2022年3月19日土曜日

Bunkamura ザ・ミュージアム「ミロ展-日本を夢みて」

 東京・渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムでは「ミロ展ー日本を夢みて」が開催されています。


会場外のフォトスポット



スペイン・カタルーニャ地方のバルセロナで生まれた大芸術家、ジュアン・ミロ(1893-1983)は日本でもよく知られていて、丸や線がカラフルに描かれた作品を思い浮かべる方も多いかと思いますが、会場外のフォトスポットの写真は、なぜか大きな狸の置物と並んだミロ。

一瞬、「あれっ?」と思われるかもしれませんが、展覧会のサブタイトルをもう一度見て納得。

日本を夢みて

そうなんです。
今回のミロ展は、ミロと日本との深~い関係に焦点を当てた展覧会なのです。

とても面白そうな展覧会のなので、さっそく先日開催されたブロガー内覧会に参加した時の様子をご紹介したいと思います。


開催概要


会 場  Bunkamura ザ・ミュージアム(東京・渋谷)
開催期間 2022年2月11日(金・祝)~4月17日(日)
     ※2/15(火)、3/22(火)は休館
開館時間 10:00~18:00(入館は17:30まで)
     毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)
 ※金・土の夜間開館については、状況により変更になる可能性もあります。
入館料  一般 1,800円 大学・高校生 1,000円 中学・小学生 700円
 ※会期中すべての土日祝及び4月11日(月)~4月17日(日)は事前に【オンラインによる入場日時予約】が必要です。
最新情報などの詳細は展覧会公式サイトでご確認ください⇒ミロ展-日本を夢みて

展覧会チラシ

展示構成
 Ⅰ 日本好きのミロ
 Ⅱ 画家ミロの歩み
 Ⅲ 描くことと書くこと
 Ⅳ 日本を夢みて
 Ⅴ 二度の来日
 Ⅵ ミロのなかの日本
 ミロのアトリエから

※展示室内は下記の場合を除き撮影禁止です。掲載した写真は、本展主催者の許可を得て撮影したものです。
【3月平日限定】会場内の撮影可能!(3/31まで)
 3/10(木)~3/31(木)の平日に限り会場内の作品を撮影することができます。
 ※撮影可能作品は一部になります。
 ※混雑時には撮影可能作品を変更する場合があります。
 ※撮影には注意事項があります。会場内の掲示をご確認ください。


見どころ1 ミロの「日本美術愛」がよくわかる!


国内では2002年に開催されて以来、20年ぶりに開催されるミロ展。
この間、以前から日本美術の影響について語られていたミロについて、実際にはどのような影響を受けていたのか本格的な研究が進み、今回の展覧会は、そういった研究の成果として、日本美術に対する愛情を感じ取ることができることが大きな見どころの一つなのです。

まずはいきなりクライマックスの「青い部屋」から見ていきましょう。

 どちらもジュアン・ミロ
右《絵画(カタツムリ、女、花、星)》
国立ソフィア王妃芸術センター、マドリード
左 《ゴシック聖堂でオルガン演奏を聞いている踊り子》
福岡市美術館

どちらもいかにもミロらしく、人や動物などが抽象的に描かれ、画面全体に踊るようにリズミカルに配置されている作品ですが、右の作品《絵画(カタツムリ、女、花、星)》をよく見てみると、絵の中に書かれたフランス語の文字も違和感なく作品に溶け込んでいるのがわかります。

このような文字と絵画が同じ画面に描かれている作品から連想されるのは、画面の下半分に水墨の山水画を描き、上半分には漢詩の賛を書き入れる「詩画軸」。
室町時代の禅僧の間で広まった詩画軸は、もとは中国の書画一致の思想から来たもので、この《絵画(カタツムリ、女、花、星)》は、詩画軸のミロ流の解釈だったのです。

(この作品は56年ぶりの来日。もしかしたら見られるのは一生に一度のチャンスかもしれません。)

そして、上の写真左の作品《ゴシック聖堂でオルガン演奏を聞いている踊り子》の背景は、西洋絵画では背景として使われることがあまりない黒色で塗られています。
日本では、水墨画のように黒と白だけで表現されるもあるように、ここでも日本美術からの影響が見られるのです。

ということは、この二つの作品は和室の床の間にかけても意外と斬新で似合うかもしれません。
(もしミロが「寿庵(ジュアン)」という茶室を造ったら、室内に飾ったかも?)

