2018年5月26日土曜日

山種美術館「【特別展】琳派ー俵屋宗達から田中一光へー」特別内覧会

粋で、オシャレで、綺麗で、明るくて、心が和む。
そんな琳派の展覧会が山種美術館で開催されています。
会場の中はもちろん琳派一色、そして俵屋宗達から現代まで綿々と続く琳派の息吹が感じられる、とても素晴らしい展覧会です。

それでは先日開催された特別内覧会の次第に沿って展覧会の見どころを紹介していきたいと思います。
※掲載した写真は、美術館の特別の許可を得て撮影したものです。

展覧会の詳細はこちらをご覧ください。
山種美術館ホームページ

1 山種美術館 山﨑館長ごあいさつ

「今年は酒井抱一(1761ー1828)の没後190年、鈴木其一(1796-1858)の没後160年にあたる年。俵屋宗達、尾形光琳、酒井抱一、そして近代、現代と続く琳派の継承をご覧になっていただきたい。」
「今回の撮影可の作品は、修復後初めて公開される『伝 俵屋宗達《槙楓図》(山種美術館)』です。」



「Cafe椿では、特別展にちなんだ和菓子をご用意しています。」


中央が「華王」、右上から時計回りに「初夏」「緑のかげ」「涼かぜ」「歌ことば」です。「初夏」の胡麻入りこしあんや「歌ことば」の黒糖風味大島あんのコクもいいですし、「涼かぜ」のすっきりしたこしあんもいいです。どれも美味です。

「ミュージアムショップではA5判・ハンディサイズの図録や琳派の作品をあしらったクリアファイル、福田平八郎《芥子花》をあしらったTシャツ、速水御舟《翠苔緑芝》をモティーフにしたマルチフォルダーなどを取り揃えています。」


私は速水御舟《翠苔緑芝》の折り畳みできる絵はがきを買いました。2枚で540円。
こうすれば手軽に卓上琳派展!


次回企画展「水を描くー広重の雨、玉堂の清流、土牛のうずしおー(7月14日(土)~9月6日(木)」の関連イベントのご案内もありましたので、詳細は美術館の公式ホームページ(上記)をご参照ください。

2 山下裕二氏(山種美術館顧問、明治学院大学教授)見どころ紹介

「サブタイトルをご覧になられて意外と思われた方もいらっしゃるのでは。」と山下さん。
「田中一光はグラフィックデザイナー。グラフィックデザイナーがなぜ琳派なのか。琳派400年の2015年に開催された「20世紀琳派 田中一光展」を監修したとき、17世紀の宗達、18世紀の光琳、19世紀の抱一と並んで、『20世紀の琳派はこの人だ!』と思ったのです。」

展覧会のチラシを見てみましょう。


上の2点の作品のうち、左が田中親美《平家納経 願文(摸本)》(部分)(東京国立博物館)、右が田中一光《JAPAN》(東京国立近代美術館)です。
田中親美《平家納経 願文(摸本)》の原本は厳島神社所蔵で、俵屋宗達(生没年不詳 17世紀前半に京都で活躍)が修復したものですが、今回展示されている作品は田中親美がそれを忠実に模写したものです。

「田中一光は鹿の背中の丸みにしびれたのではないでしょうか。」と山下さん。

続いて俵屋宗達(絵)と本阿弥光悦(書)のコラボ作品。
《鹿下絵新古今集和歌巻断簡》(山種美術館)。


《四季草花下絵和歌短冊帖》(山種美術館)。
こちらはもともと屏風に貼り付けられていたものを図冊に貼りなおしたものとのことです。1冊18枚で、6月5日から面替えがあります。



俵屋宗達の次は、宗達からおよそ100年後に宗達に私淑した尾形光琳(1658-1716)。


少し小さいですが、チラシの裏面(上の写真)の右上2番目の作品が、尾形光琳《白楽天図》(個人蔵 6月3日までの展示です)。
「山並みや波の曲線がデザイン化され、くっきりしています。」と山下さん。


