2026年2月13日金曜日

大阪市立美術館 興祖微妙大師六百五十年遠諱記念特別展「妙心寺 禅の継承」

大阪・天王寺公園内の大阪市立美術館では、興祖微妙大師六百五十年遠諱記念特別展「妙心寺 禅の継承」が開催されています。




今回の特別展は、京都の西郊にある臨済宗妙心寺派の大本山・妙心寺の基礎を築いた第二世、興祖微妙大師の六百五十年遠諱を記念して、妙心寺や妙心寺派の寺院の至宝が一堂に会する展覧会なので開幕をとても楽しみにしていました。

開幕前に開催された記者内覧会に参加しましたので、さっそく展示の内容をご紹介したいと思います。


展覧会開催概要


会 期  2026年2月7日(土)~4月5日(日)
     ※展示替えあり 前期2月7日(土)~3月8日(日)、3月10日(火)~4月5日(日)
会 場  大阪市立美術館(天王寺公園内)
開館時間 午前9時30分~午後5時(入館は閉館の30分前まで)
休館日  月曜日(ただし、2月23日は開館)、2月24日(火)
展覧会公式サイト⇒https://art.nikkei.com/myoshin-ji/

※展示室内は一部の作品のみ撮影ができます。掲載した写真は、記者内覧会で主催者の許可を得て撮影したものです。

展示構成
 第一章 開山忌の荘厳
 第二章 妙心寺史
 第三章 妙心寺珠玉の寺宝
 第四章 大阪の妙心寺派
 妙心寺と大阪市立美術館
 特別展示Ⅰ 天球院の襖絵
 特別展示Ⅱ 微妙大師ゆかりの妙感寺


展示室に入って最初に感じたのは、金碧の障壁画で囲まれた桃山時代の豪華絢爛な雰囲気でした。

「第一章 開山忌の荘厳」展示風景


「妙心寺屏風」の異名を持つ大画面の屛風、狩野山楽筆「龍虎図屛風」、海北友松筆「花卉図屏風」は迫力満点。
どちらも武家出身で、ほぼ同じ時代に活躍して、ひとりは京狩野派の祖、もうひとりは海北派の祖となった二人の屛風は通期展示で写真撮影可能なのがうれしいです。

右 重要文化財「龍虎図屛風」狩野山楽筆 
左 重要文化財「花卉図屏風」海北友松筆
どちらも 桃山時代・17世紀 京都・妙心寺蔵 通期展示


「第一章 開山忌の荘厳」の展示はまだまだ続きます。
第一章では、先ほどご紹介した金碧の屛風をはじめ、頂相(禅宗の高僧の肖像)、墨蹟、十六羅漢図が展示され、江戸時代に大方丈の特別な設(しつら)えで行われた開山忌の様子が展示されています。

「第一章 開山忌の荘厳」展示風景


「第三章 妙心寺珠玉の寺宝」に展示されている、室町水墨画の名品や、中国、朝鮮から伝来した工芸など、妙心寺の本坊や塔頭に伝わる寺宝の数々も今回の特別展の大きな見どころのひとつです。

こちらは、狩野派二代目で、狩野派繁栄の基礎を築いた狩野元信の代表作のひとつ、妙心寺の塔頭・霊雲院の障壁画(現在は掛軸装)。画面全体に漂う空気感が何ともいえず心地よいです。

重要文化財「四季花鳥図 霊雲院方丈障壁画のうち」 (部分)
狩野元信筆 室町時代 天文12年(1543) 京都・霊雲院
12幅のうち8幅が前・後期で4幅ずつ展示されます。

続いては化粧品や小物を納めた容器と考えられる独特の形をした合子(ごうす)。
玳瑁(鼈甲)に色彩を施す玳瑁伏彩法は高麗螺鈿漆器の代表的な技法で、世界的に見ても完形の作例は20数点しかなく、その中でもこれは保存状態が極めて良好な貴重なものなのです。

