4回目を迎えた「クインテット」の今回のテーマは「具象と抽象の狭間」。
5人の中堅女性作家たちの個性が響きあうとても刺激的な展覧会です。
展覧会の詳細は公式サイトをご覧ください。
http://www.sjnk-museum.org/program/5165.html
それでは先日参加した内覧会に沿って展覧会の様子を紹介したいと思います。
(※「クインテットⅣ」の展示室内は撮影可能です。)
内覧会では、今回作品を出品された5人の中堅作家のみなさんからそれぞれお話をおうかがいすることができました。
最初の部屋は、船井美佐さん。
「この空間には線描と面で描く初期の作品から、『鏡』の作品、そして新作のドローイングまで今までの制作の流れに沿って作品が展示されています。こういった展示ははじめてのことです。」と船井さん。
初期の線描画。
日本画の伝統を守りながら、対象は動物だったり、植物だったり、人間の体だったり、体の中だったり、「見たこともない作品を描いた。」とのこと。
「これが線描時代の集大成。」と船井さん。
この作品は《womb-世界の内側と外側はどちらが内側で外側なのか》というミステリアスなタイトル。
この作品を見た人から、「これは楽園を描いているのですか。」と聞かれたという。
楽園は、誰もが行ったことがないのに、誰も知っている。それが不思議と思い、楽園を描くことを始めた船井さん。そこでできた作品が「鏡の作品」。
作品のタイトルは《Hole/桃源郷/境界/絵画/眼底》。
これは向こう側の理想の世界とこちら側の現実の世界を結ぶ「穴=hole」。
材料がアクリルミラーなので見ている人が入り込める不思議な感覚を覚える作品。
この作品は、船井さんが描いた原画を専門の工場で裁断したもの。線があまりに複雑なので工場では裁断するのをいやがられたと「現実」の苦労話もおうかがいしました。
この空間は「丸、三角、四角で構成されています。」と船井さん。
船井さんの後ろの作品はそのものずばり《まる、さんかく、しかく》ですが、四角はこの部屋そのものを指してませす。
だから、私たちはこの部屋に入った瞬間、作品の中に入り込む仕掛けになっています。
船井さんの後ろの作品はそのものずばり《まる、さんかく、しかく》ですが、四角はこの部屋そのものを指してませす。
だから、私たちはこの部屋に入った瞬間、作品の中に入り込む仕掛けになっています。
最近では2~3歳の子どもたちとのワークショップを開催しているという船井さん。
なぜかというと、生まれてまだ年数がたっていない2~3歳の子どもたちは生と死のはざまにいて、そこに原始的なパワーを感じるからとのこと。
そういったワークショップから生まれた作品。
なぜかというと、生まれてまだ年数がたっていない2~3歳の子どもたちは生と死のはざまにいて、そこに原始的なパワーを感じるからとのこと。
そういったワークショップから生まれた作品。
次は室井公美子さんの部屋。
あの世とこの世の間のぼんやりとしたイメージを描いたという室井さんの作品は、大画面に絵の具を叩きつけるように描いたかのようなパワーを感じさせてくれます。
「描くときにはものすごいエネルギーが必要ではないですか。」とおうかがいしたところ、「絵を描く時は集中しますが、もともと絵を描くのが好きなので、自然とのめり込んでいます。」と室井さん。最初からはっきりとしたイメージをもつのでなく、絵の具をいじりながら体を使って考えていく、とのことです。
作品のタイトルは哲学的なもの、ギリシャ神話からとったものが多いです。
《Psyche(プシュケー)》(左)、《DoxaⅠ(ドクサⅠ)》(右) |
こちらはあの世とこの世の門番《Gatekeeper(ゲートキーパー)》。
作品の前に立つとその作品がもつパワーを感じます。
続いて竹中美幸さんの部屋。
最初見た時は素材が何だかわかりませんでしたが、竹中さんのお話を聴いてびっくり。なんとこれはかつて映画で使われた35mmのカラーフィルム。
