2022年2月23日水曜日

SOMPO美術館「FACE展2022」

 東京・新宿のSOMPO美術館では「FACE展2022」が開催されています。

SOMPO美術館外観


今回で10回目を迎えた「FACE展2022」は、新館移転後2回目の開催。

会場には、1142点の出品作品の中から審査員の審査によって選ばれた入選作83点が展示されていて、「年齢・所属を問わず、真に力がある作品」を公募する展覧会なので、年齢層も幅広く、写実的な作品も、抽象画もあって、技法や素材も、油彩、水彩、岩絵具、アクリル、さらにはアルミ箔やマスキングテープまであって、多士済々、多種多様。

ジャンルにとらわれないバリエーションに富んだ作品が見られる楽しみがありますし、会期中、観覧者投票による「オーディエンス賞」の選出が行われるので、自分の「お気に入りの1点」を探しながら展示作品を見ることができるのもFACE展の大きな楽しみの一つです。


展覧会概要


会 期  2022年2月19日(土)~3月13日(日)
休館日  月曜日
開館時間 午前10時~午後6時(最終入館は午後5時30分まで)
観覧料  700円(高校生以下無料)
展覧会の詳細は同館公式サイトをご覧ください⇒https://www.sompo-museum.org/

※本展覧会は展示室内での作品撮影が可能です。

展示会場は5階から、4階、3階と回っていきます。

5階の展示室に入って正面に展示されているのは、今回のメインビジュアルになっているグランプリ受賞作、新藤杏子《Farewell》。入選作83点の頂点に立つ作品です。
(ほかに優秀賞3点、読売新聞社賞1点、審査員特別賞4点が選出されています。)



グランプリ 新藤杏子《Farewell》

湖に映る自分の姿に見とれているところはギリシャ神話のナルキッソスを思い浮かべますが、作者の方の制作の動機は・・・
ぜひ無料音声ガイドでお聞きください。
※無料音声ガイドはArtstickerアプリをスマートフォンにダウンロードして利用するので、スマートフォンとイヤホンをご用意ください。

展示室内を順不同にご紹介していきますが、冒頭でふれたとおり、展示室内は一つのジャンルにとらわれない力作の数々でいっぱい。

同じ傾向の作品がまとまって展示されているわけではないでしょうが、メルヘンチックな作品があったり、

展示風景




画面いっぱいにいろいろなものが描き込まれている作品があったり、

展示風景


本物の質感そのままのパンや、モノクロ写真と見紛うばかりの写実的な作品があったりして、まさに多種多様。

展示風景


「名作」と評価の定まった作品なら、自分もそれを見たら名作と思わなくては、といったプレッシャーがありますが、「自分がいいと思った作品が名作だ。」と純粋にアートを楽める気楽さがあるところがこの展覧会の良さなのです。

ある作品の前で足が止まりました。

優秀賞 大山智子《AMAKUSA》

写実的でなく、そしてあまりに抽象的でない、ちょうどいいくらい抽象化された天草五橋の様子を俯瞰的に描いた作品です。
優秀賞を受賞していますが、私が審査員だとしてもこの作品を推すだろうと思いました。
(この展覧会では自分が審査員になったつもりで作品を見ることだってできるのです!)

こちらは、一面赤い布で覆われたかのように見える作品(下の写真左)。

左 山中眞理《RED(赤べこ考-Ⅰ)》
右 吉川智章《塗装工-労働と生産における自由意思》 

近くで見てもまるで染織が貼られているようなのですが、実はキャンパスに油彩で描いたものなのです。制作は根気との勝負だったのではないでしょうか。

上の写真右は升目で区切られた中に異なる色彩が塗られている作品ですが、黄色い升目は実はマスキングテープ。
マスキングテープは、色が塗られないように貼って、あとではがすものなのですが、この作品でははがさないで枠としてそのまま残しているのです。
きっと作品のタイトルと関係があるのでしょう。