そしてもう一つミロの「日本美術愛」が感じられる展示をご紹介します。

展示風景

中央には焼き物の大きな壺、そして右の展示ケース内の掛軸はなんと大津絵!
まるで「民藝展」を見ているようですが、中央の大きな壺は、ミロの友人で、民藝運動を主導した柳宗悦や濱田庄司とも交流のあった陶芸家・アルティガスとミロの共作で、ミロの友人を介した民藝運動への関心の高さがうかがえます。


見どころ2 ミロの画業の流れがよく分かる!


ミロの作品はほぼ制作年代順に展示されているので、ミロの画業の流れがよく分かる展示構成になっています。
(各章ごとに壁の色に変化をつけているのでわかりやすく、色合いも落ち着いているのでとてもいい雰囲気です。)

初期には、のちの作品に比べて比較的絵具の厚塗り感が感じられる作品を描いていました。

展示風景

それがだんだんとミロらしさが出てきて、

展示風景

いかにもミロらしい作風になって、

展示風景


そして最後には晩年の作品群。

展示風景

初期の作品も、説明がなければミロの作品とは分からないかもしれませんが、晩年にはこういった、まるで水墨画のようなモノトーンの世界を描いていたのです。

さらにミロは巻物の作品も制作しています。
上の写真中央のケースにはその名もずばり《マキモノ》(町田市立国際版画美術館)が展示されています。


こちらはミロのアトリエの風景。
手前に展示されているのはミロの蔵書です。
蔵書の中には、江戸時代後期の禅僧画家で、ユーモアに富んだ作品を描いた仙厓の画集や、書道の本、さらには岡倉覚三(天心)の『茶の本』のカタルーニャ語訳があって、ミロの画風の変遷への「日本の美」の影響の大きさを垣間見ることができました。


展示風景



見どころ3 スペイン、ニューヨーク、そして国内各地からミロの作品が渋谷に大集結!


コロナ禍で、国境を越えた人やモノの移動が難しい中ではありますが、地元スペインやアメリカのニューヨーク近代美術館から作品が来日しています。

展示会場に入ってすぐにお出迎えしてくれるのは、ニューヨークから来日した《アンリク・クリストフル・リカルの肖像》。


ジュアン・ミロ《アンリク・クリストフル・リカルの肖像》
ニューヨーク近代美術館


縞模様のシャツに目を奪われがちですが、背景の右半分には浮世絵がコラージュされています。
この作品は、ミロが20歳代半ば頃に描いた作品で、折からのジャポニズム・ブームの中、ミロは浮世絵、特に葛飾北斎を敬愛していたのです。


そして、国内各地からもミロの作品が大集結しています。

こちらは、富山県美術館が所蔵する《絵画(パイプを吸う男)》。

ジュアン・ミロ《絵画(パイプを吸う男)》
富山県美術館


2020年11月から開催された、国内有数の20世紀西洋絵画コレクションを所蔵する横浜美術館、愛知県美術館、富山県美術館の3館がコラボした「トライアローグ展」を思い出しましたが、それにしてもこれだけ多くのミロの作品が日本にあるとは知りませんでした。

会期は4月17日(日)までなので、すぐに終わってしまいます。

ただし、Bunkamura ザ・ミュージアムは月曜休館ではありません。これからの休館日は3月22日(火)のみ。
毎週金・土は夜間開館も実施していますので、ご都合のよい日時にぜひお越しください!

充実のラインナップのミュージアムグッズも待ってます!

