2018年7月23日月曜日

静嘉堂文庫美術館「明治150年記念 明治からの贈り物」ブロガー内覧会

静嘉堂文庫美術館「明治150年記念 明治からの贈り物」

待ちに待った展覧会がようやく始まりました!

この展覧会では、明治前期のスーパースター、橋本雅邦の《龍虎図屏風》(重要文化財 静嘉堂文庫美術館)が展示されるので、迫力ある大画面を久しぶりに見たいと思っていたのです。

龍の登場とともにおこった突風や雨の勢い、龍に向かって吠える虎、風にしなる竹、どれもが見る人の前に迫ってくるようで、期待どおりの迫力でした。
発表当時は「腰抜けの虎」と酷評されましたが、虎は決して怖気づいてはいません。果敢に龍に立ち向かっています。
そしてこの作品は近代日本画では初めての重要文化財です! 

もちろん他にも見どころいっぱい。
開会初日(7/16)に開催されたブロガー内覧会のトークショーで、この展覧会の見どころを紹介していただいたので、さっそくトークショーの様子をご披露したいと思います。
(展覧会の雰囲気を伝えやすくするため、トークショーのあとの質疑や、展示会場で行われたギャラリートークの内容を適宜盛り込んでいます。ご了承ください。)

※掲載した写真は、美術館より特別に撮影許可をいただいたものです。

「いまトピ~すごい好奇心のサイト~」で今年開催される近代日本画の展覧会を紹介しています。こちらもご参照ください。(終了した展覧会もありますのでご注意ください)
  ↓
近代日本画の世界へようこそ

トークショーのメンバーは、ご存知アートブロガーの草分け「青い日記帳」のTakさんがナビゲーター、そして静嘉堂文庫美術館の「饒舌館長」河野館長、今回の展覧会を担当した同館主任学芸員の長谷川さん。
それではトークショーの始まりです。

Takさん 今回の展覧会は明治からの贈り物ということで様々なジャンルの作品が展示され
 ていて、見どころは多岐にわたりますが、ベストスリーをあげていただけますでしょう
 か。
河野館長 一つは日本画から橋本雅邦《龍虎図屏風》(重要文化財 静嘉堂文庫美術館)。


  次に洋画から黒田清輝《裸体夫人像》(静嘉堂文庫美術館)。


  そして工芸から濤川惣助(下絵:渡邊省亭)《七宝四季花卉図瓶 1対》(静嘉堂文庫美
 術館)。


河野館長 この作品は、今でいえば「超絶技巧」。近代的な作品ながら、四季の草花をア
 レンジして、日本の伝統的四季感を描いてます。美的にも面白く、いろいろ考えさせて
 くれる作品です。
  下絵を描いた渡邊省亭(1851-1918)は、近代のシンボリックなアーテイストで、最近
 注目されてきた日本画家です。

  このあと長谷川さんから、「渡邊省亭は、柴田是真に弟子入りしようとしたが、是真
 から『あなたの画風は菊池容斎に向いている。』と容斎を紹介され、容斎に弟子入りし
 たというエピソードの紹介がありました。
 
長谷川さん 今回の展覧会は、作品の配置にも凝ったので、ぜひ作品が展示されている位
 置にも注目してください。
  展示室入口に展示されている2点の刺繍額はジョサイア・コンドルが設計した岩﨑家高
 輪本邸(現・三菱 関東閣)の貴賓室に飾られていた作品です。
  貴賓室といえばお客様をおもてなしする部屋。今回の展覧会でも入口でお客様をお迎
 えしています。

左から 菅原直之助《羽衣図 刺繍額》《鞍馬天狗図 刺繍額》(静嘉堂文庫美術館)

Takさん 貴賓室に刺繍というのは珍しいですね。
長谷川さん 三菱第二代社長・岩﨑彌之助は能楽師・初代梅若実から能を習い、熱心に稽
 古していました。そこで能をテーマにした刺繍の制作を菅原直之助に依頼したので  
 す。 
Takさん 来客はさぞかし驚いたのでは。能面の部分も糸の色を変えてヌメッとした質感を
 出してますね。
長谷川さん 私が初めて静嘉堂文庫美術館に来たときには館長室に飾られていたので、最
 初に見たときには驚きました(笑)。 

