2025年9月17日水曜日

東京国立博物館 特別展「運慶 祈りの空間ー興福寺北円堂」

東京・上野公園の東京国立博物館では特別展「運慶 祈りの空間ー興福寺北円堂」が開催されています。

 


普段は非公開の奈良・興福寺北円堂(ほくえんどう)から、鎌倉時代を代表する仏師・運慶晩年の傑作として知られるご本尊の国宝《弥勒如来坐像》が、修理完成を記念して約60年ぶりに東京に来られました。
両脇を固めるのは、同じく運慶作の国宝《無著菩薩立像》、《世親菩薩立像》。そして今回の特別展では、かつて北円堂に安置されていた可能性が高い《四天王立像》(国宝)を合わせた7軀の国宝仏が一堂に会して、鎌倉復興当時の北円堂内陣が再現されるという奇跡の空間が実現しているのです。

どれだけすごい展覧会なのかは見てのお楽しみですが、さっそく展示の様子をご紹介したいと思います。


展覧会開催概要


会 期  2025年9月9日(火)~11月30日(日)
休館日  9/29(月)、10/6(月)、10/14(火)、10/20(月)、10/27(月)、11/4(火)、
     11/10(月)、11/17(月)、11/25(火)
開館時間 午前9時30分~午後5時
     *毎週金・土及び10/12(日)、11/2(日)、11/23(日)は午後8時まで開館
     *入館は閉館の30分前まで
会 場  東京国立博物館 本館特別5室 [上野公園] 
展覧会の詳細、チケットの購入方法、イベント等は展覧会公式サイトをご覧ください⇒特別展「運慶 祈りの空間ー興福寺北円堂」

※展示室内は撮影不可です。掲載した写真は、報道内覧会で主催者より許可を得て撮影したものです。


今回の見どころのひとつは、約60年ぶりに東京で公開されることになった北円堂のご本尊《弥勒如来坐像》。令和6年度の修理後初公開です。


手前 国宝《弥勒如来坐像》、奥左から《世親菩薩立像》、《無著菩薩立像》
すべて国宝 運慶作 鎌倉時代・建暦2年(1212)頃 
奈良・興福寺蔵 北円堂安置

展示室内のしつらえも素晴らしいです。
仏像を囲むように朱塗りの柱や梁が造られ、北円堂内陣の八角須弥壇とほぼ同寸の八角形のステージの上に《弥勒如来坐像》と両脇に《無著菩薩立像》、《世親菩薩立像》が鎮座しているので、まるで北円堂の中に入ったような雰囲気に一気に引き込まれます。

さらに北円堂ではできないことですが、弥勒如来や無著・世親像の後ろに回って背中まで拝むことができるのです。
通常は《弥勒如来坐像》の背中には光背が立てられているので、少しほっそりとして、それでいて安定感のある背中を拝むことができるのも今だけです。

左から、《無著菩薩立像》、《弥勒如来坐像》、《世親菩薩立像》
すべて国宝 運慶作 鎌倉時代・建暦2年(1212)頃
奈良・興福寺蔵 北円堂安置



弥勒如来は、弥勒菩薩が釈迦入滅後56億7000万年後の未来に成仏した姿でこの世に下り、衆生を救う仏さま。気が遠くなるほど待たなくてはならない仏さまですが、目の前に立つと温和なお顔に思わず心が和んでくるから不思議です。

左から、《世親菩薩立像》、《弥勒如来坐像》、《無著菩薩立像》
すべて国宝 運慶作 鎌倉時代・建暦2年(1212)頃
奈良・興福寺蔵 北円堂安置

以前、北円堂の特別公開の時に見て特に印象に残ったのが、目には玉眼を嵌め、まるで生きている人のように見えた無著と世親、北インドで活躍したふたりの兄弟の立像でした。
少し右に顔を傾けた《無著菩薩立像》と、左を向いた《世親菩薩立像》と目が合った瞬間、「よく来たな。」と声をかけられたような気がしたこと思い出したのです。
今回も「またお会いできました。」と心の中であいさつをさせていただきました。