菊唐草文螺鈿玳瑁合子」朝鮮・高麗時代(12~13世紀)
京都・桂春院蔵 通期展示

今回の特別展開催にあたり、大阪市立美術館が大阪府内の妙心寺派の寺院の調査を行ったところ、いくつかの新たな発見がありました。

そのひとつは、大阪府内の妙心寺派の寺院には白隠慧鶴の禅画が数多く所蔵されていることでした。
江戸時代中期の僧で臨済宗中興の祖と呼ばれる白隠は、仏の教えを伝える手段として、生涯で約1万点を超える書画を描いたといわれています。
一見すると親しみが持てそうで、実は禅の奥深い意味がある白隠の書画は、わかりやすく解説している作品のキャプションを読みながら鑑賞したいです。

「第四章 大阪の妙心寺派」展示風景


もうひとつは、大阪府内の妙心寺派の寺院には、妙心寺が開創される建武4年(1337)より以前の平安~鎌倉時代の仏像が多く所蔵されていることでした。
これは、臨済宗妙心寺派に改宗する前から所蔵していた仏像を各寺院が大切に保存していたからで、おかげさまで私たちは今回の特別展で平安時代の優美な仏さまを拝むことができるのです。

「第四章 大阪の妙心寺派」展示風景


大阪市立美術館には今回、「京都のお寺の展覧会をなぜ大阪で?」という質問が多く寄せられたとのことですが、実は、大阪市立美術館が昭和11年(1936)に開館して以来、「古美術常設陳列館」としての性格をめざし、近隣の社寺に出陳や寄託を依頼していたところ、妙心寺や塔頭から多くの数の宝物が寄託されて現在に至っているという約90年にわたる深いご縁があったのです。

「妙心寺と大阪市立美術館」のコーナーでは、大阪市立美術館が妙心寺や塔頭から寄託を受けているさまざまな寺宝のなかから、今まで公開の機会が少なかった宝物が展示されています。


「妙心寺と大阪市立美術館」展示風景


今回の特別展の大きな見どころの一つは、狩野山楽・山雪父子が手掛けた妙心寺の塔頭・天球院の襖絵が、塔頭内と同じ形で再現展示されていることです。

「特別展示Ⅰ 天球院の襖絵」展示風景


普段は非公開の襖絵も、ここではこんなに間近で虎と対面することもできます。

重要文化財「竹林猛虎図襖」 (部分)  狩野山楽・山雪筆
江戸時代 寛永8年(1631) 京都・天球院 通期展示 


最後は、微妙大師が晩年をすごした大師ゆかりのお寺、妙感寺(滋賀県湖南市)の「千手観音坐像」です。
高さが1.64mもあるので、近くで見るとかなり大きくて存在感があります。そして、木造の仏像なのですが、なぜかお顔や手に柔らかさ、ぬくもりが感じられるという不思議な仏さまなのです。


湖南市指定文化財「千手観音坐像」鎌倉時代後期~南北朝時代(14世紀)
滋賀・妙感寺 通期展示

「特別展示Ⅱ 微妙大師ゆかりの妙感寺」のコーナーには、厨子に納められた可愛らしい小さな「千手観音坐像」が展示されていて、どちらも撮影可能です。


 出品作品をモチーフにした展覧会オリジナルグッズも盛りだくさん。


出品作品のカラー図版や詳しい作品解説など内容充実の展覧会公式図録も好評発売中です。

展覧会公式図録

今回のメインビジュアルが「龍虎図屏風」の虎というのは大阪ならではと思いましたが、龍は法堂の天井画から飛び出してきます。ご自身のスマートフォンで中央ホールの空間に登場する龍をAR(拡張現実)体験することができるので、ぜひお試しください。



イメージはこんな感じです。かなりの迫力を体験することができます。



妙心寺や妙心寺派の寺院の寺宝を通じて妙心寺の歴史にも触れることができます。
この春おすすめの展覧会です。

2026年2月2日月曜日

東京都美術館開館100周年記念 「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」

今年(2026)年に開館100周年を迎えた東京・上野公園の東京都美術館では、東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」が開催されています。

企画展示室入口のフォトスポット

今年(2026年)は、東京都美術館が日本初の公立美術館として1926(大正15)年に開館してから100年目を迎える記念すべき年。
すでに今年開催される開館100周年記念展のラインナップがアナウンスされていますが、その第1弾として開催されているのが、スウェーデン国立美術館の全面協力のもと、19世紀末から20世紀にかけてスウェーデン絵画が展示され、展示作品は100%スウェーデン人作家という今回の展覧会なのです。

