2026年3月1日日曜日

フェルメール《真珠の耳飾りの少女》展 17世紀オランダ絵画の名品、奇跡の再来日              大阪中之島美術館 8月21日開幕!

フェルメールの代表作《真珠の耳飾りの少女》が大阪中之島美術館に来日する展覧会のタイトルが、「フェルメール《真珠の耳飾りの少女》展 17世紀オランダ絵画の名品、奇跡の再来日」に決定しました。

ヨハネス・フェルメール 《真珠の耳飾りの少女》 1665年頃 44.5×39.0 cm 油彩、
カンヴァス マウリッツハイス美術館 
© Mauritshuis, The Hague


※《真珠の耳飾りの少女》が前回来日した時の様子などはこちらで紹介しています⇒フェルメールの傑作《真珠の耳飾りの少女》今夏、14年ぶりに来日決定!大阪へ!

さらに、《真珠の耳飾りの少女》に加え、フェルメールの最初期の作品《ディアナとニンフたち》の出品も決定して、マウリッツハイス美術館が所属するフェルメール作品3点のうち2点が今回の展覧会のために来日することになりました。
ほかにも17世紀オランダ絵画の重要作品であるヤン・ステーン《老いが歌えば若きが笛吹く》、パウルス・ポッテル《水に映る牛》、マリア・ファン・オーステルウェイク《装飾的な花の壺》などもあわせて展示されます。


《ディアナとニンフたち》は、ローマ神話の月と狩猟の女神ディアナが、侍女たちのニンフ(森の精)に足を洗わせている場面が描かれていて、フェルメールが神話に題材をとった唯一の作品なのですが、かつては別の画家の作品と思われていました。
それは1876年にマウリッツハイス美術館が入手した時に偽の署名が入っていたためで、19世紀末の修復でフェルメールの署名が見つかり、当時はほとんど知られていなかったフェルメールの作品とされたのです。

ヨハネス・フェルメール 《ディアナとニンフたち》1653-1654年頃 97.8×104.6 cm 油彩、
カンヴァス マウリッツハイス美術館 © Mauritshuis, The Hague

《老いが歌えば若きが笛吹く》は、オランダの風俗画を代表する画家ヤン・ステーンの代表作。
この作品は、「年寄りが歌えば、若者が笛を吹く」という、17世紀オランダで広く知られたことわざが描かれたもので、子どもというものは、悪い行為を含めて大人のすることをなんでも真似するので、大人はつねに正しい手本を示さなければならないという警告が込められています。
自分や家族をモデルにすることが多かったステーンは、ここでは絵の中央で自らパイプを吸う姿で登場して悪い手本を示しています。
ステーンのこの得意げな表情をぜひ目の前で見てみたいです。

ヤン・ステーン《老いが歌えば若きが笛吹く》 1663-1665年頃 83.8×91.9cm  油彩、カンヴァス
 マウリッツハイス美術館 © Mauritshuis, The Hague


パウルス・ポッテルは牛の絵で知られるオランダの画家。画家であった父に学び、早熟の才能を示しましたが、結核によりわずか28歳の若さで亡くなりました。それでも生涯100点近くの作品を残し、19世紀まではフェルメールよりも有名な画家だったのです。
ポッテルは水面に映る反射を巧みに描いたので、この絵は「映る牛」という愛称で親しまれてきました。

パウルス・ポッテル《水に映る牛》1648 43.4×61.3cm 油彩、板
マウリッツハイス美術館 © Mauritshuis, The Hague

17世紀オランダでは何人もの女性画家によって静物画が描かれ、それを代表する女性画家マリア・ファン・オーステルウェイクは、花の絵で国際的な名声を博し、神聖ローマ皇帝、フランス国王、イギリス国王などにも作品を求められました。
とても華やいだ雰囲気の作品ですが、この作品には強い象徴的意味が込められているのです。
ひまわりは神の存在を象徴し、赤いバラは聖母や愛を表し、花瓶にはキリストを象徴するブドウや羊と戯れるプットー(童子)が見え、花の入った杯の蓋の上のヴィーナスは欲望を表しています。
このように絵の持つ意味を読み解くのも、静物画を見る楽しみのひとつかもしれません。

マリア・ファン・オーステルウェイク《装飾的な壺の花》1670-1675年頃?
 
