2023年4月29日土曜日

泉屋博古館東京 特別展「大阪市立東洋陶磁美術館 安宅コレクション名品選101」

東京・六本木の泉屋博古館東京では、特別展「大阪市立東洋陶磁美術館 安宅コレクション名品選101」が開催されています。

泉屋博古館東京エントランス


安宅産業株式会社の安宅英一氏(1901-1994)が収集した約千件近くに及ぶ東洋陶磁の「安宅コレクション」を、1976年に同社の経営が行き詰まり、散逸の危機に瀕した時に大阪市に寄贈して、大阪市立東洋陶磁美術館の建設に寄与したのが泉屋博古館を支援する住友グループであったというご縁で今回の特別展が泉屋博古館東京で開催されることになりました。

それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 期   2023年3月18日(土)~5月21日(日)
      *安宅コレクション作品の展示替えはありません(展示替は絵画作品のみ)
休館日  月曜日
開館時間 午前11時~午後6時(入館は午後5時30分まで)
     *金曜日は午後7時まで開館(入館は午後6時30分まで)
入館料  一般 1,200円 高大生 800円 中学生以下無料

※展覧会の詳細、関連イベント等は同館公式サイトをご覧ください⇒泉屋博古館東京     

展示構成
 《第一展示室》第一章 珠玉の名品
 《第二展示室》第二章 韓国陶磁の美
 《第三展示室》第三章 中国陶磁の美
 《第四展示室》第四章 エピローグ「歴史に残っても仕様がないでしょう」されど…

※所蔵に記載のない作品はすべて大阪市立東洋陶磁美術館蔵(安宅コレクション/住友グループ寄贈)です。
※本展は撮影可能です。撮影の注意事項は会場内でご確認ください。

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#安宅コレクション101


MOCOのヴィーナスの微笑みに癒されます


第一展示室の「第一章 珠玉の名品」では中国と韓国の陶磁器の名品が展示されいて、お互いの個性が響き合うまさに「美の競演」が繰り広げられています。

入口にはふっくらとした頬、頭を少しかしげて指先を合わせて可愛らしいポーズが魅力的な中国盛唐期の女性像がお出迎え。


「第一章 珠玉の名品」展示風景

この女性像は、今回の特別展のメインビジュアルになっていて、「MOCOのヴィーナス」の愛称で親しまれている《加彩 婦女俑》。
「ようこそいらっしゃいました。」と私たちに声をかけているようです。(MOCOとは大阪市立東洋陶磁美術館の略称です)。

《加彩 婦女俑》中国 唐時代・8世紀

しかしながら、8世紀のこの陶製の像は傷みが激しく、東京に運送するのに苦労したとのこと。保存状態を保つため、二度と東京に来ることはないかもしれないので、ぜひこの機会にじっくりご覧いただきたいです。

「三種の神器」を巡るエピソード


安宅英一氏の陶磁器収集への情熱が伝わってくるのが、東京・日本橋の老舗古美術商「壺中居」の創業者・廣田松繁氏(号・不孤斎)が「三種の神器」と称して秘蔵していた中国陶磁器が安宅氏の執念によってコレクションに加わったというエピソード。

「三種の神器」を所望した安宅氏に断りの書簡を送った不孤斎氏がある日安宅氏に呼ばれ座敷に通されると、床の間にはその断りの書簡が掛け軸になって飾られていたというのです。(詳しくは展示室内の解説パネルをご覧ください。)


「三種の神器」
右から、重要文化財《白磁刻花 蓮花文 洗》中国 北宋時代・11-12世紀、
《紫紅釉 盆》中国 明時代・15世紀、《五彩 松下高士図 面盆(「大明萬暦年製」銘)》
中国 明時代 万暦(1573-1620)

安宅氏の中国陶磁収集が本格化する契機となった「三種の神器」は並んで展示されているので、記念に撮影したいですね。

ゆるキャラ動物を探してみよう!


今回の展示で気が付いたのは、見事なデザインの陶磁器の名品の中にも、私たちをなごませてくれる「ゆるキャラ動物」がいることでした。

右 《青花 虎鵲文 壺》朝鮮時代・18世紀後半、
左 《鉄砂 虎鷺文 壺》朝鮮時代・17世紀後半


上の写真右の《青花 虎鵲文 壺》には、胴体が長くて愛嬌のある、一見すると猫のような虎が描かれています。
左の《鉄砂 虎鷺文壺》を見た時には「仙厓だ!」と心の中で叫んでしまいました。
この虎は、まるで江戸時代後期の画僧・仙厓が描くようなお茶目な表情をしています。

こちらは俵型の壺《粉青鉄絵 蓮池鳥魚文 俵壺》。
正面に描かれているのはカワセミが魚を捕らえようとする場面なのですが、なぜかあまり緊張感が感じられません。
泉屋博古館が所蔵する明末清初の画家・八大山人《安晩帖》(重要文化財)に出てくる「鱖魚(けつぎょ)」を思い浮かべてしまいました。

《粉青鉄絵 蓮池鳥魚文 俵壺》
朝鮮時代・15世紀後半~16世紀前半


他の展示室でも「ゆるキャラ動物」が見つかるかもしれません。ぜひ探してみてください!