興福寺北円堂は、興福寺の創建者・藤原不比等の追善のため721年に建立されましたが、1049年の火災、1180年の平氏による南都焼き討ちで二度にわたって焼失してしまいました。
復興には長い年月が費やされ、1210年頃には堂が完成し、造像は運慶一門が総力をあげて手がけ、1212年頃には北円堂諸仏が再興されています。
堂内に安置されていた仏像は、弥勒如来、両脇侍菩薩、四天王、二羅漢(無著、世親)の9軀で、そのうち四天王立像は長い間失われたものとされてきましたが、近年では現在、中金堂に安置されている四天王立像がこれにあたるという説が支持を集め、その優れた造形から運慶一門の作とも考えられています。
(現在、北円堂では両脇侍菩薩は後世のもの、四天王立像は平安時代のものが安置されています。)

今回の特別展のもう一つの見どころは、北円堂の弥勒如来像と無著・世親像、中金堂の四天王立像を組み合わせて展示することで、鎌倉復興当時の北円堂内陣が再現されていることです。

東を「持国天」、南を「増長天」、西を「広目天」、北を「多聞天」、どれも勇壮なお顔をして東西南北を守る《四天王立像》は近くで見るとこのとおり、ものすごい迫力が伝わってきます。

奈良時代の広目天は筆と巻子を持つのが通例でしたが、右手を腰にあて、左手に身の丈より長い矛(ほこ)を持ち、「どうだ!」と言わんばかりの堂々とした広目天の姿には新しい時代の息吹が感じられます。


国宝《四天王立像(広目天)》鎌倉時代・13世紀
奈良・興福寺蔵 中金堂安置

右手に矛を持ち、左手で宝塔を高々と掲げる姿の多聞天も、新しい時代の到来を高らかに宣言しているようで、こちらも好きなポーズです。


国宝《四天王立像(多聞天)》鎌倉時代・13世紀
奈良・興福寺蔵 中金堂安置

展覧会特設ショップでは、出品作品にちなんだ個性的なオリジナル商品が盛りだくさん。
「フィギュア多聞天」は小さいながらも迫力満点!
ほかにもほしいグッズが並んでいるので、どれにしようか迷ってしまいます。


展覧会特設ショップ


気鋭の写真家・佐々木香輔氏が堂内で撮り下ろした写真が60ページ以上にわたって続き、通常の図録よりも大判のB4サイズで、まるで写真集のような公式図録もおすすめです。
今回の特別展で紹介される7軀の像のX線断層(CT)調査の成果や、弥勒如来坐像の像内納入品、墨書などの記録や詳しいコラムも収録されています。
そして、この図録はなんと「本編」!
別冊図録「展示風景編」は10月下旬に発売予定ですので、こちらも楽しみです。


公式図録「本編」



運慶仏7軀が織りなす鎌倉期北円堂の奇跡の空間が目の前に広がります。
この秋おすすめの展覧会です。







【VR作品『興福寺 国宝 阿修羅像 』のご案内】

VR(バーチャルリアリティ)によるデジタルならではの新しい文化財鑑賞方法が体験できるTNM&TOPPANミュージアムシアターでは、9月23日(火・祝)から12月21日(日)までVR作品『興福寺 国宝 阿修羅像』が上映されます。
2009年に東京国立博物館平成館で開催された「国宝 阿修羅展」で空前の人気を博した国宝《阿修羅像》(興福寺蔵)の謎に迫る内容です。
詳しくはこちらをご覧ください⇒東京国立博物館ミュージアムシアター


『VR作品『興福寺 国宝 阿修羅像』
総監修:法相宗大本山興福寺 監修:金子啓明・鈴木嘉吉
 制作・著作:株式会社朝日新聞社・TOPPAN株式会社  


東京国立博物館本館1階11室「彫刻」の部屋では、特別展「運慶 祈りの空間ー興福寺北円堂」に合わせて、9月30日(火)から12月21日(日)まで、運慶の同世代や弟子たちが制作した彫刻が中心に展示され、慶派仏師の流派としての特徴や各仏師の作風の個性が紹介されるので、お見逃しなく!