「透明の素材は、それ自体に存在感がないからこそ見る者に気づきを与えてくれるのです。」と竹中さん。
竹中さんがモチーフにしてるのは光と闇。フィルムは純粋な光に反応するので、表現する素材に適しているとのこと。
「フィルムは暗室で感光させて現像します。」
上の写真の左3枚は《新たな物語》のシリーズで、そこに映し出されているのは取り壊される実家とともに捨てられるたんす、カーテン、電灯。
「物語を排除したところに新たな物語が立ち上がる気がします。」と竹中さん。
近くでよく見ると、たんすの木目やカーテンのレースの模様、電灯のあかりがよく見えます。
小さい頃、たんすに囲まれた部屋の中にいて、たんすの木目が人の顔に見えたり、雲に見えたりした体験があるという竹中さん。
いろいろな色彩の水玉模様が浮かんでいるようなこれらの作品は、どう見えるかは、まさに見る人の想像力にゆだねられているのかもしれません。
こちらは透明なアクリル板2枚を重ねた《何処でもないどこか》のシリーズ。
左が《巡る雫》、右が《境界に浮かぶ橋》。
どちらもアクリル板特有のみずみずしさが感じられます。
そして青木恵美子さんの部屋。
「見えるものの奥にある、見えない普遍的なものを描きたい。」と青木さん。
Epiphany(顕現)、Presence(現前)、Infinity(無限)の3つのシリーズから考えて制作しているという青木さんの最初のコーナーはEpiphany(顕現)。
画面の上から大半を占める部分が「理想」、そして下の部分が「現実」。これらが響きあって一つの作品を構成しています。
近くで見ると、赤や青がとても鮮やかです。遠くから見ても部屋全体に赤と青のリズムが感じられます。
「色彩は私にとって重要なテーマで、大切な要素です。」と青木さん。
次はPresence(現前)。線で時間や空間を区切り、その存在を引き出しています。
そして、最近の作品はInfinity(無限)。近寄って横から見ると、いくつもの花びらが盛り上がっているのがわかります。これはすべてパレットの上で絵筆で固めたアクリル絵具を画面に貼り付けたもの。
「画面から動きのあるものを出したいと思っていたら、筆跡が花びらに見えてきました。身体性をともなった絵画、遠近法でないイリュージョンを表現する新しい絵画を描きたいと考えています。」
「赤は動、青は静。どちらも一番身近にある色で、空間として響きあうので赤と青を対比させました。」
最後は田中みぎわさんの部屋。
田中さんが絵を描くようになった動機は、母の実家の熊本に里帰りした時の夕立の体験にありました。
「外で遊んでいると急に黒い雲が出てきて、大きな太鼓のような雷の音がして、雨が降ってきました。天にはもっと大きな存在があって、怒って嵐をおこしているのではないかと、とても怖かったのですが、同時に白いカーテンのような雨に美しさを感じました。もともと絵が好きだったので、こういった心にあふれてくるものを絵で表現したいと思いました。」
下の写真の正面は《神様の手のひら》。嵐の激しさが伝わってくるようです。
次はなぜモノトーンで描くのか。
石垣島に1年半住んでスケッチをしていた時のこと。
「東の空に出てきた太陽に照らされて真っ赤に燃えた雲を表現するのに、赤い絵の具で描こうとしましたが、限界を感じました。五感で感じた色は白黒の方が表現できるのことがわかったのです。」
そして田中さんが今こだわっているのが、絵を描く紙。
柔らかくてしなやか、長持ちのする島根県産の「石州半紙稀」。その漉きたての生紙(きがみ)は自然のしみ込み方をするそうです。
熊本の天草半島で満月の夜、一晩中外で月を写生していた時に月の音を聴いたという田中さん。「私は自然の一部であると感じています。」
下の写真は《波間の子守唄(4枚組)》のうちの1枚。
嵐を描いた作品とはうってかわって、月夜の静寂さを感じさせてくれる作品です。
いかがだったでしょうか。
冒頭でもふれたように、会場内には5人の作家たちの個性が響きあっています。
ぜひともその場でご覧になってください。
2月18日(日)までです。