2026年8月12日水曜日

大倉集古館 企画展「祈りと救いの美 ——国宝 普賢菩薩騎象像との出会い」

東京・虎ノ門の大倉集古館では、企画展「祈りと救いの美 ―—国宝 普賢菩薩騎象像との出会い」が開催されています。

大倉集古館外観

今回の企画展では、大倉集古館の設立者で、さまざまな近代事業を展開した大実業家、大倉喜八郎氏(1837-1928)が、明治期の廃仏毀釈による寺院の荒廃、仏教美術品の散逸や海外流出を憂い、それらを含む日本・東洋の古美術品の収集・保護に努めたコレクションの中から、仏教美術の名品の数々が見られる展覧会です。
そして、東京都内には「銅造釈迦如来倚像」(深大寺蔵)と合わせて2点しかない国宝の仏像の一つで、大倉集古館が所蔵する「普賢菩薩騎象像」にも久しぶりに対面することができます。

先日さっそくおうかがいしてきましたので、展覧会の様子をご紹介したいと思います。


展覧会開催概要


会 期  2026年7月28日(火)~9月27日(日)
     前期:7月28日(火)~8月30日(日)
     後期:9月1日(火)~9月27日(日)
     *展示替あり
会館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日  毎週月曜日(休日の場合は翌火曜日)
入館料  一般 1,000円、大学生・高校生 800円※学生証をご提示ください。
     中学生以下無料
展覧会の詳細、ギャラリートークなどのイベント、各種割引等は同館公式サイトをご覧ください⇒https://www.shukokan.org/     

展示構成
 1章 経典と仏教伝来
 2章 釈迦如来とその弟子
 3章 極楽浄土と地獄
 4章 法華経信仰と普賢菩薩
 5章 密教
 6章 神仏習合

※今回の企画展ではすべての展示作品の撮影ができます。撮影の注意事項は会場内でご確認ください。
※本稿では後期展示の作品の写真も掲載していますが、これは主催者より広報用画像をお借りしたものです。

いつもおだやかな表情で私たちをお出迎えしてくれる重要文化財「如来立像」も今回は撮影可です。

重要文化財「如来立像」中国・北魏時代 5世紀末~6世紀初
大倉集古館蔵 通期展示


1章 経典と仏教伝来

冒頭からとても貴重な作品が展示されていました。なんと「世界最古の印刷物」!
それは、奈良時代の宝亀元年(770)、称徳天皇が鎮護国家のために「三重小塔百万基」を製作して、その中に陀羅尼(経文)を納め、大安寺、元興寺、興福寺、薬師寺、西大寺、東大寺、法隆寺、弘福寺、四天王寺、崇福寺の十大寺にそれぞれ安置を命じた「百萬塔陀羅尼 附属 百萬塔」。この陀羅尼は現存する印刷物としては刊行年代が明確な世界最古の印刷物といわれているのです。
「百萬塔陀羅尼 附属 百萬塔」奈良時代・8世紀 特種東海製紙蔵


紀元前5世紀から4世紀のインドで釈迦(ゴータマ・シッダールタ)によって始められた仏教が日本に初めて伝わったのは538年(あるいは552年)といわれ、その後、587年に蘇我馬子とともに排仏派の物部守屋を倒した聖徳太子(厩戸王)が仏教を広めたことはよく知られています。

重要美術品「聖徳太子勝鬘経講讃図」は、推古天皇14年(606)7月、35歳の聖徳太子(厩戸王)が天皇に命じられて『勝鬘経』を講じたという故事が描かれ、蘇我馬子や、遣隋使として隋に2回派遣された小野妹子らの姿も見えます。

右 重要美術品「聖徳太子勝鬘経講讃図」鎌倉~南北朝時代・14世紀
左 「釈迦三尊十大弟子像」南北朝時代・14世紀
どちらも大倉集古館蔵 通期展示

2章 釈迦如来とその弟子

釈迦の命により、釈迦の没後にこの世にとどまり、釈迦の仏法を守り、人々を救済するように遺言を託された16人の弟子たち(阿羅漢)がずらりと並ぶ様は壮観の一言です(全16幅のうち、前期後期で8幅ずつ展示)。