ミュージアムショップ風景




2022年3月18日金曜日

東京国立博物館 特別展「空也上人と六波羅蜜寺」

平安時代中期に京都に蔓延した疫病を鎮めるため民衆に尽くされた空也上人の没後1050年に当たる今年(2022年)、六波羅蜜寺の貴重な寺宝の多くとともに、重要文化財《空也上人立像》が半世紀ぶりに京都から東京にお越しになりました。


展覧会ポスター



展覧会概要


展覧会名 特別展「空也上人と六波羅蜜寺」
会 期  2022年5月8日(日)まで開催中
会 場  東京国立博物館 本館特別5室、本館11室
 ※総合文化展(本館11室)での関連展示コーナーでは六波羅蜜寺所蔵
  の作品も展示しています。
開館時間 午前9時30分~午後5時
 開館時間が延長されます!
     4月9日(土)~4月30日(土)の土曜、日曜、祝日の開館時間を18時まで、
     5月1日(日)~5月8日(日)は19時まで
 (ただし、本館11室の本展関連展示を除く総合文化展、その他特別展は17時に閉館) 
休館日  月曜日、3月22日(火)
     ※ただし3月21日(月・祝)、3月28日(月)、5月2日(月)は開館
観覧料(税込)  一般 1,600円、大学生 900円、高校生 600円、中学生以下無料
※本展は事前予約(日時指定券)推奨です。詳細は展覧会公式サイトをご確認ください⇒https://kuya-rokuhara.exhibit.jp

音声ガイド
音声ガイドナビゲーターは、仏像好きの人気声優・小野大輔さん。
特別出演は、六波羅蜜寺 山主 川崎純性さん、今回の展覧会を担当された東京国立博物館研究員 皿井舞さん。貸出料金は1台600円(税込)。おススメです。



以前、報道発表会にオンライン参加した時の記事で3つの見どころを紹介していますが、今回は報道内覧会に参加しましたので、3つの見どころに沿って会場内の様子をご紹介したいと思います。

見どころ1 空也上人立像を360度、どこからでもご覧いただけます。
見どころ2 「珍しい」仏さまにお会いできます。
見どころ3 六波羅ゆかりのあの方にもお会いできます。


※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は主催者より特別の許可をいただいて撮影したものです。


見どころ1 空也上人立像を360度、どこからでもご覧いただけます。



会場に入ってまず驚いたのは、《空也上人立像》をお迎えした展示室のしつらえ。
朱塗りの柱に白い壁、そして中央に《空也上人立像》。
まるで六波羅蜜寺のお堂に瞬間移動したような、とても心地良い感覚。
ここまでいい雰囲気の中でお参りできるとは思っていませんでした。


会場展示風景
中央は重要文化財 空也上人立像 康勝作
鎌倉時代・13世紀 京都・六波羅蜜寺蔵

このような雰囲気の中、これだけ間近で《空也上人立像》にお会いすることができるのは何とも言えない満ち足りた気分。


重要文化財 空也上人立像 康勝作
鎌倉時代・13世紀 京都・六波羅蜜寺蔵 



後ろからのお姿を拝むのは初めてのことだったのですが、空也上人がまとう動物の皮衣の、特に裾のあたりのしわのごわごわとした質感がとてもリアルに感じられました。
作者は鎌倉時代の大仏師・運慶の四男、康勝です。

重要文化財 空也上人立像 康勝作
鎌倉時代・13世紀 京都・六波羅蜜寺蔵


前から横から、後ろから眺めていたら、照明の具合でしょうか、空也上人の両眼が光輝く角度を見つけました。
空也上人の「南無阿弥陀仏」ととなえる声が聞こえてくるようで、思わず手を合わした感動の瞬間でした。

重要文化財 空也上人立像 康勝作
鎌倉時代・13世紀 京都・六波羅蜜寺蔵


もしかしたら360度拝めるのはラストチャンスかもしれません。
ぜひじっくりご覧いただき、みなさまのお好きな角度を見つけてみてください。


見どころ2 「珍しい」仏さまにお会いできます。


西光寺(のちの六波羅蜜寺)創建当時のご本尊は、空也上人が造立された国宝《十一面観音立像》、重要文化財《四天王立像》、梵天、帝釈天ですが、このうち今回は迫力満点の四天王立像が東京にお越しいただいています。
(秘仏の十一面観音立像は六波羅蜜寺でお留守番。梵天、帝釈天は残念ながら現存しません。)
たびたびの兵火に見舞われた京都で、平安時代に創建されたお寺のご本尊が残っていることはとても珍しいことなのです(四天王立像のうち増長天は鎌倉時代の補作)。


そして中央には、空也上人の高弟・中信(ちゅうしん)が造像したと伝えられる、重要文化財《薬師如来坐像》。
のちに仏師・定朝が完成させる寄木造の技法では現存最古という珍しい仏さまなのです。

