2018年2月12日月曜日

三菱一号館美術館「ルドン-秘密の花園」展

東京丸の内の三菱一号館美術館では「ルドン-秘密の花園」展が開催されてます。

ライトアップされてオシャレな外観


ルドンというとやはり思い浮かべるのは、幾種類もの草花が花瓶からあふれんばかりに描かれている《グラン・ブーケ》(三菱一号館美術館蔵)。

こちらは撮影可のコーナーです。
正面の《グラン・ブーケ》のパネルの前でぜひ記念写真を!

今回開催された「ルドン-秘密の花園」展は、この《グラン・ブーケ》に象徴されるように、ルドンの描いた草花でいっぱいのとても華やいだ雰囲気の展覧会です。
さらに、《グラン・ブーケ》が飾られていたフランス・ブルゴーニュ地方にあるドムシー男爵の城館の食堂を再現した空間もあって、ヨーロッパの古城を訪れたようなゴージャスな気分にひたることもできます。
会期は5月20日(日)までです。

展覧会の詳細は三菱一号館美術館の公式サイトをご覧ください。

http://mimt.jp/

それでは先日開催されたブロガー内覧会の流れに沿って展覧会の様子を紹介したいと思います。
※掲載した写真は美術館の特別の許可をいただいて撮影したものです。なお、掲載した作品はすべてルドン作です。

はじめにドムシー男爵の城館の食堂を再現した部屋で髙橋館長からご挨拶がありました。

髙橋館長


「今回のルドン展は10年間温めていた企画で、個人的にとても思い入れのある展覧会です。」と高橋館長。
ルドンの《グラン・ブーケ》の購入をパリの老画商の御曹司から持ちかけられたのが2008年の春。その年の秋に《グラン・ブーケ》のあるブルゴーニュ地方のドムシー城を訪れ、城館の食堂に飾られた《グラン・ブーケ》が薄明かりの中、大聖堂のステンドグラスにも似た光を放っているように感じ、「この空間を再現した展覧会を開く。」と決意されたとのこと。
そして、《グラン・ブーケ》が人前で初めて公開されたのが日本でなくパリのグラン・パレで2011年3月に開催されたルドンの回顧展。髙橋館長がその開会式に日本から出席しようとした矢先、東日本大震災が発生しました。
「その後、この作品は日本に運ばれ、震災後1年にも満たない2012年1月に公開された《グラン・ブーケ》の前では、まるで雷に打たれたようにひたすら画面を見つめる人、頭を垂れて祈るように佇む人、さまざまな思いでこの絵と向き合う人々の姿が忘れられません。私にとって、震災の記憶と人々の再生の姿が重なり合うのがこの作品なのです。」

続いて、同じくドムシー男爵の城館の食堂を再現した部屋で、今回の展覧会を担当された学芸員の安井さんと「青い日記帳」のTakさんのギャラリートークがありました。

Takさん ルドンとはどんな画家なのでしょか。
安井さん 定義に困る画家ですね。フランス象徴主義の画家と言われますが、位置づけが
    非常に難しいです。不思議な画家です。
Takさん 技法も油彩だったり、パステル画だったりしますね。
安井さん 時系列的に説明すると、はじめは短期間ですがフランス・アカデミズムのジェ
    ロームのもとでは木炭でデッサン、続いてエッチング、パステル画、油彩、39歳
    の時に出した最初の画集『夢のなかで』はリトグラフでした。
Takさん ドムシー男爵の城館の食堂壁画が勢揃いしました。  
安井さん 《黄色い花咲く枝》(下の写真右)はルドンらしい作品です。
    断片化したものを散りばめていながら妙な統一感があります。

右《黄色い花咲く枝》、左《黄色い背景の樹》(作品番号53)
(いずれもオルセー美術館蔵)

安井さん ドムシー男爵の食堂では、《黄色い花咲く枝》の右側は窓でした。画面右端の
    中央に描かれた半円形のものは何だかわかりにくいですが、おそらく窓の外の
    木々か何かと連続しているものではないでしょうか。
     ルドンはこういった絵画空間の連続性も計算して描いています。