62.0×47.5cm 油彩、カンヴァス マウリッツハイス美術館 © Mauritshuis, The Hague   


以上、5点の作品の来日が発表されていますが、ほかに17世紀オランダ絵画のどんな名品が来日するのか今から楽しみにしています。

展覧会の開催概要は次のとおりです。
大阪中之島美術館のみでの開催で、他地域への巡回はないので、この絶好の機会を見逃すわけにはいきません。


【展覧会開催概要】
 展覧会タイトル:フェルメール《真珠の耳飾りの少女》展  17世紀オランダ絵画の名品、
         奇跡の再来日
 会 期:2026年8月21日(金)~2026年9月27日(日)
 会 場:大阪中之島美術館 5階展示室 〒530-0005 大阪府大阪市北区中之島4-3-1
 主 催:大阪中之島美術館、朝日新聞社、朝日放送テレビ
 後 援:オランダ王国大使館

※チケットは6月発売、詳細は5月下旬に発表されます。
※記載内容に変更が生じる場合があります。最新の情報は展覧会公式サイトでご確認ください。

 展覧会公式サイト:https://vermeer2026.exhibit.jp/
 展覧会公式X:https://x.com/Vermeer2026
 展覧会公式Instagram:https://www.instagram.com/vermeerosaka2026 
    

マウリッツハイス美術館 © Mauritshuis, The Hague

2026年2月13日金曜日

大阪市立美術館 興祖微妙大師六百五十年遠諱記念特別展「妙心寺 禅の継承」

大阪・天王寺公園内の大阪市立美術館では、興祖微妙大師六百五十年遠諱記念特別展「妙心寺 禅の継承」が開催されています。




今回の特別展は、京都の西郊にある臨済宗妙心寺派の大本山・妙心寺の基礎を築いた第二世、興祖微妙大師の六百五十年遠諱を記念して、妙心寺や妙心寺派の寺院の至宝が一堂に会する展覧会なので開幕をとても楽しみにしていました。

開幕前に開催された記者内覧会に参加しましたので、さっそく展示の内容をご紹介したいと思います。


展覧会開催概要


会 期  2026年2月7日(土)~4月5日(日)
     ※展示替えあり 前期2月7日(土)~3月8日(日)、3月10日(火)~4月5日(日)
会 場  大阪市立美術館(天王寺公園内)
開館時間 午前9時30分~午後5時(入館は閉館の30分前まで)
休館日  月曜日(ただし、2月23日は開館)、2月24日(火)
展覧会公式サイト⇒https://art.nikkei.com/myoshin-ji/

※展示室内は一部の作品のみ撮影ができます。掲載した写真は、記者内覧会で主催者の許可を得て撮影したものです。

展示構成
 第一章 開山忌の荘厳
 第二章 妙心寺史
 第三章 妙心寺珠玉の寺宝
 第四章 大阪の妙心寺派
 妙心寺と大阪市立美術館
 特別展示Ⅰ 天球院の襖絵
 特別展示Ⅱ 微妙大師ゆかりの妙感寺


展示室に入って最初に感じたのは、金碧の障壁画で囲まれた桃山時代の豪華絢爛な雰囲気でした。

「第一章 開山忌の荘厳」展示風景


「妙心寺屏風」の異名を持つ大画面の屛風、狩野山楽筆「龍虎図屛風」、海北友松筆「花卉図屏風」は迫力満点。
どちらも武家出身で、ほぼ同じ時代に活躍して、ひとりは京狩野派の祖、もうひとりは海北派の祖となった二人の屛風は通期展示で写真撮影可能なのがうれしいです。

右 重要文化財「龍虎図屛風」狩野山楽筆 
左 重要文化財「花卉図屏風」海北友松筆
どちらも 桃山時代・17世紀 京都・妙心寺蔵 通期展示


「第一章 開山忌の荘厳」の展示はまだまだ続きます。
第一章では、先ほどご紹介した金碧の屛風をはじめ、頂相(禅宗の高僧の肖像)、墨蹟、十六羅漢図が展示され、江戸時代に大方丈の特別な設(しつら)えで行われた開山忌の様子が展示されています。