続いてさらに約100年後に光琳に私淑した酒井抱一の《秋草鶉図》【重要美術品】(山種美術館)。



「秋草のしなやかな細い線に注目です。」と山下さん。
「宗達は古典的モチーフを中心にボンッ!と持ってくる野蛮さがあり、光琳はセンスがよくて、デザイン性が特徴、抱一は線が細くしなやか。刃物に例えると、宗達は鉈(なた)、光琳はよく切れる柳刃包丁、抱一はカミソリではないかと私は思っています。」

続いて酒井抱一《月梅図》(山種美術館)(下の写真右)。
(左は酒井抱一《宇津の山図》(山種美術館))
「この作品は伊藤若冲《梅華皓月図(動植綵絵)》からインスパイアされた可能性があります。」


酒井抱一が続きます。
左から《秋草図》(6月3日までの展示)、《菊小禽図》、《飛雪白鷺図》(いずれも山種美術館)。


そして酒井抱一の弟子 鈴木其一《四季花鳥図》(山種美術館)。
「向日葵(ひまわり)は当時としては目新しいもので、こちらも伊藤若冲《向日葵雄鶏図(動植綵絵)》から影響を受けたのかもしれません。」


近代に入ります。
おなじみの速水御舟(1894-1935)《翠苔緑芝》(山種美術館)です。
「琳派とのかかわりで言うと、左隻の左のうさぎの背中の丸みが宗達の鹿の背、そしてその右のうさぎの伸ばした足は京都・養源院にある宗達筆の杉戸絵の唐獅子の影響が見て取れます。」
うさぎの伸ばした足が唐獅子とは!この作品は何回も見ているのですが、まさか唐獅子から来ているとは想像すらできませんでした。


続いて琳派の影響を受けた近代日本画家の作品が並びます。

小林古径(1883-1957)《夜鴨》(山種美術館)。


奥村土牛(1889-1990)《南瓜》(山種美術館)。


安田靫彦(1884-1978)《うさぎ》(山種美術館)。


上記の3点の作品の横には、それぞれの作者が影響を受けた琳派の作品の参考図版パネルが掲示されていますので、ぜひ見比べてみてください。

琳派といえば、忘れてはいけないのが「風神雷神」。
風神雷神もちゃんといました。


今村紫紅(1880-1916)絵付の絵御本茶碗「風神」(左)と、安田靫彦(絵付)の絵御本茶碗「雷神」(右)です(いずれも清水六兵衛[4代](作陶)、山種美術館)。

「今回の展覧会は、宗達、光琳、抱一、そして明治、大正、昭和、戦後と続く日本の美意識のエッセンスを示す作品が展示されています。ゆっくりご覧になってください。」
(拍手)

3 ギャラリートーク(山種美術館特別研究員 三戸さん)

「会場に入ってすぐに展示されているのは日本画でなく、今回は田中一光《JAPAN》(東京国立近代美術館)。(山下さんがトークの冒頭で解説した作品です)。ここには『20世紀の琳派は田中一光』という山下さんのメッセージが込められています。」と三戸さん。

「《平家納経 願文(摸本)》(東京国立博物館)は、田中親美が厳島神社の依頼で大正8年から5年かけて全33巻を忠実に模写したもので、模写するために厳島神社から原本を借りたのですが、大正12年の関東大震災の際は親美が原本を抱きしめて守ったそうです。」
「その後、摸本の評判があまりによかったので、親美は他の人の依頼でさらに3セットつくりました。」

俵屋宗達(絵)、本阿弥光悦(書)《鹿下絵新古今集和歌巻断簡》(山種美術館)(再掲)。
「文字と絵のコラボ。これはまさに現代で言えばポスターですね。」
もともと《鹿下絵新古今集和歌巻》は長い巻物であったものが大正時代に裁断され、山種美術館が所有するのはその冒頭箇所。


続いて伝俵屋宗達《槙楓図》(山種美術館)(再掲)。
「槙を主体とする絵は、当時では珍しかったのですが、宗達は好んで描きました。光琳も槙を描いています(《槙楓図屏風》(東京藝術大学大学美術館))。
ここに琳派の継承が見られます。」


