が極めて少なく、詳細はほとんど明らかになっていません。今回の展覧会では、このたび新たに発見された、20代前半の肉筆画と推測される《鴛鴦図》が全国で初公開されています。(上の写真の壁にかかっている掛軸)


厚いアクリルケースで守られているのは《惺々暁斎団扇絵聚画帖》。

河鍋暁斎《惺々暁斎団扇絵聚画帖》明治4年(1871)以降

現存する肉筆団扇絵の画帖は他に例がなく、団扇絵15枚を収めた《惺々暁斎団扇絵聚画帖》はとても貴重な作品です。
最初に作品タイトルを見たとき、能面で知られる赤ら顔の「猩々(しょうじょう)」かと思いましたが、心のさえるさま、心の明らかなさまを表す「惺々(せいせい)」でした。
細部まで描き込まれた筆致や極彩色の鮮やかさはまさに「惺々」というタイトルにぴったり。思わず見とれてしまうような作品です。
この作品は会期中ページ替えがあります。
画帖ですので一度に全部のページを見ることはできませんが、作品横のiPadで全作品をご覧いただくことができます。

これまで1階の展示作品をご紹介してきましたが、展示は2階にも続きます。

和室のしつらえの展示スペースに展示されている掛軸は《不動明王開化図》。

河鍋暁斎《不動明王開化図》明治4年(1871)以降

浴衣を着て雑誌を読む不動明王、銘酒「剣菱」を調達したり、肉を捌いたりする脇侍たち、不動明王の光背の炎の上には肉を煮るための鍋が掛けられています。
文明開化の名のもとに行われた西欧の制度や文化、生活様式の急激な導入をユーモアたっぷりに皮肉ったところはまさに暁斎の真骨頂といえる作品ではないでしょうか。


内覧会では藤田昇氏に直接お話をうかがうことができました。
藤田氏が最初に蒐集した作品は《鐘馗に鬼図》。


河鍋暁斎《鐘馗に鬼図》明治12年(1879)以降


右隻には鬼を取り逃がした鐘馗、左隻には崖から飛び降りる鬼が描かれていますが、「鐘馗と鬼を画面から取り除くと、狩野派の山水画になります。」と藤田氏。
つい鐘馗と鬼だけに目が行きがちですが、確かに右隻の岩は狩野派のトレードマークともいえる斧で割ったような岩の描き方(斧劈皴〈ふへきしゅん〉)で表現されています。
若い頃、狩野派で修行した暁斎のこだわりが感じられる作品です。

入口でお出迎えしてくれた大迫力の鐘馗様にもお目にかかれました。(下の写真右)


右《鐘馗捕鬼図》 明治12年(1879)以降
左《鐘馗と梅の木にしがみつく鬼図》明治4年(1871)以降
どちらも河鍋暁斎

 
子供が遊んで楽しめる「おもちゃ絵」というジャンルの作品は初めて見ました。当時の子供たちは暁斎の双六で遊んだのでしょうが、今ならもったいなくて遊べないですね。


河鍋暁斎《絵双六 泰平開化繰雙録》明治7年(1874)



展示作品全167点を収録している展覧会図録も販売中です。
全作品に藤田氏による解説付きで、作品の魅力や見どころがよくわかり、暁斎の年譜や、暁斎が使用した署名・印章の一覧も掲載されていて、資料としての価値も高いのでおすすめです。
加島美術店頭でも、オンラインでも販売しています。

『展覧会図録』 販売価格:1,000円(税込)


今まで多くの暁斎作品を見ていたのに、まだまだ知らない暁斎があったことに気づいた展覧会でした。
会期が短いのでお見逃しなく! 

展示風景


2026年6月13日土曜日

大阪中之島美術館 フェルメール《真珠の耳飾りの少女》展

今年(2026年)8月21日(金)に大阪中之島美術館で開幕する「フェルメール《真珠の耳飾りの少女》展 17世紀オランダ絵画の名品、奇跡の再来日」の概要がいよいよ明らかになってきました。




展覧会開催概要


会 期  2026年8月21日(金)~9月27日(日) 会期中無休
開場時間 午前9時30分~午後5時(入場は午後4時30分まで)
     ※8月28日、9月4日、9月11日、9月18日~9月27日は午後8時まで(入場は午後7時30分まで)
会 場  大阪中之島美術館 5階展示室
チケット情報については展覧会公式サイトをご覧ください⇒https://vermeer2026.exhibit.jp/


それではさっそく展覧会の3つの見どころをご紹介したいと思います。

見どころ1 フェルメールROOM


今回来日するのは、マウリッツハイス美術館が所蔵する3点のフェルメール作品のうち2点が出品されます。1点は14年ぶりに来日する《真珠の耳飾りの少女》、そしてもう1点はフェルメール最初期の貴重な作品《ディアナとニンフたち》。
この2点が展示されて、詳細に紹介される空間「フェルメールROOM」はどのような雰囲気なのだろうかと想像するだけでワクワクしてしまいます。

ヨハネス・フェルメール《真珠の耳飾りの少女》1665年頃 油彩、カンヴァス
44.5×39.0 cm マウリッツハイス美術館 © Mauritshuis, The Hague 



マウリッツハイス美術館が所蔵した当初は別な画家の作品とされた《ディアナとニンフたち》はフェルメール初期の代表作。フェルメール作品の中で唯一、神話を題材とした作品です。