中央 重要文化財 薬師如来坐像
右から 重要文化財 四天王立像のうち
多聞天、持国天、増長天、広目天
いずれも平安時代・10世紀(増長天のみ鎌倉時代・13世紀)
京都・六波羅蜜寺蔵 

《薬師如来坐像》は、およそ千年前と同じく不安定な時代に生きる私たちの心を癒やしてくれる、とても柔和なお顔をしていました。

《薬師如来坐像》の両脇を固めるのは仏教の守護神《四天王立像》。
力強さみなぎるお姿がとても頼もしく感じられました。

続いて運慶作の重要文化財《地蔵菩薩坐像》。
文献では多くの仏像を残したことが伝わっていますが、現存するものはとても珍しい運慶作の仏さまです。


重要文化財 地蔵菩薩坐像 運慶作
鎌倉時代・12世紀
京都・六波羅蜜寺蔵

運慶は、今年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の主人公・北条義時とほぼ同時代の人。
これから「鎌倉殿の13人」にも登場してくるので、どのような人物として描かれるのか楽しみです。

これだけ名の知られた運慶ですが、今回の展覧会ではなんと運慶と伝わる仏像にもお会いできるのです。
下の写真左が重要文化財《伝運慶坐像》、右が重要文化財《伝湛慶坐像》。
湛慶は運慶の長男で慶派の棟梁となった仏師です。

左 重要文化財 伝運慶坐像
右 重要文化財 伝湛慶坐像
いずれも鎌倉時代・13世紀
京都・六波羅蜜寺蔵

二人とも、仏師らしく、太くてたくましい手・指をしています。
仏像でなく、仏師の像というのは、これもまた珍しいものなのです。


見どころ3 六波羅ゆかりのあの方にもお会いできます。


六波羅蜜寺の周辺は、この世と冥界の境目「六道の辻」と言われていました。

冥界といえば、やはりこの方を忘れてはいけません。
冥界を支配する閻魔王です。ご覧のとおり、下から見上げるとこの迫力。

重要文化財 閻魔王坐像
鎌倉時代・13世紀 京都・六波羅蜜寺蔵

閻魔王に裁かれて地獄に落ちたらどうなるのでしょうか。

地獄の様子がわかるのが《十王図》(会期中展示替えあり)。
画面下半分で、無表情で淡々と仕事をこなすかのように罪人たちを責める鬼たちの顔が不気味です。

十王図 陸信忠筆
中国・南宋~元時代・13~14世紀
京都・六波羅蜜寺蔵
※写真の秦広王、初江王、宋帝王は3月21日(月・祝)までの展示になります。

このように恐ろしい地獄に落とされても仏教を信じる心があれば救ってくれる仏さまが、重要文化財《地蔵菩薩立像》。

先ほどの威風堂々とした地蔵菩薩坐像が鎌倉時代の大仏師・運慶作なら、こちらは平安時代を代表する大仏師・定朝の作と伝わる仏さま。
着衣に残された截金文様から当時の華やかさが感じられます。

重要文化財 地蔵菩薩立像
平安時代・11世紀
京都・六波羅蜜寺蔵


そして最後にご紹介するのは、日本史の教科書でおなじみの重要文化財《伝平清盛坐像》。


重要文化財 伝平清盛坐像
鎌倉時代・13世紀
京都・六波羅蜜寺蔵


おでこの三本のしわや、伏し目がちの目がとてもリアルで、経典を手にもって読む姿は、平氏一門の棟梁としてトップに立った者だけが背負う苦悩を一身に引き受けているようにも見えました。


関連展示もぜひご覧ください!

東京国立博物館の本館正面入口から入ってまっすぐ奥に進むと特別展「空也上人と六波羅蜜寺」の会場になっている特別5室ですが、正面入口すぐ右に曲がった本館11室でも六波羅蜜寺の名宝が一部展示されています。

重要文化財 弘法大師坐像 長快作
鎌倉時代・13世紀
京都・六波羅蜜寺蔵


右から 重要文化財 吉祥天立像 鎌倉時代・13世紀、
奪衣婆坐像 康猶作 江戸時代・寛永6年(1629)
司録坐像 江戸時代・17世紀 司命坐像 鎌倉時代・13世紀
いずれも京都・六波羅蜜寺蔵

特別展観覧券で、特別展観覧の当日に限り総合文化展もご覧いただけるのでお見逃しなく!
※総合文化展では撮影不可マークのある作品以外は撮影できますが、こちらの関連展示の作品はすべて撮影不可です。

展覧会オリジナルグッズも充実のラインナップ!