作品はまだまだ続きますが、ここで私の「お気に入りの1点」をご紹介したいと思います。

5階から3階まで会場内を何回も回って悩みましたが、それはアルミ箔がいい具合に光っていて、どことなく神秘的な雰囲気が感じられるこの作品です。

櫻井あすみ《insert》


3階展示室の後半には、SOMPO美術館の華ともいうべきファン・ゴッホの《ひまわり》はじめ同館コレクションの代表的な作品が展示されています。

同館コレクションの中心となっている東郷青児作品。

東郷青児作品展示風景


上の写真一番左の《超現実派の散歩》はSOMPO美術館のロゴになっている作品です。

東郷青児《超現実派の散歩》

アメリカの素朴派画家グランマ・モーゼスのほのぼのした作品。

グランマ・モーゼス作品展示風景


そして最後はやはりこちら。

ファン・ゴッホ《ひまわり》

ゴッホが描いた花瓶のひまわり7点(うち1点は太平洋戦争中の空襲で焼失した「芦屋のひまわり」)のうちの1点を国内で見られる幸せを感じながら美術館をあとにします。
(《ひまわり》は撮影できますが、自分を入れた記念撮影は禁止です。)

会期は3月13日(日)までで短いのでお見逃しなく!

2022年2月21日月曜日

山種美術館「上村松園・松篁-美人画と花鳥画の世界-」

 東京・広尾の山種美術館では、「上村松園・松篁-美人画と花鳥画の世界ー」が開催されています。
1年間続いた同館開館55周年記念特別展のフィナーレを飾る今回は、春の訪れを迎えるのにふさわしい、美人画と花鳥画の世界が広がる華やいだ雰囲気の展覧会です。


展覧会チラシ



展覧会概要


会 期   2022年2月5日(土)~4月17日(日)
開館時間  午前10時~午後5時(入館は閉館の30分前まで)
休館日   月曜日(3/21(月)は開館、3/22(火)は休館)
入館料   一般 1300円、中学生以下 無料(付添者の同伴が必要)
      春の学割 大学生・高校生 500円※本展に限り、特別に入館料が通常1000円の
      ところ半額になります。
      ※他にも割引・特典があります。入館日時のオンライン予約も可能です。
       オンライン展覧会などの各種イベントも開催されますので、詳細は同館公式
       Webサイトをご覧ください⇒http://www.yamatane-museum.jp/

展示構成
 第1章 上村松園と美人画
 第2章 上村松篁と花鳥画

※展示室内は次の1点を除き撮影不可です。掲載した写真はプレス内覧会で美術館より特別に許可をいただいて撮影したものです。
※掲載した作品は、すべて山種美術館所蔵です。

今回の展覧会で撮影可の作品は、上村松園《娘》です。

上村松園《娘》1942(昭和17)年

それではさっそく各章ごとに見どころをご紹介したいと思います。


第1章 上村松園と美人画


見どころ1 山種コレクションの松園作品全18点が勢ぞろい!

第1章展示風景

最初にお出迎えしてくれるのは、今の季節らしい上村松園《春のよそをひ》(1936(昭和11)年頃)。

前半は山種コレクションの松園作品が続きます。
どれも名作ばかりなのですが、私にとって特に興味深いのは、松園作品18点の制作年が一つの時代に集中しているのでなく、大正時代から昭和初期、戦中、戦後まで幅広い年代に渡っているので、時代ごとの作品の雰囲気の違いが感じとれることです。

中でも特にぐっと心に迫ってくるのが《牡丹雪》。

この作品は、1944(昭和19)年7月に開催された芸術院会員陸軍献納画展に出品されたもので、どんよりと曇った空の下、和傘に積もった雪の重さに耐え、前かがみになって歩く二人の女性が描かれています。
前を歩く女性の視線は下の方に向けられ、着物の裾を上げているので、かなり歩きにくそう。後ろからついてくる女性は不安げに来た道を振り返っているようです。

上村松園《牡丹雪》1944(昭和19)年

「献納画展」ですので、国民の戦意高揚や戦費ねん出のために開催された展覧会でしたが、勇ましい戦争の場面でなく、戦局が悪化して、生活物資もままならなくなった重苦しの時期に、それでも前を向いて歩かなくてはならない人たちの心情を描いたのではと想像してみたくなる作品です。

一方で、同じ雪の場面の作品でも、明るい表情で庭に降る雪をながめる女性が描かれた《庭の雪》(1948(昭和23)年)からは、ようやく日本に平和が訪れてホッとしたような雰囲気が感じられてきます。

山種美術館発行の図録小冊子『山種美術館の上村松園』の表紙を飾るのも《庭の雪》。

山種美術館発行『山種美術館の上村松園』
価格 税込550円

山種コレクションの松園作品18点すべてがカラー写真で紹介されています。
松園の略年譜も掲載されているので、松園の画業をコンパクトに知ることがでる、松園ファン必携の一冊です(私も今回も購入しました)。
今回展の入場券とのお得なセット券(税込 1,700円)も販売中です!