「第一章 開山忌の荘厳」展示風景


「第三章 妙心寺珠玉の寺宝」に展示されている、室町水墨画の名品や、中国、朝鮮から伝来した工芸など、妙心寺の本坊や塔頭に伝わる寺宝の数々も今回の特別展の大きな見どころのひとつです。

こちらは、狩野派二代目で、狩野派繁栄の基礎を築いた狩野元信の代表作のひとつ、妙心寺の塔頭・霊雲院の障壁画(現在は掛軸装)。画面全体に漂う空気感が何ともいえず心地よいです。

重要文化財「四季花鳥図 霊雲院方丈障壁画のうち」 (部分)
狩野元信筆 室町時代 天文12年(1543) 京都・霊雲院
12幅のうち8幅が前・後期で4幅ずつ展示されます。

続いては化粧品や小物を納めた容器と考えられる独特の形をした合子(ごうす)。
玳瑁(鼈甲)に色彩を施す玳瑁伏彩法は高麗螺鈿漆器の代表的な技法で、世界的に見ても完形の作例は20数点しかなく、その中でもこれは保存状態が極めて良好な貴重なものなのです。

菊唐草文螺鈿玳瑁合子」朝鮮・高麗時代(12~13世紀)
京都・桂春院蔵 通期展示

今回の特別展開催にあたり、大阪市立美術館が大阪府内の妙心寺派の寺院の調査を行ったところ、いくつかの新たな発見がありました。

そのひとつは、大阪府内の妙心寺派の寺院には白隠慧鶴の禅画が数多く所蔵されていることでした。
江戸時代中期の僧で臨済宗中興の祖と呼ばれる白隠は、仏の教えを伝える手段として、生涯で約1万点を超える書画を描いたといわれています。
一見すると親しみが持てそうで、実は禅の奥深い意味がある白隠の書画は、わかりやすく解説している作品のキャプションを読みながら鑑賞したいです。

「第四章 大阪の妙心寺派」展示風景


もうひとつは、大阪府内の妙心寺派の寺院には、妙心寺が開創される建武4年(1337)より以前の平安~鎌倉時代の仏像が多く所蔵されていることでした。
これは、臨済宗妙心寺派に改宗する前から所蔵していた仏像を各寺院が大切に保存していたからで、おかげさまで私たちは今回の特別展で平安時代の優美な仏さまを拝むことができるのです。

「第四章 大阪の妙心寺派」展示風景


大阪市立美術館には今回、「京都のお寺の展覧会をなぜ大阪で?」という質問が多く寄せられたとのことですが、実は、大阪市立美術館が昭和11年(1936)に開館して以来、「古美術常設陳列館」としての性格をめざし、近隣の社寺に出陳や寄託を依頼していたところ、妙心寺や塔頭から多くの数の宝物が寄託されて現在に至っているという約90年にわたる深いご縁があったのです。

「妙心寺と大阪市立美術館」のコーナーでは、大阪市立美術館が妙心寺や塔頭から寄託を受けているさまざまな寺宝のなかから、今まで公開の機会が少なかった宝物が展示されています。


「妙心寺と大阪市立美術館」展示風景


今回の特別展の大きな見どころの一つは、狩野山楽・山雪父子が手掛けた妙心寺の塔頭・天球院の襖絵が、塔頭内と同じ形で再現展示されていることです。

「特別展示Ⅰ 天球院の襖絵」展示風景


普段は非公開の襖絵も、ここではこんなに間近で虎と対面することもできます。

重要文化財「竹林猛虎図襖」 (部分)  狩野山楽・山雪筆
江戸時代 寛永8年(1631) 京都・天球院 通期展示 


最後は、微妙大師が晩年をすごした大師ゆかりのお寺、妙感寺(滋賀県湖南市)の「千手観音坐像」です。
高さが1.64mもあるので、近くで見るとかなり大きくて存在感があります。そして、木造の仏像なのですが、なぜかお顔や手に柔らかさ、ぬくもりが感じられるという不思議な仏さまなのです。