今回の注目は何といっても、フィギュア製作で定評のある海洋堂が手がけた、フィギュア「六波羅蜜寺公認 空也上人立像」(税込9,800円)。
空也上人の表情や口から出る6体の仏像、衣のしわなど、今にも歩き出しそうなお姿が見事なまでに再現されています。


フィギュア「六波羅蜜寺公認 空也上人立像」(税込9,800円)


他にも六波羅蜜寺の至宝をデザインしたA4Wクリアファイル(税込700円)、空也上人立像をデザインしたクリアファイル(税込450円)や、黒地に金色の空也上人のお姿が浮かび上がるトートバッグ(黒、税込1,000円)もあって、展覧会の思い出にどれも欲しくるものばかり。



空也上人や仏さまの大迫力のアップ写真もあって、解説も充実している図録(税込2,300円)もおススメです。

特設ショップへのご入場の際、欠品または完売している商品がある場合があります。
フィギュア「六波羅蜜寺公認 空也上人立像」の販売については、展覧会公式サイトをご確認ください。

展覧会公式図録(税込2,300円)


とても雰囲気のいい空間で空也上人はじめ六波羅蜜寺の仏さまたちにお会いできる貴重な機会ですので、ぜひご覧いただきたい展覧会です。

目を大きく見開き怒りの表情をしていても、どことなく親しみを感じる2躯の《夜叉神立像》もお越しをお待ちしております。

夜叉神立像
平安時代・11世紀
京都・六波羅蜜寺蔵

そしてこの機会に六波羅蜜寺の魅力も知っていただいて、京都に行ったらぜひ訪れてみてください。
六波羅蜜寺公式サイト⇒https://www.rokuhara.or.jp/

2022年3月17日木曜日

東京藝術大学大学美術館「藝大コレクション展 2022 春の名品探訪 天平の誘惑」

毎年楽しみにしている藝コレ(藝大コレクション展)が今年も4月2日(土)から始まります。

今年のテーマは「春の名品探訪 天平の誘惑」

奈良時代・聖武天皇の天平年間(729-749)を中心に花開いた天平文化。
そこには盛唐文化の影響が強く国際色豊かで、仏教的色彩が濃く、律令国家の力を背景とした壮大華麗さが特徴の天平美術が花開きました。

今回は、約3万件のコレクションを所蔵する藝大と天平美術のつながりに焦点をあてた展覧会。
どのような展示に誘惑されるのか今から期待がふくらみます。

展覧会概要


展覧会名 藝大コレクション展 2022 春の名品探訪 天平の誘惑
会 場  東京藝術大学大学美術館 本館 展示室1
会 期  2022年4月2日(土)~5月8日(日)
開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日  月曜日 ※ただし、5月2日(月)は開館 
観覧料  一般440円(330円)、大学生110円(60円)、高校生以下及び18歳未満は無料
※( )は20名以上の団体料金 ※団体観覧者20名につき1名の引率者は無料
※障がい者手帳をお持ちの方(介護者1名を含む)は無料
主 催 東京藝術大学  

※本展は事前予約制ではありませんが、今後の状況により、変更及び入場制限等を実施する可能性がございます。


近未来的な外観の東京藝術大学大学美術館


それではさっそく展覧会の見どころをご紹介したいと思います。


まず初めにご紹介するのは《月光菩薩坐像》。

《月光菩薩坐像》(奈良時代)
東京藝術大学蔵

この《月光菩薩坐像》は胴の部分が損傷していますが、気品を感じさせる表情や姿勢、残された金箔から当時の優美さをうかがうことができます。
そして何より、損傷部から当時の造像美術を観察することができるという、研究機関である藝大にとって貴重な資料でもあったのです。