見どころ2 美人画の名手たちの作品の競演が見られる!

第1章の後半では、「西の松園、東の清方」と称された鏑木清方はじめ、近代日本画界の個性豊かな美人画の競演が楽しめます。

こちらは松園とほぼ同時代に活躍した画家たちの軸装の美人画。

右から 伊藤小坡《虫売り》(1932(昭和7)年)
松岡映丘《斎宮の女御》(1929-32(昭和4-7)年頃)
小早川清《美人詠歌図》(20世紀(昭和時代))

こちらは昭和後期の美人画。
住まいが洋室化してどの家にも床の間があるということがなくなったためでしょうか、洋室に合う額装の作品が多くなります。それに着ているのは和服ですが、色遣いが鮮やかなので洋室にも映えそうです。

右から 片岡球子《むすめ》(1974(昭和49)年)
森田曠平《百萬》(1986(昭和61)年)
橋本明治《秋意》(1976(昭和51)年)


こうして多くの画家の美人画を見ていると、「私が描く女性の顔はこれです。」と主張しているかのようで、それぞれ特長のある女性の顔が描かれているのにあらためて気が付きました。

松園作品18点と松園以外の画家12人の作品22点が展示されている第1章は、同じ美人画でも、年代や画家によって違いを楽しむことができる展示になっています。


第2章 上村松篁と花鳥画


見どころ1 松篁・淳之親子の花鳥画はカワイイ!

今回の展覧会では、山種コレクションの松篁作品も全9点見ることができます。

特に第2展示室は松篁作品6点だけの松篁ワールド。

上村松篁《白孔雀》(1973(昭和48)年)
© Atsushi Uemura 2021 /JAA2100291


淳之画伯によると、父・松篁の奈良のアトリエ「唳禽荘」には、小鳥や雉子類、鶴、雁・鴨類、さらには白孔雀まで放し飼いにされていたとのことです。

毒蛇を退治するといわれた孔雀は密教の孔雀明王に見られるように神格化されていて、《白孔雀》からも厳かさが感じられますが、顔の表情を見ると、そこには飼い主の慈しみがひしひしと感じられるのです。

そして、鳥たちの鳴き声という意味をもつ「唳禽荘」に住まわれ、現在も活躍中の淳之画伯の作品《白い雁》も、月夜に飛ぶ二羽の雁を描いた幻想的な作品で、それだけでもとてもいい雰囲気なのですが、雁のつぶらな瞳を見ると、さらに魅力的に感じられる作品なのです。


上村淳之《白い雁》(1974(昭和49)年)
© Atsushi Uemura 2021 /JAA2100291


上村松篁・淳之親子のカワイイ花鳥画をぜひお楽しみください!


見どころ2 カワイイのは花や鳥だけではなかった!

カワイイ鳥たちにすっかり魅了されてしまいましたが、カワイイのは鳥だけではありません。

今回の展示作品の中で、一番意外だったのはこの作品。
確かに桜の花が描かれていますが、そこにいるのは俵屋宗達のように「たらしこみ」で描かれた犬!

奥村土牛《戌》(1982(昭和57)年)

打席でストレートを待っていたら変化球が来たので全く手が出なかった、といった状況でしばらく思考が止まりましたが、これもカワイイので心がなごむいい作品です。

他に鯉や狐もいるので、ぜひなごみながらご覧ください。


ミュージアムショップもカフェも充実してます!