湖南市指定文化財「千手観音坐像」鎌倉時代後期~南北朝時代(14世紀)
滋賀・妙感寺 通期展示

「特別展示Ⅱ 微妙大師ゆかりの妙感寺」のコーナーには、厨子に納められた可愛らしい小さな「千手観音坐像」が展示されていて、どちらも撮影可能です。


 出品作品をモチーフにした展覧会オリジナルグッズも盛りだくさん。


出品作品のカラー図版や詳しい作品解説など内容充実の展覧会公式図録も好評発売中です。

展覧会公式図録

今回のメインビジュアルが「龍虎図屏風」の虎というのは大阪ならではと思いましたが、龍は法堂の天井画から飛び出してきます。ご自身のスマートフォンで中央ホールの空間に登場する龍をAR(拡張現実)体験することができるので、ぜひお試しください。



イメージはこんな感じです。かなりの迫力を体験することができます。



妙心寺や妙心寺派の寺院の寺宝を通じて妙心寺の歴史にも触れることができます。
この春おすすめの展覧会です。

2026年2月2日月曜日

東京都美術館開館100周年記念 「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」

今年(2026)年に開館100周年を迎えた東京・上野公園の東京都美術館では、東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」が開催されています。

企画展示室入口のフォトスポット

今年(2026年)は、東京都美術館が日本初の公立美術館として1926(大正15)年に開館してから100年目を迎える記念すべき年。
すでに今年開催される開館100周年記念展のラインナップがアナウンスされていますが、その第1弾として開催されているのが、スウェーデン国立美術館の全面協力のもと、19世紀末から20世紀にかけてスウェーデン絵画が展示され、展示作品は100%スウェーデン人作家という今回の展覧会なのです。

実は、スウェーデン人の画家といっても、スウェーデンの国民的画家カール・ラーションの作品もあまり見たことはなく、ほとんど予備知識がありませんでしたが、それがかえって、どのような画家や作品にめぐり合えるのだろうという期待がふくらんだので、開幕を楽しみにしていました。    

それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。


展覧会開催概要


展覧会名 東京都美術館開館100周年記念 スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき
会 期  2026年1月27日(火)~4月12日(日)
会 場  東京都美術館 企画展示室
休室日  月曜日、2月24日(火) ※ただし、2月23日(月・祝)は開室
開室時間 9:30~17:30、金曜日は20:00まで(入室は閉室の30分前まで)

展覧会の詳細、チケットの購入方法、イベント等の情報は展覧会公式サイトをご覧ください⇒https://www.swedishpainting2026.jp

展示構成
 LBF  第1章 スウェーデン近代絵画の夜明け
       第2章 パリをめざして―フランス近代絵画との出合い
       第3章 グレ=シュル=ロワンの芸術家村
 1F       第4章 日常のかがやき―”スウェーデンらしい”暮らしのなかで
       第5章 現実のかなたへ―見えない世界を描く
 2F    第6章 自然とともに―新たなスウェーデン絵画の創造

※展示室では1F、2Fのみ写真撮影が可能です(一部を除く)。展示室内で撮影の注意事項等をご確認ください。
※本稿ではLBFの作品の写真も掲載していますが、プレス内覧会で美術館より特別に許可を得て撮影したものです。


第1章 スウェーデン近代絵画の夜明け


第1章に並ぶ19世紀半ばの風景画を見て最初に感じたことは、フランスやドイツをはじめ外国の美術の影響は受けていても、スウェーデンの自然や風景を描いた画家たちの郷土愛でした。

「東京都美術館開館100周年記念 スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」
展示風景、東京都美術館、2026年 

特に気になった作品は、ドイツ・デュッセルドルフに学んだマルクス・ラーションの《荒れ狂うボーヒュースレーンの海》。


マルクス・ラーション《荒れ狂うボーヒュースレーンの海》
1857年(年記) スウェーデン国立美術館蔵

描かれているのは、スウェーデン南西部のボーヒュースレーンの海岸で座礁する帆船と、そこから脱出した船乗りを乗せた小舟、そして岩場には先に逃れた人々の姿。
空を覆う不穏な雨雲、背景にはごつごつした岩山、荒れ狂う波、船乗りたちを見守るように空を舞う海鳥たち、そして一本一本丁寧に描かれた帆船のロープ。
このような詳細な描写がまるで映画のワンシーンを見ているようで、手に汗を握る迫真の描写に圧倒されました。


