2020年8月4日火曜日

【祝・再開!】山種美術館 特別展「桜 さくら SAKURA 2020-美術館でお花見!-」

毎年春には花を描いた日本画の展覧会で私たちを楽しませてくれる山種美術館。

今年のテーマは「桜」。

3月14日に始まった特別展「桜 さくら SAKURA 2020 -美術館でお花見!-」も5月10日まで開催されて、いつものように春の訪れを知らせてくれるはずでした。
ところが、新型コロナウィルス感染拡大防止のため4月4日から臨時休館となり、残念ながらこのまま展覧会も終了してしまうのかな、と思っていたのですが、なんとうれしいことに7月18日から会期を延長して再開されることになりました!

【特別展】桜 さくら SAKURA 2020-美術館でお花見!-
会 期:2020年7月18日(土)~9月13日(日)
           (状況により変更される場合があります。)
開館時間:午前11時~午後4時(入館は午後3時30分まで)
休館日:月曜日(但し、8/10(月)は開館、8/11(火)は休館)
入館料:一般1,300円
展覧会の詳細や新型コロナウィルス感染防止対策については同館公式サイトでご確認ください⇒山種美術館

再開にあたり開館時間が短縮され、オンライン事前予約システムが導入されています。
入館日時オンライン予約サイト⇒https://www.e-tix.jp/yamatane-museum/

さらに学生さんにはうれしいお知らせがあります。

学生応援無料キャンペーン
8月4日(火)から9月13日(日)まで大学生・高校生の方は特別展1,000円のところ無料で入館できます。詳細はこちらです⇒学生応援無料キャンペーン
当日は学生証をお忘れなく!

今年は例年になく短い夏休みを過ごされているかと思いますが、せっかくの機会なので、夏休みは日本画を見に行きましょう!

 
さて、今回展示されているのは、もちろん桜を描いた作品なのですが、幕末から明治、大正、昭和、そして現代まで、日本画の大家たちの個性あふれる桜が会場内に咲き誇っています。
今年の春は自粛モードでお花見ができなかった分、この展覧会をご覧になって、ぜひ今年も「お花見気分」を味わっていただきたいです。




それではさっそく展示室に入ってみましょう。
展示作品は約50点、展示内容は「桜とともに」「名所の桜」「桜を描く」の3章構成で、どれもおススメの作品ばかりなのですが、今回は私の特にお気に入りの作品を各章2点に絞ってご紹介したいと思います。

※会場内は撮影禁止です。展示作品の写真は、美術館より特別の許可をいただいて掲載したものです。

第1章 桜とともに

桜といえば春、春といえば桜、古くから桜は日本の春にとって欠かせないアイテム。
第1章では、花見を楽しむ人たちや歴史上の人物とともに描かれた桜、普段の暮らしの中に描かれた桜の作品が展示されています。

その中から、昔の時代にタイムスリップして、当時の人たちといっしょに花見をしている気分になれる作品2点をご紹介しましょう。

展示会場に入ってすぐにお出迎えしてくれるのは、松岡映丘《春光春衣》。

松岡映丘《春光春衣》1917(大正6)年
絹本・彩色 山種美術館

光り輝くばかりの桜の花、十二単のあでやかな色遣い、そして金砂子がまかれ、キラキラ輝く女性たちの長い黒髪。
絢爛豪華な京の都に迷い込んだようで、気分はすっかり平安貴族。

それでもこの作品が描かれたのは平安時代ではなく、およそ100年前の大正年間。
作者は、大和絵を研究し、大和絵の復興に生涯をかけた松岡映丘(1881-1938)。

平安貴族になった気分で贅沢なお花見をお楽しみください。


次は時代がもう少し下って、花見の習慣が庶民にまで広まってきた江戸時代後半に行ってみましょう。
こちらの作品は、江戸の桜の名所に紛れ込んだ気分でお花見を楽しみたいです。

菱田春草《桜下美人図》1894(明治27)年
絹本・彩色 山種美術館
咲き誇る桜の下で楽しそうに話をする女性たち。
着物の女性たちと桜の取り合わせや、少し体をくねらせた女性のポーズは、一見すると浮世絵の肉筆画?と思ってしまいますが、実はこの《桜下美人図》は、明治中期から後期にかけて活躍して、惜しくも若くして亡くなった菱田春草(1874-1911)の東京美術学校在学時の作品なのです。
菱田春草は、のちに横山大観らとともに岡倉天心の薫陶を受けて朦朧体に挑み、短い活動期間ながら山種美術館所蔵の《釣帰》をはじめ数々の名作を残していますが、学生時代にはこのような作品も描いていたのです。