今回も展覧会にちなんだオリジナルグッズが充実しています。
今回特におススメしたいのは、上村松園《庭の雪》のピンバッジ(税込770円)。
服やバッグのワンポイントのおしゃれにいかがでしょうか。



他にもA4クリアファイル(税込385円)、一筆箋(税込418円)といった実用的なものもありますし、飲んだ後の缶は小物入れとしても使える山種オリジナルお茶缶(税込1,080円 自然栽培で育てた健一自然農園の煎茶ティーバッグ8袋入り)はおうちでのくつろいだティータイムにぴったりです。


山種美術館のもう一つの楽しみは、展覧会に合わせたオリジナル和菓子。
抹茶とのセットで1,200円(税込)。
どれも美味しそうですが、胡麻入りこしあんが少し顔を出している「誰が袖」(下の写真左上)に惹かれます。


上の写真、右上から時計回りに、「雪輪(庭の雪)」、「春のかぜ(春風)」、「雪の日(牡丹雪)」、「誰が袖(春芳)」、中央が「花のいろ(春のよそをひ)」。
(カッコ内はモチーフにした上村松園の作品で、いずれも山種美術館蔵)。


展覧会は4月17日(日)まで開催されます。

今回の展覧会は、山種コレクションの上村松園、松篁、淳之、親子三代の全作品が一挙公開されるという初めての機会です。

まだまだコロナ禍が続いていますが、美人画でうっとりして、花鳥画でなごんで心安らぐ時を山種美術館でぜひお過ごしください。

2022年2月13日日曜日

大倉集古館「季節をめぐり、自然と遊ぶ~花鳥・山水の世界~」

桜や秋の草花、可愛らしい鳥たち、そしてゆったりとした山水の世界。
都会の喧騒を忘れさせてくれる、落ち着いた雰囲気の展覧会が東京・虎ノ門の大倉集古館で開催されています。

大倉集古館外観



展覧会概要


会 期   2022年1月18日(火)~3月27日(日)
     (前期(~2/20)と後期(2/22~)で巻替えのある作品があります。)
開館時間  10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日   毎週月曜日(祝日の場合は翌火曜日)
入館料   一般:1,000円
      大学生・高校生:800円※学生証をご提示ください
      中学生以下:無料
      ※各種割引料金は、下記、同館公式サイトの「利用案内」をご覧ください。
主 催   公益財団法人 大倉文化財団・大倉集古館

※ギャラリートーク(事前申込制、先着順)も開催されます。展覧会の詳細等は同館公式サイトでご確認ください⇒大倉集古館公式サイト


展覧会チラシ


展示構成
 第1章 和の世界~春と秋の造形~
  1 春-桜を愛でる
  2 秋-吉祥の造形
  3 秋-悲哀の季節
 第2章 漢の世界~水墨の花鳥山水~
  1 東洋蘭の世界
  2 中国の花と鳥
  3 春の訪れを知らせる花-梅
  4 山水に季節に観る
  5 山水に集う人々-漁師と飲茶
  6 光と大気を表現する

開幕から少し時間がたってしまいましたが、先日展覧会におうかがいしてきましたので、さっそく展示室内の様子をご案内したいと思います。

※展示室内は撮影禁止です。掲載した作品の写真は主催者より特別にお借りしたものです。
※展示作品はすべて大倉集古館所蔵です。


一足早くお花見気分


和歌や物語を背景とした「和」の世界の作品が楽しめる「第1章 和の世界~春と秋の造形~」で最初に目に入ってくるのは、大きな6曲1双の屏風《桜に杉図屏風》(桃山時代・16世紀)。



《桜に杉図屏風》(右隻)(桃山時代・16世紀)


《桜に杉図屏風》(左隻)(桃山時代・16世紀)

右隻の手前には大きな土堤(どは)が描かれていますが、これは木々の姿が遠く見える工夫とのこと。
まだまだ寒い日が続いていますが、この展覧会の会期末近くには出されそうな桜の開花宣言に先がけて、満開の桜の雄大なパノラマを楽しむことができます。

そして小さい桜の作品にも注目です。
《吉野山蒔絵五重硯箱》(江戸時代~明治・19世紀)(展覧会チラシの左上の小さい箱)には吉野山に咲く満開の桜と、そして山肌には散った桜の花びらが積もった様子も表現されているので、ぜひお近くじっくりご覧ください。



蘭は徳のある人の象徴



「第2章 漢の世界~中国の花鳥・山水~」では水墨画や漢詩の作品を中心とした「漢」の世界の花鳥・山水を描いた作品が展示されています。

最初にご紹介するのは、京都の建仁寺、南禅寺の住持をつとめた臨済宗の僧、玉畹梵芳(1348~1414-?)が描いた《墨蘭図》。 
《墨蘭図》玉畹梵芳筆、
室町時代・15世紀