第2章 パリをめざして―フランス近代絵画との出合い


1870年代後半になると、スウェーデンの多くの若い画家たちがめざしたのは、印象派をはじめ前衛的な美術が次々と生まれたフランスのパリ。
なかでもスウェーデンの画家たちが魅了されたのはバルビゾン派でした。彼らの素朴で情緒豊かな手法は、母国スウェーデンの農村や豊かな自然に親しんで育った画家たちにとってぴったりとフィットするものだったのです。

「東京都美術館開館100周年記念 スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」
展示風景、東京都美術館、2026年

パリで毎年1度開催されるサロンへの入選をめざした画家のひとりがアーンシュト・ヨーセフソン。自然を背景に描かれた人物画もとてもいい雰囲気でしたが、この章で一番印象に残ったのが、鍛冶屋の暗い室内から出てきた男たちの笑顔、白い歯、たくましい腕にたくましい生命感が感じらる《スペインの鍛冶屋》でした。

アーンシュト・ヨーセフソン《スペインの鍛冶屋》1881年
スウェーデン国立美術館蔵


この作品は、1881年にヨーセフソンがスペインに旅行した際に描いた代表作で、本人にとっては自信作だったのですが、サロンの審査員から理解を得ることなく落選してしまいました。


第3章 グレ=シュル=ロワンの芸術家村


グレ=シュル=ロワンとはパリの南東約70キロメートルに位置する小さな村の名前で、スウェーデンの画家たちは、バルビゾン村に集い戸外制作を実践していたカミーユ・コローやジャン=フランソワ・ミレーにならい、この村に滞在して制作を行いました。

「東京都美術館開館100周年記念 スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」
展示風景、東京都美術館、2026年


1880年代以降、この村で本格的な滞在制作を行ったカール・ノードシュトゥルムが描いた現地の様子は、タイトルもそのものずばりの《グレ=シュル=ロワン》。
画面いっぱいに描かれているのは鬱蒼と茂る草地ですが、遠くにもくもくと白煙をたなびかせて走る蒸気機関車がいいアクセントになっています。当時、蒸気機関車は近代化の象徴だったのです。

カール・ノードシュトゥルム《グレ=シュル=ロワン》
1885-1886年(年記) スウェーデン国立美術館蔵



第4章 日常のかがやき―”スウェーデンらしい”暮らしのなかで


1Fに移ります。
1880年代の終わりになると、フランスでの経験を通して、「スウェーデンらしい」新たな芸術を築きたいという願いが芽生え、多くのスウェーデンの画家たちは故郷スウェーデンに帰国しました。
「”スウェーデンらしい”暮らし」という第4章のサブタイトルにふさわしく、室内のしつらえが再現された空間で見る作品はまた格別です。

「東京都美術館開館100周年記念 スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」
展示風景、東京都美術館、2026年

「スウェーデンらしい」暮らしのイメージをかたちづくったカール・ラーションの作品は、厳しい寒さの長い冬の暖かい室内のぬくもりが感じられて、ほっとした気分にさせてくれます。

カール・ラーション《カードゲームの支度》1901年(年記)
スウェーデン国立美術館蔵


第5章 現実のかなたへ―見えない世界を描く


この章は、今までの章と少し雰囲気が違います。
ここに展示されている作品は、フランスから帰国したスウェーデンの画家たちのなかでも、北欧の神話や民間伝承といった民族的な主題を描いたり、精神の不安定さと向き合い、幻想や幻覚を映し出すような作品を制作するなど、現実のかなたにある人間の目に見えない心理や精神のありようを絵画で探ろうとした画家たちが描いたものだからなのです。

「東京都美術館開館100周年記念 スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」
展示風景、東京都美術館、2026年



生涯を通じてストックホルムを拠点として活動したエウシェーン・ヤーンソンが描いたのは、郊外の畑を宅地開発して建てられた労働者の集合住宅とストックホルム市内にある高台の街かど。本来なら人がいるはずなのに人が描かれていないせいでしょうか、現実の場面を描いているのに幻想的な雰囲気が感じられる不思議な作品です。

