2022年11月26日土曜日

大倉集古館 企画展「大倉コレクション-信仰の美-」

東京・虎ノ門の大倉集古館では、企画展「大倉コレクション-信仰の美-」が開催されています。

大倉集古館外観

今回の企画展は、大倉コレクションの日本仏教美術の名品が一挙に公開される展覧会。
大倉集古館を代表する国宝〈普賢菩薩騎象像〉も特別公開されます。


展覧会チラシ

中世から近世・近代にかけての仏教美術の歴史をたどりながら、当時の人たちの信仰への思いを感じとることができる、とても落ち着いた雰囲気の展覧会ですので、さっそく展示の様子をご紹介したいと思います。

展覧会概要


展覧会名  企画展 大倉コレクション-信仰の美-
会 期   2022年11月1日(火)~2023年1月9日(月・祝)
      ※途中一部展示替えあり:後期展示12月6日(火)から
開館時間  10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日   毎週月曜日(祝休日の場合は翌火曜日)
      年末年始(12/29~1/1) ※1/2~1/9は休まず開館
入館料   一般:1,000円
      大学生・高校生:800円 ※学生証をご提示ください。
      中学生以下:無料
※展覧会の詳細、各種割引料金、会期中の併催イベント等は同館公式サイトをご覧ください⇒https://www.shukokan.org/

展示構成
 1.古代仏教と古経の世界
 2.密教~修法と荘厳~
 3.釈迦如来と弟子たち
 4.浄土教の美術~極楽浄土への憧憬~
 5.法華経と国宝〈普賢菩薩騎象像〉~美しきほとけへの祈り~
 6.神仏習合と民間信仰
 7.仏教美術の継承~極彩色を愛でる~

※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は主催者より特別にお借りしたものです。 
※掲載した作品はすべて大倉集古館所蔵、通期展示です。


動きの一瞬をとらえた緊張感がすごい!


最初にご紹介するのは、眼光の鋭さが際立つ〈法蓮上人坐像〉。

〈法蓮上人坐像〉鎌倉~南北朝時代・14世紀

衣を広げ、大きく目を開いて見上げている法蓮上人は何をしているところなのでしょうか。

これは、法蓮上人が12年間洞窟にこもって金剛般若経を誦読していたところ、目の前に倶利伽羅龍が現れ、龍が口から吐き出した宝珠を受ける迫真の場面をあらわしたものなのです。

どこにも逃げ場のない洞窟の中、いきなり火焔に包まれた龍が目の前に現れてもたじろぎもせず、「宝珠を落としてなるものか」とグッと龍を見据える法蓮上人の眼力に圧倒されます。


もう一つの作品は、阿弥陀如来が観音・勢至菩薩を伴って西方極楽浄土から迎えに来る場面が描かれた《阿弥陀三尊来迎図》。

〈阿弥陀三尊来迎図〉鎌倉時代・14世紀

阿弥陀如来、観音・勢至菩薩が急角度で降りてくる様子や、風になびいて尻尾が流れる雲からは、西方から急いでお迎えに来たというスピード感が感じられ、臨終を迎えたらすぐにでも極楽浄土に連れて行ってほしいという、当時の人たちの思いが伝わってくるように思えました。


関連作品の展示でその場の雰囲気が伝わってくる!


今年3月から5月にかけて東京国立博物館で開催された特別展「空也上人と六波羅蜜寺」で
空也上人立像をご覧になられた方もいらっしゃるかと思いますが、こちらで展示されているのは〈空也上人絵伝〉。

〈空也上人絵伝〉室町時代・16世紀

鞍馬山で修業していた空也が毘沙門天の導きで剃髪して、松尾明神から鉦鼓を渡され、念仏を唱え歩く場面が上から順に描かれている絵伝で、空也上人が「南無阿弥陀仏」と唱えると口から仏像が現れるおなじみの場面も描かれています。

そして〈空也上人絵伝〉と並んで〈鉦鼓〉(江戸時代・17~18世紀)や〈毘沙門天立像〉(北川喜内(生没年不詳)作 江戸時代・18世紀)が展示されていて、それと見比べながら〈空也上人絵伝〉を見ると、それぞれの場面の雰囲気がより一層リアルに伝わってきます。

そしていよいよ国宝〈普賢菩薩騎象像〉(平安時代・12世紀)。
久しぶりに優しいお顔をした普賢菩薩と、四肢を踏ん張り、けなげに普賢菩薩と台座を支える象にお会いすることができました。


国宝〈普賢菩薩騎象像〉平安時代・12世紀


さらに今回は関連して〈普賢十羅刹女像〉(鎌倉時代・14世紀)が展示されています。

〈普賢十羅刹女像〉(鎌倉時代・14世紀)

十羅刹女は、はじめは人の精気を奪う鬼女でしたが、のちに鬼子母神らとともに仏の説法に接して法華行者を守るようになった神女のことで、この作品のように白象に乗った普賢菩薩に伴って描かれることが多く、平清盛はじめ平家一門が厳島神社に奉納した『平家納経』の見返し絵にも描かれています。

厳島神社が所蔵する国宝『平家納経』を見ることはかないませんが、ありがたいことに、日本美術研究家・田中親美が制作した模本のうち一組を大倉集古館が所蔵しているので(大倉本)、私たちは平安時代の華麗な装飾を再現したきらびやかな模本を今回の企画展で見ることができるのです。


『平家納経 妙法蓮華経 従地涌出品 第十五(模本)』
田中親美(1875-1975)作 (大正~昭和時代・20世紀)


今回は全33巻のうち6巻が展示されていて、この巻の見返し絵には、十羅刹女の一人で、右手に剣、左手に軍持(水瓶)を持つ黒歯(こくし)が描かれています。


今年4月5日から5月29日まで大倉集古館で開催されていた企画展「人のすがた、人の思い-収蔵品にみる人々の物語-」で展示されていた狩野探幽筆〈探幽縮図〉はご覧になられましたでしょうか。
今回は企画展のテーマに合わせて、観音様をはじめ仏画の頁が展示されています。

展示されている作品
 重要美術品〈探幽縮図(道釈人物花鳥図画帖)〉
 重要美術品〈探幽縮図(三十三観音及び山水人物花鳥図画帖)〉 
  どちらも狩野探幽(1602-74)筆、江戸時代・17世紀


展示室内を巡って当時の人たちの祈りに思いを馳せていると心が落ち着いてくるように感じられました。
この冬おススメの展覧会です。