中国では、草花や動物にそれぞれ意味が込められていて、蘭は徳のある人物の象徴。
《墨蘭図》の下の方にはとげのある茨(いばら)が描かれていますが、茨は小人物の象徴。
野原の風景を描いているようで、実はこの作品には、小人物がいる中でも徳のある人を目指しなさいというメッセージが込められているようにも思えました。
(「とげのある茨」でなく「徳のある人」になるよう努力しなくては!)。



続いては、金箋(細かい粒子状の金箔が散らしてある加工紙)の上に色鮮やな花鳥が描かれた《清朝名人便面集珍》のうちの李之洪(生没年不明)筆〈梅椿に白頭翁図〉。

《清朝名人便面集珍》のうち〈梅椿に白頭翁図〉
李之洪筆
中国明~清時代・18世紀

春の訪れを告げる梅と椿、そしてお互いに呼ぶ声が聞こえてきそうなつがいの小鳥たちが描かれた、ほのぼのとした作品ですが、頭の白いつがいの鳥は老人や長寿を表す白頭翁(シロガシラ)なので、この作品には老夫婦の長寿を願う思いが込められているのです。
そう思うと、さらにほのぼのとした気分になってきませんでしょうか。

《清朝名人便面集珍》は、清末の官吏 徐郙が所蔵した扇面16面をまとめたもので、今回は〈梅椿に白頭翁図〉を含め4面が展示されています。

中国絵画の中では《花鳥草虫図巻》(潘崇寧(生没年不明)筆 中国・清時代・康熙56年(1717年) 巻替えあり)にも注目したいです。
色とりどりの花が咲いて、そのまわりを蝶が飛んで、枝には雀が止まって、そこまではのどかな景色なのですが、花のまわりに集まるのはおびただしい数の蜂の大群!
刺されたらアナフィラキシーショックになってしまいそう。

中国絵画では、例えば「鹿」と「禄(=給料」)」など、縁起のいい文字と同音の動物が描かれることが多くありますが、雀や蜂にも意味があって、それぞれ同音の「爵(=爵位)」、「封(=土地)」を表すものなのです。
(なぜ蜂の大群が描かれているのかよくわかりました。)

猫が蝶を目で追いかける絵も中国では好んで描かれますが、これは猫と蝶がそれぞれ「耄(もう)」と「耋(てつ)」に通じて、「耄耋(=老年)」を願っている絵なので、蝶も吉祥をあらわしているのです。


文人画で高士気分


エアコンや扇風機などなかった江戸時代の人たちは暑さをしのぐため様々な工夫をしました。
それも今から見るととても優雅な工夫に思えます。

こちらの作品は、煎茶道の中心人物で、江戸後期の儒学者、漢詩人として知られた頼山陽(1781~1832)の書(右)と、同じく江戸後期の陶工で文人画家の青木木米(1767~1833)の画(左)。

山の中腹には滝を見ながら煎茶を楽しむ人たち、そしてさらに下の方には道に腰かけて滝を眺める高士の姿も見えます。

この作品を前にすると、俗世間から離れて山林などに隠れ住んだ高士たちの気分を一瞬でも味わうことができたような気がしてきました。

《五言絶句・山中煎茶図》
(書)頼山陽筆 (画)青木木米筆
江戸時代・文政7年(1824)


最後にご紹介するのは、江戸時代初期に狩野一門を率いた狩野探幽(1602~74)の《瀟湘八景図》。

若い頃は、京都・二条城の障壁画に見られるように、祖父の狩野永徳ばりの大胆な絵を描いた探幽ですが、晩年の「枯れた」趣きの出てきた探幽もいい味出しています。


《瀟湘八景図》狩野探幽筆
江戸時代・寛文5年(1665)


中国・江南地方、洞庭湖周辺の風光明媚な景色を描いた《瀟湘八景図》は、中国の画僧 牧谿のものがよく知られていますが、こちらは一枚の絵の中に八つの景色が盛り込まれた贅沢な内容の作品です。
そのうえ画面全体に牧谿作と同じようにふわ~っとした空気感が感じられるので、自宅に床の間があったら飾ってみたくなる一品です。


展示を見終わったとき、コロナ禍が猛威を振るう不安定な今だからこそ、心が安らかになる空間に身を置けることはとても貴重な機会であるように感じられました。

紹介した作品以外にも大倉集古館所蔵の珠玉の名品が展示されています。
この春おススメの展覧会です。ぜひご覧ください。