エウシェーン・ヤーンソン 右《首都の郊外》
左《ティンメルマンスガータン通りの風景》
どちらも 1899年(年記) スウェーデン国立美術館蔵


第6章 自然とともに―新たなスウェーデン絵画の創造


1890年代から世紀転換期にかけて、スウェーデンの風景画は大きな変化を迎えました。
第6章に展示されているのは、厳しくも美しいスウェーデンの自然を描くのにふさわしい表現方法を模索した画家たちの風景画です。
フランスの印象派やバルビゾン派の作品とは印象が少し違うな、と感じていたのですが、夕暮れや夜明けの淡く繊細な光の表現などが特徴的だということに気が付きました。



「東京都美術館開館100周年記念 スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」
展示風景、東京都美術館、2026年

最後にご紹介するのは、今年の干支にちなんで馬が描かれたニルス・クルーゲル《夜の訪れ》です。
背景の弱々しく光を発している太陽がいかにも北欧らしさを感じさせてくれます。

ニルス・クルーゲル《夜の訪れ》1904年(年記)
スウェーデン国立美術館蔵


今回の特別展出品作品の図柄を使用したオリジナルグッズも充実。
「幸せを呼ぶ馬」とも呼ばれるスウェーデンの伝統工芸品ダーラナホースのオリジナルイラストグッズは午年にぴったり。
展覧会特設ショップにもぜひお寄りください。

展覧会特設ショップ



出品作品は全てカラー図版で掲載されて作品解説付き、スウェーデン絵画をより深く知るためのコラムを多数収録した展覧会公式図録もおすすめです。

展覧会公式図録



東京都美術館開館100周年記念展の第1弾は、100%スウェーデン画家による知られざるスウェーデン絵画の展覧会。新たな発見がいっぱいの展覧会ですので、ぜひお楽しみください!

フォトスポット


2026年1月30日金曜日

東京国立博物館・台東区立書道博物館 連携企画「明末清初の書画」

東京国立博物館と台東区立書道博物館では、今年で23回目を迎えた連携企画が開催されています。
今まで、王羲之、趙孟頫、文徴明、董其昌はじめ歴代中国の書家たちの特集が続き、昨年は国内にある拓本の名品が大集結した「拓本のたのしみ」が開催され、すっかり新春の風物詩として定着した連携企画の今年のタイトルは「明末清初の書画」。

明末清初は、明王朝(1368-1644)から異民族である満洲族が漢民族を支配する清王朝(1616-1912)に転換する激動の時代。
今回の連携企画では、このような時代に生まれた書画の名品が展示されるのはもちろんのこと、作品を生み出した文人たちのさまざまな生きざまが紹介される、とても興味深い内容になっています。

展覧会チラシ

展覧会が開催される両館共通のタイトルは「明末清初の書画」ですが、サブタイトルは東京国立博物館が「乱世にみる夢」、台東区立書道博物館が「八大山人 生誕400年記念」と、それぞれ特徴のある展示が見られますので、館ごとに見どころをご紹介していきたいと思います。


東京国立博物館


展覧会名  東京国立博物館・台東区立書道博物館 連携企画「明末清初の書画」
      ―乱世にみる夢—
会 期   2026年1月1日(木・祝)~3月22日(日)
      前期:1月1日(木・祝)~2月8日(日)
      後期:2月10日(火)~3月22日(日)
会 場   東京国立博物館 東洋館8室

※展覧会の詳細等については同館公式サイトをご覧ください⇒https://www.tnm.jp/
※東博コレクション展では個人利用に限り撮影ができます。ただし、撮影禁止マークのついている作品は、所蔵者の意向により撮影ができません。
※後期展示の作品は、主催者より広報用画像をお借りしたものです。


いつも中国書画の名品が展示されていて、中国の上海博物館に瞬間移動した気分にさせてくれる東洋館8室に入ってすぐに感じたのは、金色にきらきらと輝く華やいだ雰囲気でした。

展示風景


展示作品の解説を読んでその理由がわかりました。
文化が爛熟した明時代後期には、金による装飾を施した料紙の金箋(きんせん)や、滑らかで光沢のある絹織物の絖(ぬめ)を用いた絖本(こうほん)など、きらびやかな材質の紙・絹が好んで用いられたからなのです。

