2022年2月13日日曜日

大倉集古館「季節をめぐり、自然と遊ぶ~花鳥・山水の世界~」

桜や秋の草花、可愛らしい鳥たち、そしてゆったりとした山水の世界。
都会の喧騒を忘れさせてくれる、落ち着いた雰囲気の展覧会が東京・虎ノ門の大倉集古館で開催されています。

大倉集古館外観



展覧会概要


会 期   2022年1月18日(火)~3月27日(日)
     (前期(~2/20)と後期(2/22~)で巻替えのある作品があります。)
開館時間  10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日   毎週月曜日(祝日の場合は翌火曜日)
入館料   一般:1,000円
      大学生・高校生:800円※学生証をご提示ください
      中学生以下:無料
      ※各種割引料金は、下記、同館公式サイトの「利用案内」をご覧ください。
主 催   公益財団法人 大倉文化財団・大倉集古館

※ギャラリートーク(事前申込制、先着順)も開催されます。展覧会の詳細等は同館公式サイトでご確認ください⇒大倉集古館公式サイト


展覧会チラシ


展示構成
 第1章 和の世界~春と秋の造形~
  1 春-桜を愛でる
  2 秋-吉祥の造形
  3 秋-悲哀の季節
 第2章 漢の世界~水墨の花鳥山水~
  1 東洋蘭の世界
  2 中国の花と鳥
  3 春の訪れを知らせる花-梅
  4 山水に季節に観る
  5 山水に集う人々-漁師と飲茶
  6 光と大気を表現する

開幕から少し時間がたってしまいましたが、先日展覧会におうかがいしてきましたので、さっそく展示室内の様子をご案内したいと思います。

※展示室内は撮影禁止です。掲載した作品の写真は主催者より特別にお借りしたものです。
※展示作品はすべて大倉集古館所蔵です。


一足早くお花見気分


和歌や物語を背景とした「和」の世界の作品が楽しめる「第1章 和の世界~春と秋の造形~」で最初に目に入ってくるのは、大きな6曲1双の屏風《桜に杉図屏風》(桃山時代・16世紀)。



《桜に杉図屏風》(右隻)(桃山時代・16世紀)


《桜に杉図屏風》(左隻)(桃山時代・16世紀)

右隻の手前には大きな土堤(どは)が描かれていますが、これは木々の姿が遠く見える工夫とのこと。
まだまだ寒い日が続いていますが、この展覧会の会期末近くには出されそうな桜の開花宣言に先がけて、満開の桜の雄大なパノラマを楽しむことができます。

そして小さい桜の作品にも注目です。
《吉野山蒔絵五重硯箱》(江戸時代~明治・19世紀)(展覧会チラシの左上の小さい箱)には吉野山に咲く満開の桜と、そして山肌には散った桜の花びらが積もった様子も表現されているので、ぜひお近くじっくりご覧ください。



蘭は徳のある人の象徴



「第2章 漢の世界~中国の花鳥・山水~」では水墨画や漢詩の作品を中心とした「漢」の世界の花鳥・山水を描いた作品が展示されています。

最初にご紹介するのは、京都の建仁寺、南禅寺の住持をつとめた臨済宗の僧、玉畹梵芳(1348~1414-?)が描いた《墨蘭図》。 
《墨蘭図》玉畹梵芳筆、
室町時代・15世紀

中国では、草花や動物にそれぞれ意味が込められていて、蘭は徳のある人物の象徴。
《墨蘭図》の下の方にはとげのある茨(いばら)が描かれていますが、茨は小人物の象徴。
野原の風景を描いているようで、実はこの作品には、小人物がいる中でも徳のある人を目指しなさいというメッセージが込められているようにも思えました。
(「とげのある茨」でなく「徳のある人」になるよう努力しなくては!)。