長谷川さん 展示室に入ると菊池容斎の大幅の掛軸が2点展示されていて、その横に容斎の
 弟子 松本楓湖の屏風《蒙古襲来・碧蹄館図屏風》(前期展示 7/16-8/12)を並べてい
 ます。

左から 菊池容斎《阿房宮図》(全期間展示)
《呂后斬戚夫人図》(前期(7/16-8/12)展示)
(後期(8/14-9/2)は菊池容斎《馮昭儀当逸熊図》)
(いずれも静嘉堂文庫美術館)


松本楓湖《蒙古襲来・碧蹄館図屏風》(静嘉堂文庫美術館)
(前期(7/16-8/12)のみの展示)

  後期(8/14-9/2)にはこのスペースに柴田是真の屏風《瀑布図屏風》が展示され、(是
 真に弟子入りするはずだった)渡邊省亭が下絵を描いた濤川惣助《七宝四季花卉図瓶》と
 向かい合うようになります。
  松本楓湖《蒙古襲来・碧蹄館図屏風》の向かいには修理後初公開の河鍋暁斎《地獄極
 楽めぐり図》(静嘉堂文庫美術館)が展示されています。


  (《地獄極楽めぐり図》画帖は、日本橋大伝馬町の大店、小間物問屋の勝田五衛が明治
   2年に14歳で亡くなった娘・田鶴の供養のため暁斎に制作を依頼したもので、全40
   図のうち物語部分35図を会期中4期に分けて場面替えして展示されます。展示期間
   は次のとおりです。)

   7/16(月・祝)~7/26(木) 田鶴の臨終と来迎、羅人宮、三途の川の渡し船に乗る等
   7/27(金)~8/9(木) 賽の河原、旅館はりまや到着、田鶴の身支度等
   8/10(金)~8/23(木) 家族との再会、芝居小屋、盛り場等
   8/24(金)~9/2(日)  地獄見物、閻魔大王、極楽行きの汽車、極楽往生等
 


長谷川さん 次のコーナーには6曲1双の橋本雅邦《龍虎図屏風》(下の写真右)と8曲1双
 の鈴木松年《群仙図屏風》(静嘉堂文庫美術館)(下の写真左)が並んでいます。


  この2双の大きな作品は、明治28年に開催された第4回内国勧業博覧会の出展作品
 です。
  第4回内国勧業博覧会は岩﨑彌之助が資金提供したもので、過去3回は東京で開催さ
 れたのに対して京都で開催されました。静嘉堂文庫美術館では同博覧会に出品された10
 双の屏風のうち8双を所蔵していますが、今回は賞を逃した2双を展示しています。
  今の皆さんの目でご覧になってどう感じられますでしょうか。
 
(第4回内国勧業博覧会に出品された屏風のうち静嘉堂文庫美術館所蔵の作品はパネル展示されています。こちらもご参照ください。なお、《龍虎図屏風》は入賞しませんでしたが、橋本雅邦は《釈迦十六羅漢》(個人蔵)で妙技一等賞を受賞しています。)



  鈴木松年《群仙図屏風》の隣は山本芳翠《龍虎図》(静嘉堂文庫美術館)。


長谷川さん 山本芳翠は洋画家で岩﨑家の肖像画が多いのですが、こちらは墨の濃淡で龍
 虎を描いた水墨画です。
  フランスに留学していた山本芳翠は、現地で法律を勉強していた黒田清輝と知り合
 い、清輝の画家としての才能を見出していた芳翠は清輝に画家になることを勧めまし
 た。芳翠がいなければ清輝の作品は生まれなかったでしょう。
  そこで山本芳翠《龍虎図》の正面に黒田清輝《裸体婦人像》を配置しました。
  この作品は岩﨑家高輪本邸(現・三菱 関東閣)のビリヤードルームに飾られていまし
 た。(当時の室内の写真がパネル展示されています。)

黒田清輝《裸体婦人像》(静嘉堂文庫美術館)(再掲)