重要美術品「十六羅漢像」16幅 鎌倉時代・14世紀
大倉集古館蔵 (前期:第1~8尊者、後期:第9~16尊者) 

各幅に一人ずつ描かれた阿羅漢のもとには、仏教に帰依する人物や動物が描かれているのですが、筆者のお気に入りは上の写真左から2幅目の龍。たいていは空を舞う勇壮な姿で描かれる龍がおとなしくしている様子がとても可愛らしく感じられるのです。

釈迦入滅の場面が描かれた重要美術品「仏涅槃図」は大作です。(下の写真右)
画面右上の飛雲に乗った仏母摩耶夫人の一行、画面中央に横たわる釈迦を取り囲む仏弟子や菩薩、そしてその外側の動物たちの嘆き悲しむ様子を細部まで見ているといつの間にか時間が経ってしまいます。

「2章 釈迦如来とその弟子」展示風景

3章 極楽浄土と地獄

「浄土」とは仏が住む世界のことで様々な浄土がありますが、平安時代以降の日本人にとって浄土といえば阿弥陀如来の西方極楽浄土のことで、阿弥陀如来が極楽浄土へ迎えるために今わの際の者のもとに飛来する「来迎図」が好んで描かれました。


右から 「当麻曼荼羅」南北朝~室町時代・14~15世紀 通期展示
「阿弥陀三尊来迎図」鎌倉~南北朝時代・14世紀 前期展示
重要美術品「山越阿弥陀図」冷泉為恭 江戸時代・文久3年(1863) 通期展示
いずれも大倉集古館蔵 

中でもひときわ目を引いたのは、令和に入って描かれたのではと思えるくらい鮮やかな色彩が残っている重要美術品「山越阿弥陀図」でした。(上の写真左)
それでも作者を見て納得。幕末期に活躍した復古大和絵派の絵師・冷泉為恭でした。
鮮やかな色彩の阿弥陀如来が、自然の情感豊かなやまと絵の山水景の中から現れる様は為恭ならでは。
為恭は「春日権現霊験記」(現在は宮内庁三の丸尚蔵館蔵、国宝)を模写するなど古典作品を精力的に研究していましたが、それがあだになってしまいました。
「伴大納言絵巻」(現在は出光美術館蔵)の閲覧許可を得るため小浜藩主・酒井忠義に近づいたことが佐幕派とみなされ、尊王攘夷派の長州藩士に惨殺されてしまったのです。


極楽浄土を描いた仏画がある一方で、この世で悪行をはたらけば死後に地獄へ行き責め苦を受けるという教えを説いたのが地獄図絵でした。
ぎょろっとした目でにらみつける閻魔王の表情も、生前の悪行が映る鏡もこわいので、きっと誰もが地獄へは行きたくないと思ったことでしょう。

重要美術品「探幽縮図 地獄十王図巻(部分、閻魔王)2巻の内」 狩野探幽
 江戸時代・17世紀 大倉集古館蔵 後期展示



4章 法華経信仰と普賢菩薩

いよいよ国宝「普賢菩薩騎象像」の登場です。
昨年(2025年)4月には大阪市立美術館で開催された「日本国宝展」でお目にかかっていますが、大倉集古館で拝見するのはいつ以来でしょうか。なんともいえないなつかしさがこみ上げてきました。

国宝「普賢菩薩騎象像」 平安時代・12世紀 大倉集古館蔵
通期展示

そして、今回は360度どこからでも拝むことができるので、背面に回って普賢菩薩の着衣の赤や緑の彩色の上に残っている截金(きりかね)文様を見ることができます。(どの部分に残っているかは、後方のパネルで紹介されています。)
さらに新たな「発見」もありました。
今回特に感じたのは、足を踏ん張って懸命に普賢菩薩を支えているどっしりとした象の重量感でした(象なので重量感があるのは当然のことなのかもしれませんが)。そして口の中の舌にも初めて気がつきましたが、舌のなめらかさはどうやって出したのだろうと思ったほど、当時の仏師の腕前のすごさに驚かされました。


