ザールラント州(3月26日)、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州(5月7日)、そして地元ノルドライン=ヴェストファーレン州(5月14日)で三連敗したシュルツ候補率いるSPD。
ZDFの5月19日付の調査では、メルケル候補とシュルツ候補の支持率の差はさらに広がった。
ZDF調査「首相としてどちらが望ましいか」( Politbarometer19.05.2017)
1月 シュルツ氏 40% メルケル氏 44% シュルツ候補好スタート
2月 シュルツ氏 49% メルケル氏 38% シュルツ候補逆転
3月 シュルツ氏 44% メルケル氏 44% 両者譲らず
4月7日 シュルツ氏 40% メルケル氏 48% メルケル氏再びリード
4月28日 シュルツ氏 37% メルケル氏 50% メルケル氏リードを広げる
5月19日 シュルツ氏 33% メルケル氏 57% メルケル氏さらにリードを広げる
各政党の支持率を見ても、少しずつではあるがCDU/CSUはSPDを引き離している。同じく、5月19日付ZDF調査による政党支持率でシミュレートすると、シュルツ候補が首相になるための前提条件となる「SPD主導の連立」のパターンはいずれも厳しい状況が続いている。
各政党の支持率
CDU/CSU 38%(+1%)、SPD 27%(ー2%)、左派党
9%(±0%)、緑の党 7%(ー1%)、
FDP 8%(+2%)、AfD 7%(-1%)、その他 4%(+1%)
パターン① × SPD 27%<CDU/CSU 38%
パターン② × SPD 27%+緑の党 7%=34% < 過半数
パターン③ × SPD 27%+左派党 9%+緑の党 7%=43% < 過半数
依然として形勢不利の状況が続くシュルツ候補。
ザールラント州の選挙結果で見たとおり、「無党派層」の「浮動票」がCDUに流れたことが選挙結果に大きく影響したが、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州でも同じことが起きた。
ザールラント州の選挙結果で見たとおり、「無党派層」の「浮動票」がCDUに流れたことが選挙結果に大きく影響したが、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州でも同じことが起きた。
2 シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州議会選挙(5月7日実施)
(1) 各政党の得票率と議席獲得数(投票率64.2%、2012年は60.2%)
政党名
|
得票率
|
獲得議席数
|
コメント
|
|
CDU
|
32.0%(+1.2%)
|
25(+3)
|
SPDと同数の22議席から3議席増やし比較第一党の座に
|
|
SPD
|
27.2%(△3.2%)
|
21(△1)
|
北ドイツでもシュルツ効果及ばず
|
|
緑の党
|
12.9%(△0.3%)
|
10(±0)
|
改選前の議席数を維持
|
|
FDP
|
11.5%(+3.3%)
|
9(+3)
|
大健闘
|
|
海賊党
|
1.2%(△7.0%)
|
0(△6)
|
5%を大きく割り議席を失う
|
|
SSW(※)
|
3.3%(△1.3%)
|
3(±0)
|
改選前の議席数を維持
|
|
AfD
|
5.9%(+5.9%)
|
5(+5)
|
同州で初の議席獲得
|
|
左派党
|
3.8%(+1.5%)
|
0(±0)
|
得票率は増やしたが議席獲得には至らず
|
|
その他
|
2.2%(△0.1%)
|
-
|
||
合計議席数
|
73議席(過半数は37議席)
|
|||
(※)SSWはSüdschleswigscher Wählerverband(南シュレスヴィヒ選挙人同盟)の略称で、同州
に住むデンマーク人の少数民族政党。少数民族を代表する地域政党は5%条項の適用外な
ので、得票率が5%未満でも議席が獲得できる。党のカラーは青と黄。
に住むデンマーク人の少数民族政党。少数民族を代表する地域政党は5%条項の適用外な
ので、得票率が5%未満でも議席が獲得できる。党のカラーは青と黄。
シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州のSPD、緑の党、SSWによる「海岸連立」は、同州議会の定数69議席のうち35議席を確保してかろうじて過半数を確保していたが、今回の選挙でSPDが1議席減らしたうえ、超過議席が発生したおかげで議員定数は73になり、過半数には3議席足りないという結果になってしまった。
そこで出てくるのがどの連立になるかという問題である。
(2)連立の組み合わせ
そこで出てくるのがどの連立になるかという問題である。
(2)連立の組み合わせ
政党名
|
議席数
|
大連立
|
信号連立
|
ジャマイカ連立
|
海岸連立(※)
|
CDU
|
25
|
○
|
○
|
||
SPD
|
21
|
○
|
○
|
○
|
|
緑
|
10
|
○
|
○
|
○
|
|
FDP
|
9
|
○
|
○
|
||
AfD
|
5
|
||||
SSW
|
3
|
○
|
|||
73
|
46>37
|
40>37
|
44>37
|
34<37
|
(※)およそ5万人のデンマーク人が海岸に面するシュレスヴィヒ地方に住んでいるためかSPD、緑の党、SSWの連立は「海岸連立(Küsten Koalition)」と呼ばれている。またの名はSSWの党のカラーのうち黄色をとって「デンマーク人の信号連立」、または素直に「赤緑青連立」との表現もある。
Welt紙には「ジャマイカ、信号又は大連立(“Jamaika,Ampel oder GroKo“)?」と、ジャマイカ人が見たら「何のことか」とびっくりするような見出しが出ていた(GroKoはGroße Koalition(大連立)の略)。
各党にはさまざまな思惑がある。
CDUはせっかく比較第一党になったのだから首相の座を射止めたい、一方のSPDは首相の座は渡したくない、(その場合、信号連立以外選択肢はないが)FDPは「信号連立はあり得ない」と言っている。
SSWの政策は左寄りでSPDと緑の党とは相性がいいが、数の上ではちょうど過半数の37議席になるCDU、FDPとの連立はありえない。
AfDは、将来的には他党との連立も視野に入れるというペトリ党首の「現実路線」の動議が4月24日にケルンで開催された党大会で却下され、さらに右傾化したので他党との連立はあり得ない(この結果、ペトリ党首は党内で孤立化した)。
こういった状況なので、連立交渉の駆け引きは長引くかもしれない。
次に、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州の1週間後に行われたノルドライン=ヴェストファーレン州議会選挙(5月14日実施)の結果を見てみたい。ここでは「無党派層」の「浮動票」だけでなく、CDUに対する期待の大きさが選挙結果に影響したことが見て取れる。
3 ノルドライン=ヴェストファーレン州議会選挙(5月14日実施)
(1) 各政党の得票率と議席獲得数(投票率65.2%、2012年は59.5%)
次に、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州の1週間後に行われたノルドライン=ヴェストファーレン州議会選挙(5月14日実施)の結果を見てみたい。ここでは「無党派層」の「浮動票」だけでなく、CDUに対する期待の大きさが選挙結果に影響したことが見て取れる。
3 ノルドライン=ヴェストファーレン州議会選挙(5月14日実施)
(1) 各政党の得票率と議席獲得数(投票率65.2%、2012年は59.5%)
政党名
|
得票率
|
獲得議席数
|
コメント
|
|
CDU
|
33.0%(+6.6%)
|
72(+5)
|
得票率、議席数ともSPDを逆転
|
|
SPD
|
31.2%(△7.9%)
|
69(△30)
|
30議席減らし記録的敗北
|
|
緑の党
|
6.4%(△4.9%)
|
14(△15)
|
連立与党も議席数が半減
|
|
FDP
|
12.6%(+4.0%)
|
28(+6)
|
2週連続で大健闘
|
|
海賊党
|
1.0%(△6.8%)
|
0(△20)
|
5%を大きく割り議席を失う