長谷川さん この二つの作品の間には明治37年に開催されたセントルイス万国博覧会ゆか
 りの美術品が展示されています。セントルイス万国博覧会では、日本郵船会社(現 日本
 郵船株式会社)のブースが設けられていて、その休憩室には伊藤若冲《動植綵絵》の綴織
 が10枚飾られて「若冲の間」と名付けられました。
  展示されているのは、「若冲の間」を飾った織作品の制作過程の分かる下絵などで
 す。展示ケースの下には伊藤若冲《動植綵絵》のうち《池辺群虫図》の部分模写の下絵
 も展示されています。
  《動植綵絵》の綴織は博覧会終了後、ニューヨーク商工会議所に寄贈することになり
 ましたが、輸送中の船舶火災で全焼してしまいました。ここに展示されている作品は、
 当時の面影をうかがうことができる貴重なものです。
Takさん 下絵の集合体は大発見ですね。

セントルイス万国博覧会とゆかりの美術


河野館長 セントルイス万国博覧会で、なぜ当時はセカンドクラスの評価だった若冲が選
 ばれたのか。琳派ならわかるが、アメリカで開催ということで西洋人の目を意識したの
 か。あるいは京都の織物の技法の伝承のためだったのでしょうか。
Takさん 若冲については知り尽くした感がありますが、新しい発見もあるのですね。
長谷川さん 若冲の絵が細かすぎて原寸大では織れないので、拡大した織下絵を作成して
 います(作品番号31 上の写真左から2点目)。

Takさん ラウンジに展示されているのは明治の工芸作品ですね。

ラウンジ風景

長谷川さん 当館初めての試みなのですが、このコーナーだけは写真撮影可です。鈴木長
 吉の《鷹置物》が展示されていますので、外の緑を背景にぜひ写真をとっていただければと
 思います。



鈴木長吉《鷹置物》(静嘉堂文庫美術館)

Takさん 鷹が飛び立っていきそうですね。ラウンジからは天気がいい時は富士山が見える
 そうですね。
河野館長 この静嘉堂文庫美術館は周囲の空間も、古き良き武蔵野の面影を残している緑
があってとても趣があります。前回の展覧会でも緑をバックに弦楽四重奏のコンサート
 を開催しましたが、今回は初めての企画で、静嘉堂”庭園の花木を観察しようツアー”を
 開催します。
Takさん 講演会も豪華な講師陣ですね。
河野館長 入館料は必要ですが、講演会はすべて無料です。ぜひご参加を。

 ※8月26日(日)には河野元昭館長の「おしゃべりトーク」もあります。学芸員による列品
  解説、コンサートなど関連イベントも多数開催されます。
   詳しくは静嘉堂文庫美術館公式サイトでご確認ください。

Takさん 静嘉堂文庫美術館は展覧会のチラシのデザインもあか抜けてきましたね(笑)。
 我々アートファンはチラシから情報を得ることが多いので、チラシのデザインは大切だ
 と思います。

チラシ(表面)



チラシ(裏面)


河野館長 私は日ごろから、美術館には3つ「ティ」が必要と感じています。
  一つは「クオリティ」、展覧会に「質」が求められるのは当然のことです。
  二つめは「ポピュラリティ」、展示作品はやはりみなさんに知られているものが展示
 される必要があります。
 (河野館長からは、よく知られた静嘉堂文庫美術館所蔵の国宝の一つ《曜変天目》を展
  示する機会をもっと増やしたいとのお話もありました。)
  三つめが「パブリシティ」、これには今Takさんが言われたチラシもあるでしょうし、
 マスメディアもあります。そして、今日お集まりのみなさまが発信していただくSNSも
 大切であると考えています。
Takさん みなさんどうもありがとうございました。(拍手)

さて、「明治150年記念 明治からの贈り物」はいかがだったでしょうか。
橋本雅邦の迫力のある龍と虎、最近注目を浴びてきた渡邊省亭の四季折々の花、河鍋暁斎の地獄と極楽などなど、どれも見応えのある作品ばかりです。
ぜひその場でじっくりご覧になっていただければと思います。

また、静嘉堂文庫美術館ではすっかりおなじみになった展覧会の小冊子もショップで売っています。税込350円です。



最後になりましたが、トークショーでナビゲーターを務めていただいたTakさんの著書『いちばんやさしい美術鑑賞』が8月6日に発売されます。伊藤若冲や静嘉堂文庫美術館の曜変天目のことも書いているそうです。
新著と出版記念パーティーについてはこちらをご覧ください→http://bluediary2.jugem.jp/?day=20180713

新著楽しみです。私はさっそく書店で予約しました。出版記念パーティーも参加しますので、もし会場でお会いする機会がありましたらぜひアートについて語りましょう!