平清盛が平家一門の繁栄を祈願して厳島神社に奉納した国宝「平家納経」(厳島神社蔵)を、日本美術研究家、日本画家、書家、料紙製作者という多くの肩書を持つ田中親美が制作した模本も展示されています。
模本とはいえ本物さながらの出来栄えなので、原本が持つ料紙のきらびやかさはもちろん、『法華経』を信じる人たちの信仰心の深さが伝わってくるようでした。

「4章 法華経信仰と普賢菩薩」展示風景


5章 密教

密教では、修法に用いるために、密教の最高尊、大日如来を中心に仏・菩薩などを体系的に配置した両界曼荼羅(金剛界曼荼羅、胎蔵界曼荼羅)が数多く制作されました。
2幅対の「金胎両界大日如来像」(大倉集古館蔵 通期展示、下の写真右)は、両界曼荼羅から金剛界と胎蔵界のそれぞれの大日如来の姿を取り出して描いたものです。

「5章 密教」展示風景

前期には大日如来の化身ともいわれる不動明王が二童子をしたがえた「不動明王二童子像」、無尽蔵の知恵と福徳をつかさどる「虚空蔵菩薩像」、金剛界の大日如来が姿を変えて現れたものとされる大勝金剛が描かれた重要美術品「大勝金剛像」が展示されています。(いずれも大倉集古館蔵)
どれも密教美術の名品なのですが、なかでも重要美術品「大勝金剛像」の着衣や台座の蓮弁に見られる墨の濃淡による陰影のつけ方があまりにも絶妙なので、思わず見入ってしまいまいした。

重要美術品「大勝金剛像」鎌倉~南北朝時代・13~14世紀
大倉集古館蔵 前期展示

後期には、重要美術品「愛染明王像」、重要文化財「一字金輪像」(どちらも大倉集古館蔵)が展示されます。
下の写真は、重要文化財「一字金輪像」ですが、着衣の文様がとても細かく描かれているので、ぜひ近くでじっくりと拝見したいです。

重要文化財「一字金輪像」鎌倉時代・13世紀
大倉集古館 後期展示


6章 神仏習合

飛鳥時代に日本に伝わった仏教は、日本の在来信仰である神道と結びつき、平安時代後期には、日本の神々は仏教の仏菩薩が衆生を救済するために姿を変えて現れたとする本地垂迹説が生まれました。


「6章 神仏習合」展示風景

ここでも真新しく感じられる冷泉為恭の作品に巡り合うことができました。

重要美術品「仏頂尊勝陀羅尼神明仏陀降臨曼荼羅図」冷泉為恭
江戸時代・文久3年(1863) 大倉集古館蔵 前期展示

この作品は為恭が死の直前に天台僧・願海の求めに応じて描いたもので、右側から日本の神々、左側から仏菩薩の計33体が降臨するさまが描かれた大作です。神々や仏菩薩がそれぞれの特徴をとらえていて、とても厳かな雰囲気が感じられる名品です。
これだけの画才のある絵師が41歳という若さで亡くなったことが惜しまれます。

後期には、石清水八幡宮の景観を描いた宮曼荼羅、重要文化財「石清水八幡曼荼羅」が展示されます。今回が修理後、初公開なのでこちらも楽しみです。
なお、本地垂迹説では、仏菩薩は本来の姿(本地)、神は仮の姿(垂迹)とみなされ、石清水八幡宮の本地仏は阿弥陀如来が当てられていました。

重要文化財「石清水八幡曼荼羅図」鎌倉時代・13世紀
大倉集古館蔵 後期展示


国宝「普賢菩薩騎象像」をはじめ、大倉集古館が誇る仏教美術の名品が展示されているので、展示室内はとても落ち着いた雰囲気で、展示室内をめぐっているうちに自然と心がなごんでくるように感じられました。
暑い日々が続きますが、都会の喧騒からいったん離れて、祈りと救いの美の静謐な世界を体験してみませんか。おすすめの展覧会です。