実は、スウェーデン人の画家といっても、スウェーデンの国民的画家カール・ラーションの作品もあまり見たことはなく、ほとんど予備知識がありませんでしたが、それがかえって、どのような画家や作品にめぐり合えるのだろうという期待がふくらんだので、開幕を楽しみにしていました。    

それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。


展覧会開催概要


展覧会名 東京都美術館開館100周年記念 スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき
会 期  2026年1月27日(火)~4月12日(日)
会 場  東京都美術館 企画展示室
休室日  月曜日、2月24日(火) ※ただし、2月23日(月・祝)は開室
開室時間 9:30~17:30、金曜日は20:00まで(入室は閉室の30分前まで)

展覧会の詳細、チケットの購入方法、イベント等の情報は展覧会公式サイトをご覧ください⇒https://www.swedishpainting2026.jp

展示構成
 LBF  第1章 スウェーデン近代絵画の夜明け
       第2章 パリをめざして―フランス近代絵画との出合い
       第3章 グレ=シュル=ロワンの芸術家村
 1F       第4章 日常のかがやき―”スウェーデンらしい”暮らしのなかで
       第5章 現実のかなたへ―見えない世界を描く
 2F    第6章 自然とともに―新たなスウェーデン絵画の創造

※展示室では1F、2Fのみ写真撮影が可能です(一部を除く)。展示室内で撮影の注意事項等をご確認ください。
※本稿ではLBFの作品の写真も掲載していますが、プレス内覧会で美術館より特別に許可を得て撮影したものです。


第1章 スウェーデン近代絵画の夜明け


第1章に並ぶ19世紀半ばの風景画を見て最初に感じたことは、フランスやドイツをはじめ外国の美術の影響は受けていても、スウェーデンの自然や風景を描いた画家たちの郷土愛でした。

「東京都美術館開館100周年記念 スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」
展示風景、東京都美術館、2026年 

特に気になった作品は、ドイツ・デュッセルドルフに学んだマルクス・ラーションの《荒れ狂うボーヒュースレーンの海》。


マルクス・ラーション《荒れ狂うボーヒュースレーンの海》
1857年(年記) スウェーデン国立美術館蔵

描かれているのは、スウェーデン南西部のボーヒュースレーンの海岸で座礁する帆船と、そこから脱出した船乗りを乗せた小舟、そして岩場には先に逃れた人々の姿。
空を覆う不穏な雨雲、背景にはごつごつした岩山、荒れ狂う波、船乗りたちを見守るように空を舞う海鳥たち、そして一本一本丁寧に描かれた帆船のロープ。
このような詳細な描写がまるで映画のワンシーンを見ているようで、手に汗を握る迫真の描写に圧倒されました。


第2章 パリをめざして―フランス近代絵画との出合い


1870年代後半になると、スウェーデンの多くの若い画家たちがめざしたのは、印象派をはじめ前衛的な美術が次々と生まれたフランスのパリ。
なかでもスウェーデンの画家たちが魅了されたのはバルビゾン派でした。彼らの素朴で情緒豊かな手法は、母国スウェーデンの農村や豊かな自然に親しんで育った画家たちにとってぴったりとフィットするものだったのです。

「東京都美術館開館100周年記念 スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」
展示風景、東京都美術館、2026年

パリで毎年1度開催されるサロンへの入選をめざした画家のひとりがアーンシュト・ヨーセフソン。自然を背景に描かれた人物画もとてもいい雰囲気でしたが、この章で一番印象に残ったのが、鍛冶屋の暗い室内から出てきた男たちの笑顔、白い歯、たくましい腕にたくましい生命感が感じらる《スペインの鍛冶屋》でした。

アーンシュト・ヨーセフソン《スペインの鍛冶屋》1881年
スウェーデン国立美術館蔵


この作品は、1881年にヨーセフソンがスペインに旅行した際に描いた代表作で、本人にとっては自信作だったのですが、サロンの審査員から理解を得ることなく落選してしまいました。


第3章 グレ=シュル=ロワンの芸術家村


グレ=シュル=ロワンとはパリの南東約70キロメートルに位置する小さな村の名前で、スウェーデンの画家たちは、バルビゾン村に集い戸外制作を実践していたカミーユ・コローやジャン=フランソワ・ミレーにならい、この村に滞在して制作を行いました。