こちらは張瑞図(1570-1641)が、北宋時代に蘇軾ら16名の文化人が集った様子を描いた「西園雅集図」に米芾が題したと伝える文書を金箋12幅に書写した大作《行草書西園雅集図記軸》です。

《行草書西園雅集図記軸》張瑞図筆 明時代・17世紀
東京国立博物館蔵 前期展示


そして、縦に長い長条幅や扇面などの特徴的な形式が好まれるようになったのもこの時代で、一字一字が連続した草書体の「連綿草」やデフォルメなどによる新規な表現が独創的な様式に発展したのが明末清初でした。

高士のくつろいだ様子がなごめる扇面の作品は、張瑞図や黄道周ら明末の文人たちとの交流が知られ、日本で高く評価された王建章(生没年不詳)の《観泉図扇面》です。


《観泉図扇面》王建章筆 明~清時代・17世紀
東京国立博物館蔵(比屋根郁子氏寄贈) 前期展示


そして、これぞデフォルメの極致ともいえる作品は、詳しい一生は不明な点が多い呉彬の《渓山絶塵図軸》。奇怪な岩や山が入道雲のように湧き出てくる様子は一度見たら忘れられないほど強烈な印象です。2月25日~3月22日の期間限定展示ですのでお見逃しなく!


《渓山絶塵図軸》呉彬筆 明時代・万暦43年(1615)
個人蔵 展示期間(2/25-3/22)

明末清初の漢民族の文人たちは、明王朝の滅亡に際して自らの立場の選択を迫られました。

倪元璐(1593-1644)は、明末の農民反乱、李自成の乱のときに自ら縊死して明と運命を共にした烈士(れっし)のひとり。明末清初の連綿趣味を代表する一人でもありました。

展示風景


傅山(1607-84)は、清において官吏に推挙されても固辞したという、明への忠節を貫いた遺民(いみん)のひとりでした。傅山の書は狂逸的な連綿草と評価されていますが、《草書五言絶句四首四屛》(下の写真左の四幅 東京国立博物館蔵 前期展示)のようにここまで自由に筆を走らせていながら、破綻なくまとめるところはさすがです。
これぞ狂逸的といえる後期展示の《草書五言律詩軸》(東京国立博物館蔵)も楽しみです。

展示風景

遺民画家の立場を貫いた龔賢(1619?-89)の巨幅《山水図軸》(重要美術品 東京国立博物館蔵)は後期に展示されます。

重要美術品 《山水図軸》龔賢筆 清時代・康煕12年(1673)
東京国立博物館蔵 後期展示

そして明清の両王朝に仕えたため弐臣(じしん)として批判され、書も長らく評価されなかったのが王鐸(1592-1652)でした。

《行書五律北方俚作詩軸》王鐸筆 清時代・順治7年(1650)
東京国立博物館蔵(高島菊次郎氏寄贈) 前期展示

ほかにも明朝の遺民で王朝復興を果たせず日本に亡命して儒者として厚遇された朱舜水や、清になって初めて官僚として仕えた文人たちもいましたが、ここで頭の中に浮かんできたのは、筆者が明朝滅亡に遭遇したらどの道を選び、どのような夢を思い描いたかということでした。

文人の書斎を再現したスペースに飾られた「ラストエンペラー」宣統帝の《楷書七言聯》(前期展示)を眺めつつ、烈士となるのが潔くてもそれだけの勇気があっただろうか、遺民を貫いて清貧な生活に耐えることができただろうか、官吏に推挙されたら安定した収入を拒むことができただろうか、など頭の中で考えながら会場をあとにしました。

展示風景



台東区立書道博物館


展覧会名  東京国立博物館・台東区立書道博物館 連携企画「明末清初の書画」
      ―八大山人 生誕400年記念—
会 期   2026年1月4日(日)~3月22日(日)
      前期:1月4日(日)~2月8日(日)
      後期:2月10日(火)~3月22日(日)
会 場   台東区立書道博物館

※展覧会の詳細等については同館公式サイトをご覧ください⇒https://www.taitogeibun.net/shodou/
※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は主催者より広報用画像をお借りしたものです。