ヨハネス・フェルメール《ディアナとニンフたち》1653-1654年頃 油彩、カンヴァス  97.8×104.6 cm マウリッツハイス美術館 © Mauritshuis, The Hague 



見どころ2 17世紀オランダ絵画の名品を巡る旅


フェルメールの作品2点に加え、マウリッツハイス美術館の所蔵作品10点が展示されます。
歴史画、肖像画(トローニー(※)を含む)、風俗画、教会内景画、風景画、静物画の6つのテーマで構成され、私たちをマウリッツハイス美術館の世界に入り込んだ気分にさせてくれます。

(※)特定の人物ではなく性格やタイプを表現する、実在しない人物像のこと。《真珠の耳飾りの少女》も「トローニー」と呼ばれるジャンルの作品です。


17世紀最大の画家のひとり、レンブラント・ファン・レインは特定のジャンルだけを描く同時代のオランダの画家とは異なり、風景画、静物画、聖書や神話の歴史画など幅広い作品を手がけ、特に肖像画やトローニーを残しました。
今回来日する《笑う男》は若き日のレンブラントが描いたトローニーの傑作。
笑い声が聞こえてきそうな男の豪快な笑い顔もさることながら、襟の部分の輝きがとても印象的な作品です。

レンブラント・ファン・レイン《笑う男》1629-1630年頃 油彩、金箔で覆った銅
  15.3 x 12.2 cm 
マウリッツハイス美術館 © Mauritshuis, The Hague


作者のエマヌエル・デ・ウィッテは、17世紀オランダを代表する建築画家で、教会内部を描いた作品によって高く評価されています。
17世紀のオランダではカトリック教徒の信仰が制限されていたので、《想像のカトリック聖堂の内部》は、そのタイトルどおり完全に空想上のカトリック教会を描いたものですが、このリアル感がぐっと迫ってくるものがあります。

エマヌエル・デ・ウィッテ《想像のカトリック聖堂の内部》1668年 油彩、カンヴァス
110.0×85.0cm 
マウリッツハイス美術館 © Mauritshuis, The Hague


フェルメール《ディアナとニンフたち》のエピソードや、以下の作品は前回の記事で詳しく紹介しているので、こちらもご覧ください⇒https://deutschland-ostundwest.blogspot.com/2026/03/17821.html?m=1


オランダの風俗画を代表する画家ヤン・ステーンの《老いが歌えば若きが笛吹く》。

ヤン・ステーン《老いが歌えば若きが笛吹く》1663-1665年頃 油彩、カンヴァス
  83.8×91.9cm  マウリッツハイス美術館 © Mauritshuis, The Hague



動物画家として知られるパウルス・ポッテルは、とりわけ牛の表現に優れた才能を発揮した画家でした。


パウルス・ポッテル《水に映る牛》1648年 油彩、板 43.4×61.3cm
  マウリッツハイス美術館 © Mauritshuis, The Hague



17世紀オランダの女性画家を代表するマリア・ファン・オーステルウェイクは花の絵で国際的な名声を博していました。

マリア・ファン・オーステルウェイク《装飾的な壺の花》1670-1675年頃
 油彩、カンヴァス 62.0×47.5cm マウリッツハイス美術館 © Mauritshuis, The Hague



見どころ3 大型スクリーンでフェルメールの名画の「光」に包まれる映像体験。


全長20mにもおよぶ映像で、フェルメールの光の世界を感じる、ここでしか味わえない特別な体験ができます。映像では、フェルメールの生涯と描いたモチーフを全作品でたどります。世界中に点在するフェルメールの全作品が、実際の比率に基づいて集結するほか、通常では見ることができない拡大投影で《真珠の耳飾りの少女》の魅力に迫るなど、デジタルならではの迫力ある展示体験で、名画鑑賞への期待を高めてくれます。


《真珠の耳飾りの少女》は日本で見られるラスト・チャンスかもしれません。
この絶好の機会は逃すわけにはいきません!


フェルメールについて


【ヨハネス・フェルメール(1632-1675)】
17世紀オランダを代表する画家の一人であり、静謐な日常生活の情景を精緻に描いた作品で知られる。制作に関しては一枚の絵に長い時間を費やしたため、完成させた作品は多くなく、現存する作品はわずか30数点しか知られていない。
画家になった当初は聖書や古典神話に基づく歴史画を描いていたが、24歳頃から室内風俗画へと転向した。マウリッツハイス美術館所蔵の《真珠の耳飾りの少女》は、フェルメール作品の中でも最も著名で世界的に広く愛される作品の一つである。


マウリッツハイス美術館について


【マウリッツハイス美術館】
オランダ・ハーグにあるマウリッツハイス美術館は、主に17世紀のオランダ・フラン ドル絵画の優れたコレクションで知られる。館の建物はオランダ古典様式建築の傑作と評され1644年にヨハン・マウリッツ伯爵(1604-1679)の私邸として建設された。
その後、1822年に王立美術館として開館した。美術館の基礎となるコレクションは、オラニエ公ウィレム5世の絵画収集品であり、彼の息子であるオランダ初代国王ウィレム1世によって美術館が創設された。
所蔵作品には、フェルメールの《真珠の耳飾りの少女》、《ディアナとニンフたち》、《デルフトの眺望》の3作品のほか、レンブラントの《ニコラース・テュルプ博士の解剖学講義》 をはじめ、ルーベンス、フランス・ハルス、ヤン・ステーンなど著名な画家の傑作が含まれている。

マウリッツハイス美術館 © Mauritshuis, The Hague