2017年4月29日土曜日

山種美術館「企画展 花*Flower*華-琳派から現代へー」

山種美術館で開催中の「企画展 花*Flower*華 -琳派から現代へー」特別内覧会に参加してきました。

会場内は四季折々の花でいっぱい。鳥を描いた作品もあって、とてもにぎやか。
春らしい、華やいだ雰囲気の展覧会です。
みなさんもぜひこの機会に山種美術館を訪れて、春を満喫してみてはいかがでしょうか。

さて、どれだけ楽しい展覧会かは、ご覧になってのお楽しみですが、ここで少しだけ展覧会の様子を紹介させていただきます。

特別内覧会では、はじめに山種美術館の山崎館長から歓迎のご挨拶がありました。

○ 昨年度の1年間は開館50周年特別展を開催して、今回の企画展が51年目の新しいス
 タート。今回は春らしく鈴木其一《四季花鳥図》や奥村土牛《醍醐》はじめ花をテーマ
 にした企画展です。
○ 昨年秋からの試みですが、写真撮影可の作品もあります。今回は酒井抱一《月梅図》
 です。

酒井抱一《月梅図》
○ 1階の「Cafe椿」では、作品をイメージした和菓子を販売しています。5月4日、5日
 には端午の節句限定の和菓子も販売しています。
 (鈴木其一《牡丹図》をモチーフにした「華の王」(下の写真右上)をいただきました。
 ピンク色が春らしくてとても上品な甘さです。)



端午の節句限定の和菓子


続いて山種美術館顧問・明治学院大学教授の山下裕二さんから、スライドで各章ごとに作品の解説をしていただきながら、今回の展覧会の見どころをご紹介いただきました。

第1章 春ー芽吹き

 
左から渡辺省亭《桜に雀》、横山大観《山桜》、千住博《夜桜》
この章は春らしく桜を描いた作品が並んでいます。
はじめに渡辺省亭《桜に雀》。
「日本画家で初めて渡欧したのが渡辺省亭。最近注目度が上がってきて、つい先日も京橋の加島美術や東京国立博物館、松岡美術館、山種美術館などで一斉に省亭の作品が展示されました。何年か後には省亭展を開催したいと考えていてますがどこの美術館とはまだ言えません(笑)。」と山下さん。

第2章 夏ー輝く生命

「速水御舟《和蘭陀菊図》は幾何学的に描いています。結城素明《躑躅百合》は素明らしく精緻に丁寧に描いています。」
「小林古径《白華小禽》は花のまわりに陰影をつけています。これは大正時代に流行したものですが、この作品は昭和10年に描かれているのが興味深いところです。」

左から速水御舟《和蘭陀菊図》、結城素明《躑躅百合》、小林古径《蓮》《白華小禽》 

第3章 秋ー移ろう季節

「抱一の《菊小禽図》には文人・亀田綾瀬(かめだりょうらい)の賛があります。他にも同じ亀田綾瀬の賛のある抱一の作品が細見美術館やファインバーグコレクションにありますが、もともとは12か月花鳥図か、六曲一双の屏風に貼り付けたものだったのかもしれません。」
「木村武山は院展の実力者でしたが、横山大観、菱田春草、下村観山の陰に隠れて目立たない存在です。画廊でもかわいそうなくらい安い価格で売りに出されてます(笑)。」
「速水御舟《桔梗》は、根元の方がたらしこみを使った水墨、根元から上が着色というおもしろい取り合わせになっています。」
左から酒井抱一《秋草図》《菊小禽図》、木村武山《秋色》、速水御舟《桔梗》
第4章 冬ー厳寒から再び春へ

「横山大観《寒椿》は金地の上に描かれていますが、画面右上の竹が下書きと違うところに描かれています。体調でも悪かったのでしょうか。大観というと巨匠というイメージがありますが、これは「情けない大観」です(笑)。ただこういう大観も人間味があって好きですが。」
「小茂田青樹《水仙》は大正時代に描かれたもので、水仙には小林古径《白華小禽》のところでお話しした陰影がほどこされています。陰影をつけることはもともと京都から来たものです。」
横山大観《寒椿》(左)、小茂田青樹《水仙》
「酒井抱一《月梅図》は修復してきれいになりました。この複雑な枝ぶりを見てください。私は伊藤若冲の影響があったのでないかと思っています。抱一と若冲の関係はこれからの研究課題ではないでしょうか。」
「作者不詳《竹垣紅白梅椿図》は今回の展示作品では最も古く、17世紀にさかのぼるものです。右隻は水平を意識した構図、左隻は斜めを意識した構図で、リズミカルで画面を大きくトリミングしているところなど尾形光琳《燕子花図屏風》(根津美術館蔵)を思い浮べますが、もちろん光琳の方が後なのでこの作品が光琳に影響を与えたのでしょう。」
作者不詳《竹垣紅白梅椿図(部分)》[重要美術品](左)、酒井抱一《月梅図》(右)
続いて特集の「花のユートピア」と「百花の王・牡丹」へ。