さらに今回の展覧会では、乾漆仏像や東大寺法華堂天蓋の残欠といった天平彫刻の断片資料に光を当てた最新の研究成果も紹介されるので、学術的に迫る天平の魅力を見られる楽しみもあります。

続いては今回の展覧会のメインビジュアルにもなっている《浄瑠璃寺吉祥天厨子絵》(重要文化財)のうち「弁財天及び四眷属像」。

《浄瑠璃寺吉祥天立像厨子絵》「弁財天及び四眷属像」
建暦2年(1212)頃 重要文化財
東京藝術大学蔵


もとは京都・浄瑠璃寺の木像吉祥天立像を収めた厨子の扉及び背面板に描かれたもので、当初はめられていた厨子(模造)、吉祥天立像(模刻)とあわせ、全7面が一挙公開されます。


《浄瑠璃寺吉祥天厨子》天井(模造)
大正13年(1914) 東京藝術大学蔵 


京都といっても、平城京とはさほど遠くない奈良県境近くの山あいにあって、極楽浄土を表現した庭園や国宝《九体阿弥陀如来像》で知られる浄瑠璃寺に思いをはせながら、ぜひ展示を楽しんでみたいです。


そして、藝コレのもう一つの大きな楽しみは、東京藝術大学が所蔵する同学(及び前身の東京美術学校)ゆかりの画家たちの西洋画や日本画の逸品が見られること。

今回も、やはり注目したいのは狩野芳崖の絶筆《悲母観音》(重要文化財)。

芳崖は東京美術学校の設立に尽力しましたが、開校直前に惜しくも亡くなりました。映画『天心』で、最後の力を振り絞って《悲母観音》を描く芳崖の姿が印象的でした。


狩野芳崖《悲母観音》明治21年(1888)
重要文化財 東京藝術大学蔵



今回は、フェノロサや岡倉天心らの奈良古社寺調査に同行した芳崖が描いた寺社の所蔵品や建築物などのスケッチを12巻の巻子装にした《奈良官遊地取》が出品されますが、芳崖の弟子たちの証言によると、この時の古美術研究が《悲母観音》の面貌表現につながったとのことですので、ぜひ見比べてみたいです。

芳崖と同じく東京美術学校の設立に尽力た橋本雅邦の《白雲紅樹》(重要文化財)はじめ近代日本画の名作や、明治38年に東京美術学校が監造した、当時の日本美術の粋を集めた屛風《綵観》、近代洋画では約10年ぶりの出品となる長原孝太郎《入道雲》など、東京美術学校の教授を務めた画家たちの作品が展示されます。

東京美術学校監造《綵観》
明治38年(1905) 東京藝術大学蔵

《綵観》のうち荒木寛畝「錦輪」。

東京美術学校監造《綵観》荒木寛畝「錦輪」
明治38年(1905) 東京藝術大学蔵

長原孝太郎《入道雲》。

長原孝太郎《入道雲》
明治42年(1909) 東京藝術大学蔵


皇室とゆかりの深い東京藝術大学ならではの作品も展示されます。

こちらは、明治21年に竣工して、昭和20年5月の戦火で焼失した明治宮殿にあった「千種之間」の格天井を飾った柴田是真の天井画下図。
完成作品が残っていないだけに、往時の名作をうかがうことができる貴重な資料です。

柴田是真《千種之間天井綴織下図》「紅梅」部分
明治20年(1887) 東京藝術大学蔵


天平文化の舞台となった平城京で思い浮かぶのが、2008年の平城遷都1300年祭の公式マスコットキャラクター「せんとくん」。
その「せんとくん」を制作された籔内佐斗司氏のかわいらしい面も展示されます。

2020年には、長年、東京藝術大学の保存修復彫刻研究室教授の職に就かれていた籔内氏の退任記念展におうかがいして作品を拝見しましたが、今回もこのお顔と対面したら、また奈良に行ってみたくなるかもしれません。

籔内佐斗司《鹿坊 面》
平成22年(2010) 東京藝術大学蔵



天平美術とともに、《小野雪見御幸絵巻》(重要文化財)などの古美術から、現代美術まで、藝大ならではのさまざまな分野のコレクションを楽しむことができるのも今回の展覧会の大きな魅力です。

いろいろな楽しみのある展覧会なので、開幕が待ち遠しいです。