【展覧会図録のご紹介】
 こちらは昨年11月から今年1月まで大倉集古館で開催された企画展「人々を援け寄り添う 神と仏—道釈人物画の世界」の展覧会図録で、その時に購入したものですが、今回の企画展での展示作品もいくつか掲載されています。
 地下1階のミュージアムショップで販売していますので、ぜひお手に取ってご覧ください。こちらもおすすめです。



2026年8月7日金曜日

特別展「東京都美術館開館100周年記念 大英博物館日本美術コレクション 百花繚乱~海を越えた江戸絵画」

 東京・上野公園の東京都美術館では、特別展「東京都美術館開館100周年記念 大英博物館日本美術コレクション 百花繚乱~海を越えた江戸絵画」が開催されています。

フォトスポット


現在の東京都美術館が1926(大正15)年5月、東京府美術館として開館してから今年(2026年)でちょうど100年目を迎えたことを記念して、今年1月から始まった開館100周年記念特別展は、今回が第3弾。
今回の特別展は、世界を代表するミュージアムのひとつである大英博物館から日本美術コレクションの至宝が厳選されて来日した、まさに百花繚乱、超豪華な内容の展覧会です。

開幕を前に開催された報道内覧会に参加しましたので、さっそく展覧会の様子をご紹介したいと思います。


展覧会概要


展覧会名:東京都美術館開館100周年記念
     大英博物館日本美術コレクション 百花繚乱~海を越えた江戸絵画
会  場:東京都美術館(東京・上野公園)
会  期:2026年7月25日(土)~10月18日(日)
開室時間:9:30~17:30 ※金曜日は20:00まで ※入室は閉室の30分前まで
休 室 日  :月曜日、10月13日(火)
     ※ただし8月10日(月)、9月21日(月・祝)、10月12日(月・祝)は開室
展覧会公式サイト⇒https://daiei-ten2026.exhibit.jp

※展示室内は一部を除き撮影禁止です。掲載した写真は、報道内覧会で美術館より許可を得て撮影したものです。

展示構成
 プロローグ 大英博物館と「日本」をつないだ貢献者たち
 第1章 花開く江戸絵画
 第2章 浮世絵―—江戸の「いま」を映す万華鏡
 


※「大英博物館日本美術コレクション」展 会場写真

展示室に入ってすぐに見えてくるのは、円柱が立ち並ぶ重厚なしつらえ。
いきなり欧米の美術館に迷い込んだ気分にさせてくれますが、こういった雰囲気の中で見る葛飾北斎の代表作《「冨嶽三十六景 凱風快晴」》をはじめとした江戸絵画は、まるで海外で懐かしい人に会ったような格別な味わいがあります。

※「大英博物館日本美術コレクション」展 会場写真
中央が葛飾北斎《「冨嶽三十六景 凱風快晴」》天保元~4年(1830-1833)頃 大英博物館蔵

日本史に出てくる有名な歴史上の人物も登場します。
円柱の間からのぞく《聖徳太子像》と《源頼朝像》は、どちらも室町時代の作品で、作者は不詳です。
一瞬、「なぜ源頼朝像がロンドンに!?」と思いましたが、やはり京都・神護寺が所蔵する国宝《伝源頼朝像》に拠って制作されたと考えられていのでした。

右 作者不詳《源頼朝像》室町時代(14世紀後半)
左 作者不詳《聖徳太子像》室町時代(14世紀)
どちらも大英博物館蔵


明治維新後に離れ離れになって、約150年ぶりに奇跡の再会を果たしたことが大きな話題になった襖絵が見えてきました。


左から 狩野宗眼重信《秋冬花鳥図襖》大英博物館蔵、《春景花鳥図襖》個人蔵
どちらも桃山時代末~江戸時代初(17世紀初)