続いては、金箋(細かい粒子状の金箔が散らしてある加工紙)の上に色鮮やな花鳥が描かれた《清朝名人便面集珍》のうちの李之洪(生没年不明)筆〈梅椿に白頭翁図〉。

《清朝名人便面集珍》のうち〈梅椿に白頭翁図〉
李之洪筆
中国明~清時代・18世紀

春の訪れを告げる梅と椿、そしてお互いに呼ぶ声が聞こえてきそうなつがいの小鳥たちが描かれた、ほのぼのとした作品ですが、頭の白いつがいの鳥は老人や長寿を表す白頭翁(シロガシラ)なので、この作品には老夫婦の長寿を願う思いが込められているのです。
そう思うと、さらにほのぼのとした気分になってきませんでしょうか。

《清朝名人便面集珍》は、清末の官吏 徐郙が所蔵した扇面16面をまとめたもので、今回は〈梅椿に白頭翁図〉を含め4面が展示されています。

中国絵画の中では《花鳥草虫図巻》(潘崇寧(生没年不明)筆 中国・清時代・康熙56年(1717年) 巻替えあり)にも注目したいです。
色とりどりの花が咲いて、そのまわりを蝶が飛んで、枝には雀が止まって、そこまではのどかな景色なのですが、花のまわりに集まるのはおびただしい数の蜂の大群!
刺されたらアナフィラキシーショックになってしまいそう。

中国絵画では、例えば「鹿」と「禄(=給料」)」など、縁起のいい文字と同音の動物が描かれることが多くありますが、雀や蜂にも意味があって、それぞれ同音の「爵(=爵位)」、「封(=土地)」を表すものなのです。
(なぜ蜂の大群が描かれているのかよくわかりました。)

猫が蝶を目で追いかける絵も中国では好んで描かれますが、これは猫と蝶がそれぞれ「耄(もう)」と「耋(てつ)」に通じて、「耄耋(=老年)」を願っている絵なので、蝶も吉祥をあらわしているのです。


文人画で高士気分


エアコンや扇風機などなかった江戸時代の人たちは暑さをしのぐため様々な工夫をしました。
それも今から見るととても優雅な工夫に思えます。

こちらの作品は、煎茶道の中心人物で、江戸後期の儒学者、漢詩人として知られた頼山陽(1781~1832)の書(右)と、同じく江戸後期の陶工で文人画家の青木木米(1767~1833)の画(左)。

山の中腹には滝を見ながら煎茶を楽しむ人たち、そしてさらに下の方には道に腰かけて滝を眺める高士の姿も見えます。

この作品を前にすると、俗世間から離れて山林などに隠れ住んだ高士たちの気分を一瞬でも味わうことができたような気がしてきました。

《五言絶句・山中煎茶図》
(書)頼山陽筆 (画)青木木米筆
江戸時代・文政7年(1824)


最後にご紹介するのは、江戸時代初期に狩野一門を率いた狩野探幽(1602~74)の《瀟湘八景図》。

若い頃は、京都・二条城の障壁画に見られるように、祖父の狩野永徳ばりの大胆な絵を描いた探幽ですが、晩年の「枯れた」趣きの出てきた探幽もいい味出しています。


《瀟湘八景図》狩野探幽筆
江戸時代・寛文5年(1665)


中国・江南地方、洞庭湖周辺の風光明媚な景色を描いた《瀟湘八景図》は、中国の画僧 牧谿のものがよく知られていますが、こちらは一枚の絵の中に八つの景色が盛り込まれた贅沢な内容の作品です。
そのうえ画面全体に牧谿作と同じようにふわ~っとした空気感が感じられるので、自宅に床の間があったら飾ってみたくなる一品です。


展示を見終わったとき、コロナ禍が猛威を振るう不安定な今だからこそ、心が安らかになる空間に身を置けることはとても貴重な機会であるように感じられました。

紹介した作品以外にも大倉集古館所蔵の珠玉の名品が展示されています。
この春おススメの展覧会です。ぜひご覧ください。