「東京都美術館開館100周年記念 スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」
展示風景、東京都美術館、2026年


1880年代以降、この村で本格的な滞在制作を行ったカール・ノードシュトゥルムが描いた現地の様子は、タイトルもそのものずばりの《グレ=シュル=ロワン》。
画面いっぱいに描かれているのは鬱蒼と茂る草地ですが、遠くにもくもくと白煙をたなびかせて走る蒸気機関車がいいアクセントになっています。当時、蒸気機関車は近代化の象徴だったのです。

カール・ノードシュトゥルム《グレ=シュル=ロワン》
1885-1886年(年記) スウェーデン国立美術館蔵



第4章 日常のかがやき―”スウェーデンらしい”暮らしのなかで


1Fに移ります。
1880年代の終わりになると、フランスでの経験を通して、「スウェーデンらしい」新たな芸術を築きたいという願いが芽生え、多くのスウェーデンの画家たちは故郷スウェーデンに帰国しました。
「”スウェーデンらしい”暮らし」という第4章のサブタイトルにふさわしく、室内のしつらえが再現された空間で見る作品はまた格別です。

「東京都美術館開館100周年記念 スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」
展示風景、東京都美術館、2026年

「スウェーデンらしい」暮らしのイメージをかたちづくったカール・ラーションの作品は、厳しい寒さの長い冬の暖かい室内のぬくもりが感じられて、ほっとした気分にさせてくれます。

カール・ラーション《カードゲームの支度》1901年(年記)
スウェーデン国立美術館蔵


第5章 現実のかなたへ―見えない世界を描く


この章は、今までの章と少し雰囲気が違います。
ここに展示されている作品は、フランスから帰国したスウェーデンの画家たちのなかでも、北欧の神話や民間伝承といった民族的な主題を描いたり、精神の不安定さと向き合い、幻想や幻覚を映し出すような作品を制作するなど、現実のかなたにある人間の目に見えない心理や精神のありようを絵画で探ろうとした画家たちが描いたものだからなのです。

「東京都美術館開館100周年記念 スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」
展示風景、東京都美術館、2026年



生涯を通じてストックホルムを拠点として活動したエウシェーン・ヤーンソンが描いたのは、郊外の畑を宅地開発して建てられた労働者の集合住宅とストックホルム市内にある高台の街かど。本来なら人がいるはずなのに人が描かれていないせいでしょうか、現実の場面を描いているのに幻想的な雰囲気が感じられる不思議な作品です。

エウシェーン・ヤーンソン 右《首都の郊外》
左《ティンメルマンスガータン通りの風景》
どちらも 1899年(年記) スウェーデン国立美術館蔵


第6章 自然とともに―新たなスウェーデン絵画の創造


1890年代から世紀転換期にかけて、スウェーデンの風景画は大きな変化を迎えました。
第6章に展示されているのは、厳しくも美しいスウェーデンの自然を描くのにふさわしい表現方法を模索した画家たちの風景画です。
フランスの印象派やバルビゾン派の作品とは印象が少し違うな、と感じていたのですが、夕暮れや夜明けの淡く繊細な光の表現などが特徴的だということに気が付きました。



「東京都美術館開館100周年記念 スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」
展示風景、東京都美術館、2026年

最後にご紹介するのは、今年の干支にちなんで馬が描かれたニルス・クルーゲル《夜の訪れ》です。
背景の弱々しく光を発している太陽がいかにも北欧らしさを感じさせてくれます。

ニルス・クルーゲル《夜の訪れ》1904年(年記)
スウェーデン国立美術館蔵


今回の特別展出品作品の図柄を使用したオリジナルグッズも充実。
「幸せを呼ぶ馬」とも呼ばれるスウェーデンの伝統工芸品ダーラナホースのオリジナルイラストグッズは午年にぴったり。
展覧会特設ショップにもぜひお寄りください。

展覧会特設ショップ



出品作品は全てカラー図版で掲載されて作品解説付き、スウェーデン絵画をより深く知るためのコラムを多数収録した展覧会公式図録もおすすめです。

展覧会公式図録



東京都美術館開館100周年記念展の第1弾は、100%スウェーデン画家による知られざるスウェーデン絵画の展覧会。新たな発見がいっぱいの展覧会ですので、ぜひお楽しみください!

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