「花のユートピア」
「酒井鶯蒲《紅白蓮・白藤・夕もみぢ図》は今回の修復で裏打ちをはずしたとき、紅葉を描いた左幅の左下に鶯蒲の落款を消した痕跡があることがわかりました。
この作品は本阿弥光悦の孫、本阿弥光甫の作品を模写したものなので、あえて落款を消したのではないでしょうか。」

酒井鶯蒲《白藤・紅白蓮・夕もみぢ図》(左の三幅)、山元春挙《春秋草花》(右の二幅)

続いて「魅惑の華・牡丹」。第2会場は牡丹の部屋です。

「鈴木其一《牡丹図》は一見中国絵画のようですが、伝趙昌《牡丹図》(宮内庁三の丸尚蔵館)に倣ったものではと考えられることが本展の担当学芸員の方により指摘されました。日本と中国の絵画でここまで構図が同じ作品が見つかるのはそうはないことで、研究論文ものの発見だと思います。」
「渡辺省亭《牡丹に蝶図》は咲いている牡丹との対比で左上に枯れかけた牡丹も描かれていて、花びらが散っているところが見られます。右の落款も散らし書きになっていてとても粋です。」
鈴木其一《牡丹図》(左)、渡辺省亭《牡丹に蝶図》(右)


このあと展示会場に移り山崎館長のギャラリートークをおうかがいしました。

会場入口に飾られているのは小林古径《菖蒲》。
「この作品は古径が院展に出した最後の作品で、愛蔵の古伊万里の壺との取り合わせで描いています。」と山崎館長。

小林古径《菖蒲》
「奥村土牛は小林古径の内弟子で、古径の七回忌を営んだ奈良・薬師寺に行ったあと醍醐寺に寄って、その時に見た桜を描いたのが《醍醐》です。薄い色を何回も重ねる土牛らしく、桜の花は薄いピンク色で何度も塗り重ねているので、近くでご覧になってください。」

奥村土牛《醍醐》の前で気さくに撮影に応じていただいた山崎館長



「鈴木其一《四季花鳥図》は、正方形に近い二隻の屏風で、右隻に春夏の花、左隻に秋冬の花を描いています。抱一や其一はとても素晴らしい高価な絵の具を使っているので、色がとても鮮やかに残っています。」
(「六曲でなく二曲の屏風は琳派ならでは。抒情的な抱一に対して、其一は冷徹で人工的、まるでCGのよう。右隻の朝顔も単一の色でべたっと描いています。」と山下さん)

鈴木其一《四季花鳥図》


「今回の展覧会のポスターになったのが田能村直入《百花》。この作品は明治2年に描かれ
 たもので、描かれた花の種類を当館で調べたのですが、本当に百種類ありました。」
田能村直入《百花》

「《竹垣紅白梅椿図》には多くの種類の鳥が描かれていますが、鳴くところ、食べるところなど鳥の生態がよく描かれているところが興味深いです。」
作者不詳《竹垣紅白梅椿図(部分)》[重要美術品](左)、酒井抱一《月梅図》(右)(再掲)


5月13日(土)に開催される武蔵野美術大学教授・玉蟲敏子さんの講演会はすでに定員に達したため募集締切とのことですが、別の日には学芸員の方のギャラリートークもありますので、こちらに参加してみてはいかがでしょうか。
やはり専門の方の解説をおうかがいすると、作品の味わいも深まりまります。