安宅コレクションを世界に知らしめた韓国陶磁


安宅コレクションを日本国内だけでなく海外に知らしめたのは、コレクションのうち800件近くを占める韓国陶磁。きっかけは1991年に韓国陶磁に絞ってアメリカのシカゴ美術館、サンフランシスコ・アジア美術館、ニューヨーク・メトロポリタン美術館を巡回した「安宅コレクション展」でした。

「第二章 韓国陶磁の美」展示風景


今回の特別展でも、透明感のあるシンプルな色合いのものから花柄模様のものまでバラエティに富んだ青磁や白磁の名品が楽しめるので、アメリカの人たちも満足したのではないでしょうか。

「青磁は青い」と思っていたのですが、黒色や褐色の青磁もあるのです。
色合いが違ってくると、なんとなくエキゾチックな雰囲気が感じられるから不思議です。

右から 《青磁鉄地象嵌 草花文 梅瓶》高麗時代・12世紀、
《青磁鉄地象嵌 如意頭文 瓶》高麗時代・13世紀、
《粉青面象嵌 草花文 瓶》朝鮮時代・15世紀


国宝の陶磁の輝き


第三展示室には国宝2件を含む中国陶磁の名品が展示されています。

「第三章 中国陶磁の美」展示風景

国宝は、かつて豊臣秀次が所蔵していた《油滴天目 茶碗》と、江戸時代の大坂の豪商・鴻池家に伝来した《飛青磁 花生》。
この2点と重要文化財の《木葉天目 茶碗》はそれぞれ独立ケースに入っているので、四方からぐるぐると回って違う角度から模様の変化を楽しむことができます。

国宝《飛青磁 花生》元時代・14世紀


収集や鑑賞の秘話が残る作品


第四展示室《エピローグ「歴史に残っても仕様がないでしょう」されど…》には収集や鑑賞の秘話とも言えるエピソードが伝わっている作品とともに、青銅器や堆朱の盆といった陶磁器以外のジャンルで安宅氏が収集した名品や安宅コレクションの激動の歩みがうかがえる大阪市立東洋陶磁美術館の開館時の資料などが展示されています。

この「歴史に残っても仕様がないでしょう」という言葉は、大阪市立東洋陶磁美術館の初代館長で、現在は同館名誉館長の伊藤郁太郎氏が「安宅コレクション」の図録制作を提案した時に安宅英一氏が発したと言われていますが、現在の私たちはこのように東洋陶磁の名品をまとまって見ることができるので、歴史に残って本当によかったと思います。


「第四章 エピローグ」展示風景

昭和44年(1969)に安宅英一氏の父で安宅産業の創業者・安宅彌吉氏の故郷・金沢にある石川県立美術館で初めて安宅コレクション展が開催された時、人間国宝の陶芸家・濱田庄司氏(1894-1978)が長時間立ち止まったというエピソードが残るのが、朝鮮時代のこの壺。



《粉青線刻 柳文 長壺》朝鮮時代・15世紀後半~16世紀

決して技巧的とはいえませんが、大胆な線刻の筆致に驚かされます。
特に幹の波線には「どうだ!」といった自信が感じられ、しばし見入ってしまいました。

観賞のお伴にはミュージアム展示ガイド「ポケット学芸員」をぜひ!


作品鑑賞にはご自身のスマートフォンで作品解説や音声ガイドを楽しむことができる「ポケット学芸員」がおすすめです。
作品解説だけでなく、陶磁器の底など展示室では見ることができない部分も見ることができます。

無料のアプリのダウンロードや利用方法はミュージアムショップ横の解説パネルをご覧ください。
音声ガイドをご利用の際は、イヤホンやヘッドフォンを必ずご使用ください。イヤホンはミュージアムショップでも販売しています。






奇跡のコレクションを紹介した『大阪市立東洋陶磁美術館 安宅コレクション 名品選101』がおすすめです!


今回の特別展に併せて刊行された『大阪市立東洋陶磁美術館 安宅コレクション 名品選101』には、展示作品のカラー図版や解説、散逸危機当時の関係者による対談、興味深いコラムなどが掲載されているので、おすすめです。
泉屋博古館東京ミュージアムショップはじめ書店でも販売してるので、鑑賞の思い出にぜひ!

作品解説のキャッチコピーも印象的です。
国宝の《油滴天目 茶碗》は「油滴、素敵、無敵!」。説得力があります。

『大阪市立東洋陶磁美術館 安宅コレクション 名品選101』


普段は大阪・中之島まで行かないと見ることができない東洋陶磁の名品を東京で見られるという絶好のチャンスです。
ゴールデンウイークにぜひ訪れてみませんか。