《秋冬花鳥図襖》、《春景花鳥図襖》をはじめとした襖絵は、17世紀初め(桃山時代末~江戸時代初)、奈良・談山神社(幕末までは妙楽寺)の重要な建物(竹林坊学頭屋敷)のために狩野宗眼重信によって描かれたと伝えられ、明治の神仏分離・廃仏毀釈のあおりで、1870(明治3)年頃、談山神社を離れ、売りに出されたと考えられています。
そして時を経て2024(令和6)年、現在はイギリス・ロンドンの大英博物館にある《秋冬花鳥図襖》と、日本・青森県中泊町の旧家・宮越家が所蔵する《春景花鳥図襖》が、一連のものであることが判明したのでした。

展示方法にもこだわりが見られました。
二つの襖絵は、学頭屋敷の花鳥間では、上の写真のように直角に並んでいたのでした。つまり手前のスペースが花鳥間ということですね。

展示のこだわりはそれだけではありませんでした。
《春景花鳥図襖》の反対側に回ると、《春景花鳥図襖》と表裏をなしている《名所風俗図襖(三保松原・清見寺)》の雄大な景色を見ることができます。

狩野宗眼重信《名所風俗図襖(三保松原・清見寺)》桃山時代末~江戸時代初(17世紀初)
個人蔵


さらに驚くべきことに、《秋冬花鳥図襖》の反対面に描かれていた《琴棋書画仙人図襖》はシアトル美術館が所蔵していて、このたびはるばる太平洋を渡って、かつてのように《秋冬花鳥図襖》の反対側に展示されているのでした。

狩野宗眼重信《琴棋書画仙人図襖》桃山時代末~江戸時代初(17世紀初)
シアトル美術館蔵

もともと奈良にあった狩野派の襖絵がイギリス、アメリカ、青森に分かれ、それが今、東京でおよそ150年ぶりに再会するという、まさに奇跡の場面をぜひお楽しみいただきたいです。


ほかにもイギリスからの初里帰り作品などが多数来日しています。

円山応挙《虎の子渡し図屛風》は、下村観山や今村紫紅をはじめ近代日本画家を支援し、自らも美術品コレクターだった横浜の実業家・原三溪の旧蔵品。
関東大震災をきっかけに多くのコレクションを手放し、甚大な被害を受けた横浜の復興に尽力した三溪の旧蔵品が海外にまで出て、ロンドンで大切にされていたのでした。

円山応挙《虎の子渡し図屛風》天明元~2年(1781-1782) 大英博物館蔵


英国の王子(のちの国王)と近代日本画家との共作というとても珍しい作品も初来日です。


英国ジョージ王子(のちの国王ジョージ5世)、久保田米僊《蛍図》
明治14年(1881)11月5日 大英博物館蔵



ここまで大英博物館の江戸絵画コレクションのすごさには驚かされてばっかりでしたが、浮世絵コレクションの豊富さも、これまたすごいです。



※「大英博物館日本美術コレクション」展 会場写真


いまや「世界の北斎」となった葛飾北斎をはじめ、鈴木春信、鳥居清長、喜多川歌麿、東洲斎写楽、初代歌川豊国、歌川広重、歌川国芳といった八大絵師ほか、コレクションの多さにも圧倒されますが、珍しい作品も楽しめました。

葛飾北斎でいえば、出版されなかった北斎の版下絵がその一つ。

※「大英博物館日本美術コレクション」展 会場写真


歌川広重のエリアでは、バージョンの違う日本橋が展示されています。

※「大英博物館日本美術コレクション」展 会場写真


そして、広重のスケッチブックも。
写生から広重のイマジネーションが広がって作品につながっていく過程がよく伝わってきます。

※「大英博物館日本美術コレクション」展 会場写真


ゴッホが模写したことでも知られる《「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」》は、対岸の船が省略されていない初摺の本版でした。以前、東京藝術大学大学美術館所蔵のバージョンを見て以来、久しぶりに対面することができたのがうれしかったです。

