2020年6月1日月曜日

祝・再開!三菱一号館美術館 画家が見たこども展

新型コロナウィルスの影響で休館していた三菱一号館美術館が6月9日(火)から再開します!

今回の「画家が見たこども展」は、勇退される高橋館長の最後の展覧会であると同時に、今まで30本以上ご自身が手掛けてきた企画展のうち最後の展覧会。
そういった意味でも、再開して本当によかったです。
6月21日(日)まで延長されますので会期はあと2週間。ぜひぜひ盛り上げていきたいです。
⇒9月22日(火・祝)まで再延長されました!


展覧会概要
会 期  9月22日(火・祝)まで
休館日  月曜日(但し、祝日・振替休日、6/29、7/27、8/31は開館)
開館時間 10:00~18:00 ※会期延長内での夜間開館は中止
※日時指定予約制です。
予約方法、来館時の注意事項は公式サイトでご確認ください→三菱一号館美術館(6月12日付美術館ニュース)
入館料・当日券 一般 1,700円ほか

※展示室内は一部を除き撮影禁止です。掲載した写真は、美術館より特別に許可をいただいて撮影したものです。

展覧会チラシ


さて、今回のテーマは「こども」。
休館前に開催されたブロガー内覧会では、新型コロナウィルスの感染防止で、恒例のギャラリートークは開催されない予定でしたが、高橋館長のご挨拶があり、「青い日記帳」Takさんとの短いトークがありました。

「今回の展覧会は、フランス・ボナール美術館とのコラボ企画で、ナビ派を中心として、ロートレックほかにまで範囲を広げた展覧会です。」と高橋館長。

では、なぜナビ派が中心なのでしょうか。

「西洋絵画では、聖母子は別にして、半人前と見られていた『子ども』はあまり描かれませんでした。それが18世紀に入ってロマン派の時代には、子どもに大人にはない原初的なものを見出し描かれるようになったのですが、子どもに対する考え方を決定的に変えたのはナビ派だったのです。ナビ派の画家たちは、子どもや、猫、犬といった身近な動物を好んで描きました。」

ナビ派とは、19世紀末にゴーギャンの影響を受けて、ポール・セリュジエ、ピエール・ヴィユヤール、ピエール・ボナール、モーリス・ドニらがパリで結成した芸術家グループのこと。「ナビ」とはヘブライ語で「預言者」という意味で、大胆な色使いと装飾性・平面的な構成が特徴とされています。

個人的にはあまりどぎつくない色あいで庶民の普段の生活の一場面を描いていて、身近にいる子どもたちや動物もすんなりと絵に溶け込んでいるので、作品にスーッと入りやすいという印象があります。

モーリス・ブーテ・ド・モンヴェル《ブレのベルナールとロジェ》
を前にご挨拶される高橋館長(左)とTakさん(右)
「これは草木を細かく描いている作品ですね。子どもたちは少し生意気そう(笑)。」とTakさん。
「ナビ派の画家の描くこどもは、かわいいばかりではないのです。ヴァロットンは善悪を超えた子どもたちを多く描いています。」と高橋館長。

フォトスポットにあるのヴァロットンの「可愛い天使たち」

さて、それではさっそく会場内をご案内することにしましょう。

展覧会は全部で6章構成になっています。

プロローグ 「子ども」の誕生

最初の部屋は、先ほど紹介したモンヴェルに始まり、ポール・マティ、ウジェーヌ・カリエールといった、ナビ派の画家たちと同時代に活躍したナビ派以外の画家たちの描いた作品が展示されています。
モンヴェルは少年少女向けの雑誌や絵本などで子どもたちを描いた人。この作品の少年たちはそれぞれ芸術の道を歩むことになった二人の息子だそうです。正面をしっかりと見据えた視線が、将来の道をとらえているようにも見えます。

プロローグ展示風景
次の部屋に入ると、ナビ派に多くの影響を与えたゴーガンのタヒチでのワンシーンを描いた作品群。

プロローグ展示風景

その向かいには、ゴーガンとともにパリを離れ、アルルに移住したゴッホが赤ちゃんを描いた《マルセル・ルーランの肖像》。モデルはアルルでの友人「郵便配達人」ジョセフ・ルーランの生まれたばかりの末娘。
生まれたばかりの赤ちゃんで、もちろんあどけなさはあるのですが、しっかりと見開いた目が存在感を感じさせてくれる不思議は作品です。
(ゴーガンとゴッホのアルルでの共同生活が長く続かなかったのはご案内のとおり。)
プロローグ展示風景

1 路上の光景、散策する人々

プロローグから子どもの絵で盛り上がってきたところで、いよいよここからがナビ派の登場。

はじめにボナールの『パリ生活の小景』から4点。
大通りを行き交う人たちや馬車、ありふれた街角の風景の中に子どもたちの生き生きとした姿が描かれています。犬も散歩していますね。

第1章展示風景

次の広い部屋に移ると、正面には『パリ生活の小景』をはじめとしたヴァロットンの一連の木版画。
この壁面の作品だけは撮影OK。来館記念にぜひ一枚!

第1章展示風景

ボナールの屏風画《乳母たちの散歩、辻馬車の列》にも再会できました。
第1章展示風景


2 都市の公園と家族の庭

田園風景の中の少女や子どもをえがいたのがナビ派との交流のあったマイヨール。
当初は絵画やタピスリーを制作していましたが、眼病のため彫刻に専念することになったマイヨールの描くのどかな風景や清楚な少女の姿に癒されます。

第2章展示風景
ヴィユヤールの描く公園の景色も、ナビ派との交流のあったアルフレド・ミュラーの郊外の景色や素朴な人物も見ていて和みます。

第2章展示風景


3 家族の情景

三菱一号館美術館ならでは、いつもため息をつきたくなるようないい眺め。
暖炉と西洋絵画の取り合わせはピッタリ。ボナールの作品が続きます。

第3章展示風景

ここでようやくモーリス・ドニ登場!
ドニが描く家族の情景。どの作品も小さな子どもが主役です。
第3章展示風景

4 挿画と物語、写真

ボナールは子どもたちを描いただけでなく、子どもたちがアルファベットを覚えるためのイラストも描きました。これらは残念ながら未完成に終わりましたが、その下絵が展示されています。

第4章展示風景
1898年にコダックからポケットカメラが発売されると、ボナールはいち早くそれを入手して、家族の団らんや旅の記録を収めました。
写真でもボナールは子供たちの生き生きとした姿をとらえています。

第4章展示風景


エピローグ 永遠の子ども時代

そしていよいよ最終章。

高橋館長おススメの作品は、ボナールの雄牛と白鳥。
「ボナールの《雄牛と子ども》《サーカスの馬》はほぼ絶筆に近い最晩年に制作された大作。死ぬ間際の狂気のような迫力を感じる作品です。」と高橋館長。

エピローグ展示風景

ナビ派や同時期に活躍した画家たちが、見て、描いた子どもたちの世界。
その中に一つの川のように流れるのが、初期から晩年までのボナールの作品。
エピローグはボナールの作品で締めくくられます。
「私には、ボナールはここにきて子どもたちの世界に入り込んでいったように思えます。」とお話しされた高橋館長。

まだ新型コロナウィルスは収束したわけではありませんが、多くの制約の中でも再開された「画家が見たこども展」。
ぜひ多くの方にごらんになっていただきたい展覧会です。