2024年8月5日月曜日

山種美術館 【特別展】没後25年記念 東山魁夷と日本の夏

東京・広尾の山種美術館では、【特別展】没後25年記念 東山魁夷と日本の夏が開催されています。




今回の特別展は、日本を代表する風景画家・東山魁夷(1908-1999)の大作《満ち来る潮》や「京洛四季」連作4点ほか、山種美術館が所蔵する魁夷コレクション全点が10年ぶりに一挙公開される豪華な内容で、あわせて浮世絵から近代、現代の日本画まで、海の景色や夏の風物詩を描いた作品も大集合しているので、猛暑の夏に涼しさが感じられる、とても心地よい展覧会です。

展覧会開催概要


会 期  2024年7月20日(土)~9月23日(月・振休)
     ※会期中一部展示替えあり。
開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日  月曜日(8/12(月・振休)、9/16(月・祝)、9/23(月・振休)は開館、8/13(火)、
     9/17(火)は休館)
入館料  一般 1400円、中学生以下無料(付添者の同伴が必要)
夏の学割 大学生・高校生 500円
※チケットの購入方法、各種割引等は山種美術館公式サイトをご覧ください⇒https://www.yamatane-museum.jp/

展示構成
 第1章 東山魁夷と日本の四季
 第2章 日本の夏
 オンライン講座関連作品

*展示室内は次の作品を除き撮影不可です。掲載した写真は内覧会で美術館より許可を得て撮影したものです。

東山魁夷「京洛四季」のうち、新緑の修学院離宮を描いた《緑潤う》のみスマホ、タブレット、携帯電話限定で写真撮影可OKです。

東山魁夷「京洛四季」のうち《緑潤う》1976(昭和51)年 山種美術館



第1章 東山魁夷と日本の四季

展示室内に入ってお出迎えしてくれるのは東山魁夷《月出づ》(山種美術館)。
いつも第1展示室の最初に展示されるのはどんな作品だろうと楽しみにしていますが、今回も期待どおりの名品が展示されていました。
長野県志賀高原に取材したこの作品は、手前に白樺の生える薄い緑の山、後ろに濃い緑の山が描かれていて、後ろの山から出てくる満月が優しく「こんばんは」と言っているように思えました。

展示風景
手前が 東山魁夷《月出づ》1965(昭和40)年 山種美術館

風景画作品が並ぶ向かい側には、今回の大きな見どころのひとつ、作家・川端康成の「京都は今描いといていただかないとなくなります。京都のあるうちに描いておいてください」という言葉をきっかけに、東山魁夷が京都の四季を描いた連作「京洛四季」のうち山種美術館が所蔵する4点がそろい踏みしています。

東山魁夷「京洛四季」のうち、右から《春静》1968(昭和43)年、
《緑潤う》1976(昭和51)年、《秋彩》1986(昭和61)年、
《年暮る》1968(昭和43)年、いずれも山種美術館

さらに先に進むと、岩に砕け散る波の音や、ゴーゴーという潮風が吹く音が聴こえてきそうな大迫力の大作《満ち来る潮》(山種美術館)が見えてきます。

東山魁夷《満ち来る潮》1970(昭和45)年 山種美術館

東山魁夷が手がけた皇居新宮殿の長和殿の壁画《朝明けの潮》を宮殿で目にした山種美術館創立者の山﨑種二氏が、誰もが観賞できるようにと魁夷に同趣作品を依頼して制作されたのがこの《満ち来る潮》。
国賓を迎える皇居新宮殿には誰でも入れるわけではないので、国賓になった気分でこの場で見られるのはとてもありがたいことです。

そしてこの作品の手前の展示ケースにも注目したいです。
この《満ち来る潮 小下図(2)》には、近くで見ると画面一面に鉛筆でマス目がびっしり書かれていて、その上に海面や波、岩が描かれているのがわかります。完成作品のどっしりとした安定感のある岩も、こうやって位置決めをしていたことがわかりました。

東山魁夷《満ち来る潮 小下図(2)》1969-1970(昭和44-45)年頃
山種美術館

新宮殿壁画制作のため全国の海岸を巡って描いた岩や波のスケッチもあわせて展示されているので、魁夷が《満ち来る潮》の完成に至るまでの過程がわかり、とても興味深かったです。