歌川広重《「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」》安政4年(1857)9月
大英博物館蔵


2000年代以降に大英博物館が新たに収蔵した傑作も来日しています。
大英博物館では、50点ほどしか現存していない喜多川歌麿の肉筆画のうち11点も所蔵していて、《文読む遊女》のように、これだけ大ぶりの作品はとても珍しいものなのです。

  
喜多川歌麿《文読む遊女》文化元~3年(1804-1806) 大英博物館蔵



会場内の特設ショップには、展示作品をモチーフにしたコラボグッズやオリジナルグッズが盛りだくさん。どれもほしいものばかりで迷ってしまいます。

特設ショップ



大英博物館が誇る4万点に及ぶ日本コレクションから厳選された江戸時代の屛風、掛軸、絵巻、浮世絵版画などの優品をフルカラーで掲載して、作品解説に加えて、論考、コラムも数多く収録した図録は、華やかで読み応えがあります。

展覧会図録


大英博物館では、日本美術のコーナーで定期的に展示替えを行っているとのこと。
世界中から多くの方が訪れる大英博物館で日本美術の素晴らしさを発信しているコレクションが里帰りしたこの機会に、名品の数々をぜひご覧いただきたいです。
おすすめの展覧会です。

2026年8月6日木曜日

東京国立博物館 弘法大師生誕1250年記念 特別展「空海と真言の名宝」 

東京・上野公園の東京国立博物館では、弘法大師生誕1250年記念 特別展「空海と真言の名宝」が開催されています。




今回の特別展は、空海ゆかりの名宝や密教美術の名品、真言宗各派の秘仏をはじめ、真言宗各派総大本山会(各山会)所属の十八本山をはじめ関係寺院が所蔵する国宝15件、重要文化財60件を含む88件の至宝が一堂に会した見どころ満載の展覧会です。
開幕前に開催された報道内覧会に参加してきましたので、展覧会の様子をさっそくご紹介したいと思います。

※真言宗各派総大本山会(各山会)所属の十八本山
 長谷寺、仁和寺、寳山寺、智積院、朝護孫子寺、勧修寺、大覚寺、醍醐寺、根来寺、
 中山寺、金剛峯寺、西大寺、教王護国寺[東寺]、清荒神清澄寺、泉涌寺、善通寺、
 須磨寺、随心院

展覧会開催概要

会 期  2026年7月14日(火)~9月6日(日)
     *会期中、一部作品の展示替えあり。
休館日  月曜日(ただし、8月31日(月)は本展のみ開館(東博コレクション展は休館。
     8月10日(月)は本展は休館(東博コレクション展のみ開館)。)
観覧料金 一般 2,300円、大学生1,300円、高校生 900円
     (注)中学生以下、障がい者とその介護者一名は無料。入館の際に学生証、障がい  
        者手帳等の提示が必要。
      
展覧会の詳細等については展覧会公式サイトをご覧ください⇒https://tsumugu.yomiuri.co.jp/kukai2026/

※展示室内は一部を除き撮影不可です。掲載した写真は報道内覧会で主催者の許可を得て撮影したものです。

展示構成
 第一章 空海と真言密教
 第二章 後七日御修法の世界
 第三章 真言宗各派の名宝
 第四章 真言宗各派の彫刻と秘仏


第一章 空海と真言密教


唐で密教を学び、それを体系的に日本にもたらした弘法大師空海(774-835)が、「真言密教は非常に難しいので言葉だけでは伝わらない。造形の力で教えの真髄を説く。」と言っているように、真言密教の仏画や仏像を前にすると、視覚的に強く訴えてくるものが感じられます。


弘法大師生誕1250年記念 特別展「空海と真言の名宝」 東京国立博物館 2026年 展示風景


赤々と燃え上がる炎の中、目を大きく見開き、忿怒の形相で威圧するのは、京都・醍醐寺が所蔵する国宝《五大尊像》。
不動、降三世、軍荼利、大威徳、金剛夜叉の五大明王が一幅ずつ描かれ、国家の安寧を祈る仁王経法や、息災、増益、調伏のために行われる五壇法の本尊として用いられた《五大尊像》は、この迫力なら魔物も逃げてしまうだろうという圧倒的な説得力があります。