|
|
AfD
|
7.4%(+7.4%)
|
16(+16)
|
同州で初の議席獲得
|
|
左派党
|
4.9%(+2.4%)
|
0(±0)
|
得票率は増やしたが議席獲得には及ばず
|
|
その他
|
3.5%(△0.6%)
|
-
|
||
合計議席数
|
199議席(過半数は100議席) (※)
|
(※)NRW州議会の定数は199議席。2012年の選挙結果は超過議席が発生したので237議席で過半数は119議
席。SPDと緑の党で128議席を得ていたので過半数を超えていたが、今回の選挙では両党合わせて83議
席にしかならず過半数を割り込んだ。
(2)連立の組み合わせ
(3)有権者の関心が高い課題と課題解決に対する各政党への期待
(次回は6月25日に開催されるSPD党大会の様子をレポートします。)
過去の連載はこちらです。
ドイツ連邦議会選挙の行方(1)
ドイツ連邦議会選挙の行方(2)
政党名
|
議席数
|
大連立
|
信号連立
|
黒黄連立
|
ジャマイカ連立
|
CDU
|
72
|
○
|
○
|
○
|
|
SPD
|
69
|
○
|
○
|
||
緑
|
14
|
○
|
○
|
||
FDP
|
28
|
○
|
○
|
○
|
|
AfD
|
16
|
||||
199
|
141>100
|
111>100
|
100=100
|
114>100
|
シュルツ候補の出身地ノルドライン=ヴェストファーレン州でもSPDは負けてしまい、連立相手の緑の党も議席を大きく減らした。
その一方でCDUとFDPは躍進して、お互いが「望ましい連立」と言っている両党だけの連立でも過半数に達することになり、この両党の間で連立交渉が始められている。
(3)有権者の関心が高い課題と課題解決に対する各政党への期待
重要な課題上位5位
|
SPD
|
CDU
|
緑の党
|
FDP
| |
① 教育
|
41%
|
26%
|
31%
|
4%
|
11%
|
② 難民受入
|
27%
|
24%
|
31%
|
6%
|
6%
|
③ 交通
|
23%
|
19%
|
30%
|
11%
|
7%
|
④ 犯罪対策
|
15%
|
15%
|
39%
|
1%
|
4%
|
⑤ 雇用
|
13%
|
27%
|
36%
|
1%
|
9%
|
上の表は、有権者が重要と考える課題の上位5位と、それぞれの課題に対してどの政党が解決できるかという期待を表したもので、いずれもCDUがSPDを上回っている。
上位5位には、環境問題に関連する③交通問題を除けば緑の党の中心的政策である「環境問題」は入っていない。「環境問題」が有権者の関心事にならないことが緑の党の退潮の大きな原因になっているとの指摘もある(それだけ環境対策が進んでいるということであろう)。
また、独自路線を行くAfDは、党内の内紛が党のイメージを悪くして、それが選挙結果に影響したとの報道もあったが、その前から党内に極右勢力の台頭が目立ってきたことから、2016年に行われた州議会選挙では得票率が軒並み二桁だったものが、今年は一桁にとどまったところに有権者の「AfD離れ」を見ることがでる。
2016年 BW州15.1%、RP州12.6%、SA州24.3%、MV州20.8%、ベルリン都市州14.2%
2017年 Sa州6.2%、SH州5.9%、NRW州7.4%
2005年には当時のシュレーダー首相率いるSPDは、ノルドライン=ヴェストファーレン州でCDUに負け、連邦議会選挙でもCDU/CSUに負けて首相の座をメルケル氏に譲るという屈辱を味わった。
プロサッカー選手を夢見たシュルツ候補は、同州選挙翌日のインタビューでサッカーの試合にたとえて「まだ0対0だ」と強気の姿勢を崩していないが、連邦議会選挙まであと4か月、はたして逆転のゴールを奪うことができるのか。
6月25日にはSPDの党大会が開催され、そこで連邦議会選挙に向けた選挙公約が決定される。SPDはここで有権者の支持をつなぎ止める政策を打ち出すことができるのか注目したい。(次回は6月25日に開催されるSPD党大会の様子をレポートします。)
過去の連載はこちらです。
ドイツ連邦議会選挙の行方(1)
ドイツ連邦議会選挙の行方(2)