尾形光琳《白楽天図》(個人蔵 前期(6月3日まで)の展示です)は、能「白楽天」の場面を描いたもので、日本人の知恵を試そうと唐船で中国から日本にやってきた白楽天が、老いた漁師に漢詩を詠みかけると、実はその漁師は和歌の神・住吉明神で、即座に和歌で応じ、神風を起こして白楽天を中国に戻したというお話。

「酒井抱一《月梅図》(山種美術館)(下の写真右)の抱一らしさは、枝越しの月の構図と月明かりを金泥で表現したところです。」
下の写真左の酒井抱一《宇津の山図》(山種美術館)は伊勢物語からとったもので、「伊勢物語はまさに琳派の主題。光琳から抱一への継承が見られます。」と三戸さん。
(こちらも写真は再掲です)



「鈴木其一は、師・抱一の没後、個性を発揮して、近代日本画につながる冷たく無機質な絵を描くようになり、それは速水御舟の《翠苔緑芝》に引き継がれました。」

「神坂雪佳は宗達-光琳から直接つながる、京都らしい『ほっこり琳派』です。」

「月を『外ぐま』で描くのは江戸琳派の特徴。菱田春草(1874-1911)の《月四題》(山種美術館)は、月にそれぞれのモチーフをかぶせているのが特徴です。」

将来を嘱望された春草は、この作品を描いたあと間もなく、37歳を目前にして亡くなりました。若くして亡くなった春草のことを思うと、作品を見るたびにいつも心が痛みます。


こちらは速水御舟《錦木》(山種美術館)。すすきの繊細な表現と「たらしこみ」が琳派です。



「伝 俵屋宗達《槙楓図》(山種美術館)に見られるように、上下を断ち切ったトリミングは琳派の特徴です。」

大胆なトリミングの西郷孤月(1873-1912)《台湾風景》(山種美術館)。


「加山又造(1927-2004)《華扇屏風》(山種美術館)の背景は平安時代の料紙装飾の影響が見られます。平安時代は宗達の出発点でした。また、田中一光の料紙装飾とも響きあっています。私淑を通じて継承されてきた琳派の作品をぜひお楽しみください。」(拍手)

さて、「【特別展】琳派-俵屋宗達から田中一光へ-はいかがだったでしょうか。
とてもすべては紹介しきれないので、ぜひとも会場でご覧になっていただければと思います。
その際、ギャラリートークの日程に合わせて来館してもよいでしょうし、音声ガイドでも丁寧な解説を聴くことができます。
会期は7月8日(日)までですが、前期は6月3日(日)までですので、早めにご覧になられることをお勧めします。

あわせて琳派関連のコラムもぜひご参照ください。

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兄・尾形光琳と弟・尾形乾山の関係はこちら
これぞ金メダル級...!日本美術史上最も有名な芸術家兄弟とは

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2018年5月5日土曜日

パナソニック汐留ミュージアム「ジョルジュ・ブラック展」内覧会

パナソニック汐留ミュージアムでは「ジョルジュ・ブラック展 絵画から立体への変容-メタモルフォーシス」が開催されています。

ジョルジュ・ブラックといえば「キュビズムの巨匠」。
でも今回のテーマは「絵画から立体への変容-メタモルフォーシス」。
ジョルジュ・ブラックの絵画が、ジュエリー、陶器、ガラス彫刻はじめ立体作品に「変容」して、どの作品もまばゆいばかりに輝いています!



さて、これからは先日参加した内覧会の様子を紹介しながら会場をご案内したいと思います。
展覧会の概要はこちらをご参照ください。→パナソニック汐留ミュージアム
※掲載した写真は美術館の特別の許可をいただいて撮影したものです。

ご案内いただいたのは、今回の展覧会の担当学芸員 宮内さん。

ジョルジュ・ブラックは、79歳から81歳で亡くなるまで最晩年の3年間に、数多くの立体作品、特に宝飾作品を世に送り出しました。
「これだけ多くの立体作品を展示する展覧会は日本初。お楽しみください。」と宮内さん。