ギャラリートークの日程は山種美術館公式サイトをご覧ください。

山種美術館ギャラリートーク

展覧会の概要についてはこちらをご参照ください。6月18日(日)までです。

山種美術館「花*Flower*華ー琳派から現代へー」

また、ミュージアムショップでは展覧会に合わせて、図録『山種コレクション 花の絵画名品集』が発売されています。

※掲載した作品は渡辺省亭《牡丹に蝶図》を除き山種美術館蔵で、掲載した写真は山種美術館の特別の許可を得て撮影したものです。

次回の展覧会は「【特別展】没後50年記念 川端龍子ー超ド級の日本画ー」です。
7月8日(土)には山下裕二さんの講演会も予定されています。
「今では忘れられかけた画家の一人。名前は「タツコ」と読まれるといけないのでポスターには大きく「RYUSHI」と書きました(笑)。」と山下さん。

こちらの展覧会も今から楽しみです。
詳細は山種美術館公式サイトをご覧ください。

【特別展】没後50年記念 川端龍子ー超ド級の日本画ー



2017年4月19日水曜日

静嘉堂文庫美術館「挿絵本の楽しみ~響き合う文字と絵の世界~」トークショー&ブロガー内覧会

4月16日(日)の午後、静嘉堂文庫美術館「挿絵本の楽しみ~響き合う文字と絵の世界~」トークショー&ブロガー内覧会に参加してきました。



「挿絵」とは「文章の間にはさみこまれた絵」。
主体は文章で、挿絵はそれに付随するもの。
はじめはそう思っていましたが、会場内の展示作品を見て考えが変わりました。
「挿絵」そのものがしっかりと自己主張しているのです。

さっそく展示作品の紹介に入りたいところですが、その前に「挿絵本の楽しみ」について、とても参考になるお話をおうかがいできたトークショーから紹介したいと思います。

「挿絵本の楽しみ」トークショー
  ゲスト:永青文庫 副館長  橋本麻里さん
  出演:静嘉堂文庫美術館館長 河野元昭さん
     静嘉堂文庫 司書   成澤麻子さん
  ナビゲーター:青い日記帳  Takさん(中村剛士さん)

はじめに、今回の展覧会を担当された司書の成澤さんから。
 ○ 今回の展覧会を企画するきっかけは、ある作家がインタビューで「(連載小説で)
  挿絵を見てストーリーを変えることがある」と発言されていたのを読んで、「挿絵
  とは何か」と興味をもったこと。
  
続いて橋本さん。
 ○ 現在サントリー美術館で開催中の「絵巻マニア列伝」と比較して展示作品を拝見し
  た。挿絵本と絵巻は、その形態も、目的も、対象とする読者も違う。
   絵巻は個人が楽しむもので、作品は手書きなので一点しかないが、挿絵本は実用的
   で、木版刷りなので多くの人を対象としている。

さらに成澤さん。
 ○ 絵巻物は見て楽しいもの。今回の展覧会では第Ⅴ章がそれに近い。
 ○ 挿絵本の歴史を振り返ってみると、中国では明の時代から物語に絵が入ってきた。
  中国は文字の国なので、それ以前は文字に絵を入れるのに抵抗感があったのかもし
  れない。
 ○ それが変わるきっかけは、宋代に本格化した科挙。貴族だけでなく庶民の若者も
  受験できるようになったが、宮廷での礼儀作法など、庶民では文字だけでは理解で
  きないので、科挙の受験参考書に挿絵を入れるようになった。
 ○ そういった科挙受験者の切実な需要があったから、明代に入って爆発的に絵入りの
  参考書が広まり、それと同時に文字に絵を入れる抵抗感も薄れてきたのではないか。
 ○ さらに明代は経済的にも発展したので、木版を作るための版代、木版を彫る職人
  や摺る職人への手間賃を払えるだけの財力をもった人が出てきたことも挿絵本の発
  展の背景にある。

受験参考書に関連してTakさん。
 ○ 最近では、萌え系のイラストが入っている受験参考書が書店にずらりと並んでい
  て驚かさせれる。(受験生をひき付けるには萌え系も必要かも)

そして河野館長。
 ○ 中国の美術と日本の美術を比較すると、中国の美術が日本に入ってきて、それが
  日本化するというパターンが挿絵本にもあてはまる。
   中国では「絵従文主(絵が従で文章が主)」であったが、日本では中国より早い動き
  で「絵主文従」になり、それが錦絵や浮世絵に発展していった。
   そういった意味で、会場に入ってすぐの作品が歌川国貞の錦絵(「新版錦絵当世美人
  合」)というのはとてもいい配置。