台東区立書道博物館の展示のメインテーマは、今年(2026)、生誕400年を迎えた八大山人(1626-1705)。
八大山人は明の皇族出身で、通名は朱耷。明滅亡後に出家し、50歳代なかばに還俗して故郷の江西省南昌に戻り、そのころから八大山人を名乗つて書画を売り生計を立てた遺民画家でした。
八大山人は、自由奔放な筆致で、今でいうゆるキャラのような鳥や魚を描いていますが、そこには明の皇族出身としての誇りや、異民族の清朝に対する抵抗が込められているとの指摘があります。

《乙亥画冊》には八大山人の全8図が収められています。一度に全部広げることができないので、会期中に1ページずつ展示期間を区切って展示されます。
こちらの第4図は2月3日から2月15日までの展示です。
鳥たちは上目遣いで何を見ているのでしょうか。
八大山人の置かれた立場を考えると、清朝の皇帝をはじめとした支配層を皮肉っぽく眺めているようにも見えてきます。


《乙亥画冊》 八大山人筆 清時代・康煕34年(1695)
調布市武者小路実篤記念館蔵 通期展示


今回は八大山人の特集なので、これはぜひ見たいと思っていたのが晩年の代表作《安晩帖》(泉屋博古館蔵 展示期間 2月23日~3月8日)。
2022年に開催された「泉屋博古館東京リニューアルオープン記念展Ⅲ 古美術逍遥―東洋へのまなざし」では前期に第七図(叭々鳥)、後期に第六図(鱖魚)を見ることができましたが、2025年に泉屋博古館(京都)で公開されたときには行かれなかったので、どの図が見られるのか楽しみにしています。
そして今回は明末清初の文人たちの生きざまに焦点を当てた展覧会ですので、ぜひとも遺民・八大山人の忸怩たる思いにも注目したいです。


重要文化財《安晩帖》 八大山人筆 清時代・康煕33年(1694)、
康煕41年(1702) 泉屋博古館蔵 展示期間(2/23-3/8)

こちらは八大山人が80歳で亡くなる年の書《酔翁吟巻》(泉屋博古館蔵 後期展示)。
遺民・八大山人が最後にどのような境地に達したのか、興味深く拝見したいです。


《酔翁吟巻》(部分) 八大山人筆 清時代・康煕44年(1705)
泉屋博古館蔵 後期展示

八大山人の精神は、清中期に江蘇省揚州の繁栄を背景に登場した揚州八怪に引き継がれていきました。
こちらは揚州八怪のひとり、李鱓(1686-1762?)の《風荷図軸》(大阪市立美術館蔵 後期展示)。


《風荷図軸》 李鱓筆 清時代・18世紀
大阪市立美術館蔵 後期展示

八大山人へのオマージュは、清王朝が滅び、中華民国時代になっても続きます。
清末から現代にかけて活躍した斉白石(1863-1957)は、石濤や八大山人など遺民画家の作風を継承した文人画家でした。
画面下からぬっと姿を現す蟹がとても可愛らしいです。

《蟹図軸》 斉白石筆 中華民国時代・20世紀
台東区立朝倉彫塑館蔵 通期展示


台東区立書道博物館2階一番奥の中村不折記念室には、明末清初から揚州八怪、さらには中華民国時代までの書画が並んで展示されています。

以前、呉昌碩や斉白石の絵を見て、中国ではいつからこんなに自由に描くようになったのだろうと驚いたことがあったのですが、17世紀から20世紀までの中国書画が並んで展示されるのを見て、明末清初から現代まで続く自由な画風の流れがあることがよくわかりました。

最後にご紹介するのは、後期に中村不折記念室に展示される、明朝の忠臣・黄道周(1585-1646)の《山水図軸》(京都国立博物館蔵 後期展示)。
前面に描かれた大きな松の木が印象的です。
黄道周は明が滅んだ後も福王や唐王を立てて明王朝復興を目指しましたが、清軍に捕らえられ刑死した烈士でした。


《山水図軸》 黄道周筆 明時代・崇禎8年(1635)
京都国立博物館蔵 後期展示

会期は3月22日(日)までですが、前期は2月8日(日)までです。
展示期間限定の作品もあるので、展示リストをチェックして、激動の時代の中国書画の名品の数々と文人たちの生きざまをぜひご覧いただきたいです。