会場に入ってすぐに目についたのは、これぞジョルジュ・ブラック!というキュビズムの絵画。

序章に展示されているのは右から《モンソー公園》、《静物》、《楽譜のある静物》。
《モンソー公園》はブラックが18歳の時の作品、《静物》はストラスブール近現代美術館所蔵作品で、公的な美術館に収蔵された最初の作品、《楽譜のある静物》は絵具に砂を混ぜてザラザラ感を出して、木目はギザギザ感を出しています。
「この質感をぜひ近くでご覧ください。」と宮内さん。

続いて「第1章 メタモルフォーシスー平面」。
はじめに9点のグアッシュ作品。
「これがメタモルフォーシスの原点です。『メディアの馬車』はじめジョルジュ・ブラックが今まで使っていたモチーフが描かれています。」
このグアッシュには、ジョルジュ・ブラックとともにジュエリー作品を制作したエゲル・ド・ルレンフェルドが複製してもよい、と書かれています。


次にリトグラフ作品です。
「造形のダイナミズムと同時に《ペリアスとネリウス》のような『かわいさ』もご覧になってください。」

《メディアの馬車》(下の写真右)、《ペルセポネ》(下の写真左)、


そして《ペリアスとネリウス》(下の写真右)。
これらのモチーフがこのあと繰り返し出てきます。



第2章は「メタモルフォーシス-陶器」。

ここからは黒を基調とした落ち着いた雰囲気の部屋が続きます。
これらの陶器は、ブラックの原案をもとにニース地方の陶器工房が制作したもの。


ギリシャ神話の魔女キルケの横顔(下の写真右)。陶器に金箔が貼られています。


丸っこい壺は、ロレーヌ地方のロンウィー窯で制作されたので、「ロンウィーボール」と呼ばれているとのことです。


第3章 メタモルフォーシス-ジュエリー

ここからが今回の展覧会のハイライト。
きらびやかなジュエリーがずらり展示されています。
こちらは《三つの恩恵(三美神)》です。


まるで宝石店みたい!壮観です。



ジョルジュ・ブラックの頭から生涯離れなかったギリシャ神話の魔女キルケ(下の写真左)。そして色を反転させたギリシャ神話の女神ヘカテ(下の写真右)。


《メディアの馬車》(下の写真左)と《ヘルメス》(下の写真右)。


今回の展覧会でもパナソニックの先端技術が駆使されています。
「天井に設置されたスペースプレーヤーから『三美神』をテーマに鳥が飛ぶ姿が床に投影されます。床に注目です。」


第4章 メタモルフォーシス-彫刻


正面のスクリーンにはパナソニック社のプロジェクターから写される映像。
絵画から立体への変容がよくわかるビデオです。



こちらの床には《グラウコス》(上の写真左)と《ヒポノオス》(上の写真右)をイメージした魚が投影されています。


「もう一つの注目はガラス彫刻です。これらは2007年にジョルジュ・ブラックの遺志を汲んでナンシーのドーム工房ガラス製作所が作成した作品です。」
ガラス彫刻がバックライトに照らされてキラキラ輝いています。


第5章 メタモルフォーシス-室内装飾

ここからは緑を基調とした部屋が続きます。
左の2点は木製の装飾パネル、奥の2点はモザイク作品です。


こちらはフランス語で宝石を示す「ジェメ」と、七宝を表す「エマイユ」を掛け合わせて作った「ジェマイユ」というステンド・グラスです。
背面からの光で全体がジュエリーのように輝いています。


そして最後は部屋に飾るタペストリー。
ここでも今まで出てきたモチーフが使われています。


会場出口には記念撮影コーナー。
ブラックと一緒に記念写真をぜひ!


1階リフォームパークでは、すっかりおなじみとなった展覧会とのコラボ企画。
照明の加減によって絵の見え方がぐっと変わる様子に注目です。


さてジョルジュ・ブラックのメタモルフォーシスはいかがだったでしょうか。
とてもきれいで光り輝く作品が展示されています。
ぜひともその場でご覧になっていただければと思います。
6月24日(日)までです。