もうすでに行かれて実感された方もいらっしゃるかもしれませんが、まだ行かれていない方にもぜひおススメしたい展覧会。
それではさっそくですが、先日参加させていただいたブロガー内覧会の様子をお伝えしたいと思います。
※掲載した写真は、美術館の特別の許可をいただいて撮影したものです。
アメリカのコレクター、ダンカン・フィリップスさん(1886-1966)のコレクションは、外観も内装も明治の洋館の面影を残している三菱一号館美術館にピッタリ。
暖炉があって、その上にしゃれた額縁に入った絵が飾られていて、まるでフィリップスさんの邸宅にお邪魔して絵を拝見しているようなゴージャスな気分になってきます。
左から、セザンヌ《自画像》、ヴュイヤール《新聞》、マネ《スペイン舞踊》 |
シャルダン《プラムを盛った鉢と桃、水差し》 |
いかがでしょうかこの雰囲気。
館内を歩いているだけでもヨーロッパの貴族のお屋敷の中に迷いこんだような気分になってきませんか。
さて、今回展示されている絵画68点、彫刻7点はもちろんすべてフィリップス・コレクションなのですが、展示されている作品の順番にフィリップス・コレクションならではの「こだわり」があります。
どのような「こだわり」だったのでしょうか。
今回の展覧会を担当された三菱一号館美術館の安井裕雄さんと「青い日記帳」Takさんの息の合ったトークショーを聞いてみることにしましょう。
今回の展覧会を担当された三菱一号館美術館の安井裕雄さんと「青い日記帳」Takさんの息の合ったトークショーを聞いてみることにしましょう。
(トークショーは作品紹介の都合上、適宜構成を変えています。ご了承ください。)
左が安井さん、右がTakさん。バックはパウル・クレー《養樹園》 |
安井さん 今までにも当館でフィリップス・コレクション展を開催しようとしたのです
が、借りる作品の折り合いがつかなくて、3回目の半分まで流れました。
が、借りる作品の折り合いがつかなくて、3回目の半分まで流れました。
Takさん 今回も流れかけたのですね。
安井さん そうなんです。そして、開催が決まってからも作品の展示の順番でひと悶着あ
りました。Takさんは展示の順番だと、どういう順番を思い浮べますか?
Takさん たとえば印象派や後期印象派など流派別にするとか、風景画や人物画といっ
たジャンル別にするとか。
安井さん どれもNGだったのです。最終的に決まったのがなんと購入年代順!
Takさん 流派別やジャンル別だと何もフィリップス・コレクションでなくてもいいという
ことですね。
安井さん そうなんです。まさに今回の展示順はダンカン・フィリップスの嗜好の変化
の順番なのです。
Takさん 初期の明るい作品から、晩年のわび、さびの世界まであるというのが展覧会を
見た印象です。
見た印象です。
この展覧会は全部で7章構成になっています。
それでは初めに1930年代までの部屋を見ていくことにしましょう。
1 1910年代後半から1920年代
展示会場に入ってすぐの部屋に展示されているのはモネ《ヴェトゥイユへの道》。
やはりモネを見た瞬間、「ああ、モネだ。」と安心します。
それに私だって手が届けば、西洋絵画だったら最初にモネを買いますね(←もちろん夢のまた夢ですが)。
それに私だって手が届けば、西洋絵画だったら最初にモネを買いますね(←もちろん夢のまた夢ですが)。
展示風景。
右から、モネ《ヴェトュイユへの道》、ドラクロワ《パガニーニ》 ドーミエ《三人の法律家》 |
定規で引いたようなまっすぐな水平線が印象的なクールベ《地中海》(右)、なごみ系のシスレー《ルーヴシエンヌの雪》(左)。
次の部屋に移ります。こちら側は女性をモデルにした作品が並んでいます。
右から、モリゾ《二人の少女》、ボナール《犬を抱く女》 ドーミエ《蜂起》 |
反対側は風景画です。
右から、クールベ《ムーティエの岩山》、コンスタブル《スタウア河畔にて》 |
