東京・広尾の山種美術館では、【特別展】日本画聖地巡礼2025  ー速水御舟、東山魁夷から山口晃までーが開催されています。
今回の特別展は、2023年に開催された「日本画聖地巡礼」展の第二弾。
第一弾では日本国内各地の名所や自然の景色などが楽しめましたが、今回はエジプトのピラミッドをはじめ、海外の聖地も巡礼してさらにパワーアップ。
画題となった土地や、画家と縁の深い聖地を巡ることができる、とても楽しい展覧会です。
それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。
展覧会開催概要
展覧会名  【特別展】日本画聖地巡礼2025 ―速水御舟、東山魁夷から山口晃まで―
会 場   山種美術館
会 期   2025年10月4日(土)~11月30日(日)
開館時間  午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日   月曜日(11/3(月・祝)、11/24(月・振休)は開館、11/4(火)、11/25(火)は休館)
入館料   一般1400円、大学生・高校生1100円、中学生以下無料(付添者の同伴が必要)
※各種割引等は同館公式ホームページをご覧ください⇒https://www.yamatane-museum.jp/
展示構成
 第1章 日本画の聖地を訪ねて ―北海道から沖縄まで―
 第2章 海を渡って出会った聖地
※展示室内は次の1点を除き撮影禁止です。掲載した写真はプレス内覧会で美術館より許可を得て撮影したものです。
今回の撮影可の作品は、1930(昭和5)年、イタリア・ローマで開催されたローマ日本美術展覧会に出品された速水御舟《名樹散椿》【重要文化財】(山種美術館)です。スマートフォン・タブレット・携帯電話限定で写真撮影OKです。展示室内で撮影の注意事項をご確認ください。
| 速水御舟《名樹散椿》【重要文化財】1929(昭和4)年 紙本金地・彩色 山種美術館 | 
第1章 日本画の聖地を訪ねて ―北海道から沖縄まで―
展示の冒頭を飾るのは、奥村土牛《城》。
| 第1章展示風景 左手前が 奥村土牛《城》1955(昭和30)年 紙本・彩色 山種美術館 | 
描かれているのは白鷺が羽を広げているような優美な外観から「白鷺城」とも呼ばれる姫路城。
天守部分が国宝に指定され、平成5(1993)年には奈良の法隆寺とともに日本で初の世界文化遺産に登録された姫路城は、観光案内の写真などでは石垣や天守閣をはじめとした全体像で紹介されることが多いのですが、土牛が描いたのは、天守閣が目の前に迫ってくるかのようにそびえる迫力いっぱいの姫路城でした。
東京画壇ではライバルどうしの川端龍子と横山大観、そして「東の大観、西の栖鳳」と並び称された京都画壇の重鎮、竹内栖鳳。近代日本画界の巨匠たちの作品が並んで展示されてます。
| 左から 川端龍子《月光》1933(昭和8)年 絹本・彩色、 横山大観《飛瀑華厳》1932(昭和7)年 絹本・墨画淡彩 竹内栖鳳《潮来小暑》1930(昭和5)年 絹本・彩色 いずれも山種美術館 | 
この中でも「会場芸術」を提唱した川端龍子の作品は特に個性的。
| 川端龍子《月光》1933(昭和8)年 絹本・彩色 山種美術館 | 
作品タイトルは《月光》ですが、場所は日光。
姫路城と同じく世界文化遺産に登録されている「日光の寺社」のうちのひとつで、三代将軍徳川家光の霊廟・輪王寺大猷院拝殿が描かれた作品なのですが、彩色や彫刻によって重厚で荘厳な雰囲気を醸し出す建物を、下から見上げた破風部分を大きくクローズアップしています。
大胆なトリミングをした作品がある一方で、東京の街の景色を俯瞰的に描いたのは山口晃さんの《東京圖  1・0・4 輪之段》(山種美術館)。
この時は作者の山口晃さんにお会いできました!
| 山口晃《東京  1・0・4 輪之段》2018-25(平成30-令和7)年 カンヴァス・彩色 山種美術館 | 
大河ドラマ「いだてん」のオープニング映像用に制作されたこの作品には、東京都心部の建物や、通りを歩く人物が画面いっぱいに描き込まれていて、東京タワーや新宿の高層ビルがあるので現代の東京かと思ったら、浅草公園にあった凌雲閣は関東大震災で倒壊したはずなのに描かれていたりなど、細部まで見ているといくら時間があっても足りないくらいです。
自然の空気が感じられる大画面の作品も展示されています。
| 奥田元宋《奥入瀬(秋)》1983(昭和58)年 紙本・彩色 山種美術館 | 
幅約5.5mもあるこの大作は、古希(70歳)を過ぎた元宋が、大作に取り組めるのは80歳までが限度と考え、日展への出品作とは別に1年に1点、大作を描こうと心に決めたもののうちのひとつです。
目の前に立つと、秋の涼しげな風とともにせせらぎの水音が聞こえてきて、その場であざやかな朱色に色づいた紅葉を見ながら散策しているような気分になってきます。
川端康成に「京都を描くなら、いまのうちですよ」と勧められて東山魁夷が京都を描いた連作「京洛四季」4点も一挙公開されています。
| 左から 東山魁夷《春静》1968(昭和43)年、《緑潤う》1976(昭和51)年、 《秋彩》1986(昭和61)年、《年暮る》1968(昭和43)年 いずれも紙本・彩色 山種美術館 | 
第2章 海を渡って出会った聖地
ローマ日本美術展覧会の使節として渡欧した際に速水御舟が描いた街並みのスケッチや、帰国後に描いたギリシャ遺跡の作品は、以前、山種美術館で拝見して(※)とても気に入ったので、再会できてうれしかったです。
フィレンツェ、シエナをはじめ、トスカーナ地方の街を歩いた時のことを思い出しながら眺めていました。
(※)2016年に山種美術館で開催された【開館50周年記念特別展】速水御舟の全貌 ―日本画の破壊と創造―
中国・江南地方の経済、文化の中心都市として栄えた蘇州はもう一度行ってみたい街のひとつ。「水の都」らしい景色が描かれた竹内栖鳳の《城外風薫》も好きな作品です。
イタリアのトスカーナ地方や中国・蘇州は、行こうと思えば今でも行くことができますが、全土に退避勧告や渡航中止勧告が出ているイラクにはとても行くことができません。
平山郁夫《バビロン王城》(山種美術館)に描かれた鮮やかな青色のイシュタル門を見て、1990年代半ばに奇跡的に観光客に門戸が開かれていたイラクに行き、イシュタル門の前で記念撮影をした時のことを思い出しました。
(※)イラク・バビロンにある現在のイシュタル門はレプリカです。本物はドイツ・ベルリンのペルガモン博物館で復元展示されているので、ペルガモン博物館が改修工事を終えて再開したらまた訪れてみたいです。
いつものことながら、展覧会出品作品をデザインしたグッズなど人気商品も盛りだくさん。
なんと、山口晃さんの《東京圖  1・0・4 輪之段》(山種美術館)がクリアファイルになっていました!
東山魁夷「京洛四季」のマグネットも新商品です。
観覧後の大きな楽しみは、展覧会出品作品にちなんだオリジナル和菓子。1階「Cafe椿」にもぜひお立ち寄りください。
作品の横には作品解説とあわせて、作品が描かれた聖地の写真も添えられているので、展示を見ながら北海道から沖縄まで、そして海外にも行った気分になれて、ヴァーチャルな旅行が楽しめる展覧会です。
美術館で聖地巡礼の旅を体験してみませんか。