第2章 名所の桜

京都の嵐山や祇園、秀吉の花見で知られた醍醐、東京の千鳥ヶ淵、東北の三春や奥入瀬。全国各地の桜の名所が楽しめる第2章の作品の中から、特におすすめの2点を紹介したいと思います。

はじめに奥村土牛(1889-1990)の《醍醐》。

奥村土牛《醍醐》1972(昭和47)年
紙本・彩色 山種美術館
地面にどっしりと根を生やした桜の大木。画面全体を後ろからしっかり支えるかのようにデンと構える白壁、そして画面の上半分には淡紅色の桜の花。
よく見ると、桜の花は一つひとつの花びらが溶け合って、淡紅色がまるで一つの塊になって輝いているように見えてきます。

135点もの豊富な奥村土牛コレクションをもつ山種美術館では、いつも土牛の作品を楽しませていただいていますが、この《醍醐》をはじめとした、安定感のある構図の作品にいつもホッとさせられるのです。


一方、こちらは桜の花びら一枚一枚がはっきりとした太い輪郭線で描かれている橋本明治の《朝陽桜》。

橋本明治《朝陽桜》1970(昭和45)年
紙本・彩色 山種美術館

橋本明治は先ほど紹介した松岡映丘の門人でしたが、大和絵の復興には向かわずに、特に戦後は、「肥痩のない仏画の鉄描線のような」と形容された輪郭線と大胆で鮮やかな色彩で、独自の境地を切り開きました。この作品に描かれた桜も、デザイン性に富んだモダンな感じがしないでしょうか。

明治は、朝陽に映える桜のイメージを金砂子によって表現したとのこと。
黄金色に輝く桜の花をぜひお楽しみください。

第3章 桜を描く

どの章でも、それぞれの画家の個性的な桜が描かれた作品が展示されていますが、第3章では、中でも特に個性あふれる近代日本画の巨匠二人の「対決」をご紹介。

まずは、近代日本画の巨匠といえばこの人、横山大観(1868-1958)。

横山大観《山桜》1934(昭和9)年
絹本・彩色 山種美術館
大観は、日本の象徴としてし富士山や桜の絵を多く描きました。
しかし、大観の描く桜は、私たちがお花見で楽しむソメイヨシノやシダレザクラではなく、本居宣長が「しき嶋のやまとこゝろを人とはゝ朝日ににほふ山さくら花」と、その美しさをたたえた山桜なのです。

野山に人知れず咲く山桜。たよりなさげな幹と、はらはらと散る花びらにそこはかとない「物のあはれ」が感じられる作品です。


そしてもう一方の巨匠が、岡倉天心の没後、横山大観らが再興した日本美術院を脱退して、1929(昭和4)年に青龍社を結成した川端龍子(1885-1966)。

川端龍子《さくら》20世紀(昭和時代)
絹本・彩色 山種美術館
大画面に豪快で迫力ある絵を描いて「会場芸術」といわれた川端龍子らしく、か弱くはかない桜の花のイメージとは異なり、画面の半分以上を占めるごつごつとした太い幹。
この作品の主役は桜の花ではなく、太い幹なのです。

しかし、そう思いながら画面上の方にわずかに咲く桜の花を見ると、つぼみから満開の花まで、一つひとつが細かく丁寧に描かれているのがわかります。
龍子も実は桜の花に思い入れがあったのかもしれません。
果たしてこの絵の主役はどちらなのでしょうか?

戦前は仲たがいした二人の巨匠ですが、戦後は、山種美術館の創立者・山﨑種二氏の希望により企画された、大観、龍子、川合玉堂による「松竹梅展」(1955-1957)で競演するなど交流が復活したので、一安心。

ミュージアムショップ&カフェも再開してます

展覧会の再開にあわせて、オリジナルグッズを取り揃えたミュージアムショップ、オリジナルメニューを用意しているCafe椿も再開しています。

(ミュージアムショップで販売しているオリジナルグッズや、Cafe椿のメニューはこちらでご確認ください⇒山種美術館ショップ&カフェ

展示室内でお花見をしたあとは、Cafe椿で一休み。

抹茶と特製和菓子のセット(1,200円)
特製和菓子は5種類あって、私が選んだのは奥村土牛《醍醐》をモチーフにした淡い薄紅色の「ひとひら」。
抹茶の渋みと和菓子の上品な甘さのコンビネーションが絶妙です。

関東地方も梅雨が明けて暑い日が続いていますが、ぜひみなさんも、桜がいっぱいの会場にお越しになって、お気に入りの作品、お気に入りの桜を探してみてはいかがでしょうか。