橋本さん
 ○ 展示を見て、「本草図譜」をはじめとした博物図譜の印象が強かった。江戸の博物
  学は素晴らしい。「本草図譜」は持って帰りたいくらい(笑)。

河野館長
 ○ 18世紀は実証主義の時代。日本では博物学や本草学が発展した。
  ちょうどそのころ出てきた伊藤若冲の絵は、もちろん彼のイマジネーションで描い
  ているが、博物学が背景にある。
   昨年、サントリー美術館で開催された秋田蘭画も、背景には博物学がある。
 ○ 今回の展覧会のサブタイトルは「響き合う文字と絵の世界」。江戸中期に流行した
  文人画は、当時、まず賛を読んでから絵を見るようにと言われていたが、現代人に
  は読みづらい。そこで、「おしゃべり館長による戯訳」を作ってみたので参照いた
  だきたい。
  (「おしゃべり館長による戯訳」は受付でいただくことができます。賛が現代語訳に 
   なっていて、とてもわかりやすいです。)
 ○ 静嘉堂文庫に所蔵されている古典籍は約20万冊で、内訳は漢籍が12万冊、和書が8
  万冊。その中から楽しい本が選ばれているので、一人でも多くの人に見ていただきた
  い。

約1時間の楽しいトークショーの後は、成澤さんの解説によるギャラリートーク。
展示は、会場入口の「錦絵の中の文字」に始まり5つの章に分かれています。

「新版錦絵当世美人合」の「粂三きどり」(右)と「杜若きどり」(左)

Ⅰ 神仏をめぐる挿絵
 『妙法蓮華経変相図』は「法華経」を絵解きしたもので、仏さんたちも人物もユルキャラ系のお顔でとても親しみがもてます。本邦初公開。ぜひアップで細部までじっくりご覧になってください。

Ⅱ 辞書・参考書をめぐる挿絵
 トークショーで成澤さんが解説されていた科挙の参考書がずらり。当時の科挙受験者たちの受験勉強の過酷さがしのばれます。



Ⅲ 解説する挿絵
この章は博物学のコーナー。
右が和時計やからくり人形の仕組みを図説した「機巧図彙」、左がトークショーで話題になった「本草図譜」。色が鮮やかです。


大ファンの賢江祥啓の「巣雪斎図」にも久しぶりにお目にかかることができました。
室町時代に流行した詩画軸(詩と山水画が描かれた掛軸)はこの作品を含めて3点。詩画軸の世界も「響き合う文字と絵の世界」の一部を構成しています。
掛軸に書かれた賛の意味は「おしゃべり館長による戯訳」をご参照ください。

賢江祥啓「巣雪斎図」(左)

重要文化財 渡辺崋山「芸妓図」

Ⅳ 記録する挿絵
こちらは、紀行文や、期せずして漂流した人たちの漂流記のコーナー、江戸時代後期に太平洋を渡ってメキシコまで漂流した人がいたとは。その上、綿密な記録を残していたとは。驚きです。

「環海異聞」

「亜墨新話(初太郎漂流記)」


Ⅴ 物語る挿絵
こちらのコーナーには、伊勢物語や御伽草子などを題材にした絵巻や絵本が並んでいます。



こちらは明代に製作された挿絵本。
「この時代一ミリの幅に5~6本の線を彫るという高度な技術をもった職人の技がいました。その技術が日本に渡って錦絵につながっています」と成澤さん。


そして伊勢物語にちなんだ工芸品も展示されています。
これ単なる印籠ではありません。よく見ると開かれた状態の伊勢物語の本が描かれていて、もちろんそこには挿絵が!。



一つ一つの作品を、細部までじっくり見れば見るほどその作品のすばらしさ、おもしろさがわかる、とても味わい深い展覧会です。
これからは講演会も、河野館長の「おしゃべりトーク」も、列品解説も予定されています。解説を聴けばより一層、作品の味わいが深まります。
詳細は公式サイトをご参照ください。

静嘉堂文庫美術館

売店では「挿絵本の楽しみ」の小冊子も販売しています。
文庫本サイズで、とてもコンパクトなので展覧会の思い出を持ち帰るのにちょうどいいです。




※掲載した写真は、美術館より特別に撮影の許可をいただいたものです。