2 1928年の蒐集 フィリップスの嗜好形成
こちらは先ほども紹介した場面。やはり暖炉がいい雰囲気出してます。
左からセザンヌ《自画像》、ヴュイヤール《新聞》、マネ《スペイン舞踊》 |
3 1930年代 理想の蒐集品
続いて大部屋に移ります。
右から、アンリ・ルソー《ノートル・ダム》、ボナール《棕櫚の木》 |
右から、パウル・クレー《養樹園》、ボナール《開かれた窓》 ゴッホ《アルルの公園の入り口》 |
ここまで見てきたとおり、ボナールならボナール、ドーミエならドーミエと一つの部屋にまとまっていないのが、今回の展示の特徴。
さて、展示の順番は解決したはずだったのですが、安井さんがひととおり作品の展示を終えたあと、フィリップス・コレクションのスタッフが来日してからもドラマがありました。
安井さん 来日する前に、「今からでも展示作品の入れ替えができるか」との照会があり
ましたが、彼らは実際に会場に入って展示している作品の入れ替えを行ったのです。
「1 1910年代後半から1920年代」と「2 1928年の蒐集」は特に注文はつかなかっ
たのですが、「3 1930年代」の大部屋に入ると、ああでもないこうでもないと、おも
むろに絵を入れ替えてシャッフルし始めました。
たのですが、「3 1930年代」の大部屋に入ると、ああでもないこうでもないと、おも
むろに絵を入れ替えてシャッフルし始めました。
それでも結果的に入れ替えたのはボナールとクレーだけでした。
Takさん ボナールだけで並べるのでなく、ボナール、クレー、ボナールと並べたのです
ね。
安井さん この3点の共通点はわかりますか。
Takさん 色調が似ていますね。
安井さん そうですね。それに横長の線の構図。そして、クレーの「スクリプト絵画」を
間にはさんで画風の異なる作品を並べてアクセントをつけているのです。
こちらは同じく大部屋にあるゴヤ《聖ペテロの悔恨》。
隣に並ぶピカソ《闘牛》(写真撮影不可)との共通点は「三角構造が二つあること」。そしてゴヤの静に対して、ピカソの動で対比させているのです。
ゴヤ《聖ペテロの悔恨》 |
安井さん 大部屋ではボナールとクレーだけの入れ替えだったので、内心「やったー」と
思ったのですが、ここから先の部屋は入れ替えばかりでした(汗)。
フィリップス・コレクションのスタッフからは「もっとエンジョイしようよ」と言わ
れましたが、私には苦痛でしかありませんでした(笑)。
安井さん ボナールは目の前の光景でなく、記憶の中のシーンを描く画家でした。この
《開かれた窓》の右下の猫と女性がハイタッチしています(笑)。
ボナールといえば、現在、国立新美術館で「オルセー美術館特別企画 ボナール展」(9月26日~12月17日)が開催されています。
安井さん ボナール・コレクションが一番充実しているのはオルセー美術館、次がフィリッ
プス・コレクション。今なら東京メトロ千代田線に乗って乃木坂駅(国立新美術館)と二
重橋前駅(三菱一号館美術館)で降りればボナールの名作を見ることができるのです。
重橋前駅(三菱一号館美術館)で降りればボナールの名作を見ることができるのです。
さて、入れ替えばかりだったという部屋に進んでみましょう。
果たしてどのような理由でこの順番に並んでるのか、謎解きをしながら鑑賞するのも楽しみの一つかもしれません。
4 1940年前後の蒐集
右から、セザンヌ《ザクロと洋梨のあるショウガ壺》と《ベルヴュの野》 暖炉の上がスーラ《石割り人夫》 |
Takさんのおススメがスーラ《石割り人夫》。
小品ながら額に汗して働く人の姿が力強く描かれています。
マティス《サン=ミシェル河岸のアトリエ》 |
右から、スーティン《嵐の後の下校》、ドガ《稽古する踊り子》 |
フォト・スポット
フォト・スポットも忘れてはいけません。
ボナールの作品の横に立ってぜひ記念写真を!