国宝《五大尊像》のうち〈不動明王〉(右)、〈降三世明王〉
鎌倉時代 12~13世紀 京都・醍醐寺 前期展示(7/14-8/9)
後期(8/11-9/6)には〈軍荼利明王〉〈大威徳明王〉〈金剛夜叉明王〉
が展示されます。


弘法大師生誕1250年記念 特別展「空海と真言の名宝」 東京国立博物館 2026年 展示風景


続いて注目したいのは、墨の線だけで描かれた白描の密教図像。
仏様の姿・形を描いたものを図像といいますが、それぞれの仏様の形、手の形(印相(いんそう))、手に持つもの(持物(じもつ))など、文字で説明されているものを形にしているため間違って伝えられることも避けられるので、密教寺院ではとても大切にされてきました。


《十二天図像》のうち(右から)〈伊舎那天〉〈帝釈天〉〈火天〉〈閻魔天〉
〈羅刹天〉〈水天〉鎌倉時代・13世紀 京都・醍醐寺 前期展示(7/14-8/9)
後期(8/11-9/6)には〈風天〉〈毘沙門天〉〈梵天〉〈地天〉〈日天〉〈月天〉
が展示されます。

第二章 後七日御修法の世界


照明を落とした厳かな雰囲気の空間が見えてきました。
ここでは一般には公開されることがない後七日御修法の様子が再現されています。

※後七日御修法(ごしちにちみしほ)
1月8日~14日までの7日間、京都・教王護国寺[東寺]灌頂院で鎮護国家、五穀豊穣、玉体安穏などを願い、各山会各派の山主らによって営まれる真言宗最高の法会。一般には非公開。


弘法大師生誕1250年記念 特別展「空海と真言の名宝」 東京国立博物館 2026年 展示風景



上の写真手前は、かつて内裏の仁寿殿で行われ、のちに清涼殿の二間で行われた後七日御修法のうち観音供(かんのんぐ)の本尊として用いられていたことから「二間観音」と呼ばれていた秘仏、聖観音菩薩・梵天・帝釈天立像で、この三尊の組合せはとても珍しく、ほかに類例がないものです。
また、この三尊は儀式の際も写真奥の厨子に安置されていますが、今回は特別に厨子からお出ましになっていただきました。中央の聖観音菩薩立像でも高さ約25cmの小さな像ですが、希少材であるビャクダン製の本体表面にほどこされた截金文様や、台座の色彩、金属製の精緻な光背や装身具など、当時の工人たちの技術の粋を前からも左右からも後ろからも見ることができます。

重要文化財《聖観音菩薩・梵天・帝釈天立像(二間観音)》鎌倉時代・13世紀
京都・教王護国寺[東寺] 通期展示




第三章 真言宗各派の名宝

 
第三章には、真言宗各派の寺院が誇るゆかりの名宝のうち、書画や工芸を中心に展示されています。

弘法大師生誕1250年記念 特別展「空海と真言の名宝」 東京国立博物館 2026年 展示風景


ここで信貴山朝護孫子寺の僧・命蓮の奇跡のエピソードが描かれた国宝《信貴山縁起絵巻》に久しぶりにめぐり合えたのはうれしかったです。
三巻構成の絵巻のうち、前期(7/14-8/9)には、命蓮が信貴山から鉢を飛ばして托鉢していたところ、これを渋った長者の米倉を飛行させた場面が描かれた「飛倉巻」、後期(8/11-9/6)には、延喜帝(醍醐天皇)の病を、命蓮が信貴山から剣護法を遣わして癒した「延喜加持巻」が展示されます。

国宝《信貴山縁起絵巻》 「飛倉巻」 平安時代・12世紀
奈良・朝護孫子寺 前期展示(7/14-8/9)
後期(8/11-9/6)には「延喜加持巻」が展示されます。