左が安井さん、右がTakさん。安井さんの後ろの黒いパネルが、
ドムシー城食堂装飾画配置図です。

Takさん 花と植物をメインにしていますが、ブリューゲルのように花がずらりという感じ
    ではないですね。
安井さん ルドンは複数のイメージを一つの画面に重ね合わせるのが特徴です。
     ドムシー男爵の食堂では絵はもっと高い位置に飾られていました。ちょうど絵
    の下の位置が頭の高さと思っていただけますでしょうか。
     そうすると、この《人物(黄色い花)》のように、下の方はよく見えるので対象
    は詳しく描かれ、上の方はあまりよく見えないので対象は記号のように描かれて
    います。

《人物(黄色い花)》(オルセー美術館蔵)


Takさん 花瓶にいけられた花の作品を集めた部屋がありますね。
    (「第7章 再現と想起という二つの岸の合流点にやってきた花ばな」です。写真
     は最後の各章紹介のコーナーで掲載しています。)
安井さん 20歳代中ごろの暗い背景のカチッとした作品から、パステル画、そして、にじ
    みの効果を出すため下地が塗られていないカンバスに描かれた作品まで、制作年
    の異なる花の作品を一つの部屋に集めました。

Takさん 他にこの展覧会の見どころは。
安井さん 実はこの部屋にも他に見どころがあります。
    《ドムシー男爵夫人の肖像》です。

右《ドムシー男爵夫人の肖像》(オルセー美術館蔵)
左《神秘的な対話》(岐阜県美術館蔵)


 
安井さん 肖像画では通常ここまで広い余白はとりません。
     この作品ではモデルと背景は画面の半分ずつでなく、余白の方が広く描かれて
    いますが、赤い服と黒っぽい上着を着た夫人の存在感の重さとバランスをとるた
    めこれだけ広い余白が必要になるのです。
     余白には何が描かれているかわかりません。ルドン本人も何も語りません。で
    も注文主は「これでいい。」と言う。作者と注文主の奇妙な関係がここにありま
    す。
     その隣の作品《神秘的な対話》では、若い女性が赤い木の枝を持っています。
    《黄色い背景の樹》(作品番号51の方)や《二人の踊女》にも赤い木の枝が描かれ
    ていて、何かを暗示しているのでしょうが、これについて本人は何も語らないの
    で、何を暗示しているかはわかりません。

《黄色い背景の樹》(作品番号51)(オルセー美術館蔵)
右の暖炉の上の作品が《二人の踊女》(横浜美術館蔵)
「第2章 人間と樹木」の部屋に展示されています。

安井さん 作品全体の雰囲気としてあいまいなままにしておく、それがルドンの特徴と言
    えるのではないでしょうか。(拍手)

そして最後に会場内をご案内しましょう。
展覧会は8章構成になっていますので、各章ごとに紹介していきます。

第1章 コローの教え、ブレスダンの指導

第1章には、画家としてのデビューが遅かったルドンの長い修行の初期にコローの助言をもらい、版画家ブレスダンからエッチングの指導を受けて制作した作品が並んでいます。



第2章 人間と樹木

ルドンの夢想世界に登場する生きものたちは樹木のかたわらにいます。



第3章 植物学者 アルマン・クラヴォ―

ルドンは10代の頃に出会ったアルマン・クラヴォ―からフローベールやエドガー・アラン・ポー、ボードレールを教えてもらいました。





第4章 ドムシー男爵の食堂装飾

トークショーでも紹介されたドムシー男爵の食堂装飾が再現された部屋です。


上の写真は3階ですが、2階にもドムシー男爵の食堂装飾が再現された部屋があります。


第5章 「黒」に棲まう動植物

最初の画集『夢のなかで』からの作品も、ボードレール『悪の華』を題材にした作品もここにあります。



第6章 蝶の夢、草花の無意識、水の眠り
展覧会チラシの表紙を飾った《眼をとじて》(岐阜県美術館蔵)が展示されているのがこの部屋です。こんな素晴らしい作品が日本にあるなんてうれしいですね。





第7章 再現と想起という二つの岸の合流点にやってきた花ばな

トークショーで紹介された部屋です。制作年の異なる花瓶にいけられた花の絵が並んでいます。



第8章 装飾プロジェクト

ルドンの下絵による椅子や衝立とルドンの下絵そのものが展示されています。



 
さて、みなさんいかがだったでしょうか。
春を先取りしたとても素晴らしい展覧会です。おススメです。