5 第二次世界大戦後
Takさんが言われたように、晩年は、今までの明るい色調から、少しおとなしめの色調に嗜好が移ってきています。
右から、モンティセリ《花束》、スーティン《雉》、ゴーガン《ハム》 |
右から、ユトリロ《テルトル広場》、ブラック《驟雨》、スタール《北》 |
6 ドライヤー・コレクションの受け入れと晩年の蒐集
ここではフィリップス・コレクションの中でも異色の作品が並んでいます。
前衛芸術を支援して、自らも蒐集家であったキャサリン・ドライヤーが遺したカンディンスキー、フランツ・マルク、カンペンドンクといった前衛芸術グループ「青騎士」の作品群です。
暖かくてカラフルな色合いの作品を見ていると心がなごんできます。
右から、カンペンドンク《村の大通り》、フランツ・マルク《森の中の鹿 Ⅰ》 カンディンスキー《白い縁のある絵のための下絵 Ⅰ》 |
晩年にはモネやコローも蒐集しています。
右から、コロー《ジェンツァーノの眺め》、モネ《ヴァル=サン=ニコラ、ディエップ近傍(朝)》 |
7 ダンカン・フィリップスの遺志
ミュージアムショップ
そしてお帰りの前にはぜひミュージアムショップ「Store 1894」にお立ち寄りください。
なにしろ今回のグッズの充実ぶりは「すごい」の一言。
ショップの中央にはとても精巧にできたドールハウス。
家具も絵画も全部、ドールハウスの標準縮尺の1/12です。
なにしろ今回のグッズの充実ぶりは「すごい」の一言。
ショップの中央にはとても精巧にできたドールハウス。
家具も絵画も全部、ドールハウスの標準縮尺の1/12です。
このドールハウスは売り物ではありませんが、飾られている絵画は別売しています。
全部で10点、額縁も現地から写真を取り寄せて職人さんに作ってもらったという凝りよう。お値段は1,800~2,300円。
どれも欲しくなってしまいますが、全部買ったら大変な出費になってしまうので、悩ましいところです。
全部で10点、額縁も現地から写真を取り寄せて職人さんに作ってもらったという凝りよう。お値段は1,800~2,300円。
どれも欲しくなってしまいますが、全部買ったら大変な出費になってしまうので、悩ましいところです。
他にもミニチュアキャンバス、ミニプリント、マグネットなど、フィリップス・コレクションの絵画のグッズが盛りだくさん。
ポストカードも1枚150円。
暫定版販売数top10はTakさんのコラムで紹介しています。
私の好きなカンディンスキーがランクイン。うれしいです。
それに同じ「青騎士」のカンペンドンクも善戦しています。
ポストカード売れ行きナンバーワンはアノ画家だった!「フィリップス・コレクション」
展示されている作品も、展覧会のタイトルどおり「全員巨匠」の名作ばかり、それに関連グッズもこの充実ぶり。
本当に楽しめる展覧会です。ぜひぜひご覧になってください!
【基本情報】
「全員巨匠!フィリップス・コレクション展」
会場 三菱一号館美術館(JR東京駅丸の内南口から徒歩5分)
会期 2018年10月17日(水)~2019年2月11日(月・祝)
開館時間 10:00~18:00 ※入館は閉館の30分前まで(祝日を除く金曜、第2水曜、会期最終週平日は21:00まで)
休館日 月曜日(但し、祝日・振替休日の場合、会期最終週とトークフリーデーの10/29、11/26、1/28は開館)、年末年始(12/29、12/30、12/31、1/1)
入館料 一般 1,700円ほか
「全員巨匠!フィリップス・コレクション展」
会場 三菱一号館美術館(JR東京駅丸の内南口から徒歩5分)
会期 2018年10月17日(水)~2019年2月11日(月・祝)
開館時間 10:00~18:00 ※入館は閉館の30分前まで(祝日を除く金曜、第2水曜、会期最終週平日は21:00まで)
休館日 月曜日(但し、祝日・振替休日の場合、会期最終週とトークフリーデーの10/29、11/26、1/28は開館)、年末年始(12/29、12/30、12/31、1/1)
入館料 一般 1,700円ほか