展示風景



第2章 日本の夏

「酷暑」という言葉がすっかり定着して、今ではひたすら熱中症にならないように気をつけている毎日ですが、日本の夏というとすぐに思い浮かべるのは「海」。

海の景色を描いた迫力の大画面の二作品、東山魁夷の《満ち来る潮》と川端龍子の《鳴門》(山種美術館)が並んでいる様は壮観です。

川端龍子《鳴門》1929(昭和4)年 山種美術館


《鳴門》は、1928(昭和3)年に龍子が横山大観らの日本美術院から脱退し、自らが設立した青龍社の第1回青龍展に出品した記念すべき作品でした。
「会場芸術」を唱えた龍子の気迫が伝わってくる作品ですが、高価な群青を惜しみなく3.6kgも使ったという点でも龍子の心意気が感じられてきます。

一方、横山大観が描く《夏の海》(山種美術館)には、1906(明治39)年に岡倉天心が大観らを引き連れて日本美術院を移した茨城県五浦(いづら)の海岸を思わせる、切り立った岩と荒れた海、風に揺らめく松が描かれています。
五浦には映画『天心』のロケセットや、天心記念五浦美術館があって、いわば「近代日本画の聖地」。この作品を見たらもう一度行ってみたくなりました。

横山大観《夏の海》1952(昭和27)年頃 山種美術館


「日本画の専門美術館」山種美術館のコレクションの中では異色なのが、明治大正期の洋画家で「近代洋画の父」と呼ばれた黒田清輝(1866-1924)の《湘南の海水浴》(山種美術館)。

黒田清輝《湘南の海水浴》1908(明治41)年 山種美術館

海水浴といっても、泳いでいるわけでなく、最初は手に持った棒で魚を獲ろうとしているのだろうかと思いましたが、この作品が描かれた明治の頃は、病気治療や保養のため棒につかまって海に入るのが一般的だったのです。

夏の風物詩の中には、今では見られなくなったものもあります。
そのひとつが、江戸時代に夏から秋にかけて蛍や鈴虫などの虫を虫籠に入れて売り歩く「虫売り」。
「虫売り」は見られなくなっても、虫を見ている子どもたちのうれしそうな顔は、今も昔も変わらないですね。

左から 伊藤小坡《虫売り》1932(昭和7)年頃、
川合玉堂《鵜飼》1939(昭和14)年頃、奥村土牛《朝市の女》1969(昭和44)年
いずれも山種美術館


夕方にサーッと降る夕立、軒下で雨宿りをしながら空を見上げる粋なお兄さん。
とっても「絵」になる場面ですが、最近のニュースなどで耳にするのは、瞬く間に冠水して大きな被害をもたらす「ゲリラ豪雨」。
「夕立」という風流な言葉は昔を懐かしむ風物詩になってしまったのかもしれません。

池田輝方《夕立》1916(大正5)年 山種美術館


オリジナルグッズも充実してます!


「魁夷ブルー」が落ち着いた雰囲気を醸し出している「ブックカバーしおりセット」は、今回のイチ押しです。



東山魁夷《満ち来る潮》の大判ハガキは、卓上にピッタリのサイズです。



ミュージアムショップで販売している『色から読み解く日本画』(山種美術館特別研究員の三戸信惠さんの著書です)もおすすめです。
表紙を飾る東山魁夷《満ち来る潮》はじめ、同じく東山魁夷の《年暮る》、川端龍子《鳴門》など山種美術館所蔵作品を中心に、赤、青、黄、緑、金・銀、白、黒といった色ごとに作品を読み解いていくという、とてもわかりやすい内容になっています。




オリジナル和菓子も涼しげです!

東山魁夷の大作や夏の風情を描いた作品を見たあとには、涼し気なオリジナル和菓子でほっとした気分になりたいですね。
「Cafe椿」では、今回の特別展出品作品をモチーフにした和菓子や、ランチメニューなどが楽しめます。





オンライン講座のご案内

昨年大好評だった並木秀俊氏(截金師・日本画家・東京藝術大学ゲスト講師)の截金講座第2弾がオンライン配信で始まっています。
申込方法など詳しくはこちらをご覧ください⇒https://www.yamatane-museum.jp/2024/07/post-591.html



まだまだ暑い日が続きますので暑さ対策を万全にしていただいて、涼しさが感じられる【特別展】 没後25年記念 東山魁夷と日本の夏をぜひご覧ください!