上の写真左奥に展示されているのは同じく奈良・朝護孫子寺が所蔵する《金銅鉢》です。
鉢は僧侶が托鉢の際に用いる道具で、この《金銅鉢》は聖徳太子の宝前に施入したもので、聖徳太子創建との伝承がある朝護孫子寺における太子信仰を象徴する貴重な作品です。

なお、この《金銅鉢》は命蓮の持ち物と混同されていた時期もあったそうです。
現在のドローンのように空を飛んだ鉢ではありませんが、このように関連作品が並んで展示されていると、国宝《信貴山縁起絵巻》のイメージがふくらむのでとてもありがたいです。

《金銅鉢》平安時代・延長7年(929) 奈良・朝護孫子寺
通期展示



第四章 真言宗各派の彫刻と秘仏


第四章には、奈良時代の古仏から、初期密教の魅力を伝える傑作や、普段は姿を見ることができない「秘仏」まで、真言宗各派に受け継がれてきた仏像の名品が一堂に会しています。

会場内には梁や柱が設置されていて、まるで寺院のお堂に入ったようなしつらえになっています。仏教がテーマの展覧会なので、実はこのように臨場感のある展示を期待していたのですが、まさに期待どおり。
この雰囲気を満喫しながら仏様たちを拝むことができました。

弘法大師生誕1250年記念 特別展「空海と真言の名宝」 東京国立博物館 2026年 展示風景


第一章では、掛軸の《五大尊像》を拝見しましたが、こちらは彫刻の五大明王像。
東寺や高野山で修行を重ねた密教僧の湛海が数え73歳という、当時としてはかなり高齢になって制作したとは思えない迫力が感じられます。
閉じていた厨子がそーっと開いて五大明王が現れる場面を見てみたくなりました。

重要文化財《厨子入五大明王像》湛海作 江戸時代・元禄14年(1701)
奈良・寳山寺


2mを超える巨像で、頭部が大きく圧倒的な存在感のある重要文化財《十一面観音菩薩立像》は、33年に一度開帳される秘仏。展覧会にお出ましになる機会もあまりないので、ぜひこの機会にご覧いただきたいです。

重要文化財《十一面観音菩薩立像》平安時代・9~10世紀
三重・観菩提寺 通期展示

弘法大師生誕1250年記念 特別展「空海と真言の名宝」 東京国立博物館 2026年 展示風景



最後のエリアに展示されている、国宝《五智如来坐像》(京都・安祥寺)と重要文化財《愛染明王坐像》(山梨・放光寺)は写真撮影ができます。
その場で撮影の注意事項をご確認ください。

顔の前で弓矢を構え、天を射るかのような姿から「天弓愛染明王」と呼ばれる重要文化財《愛染明王坐像》は、絵画で描かれることはあっても、彫像としてはとても珍しい例なのです。

重要文化財《愛染明王坐像》平安時代・12世紀
山梨・放光寺 通期展示


そして最後は、初期密教彫刻の傑作、国宝《五智如来坐像》(京都・安祥寺)。
みなさまとてもおだやかで可愛らしいお顔をしています。

国宝《五智如来坐像》平安時代・9世紀 京都・安祥寺 通期展示

仏像は、寺院では正面からしか拝むことができないことが多いのですが、今回はぐるりと後ろまで回ってどの角度からでも見ることができるのです。

このように横から見ると、正面から見たときには感じなかったのですが、私たちと一緒に前に向かって進んでいるように思えました。

国宝《五智如来坐像》平安時代・9世紀 京都・安祥寺 通期展示


特設ミュージアムショップには、展示作品をモチーフにしたオリジナルグッズやコラボグッズが盛りだくさん。

特設ミュージアムショップ


豊富なカラー図版と作品解説をはじめ、後七日御修法の特別な写真や通常公開されない秘仏など、今回の特別展の魅力を余すところなく収めた公式図録もおすすめです。

展覧会公式図録



展示替えがありますが、会期中88件の作品が展示されます。
暑い日が続いていますが、展示室内は快適です。この機会に霊場めぐりにちなんで88件の名宝、名品をめぐる旅を体験してみませんか。